●死の箱 それは近日閉鎖される予定の遊園地で起こる。 地元民に愛されたそこは、最後の祭りも終えて後は粛々と運命の時を待っていた。 最期の時を迎えるまで、変わらず人々に笑顔を届けながら。 土産物屋の軒先に設置されている巨大なおもちゃの箱。名前を『ミステリーボックス』。 開園当時から設置されているその内容はなんという事もない、ただただ大きなビックリ箱である。 蓋を開ければ様々な物がバネの動きに従って飛び出すという、単純なおもちゃ。 驚くべきはそのサイズ。高さは子供に合わせて1m弱だが、なんと横幅2m。そこから目一杯色々飛び出すのだから堪らない。 その大きなおもちゃ箱は、遊びに来た多くの子供の心を掴んできた事だろう。 そんな箱に力が宿ったのは、或いは運命だったのかもしれない。 ――人の驚く顔が見たい。 意志の芽生えた箱が思ったのは、そんな単純な事だった。 大声を出して驚く顔も、虚を突かれて固まる顔も、驚きすぎて涙する姿もどれでもいい。 目覚めた夜から翌日の今この瞬間まで、その時をずっと待っていた。 「ねぇママ。これ開けていいの?」 「……ふふ、そうね。開けてごらんなさい」 目の前にいるのは親子連れ。ただただ大きな箱に興味を示す少女と、分かった上で見守る母親。 少女が期待に笑顔を浮かべて手を伸ばす。 『今だ!』 その時、箱は手に入れた『手』を中から伸ばして地面を叩き飛び上がった。 バウンドするままに眺めれば、キョトンとした少女の目と驚きに見開かれた母親の目。 『もっとビックリさせてあげる!』 箱は中身を吐き出した。 箱の知りうる上で、最も人が驚くだろう物。 傍のテレビで延々と放送されていたカートゥーンが教えてくれた。それは……爆弾! 恐怖に引きつった顔の母親が声を張り上げる。 『なんて素敵な驚きの声!』 箱は声なき喜悦の声と共に、嬉々としてそれを放り投げた。 直後。辺りは爆音と共に吹き飛んだ。 ●事務的要求、しかして 「以上が、起こりうる未来の概要です」 神妙な面持ちで、自分の視た未来を伝えた天原和泉は言葉を区切るために息を吐いた。 未来を予知するフォーチュナである彼女が視た光景は、近い内に現実の物となる。 「当該神秘、箱型のエリューションゴーレム。フェーズ2、戦士級です」 和泉は端末を開いてリベリスタ達に知り得た情報を開示していく。 「攻撃方法は自身の内部で生成した様々な物をビックリ箱の要領で吐き出してきます。発達した『手の仕掛け』によって移動する事も可能です」 『手』は移動の他にも爆弾を投げたり、その姿も相まってまさしく漫画のような光景が繰り広げられる事だろう。 「他にも特殊なフラッシュを発生させて麻痺や混乱、ショック等を与えてくるようです。……」 説明の後にふと降りた、含みのある沈黙。次いで和泉の口から零れたのは一人の人間としての感想で、 「発生地点の遊園地では開園以来一度として事故らしい事故も事件らしい事件も起こっていないそうです。それが最後の最後でこんな不幸が待っているなんて……」 あんまりです。と、彼女は言った。 「皆さんには事の起こる前、対象が潜伏している夜の内に接触を図り、これを撃破して貰います」 時刻は深夜。人の気配は当日の警備員2名を除いて他になし。 戦闘が発生した際の物品の破損については『アーク』側による情報操作によって老朽化による破損として処理される段取りらしい。 「本当は施設にだって傷一つないのが理想なんですけどね。最悪の事態を回避するためには多少の汚名も、という所です」 未来視した敵の攻撃方法が攻撃方法だけに、その全てを己の身で受け止めでもしない限りそれは叶わない願いだろう。 そんな危険をわざわざ冒す必要は、『アーク』のリベリスタ達には課せられていない。 「何よりも、人的被害を0にする事が最優先です。不幸が起こってしまう前に、解決して下さい」 努めて真面目に和泉は向き合い、リベリスタ達に頭を下げる。 応えるリベリスタ達は、思い思いに気を引き締めていた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:みちびきいなり | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月01日(木)23:03 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●守る決意のスタンガン 「それじゃあ君は右回りで、僕は左回りで見回りに行くから」 「うーい」 定時になり、待機室から二人の男が姿を現した。 広大な遊園地は二人で回るにはいささか広すぎるが、それも後わずかだからこそ。 「先輩、ここもあと数日で終わるんすよね」 「ああ……」 年配の警備員が感慨深げに夜空を見上げる。釣られて若い警備員も闇色の天井を仰いだ。 「何事もないまま、そのまま幕を下ろす事が出来るのだな。ここは」 長年勤務していたのだろう。年配の警備員のその言葉には積み重ねてきた想いが感じられた。 だからだろうか、普段軽口を叩く若い警備員もその時ばかりは真っ直ぐに言葉を返す。 「先輩。俺らで最後まで頑張って務め上げましょうね」 「ああ、そうだnうっ!」 突然の呻き声。そして体勢を崩す年配警備員のシルエットを若い警備員は見た。 「ちょっ!? せんぱっおぐっ! ………」 そして、その若い警備員も体に奔った痺れと共に意識を失った。 「申し訳ないっすよ、ホント」 「ワリィな、ちょーっと眠っててもらうぜ?」 地に伏した二人の警備員を見下ろす二つの影。 それぞれ懐中電灯を持った『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)と、片手で謝罪する『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)の二人だ。 「計画通り、警備員二名共に気絶。これでお仕事完了っすね」 「準備万端。後は本命相手に全力出すだけだな」 二人が顔を見合わせ言葉を交わし合った時、遠くで重い空気が破裂したような音。次いで僅かにその色を変えた風が吹いた。 「あっちも始まったようだな」 「うかうかしてられないっすね。今回は速攻が肝心っすから」 細々した工作なら、今回は支援の当てがあるので考えない。 先程の音にも警備員に目を覚ます様子がない事を確認して、二人はその場を後にする。 (正直羨ましいぜオッサン。けどだからこそ、あんたのその思い出、絶対守り抜くからな!) 歯を噛むヘキサのそんな想いと共に、既に戦場と化した遊園地を二つの足音が駆け抜けていった。 ●戦う勇気の千里眼 「エリューションゴーレムはあっちの広場か?」 障害物を透過する目で以て、『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)は目標であるエリューションを探した。 その目に映る動きを止めた遊具の数々に、彼の心はそこで作られてきただろう数多の思い出達を想起する。 (思い出は、出来る限り護りたいんだ……!) そんな彼の切なる想いが届いたか、今回のターゲット、ミステリーボックスを発見するに至る。 「見つけたみたいですね」 手応えを得た疾風に声を掛け、離宮院・三郎太(ID:BNE003381)は眼鏡を掛け直しながら頭の中でより効率的な展開を考えていた。 「今回の依頼を最も効率的にコンプリートする方法は、囮役を使って攻撃を集中させつつの速攻です。大丈夫ですね?」 「ああ。任せてくれ」 囮の要となる疾風の力強い返事に、ほんの少し驚いた様子で三郎太はよろしい。と声を上げた。 「しかし当たったら痛い攻撃かー。耐えれるか試してみたかったんだがな」 ゆったりとした動作で後ろ髪を手で掻きながら、『住所不定』斎藤・和人(BNE004070)がへらりと笑った。 「爆弾だったか? それでアトラクションとかぶっ壊れないようにしねぇとな」 「最優先事項は目標の撃破ですが、可能な限り遊園地の保全を貫いていきたいと思います」 和人の言葉に沿う様に『必殺特殊清掃人』鹿毛・E・ロウ(BNE004035)が自身の目標を掲げた。 そのロウの視線は自然隣に並ぶ主と仰ぐ者、『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)に向けられる。 「それはそれとして」 あばたは自身のするべき事、決めるべき事を伝える。 「自由意思の存在を証明する手段は未だございません。よって、対象を『非常に高度なセンサーとレスポンスを兼ね備えるようになった粗大ゴミ』として扱います」 いいですね? と返された視線に、ロウはその細い目を持つ顔に笑みを湛えて頷いた。 「それはそれとして」 ついでとばかりにロウが言葉を返す。 「こういうトコに彼女連れで来たら楽しいんですかね。ねえ、我が主?」 果たしてその言葉を受けたあばたの表情はどうなっていたか。それは二人にしか分からない。 「……ガラクタはガラクタらしく、ってね」 下準備に念押しの強結界を展開して『虚実之車輪(おっぱいてんし)』シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)が宣言する。 「とっとと仕事を終わらせるよ!」 ●克ち合う覚悟の殺陣廻し 大勢の客を前にして、ミステリーボックスは歓喜に戦慄いた。 それは深夜の招かれざる客であるにも拘らず、その身の全霊を以てその職務に当たろうと試みるに至る。 職務とは即ち驚かす事で、それを最も的確に引き出すための行動、即ち、奇襲である。 「……!」 先陣を切って戦場へと駆け込んだ疾風は見た。 敵が反応してこちらに駆け出していた事は『視て』いた。だが、いざ目の前にした時に相手が取った行動は、跳躍。 バネの手を使って高く飛び上がったそれが。その大きく開いた口の中から爆弾を吐き出したのはその直後だった。 爆音、中空で爆ぜたそれが煙をまき散らす。 「出掛かりを更に狙われると危ない、皆散開して!」 三郎太が指示を出し、リベリスタ達はそれに従い即座に陣を展開する。 予め決めていた通り囮役が前衛となり後衛から支援を行う形だ。 さらにその直後、煙が風に吹き散らかされ隠されていた光景が彼らの目に映しだされる。 吹き抜ける風をその身に受けて、そこには『変身』を終えナイフを構える疾風の姿があった。 「……行くぞ!」 奇襲が失敗に終わった事を悟ったミステリーボックスはそのまま距離を取る。疾風が追う。 そこに並ぶように駆けたのは、先程指示を出した三郎太自身であった。 「ヘキサさんが合流するまでの繋ぎの役は、ボクが引き受けます!」 三郎太は先程の奇襲から、敵の攻め方、嗜好、その他多くの得られた物を解析していく。冴えていく頭で最適解を導き出すために。 「ロウさん!」 「早速ですか!」 既に尋常ならざる加速を得ていたロウが、ミステリーボックスの背面へと回っている。 先程まで浮かべていた柔和な表情が、その一瞬を過ぎて静かに固められた。 「疾ッ!」 二尺四寸三分、手に持つ愛刀が翻り巨躯の箱を切る。 その手を返してもう一度。 二連。 のけ反る様に跳ねたそれを、深い深い集中を込めたあばたの弾丸が追う。 精確に定められた彼女の弾道は、ミステリーボックスの『手』を撃ち抜いた。 「その手を潰せば、多少は大人しくなってくれますよね?」 会心を感じての確かめるあばたの言葉。それに反応をしたのか、ミステリーボックスがその体躯を彼女の方へと傾けた。 間を置かずに撃ち抜かれた手が引っ込みそして、 箱の中から大量の『手』が現れる。 「!?」 寸での所で、あばたは己の平常心を保った。無感動を装い、色の無い表情を浮かべてやり過ごす。 (ここで狙われてしまうと、わたしの身体が持ちませんからね……) それにしても。と、思う。 ここまで執着する物か。 「守られちまってる分、いい仕事してみせねぇとな」 シルフィアの魔曲に合わせ和人が狙い定めて飛ばした弾丸は、その狙い通りに箱の中へと吸い込まれ、爆ぜる。 ただの箱ならそれだけで千切れ跳びそうなものだが、ミステリーボックスの中へと吸い込まれた弾丸は貫通する事はなかった。 地面に着地した所に追撃とばかりに打ち込まれた疾風の一撃を、箱は吐き出したエアバックで受け止めた。 「うわ! 何が飛び出した?!」 弾き返されながら、大仰に驚く彼に、まるで満足でもしているような所作で箱が回る。 その瞬間、戦局を見ていた和人は己によぎる嫌な予感を察知した。 「ヤバい、例のが来るぞ!」 直後、ポンと音を出して弾けたエアバックから、鈍い輝きを放つ光が奔った。 「うおっ! まぶし!」 ショックを受けた疾風がその声を最後に敵を前にして意識を混濁させる。三郎太、あばたもその身を痺れに支配されてしまった。 だが、それ以上に即座に対処が必要だと和人が思ったのは、混乱したシルフィアだった。 「覚悟しろガラクタめ!」 「相手がちげぇ!!」 そんな状況もお構いなしに、ミステリーボックスは更なる爆弾を取り出してリベリスタ達に投げつける。 前衛を悉く巻き込むその一撃を、しかしロウが周りへの被害を食い止めるべく受け止めた。 爆音が響き、白煙が舞ったそこには、ボロボロになりながらも何とか片膝をついて耐え抜いてみせたロウがいた。 荒い息を吐きながら彼は言う。 「うわああ。びっくりして目が開いちゃいましたよ。狐目キャラなのに!」 響くワザとらしい声。降りる沈黙。 「…………ええ、知ってますよ。我ながらイマイチなリアクションだと、ね」 そんな軽口と共に苦笑を浮かべた彼に、その実余裕など全くなかった。 持っていかれた意識を、無理やり体で起こして使っている。辛うじて戦闘不能でないだけ。 当たり所が悪かったとはいえ、もしも彼女がこの一撃を受けていたらと、冷や汗が出る。 リスクを負うと決めて挑んだこの状況だが、そのリスクは着々とリベリスタ達を蝕み始めていた。 ミステリーボックスは未だ健在。着実に蓄積させているダメージはあるだろうが、それ以上に味方が受けた被害の方が多かった。 「ワリィ遅れた!」 「警備員への対処は完璧っすよ」 このタイミングでヘキサとフラウが復帰したのは不幸中の幸いか。被害を受けていない前衛の登場に状況が再び動き出す。 暴走するびっくり箱の底は、未だリベリスタ達には知れぬままである。 ●叫ぶ願いと往く刃 「どわああ! 箱が動いてるだとぅ~~~!!」 ヘキサが声を張り上げる。それはとっさの判断と勢い任せの行動だったが、ミステリーボックスの注意を惹くには十分だった。 『手』を伸ばし煉瓦で敷き詰められた地面を叩き、ヘキサに向かって飛び上がる。 すぐさま取り出したのは箱の半分ほどもある大きな爆弾。それを迷わず投げつけてくる。 「ぎにゃああ!?」 刹那。ヘキサはその身を回転させて、思い切りのいい回し蹴りを放った。 炸裂のタイミングがずれ、爆発が体から離れた中空で巻き起こる。 堪らず吹き飛び転んだヘキサだったが、その被害は最小限に止められていた。 「…へへっ!」 浮かんだ笑みは彼の信念が見せた表情か。 「すみませんフラウさん」 傷つき、未だ痺れる体を庇われながら零す三郎太の言葉に、フラウは笑って言い返す。 「何を言ってるっすか。うちらの居ない穴を埋めてくれてたんすから感謝感謝っすよ」 フラウの謝辞に、褒められ慣れていない三郎太は口元をワタワタさせてどうも。とだけ答えた。 「……ハッ! ガラクタ共が消えた!?」 一方その頃。混乱するシルフィアをどうにかこうにか落ち着かせた和人は、今度はショックから立ち直れずにいる疾風を正気に戻していた。 「しっかりしてくれよヒーロー。じゃねぇとお前の役割、俺が貰っちまうぜ?」 「くっ、まだまだ!」 ショックから立ち直った疾風は、和人に肩を叩かれ再び立ち上がる。 「自分に与えられた役割は、最後の最後まで勤め上げます」 ゆっくりと呼吸を整え、冷めた大気を吸っては吐き出し、己の内に在る闘志に再び火をともす。 「行けるか?」 「行けます!」 駆け出した疾風を送り、和人もまた戦場へと視線を投げる。 思うのは、今リベリスタ達が必死に守ろうとしている物。 守り抜いた所で、その役目を近く終えようとしている物。 (放置されればそのまま朽ちる。買収されてもその形が残るとは限らない。思い出のままに残り続けるってのは難しいだろうよ) だが、それでも思う。 (せめて今だけでも、やり遂げるまではそのままで。ってな) 戦う男が更に構えたその銃から、寸分の狂いもない精密な弾丸が、猛る火咆と共に放たれた。 ミステリーボックスの興味を一身に受けるヘキサの前に、最速の動きでフラウが立ち塞がった。 跳ねた敵のその下を潜るように駆け抜け、すり抜け際に両の手にそれぞれ構えるナイフを振るう。 トップスピードを越え音速に至る瞬撃がミステリーボックスの体に痺れを走らせた。 「……なぁ」 駆け抜けた先で、ぽつりとフラウは呟いた。それ以上は口から零れない。 (アンタは何も思わないんすか? 今まで見てきた笑顔の、その価値に) 驚く顔、楽しそうに笑う顔、泣きそうな顔。それらを長い間見つめて来たであろうその箱に。 (今のアンタは、それを台無しにしようとしている。だから!) フラウには、驚く理由など存在しなかった。 (アンタのホントを、うちに見せてくれ) 「ッどりゃあああ!」 痺れに体を封じられたミステリーボックスに、ヘキサのかかと落としが叩き込まれる。 「さっきっから驚かそう驚かそうとしてっけどなぁ! そうじゃねえだろ!?」 踏み込んだ足はそのまま箱の中へも遠慮なく突っ込まれ、中にある違和感ごと兎耳を付けた少年は踏みしめる。 「知らねえなんて言わせねーぞ! 驚き顔の後の、皆の『笑顔』を!」 踏みしめた足を今度は捻り、夜の空へと蹴り上げる。 「手段と目的履き違えてんじゃねーッ!!」 足を抜き、軸を変え、トドメとばかりにヘキサはそれを蹴っ飛ばす。 そこに二方向から弾丸が打ち込まれた。 和人が撃った弾丸と、そして、 「『手』がダメなら、弱点っぽい所を撃ち抜きまくればいいだけです。ばんばばん」 麻痺から自力で復帰したあばたの弾丸である。 二つの弾丸を受けたミステリーボックスは、体を凹ませながら錐揉み状に跳ね地面に転がる。 そこに、更に駆け込む男が一人。 「敵の次の行動パターンは今伝えた通りです!」 声を上げた三郎太も、もう一人で立っている。 「チャージはしました! だから、思いっきりやって下さいっ!」 その声に押されるように、駆ける男はその速さを増す。 「――疾風さん!」 「うおおおおおおお!!」 疾風が吠えた。 拘束を破ろうとするミステリーボックスのその先を奪い、雷撃を纏う圧倒的な速力を以て仕掛ける。 壱式迅雷。繰り広げられた武舞は、致命の一撃となって眼前の敵を打ち崩していく。 勝利を確かにしたその舞の終わり。裂帛の気をその手に込めて疾風が言う。 「……今までありがとう。そして、さようなら!」 打ち抜いたナイフの刃先が、遂にその内壁を破り、貫いた。 それを最期に、ミステリーボックスはその生涯に幕を閉じた―― ●謳う勝利の大団円 翌日。 その遊園地は通常通りに開園した。 ただ一つ、先んじて天寿を全うした土産物屋の名物だけ、その姿を消して。 「この遊園地も閉園ですか」 「……世知辛いっすね」 続々と入場していく客を見つめながら、三郎太とフラウが苦い顔をしている。 彼らの守ったこの場所は、彼らの払った代償の甲斐ありその建造物に被害を生まなかった。 だが、そうだったとしてもここは数日の後にはその役目を終える事に違いはない。 「警備員は二人とも無事。五体満足で昨晩の事など記憶に残らないだろうとの事です」 「無事に目標は達成されました。ですね」 『アーク』の支援者からの報告を受けてきた掃除屋の二人。その手には紙切れが握られていた。 「なんっすか、ソレ」 「ここの遊園地の一日フリーチケットだとよ」 疑問を投げたフラウに答えたのは、同じく紙切れ――フリーチケットを持った和人である。 「わざわざ現地に一晩待たされていた理由は、こういう事だったわけか」 「報酬なんだし、貰える物は貰っておかないと♪」 紙を手に、合点がいったとはにかむ疾風。乗り気なシルフィアはチケットをひらひらと揺らしている。 そんな中、キョトンとしているのはヘキサである。 「へ……?」 「へ? じゃないっすよ。今日は一日これで遊んで来いっていう組織の粋な計らいじゃないっすか」 「って事は、今日は」 「乗り物とか乗り放題で遊び放題って事ですね」 呟きに返す三郎太の言葉に、ヘキサはふいと、視線を誰にも合わせないように俯いた。 小さく吐き出される、よし。という言葉。 次いであげたヘキサの顔には、色々な気持ちの込められた喜色が浮かんでいて。 「オレ達もここに、でっっっっかい思い出残して行こうぜ!!」 両手を振り上げて高らかに宣言した彼の言葉に、異を唱える者は誰一人として存在しなかった。 「……ま、こんなもんだよな」 先を行く若者達にのんびりとした足取りで追従しながら、和人は小さく微笑み、 「ガキの相手だもんな。しっかり最後まで付き合うとしますかね」 誰に贈ったか、その言葉は澄み渡る青空に溶け消えた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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