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【千葉炎上】剣風忍法帖

●千葉炎上 -Chiba City in Flames-
 『縞島組』『風紀委員会』『ストーン教団』『松戸研究所』『弦の民』『剣風組』。
 六つのフィクサード組織が互いの理想実現のために新生『九美上興和会』として協力合併し、巨大なフィクサード組織に生まれ変わろうとしている。
 彼等の秘密兵器、アーティファクト『モンタナコア』。
 組織を完全なものとすべく狙う『セカンドコア』。
 無限の未来を賭け、大きな戦いが始まろうとしていた。



●剣風上忍 -Ninja Master-
 秋澄みて。
 遠慮無く吹き抜ける秋風が、殺伐の空気を運び込んで青空へと去っていく。
 万華鏡に、何処かの高層ビルの屋上が如き蒼の一面が映った。
 ひゅうひゅう、と荒ぶ風の音が鳴る。……

「この刻でもって、私が上忍を名乗ろう」
 漆黒の和装束を纏った女が声を上げた。
 女は二十半ば程に見えながらも、見せる殺気と気魄は余りにも冷たい。
 女の右手には、抜き放たれたヒカリモノが在る。ヒカリモノの切っ先が向かう先には、面頬を着けた和服の男が仰向けに倒れていた。
「弥栄(いやさか)、美事……」
 男は苦しげに声を絞りだす。胸を大きく上下させ、ヒューヒューと荒い呼吸をする。声は先細る様に弱々しい。
 先ほどまで、黒き和装束の女と面頬の男が斬り結び、今決着がついた瞬間の状況と云えた。
「――確かに伝授したぞ、祭蔵(さいぞう)」
 祭蔵、と呼ばれた女は戦いの終わりを確信したかの様に納刀すると、空いた手を宙にひらりと振った。
「ゴぶ……!」
 突如、面頬の男の胸より刃が生える。おびただしい鮮血が吹き出す。
 次に、口中から、次は腹から。手から、顔面から、眼孔から、全身に次から次へと刀が生えて血煙が昇る。
 針千本の如き有様となって男は絶命して、絶命すれば無数の刀が雲散する。雲散した跡にはバラバラの肉片が散らばった。

「……死して何も遺さず。何も遺せぬが、多くの忍びの定めならば」
 祭蔵は独り言を呟いて、肉片と化した男の骸の中に手を伸ばした。
 男が装着していた面頬を拾って装着し、そして踵を返す。
「――言霊師様の秘術を土産とし、剣風組と合流する」
「ハッ、祭蔵様」
 柿色の忍び装束を纏った者共が、膝立ちの姿勢で拳を地に着けていた。

「散」
 祭蔵の声と共に、忍び装束の者共が散開する。高層ビルの側面を駆け降りる。
 剣風中忍、改め――『剣風上忍』夜神楽 祭蔵は、この日千葉へと帰還した。



●摩天楼と -Air Combat Manoeuvring and...-
「現在千葉で、六つのフィクサード組織が、互いの理想実現のために合併し、巨大な組織になろうとしています」
 『運命オペレーター』天原 和泉(nBNE000024)が告げた言葉に、リベリスタ達の緊張が瞬時に高まった。
 ラ・ル・カーナの情勢にかまけ過ぎたか。紛れも無い緊急事態だった。
「彼等は、彼等の切り札であるアーティファクト『モンタナコア』を使い、組織の兵力拡大を図りました。問題のアーティファクトは、寿命や生命力を代償にフィクサードを革醒、または強化する効果をもちます」
 これにより、多くのフィクサード小隊が兵力を整えているという話だった。
「更に、彼等は組織を完全なものとすべく、同種の効果を持つ『セカンドコア』を求めて行動を開始しています。これ以上彼らを放っておけば、広大なエリアがフィクサードに落とされ、巨大組織の誕生を許してしまう事が予想されます」

 ここで、和泉が三冊の資料を配った。
 一冊目の資料を捲れば、作戦領域が描かれている。
「フィクサードたちは、未だそれぞれの土地に散らばっている現段階です」
 状況は何とも逼迫しているが、ギリギリのラインだった。
 彼らが合流すれば厄介になる事は容易に伺える。野望を阻止しなければならない。
「この為、アークとしては、合流していないうちに彼らの位置を予知によって特定、急行し、直接撃破する作戦をとる事となりました」
 現場では協力組織のリベリスタたちが入念な人払いをかけているらしく、一般人の混入は心配しなくていいという。

 二冊目の資料をはぐる。
「これが、目標のフィクサードか?」
「剣風組一派、『剣風上忍』夜神楽 祭蔵。フライエンジェのナイトクリークです」
 つい最近に、交戦した記録のあるフィクサードとの事だった。
 千葉入りと同時に手勢を補充し、現在は剣風組に合流せんと移動を始めているという。
「最大の問題は――地形です」
 目標のフィクサード達は、高層ビルの側面を走り、あるいは滑空し、ビルからビルへと跳び、移動しているとの事だった。
 ならば、必然的に戦う場所は――
「ビルの側面。ないしは高所での空中戦になります」
 作戦領域ギリギリの地点で、翼の加護を使用できるリベリスタを待機させる事が可能だという。
「詳細なフィクサードの情報は後ほどご参照ください」

 最後の三冊目の閲覧を促される。
 見れば、このフィクサードを倒してハイ終わりという話では無かった。
「彼等が集結する組織、『九美上興和会』の撃破任務があります」
 『剣風上忍』を撃破後、継続戦闘可能な残存兵力はコアチームと合流して、この任務にあたってほしいとの事であった。

「連戦で大変だと思いますが、どうか宜しくお願い致します」

 和泉は深く頭を下げて、この場に集ったリベリスタ達に千葉の未来を託した。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:Celloskii  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年11月04日(日)00:05
 Celloskiiです。
 千葉炎上の"前半戦"。剣風忍法帖をお届け致します。
 敵の数はリベリスタより少ないですが、忍者らしく姑息で汚い手を使う敵です。
 "後半戦"がありますので、ご注意ください。


●後半戦について
 このシナリオの残存戦力は、コアシナリオ『九美上六代幹部、最終決戦!』へ参戦します。
 その際、PCはその場の空気を読みつつ自分なりに効率的かつ見せ場になりそうな行動を自動で行います。
 なので後半戦に対してプレイングをかける必要は全くありません。
 ですがどうしてもやっておきたいことがある場合は30文字まで特殊プレイングをかけることができます。
 その場合はプレイング最後尾に【後半戦】と記載し、その後ろにプレイングを書いて下さい。
 ただし、その通りに採用されるかどうかはわかりません。


●状況について
 時間:日中
 戦場:高層商業ビル街の高所
 人払い:問題無し
 リプレイ開始:フィクサード達の姿を確認した所から始まります。事前に翼の加護を付与する(してもらう)事は可能です。


●支援について
 モブリスタが来てくれます。翼の加護をかけてくれます。
 大きく後衛にいる為(遠2位置)、前衛が翼の加護を再付与をしてもらうには一手後退を要します。

 高所での飛行戦闘時は能力が下がります。
 飛行戦闘ルール(マニュアル転載)
  ・命中力と回避力に大きなマイナスの修正を受けます。
  (命中力、回避力-30)

  ・防御を取る事が難しい為、防御力に大きなマイナス修正を受けます。
  (物理防御力、神秘防御力-50)


●エネミーデータ
『剣風上忍』夜神楽 祭蔵
 黒い巫女服の様な和装束のくのいちです。
 フライエンジェのナイトクリーク。プロアデプトの技も使います。
 アーティファクト『物干し竿』所持。長い直刀です。

 A:
 ・インスタントチャージ
 ・超頭脳演算
 ・メルティーキス
 ・剣遁の術(EX)
  物遠単 ダメージ中 状態異常:[致命] 追加効果:[必殺][連撃]
 P:
 ・飛行
 ・ナイトクリークとプロアデプトのLv10パッシブ
 ・裏土俵合わせ(EX)
  相手の裏をかき続ける動きです。攻撃の全てに弱点属性が付きます。
 -:
 ・ジャミング
 ・面接着


下忍(強)
 他の下忍と区別はつきませんが、一体だけ紛れています。

 A:
 ・テラーオブシャドウ
 ・土砕掌
 ・デッドリー・ギャロップ
 ・剣遁の術(EX)
  祭蔵と同じです。
 -:
 ・飛行
 ・面接着


下忍×3
 ランク2のナイトクリークの自付与のスキル。
 あとはランク1のみです。面接着を使います。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
プロアデプト
氷雨・那雪(BNE000463)
デュランダル
源兵島 こじり(BNE000630)
インヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
クリミナルスタア
烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)
ダークナイト
高橋 禅次郎(BNE003527)
ダークナイト
フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)
レイザータクト
ユイト・ウィン・オルランド(BNE003784)
ナイトクリーク
鳳 黎子(BNE003921)

●序~荒ぶ殺風 -Killing Wind-
 銃声が、風に混濁した。
 高く高い摩天楼。
 ビルの側面を滑り降りる忍びの一団に向かって放たれた弾丸は、そして先頭の祭蔵が刀で凪いでキンッと弾き飛ばす。
「嗅ぎつけたか、アーク」
 祭蔵はひらりと手を振った。
 下忍共も、足袋を削る様にして足を止め、即座に鉤縄を出し戦闘態勢をとる。
「地と鉄と炎の加護の下に、咎人の亡骸を捧げましょう。私の銃火は今宵も魂の輝きを欲しているのよ」
 『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)はふわりと飛翔して十字を切った。義手から昇る硝煙は、荒ぶ風が持っていく。
「忍者だー! 生忍者! しかも上忍! NINJA! 敵だからサインねだれないのが残念だ」
 『フェイトストラーダ』ユイト・ウィン・オルランド(BNE003784)は、両手で拳を強く握った。
 ユイトにとって、かねてから、見たいと焦がれていた存在が目の前に在る。何とも甲斐ある戦いだった。
 握った手をパっと広げ、前から横へと切る様に布陣の合図を出す。
 これをトリガーに、四つの影が忍びの一団へと飛翔した。
 一つ目の影。『黒き風車を継ぎし者』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)は、半身の姿勢から、黒き板の如き巨鉈を目一杯横に引く。
「……『アヴァラ』との初陣、派手に勝利で飾るよ!」
 それは携えたる武器の銘。百戦で練磨されたかの如き剣で、ビルの側面をガリガリと切断しながら、逆袈裟に薙ぐ。
 ぶわんと、黒き風車の如く、巨鉈が唸る。
 下忍は、切り裂かれんとする刹那に、鉤縄を厚い窓硝子に打ち付け、宙に身を預けてかわす。
「くの一衣装で私颯爽登場。雰囲気って大事よ?」
 下忍が避けた所で、二つ目の影。くの一衣装を纏った『毒絶彼女』源兵島 こじり(BNE000630)が、浮いた下忍を刺す。
 スっと現れて、鉄塊の如き巨斧を振るい、下忍を飛ばす。
 "上"に飛んだ下忍は、血反吐を散らしながら、命綱の如き鉤縄を手繰りビルの側面に着地する。
「忍びにしては、仰々しい得物だな」
 部下への攻撃も然して気にする様子を見せず、祭蔵がこじりに肉薄すれば、振り下ろされたる直刀が煌めいた。
「鍔迫り合いとか、いかにもよね」
 斧と刀が交差して火花が散る。
 三つ目の影。『リベリスタ見習い』高橋 禅次郎(BNE003527)は、ビルの側面に"着地"して、鍔迫り合いに介入する。
「祭蔵? ああ、この前取り逃がした、奥ゆかしくもそのバストは豊満なニンジャか」
「面倒な奴が来たか」
 禅次郎は、祭蔵と面識があった。以前の任務で、禅次郎は専ら祭蔵と斬り結んでいた背景がある。
「完全にニュービーじゃなくなっちまったみたいだな」
「あの方より、生き様を学んだだけの事」
 禅次郎の挑発めいた言葉に応じる様に、祭蔵は鍔迫り合いを放棄して直刀をぶつけた。再びの火花が立つ。
「ただ、誰であれ先には行かせん」
「いやさ、それは此方の言葉よ」
 下忍達が動き、禅次郎に殺到せんとする。
 ここへ四つ目の影。『ブラックアッシュ』鳳 黎子(BNE003921)が錐揉み回転が如くに割り込んで、下忍の1人を抑える。
「どーも、祭蔵さん。お久しぶりでも無いですねえ」
 黎子が、祭蔵を尻目据えながら語りかければ、祭蔵もまた、禅次郎とこじりと斬り結びながら応じる。
「成程……ならば、『達磨』殿の側を果たさねば申し訳が立たぬか」
「次があると思っているんですかぁ?」
 黎子も禅次郎と同様に祭蔵と面識があった。
 今度こそ殺るか殺られるかを胸裏に、作戦は粛々と遂行される。
「暗殺者同士が出会っておいて、死なずに別れるというほうがおかしかったのですよ」
 笑いを口に含みながら、黎子は得物の双頭鎌を力強く握る。

 ――ぼかん、と遠くに爆発音がした。
 音はビルとビルに反響して、摩天楼に木霊し、爆音が駆け抜ける。
 『微睡みの眠り姫』氷雨・那雪(BNE000463)は、前線より間隔を空けて少し上により、景を眺めた。遠くの炎上に視線を運んで、そして戻す。
「忍者……非情、が常……。血縁、だったのかしら……ね」
 眼鏡を装着し、口元を引き締める。
 気糸を放ち、まだ被害を与えていない下忍の1体を狙いを定める。
「では、行こうか」

「始まったか」
 ビルの屋上。この一帯では比較的低いビルだ。
 『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)は、眼下の戦いを一瞥して、印を結ぶ。
「南無阿弥陀仏」
 唱えて張り巡らせるは、陣地の作成。その準備。
「……悪巧みの比べっこと行こうぜ」

 片や宙空。
 片やビルの側面。
 開戦の合図はしめやかにして、響き渡るは千葉炎上。
 摩天楼に吹き荒ぶは殺意の風である。



●破~摩天楼落とし -Arm of the...-
 禅次郎が走り抜けた。
 下忍の1人が道化のカードを放った事で、ユイトが用意した布陣が、根こそぎ消え去る事を感じる。が、止まるつもりは無かった。
「焦燥院くんの方、上手く行ったみたいね」
 こじりが下忍を"上"に飛ばしながら呟いた。
 足場が無い事は決定的に不利となる為、誘導あるいは無理矢理にでも自らの土俵である"屋上"に引きずり込む作戦は、敵がどんなに対策を取ろうとも強制力は強い。
 戦いは、上へ、上へと駆け上がる様に展開される。
「成程。……地の利を易易に手放すと思うてか?」
 祭蔵が禅次郎を遮る様に立ちふさがった。下忍も祭蔵に続く様に禅次郎を見据える。
「ドーモ、サイゾウ=サン。ゼンジロ・タカハシです……なんてな! ――フランシスカ!」
「果てるが死なぬ! なんちゃって、ね!」
 フランシスカの重厚な一刀が振り下ろされ、下忍の1人は腕を斬り飛ばされる。
「舞台は整ったようです。今度は死ぬまで踊りましょう」
 黎子は残ったもう1人の下忍に張り付いて、ギャロッププレイを試みる。
 陣地が完成したのなら、落下させても些事だった。

「……女は私がやる。その女は束縛は効かん。お前は禅次郎とやらを殺れ」
 突如、祭蔵の言葉が飛んだ。
 黎子は一瞬、祭蔵を尻目に据えて、正面に視線を戻す。
 目の前の下忍が気糸を引き千切りながら、肘を引いていた。
「承知。――飛んで火にいる虻に蜂」
 下忍が野太い声で唱え、黎子の胸部目掛けて手を突き出した。
 手の形は拳を握らず、親指だけを曲げ、四本の指を揃え、平をぶつける形だった。
「笑止な、虻に蜂ッ!」
「こいつ」
 黎子は、咄嗟に得物の双頭鎌を分解し、交差させ、守らんとするも、触れた瞬間に巨大な衝撃が全身を貫く。
 更にもう一撃!
 全身のあちこちが砕かれ、目から鼻から耳から、血が吹き出す感覚を覚える。
「……っ!」

 那雪は、今の下忍の挙動。今の動きを捉えて確信する。アクセスファンタズムを起動して、全員に伝送する言葉。
『黎子さんの前に居る下忍が、強い奴だ』
 視線が一斉に、強き下忍へと向く。
 ただ二発の当身が、黎子にとって、何とも重い様に見えた。
 那雪の瞳と頭脳がはじき出したものは、攻撃力だけなら圧倒的に祭蔵を上回るというアンサー。
 おそらく、こじりに匹敵する。しかし、早々判明した事は、何とも僥倖だった。
「上忍といっても大したことはないんだな」
 祭蔵の視線が那雪に向く。
 屋上まで釣り上げれば、勝利に繋がる。強き下忍の戦闘力は誤差に留まるならば。
「作戦は順調……なのかな?」
 レイザータクトであるユイトは、呆気無い判明に少しだけ警戒を抱いた。
 ここまでの戦いで、"何か"を見た。
 それは決定的に不味いものだと感じたが、現状で作戦は順調。
 考えて振り払って決する。
「生忍者ーー! もっと近くで生忍者を見たいでござるよーーー!!」
「サインなどやらんぞ」
 ユイトは祭蔵に神秘の閃光弾を放る――かに見せて、後方支援へと向かった。
 アッパーユアハートを連発した禅次郎を補給する。祭蔵の剣は宙を泳ぐ。
 いざとなれば、自身が陣地の要であるフツを守る腹積もりだった。
「陣地完成。思ったよりも呆気なかったですね」
 エーデルワイスは遙々と、銃口を向けた。
 連続した銃声が、一つの音に聞こえる程の速射で、強き下忍を狙う。
 強き下忍は蹴り、叩き落とすも、落とした弾丸の次に飛来した弾丸が接触し、爆ぜて散弾の如きものを全身に浴びる。
「うふふ、せめて蜂の巣にしてあげるわ♪」

 ビルの上より、フツが見下ろしていた。
「忍者が罠にかけられた気分はどうだい」
 "下"で切り結ぶ祭蔵目掛け、聞こえまいがフツは呟いた。
 もう少しで禅次郎が屋上に達する。そこからが本番だった。
 禅次郎越しに、祭蔵と視線が合う。――目が笑っている。
「……不気味な女だな」
 面頬で口元までは見えないが、しかし戦いが愉快という目ではなかった。

 :
 :
 :

 血味噌が散った。
 緋牡丹の花弁を散らし尽くした様な染みが、窓ガラスにこびりついて、下へ下へ垂れていく。
「大した事ないね」
 フランシスカが呟きながら剣を振って汁を飛ばす。
「ほんと、つまらないわね」
 こじりは、装束に跳ね返った汁を拭う間も惜しんで、次へととりかかった。
 まだ強き下忍は健在。ただの下忍も禅次郎を追って上にいる。
 近接で手の届く敵は、何度か禅次郎の挑発を退けている祭蔵のみだった。
 ならば、跳ばせば良い。

「そろと、よろしかろう」

 祭蔵は、くつくつくつと、喉の奥を鳴らしながら、上に視線を送っていた。
「何が可笑しいのかしら」
「剣遁!」
 こじりとフランシスカは左右に其々飛び退くと、退く前に在った場所にだぎりっと刀が生じた。
「頭の悪い不意打ちね。悪いけど、もっと優秀な忍者を知ってるのよ」
「ならば、良うご認識あられませい」
 祭蔵は、柄から片手を離し、何かの合図を送る様に指を振った。
 向こう側で下忍に動きが生じて、懐に手を忍ばせながら駆け下りてくる。
 ヒュっと風切り音と共に、こじりの眼前。一枚の札がぴらりと躍り出る。
 それはスローモーションの様に見えて、嗤う道化の絵柄がチラチラした。
「――忍び、とは。大概汚いものにござる」
 死に候え、という祭蔵の声が耳に入った刹那に札が爆ぜた。
 爆ぜた途端に、重力という強大な力が、襟首を掴んで引きずり込む。



●急~乃至無老死 亦無老死尽 -...There Were None-
 遠くで黒煙が燻って、天を昇る様子が眼に入る。
 ゆらゆらと揺らいで、自然と消えて行く様が何とも呑気である。
 冬が忍び寄る気配がありながら。吹き荒ぶ前触れは、なんと呑気で悠長で。……

「こじり!」
 フツは眼下に大きく叫んだ。
 アクセスファンタズム越しに応答が返り、翼の加護を付与する目的でついてきた、名も知らぬリベリスタが空を走る。

「――死に、候らえ」
 祭蔵の合図と共に、下忍より道化のカードが更に放たれた。
 黎子に付与されていた加護が解除され、落下する。
「ちょっと汚すぎるでしょう」
 黎子は叫びながら落下するものの、下でフランシスカが受け止める形で止まる。黎子の持ち前の卓越したバランス感覚が無ければ、危うい所だった。
「これが……NINJA」
 ユイトは歯噛みして、下忍目掛けて神秘の閃光弾を掌に創りだす。
 少しは、少しはこれでブレイクを防げるだろうと放たんとした所で、下忍は更にもう一枚を放った。
 ユイトの眼前にも道化がぴらりと現れる。
「……このー、覚えてろよ忍者。次は命綱つけてきてやるからな」
 道化が笑い、爆ぜる。

「前へ出る」
 那雪は瞬時に判断した。
 翼を持つ者が引けば良い。禅次郎も面接着で落ちないのならば。
 気糸を投射して、下忍の注意を引く。
「縛――」
 強き下忍は、那雪目掛けて獣のように飛びかかった。
 袖下より無数に垂らされた気糸が、那雪の全身に生き物の様に絡みつく。
「――二連!」
 那雪に続き、禅次郎も束縛される。
「……ちぃっ!」
「……屋上にござるか」
 90°の戦い。強き下忍は、天を一瞥する。
「手癖の悪い忍者ちゃんね。仏は触るモノじゃない、拝むモノなのよ」
 一瞥した強き下忍の額に、エーデルワイスは銃を突きつけた。
「頭が高いから仏の前で跪け!」
 即座に発砲し、強き下忍の鉢金は吹き飛んで、頭皮を削る。
「サイゾウ=サンと決着をつけたかったんだがな、お前が邪魔なんだよ!」
「勝負もついてないのに、倒れるわけにはいかないな」
 禅次郎と那雪は、直ぐ様気糸を引き千切り、強き下忍と対峙する。
 禅次郎は黒き気を放出して、銃剣を構え、那雪も無数の気糸を放出し、弱点への連続攻撃へと切り替える。
「アハハ♪ 貴方の忍術に遺す価値があるのか。私の銃術で試してあげるわ」
 エーデルワイスがくるりと"上"へ後退すると、ビル上部の戦いは最終局面へと移る。
「――やるなら屋上だぜ」
 ここまで静観していたフツより、式符鴉が飛び、強き下忍を穿った。

 :
 :
 :

「このまま引けば、此処で止めにしてやる事も吝かではないが?」
 祭蔵の声に、フランシスカと黎子は、自然と顔が強張った。
「任務が失敗する位なら、離して良いよ。これ以上は足手まといだから」
「……分かった」
 黎子の言葉に、フランシスカが手を離す。
 作戦として、敵が低いビルに来た頃合いを見計らっての襲撃。
 墜落した場合は、コンクリートに叩きつけられる事を覚悟をしなければならない。……

 瞬息。猛烈な勢いで一陣の風が抜き去った。
 同時に、黎子へ再び加護が戻ってくる。
「随分、な、真似、してくれたわね」
 全身に夥しい出血を纏ったこじりが、Dead or Aliveを問いかける力みを携えて翔け上がる。
「ククク……何度でも、叩き落としてやろうぞ」
「此処からが、本番で、御座るよ。にん、にん」
 ただでは済まさない。
 黎子も力を込めて得物を握ると、ここにインスタントチャージが飛んできた。
 見れば、ユイトが肩口を押さえてニヤリと親指を立てて笑う。
「……貴方達の死場はここです」
「黒き風車を継ぐ者フランシスカ、参る! ……なんてね」

 フランシスカの巨鉈を、祭蔵は物干し竿で受ける――が、ぱきりと音が鳴って刀身が砕ける。
 砕けて、祭蔵の正中線に縦一文字赤い線が走り、面頬が真っ二つに割れる。
 こじりの振るう巨斧は、先端に祭蔵の右腕を引っ掛ける。
 祭蔵の右腕が爆ぜるように血味噌と化す。夥しい量の血がこじりとフランシスカに返った所で、黎子の鎌が祭蔵の心の臓を一突きした。
「くく、美事。……良う御聞きあられませい」
 こじりの胸中央に、左掌がそっと置かれる。
「――我らの勝ちにござる」
 ダギンッと耳に入る剣遁の音。激痛。
 そして、祭蔵の向こうでは、下忍が懐に手をやってこちらを見据えていた。



●剣風忍法帖 -Sylphide-
「――いざ参らん」
 無名の下忍は独り、先を征く。
 最後の最後に、フランシスカから受けた傷から決して軽くないダメージを負い、戦闘の継続が不可能な祭蔵を残して。
「第二の太陽を、わしらが手に」

 :
 :
 :

「……追う、よ」
 那雪の声に、リベリスタ達は各々得物に力を入れて、立ち上がる。
 このままでは、済まさない。済まされない。
 那雪の胸の内は、ただただ任務へと向く。これから先は消耗戦。ここで立ち止まっている暇は無い。
「少し休めば戦えるわね」
 歩きながら回復させる、とこじりは痛みを辞さずに歩みを進める。
「まだ、チャンスはあるさ」
 ユイトが、アクセスファンタズムで最短距離を調べる。
「――あの忍者が向かう先は心得てござる!」
 まだまだ飽き足りない。まだまだまだまだ!

「むきー! 汚い、忍者汚い……!」
 エーデルワイスの怒りは頂点に達していた。
 これはミンチより酷い刑に処さねばならないと胸裏は荒ぶる。
「全くだな……。墜落なんて、冗談じゃない」
 比較的軽傷だった禅次郎は、陣地を守っていたフツを背負って歩く。
 もし面接着が無かったら、アッパーユアハートで真っ先に墜落していただろう事を考えると、うなじの辺りがチリチリした。
「二度あることは三度ある……なんて思いたくはないけれど」
 黎子は"次"を考えていた。相当に致命的な傷を与えていたが。
「『達磨』って言ってたな」
 禅次郎の言葉。
 もし三度目があるならば、次はアザーバイド『セリエバ』関係の事件に現れるか。
「まだ負けてない。まだ」
 フランシスカは剣を抱く。
「『果てる。果てるが死なぬ』、あの四人がそうだったように……行かなくちゃ」

「……うっし、もう歩けるぜ」
 フツは禅次郎の背から降りて槍を振る。
「――相棒が待ってるからな、みっともない所見せられないぜ、ウヒヒ」

 千葉は炎上する。
 嗚呼、千葉は炎上している。
 全てを精算せんとする戦いに向かって、リベリスタ達はセカンドコアを目指す。


                           -未完-

■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
 Celloskiiです。
 このような結果となっております。

 理由はリプレイにも記載させて頂きましたが、高層での戦い。
 もし、後少しでも対策があれば……。

 ご参加有難うございました。
 後編へ続きます!