● 深夜、とあるビル街の裏路地。そこには一人の少年が立っていた。 一振りの剣を地に突き立て、一陣の向かい風をその身に浴びている。 「これでいいんだな、クルタナ」 『ええ、これは素晴らしい戦果だわ。初陣だとはとても思えないほどに』 剣に語りかける少年。そしてそれに答える剣。 その背後には複数の――黒い影。少なくとも、彼の瞳にはそう写っていた。 「こいつらが魔獣……なのか」 『そう、この世界の秩序を乱す悪しき存在。そして奴らを倒すのがアナタの役目』 「俺の役目、か。連中、意外とあっけなかったな」 少年は黒い影を見下ろし、ツバを吐きかけ、そして足蹴にする。 その双眼には、妖しく燃える紅い炎が宿っていた。 「コイツらをどんどん倒して、世の中をキレイにする。それが俺の役目なんだな?」 『その通り。そのためにはアナタの力が必要なの』 「任せておいてくれ。こんな連中、あっという間に倒し尽くしてやるぜ」 『頼もしいわね。期待しているわ』 人語を解する剣は、月光を浴び妖しくきらめいている。 その刀身は、少年の瞳と同じく紅い炎に包まれていた。 「……そろそろ行こうか、俺たちの次の戦場へ」 『そうね。魔獣を倒し、世界に平和をもたらしましょう』 「お前がいれば、そう難しいことじゃない。次の戦いでも頼りにしてるぜ、クルタナ」 少年は地から剣を抜き取り、その場を後にする。 彼は気付いていない。魔獣、それは彼の妄想でしかないことに。 「なんだかマンガやゲームみたいだな……こういうのに憧れてたんだよな、俺!」 少年は歩幅を広め、愉快な気分でその場を後にする。 だが、彼は気付いていない。自分の犯した罪の重大さに。 そう、彼は気付いていない。自分の愚かしい行動に。 彼の立ち去った後には、複数の――人間の屍が横たわっていた。 ● 「……と、いうわけなの。こういう予知が見えたの」 何が『と、いうわけ』なのか全く分からないが、 『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)の真っ直ぐな瞳に、一同は思わず頷いてしまっていた。 「今回の目的は、彼……納間 リュウの持つ剣型アーティファクトを破壊すること」 イヴは手元のプロジェクタを操作し、スクリーンに剣とその所有者の姿を映し出す。 納間 リュウと呼ばれた十代半ば程度の少年は、どこかあどけなさすら残していた。 「彼はTVゲームや漫画が好きなごく普通の男の子。そこにアーティファクトはつけ込んだ。 ヒーロー願望のある彼に接近し、悪い奴を倒して欲しいと頼んだの」 再びスクリーンが切り替わり、今度はアーティファクトの全容が映し出される。 紅く禍々しい妖気を帯び、ギラギラと輝くその姿は正に魔剣と呼ぶに相応しかった。 「このアーティファクトは人間を黒い影に見せてしまう。それを彼は魔獣と呼んでいた」 もちろん、アーティファクトの入れ知恵あってのことだけど。イヴは付け加える。 「この――魔剣クルタナは人間の魂を養分としているの……魂を喰らう魔剣なんて、よくある話よね。 早い話が、剣自身が自分の糧を手に入れるために、彼を操り、人を殺させていた――というわけ」 それと、注意して欲しいことがあるの――イヴはそう続ける。 先ほどまでの淡々とした態度とは異なり、眉間にシワを寄せて深刻そうな表情をしていた。 「彼は普通の人間……長時間アーティファクトの影響下にあれば、ノーフェイス化してしまうわ。 そうなってしまえば後は肉体が朽ちるのをただ待つだけ……だから、できれば助けてあげて欲しい。 常にこのアーティファクトを手放さずに持っているわけだから、タイムリミットは刻一刻と迫っている」 確かに、深刻そうな表情に見合うだけの由々しき事態ではある。 その表情に、その真っ直ぐな瞳に、一同は思わず頷いてしまっていた。 「それじゃ、お願いするわね」 イヴの懇願の言葉を聞き届け、その場を後にするリベリスタたち。 彼らの胸中には、それぞれの思惑が渦巻いていた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:オルレアン | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月29日(木)23:19 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● ひと気のないビル街。 丑三つ時を迎え、いやがうえにも静まり返るその路地裏では、一人の少年が八体の影と対峙していた。 「目の前の黒い影が敵――魔獣なのか、クルタナ」 『その通り。とにかく“アレ”を倒して欲しいの。できるわね?』 「ああ、これが俺にしか出来ないことだって言うのなら、俺は……」 俺は、やるしかない。俺は、この言葉を解する剣に選ばれたのだから。 そんな決意を胸に少年――納間リュウは影に飛び掛かった。呪われた剣クルタナを片手に。 ● 静寂に包まれた路地裏に剣戟の音が響き渡る。 高く鋭いその音は、刃物同士が擦れ合う音色に相違なかった。 音の発信源には『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)とリュウの姿。 振り下ろされたフラウの短剣を、リュウはクルタナで受け止める。 手応えを感じたフラウはひらりと身を翻し、もう片手に握られた短剣でクルタナ目掛け斬りかかった。 それに反応し、リュウはしたり顔でクルタナを構えて刃を受ける。それが狙いであるとも知らずに。 「そんな攻撃は俺には通用しないぜ! なんたって俺は“剣に選ばれし者”なんだからな!」 リュウはそう言うと後ろに飛び退いた。フラウはその言葉を聞くや、鼻で笑う。 (ヤレヤレ、中二病此処に極まりってー感じっすね) そしてフラウは表出している片目でリュウを睨み付けると、こうも思った。 (憧れだけで踏み込んじゃいけねー世界もあるって事を、今から教えてやるっすよ) 鋭く輝く翡翠の瞳には、魔剣クルタナの姿が映っていた。 そんなフラウの後方では『世紀末ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)が何やら話し合っている。 彼女の話し相手は『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)。悠月は敵の能力を推量しているようだ。 「どうかな、何か分かったー?」 「端的にこう、と断言することは出来ませんが……あの剣は……」 悠月が続きを言おうとした瞬間、岬が口を挟んだ。 「知っているのか! エターナルムーンさまー!」 反応があまりに唐突だったため、悠月はしばし声を失う。 どこから突っ込んでいいものやら。……というか、エターナルムーンさま? ――ああ、『悠久の月』で『エターナルムーン』なのですね。なるほど、納得。 などと突っ込みを自己完結させた悠月は、気を取り直して言葉を続ける。 「……あの剣は、恐らく耐久力は標準的な長剣と変わりありません」 「ふむふむ。とどのつまり、三発! 殴って! クルタナを壊せー! ……ってわけだねー?」 よく分からないが、私のパンチを受けてみろ――といったところだろうか。 「それじゃ、最初からフルスロットルでいくよー! タイムリミットあるんだから急がないとねー!」 言い終えると岬は神経を集中させ、戦闘態勢を整える。彼女の身体には、オーラが伴って見えた。 先ほどまでのお気楽な調子とは打って変わった岬の姿に、悠月も表情を引き締める。 (今回は普段の相手とは勝手が違う……やり過ぎるわけには行きません) 悠月が地に向かって指で魔方陣を描くと、描いたとおりの光の魔方陣が生まれた。 その魔方陣はふわりと落下し、地に定着すると何倍、何十倍にも巨大化する。 「――然れば、速攻と参りましょう」 怜悧な表情でクルタナを見据える悠月は、呪詛の文句を唱え始める。 その時、悠月の目に『覇界闘士-アンブレイカブル-』御厨・夏栖斗(BNE000004)の姿が飛び込んできた。 夏栖斗はリュウの攻撃をかわし大胆に懐へと入り込むと、黒鋼のトンファーで苛烈な一撃を見舞う。 「……かはっ!?」 みぞおちに直撃を食らったリュウはクルタナを支えにその場に崩れ落ちる。 「これが『痛み』って奴だ! 力を振るうには痛みを伴うんだ――体だけじゃない、心だって痛む!」 夏栖斗の熱い思いのこもった雄弁に、リュウは思わず耳を傾ける。 「――痛みは疲弊を呼ぶ。そしてヒーローにはそれがずっと続く。その覚悟があんたにあるのかよ!」 夏栖斗の行動はリュウの体だけではなく、心にも響いた。そんな時、クルタナが割って入る。 『魔獣は人間の魂を糧としているわ。そのためには手段を選ばない。耳を貸してはダメよ』 よくもそんなことがぬけぬけと言えるものだと、夏栖斗は感心する。 魂を食らうのはお前の方だろうと。手段を選ばないのは、お前の方だろうと。 夏栖斗の拳は怒りに震えていた。その衝動が口をついて出る。 「黙ってろ、アバズレ! 僕たちはお前をぶっ壊しに来たんだよ!」 『……聞いたわね、リュウ。あれが奴らの本性。全てはアナタを陥れるための罠なのよ』 突如クルタナから妖しい瘴気が放たれ、リュウの身体に纏わり付く。 『さあ、立って。ヒーローとは痛みを揉み消すことが出来るもの。ヒーローはアナタ。他の誰でもないわ』 言われるがままに、リュウは立ち上がる。彼のみぞおちには、先ほどの打撃の跡が残っていた。 夏栖斗は驚く。手心を加えたとはいえ、あんな一撃を食らえば一般人ならしばらく立てないはずだ。 「……これは恐らくクルタナ自身の能力」 呪文の詠唱を一時中断した悠月は、そう言った。そんな彼女に、夏栖斗は疑問を投げかける。 「あの剣がリュウの傷を治癒してるっていうのか?」 「魔剣に人間の治癒などおこがましい話。恐らく、痛覚を麻痺させているだけでしょう」 ――ちょうど、強力な麻酔のように。悠月はそう付け加える。 「凄いぞクルタナ! さっきまでの痛みが一瞬で消え去っちまった……これがヒーローの特権か!」 利用されている事に気付かず、勝ち誇った笑みを浮かべるリュウ。その様子を見た夏栖斗は激昂する。 「違う! ヒーローってのは、痛みを抱えて強くなっていくものなんだ!」 ――痛みを忘れたヒーローなどただの殺人鬼でしかない。しかし、夏栖斗の叫びも虚しく闇に飲まれる。 アーティファクトの忌まわしき力をその身で体感したリュウは、もはや聞く耳を持たなかった。 夏栖斗は苦々しい顔をする。そんな彼を『夢に見る鳥』カイ・ル・リース(BNE002059)がなだめた。 「君の言葉にリュウ君は少し動揺していたようダ。君の行動は決して無駄ではなかったヨ、夏栖斗さん」 あの反応を見る限り、付け入る隙があるかもしれない。カイはそう考えると、思い切って前に出る。 鳥のように軽やかにリュウの近場へと迫ると、彼に発破をかけた。 「目を覚まして良く見ロ! このイケメンのどこが魔獣なのダ!」 カイは年齢を感じさせない美丈夫だ。本人の言うとおり、イケメンと言ってもいいだろう。 だが、その外見は彼の能力によるもの。カイはこれでクルタナの幻覚を看破できないかと考えたのだ。 ――ちなみにカイは本来、極彩色の鳥のような姿をしている。 「ハッ、イケメンだって? 俺には黒い影にしか見えないぜ!」 カイは無駄だと悟ると、すぐさまクルタナの刀身に狙いを定める。 厳かな体裁の杖を構えるカイ。その先端には燐光が収束し、十字架が形作られていた。 (ヒーローになりたいというのは悪いことじゃなイ……手遅れにならないうちに早く救うのダ) カイは杖を大きく振るう。すると光の十字架が勢いよく放たれ、クルタナへと直撃する。 かなりの衝撃にリュウは一瞬怯んだが、自分の身体に当たったのではないことを悟ると再び口を開いた。 「お、驚かせやがって……俺を狙うんならもっと上手く狙うんだな!」 相変わらずの減らず口にカイは思わずほくそ笑む。 (我輩たちの狙いは君ではなイ、その魔剣なのダ。まだ気付いていないのなラ、事は手早く運びそうダ) そんな中、『チープクォート』ジェイド・I・キタムラ(BNE000838)は皮肉めいた独り言を呟く。 「しかしまあ、厄介な魔剣だ。一体誰の作品だよ?」 ――知性のある道具は好きだ。無機物から人間らしさの片鱗が感じられるっていうのは逆説的で面白い。 だが、人に害なすなら躾が必要だ。所詮、道具は道具でしかないのだから。 どこか憂いを帯びたそんな呟きは、誰に聞かれるでもなく虚空へと吸い込まれていく。 「……さ、仕事しようかね」 言い終えるとジェイドは、間合いを保ちながらリュウ――そしてクルタナに話しかける。 「坊主、悪いことは言わん。その剣を手放せ。俺の言ってること、分かるか?」 「ああ、分かるぜ……俺とクルタナを陥れようっていうドス黒い魂胆がな!」 「……チッ、通じねえか。剣の嬢ちゃんはどうだ? ブチ折られたくなけりゃアホな事をやめろ」 『リュウ、奴らの言葉に耳を傾けてはダメ。全てはアナタを陥れるための罠なのよ』 全てはアナタを陥れるための罠……か。擦り切れたレコードみたいに何度も繰り返しやがって。 リュウの坊主よりは分別があるかと思ったが、所詮は道具――アーティファクトみてえだな。 ジェイドは言葉での説得を諦め、強行突破に出る。リュウとクルタナとの間に割り入ろうというのだ。 もちろん、言葉によるものではない。彼自身に備わった神秘的能力を以って、である。 彼は念波をリュウへと向って放ち、リュウに接続されたクルタナの意識を分断しようとする。 「……どうだ、坊主。まだ俺は黒い影に見えるか?」 「あんた、何言ってんだ。そんな言葉で俺が惑わされるとでも思ってるのかよ?」 どうやら上手く行かなかったようだ。ま、薄々勘付いてはいたけどな。 夏栖斗やカイの説得で説き伏せられなかったんだ。三度目の正直とも思ったが、簡単には行かないか。 自らの作戦が思うように運ばなかったことを悟ると、ジェイドは後続のメンバーに合図を送る。 合図を受け取った『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)は、最前列へと躍り出る。 巨大な槍を構えてリュウへと突撃するシビリズ。その矛先はクルタナだけを見据えている。 リュウはシビリズのランスをクルタナで受け止め、つばぜり合いの姿勢となる。 「……少年よ、君がその魔剣を振るう理由はなんだ? “誰かを救いたいから振るう”のか?」 「剣を振るう理由……だって?」 先ほどまで自信に満ちていたリュウの顔が曇る。その様子を見るか見ないか、シビリズは言葉を続ける。 「――それとも、“誰かを救う自分が格好いい”から振るうのか?」 「そ、そんなのどっちでも一緒だろ! 結果が同じなら、過程はどっちでも!」 リュウの言葉を一向に意に介さず、シビリズは言い放つ。 「後者の言葉に心当たりがあるのなら、今すぐ己を見直せ。闘争にヒーローごっこを持ち込むな」 リュウは力任せにシビリズの槍を弾き、後方に飛び退く。 「闘争だって、剣を振るう理由だって? アンタ、クールだね。気に入ったよ」 槍をクルタナへと向けるシビリズ。相も変わらずリュウの言葉は聞き入れない。 「さあ少年よ、闘争だ。命の削り合いというのを魅せてやる」 シビリズは冷徹な表情でクルタナを睨んでいる。 (……時間がない。速やかにあの魔剣を穿ち、少年を救出しなければ) そうシビリズが考えていると、後方から勢いのある声が聞こえてきた。 「ふむ。言葉尻での誘導を跳ね除けるとは、さすがに勇者の気質!」 その声は『猛る熱風』土器 朋彦(BNE002029)のものに相違なかった。シビリズは面食らうが、声は続く。 「――ならばかかって来い! その剣で我々を打ち破ってみせろ!」 なるほど、と他メンバーは合点する。リュウを上手く誘導してしまえばいいのだと。 朋彦はこちらに向ってくるよう、リュウに促す。そんな言葉にリュウはまんまと引っかかる。 「打ち破れだって? こちとら最初からそのつもりだよッ!」 クルタナを携え、朋彦に急接近するリュウ。そんな彼の攻撃を、朋彦は魔力を帯びた手甲で受け止める。 「その剣が真に聖剣というのなら、我らの技、“それで受け止めて見せてみよ!”」 大見得を切り、朋彦はリュウをその気にさせる。これで魔剣が狙いやすくなれば幸いだと。 「ハッ、面白れぇ! やれるもんならやってみやがれ!」 この一言をきっかけに猛攻が始まるとは、リュウは想像だにしていなかっただろう。 ● 次の瞬間、リュウにフラウが迫る。神速果敢と呼ぶに相応しい速度でフラウは双手の短刀を振り下ろす。 毎度の如くリュウは攻撃をクルタナで受け止める。そのクルタナにフラウは相談を持ちかける。 「……うちのモノになれ、クルタナ。破壊されるよりは、うち等に回収された方がマシっすよね?」 『――全てはアナタを陥れるための罠。全てはアナタを陥れるための罠――』 意味のない言葉を繰り返すクルタナ。ダメージが蓄積し壊れてしまったのか、また別の意図があるのか。 フラウは考えるのをやめる。武器として使えそうなら回収するし、そうでなければ破壊するだけだ。 後方からカイの放つ十文字の閃光が迫るのを認めると、フラウはスッと身を退ける。 フラウの二撃に気を取られていたリュウは、かわすこともなくカイの攻撃をクルタナで受ける。 「ク、クルタナ……! あいつらを倒すにはどうすりゃいいんだよ! クルタナ、クルタナッ!」 『――全てはアナタを陥れるための罠。全てはアナタを陥れるための罠――』 リュウは悟る。クルタナが既に限界に近づきつつあることを。それを知った彼は狂乱状態に陥る。 だが、現実は非常である。そのクルタナを完全に破壊しきってしまうため、後方から岬が迫っていた。 接近ざまに漆黒のハルバート――アンタレスを横薙ぎに振るい、かまいたちを巻き起こす。 「アンタレスも話しかけてくれるような親切設計だったら楽だったのになー」 かまいたちはクルタナを包み、刀身をすり減らしていく。 岬は更に接近し、クルタナ目掛けて力いっぱいアンタレスを振り下ろす。 「だけど若いころの苦労は勝手デモ城ー! 近いうちにたたき起こしてやるからさー、アンタレス!」 彼女の一撃をクルタナで受け流すリュウ。クルタナに頼れない以上、自分で何とかするしかない。 しかし、彼の頭上には魔力の大鎌が待ち構えていた。大鎌はクルタナの刀身を目掛けて振り下ろされる。 あまりの衝撃にリュウは思わず倒れ伏せる。その様子を見た悠月は思わず安堵の息を漏らす。 「……この一件も、そろそろ終局でしょうか。人を惑わす邪なる剣よ。その魂、刈り取らせて頂きます」 先刻より呪文を唱えていた悠月が放った魔力の大鎌は、確かな威力を持っていた。 続けて、夏栖斗が蹴りによって放った衝撃波がクルタナを薙ぐ。 数多の攻撃を受けたその刀身はそろそろボロボロになりつつある。 更にジェイドのショットガンから放たれる、正確無比な射撃にリュウは思わず手元を緩ませる。 そのチャンスを、朋彦は見逃さなかった。クルタナを横殴りにし、遠方へと吹き飛ばす。 「君を魔剣の呪縛から解き放ってみせる! 今だ、往け! ちぇすとーッ!」 アスファルトの上を転がる魔剣クルタナ。破壊するなら今しかない。 「――砕けよ魔剣。我らの狙いは貴様なのだ」 シビリズはクルタナにランスを突き立てる。その刀身は、遂に真っ二つに折れてしまっていた。 「結局、名ばかりで実の伴わぬ慈悲の剣だったわけですが……」 「これで名実共に短い剣――コールタンとなったのだナ」 一部始終を見届けた悠月とカイは、そう言い合った。 ● 「ク、クルタナぁ……」 リュウはその場にへたり込む。周囲の様子など、気にも留めていない。 これ幸いと、ジェイドはリュウの頭を掴む。 「あ、あんた一体何を……?」 「いいからじっとしてろ。楽しかった記憶は楽しい記憶のままにしておいてやる」 ジェイドは神経を集中し、指先に力を入れる。すると、やがてリュウは気を失った。 その光景を見ていた岬はジェイドに声を掛ける。 「記憶操作、うまくいったのかなー?」 「……多分な。坊主の好きな漫画の話だって風に書き換えてやったよ」 神秘による事件は表沙汰にしてはいけない。ゆえに、こういった記憶改変などが認められている。 「命のやり取りなんて、そんなにいいものでも無いと思いますけれどね」 リュウの傷を治癒しながら、悠月はそう言う。 「だガ、ヒーローになりたいという夢自体は悪いことではなイ」 「うん。彼の心に宿った勇気、それ自体は何も悪くない。僕はこれからも貫いてくれることを願うよ」 「真のヒーローとは弱い者に寄り添える優しい心を持つ者。我輩自身モ、そうありたいと願っているのダ」 彼は彼なりのヒーローになってくれることを願うカイと朋彦。 一方のフラウは折れたクルタナを手に取り、肩をすくめていた。 「あーあ、これじゃ使い物になんないっすね」 刀の中心からポッキリと折れてしまっている。とても武器としては使えそうにない。 「ちょっと俺に貸してくれ」 名乗り出たのは夏栖斗。彼はクルタナを受け取ると、拳を当てて気を送り込み、粉々に打ち砕いた。 「じゃあな、偽物のヒーローメイカー。もう会うことはないけどな」 その夏栖斗の行動を見るや、フラウは小さく溜息を付いた。 しばしの沈黙の後、シビリズが口を開く。 「では、そろそろ帰るとしようか」 「ああ。だけど、その前に……」 夏栖斗は携帯電話を取り出し、病院へと電話を掛ける。 「ちょっと治してやって欲しいやつがいるんだ。室長、お願いできるかな」 幸い、この地は三高平からほど近い。暇があれば見舞いにでも行ってあげようか。 僕らが救った、未来のヒーローの様子を見に。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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