●空に焦がれて ――もう嫌だ、嫌だ、嫌だ! ――誰か、誰か助けて……。 少年は今日も部屋の片隅で声を圧し殺して泣き崩れる。 少年が泣けば殴られた。笑えばタバコを押し付けられた。何もしなくても食事を抜かれた。 少年の身体は痩せこけ、火傷と打撲の痕で見るも無残な姿となっていた。 外に出ることも出来ずに、もう小学校にはどれくらい行って無いだろう。 何日? 何ヶ月? 何年? 窓から覗く空だけが少年にとっての外の世界だった。 窓の外では鳥が空を飛ぶ。自由に羽ばたくその姿が少年の目に焼きつく。 ボクも鳥に生まれていたら、あんな風に自由でいられたのだろうか。 目が眩む、お腹はいつからか空かなくなっていた。身体を動かす事も出来ない。 よく同じ夢を見る、それは鳥になった夢だった。夢の中だけが自由だった。 もうすぐ両親が帰って来るだろう。愛してるからだと言って、殴られるのだろう。大切な躾けだと言って、殴られるのだろう。 ときおり優しくなる両親の笑顔が目蓋に焼き付いている。ただこれだけが大切な記憶だった。 眠い……起きているのが億劫だ。だから少しの間、目蓋を閉じて……眠る。少しの、間。幸せな思い出だけに包まれて……。 「おい、起きろ!」 「……動かないよ、この子……死んでるわ」 「どうするんだ! 警察なんてごめんだぞ!」 「そんなの知らないわよ!」 煩い、大嫌いな怒声が響く、耳障りだ。それにお腹が空いた。そういえば良い臭いがする。ご飯の臭いだ。 もうどれくらい食べてなかっただろう、早速食事にしよう。……いただきます。 ――ぐちゃ、ぐちゃ。 「ひい! 止めてくれ、やめ……ああああああ」 「お願い、待って、ママよ。こんな……化け物ぉぉぉ!」 ――ぐちゃ、ぐちゃ、ぼきっ、ぐちゃ。 「あ、あは、ぎゃぃあああああやああああああ」 ――ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ、ごくん。 静かになった。お腹も一杯だ。ああ、こんなに満足なのはいつ以来だろうか。 身体が軽い、周りを見渡す。赤、赤、赤。絵の具を撒き散らしたように床が染まっている。 そこには肉が削げてなくなり、骨を剥き出しにした両親の姿。 「は……はははっ……あははははははははははっ! これで、ボクはもう自由だ!」 少年の背中が盛り上がる。服を突き破り、肉が生える。それはまるで翼のようだった。 「それじゃあ、行ってきます」 涙で顔を濡らしていることにも気付かずに、少年は笑った。 ● 「親からの虐待によって死んだ少年がE・アンデッドになってしまうの」 リベリスタ達を招集した『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が開口一番そう告げた。 「残念だけど、少年を助けることはできないわ」 少年を死の運命から救う事は叶わない。今から急いでも少年が親を殺し部屋から出るところだろう。 「このまま放置しておくと、少年は見境なく喰らい、仲間を増やし続ける」 既に両親はE・アンデッドと化してしまっている。他にも少年の思念に惹かれたのかE・フォースまで集まっているという。 「貴方達の手で、この不幸な少年を止めてほしいの」 そう呟くとイヴは悲しげに視線を下げた。 「それが私達にできるたった一つの救いでしょうから」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:天木一 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月31日(水)23:29 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●偽りの翼 マンションの最上階、6階の一室の前にリベリスタ達は集まっていた。ドアにある『606』のプレートを夕日が照らす。中から物音がする。だが生き物の気配は感じなかった。 「やるせないナ……」 『夢に見る鳥』カイ・ル・リース(BNE002059)はこれからの戦いを想像して気持ちが重くなる。せめて一人の人間として見送る為にも、この任務をやり遂げなくてはならない。 これはよくある話。周囲の感情を調べ、一般人の動向を探っていた『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)はそう思った。 「親なんて……」 そう、親が子供を護るだなんて、恵まれた連中の幻想でしかないのだと、綺沙羅にはよく分かっていた。 両親の居ない『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)は親子の関わる今回の仕事に複雑な心境だった。 「……いかんいかん! 気を引き締めないと」 まずは仕事をしてからだ、感傷に浸るのは終わってからでいいと、気を引き締める。 「あーあー、全く嫌になるねぇ」 『住所不定』斎藤・和人(BNE004070)は大きく溜息を吐く。最近はこういう事件が多い。こんな家庭ばかりではないと分かってはいるものの、関わる身としては溜息も吐きたくなる。 「しゃーねー、とっとと片付けるとすっか」 「はい、そうしましょう」 和人の後ろに姿が隠れてしまっているのは、まるで子供のような体型の『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)だった。和人と並ぶとその差が顕著に現われる。 麻衣は少年がどんな気持ちでいたのかを考えながらも、ただ今は少年を倒す為に集中する。 『骸喰らい』遊佐・司朗(BNE004072)は冷めた目でドアを眺めていた。同情など無い、どのような不幸であれ、今この時、少年は倒すべき敵なのだ。 「どんな不幸も免罪符にはならないからね」 そう呟くと、配置につき準備の整った仲間達と視線を交わす。木蓮が一歩前に出てノブに手を掛けた。ゆっくりと回すと、扉は開かれた――。 開けるとそこから異臭が漂う。血と腐肉の臭い。鼻が曲がりそうになる。玄関の先、リビングに三人の……否、三体の姿があった。大人サイズの二体は肉が削げ、骨が見えていた。特にお腹は大きく穴を開け、内臓が殆ど無くなっていた。周囲には苦悶の表情を浮べる、顔だけの亡霊が何体も浮遊している。 部屋の中央、そこに居たのは優しそうな面影の少年だった者。そう、『だった』のだ。もう、その姿は人であった時とは変わってしまっている。生気を失った肌は青白く、その身を動かすのはこの世への未練か恨みか……。背に映えた肉の塊は大きな翼にも見える。それは異形の天使の姿だった。 「蝋で固めた鳥の羽根……だったかしら?」 目の前の少年の翼を見て『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)はそう呟く。だとすれば、この少年の運命も彼のイカロスと同じく、堕ち逝くものとなるのかしらと、胸中にやるせない気持ちが過ぎる。 「周囲に一般人が居るみたいだし、結界を張るよ」 綺沙羅は一般人が入って来れなくする為に結界を張りながら、少年を見て思った。あれはキサが辿ったかもしれない一つの運命なんだと。些細なことから人は簡単に道を踏み外す。もしも自分がああなっていたら……そう考えると恐ろしい。止めてあげなくてはならない、これ以上の罪を犯す前に。 「お兄ちゃんたち誰?」 部屋に飛び込んだリベリスタ達へ少年の問いかけ。 「翼君、君を空に送るものダ」 「お出かけのところ申し訳ねーが、こちらの用を済ませてからにしてもらおーか?」 「ま、ご愁傷様とだけ言っとくよ」 武器を構え、カイと和人が真っ直ぐに接近する。司朗は俊敏な動きで壁を蹴り、側面を突くように近づく。少年を守るように間に割り込む二体のアンデッド。 「……その行動を生前にしていれば、悲劇は防げたでしょうに」 彩花はガントレットを装着し、決意の表情で飛び掛った。 ●動く死者 マンションの屋上から壁伝いに動く人影。それは一人別行動をする『もぞもそ』荒苦那・まお(BNE003202)の姿だった。 屋上から606号室の窓を目指し、壁を垂直に歩いていた。 「これが夢なのだと教えてあげなくてはいけません」 目的の窓に到着し待機する。暫くすると、玄関から仲間達が中に突入した気配を感じる。同時に結界が広範囲に張られたのを感じた。 敵の意識が玄関に向けられた。まおは機と見て、窓を突き破り飛び込む。その足元に映る影はまるで生き物のように蠢いていた。 戦闘はリベリスタ達の先手で始った。 「皆、目を閉じて!」 綺沙羅が仲間が接敵する前に閃光弾を敵の中央に投げ入れた。爆発、閃光。光に驚き、死者達が一瞬怯む。 その隙を突き、玄関から突入したリベリスタ達が仕掛ける。司朗がアンデッドに向かって拳を放つ。拳は炎を纏い、アンデッドの腹部に命中し、残っていた肉と服を焼く。 カイは外に逃がさぬよう、窓に近い周りを浮遊する亡霊を狙う。光が十字に放たれ亡霊を貫く。光に貫かれた亡霊は苦悶の表情を浮かべ、一瞬にして存在が希薄になる。 仲間と敵の動きの流れが、集中力を高めた木蓮の目には誰がどう動くのかが手に取るように判断できた。半自動小銃を構える。狙いを目視で付けると、流れるように銃身の方向を変えながら、引き金を連続で引く。放たれた弾丸は、正確にアンデッドと亡霊を撃ち抜いていく。 まおは窓の経路を塞ぐように立ち、鋼糸に気を流し、近くにいた亡霊を幾重にも締め上げる。身動きの出来ない亡霊は音とも分からぬ声をあげた。 和人はアンデッドに向かう。手にしているのは無骨な大型の拳銃。その拳銃に聖なる力を宿し、大きく振りかぶると叩き付けた。肉が拉げ、骨を折る感触が腕に伝わる。 彩花は皆が接敵した一瞬の間を突く。地を這うように低い姿勢で駆け抜け、少年の前に飛び出る。ガントレットが冷気を纏う。 「凍りなさい……!」 拳は少年の腹部へとめり込む。冷気が伝わり、肉を凍結する。だが、少年は涼しい顔。痛みを感じていないのか、ゆっくりとリベリスタ達を見る。 「お姉ちゃんたち、美味しそうだね……ボクお腹が空いたんだ」 少年は無垢な笑みを浮かべ、本能の赴くままに彩花へと襲い掛かってきた。 「くっ……」 彩花それを回避しようとしたが、周りの亡霊が邪魔で動きが阻害される。両手のガントレットで顔と胴の致命となる部分を覆う。少年の鋭い爪が肩口に突き込まれる。熱い痛みが肩に走るが、更なる追撃を恐れ、痛みを無視して距離を取る為にバックステップをする。 少年は手に付いた血を舐める、ぺろぺろと。まるでチョコレートを舐めるように目を細めて楽しんでいた。 彩花はちらりと周囲の状況を見ると、同じように司朗と和人もアンデッドの反撃により傷を負っていた。傷自体はそれほど深くはない、だが鋭い痛み……見ると、傷口が変色している。毒だ。 「大丈夫です。今、治しますから」 背後から落ち着いた声。彩花達の周りに優しい息吹が渦巻く。その力は傷を治し、そして穢れを払っていく。麻衣の放った癒しの力だった。 「助かったぜ」 襲ってくる亡霊を銃で殴り付けながら和人から感謝の声があげる。 「しかし、もう人らしさは残ってねーのかな」 和人は恐らく父親だったであろうアンデッドの攻撃を凌ぎ、反撃で振り抜いた銃は捕らえ、吹き飛ばした。それに少年が何の反応もしないのを見て、そう判断する。 司朗もアンデッドの攻撃をサイドステップで避けながら、反撃に移ろうとする。だが、後ろから迫る亡霊の体当たりを避けきれず、受けて転倒してしまう。無防備になったところを更にアンデッドが襲い掛かる。避けられない、そう思った時だった。アンデッドに魔力の雨が吹き付けられる。それはまるで通り雨のよう。濡れた箇所がすぐさま凍っていく。氷像でも作るようにその存在を氷で閉ざす。 「大丈夫?」 「これくらい平気だよ」 アンデッドを凍らせた綺沙羅の声に、感謝すると軽く手を振りながら司朗は起き上がる。 「さようなら食べカス。自業自得だけど、一応お悔やみ申し上げておいてあげるよ」 拳に炎を宿し、全力の一撃を氷像となったアンデッドに叩き込む。氷に幾筋ものひびが入る。それは全身に行き渡り、氷ごとアンデッドの身体は砕け散った。 ●死者には眠りを アンデッドが一体減ったことにより戦場の均衡は崩れ、一気に戦闘の流れは変わった。 これを好機と見て、カイは光の攻撃を放ち、木蓮は銃撃で亡霊の数を減らしていく。更には 少年と対峙し続ける彩花は、次第に敵の攻撃を見切り始めていた。一手ごとに動きが最適化していく。 「威力があっても、単調だと動きを読むのは簡単ですわよ?」 少年の攻撃を回避する度に、確実に打撃を入れていく。顔、胸、腹と正確にそれぞれの急所を狙い打ち抜く。もし痛覚があれば今頃のた打ち回っていただろう。 少年の顔に苛立ちが募る。ご馳走を前にしてお預けをされているようなものだった。 「あああああああああ!」 我慢の効かなくなった少年は突如方向を変え、アンデッドと戦っていた和人に襲い掛かる。 「そっちに行きましたわ!」 彩花の声に、和人は振り向き様に裏拳を銃を持ったまま放つ。当たれば顔が陥没するような勢いの攻撃。だが少年はそれを避けると、すれ違い様に和人の脇腹の肉を噛み千切っていった。 「ぐあっ、つぅ……」 肉を抉られた深い傷、流れ出る血を止めようと和人は空いている手で抑える。 「ああ、おいしい……おいしいよ」 少年はぐちゃりぐちゃりと咀嚼する。美味しそうに、まるでお菓子でも食べるように嬉しそうな表情だった。 「深い傷……すぐに癒しますから」 和人の傷を確認した麻衣がすぐに癒しを掛ける。 味を占めた少年はまた和人に攻撃を仕掛けようとする。それを防ぐように彩花とが立ち塞がる。 先ほどまで和人と戦っていたアンデッドも、また攻撃をしようと近づく、その前に立ったのはカイだった。 「翼君はずっと待っていたのダ……優しい両親と過ごせる事ヲ!」 やるせない気持ちを乗せ、カイは全身の力を込め、杖をアンデッドに叩きつけた。頭部に喰らった渾身の一撃に目が飛び出、血が顔の穴という穴からどろりと垂れる。 痛みを感じぬ死者はそれでもまだ前進を続ける。その時、銃声が響く。アンデッドの頭はスイカのように吹き飛んだ。傷を治療中の和人の手にある銃から硝煙がゆらめいた。 「先に逝っちまいな」 「あの世ではせいぜい良い親になるのダ!」 立ったままの残ったアンデッドの胴体をカイはバットを振るように杖で吹き飛ばした。 浮遊する亡霊を司朗が殴り付ける。拳に命中した確かな感触。 「硬?! でも幽霊に物理って効くんだね……外国のホラー映画は正しかった?」 普通の生き物とは違う手応えに驚く司朗。霊と戦うシチュエーションに、以前見た映画のことを思い出していた。 司朗に反撃しようとする亡霊を、まおの鋼糸の斬撃が動きを封じる。それを綺沙羅が雨で凍結させた。まおが鋼糸を引くと、亡霊は砕け散る。 周囲を見る、残る敵は少年だけとなっていた。 ●イカロスは飛ぶ 「……両親はどんなつもりでこいつの名前を付けたんだろうな」 木蓮は少年の翼を見て思う。もっと早くに俺達が助ける事ができれば、違う未来があったのではないだろうかと。だが、それは敵わぬ夢幻。今、現実はこうして銃口を向けている。手を汚す覚悟は既にできている。これでしかもう救えない、なら引き金を引こう。 弾丸が撃ち出される。少年の身体に穴か開く。少年はそれでも構わず動き、近くにいた司朗を襲う。 「不幸なんて知らないよ。何もしなければ救いなんてないんだから。だからさっさと消えちゃってよ」 少年が全力で飛び掛ってくる。司朗は少年の攻撃を回避できないと判断し、受けながらも、冷気を宿した拳を打ち込む。相打ち狙いの一撃。拳から放たれた冷気により少年の動きが鈍る。 「どれだけ傷ついても、麻衣が必ず治しますから」 司朗の傷を見て、すぐに麻衣が治療を施す。決して誰も倒れさせはしないと、強い意志を宿すその瞳は告げていた。 「ああああ、はなして、はなしてよ!」 喰らい付く為に飛び掛ろうとする少年の足を鋼糸が絡み付く。少年はそれでも動こうと、力強く背の肉の翼を羽ばたかせる。 「残念だが、お前は何処にもいけねーんだ」 羽ばたく翼に向かい、銃弾が放たれる。傷の癒えた和人が少年の死角に回り込んでいた。拳銃から放たれた弾丸は翼を撃ち抜き、少年は地に転がる。 「ううううう、どうして、どうしてーーー!」 穴の開いた翼を見て狂乱したように泣き叫ぶ。そして、突然大きく口を開けたかと思うと、自分の腕に喰らい付く。肉を咀嚼する音。すぐさま翼の穴が塞がり修復されていく。自分の肉で翼を補っているのだ。 それを見て麻衣は思う。あの翼は『自由への渇望』や『支配からの脱出』という思いから生まれたものだろうかと。優しかった両親の記憶と共に、静かに眠って欲しいと、そう願った。 「思い出して欲しイ。君にも両親に愛された瞬間もあった事ヲ。思い出して欲しイ。優しいご両親の笑顔ヲ」 「ボクは、ボクはあああああああ」 少年を止めようと攻撃しながらも、カイは言葉を紡ぐ。カイの紡ぐ偽りのない心からの優しい言葉は、少年の心に痛みを与える。ほんの僅かな正気が少年に痛みを思い出させた。少年は頭を抱えて悶え苦しみ始める。 「まおは忘れませんから。お外に出たいと願った上矢様の気持ちを、ずっと覚えてますから、だから……」 だからもう楽に……。痛々しい少年を見ると言葉が詰まる。知らぬ間にまおの頬から熱いものが流れる。滴が頬を濡らす。 「痛い、痛いよぉ……誰か助けて……」 「もう、眠るといいよ。苦しいなら目を閉じてるといい。すぐに楽にしてあげるから……」 綺沙羅は優しく少年に声を掛ける。優しく包むように冷たい雨が降る注ぐ。少年の身体が痛みを感じない程に凍っていく。 「もう逝きなさい。きっと両親も待っているわ」 彩花の閃光のような一撃。それは無意識の慈悲だったのだろうか。痛みも感じないほどの強烈な一撃は胸の中央を貫いた。背の翼を傷つけることなく……。 倒れ伏す少年をカイが優しく抱きかかえる。そのまま窓際まで近づく。空を見上げる事が出来る場所まで。せめて最後にまだ赤の残る空を見せてやる為に。 「ボクは……空に……あ――」 少年は最期に空を見た、それは何時もと同じ、窓から見える空の景色。それが少年の世界の全てだった。腕を伸ばす。届かない空へ。 綺沙羅は少年から目を背け、空を見ながら思う。イカロスは一瞬の自由と引き換えに地に墜ちるしか無かったのかな……けど、キサは墜ちずに飛び続けて見せるよ。行きつく先がどこかは分からないけど、先へ、先へ……。 「……世知辛いねぇ、全く」 和人は煙草を咥える。見上げる空に紫煙が昇る。それは少年の魂が天に昇る道のようだった……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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