●千葉炎上 『縞島組』『風紀委員会』『ストーン教団』『松戸研究所』『弦の民』『剣風組』。 六つのフィクサード組織が互いの理想実現のために新生『九美上興和会』として協力合併し、巨大なフィクサード組織に生まれ変わろうとしている。 彼等の秘密兵器、アーティファクト『モンタナコア』。 組織を完全なものとすべく狙う『セカンドコア』。 無限の未来を賭け、大きな戦いが始まろうとしていた。 ●京葉工業地域 関東地域の工業では、三大工業地帯に数えられる京浜工業地帯が有名である。だが、規模は劣るものの、千葉側にも京葉工業地域が存在する。 石油化学コンビナートの一角に、偽装された松戸研究所の拠点が存在していた。 表向きはごく普通の工場として運営されているが、フィクサードたちが研究を続ける特殊ブロックが内部には隠されている。 すべての窓にシャッターが下りたその建物内部は広い吹き抜けになっていた。 そこには本来あるべき機械群は1つもなかった。 ただ、そこには巨大な銀の――芋虫とでも呼ぶべき『なにか』だけがある。 芋虫といっても、そのサイズは全長で10mを越す。 しかも背には剣山のように無数の砲を備えていた。 「……調子はどうだ、伊佐原。いや、今はドレッドノートと呼ぶべきかな」 同じく銀の肉体を持った1人の男が、芋虫の上に軽く飛び乗って声をかける。全身が銀色と化した男は、見た目からは青年とも老人ともつかない。 「問題はない。いつでも起動可能だ」 感情のこもらぬ淡々とした声が、巨大芋虫から響いた。一瞬、合成音声と間違うような声音。 「頼りにしているぞ。あの『セカンドコア』を回収するのに、その力は存分に役立ててもらう」 「それこそが私の望みだ」 仮面のような顔の下に、押し殺しきれない感情を言葉の端に覗かせる男。それと対象的なまでに、芋虫から聞こえる声は冷たい。 芋虫の前方で巨大なシャッターが上がり始める。 工場群へと、無数の脚を蠢かせて、ドレッドノートは出陣する。 ●ブリーフィング アークのブリーフィングルームで、『ファントム・オブ・アーク』塀無・虹乃(nBNE000222)は映像を見るリベリスタたちを見回した。 「現在、千葉では6つのフィクサード組織が合併し、一大組織になることを目論んでいます」 彼らが切り札としているのは『モンタナコア』と呼ばれるアーティファクト。 このアーティファクトは寿命や生命力を代償にフィクサードを強化する効果があり、多くのフィクサード小隊が兵力を整えている。 「彼らは『セカンドコア』を求めているそうです。『モンタナコア』の同種の効果を持っており、さらなる戦力増強を期待しているのでしょう」 そして、彼らは行動を開始した。 放っておけば、千葉は広い範囲でフィクサードの勢力下に置かれ、巨大組織の誕生を許してしまうだろう。 なんとしても彼らを叩き、野望を阻止しなければならない。 「幸いにも、まだ今のところフィクサードたちは自分たちの土地にとどまっています」 もちろんもしも合流されれば厄介なことになるだろう。 アークでに彼らを黙って合流する余裕を与えるつもりはなかった。 「彼らの位置を特定し、撃破するためにチームを派遣する作戦が進行中です」 この場にいる者たちに限らず、他にもいくつもの部隊が千葉に向かっているという。 「現場では協力組織のリベリスタたちが人払いをしています。一般人のことは気にせずに、存分に戦ってください」 今回の敵は、巨大な芋虫状の姿を持つフィクサード。 本来は、伊佐原光一という名前なのだという。それなりに有力なフィクサードだった。異様な姿をしているのも、おそらくは『モンタナコア』の能力の1つなのであろうと予想されている。 どうやら、フルメタルフレームブーステッドという技術の産物であるらしい。 剣山のように大量の砲を背負っているが、それを用いてスターサジタリーの技を使うという。 「それから、仲間が1人と配下が3人潜んでいるようです」 仲間は高槻彩葉という名で、伊佐原と同等の実力を持っていた男だ。メタルフレームのプロアデプトであり、日本刀を用いて戦う剣士である。 4人の配下はマグメイガスが1人とクロスイージスが2人、クリミナルスタアが1人。実力のほどは、おそらくアークのリベリスタと同等というところだ。 イージスの2人は伊佐原のすぐそばで守っており、残る2人は周囲を警戒している。 工場内で攻め込めば、巨体の伊佐原は動きを制限されて多少有利に戦える可能性がある。ただ、建物外で待ち伏せをすれば強化の技を使っておくなどする余裕があるかもしれない。 「この敵を倒せば戦いが終わるわけではありません。厳しいですが皆さんには『九美上興和会』撃破の任務も待っています」 残存兵力は、コアチームと合流してさらに戦ってもらう可能性があると、虹乃は告げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:青葉桂都 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月04日(日)23:52 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●工場襲撃作戦 京葉工業地帯の一角を、リベリスタたちが目指していた。 行く先は、千里眼を用いて探し出した敵の拠点だ。 「フィクサードの根は絶える事が知れず、挙句が果てに新派が誕生しようとしているだと?」 オレンジの髪をした『生還者』酒呑雷慈慟(BNE002371)が吐き捨てた。 「巫女戯た話だ。世界あっての我々だと言うのに、崩界へ導くような輩の台頭等放置罷り成らん」 下らぬ野望の一端を削除し、最善を持って状況の収拾・修正に勤めようと彼は決意を新たにする。 「そうだな、フィクサードの新たな巨大組織誕生は見過ごせない。このままでは罪無き一般人にも被害が及ぶからだ」 ヒーロー然とした短髪の青年、『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)も言った。 普段はスーツアクターをしているだけあって、その動きは軽快だ。 「千葉炎上……ですか。リベリスタとして、また一つ大きな作戦に加わる事になるのですね」 巫女装束を着た黒髪の少女が感慨深げに言った。 「私達アークが来たからには、おいそれとその通りに事が進めるとは思わぬ事です。万華鏡の力の恐ろしさ、味わって貰いましょう」 護り刀の形をしたアクセス・ファンタズムを手にして、『朔ノ月』風宮紫月(BNE003411)は目的の建物を目指して工場の間を進んでいく。 「ぱっと見エリューションにしか見えなかったけどフィクサードなんだよねー。こんだけのを出来るコアのセカンドを奪い合うとなっちゃそりゃあ炎上ぐらいするよねー」 『世紀末ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)が、まだ炎上していない工場群を見回す。 敵の姿はまだ見えないが、見上げるほどの威容を誇る姿は忘れようもない。 この辺りは石油化学コンビナート。さぞ燃えやすいことだろう。 「モンタナコアと同種の効果を持ったセカンドコア、か……。名前は初富邸奪還の際に耳にしていたが、ずいぶんと厄介なものだな」 狼のシルエットが描かれたケースを手に、『銀狼のオクルス』草臥木蓮(BNE002229)が呟く。 「戦争が技術を発達させるって言うよね。あるいは、あらゆる技術は争いのために使われるって言葉でもいいよ」 使命感の強い『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)の言葉は、どこか悲しげな響きを帯びていた。 「それは本当の事なのかも知れない。だけど、だからこそ。技術を、知識を……平和のために使って欲しかった。偶然から生まれたものだとしても、FMFをこんな破壊兵器にして欲しくなかった」 「FMF-B。自らの……体を……改造して……まで……何を……手に……入れたかった……のだろう?」 エリス・トワイニング(BNE002382)には分からない。 (ただ……敵で……あること……だけは……確か) 工場地帯には不似合いな、メイド服の少女は、静かに敵がいる方向を青い瞳で見つめている。 「ったく、好きかってやってくれるよ。ちょべりば、ってやつね」 乾いた声で『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)が吐き捨てる。 (死なせた人もいる。ぶっ飛ばさなきゃ気がすまない奴もいる。でも、どうでもいい) とばっちりで死ぬかもしれない一般人には、なんの関係もない。 目元に泣きボクロを持つ一匹狼の少女が鋭い眼光を放つ。 ●フィクサードの繰言 雷慈慟は感覚を共有したネズミを工場内に潜り込ませていた。 普段は鳥をファミリアーとして使うことを好むが、今回は工場に潜り込みやすいものを選んだ。 聞こえてきた会話の内容に、彼は静かに移動する。 伊佐原光一が出る前に、哨戒役の2人が外の様子をうかがうつもりだと、話していたのだ。 果たして、2階の鉄扉が開き、敵の1人が姿を見せる。 「好機だ、叩くぞ」 気糸を生み出し、ライフルを構えた男を狙い撃つ。 「あれは クリミナルスタア」 エリスが敵の能力をスキャンし、告げる。 「襲撃だ! 気をつけろ!」 先手を取られた男が、階段を駆け降りた。怒りの形相で雷慈慟の頭部に狙いを定め、引き金を引く。 鋭い目つきをした顔に直撃する弾丸。並の人間ならば頭が割れているところだが、リベリスタならば耐え切れる衝撃だ。 その間に、仲間たちが自らを強化していく。 「貴様達の目論見どおりに事を運ばせるわけにはいかない! 変身!!」 疾風がスマートホンのような外見のアクセス・ファンタズムを手に高らかに叫ぶと、その姿が輝きと共にバトルスーツに包まれた。 流れるように見栄をきり、決めのポーズがそのまま構えとなる。 入口を破壊しながら巨大芋虫のような姿……光一が出現したのは、雷慈慟以外の皆が自らの力を高めたあとだった。 リベリスタたちは、左右から敵を挟み撃つ。 紫月は、限界まで集中力を高めていた。 「先ずは、挨拶といきましょう。──手始めに、自分達から燃えて頂きます」 魔弓に矢をつがえて静かに引き絞る。 涼子が握りこんだ小型銃を手に暴れまわる。 「射手だと思ってナメるんじゃないぞ!」 木蓮はまだ階段の途中にいたクリミナルスタアをブロックし、至近距離で撃ち合いを繰り広げている。セラフィーナは光一を守るクロスイージスの1人の前に立ちはだかっていた。 「ボクがやること、出来ることはいつも通りただひとつ――。このデカブツ殴り倒して進足するとしようぜー、アンタレス!」 岬のハルバードがマグメイガスらしき男を遠方から断つ。さらに、疾風の脚が虚空を切り裂き、同じ敵を貫いた。 血を吐きながら男が手をかざすと、紫月の体が炎に包まれる。 範囲攻撃に巻き込まれないようリベリスタたちは距離をとっていたものの、比較的広い範囲を焼き尽くすこの神秘の炎には前衛を除く皆が被害を受けた。 (なるほど――確かに焼き尽くしてくるつもりのようですね) 巫女装束が燃え上がる。炎に包まれながら、しかし紫月は微動だにしなかった。 一度弓を引き絞ったならば、けしてその姿勢は崩さない。もし倒れるならば、矢を放った後に。それが彼女の弓使いとしての気概であった。 標的は6人。ライフルを構える男、魔術を詠唱する男、巨大な鋼鉄の芋虫、芋虫の背で気糸を産む男に、芋虫を守るべく前に立つ男たち。 極限の集中の中、揺らめく炎さえもがコマ送りとなって視界に映り、風の動きを教えてくれる。 あたかもその瞬間にそうすることが決まっていたかのごとく、引き絞った弦から指が離れた。 「……焔獄、舞いなさい!」 雷霆の炎が打ち放たれる。 降り注ぐ火矢は敵をことごとく焼き、そしてマグメイガスの男が倒れた。 鋼鉄の芋虫のような姿のフィクサードが、全身に装着した砲門を持ち上げる。 一斉に吐いた炎がリベリスタたちに降り注ぐ。全体攻撃でありながらなおも痛烈な一撃。これがフルメタルブーステッド技術の産物ということなのか。 エリスの生み出す息吹が傷を癒していく。 けれど、芋虫の前に立つ男の一人が十字光を放ってエリスの気をひく。 唯一の回復である彼女が魔法の矢を放っている間に、フィクサードたちはリベリスタたちにダメージを蓄積していく。 涼子は高槻彩葉を下から見上げる。 へクスマップがあるわけでなし、敵と味方が接敵しているところに、敵のみ巻き込むように範囲攻撃を加えることはできない。 必然的に彼女は木蓮と交戦するクリミナルスタアだけを狙うことになっていた。 けれど、涼子はまとわりつくように動きながら、彩葉と光一へと声をかけた。 「なんだか分からない力で強くなってるのに、こんな子供1人倒せないの? じゃ、アーティファクトが1つ増えたところで、たいした力にならないんじゃない」 乾いた少女の声が戦いの中に静かに響く。 光一からは反応がなかった。 「舐めたことを言ってくれる……なら、倒せないかどうか教えてやろう」 芋虫から飛び降りた男の全身に闘気が満ちる。日本刀を抜き放ち、彼は涼子を薙ぎ払う。 華奢な体躯が吹き飛ぶ。 涼子は悲鳴を上げることはなかった。けれども、口元から血があふれ出すのは止められない。 近くにあったプレハブの壁に叩きつけられた彼女は、その壁を軽く押して立ち上がる。 「……ほら、倒せてない」 淡々と告げる涼子に光一の砲門が向けられる。 「止めを刺せ!」 「了解した」 叫ぶような彩葉の言葉に、機械的な声で応じて、呪詛弾が迫る。 横飛びにかわそうとした涼子においすがり、弾丸が彼女を貫いた。 今度こそ、涼子は立っていられなかった。 けれど、倒れこんだ彼女の視界に、エリスが魔道書を開いているのが映る。強敵の攻撃を涼子1人にひきつけている間に我に帰ったのだ。 もはやすぐに戦闘に復帰できる状態ではなかったが、涼子の体も確かに暖かな息吹が包んでいた。 再度クロスイージスがエリスを狙おうとした。 「思い道理に動かれようとする敵が居るか。対応させて貰う」 けれど、その十字光は雷慈慟が代わりに受け止めていた。 セラフィーナはクロスイージスをかわして彩葉に接近する。 夜明けの刀が描き出す美しい軌跡に魅了され、イージスはその動きを防ごうとはしなかった。 姿勢を低くして、砲の下をくぐる。 「メタルフレームとは違う、新たな可能性。FMF化を平和のため、正義のために研究・発展させていくことだってできるはずです」 言葉とともに繰り出した七色の光を放つ刃は、彩葉の刀に受け止められる。 「何故、貴方達はその力を破壊に使おうとするんですか?」 「……知りたいか?」 冷たい声が返ってきた。 「貴様らや、七派の連中が、そうやって上から目線で語るのが我慢ならないんだよ!」 連続攻撃がセラフィーナを追い詰める。動きが完全に分析されているのだ。 けれど、彼女も倒れるわけにはいかなかった。 気力を振り絞り、限界を超えて苛烈な連続攻撃を耐えてみせる。 「第一平和利用できるような技術じゃないんだよ、FMFは。伊佐原光一って男はもうこの世にいない。お前のような綺麗事も、俺みたいな恨み言も言えなくなった男はもう伊佐原じゃない」 ゆえにドレッドノート。フォーチュナの予測で呼んでいた名だ。 「……貴方達はここで絶対に止めてみせます!」 セラフィーナの優しさでは、この男は止められない。 無数の幻影を生み出しつつ繰り出す刃が、彩葉とドレッドノート、イージスの1人を巻き込んだ。 ●フルメタルブーステッドの終焉 木蓮は気絶したクリミナルスタアが階段を落ちていくのを最後まで見届けなかった。 振り向けば、セラフィーナが彩葉に追い詰められている。 2人のクロスイージスは岬と疾風が接敵した状態であったが、2人も狙っていたのは木蓮の前にいたクリミナルスタアであったため、敵はまだまだ弱ってはいないようだ。 彩葉のほうに近づこうとしたイージスを、岬の一撃が吹き飛ばして引き離す。 「順当に仕掛けて行くぞ!」 雷慈慟の気糸が、引き離されたイージスを貫いて攻撃を誘っていた。 セラフィーナの芸術的なまでの剣舞が彩葉の心を惑わせて、近づいてきたもう1人のイージスを吹き飛ばしてしまった。 無防備になったところを、疾風が、疾風のごとき速度で接近した。雷撃をまとったナイフで断ち切り、ナックルガードで打ち貫く。 木蓮は彩葉にしっかりと狙いをつけた。動きの早い強敵を確実に狙い撃つべく集中する。 M1ガーランドに似た半自動小銃を構える。スコープを使わずに、自分の目で狙いを定めるのが彼女のスタイルだ。 吹き飛ばされながらもイージスが光を放って彩葉の意識を取り戻させる。 彼の全身から放たれた気糸がリベリスタたちを貫き、セラフィーナが倒れた。 「合併して大きくなられちゃアークも俺様も困るんでな、全力でいくぜ!」 けれど、そこに木蓮の落下するコインさえ撃ち抜く精密射撃が飛ぶ。 記憶を打ち壊すという意の名を持つ銃は、少なくともフィクサードの体を確実に打ち壊した。 疾風は味方の攻撃で吹き飛んだクロスイージスへと距離を詰める。 彩葉の攻撃は強力だった。 それが向けられた敵は確実に弱っているはずだ。 「この戦いを制してもまだ終わりじゃない」 一刻も早く敵を倒して、次の舞台へと向かわなければならない。 戦いのさなかに登場する新たな敵……彼がスーツアクターを勤める特撮番組ではよく見る状況であるが、現実に新たな敵が出現するのを座して待つわけにはいかない。 罪なき人々を守るために。 「……力比べです。どちらが先に倒れる事になるか、いざ!」 ドレッドノートの砲門と、紫月の弓が火を放つ。 互いの陣営が放つ炎が、戦場にいるすべての者たちを炎に染めている。さすがにフルメタルブーステッドのほうが強いのは明らかで、紫月は無理して立ち続けているのが目に見えていたが。 だが、敵が仲間との集合地点に向かうならばどうしたって騒動になる。その前に止めなければならない。力なき人々のためにも。 近距離で戦いながら、疾風はイージスと位置を入れ替えた。 鋭い蹴りを放つ。 虚空を貫く一撃にイージスが倒れる。そして、向こうにいるドレッドノートをも貫いていた。 その間に、もう1人のイージスも木蓮と雷慈慟の攻撃の前に倒れたようだ。 「芋虫とは異様な姿だな」 改めて敵の姿を確認した。人1人乗れるだけあって、大きい。 けれど、臆することなく疾風は前進する。 エリスは回復を続けている。 ドレッドノートが放つ砲は天に向けられたまま、炎を仲間たちに降り注がせる。 「これ以上は 誰も 倒させない」 ぼそぼそと呟くような声。 癒し手であることにだけは、エリスは絶対の自信を持っていた。 砲門が火を噴くたびに強烈な炎が仲間たちに降り注ぎ、一気に体力を削り取る。 けれど、エリスはその傷を確実に癒し続ける。 天使の名を冠する魔道書は周囲に存在するマナを取り込み、回復し続ける力を与えてくれていた。 さらに雷慈慟も意思を共鳴させて力を回復してくれる。 「もう いくら攻撃しても 意味なんて……ない」 もちろんいずれマナを取り込む力にも限界が来る。そうなれば倒れる者も出るかもしれない。ただ、少なくともそれはまだ先のことだ。 岬は巨大な芋虫の下に潜りこむように身をかがめる。 「こんだけでっかかったら、どうしたって死角ができるよねー」 剣山のような砲だけに、至近距離は狙いにくい。さすがに全体攻撃が完全に当たらないとはいかないまでも、その威力はかなり減じていた。 移動しながら砲撃してくる敵は、どうやら突破を試みようとしているようだ。 「そんじゃ、もう一個試してみるかなー、アンタレス!」 ハルバードの中心に位置する禍々しく赤い目が輝く。 小柄な体に似合わない爆発的なエネルギーで、すくい上げるように敵を吹き飛ばす。 芋虫がもがき始めた。 起き上がるのは、やはり苦手らしい。 倒れたままの砲撃がリベリスタたちを焼くが、さすがに当たりにくくなっているようだ。 「削れないなら削れないなりに、ちょっとでも多く体力を持ってかせてもらうぜ!」 狙い済ました木蓮の射撃が、その隙に敵の集中を打ち砕き、さらに命中率を下げる。 「因果応報、炎に染めると言うのであれば、逆に炎に染めて差し上げましょう」 紫月の炎が容赦なく降り注ぐ。 雷をまとった疾風のナイフが外皮を切り裂く。 エリスの魔法の矢や、雷慈慟の気糸も敵を貫いた。 「食い足りないなー、おかわりまでいかなかったぜー」 もがく敵を、振り下ろしたアンタレスが工場の壁にめり込ませる。 無数に並んだ、もはや人のものではない脚がやがて動きを止めていた。 ●新たな戦場へ 戦いは終わった。 けれども、これですべてが終わったわけでないことを、リベリスタたちは知っていた。 「向かうべき戦場へと参りましょうか。最終舞台に遅刻してしまっては、演者としてどうかと思いますしね」 紫月が4WDの運転席に座る。 次なる戦場へ向かう仲間たちが、車に乗り込んでいく。 千葉が炎に燃えるか否か――それはまだ、わかっていない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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