●天才はそれ故に闇に落ちる 私たちは魔曲を極めた。 弾けない曲などもはや何処にもない。 さぁ、不幸を! 憂鬱を! 恐怖を! 『魔曲使い』にふさわしく、この世の全てを絶望で埋めてやろう――……。 「暗愚な批評家よ。我らの魂を聞け!」 「哀れな大衆よ。真の音楽を教えてやろう」 二体のエリューション・フォースはそういって哄笑を高らかに響かせた。 「なんかエリューション・フォース……音楽家の思念体が出たみたいだぞ。 二体で『魔曲使い』を名乗ってるな。 音楽は人を幸せにするためにある……とオレは思うんだがこの二体、恨みつらみで出来てるらしくて人に不幸や憂鬱や恐怖を与えるんだとさ」 『黒い突風』天神・朔弥(nBNE000235)は携帯音楽プレイヤーで聞いていた音楽を止めて説明を始める。 「一体はバイオリン、もう一体はフルートを持ってる。 思念体の思念……何かややこしいな。 実物じゃない。壊されてもすぐ修繕されるらしい。 攻撃方方は当然というか、音楽だ。 バッドステータスとして魅了、呪い、死毒がある。 …魅了はまあ、いいとして。音楽で呪いと死毒って正直どうなんだ。 魔曲だから、なのかね。 あとは演奏中無防備になる二体を守る精霊みたいなエリューション・エレメントが二体。 こっちはフルート使いが呼び出して使役してる。 水の龍と炎の鳥だな。 フルート使いが倒れれば自然消滅するがエリューション・エレメント自体は何度でも復活する。 こっちは水の龍が凍結、炎の鳥が業炎のバッドステータスを持ってるから注意してくれ。 龍と鳥の合間を縫ってフルート使いを倒さないとジリ貧になる可能性があるな。 寝食忘れて鬼気迫る勢いで上り詰めていった結果、まだ演奏し足りないって想いが残ってエリューション化したらしい。 人間ってのは貪欲だねぇ」 ずず、とカプチーノをすする朔弥。 「何とかと天才は紙一重ってやつかね。あるいは狂気か。 今のところ被害報告はないが、早めに昇華してもらいたいもんだな。 自分たちの栄光にこれ以上泥を塗る前に、さ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:秋月雅哉 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月06日(火)00:29 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●朽ち行く音楽ホールで魔曲は奏でられる 朽ち果てた音楽ホールに二つの光の塊が現れる。 光は伸び縮みしてやがて人の姿をかたどった。 初老の男性が二人。 どちらもフォーマルな衣装に身を包んでいる。 抜けた天上から月光が降り注ぐ。 「ふむ……『観客』のために、そして我らの姿を視界に刻み込めるように明かりがいるか」 老人の一人が右手を上空に向けると其処にはバイオリンと弓が。 同じようにしていたもう一人のエリューション・フォースの手からはフルートが現れる。 二人が左手を振るとぽつぽつと幻の炎がともった。 「これでよい」 「重畳、重畳」 老いた音楽家の姿をとった二体のエリューション・フォースは満足げに頷いた。 「さあ、ステージの用意は整った!!」 「不幸を! 憂鬱を! 恐怖を! 絶望のリサイタルの始まりだ!!」 「演目はなににするかのぅ……」 「普通の曲ではつまらんな」 「そうじゃのう、絶望色に染め上げる、即興曲はいかがかな?」 「ほ。破綻しなければそれもよかろう」 「お主のエリューション・エレメント、だったか。働きに期待しておるぞ。 今宵の客はマナーがよろしくないようじゃからな」 「その客を大人しくさせるのも我らの腕次第よ……くくっ」 「さぁ、演奏会を始めようか」 「クス。 狂気とも呼べる執念の果てに、音楽家は頂に至ったのかもしれないけれど……。 こんな思念を残されるのは迷惑だわね」 『吸血婦人』フランツィスカ・フォン・シャーラッハ(BNE000025)が妖艶な笑みと共に音楽ホールに足を踏み入れる。 ドレスを纏ったその姿は月明かりと幻の炎の中で妖艶さを増していた。 「音楽とは別の何かだよね、これ。 まあ、そこまで音楽に思い入れがあるわけでもないからいいんだけどさ」 脳内で兄と会話しながら続くのは『猟奇的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)だ。 この寒い中水着姿である。 「世の中に……名曲……魔曲……と呼ばれた……曲は……色々と……あるけれど……この人たちは……生前に……どんな……曲を……奏でて……いたの? そして……死して……なお……弾こうとする……執念の……由来は」 こちらも水着で登場しつつぽつぽつと言葉を紡ぐのはエリス・トワイニング(BNE002382)、メイド服を愛用する彼女が何を思って今回水着できたのかは本人以外恐らく分からないだろう。 「本当の魔曲……人を魅了して止まない本当の音楽を見せて差し上げます」 『ウィッチ・オブ・シンフォニー』宮代・紅葉(BNE002726)が儚げな容貌の中で強い光を宿した目で二人の音楽家をにらみ付ける。 「認められなけりゃ、認められても満足できなきゃ……更に上を目指す。 きっと、走り出した時は、まだ道を外れちゃいなかったんだろうな。 つーてもその時はその時。今は今だ。 幸福も。歓喜も。勇気も。奏でられないなら……教わる事なんざねぇな!」 『逆襲者』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)が力強く言い放つ。 「『魔』とは元々人知を超えた力……その中でも人に害を成すことが可能なものを指す事が多い。 狭義には文化や宗教によって様々だが……まあ、今はそれを語る場ではないな。 彼らの定義する魔曲がどういうものか、聞かせてもらおうか。 もちろん負けるつもりはないけどね」 『月夜に煌く雪原は何を内に秘める』月姫・彩香(BNE003815)は彼女の存在理由とも言える『知りたい』という思いを口にする。 「死後も己の技を追求し続けるだなんて芸術家の鑑ね。 ただ、芸術家って死んでからの方が評価されやすいんじゃないかしら? モーツァルトもベートーベンも生前よりも死後に評価されたのよ。 そういう訳だから悪い事は言わないから大人しく眠っておきなさいな。 私は音楽を批評する趣味はないけれども」 『モンマルトルの白猫』セシル・クロード・カミュ(BNE004055)は冷静に語りかける。 確かに音楽家を初めとする芸術家達は死後その功績を認められることのほうが多い。 生前は不遇だったという話はよく聞くのだ。 「音楽家が敵というと、何となく学校につきものな怪談話を思い出しますね~。 夜中になると音楽室に飾ってある音楽家の肖像画がどうこう、というやつです。 今回のエリューションも似たような雰囲気、なのでしょうか」 『名状しがたい忍者のような乙女』三藤 雪枝(BNE004083)の呟きに猛反発したのは『観客』が入ってくるのを眺めていた二人の音楽家だ。 「安っぽい怪談と一緒にしないでいただきたいものじゃのぅ」 「左様。動くだけの肖像画などと一緒にされるなど侮辱もいいところじゃ」 「人に害をなすという点では大差ない気が……いえ、怯えさせるだけですから怪談のほうがまだ救いようがありますかね……」 『鋼鉄の戦巫女』村上 真琴(BNE002654)が漏らした本音が怒りの火に油をそそぐ。 「確かにどちらも大差ないですね。そしてエリューションとして人に害をなす以上、貴方たちは私たちの敵以外になり得ない……」 『非才を知る者』アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)がリベリスタ側の感想を締めくくる。 「大体演奏会には正装でくるのが常識。何故水着が二人もいるのじゃ」 「仕置きが必要なようじゃのう」 「お兄ちゃんの趣味に口出ししないでよ!」 「クス……。真に尊敬される音楽家には観客もそれ相応の敬意を払うものだけれど……貴方たちにその資格はなかったようね。 そして私たちは観客ではない。 貴方たちを滅ぼすものよ」 フランツィスカが嫣然と微笑み、プロストライカーによって彼女の動体視力は異常なほどに強化されて光景がコマ送りのようになる。 これによって完全な狙撃を可能にしたのだった。 水着に文句を言われてご立腹だった虎美も同様にプロストライカーで完全な狙撃を可能にする。 左右で違う色の目が剣呑に煌いた。 エリスはマナコントロールで周囲に存在する魔的な力を次々と取り込み自らの力を高めた。 「我らが守護獣……呼びかけにこたえよ!」 フルート使いの老人が口元にフルートを宛がう。 響く旋律は重苦しく禍々しい。 夜空が赤く染まり、現れた炎の鳥がフルート使いの前に、空気中の水分が凍てついて龍を象ったエリューション・エレメントがバイオリン使いの前に立ちふさがってリベリスタの攻撃を妨げる。 「あなたの音楽は音楽ではない……」 紅葉が再び音楽家のエリューション・フォースを否定し、彼女の音楽である魔曲・四重奏を奏でる。 属性の違う魔術を四連続で組み上げ、立て続けに四色の魔光が炎の鳥に放たれた。 「我らの音楽が音楽でないとな? 小娘が粋がった口を利く……」 「「ふふっ……魔曲を極めた? 我等の魂? 真の音楽? ……笑わせてくれますね。 音楽の何たるかも理解できていない分際で……音楽とは、音を楽しむと書いて音楽。 怨みつらみを籠めている時点で、そんなもの音楽じゃないんですよ!」 「それがお主の持論か。ではその音を楽しむという思考を絶望で染めてくれようぞ……!」 バイオリン使いがバイオリンを構え弓で弦を振動させて曲を紡ぎだす。 悲嘆にくれた英雄を思い起こさせる、決して明るいとはいえないメロディーだ。 「英雄の嘆きが、絶望が! 真に再現されるには演奏者が真に世界を嘆き、真に世界に絶望せねばならぬ!! 楽しいだけの音楽など表面をなぞっているに過ぎない」 「俺たちはあんたらを倒しにきたんだ。音楽の評論を聞きにきたわけでも討論に来たわけでもねぇんだよ。 その演奏に魅力なんざ感じねぇ。呪い? 何言ってんだ効くかよ。 吼えろ暴君。喰らい尽くせ……ソウルバーン!! 悪いな先生方。芸術を解さねぇ無粋者が……踏み荒らしにきたぜぇ!」 エレメントを抑える仲間の脇を抜け(その時に炎の翼が腕をかすったがカルラは気にせずハイバランサーを維持したまま突っ込んだ)暗黒の魔力の宿った一撃でその精神ごとフルート使いを切り裂いた。 フルート使いの曲が弱まるが完全に演奏をやめるには至らない。 認識を戦場全体に広げ、驚異的なまでの視野の広さを得た彩香が集中を重ねる。 その後はフルート使いを守る炎の鳥に向かってアッパーユアハート。 的確な言葉で挑発された敵たちは彩香に注目をすると同時に精神に打撃を受け、かき乱された結果大きな隙を生んだ。 「才を持つと称するなら何が望まれ何が評価されるかも理解できたはずだ、自身の能力の無さを逆恨み……フッ、分かり易い小物だな。 音楽家が暴力を仕掛けてくるというのはシュールな状況で面白いな、音楽への誇りはその程度だったということか」 射線を取って早撃ちでフルートを狙い打つのはセシル。 フルートは破壊されてもすぐ元に戻ったが構えて曲を再開する短い間、エレメントが消失した。 崩れた天井の、僅かに残った部分に張り付いていた雪枝がその隙を逃さず天上の残骸を蹴って多角的な強襲攻撃を展開する。 「忍法、死角からの攻撃、っと」 思わぬ攻撃にフルート使いの攻撃がまた一瞬止まる。 雪枝が三メートルほども伸びる破滅的な黒いオーラを放ちフルート使いの頭部めがけて一撃を加える。 形勢不利と見たフルート使いは氷の龍も呼び寄せて防御を厚くする。 氷の龍が吐き出す冷気が凍てつく吹雪となってリベリスタを襲った。 全身のエネルギーを防御に特化させあらゆる攻撃から身を守り、ダメージを跳ね返すパーフェクトガードを付与した真琴が集中した後繰り出したのは大上段から放たれる神聖な力を秘めた一撃。 炎の鳥が消滅した。 フルート使いとバイオリン使いの表情に一瞬焦りが浮かぶ。 バイオリン使いが魔王の行進を思わせる重々しい旋律を奏でると振動で天井の残りがパラパラと落ち始め、リベリスタも足場を保持しにくくなる。 オフェンサードクトリンで味方の戦闘攻撃力を大幅に増加させた後、オフィサーデヴァイスで彼我の力量と状況を見抜く優秀な将校のごとき眼力を発揮し戦闘を支配したのはアルフォンソだ。 その後は精密操作が可能な真空刃を生じさせ氷の龍を高い精度で切り裂いていく。 「おのれ、小癪な……っ!!」 バイオリン使いは曲を変えた。 今度の曲は海で歌声によって船を沈めるというサイレンのようにリベリスタたちを魅了する。 「バイオリン持ちも厄介ですが、フルート持ちを倒さないことには埒が明きませんからね……!」 再び姿を現した炎の鳥を抑えながら雪枝が小さく叫ぶ。 「武器の破壊は一時的とはいえ有効なようね」 弱点を見出しフルート使いのフルートを繰り返し射撃するセシル。 「フルート使いさえ潰せば、エレメントは消える。そこまで届きさえすればいい! 上手い事立ってりゃ、バイオリンの先生にもお付き合い願おうか?」 カルラが獰猛な笑みを浮かべて言えば二人の自称音楽家は明らかに怯んだ。 「不快です…わたくしの音楽(せかい)にあなた達みたいな雑音は要りません。 百歌繚乱、綾錦。 せめて歌の中で消え去りなさい! 世界と云う美しい旋律を乱す雑音など無用。 旋律の魔女が批評して上げます」 マイクつきの杖を構えてそう言い放ったのは紅葉。 仲間が傷ついているのに気付いたエリスは希薄な高位存在の意思を読み取り、詠唱でその力の一端を癒しの息吹として具現化させて味方の傷を癒していく。 「早く帰ってお兄ちゃんとお話しするんだからさっさと倒れてよ」 セシルと力を合わせてフルート使いのフルートを何度も破壊する虎美。 『お兄ちゃん』と脳内会話をしつつもその射撃は正確無比だ。 フランツィスカが敵全体に蜂の襲撃のような連続射撃を仕掛けるとエリューション・エレメントに守られていたもののその隙を縫って攻撃を受け続けていたフルート使いが形を保てなくなり消え去る。 同時に彼が使役していた二体のエリューション・エレメントも消滅した。 「クス。後は貴方だけね?」 フランツィスカがバイオリン使いに向かって距離を詰め、その首筋から吸血する。 「うぐっ……!」 「――ふう。 それにしても、耳障りな音曲。 不幸? 憂鬱? 恐怖? 自己満足の果てに行き詰った芸術家が好みそうな題材よね、ソレって。 この思念を生み出した音楽家がどうだったのかは知らないけれど……。 聞くに堪えないから、そろそろ幕にしましょう」 「賛成です」 吸血婦人の言葉に旋律の魔女が同意を示す。 「敵は狩るのみ。だな! バイオリンの先生、お約束どおりお付き合い願おうか?」 「芸術を理解しないたわけどもめ……っ」 「理解していないのは貴方のほうじゃないか?」 挑発を続けながらオートマチックで攻撃する彩香。 カルラは奪命剣を発動させ、螺旋暴君【鮮血旋渦】は赤く染まる。 バイオリン使いの腕を血を啜る赤い魔具が一閃した。 「さて……と。始めに言ったわよね。名声が欲しいなら眠っていなさいな」 セシルの一撃がバイオリン使いの胸を打ち抜く。 「魔曲……を……我らが……絶望の……世界を……」 崩れ落ちたバイオリン使いの、それが最期の台詞だった。 粒子となって天に上っていくエリューション・フォースをリベリスタたちは黙って見上げる。 「……どうして……そんなに……魔曲に……拘った……の……かしら」 エリスの疑問に「それしかなかったんじゃない?」と虎美が答える。 「音楽は、優雅な気分で聴きたいものだわ。 真実、この思念が究極の音楽を求めるものであったのならば、聴衆は不要だったはず。 魔曲を誰かに聴かせたかったってなんて言うのは……なんとも凡人らしいじゃない。 結局、技術はともかく中身は天才のなり損ないだったと言う事よね。 くだらない思念だったわ。 次にこういう思念が現れた時は、まともな音楽が聞きたいものだわ」 ばっさりと切り捨てたのはフランツィスカ。 紅葉もそれに続く。 「……美しくありませんでした。 魔術としてならまだしも、音楽としてはね……」 そしてため息を付き。 「まずは楽しまなければね」 怪我の確認を終えて「慣れとは言え、俺もイカれたな」と呟いていたカルラがふと思いついたように仲間を見渡す。 「なぁ、誰か歌か演奏得意かい? 俺にも分かるようなのあったら、聞きたいね」 人を呪う曲なんかじゃなくて、人を祝うような曲を、さ。 そうリクエストすると紅葉が静かに歌いだす。 よく知られたその曲にリベリスタたちは耳を傾けた。 「やっぱり音楽は人を幸せにするためにあって欲しいものですね……」 アルフォンソが呟いた言葉に全員が同意し、最初から荒れ果てていた音楽ホールは修繕の必要はないだろうと判断して各々は帰っていく。 何人かにとっては、音楽の可能性を考えながらの帰途だったかもしれない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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