●千葉炎上 『縞島組』『風紀委員会』『ストーン教団』『松戸研究所』『弦の民』『剣風組』。 六つのフィクサード組織が互いの理想実現のために新生『九美上興和会』として協力合併し、巨大なフィクサード組織に生まれ変わろうとしている。 彼等の秘密兵器、アーティファクト『モンタナコア』。 組織を完全なものとすべく狙う『セカンドコア』。 無限の未来を賭け、大きな戦いが始まろうとしていた。 ● 千葉県某所。 幼稚園の送り迎え用バスを、数人の男たちが取り囲んでいた。いずれも手に手に拳銃を握り、残虐な笑みを浮かべ、子供達を眺めている。 若い保育士の女性が必死に子供達を宥めているが、恐怖は既に臨界点。 1人の子供が泣き始めるのをきっかけとして、みんな火の点いたように泣き出してしまった。 「弾城の旦那ァ、なんかガキ共がうるさいんすけど。撃っちまって良いっすかね」 「あぁ、要は足さえ手に入ればいいんだ。ガキ共は適当にばらしておけ」 『縞島組』のフィクサード、弾城鋼平(はじき・こうへい)は、部下に首を振って合図する。 先ほど、現地のリベリスタとの戦いで車を破壊されてしまったのだ。強敵ではなかったためにそれ程消耗は無いが、交通手段を無くしたのは困る。これでは『九美上興和会』との合流に遅れてしまうではないか。 幸い、柄はアレだが代わりの足は確保出来た。 一安心して弾城が一服しようとした時だ。 「お願いします! 子供達は! 子供達だけは助けて下さい!」 眼をやると、保育士が部下にすがり付いて無我夢中で懇願している。その様子を見て、弾城は下卑た笑みを浮かべると、煙草を咥えたまま近づいていく。 「運が悪かったなぁ、姉ちゃん。ここにいるのは、血の気の多い連中ばっかでよ? そろそろ辛抱効かなくなってきてるんだわ」 「そんな、お願いします! 助けて下さい!」 保育士は弾城をリーダーと察して、訴える相手を変える。 しかし、弱者を前に猛るフィクサードを前に、それは楽しませるだけでしかなかった。 「それじゃあ、ガキ共が死ぬところを見なくて良いようにしてやるよ。どうせ、こんな所にまで助けに来る物好きはいねぇんだ」 弾城は持っている拳銃の引き金に指を掛けた。 ● 『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)は、リベリスタ達をブリーフィングルームへと迎え入れる。普段よりも何処となく焦った様子だ。 「これで全員だな。それじゃ、説明を始めるぜ。あんたらにお願いしたいのは、フィクサードの討伐だ。ただし、相手の規模は大きい。他にも複数のリベリスタのチームにも当たってもらう、大規模な作戦だ。よく聞いてくれ」 守生が端末を表示すると、千葉県全体の地図と、複数のフィクサード組織の名前が表示された。 「現在千葉で六つのフィクサード組織が互いの理想実現のために合併し巨大な組織になろうとしている。こいつらは手始めに、切り札であるアーティファクト『モンタナコア』を使って組織の兵力拡大を図っているんだ」 アーティファクト『モンタナコア』は寿命や生命力を代償にフィクサードを革醒または強化する効果を持ち、多くのフィクサード小隊が兵力を整えている。 彼等は組織を完全なものとすべく、同種の効果を持つ『セカンドコア』を求めて行動を開始した。 これ以上彼らを放っておけば広大なエリアがフィクサードに落とされ、巨大組織の誕生を許してしまうだろう。 そうなる前に、なんとしても彼らを叩き、野望を阻止しなければならない。 「現在、フィクサード達はそれぞれの土地に散らばっている。こいつらが合流すれば厄介になるだろう。だから、まずは枝葉から潰す作戦に出てもらうことにした」 アークの作戦はこうだ。 各地のフィクサードの位置を予知によって特定、急行し、合流前に直接撃破する。そして、リベリスタも戦力を九美上興和会に向け、一気に殲滅するのだ。 幸い、現場では協力組織のリベリスタ達が入念な人払いをかけている。存分に戦うことが出来るだろう。 「そこでまず、あんたらにお願いしたいのは、こいつらの討伐だ」 そして、守生が再び端末を操作すると、スクリーンに地図とフィクサードの写真が表示される。 「こいつらは『縞島組』のフィクサード。元は『三尋木』で荒事担当だったそうなんだがな、必要以上に暴れる性格が災いして、干されていたらしい。それが今ではこの戦いに参加しているそうだ」 要するに、銃が好きなのではなく、銃で人を殺すのが好きな連中と言うことだ。 リーダーの弾城鋼平も、見るからに荒くれ者といった風情だ。 彼らは現地のリベリスタとの交戦で、車を破壊された。そこで、代わりの交通手段として、逃げ遅れた幼稚園バスを奪おうとしているのだとか。 「そんな奴らだからな、当然『ついでに』バスに乗ってた子供達も殺そうとしている。タイミングとしては間に合う。後に『九美上興和会』討伐を控えていることも考えると、この子らの救助まで行う必要は無いんだが……その辺の判断はあんたらに任せる」 アークは大を生かすために小を殺せる組織だ。そして、状況は逼迫している。しかし、救える小をどうするかは、現場に向かうリベリスタ達の胸算用次第である。 幸い相手は血の気の多い連中だ。 リベリスタと遭遇すれば、まずはそちらの攻撃を優先させるだろう。同格相手にわざわざ隙を作るほど馬鹿ではない。もっとも、戦いが続けばどうなるか分からないが。 「相手の特徴としては銃使いがとにかく多いことだな。全員ジーニアスで、スターサジタリーとクリミナルスタアで構成されているチームだ。直前に戦闘を行ってはいるが、疲労や怪我をしている気配は無い。万全の状態で向かってくるだろうから気を付けてくれ」 そこまで言って、困ったように頭を掻く守生。 「ただ、こいつらを倒せば戦いが終わるというわけじゃねぇ。少しキツいが、皆には最後の仕上げである『九美上興和会』撃破の任務が待っている。戦闘続行可能な奴は直ちに現場へ向かい、コアチームと合流して欲しい」 リベリスタにとっても、フィクサードにとっても、一大作戦である。 負けられらない戦いだ。 「説明はこんな所だ」 説明を終えた少年は、その鋭い瞳で睨むように、リベリスタ達に送り出しの声をかける。 「あんた達に任せる。無事に帰って来いよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 9人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月04日(日)00:15 |
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■メイン参加者 9人■ | |||||
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● チュゥン! 保育士へと向けられた拳銃が銃口が火を噴くことは無かった。 「な、何だ!?」 いきなり飛んできた魔力の矢を躱すと、その方角へ向けて弾城は銃を向ける。 すると、そこにいるのは9人の男女。 矢を放ったのは赤い瞳を持つ、赤髪の少年とも青年とも言える年頃の若者。特徴的なのは左半身を彩る赤い刺青だ。 「よォ! アークが遊んでやるからかかってこいや!!」 「その赤い刺青、アークの霧島俊介か!」 そう、現れたのは『Gloria』霧島・俊介(BNE000082)、そしてアークのリベリスタ達だ。 言うが早いが、弾城は銃を撃ち返す。 別にこれで倒せるなどとは思っていない。ただの牽制だ。そして、銃声を合図に部下達も銃口をリベリスタ達に向ける。 「やっちまえ!」 そして、号令一下、リベリスタ達に向かって射撃を始めるフィクサード達。 「やれやれ、ゴミがただ集まるだけなら粗大ゴミになるだけなんだがな」 「分かり易くていい仕事だ。迷う事もねぇ、情けも容赦もいらねぇ……ブチ殺すぜ」 「まあ、お掃除にでも精を出すとするか」 弾丸から身を守るために遮蔽を取った状態で苦笑を浮かべる『ピンポイント』廬原・碧衣(BNE002820)。 『ヤクザの用心棒』藤倉・隆明(BNE003933)はいつものガスマスクを付け直すと、二丁一組のゲテモノ拳銃を握り締める。碧衣はそんな様子を見て、頼もしげに笑う。 と、その時、ペキッと音がして、壁にヒビが入る。フィクサードの拳銃によるものでは断じてない。 リベリスタ達がそちらを見ると、明神・暖之介(BNE003353)がいた。ヒビ割れているのは、彼の手元の壁だ。普段眠たげに見える彼の瞳が鋭く光ったのは気のせいだろうか。 「……いけませんね、幼い子供絡みとなるとどうにも気が立ってしまいます。為すべき事を為して、皆さんに笑みを取り戻して頂きましょう。さあ、始めましょうか」 気のせいだったのだろう。 暖之介の表情はいつものもので、仲間ににこりと微笑みを向けてくる。 「うん、そうだね。でも、私だって怒ってるよ」 『いつも元気な』ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)は綺麗な眉を吊り上げて、怒りを露わにしている。喜怒楽がはっきりしている少女なだけに、まっすぐな怒りだ。しかし、その怒りが向けられている対象は、目の前のフィクサードだけではない。 「守生さんが、一般人は全部助けた上で敵も全部倒せって言わなかった事をね。どれだけむずかしかろうが、絶対にやってのけてみせるよ」 『セカンドコア』が『九美上興和会』の手に落ちれば、その勢いを止めることは出来ないだろう。日本の神秘界隈の勢力バランスは崩れ、大きな混乱が起きることは想像に難くない。そして、その阻止のためにコアチームへの増援及び、フィクサードの確実な討伐が必須なのである。 ことの危険度と重要性は分かる。 その上でも、リベリスタ達にとって、目の前にある命を見逃す理由にはならなかった。 「今回の依頼、目的はフィクサードの撃破だけだけど、助けなくてもいいから助けないって選択肢は選びたくない」 『荒野のムエタイ戦士』滝沢・美虎(BNE003973)は拳を包む禍々しい手甲をかち合わせる。既に気合は十分だ。 「どちらにせよ、決戦に繋がる一戦です。フィクサードによる犠牲者を出さないように最善を尽くしましょう……目の前の人達も含めて」 決意を秘めた眼差しをフィクサードのいる方角へと向ける風見・七花(BNE003013)。たしかに不安は大きいが、自分の技能を信じて為すべきことを為すまでだ。 そして、覚悟を決めた彼女は、詠唱を開始する。 それを確認すると、フィクサードへの突撃を行うリベリスタ達。 真っ先に飛び出したのは『紅炎の瞳』飛鳥・零児(BNE003014)だ。 剣と思しき鉄塊を手に握ると、深緋のライダースコートをはためかせて銃弾の嵐の中を駆け抜ける。 「俺らは敵じゃない! こんな奴らすぐに片付けるから安心するんだ! バスに逃げ込んで、しゃがんでじっとしててくれ!」 一般人に向かって叫ぶ零児。 その言葉を聞いた老年の運転手と若い保育士は勇気を振り絞る。子供達を抱え、一目散に駆け出した。 「チッ」 舌打ちするフィクサード。 銃を向けようとするが、近づいてきた殺気を前にそれ所では無いことを察した。 殺気の主は……『ピジョンブラッド』ロアン・シュヴァイヤー(BNE003963)だ。 (こういう連中は何度見ても反吐が出る。何の罪も無い人が踏み躙られて良い訳が無い) 襲われていたのは、女性と子供と年寄り……いずれも戦う力を持たない弱者ばかりだ。 そして、それを良いように踏みにじるもの達は、ロアンに言わせればクズ以外の何物でもない。 このような奴らには、喰らわせてやらねばならない。然るべき罪の報いを! 「さあ、懺悔の時間だよ。言い残す事はあるかな?」 ● 「それはこっちの台詞だぜ! 伝説のリベリスタ様から何か遺言があれば聞いてやるよ!」 向かってくるリベリスタ達に向かって――今度は殺すつもりで――弾丸を撃ち込むフィクサード達。 銃撃戦を得意とするチームだけあって、狙いは精確。リベリスタ達を的確に傷付けてくる。 「弾城の旦那ァ、バスの方に逃げてった奴ら殺しときません? 逃げられたら、また足探すのめんどいっすよ」 「ほっとけ! 逃げ道は塞いでいるから問題ねぇ。ガキをバラす暇があったら、アークに集中しろ! 気を抜いて勝てる相手じゃねぇぞ!」 弾城鋼平はこう考えていた。 人質を取った所で、余計にリベリスタ達の怒りに油を注ぐだけ。接近戦を得意とするリベリスタが出てきている以上、遮蔽代わりにするのも心許ない。だったら、足元でうろちょろされるよりも、いっそいなくなってしまった方が楽だ。自分が範囲攻撃を使用するなら容赦無く巻き込んでいただろうが、わざわざ殺しに行く暇など無いのである。 その判断は、それ程間違っていたとは言えないだろう。 「今……何つった!?」 しかし、彼のミスはそれを口にしてしまったことだ。 「一般人な子供をバラすってなんだ、オイ! お前ら、いっぺん始末される側に回ってみるか?」 怒りの表情を浮かべて走る美虎の姿が雷の矢へと変じて行く。 「お姉ちゃんが悪い奴らを全員ぶっとばすからっ!」 そして、風よりも速く、フィクサード達に蹴りを放ち叩き伏せて行く。 「子供も女も見境なしかよ! フィクサードなんかそんな奴らばかりか!」 吐き捨てるように言いながらも、俊介の頭には冷静な部分も残っている。 白金の太刀を構えると癒しの詠唱を歌い上げる。大事なことは、この太刀の持ち主だった騎士と同じだ。力を振るうのはあくまでも何かを護るため。目の前にいる連中のように、何かを傷付けるためにやるわけではない。 そして、癒しの風を背に受けて、暖之介は駆ける。 「まるで玩具を得意気に振り回す子供の様な方々ですね」 弾丸の嵐を掻い潜る彼の足元で、怪しく影が蠢く。そして、それは大きく伸び上がると、近づいた暖之介に向かって拳を振り上げたフィクサードの頭を掴む。 「成程、組織で干されると言うのにも納得がいく」 そして、影によって高く持ち上げられたフィクサードの胸には、いつの間にか死の刻印が刻み込まれていた。 「殺していいのは、殺される覚悟がある奴だけ……勿論、君達は覚悟の上で来てるんだよね? 僕の死の刻印、高くつくよ!」 ロアンの言葉と共に動かなくなる部下の姿に、弾城の目の色が変わる。 噂には聞いていたが、聞きしに勝るとはまさにこのことだ。油断をしていた訳ではない。だが、本気でかからねば、こちらが危ない相手だ。後ろで何やら詠唱を行う、機械の右手を持つ女――七花のことだ――も気にかかる。 そんな弾城の様子を見て、隆明は挑発を仕掛ける。 「はっ、どうしたどうした、ビビってんのか!? 来いよ! 丁寧に磨り潰してやんぜ!」 「誰がビビッてるだぁ!? アークの飼い犬風情が吹いてんじゃねぇ!」 アウトロー同士の意地の張り合い。アウトローの世界では娑婆でどう生きてきたかなど問題ではない。重要なのは面子、そして自身の掟(ルール)。その掟を押し通せたものの勝ちだ。 互いが拳銃に手を伸ばし、同時に火を噴く。 「銃が得意か!? 吹いてんじゃねぇぞ! 俺はまだ生きてんだぜ!?」 激しく血を流しながらも、膝をつかない隆明。ここで誇りを貫けずして、何のための力か。 そして、フィクサード達の注意が隆明に向かった隙を突いて、零児が肉薄する。 「助けられる命だ、何としても助ける!」 零児の無限機関が唸りを上げ、義眼が赤く光り輝く。 これらは革醒する直前に、エリューションに奪われたものが機械化した部位。そのことを辛く思わない訳ではない。しかし、この力で誰かを護ることが出来るというのなら、耐えることは出来る。 「俺の力はその為のもんなんだ!」 振り下ろされる鉄塊。 しかし、それは零児の身体が生んだ爆発的なエネルギーのままに振り下ろされ、極大の破壊力となってフィクサードを襲う。 「チッ、数で上をいかれたか。だが……」 「だが、なんだって? まだこの程度じゃ済まさないよ」 さらに、碧衣の放つ聖なる光がフィクサード達を焼き払っていく。リベリスタ達の怒りが具現化したかのような苛烈な炎だ。 そして、その中でも冷静に次の一手を模索している時、弾城の動きが止まる。 視線の先にいるのは黒い翼を持つ少女、ウェスティアだ。弾城が『縞島組』に合流する前、三尋木に属していた頃、彼女の噂を聞いていた。 あの女は……ヤバい! 「おい、魔術が飛んでくるぞ! 気を付けろ!」 「遅いよ」 ウェスティアの細く白い手から、大量の黒い鎖が現れる。そして、それは圧倒的な勢いでフィクサード達を飲み込んでいく。なんとか堪えるものもいるが、多くの者は黒鎖に拘束され、動きを封じられてしまっている。怒りに燃えるリベリスタにとって、格好の的だ。 「くそったれが!」 難を逃れた弾城はバスへと向かって駆け出す。 この様子では既に勝利は覚束無い。となれば、縞島には悪いが自分の保身が何よりだ。 今の状況では、ガキ共を殺さなかったことが生きて来る。あの様子なら、少なくともこの場にいるリベリスタ達は「子供の命を見捨てられない」連中だろう。 だったら、人質に取って逃げるまでだ。『九美上興和会』に関わった以上、国内の神秘界隈に逃げ場はあるまいが、海外に高飛びしてほとぼりが冷めるまで大人しくしていれば良い。今まで汚れ仕事をやらされていた分、その程度の蓄えならある。 そんなことを考えながら走る弾城。 しかし、その内に妙なことに気が付く。 自分は一体、どれだけの間走っているのだろうか? 「こ、これは……!?」 そして、振り返ると、そこには不敵な笑みを浮かべるリベリスタ達の姿があった。 ● 確実に成功する作戦等は無い。 だから当然、七花自身も不安で仕方なかった。 しかし、そのためにリベリスタ達は力を尽くした。 犠牲が出ることに目を瞑れば、もっと楽に勝つことが出来たのかも知れない。作戦が失敗すれば、出る被害は恐らく膨大なものになるのだから、その方が確実だ。 それでも、リベリスタ達は諦めなかった。 作戦が失敗した際に失われる命も1つの命であるなら、目の前で失われようとしていた命も1つの命。 どちらかを選ぶようなことは出来なかった。 そして、弾城が走り出す直前に、七花の詠唱は完成したのだ。 「生きてここから出られると良いですね。残念ながら、そうさせるつもりは毛頭ございませんが」 「磁界器!? スキル!? 畜生め!」 暖之介の言葉で、弾城は何かしらの手段で自分の逃亡が阻止されていることを理解した。手段は分からないが、こうなった以上、そんなことを考えても仕方ない。 「残念だったな? この場所から九美上興和会の所に行くのはお前達じゃない……わたし達だ!」 そんな弾城に向かって、美虎の蹴りが文字通り「飛んで」くる。 彼女にはこの先に、助けなくてはいけない仲間がいるのだ。そのためにも、こんな所で足踏みはしていられない。 幼いながらも美虎が発する迫力は、百戦錬磨の弾城をも恐怖させた。 これからどうするかの算段を立てるよりも速く、銃に手が伸びたのだ。 しかし、またしてもその銃の引き金が引かれることは無かった。 「あんたもそれなりに経験積んでるフィクサードだとは思うけどさ」 手元で気糸を弄びながら、碧衣が笑う。 「多少の実力差程度では、私の気糸から逃れることは出来やしないさ」 いつの間にやら、弾城は碧衣の気糸で拘束されていた。いつの間に絡め取られていたのか、気付くことも出来なかった。 元より回復役がいないチームなのは自覚している。だから、弾城は術者を攻撃して状況を打破することが出来ないか、と考える。部下に集中攻撃をさせれば、まだチャンスはある。 しかし、そこでもリベリスタ達は一枚上を行っていた。 「このゴミクズ以下が……」 「この一撃で……決める!」 「もういっぺん、いくよ!」 ロアンに血を吸い取られ、フィクサードは力無く地面に倒れる。 零児に脳天を砕かれたフィクサードは、ピクリとも動かない。 そして、再度ウェスティアが呼び出した黒鎖によって、残っていたフィクサードも倒れ伏す。 弾城は既に自分の持ち札が無いことをゆっくりと悟った。 「はは……待ってくれよ。俺はガキに手は出してないぜ? こうなった以上、合流しても意味はねぇ、降参だ。ほら、銃もこの通り……」 口の中をカラカラに乾かせて、弾城は銃を地面に放り投げる。両手も上げて、降伏のポーズだ。 しかし、隆明の動きは止まらなかった。 「俺はな、てめぇらみたいな、暴力楽しんでるヤクザもどきが一番腹が立つ」 ゆっくりと拳を握り締めると、隆明は修羅の表情で弾城に迫る。 弾城は恐怖のあまり、痴呆のような表情で引きつった笑いを浮かべる。 「頼むよ……。俺が悪かったって。ちょっと調子に乗ってただけなんだ。ほら、時間が無くて焦ってたからよ……もう、降参するから、命だけは助けてくれよ」 「運が悪かったな、俺は血の気が多くってよ、辛抱効かねぇんだ。それじゃあ、九美上興和会が潰れるのを見なくて良いようにしてやるぜ。どうせ、こんな所にまで助けに来る物好きはいねぇんだ」 隆明は拳を振り上げる。外道への怒りを込めた、ひたすらに真っ直ぐな拳。 「ヒィッ!」 ドグシャァッ 「何の真似だ?」 そして、やはりその拳もまた人を打つことも無かった。 砕かれたのは、泡を吹く弾城の頭の横の壁だった。止めたのは俊介だ。 「いや、これは俺の甘いとこだけど、本気」 真剣な目で隆明を見て、俊介は語る。顔は笑っているが、目は本気だ。 「殺すっていうのは最終手段だと思ってるから。善だろうと悪だろうと、人殺したらどっちも人殺しなんよ」 わずかの間、場を静寂が満たす。 「ま、良いだろ。どっちみち、そいつは再起不能だ」 ぷいと振り向いて、拳を下げる隆明。 その足元で、弾城は恐怖の表情を浮かべたまま気絶し、失禁していた。 ● 戦いが終わった仲間達に、碧衣は素早く疲労の回復を行う。七花も陣地を解除すると、同じくけがの治療を行っていた。本番はここからなのだ。 その横で、ロアンは怯えていた子供達のケアを行っていた。こういう時こそ自分の職業をフル活用しなきゃ、というのは本人の弁だ。 そして、バスに乗っていた人々が合流してきた地元リベリスタに引き取られたところを見て、座っていた隆明が立ち上がる。 「さぁて前半戦終了だな。まだ仕事は終ってねぇぞ、コアチームと合流だ。仕上げといこうぜ」 隆明の言葉に頷くリベリスタ達。 さぁ、本番はここからだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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