●それが腐るまで。所謂、経緯 少年少女は夢見がち。 それはどの年代、どの時代背景を切り取っても同一に著される定型文のようなものだ。 夢見がちな日々が巡り巡って彼らに運命という名の引導を渡し、夢は決して叶えてはいけないものだと知らしめるまでが、この世界での定型文。 或いは、その夢がマイナス面に向いていれば彼らも幸せだったのだろう。 往々にして、正義よりも悪の方が「楽」なのだから。 「はぁっ、は……」 「大丈夫、まだ戦えるよ! まだ、大丈夫……!」 年齢にして高校生程度。人数は決して少なくない彼らにとって、英雄思考は余りにも甘い蜜である。 故に、彼らは引き際を知らない。 洗練された戦いなど知らぬ。 「……そうそう、まだまだ戦えるんだ。頑張ってくれないと困るぜ、しょーねんしょーじょォ、ってな、ハハッ」 だから、相手を見極める目もなく、状況を判断する思慮も無く、戦いの「例外」を知る知性もない。 ケタケタと笑う男の指先が、気糸で絡めとった少女の頬に触れる。浅く切れたそこから流れた血を吸うのは、彼の持つ細筆。 少年少女は十人だった。 二人が倒れ、二人が消えた。 三人は壊れた。 さあ、残された三人で何ができるんだい? ●それを処分する過程。任務内容という嫌がらせ。 「……端的に頼む」 「リベリスタチーム『シード・オブ・ホープ』。命名センスからわかるように、十名程の若年層が構成するリベリスタチームでした。 この中で消息がわかっているのは四人です」 「内訳は?」 「死亡が二人、拉致二人。どうやら、黄泉ヶ辻のフィクサード集団と交戦した際に引き際を誤り、考えられる限りの『最悪』を施されたというところでしょう」 手元の資料をめくりながら、『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)は淡々と告げた。 死すら当たり前に、告げる。 「残りの六人は、生き残ってたんだろ? 何で消息が掴めないんだ」 「うち三名は、分からないというよりは……出現予測は出ているんです。その『黄泉ヶ辻のフィクサード』が現れる場に、復讐のために現れる」 「じゃあ、そこに乗り込むのが俺たちってことで間違い無いな?」 「ええ。今回の達成目標は『彼らの生存』。何があっても、彼らの生命を最優先に。ただ、彼らは経験も思考も浅く拙い。警戒しないと直ぐに命を秤に載せてしまうでしょう」 「面倒なガキだな……で? 黄泉ヶ辻の目的は?」 「実験、ですね。アーティファクトの」 カチ、と夜倉がスイッチを入れたメインスクリーンに表示されたのは、一本の細筆。 「アーティファクト『血盟約定』。対象者の血を使って印を刻むことで、所有者が行動権を握ることができます……『自由意志を奪わずに』、ね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月09日(金)22:52 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●希望と理想は甘く切なく ぱち、ぱち、ぱち。 心からそれを賞賛するように、その拍手は鳴り響いた。 心から愚弄するように、その笑顔は張り付いていた。 それはただの暴挙でしかなかった。 希望と理想に身をやつした彼らにとって、打ち砕かれる過程は余りにも辛いものだった。あら きっと、必ず、絶対に。そんな言葉、価値などないのに。 「……逃げて、お願いだから、逃げて!」 「駄目だ、お前を置いて行くなんて俺には――」 ケイタという男は純粋だった。だからこそつけこまれた。 あの日、奪われた縁を形こそ違えど継ぎ直すチャンスがそこにはあった。 失った相手を取り戻す場が、整っていた。だから、完全な物にするために勝負を挑んだ。 だが、結果はどうだ。救うはずの相手が、救いたいと思えるままに自分たちへと牙を剥く。 助けを求める声はない。ただ、諦めてとしか口にしない。そんなの、あんまりじゃあないか。 「避けて、死なないで、避けて殺して死なせたくない殺したくないやだやだやだ――!」 「……世話の焼ける連中だ」 ひゅ、と空を切る円筒は地面を二、三度跳ねて閃光を放った。それが生み出した威力が神秘になぞらえたそれである、とその場に居合わせた一同が気付くより先に、光に混じって影が舞う。 目を細めたマイが視線を向けた先に居たのは、二丁拳銃を下げ悠然と佇む『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)。まるで自分たちを見下ろし、見下すような視線は彼女をして耐え難い何かを感じさせる。 だが、抵抗は出来ない。自分の想いは諦観を、体は交戦を望むことぐらいはわかる。痛いほど。 「何が、」 「加勢に来た。いきなり乱入して悪かったね、緊急だったもんだから」 「……どけよオッサン。俺たちはアイツを救わねえと」 「思い通りに動く木偶を相手にするのとは違う。都合のいいように考えるんじゃないよ少年」 櫻霞の放った閃光にまじり、飛び込んできた魔力の塊を鮪斬の鋒ひとつで逸らしてみせた『闘争アップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)は、意気込むクロエを一喝した。 さりげなく、アラサーであるがゆえに「オッサン」呼ばわりが髄に響いた気がするのはさておき。 英雄にはなれないのだから狡猾に生きるのだ、とは彼の信条である。だからこそ、若さ故の暴走は捨て置けない。 「自己満足や犬死で喜ぶのはあのフィクサードかナルシストだけです。命を粗末に扱わぬ様に」 「ここで使わなかったら何時使うんだよ! あいつら苦しんでんだぞ!?」 「今使わないなら何時か使えばよいだけでしょう」 「復讐って、敵わない相手だってことを分かっていながら戦いを挑むことじゃないでしょ?」 静かに三名を制したのは『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)。剣を真っ直ぐに構えたその姿は、冷静さと鋭さを兼ね備えたそれである。 対し、身に宿す熱情をそのまま拳に込めたような響きを吐き出すのは『理不尽に足掻くもの』滝沢 美虎(BNE003973)だ。 彼女にとって、S.O.H.のメンバーは思いの形も、有り様も、写し鏡が如き相手だ。 だからこそ、守りたいと思う。並び立つには開いてしまった溝はあろうが、十分に伝えられるものはあるはずだと、彼女は思うから。 「イヤ、話に聞いた通りだ。情緒の分からない連中だね、アークは! そういう正義馬鹿は嫌いじゃないが、風流と情緒は守らなきゃァ面白くない! 弁えろよ?」 「悪趣味な風流は茶請けにもならないだろう。悪趣味な貴様らが情緒を語るな、黄泉ヶ辻」 周囲にフィクサードを配し、さも残念そうに身振りを以て振る舞う日津女を前に、『灼熱ビーチサイドバニーマニア』如月・達哉(BNE001662)は釘を刺す様に言葉を継ぐ。 少年少女の夢物語に形容しがたい影を落とした男が、さも当たり前のように情緒を語る現状は決してよろしいものではない。 達哉にしてみれば、自らの子らに近い者達が同じように惨憺たる運命に巻き込まれているこの状況は、観ていて気持ちの良いものではないことは明らかだ。 「このままで復讐は果たせない、冷静におなりなさい……?」 「落ち着いてられるワケがねーだろ! どけよ!」 長杖を振るい、猛る彼らを静かに制す『プリムヴェール』二階堂 櫻子(BNE000438)の表情は暗澹としたものだった。 恐らくは。復讐に身をやつすことでしか自らの存在証明を知らない彼らが、自らの識る『誰か』とオーバーラップしたからだろう。 奇縁というべきか。その『誰か』が、尤も守りたい相手であることもまた事実。 「もう、秋も終わるな」 静かに左手を上げた日津女の前に、影を纏ったような黒子が姿を表す。 「来いよクソ野朗。相手してやるぜ」 「だからアークは情緒が解らないというんだ。こんな旨そうな『餌』を担いで現れる、なんてな」 『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)は、挑発せんが為に日津女の前に現れたはずだった。だが、次の瞬間に理解する。 挑発されたのは、自分であると。スキルとしての挑発ではない。抑えの利かない怒りではない。 だが、心の底から愚弄する表情に、自らを獲物とみなすその表情に、得も言われぬ情動を掻き立てられた感じを覚えたのは間違いではない。 このフィクサードは、戦場に於いて、アークを前にして尚も、ヘキサを獲物として捉えている。 「……後悔させてやるよ」 「やってみて、諦めな。お前ェじゃ駄目だ」 そんな挑発さえ、彼らにとっては当たり前のように。 ●絶望と情炎は熱く激しく 「オレの前に出てきたんだ、覚悟くらいは整ってンだろ? 見せてみろよ」 「待ってな、すぐその顔陥没させてやる」 悠然と構えた日津女の姿は、どこまでも醜悪だった。 優雅であるからこそ歪んでいる。精緻であるからこそボロが出る。 それを当然と魅せつけるその姿がひたすらに、醜い。 「印が、無い……!?」 「焦ったらそこの面子と同じになる。正面から馬鹿正直に戦うな」 狡猾になれ、と刃を引いて神聖術師を牽制する義衛郎の傍らで、美虎は目に見えて狼狽していた。理由は明白だ。 第一目標としていたアーティファクトによる印の特定が、踏み込んだだけではみつけようがなかったから、である。 黄泉ヶ辻は得体のしれないことが常道であり、正体不明であることを是とする。 そんな彼らが真正直に分かりやすい理屈で動くと考えたのは、言ってしまえば『幼い考え』にほかならない。 尤も、その驚愕を引きずらず、拳を以てツヴァイハンダーを弾き返した彼女の胆力は賞賛すべきそれであるが。 「やめて、これ以上傷ついたり傷つけたりしたくないの! あなた達強いんでしょう、なら殺してよ……!」 「生き急いで何になる。何もできないなら黙っていろ」 吐き出すような悲鳴は、しかし櫻霞の前ではどうでもいい音程に過ぎない。 救うにしろ打ち破るにしろ、弁えなかった相手に情を宿す謂れはない。彼にとって、彼女たちはその程度。 だからこそ、黄泉ヶ辻の打倒に専念できると言えるのだが……。 「お前達とやりあう気は無い。動かなければそのまま終わるだろう」 「……っ、離して、やだ、これは、嫌だ……!」 アキの声が、甲高い悲鳴となって達哉の耳に突き刺さる。 戦術的にも戦略的にも、彼女たちを行動不能に追い込むにはその手練は十分すぎる。だが、『その技能』は彼女たちにとっては最悪にも等しかった。 肉体は未だ好戦的であることを伝えるのに、少女の表情は恐怖に凍りつき、涙を滂沱と垂れ流す。 事ここに至り、否、至ったとしても達哉は気付かないだろう。 目的意識に邁進し、心配りよりも先に状況理解にリソースを割くのは常であれば十分であった。 だが、この状況が生み出すのは明らかな恐慌の伝播。 「て……ンめェ、綺麗事駄弁っといてやるこたアイツらと一緒かよ!?」 「な、」 「またかよ畜生、どいつもこいつもッ!」 「最低だ、大人というやつは」 S.O.H.の面々の激昂は、一瞬にして最大点まで高まった。だが、やはりリベリスタには『何故』が理解できない。理由付けと関連性が理解できない。 それでも、明らかに何らかの逆鱗に触れてしまったというのは分かる。黄泉ヶ辻を目の前にしての状況の悪化は致命的だ。 「冷静におなりなさい、今向き合うべき敵は過去ではなく未来でしょう」 声を荒げ、達哉へと掴みかかりかねない距離で肉薄した少年たちを制したのは櫻子。 その声が幾ばくかの効果があったのか、声を荒げた少年たちを一瞬でも思いとどまらせる程度には静謐だった。 復讐心と苛立ちの再起は、しかし続けられるアラストールの言葉により霧散する。 「ただ猪武者のように飛び込むなら誰でもできます。あなた方に意思があるなら、考えて立ち向かって見せなさい」 返す言葉は、無い。 ただ、息を呑むような気配が伝わっただけだ。 ヘキサへ向けて、次々と攻撃が殺到する。 だが、それらは全て彼の動きの前では『過去』になり、未来としては存在することを許されない。 「笑いたきゃ笑えよ、俺の理想が馬鹿げてるって……そんな馬鹿げた冗談を、馬鹿げた冗談で終わらせねぇ為にオレは戦ってんだ!」 「全く……すばしっこいなテメェは。すこし『止まれ』よ」 「馬鹿じゃねえの、止まってやるわけが――」 故に、回避できることを第一条件として、それを捉えることができる機などないと踏んだ、その動作こそを日津女は待っていた。 卓越していなければ、偶然を創りだす。偶然が許されるなら、奇跡に足を踏み入れるだけ。 その妄執の産物か――ヘキサは、たった一発のそれで、四肢を強かに縛り上げられた、 「じゃあ、やるか。糞ガキにはちょうどいいショウタイム、」 「とは、いかねぇっすよ。この狐野郎」 動きを止めたヘキサへと頬を歪め近づこうとした日津女は、しかしその直後、影を裂いて現れた『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)に意識を割かざるを得なくなった。 ヘキサを縫い止めたその一手が完璧だとするならば、フラウが放った一手はそれすらも過去にする至上のタイミングだったと言えよう。 それは、長らく影に身をやつし、ただ一度も状況を捨てなかった者の呼び込んだ奇跡の一端ですらあった。 ●果ては何処か彷徨うる 「……、たァく、曲芸回しが得意だなアークの連中は!」 「アンタが言えた口じゃねえっすよ。それとも何ですか、『仕掛け』をなくしたんで?」 素早く、一閃を放ったフラウが日津女と交差する。挑発じみたその言葉に、しかし応じる言葉はない。 無論、ヘキサと日津女の交戦からフラウが感じ取った対象も無い。この状況下では、アーティファクトの在り処は分からぬ状態だ。 だから、思い切り振るった。両手のナイフを、二度三度。 それしかできないなら、『それだけ』に『全て』を。 最初にその変化に気付いたのは、達哉だった。 悲鳴も何も無視し、二人目の拘束に指を向けたその数瞬前に、その少女は膝からがくりと崩れ落ちた。 咄嗟に手を伸ばしたクロエに対し、息も絶え絶えのフィクサードが襲いかかろうとし、美虎の拳により大きく跳ね上げられてその動きを止める。 「何が起こった……?」 もう一方の感触も希薄になったことに気付き、彼の動揺は弥増した。 策が奏功したにしては、日津女に向かった二人の空気が決して緩んでいないことがおかしい。 「動揺があるなら狙いやすい。数多の糸よ、全てを切り刻め」 櫻霞には、それらに頓着する暇など無いことが分かっている。前に立ち、フラッシュバンでひたすらに立ちまわったことで多少の手傷は負ったが、誤差の範囲。 気を抜かずに放った気糸は、確実に配下を貫いていく。 「自己犠牲と悲壮感に酔って、君達は命を捨てようとした」 最後の一人を切り裂きながら、義衛郎は滔々と語る。 「多少、思うところがあったのは分かる。だが、それで正常な判断が、覚悟ができないならリベリスタじゃない」 ――向いてない、と。次の相手を見据えたまま、冷徹に言い放った。それは、正しくも鋭い刃。 「あァ、畜生。木っ端みてえにやられやがってカス共が。おまけにウチの『秘蔵っ子』をとんだキズモノにしてくれやがって」 「その様子じゃ、オイタもできねえってか? いいぜ、この糸ひっぺがしたら今度こそ」 「――いや、よォ。だからキレてるっつってんだろォ? ごちゃごちゃ吐かしてんじゃねえよ」 息を巻くヘキサに向け、日津女が放ったのは二切れの木片だ。中心から罅が入ったそれは、明らかに何らかの儀式のために用いられたものであることが伺えた。 それの意味を識る前に。 その木片は、火を放つ。燃え上がる。 まるで生き物のように、炎が形を作り真正直に戦場を突き抜ける。求める先はただ一箇所、狙いは、ケイタだ。 間に合うか? 間に合わぬ。 致死もかくやと言わんばかりの炎を受け止めたのは、彼ではなく、櫻子だった。 だが、彼女は倒れない。意識が飛びかけたのを自身で認識したが、運命の炎がその身を踏み止まらせた。 そして、視線を真っ直ぐに向ける。 「……消えて、しまわれましたか」 いつの間に? そう、いつの間にか。 彼らのあらゆる知識の先、単純な状況が生んだ間隙を縫って、そのフィクサードは姿を消した。 だが、恐らくはそれが居たであろう位置に残された千切れた筆先が、その目論見を砕いたことだけは確かであった。 「おいルーキー……」 拳を固めた櫻霞が、ケイタに向け拳を振り上げる。だが、それを押し留めたのは他でもない櫻子である。 「身の程を知る、それはとても大切な事ですわ」 言葉はない。余りに多くのことが起こりすぎたことで、言葉にすべきことを選べないのだ。 「諦めないで」 絞りだすように、美虎の言葉が放たれる。 体は、正常だ。幸いにして最低限の負傷で済んだ彼女にとって、体が痛む謂れはない。 だが、彼らの様を見てしまったがゆえに、言葉が出ない。 「――どうせなら、今求める事の出来る中で最高のハッピーエンドを奪い取って下さい。奪い取れた今なら、それ以上を」 故に、アラストールの言葉は、静かに、然し深く彼らの心に楔を打ち込んだ。 「……なぁ、提案なんだけど、よかったらアークに来ねーか? 強くなって、もうこんな思いしなくて済むようにさ」 「あんた達が道に迷ってるなら、うち等が導いてやる。いつかその種が、大輪の花を咲かせるように」 ヘキサが、そしてフラウが。続けて差し伸べた手は、彼らには余りに柔らかすぎた。 (――今度こそ) そう、願う想いは変わらない。 だが、ただひとつ、たったひとつの懸念がじくじくと、ダイキの心の深くに刺さって抜けないままだ。 さて、『あの三人はどこへ消えた』? 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■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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