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<黄泉ヶ辻>魅惑のパンプキンフィールド

●Trick or Treat and more?
「ハッピーハロウィン!」
 月夜に照らされた山奥で陽気な声が響き渡る。
 山中において開墾された広大な畑がそこにはある。突然開けた珍妙な位置にあるその畑に、その人物はいた。
「収穫祭、収穫祭。間もなく楽しい収穫祭♪」
 それは奇妙な風貌をした少女であった。ふわふわの金の巻き毛を長く垂らし、翠の瞳は好奇心に輝いている。古風な魔女然とした山高帽に黒マント。だがその足元は強固な安全靴で飾られており、マントの下の服は裾を短く切り詰めて洋風にアレンジされた――和ゴスと呼ばれるのだろうか、そのような浴衣であった。
 手にした杖は奇妙にねじくれており、その先端にはランタンがぶら下げられており彼女の周囲を明るく照らしていた。
 彼女は至極楽しげに畑に添えつけられた小型のコンテナから生えたレバーをぐるりぐるりとまわしている。レバーを回すたびにコンテナから伸びたパイプより、設置された如雨露へと液体が供給されていく。
 少女はなみなみと満たされた如雨露を片手に一面の畑へと歩いていく。
「もうすぐハロウィン! Trick? Treat?」
 陽気に即興のリズムへと載せ、歌うように楽しげに。
「痛快なTrickもいいな! 甘ぁいTreatもいいな!」
 くるりくるりと回る少女。畑に実った作物……沢山のカボチャの中を少女は縫うようにすり抜けていく。
「でも選ぶならあたしはPluto! この極東の島国いっぱいのPlutoがいい!」
 楽しげに、地上に満ちる冥府の要求を訴えながら少女は作物へと如雨露を傾ける。
 傾けられた如雨露からは恵みの水が作物へと振り掛けられ……静謐な空気を唐突に濃厚な鉄の匂いへと塗り替えた。
 如雨露の中に満ちた液体。その濃厚なその絞りたての血液はかぼちゃ達へと撒き散らされて恵みを与え、同時に周囲を死の色に染め上げていく。
「ああ、楽しみだなぁ! この神秘に敬意を表さないのに生活に神秘と多国籍が濃厚に染み込んだこの極東の国! 本来無縁な収穫祭までやってしまう貪欲さ! こんな国見たことない!」
 如雨露の中身を空にした少女は再びコンテナのハンドルをぐるりぐるりと回し、如雨露へと液体を補充していく。
 くるりくるりと回すたびに、コンテナからかすかに響く破砕音。めきりめきりと骨の砕ける音に、メリメリと肉を磨り潰す音。そして如雨露へと搾り出される血液。つまり、コンテナの中に詰められた物は――

「もうすぐ楽しい収穫祭。たくさんのかぼちゃ達、そして新鮮なミートパイ。ああ、楽しみ!」
 水遣りを終え、少女はうっとりとハロウィンの夜へと思いを馳せる。
「新鮮なかぼちゃ達、あたしがたっぷり愛情注いだかわいいかわいい作物達!」
 ぐるりと少女が辺りを見回す。周りに生育するかぼちゃ達はどこか奇妙な点がある。自生しているはずのそのかぼちゃは、ハロウィン飾りの如く口腔と眼窩が抉り、形成されており……その眼窩の中で、存在してはいけないはずの眼球が、ぎょるりと動く。
「かぼちゃが作るミートパイ! 新鮮な肉をたくさん磨り潰して素敵な素敵なミートパイ! 皆も楽しみだよね? あはははははっ♪」
 少女が同意を求めるように畑を見回し笑う。少女の笑いに呼応するように……かぼちゃ達が哂う。あるかぼちゃは頭部を震わせ、あるかぼちゃは地中よりその肉体を引きずり出しながら、哂う。
 ――快活な少女の笑いと奇怪なかぼちゃ達の哂いは、月夜に長く、長く響いた。

●ブリーフィングルーム
「いやー、ハロウィン本番も迫っていますね。ハッピーハロウィン」
 アークのブリーフィングルーム。『黒服』馳辺 四郎(nBNE000206)はリベリスタ達を前にして無意味に楽しげに口を開いた。
「祭りというものは皆盛り上がるものですよねえ。尤も、盛り上がるのがただの人だけとは限らないのですが」
 つまり、四郎はこう言いたいのだろう。
『ハロウィンに浮かれた敵が現われる事もある』と。
 リベリスタ達に資料を配っていく四郎。全員に行き渡った所でモニターの電源を入れ、配ったモノと同じ資料をスクリーンへと投影する。
 そこに映っているのは一人の少女であった。金の巻き毛に翠の瞳。その表情は快活さを感じさせ、服装は古風な魔女然とした山高帽に黒マント。
 ハロウィンの仮装少女の一人である、と言われたら納得しそうな人物である。むしろそう言われたほうがよりしっくりきただろう。
「さて、魔女と言われるものは多数ありますねえ。形容であったり、悪態であったりします。が、彼女……『リリカルウィッチ』ハミル・ハルハレンシスは正真正銘の魔女らしいですよ」
 モニターに映し出された姿と手元の資料を見比べながら四郎が解説を続ける。
「今回のハロウィンに呼応するように、黄泉ヶ辻の客員である彼女の行動が散見されるという報告があったのですよね。そこに万華鏡が予知した映像が、こちらです」
 引き続き四郎がモニターに出した映像は一面のカボチャ畑であった。そこに実ったカボチャはまさにハロウィンに相応しいものであったが、その顔の刻まれた姿はどこか不気味さを漂わせている。
「このカボチャ、全てがエリューションのようです」
 さらりと四郎は言ってのけたが、それが事実であれば恐ろしい話である。カボチャ畑はかなりの面積を誇っているように見える。その一面のカボチャが全てエリューションだと言うならば、どれほどの数が存在しているのだろうか。
「さて、この魔女ハミルは極度の刹那主義で快楽主義。自分の楽しい事のみを行う為に善悪の区別なく行動を行うタイプの人物です」
 無邪気故に秩序の敵である。しばしばフィクサードに存在する性質ではあるが、彼女もまたその一人なのだろう。得てしてそういったタイプは常軌を逸したトラブルを引き起こすものだ。
「彼女はハロウィンにこれらのカボチャを一気に解き放つつもりです。その前に万華鏡が検出したのは不幸中の幸いというわけで……ちょっとこの畑、皆さん一掃してきてくださいよ」
 気軽に言ってくれる。だがハロウィン当日にこれらが開放されてからでは大規模な混乱に至る可能性は高い。事前に対処出来る今のうちに処理するのは至極当然の対応であろう。
「彼女は正当の魔女。かなり独自な技術も持っており、相手をするのは面倒だと思います。ですのでカボチャ畑だけでも始末してきてくださいね。無理に彼女を相手する必要はないですから」
 ハロウィンを目前とした凶事。手早く済ませて素敵なハロウィンを迎えたいものである。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年11月07日(水)23:54
●馳辺の資料

■フィールド:夜間、山間部のカボチャ畑

■達成目標:カボチャ畑の一掃

■環境
 山間部に存在する広大なカボチャ畑です。
 フィールド内に存在しているのはカボチャ達、生育用の液体の素をストックしたコンテナです。
 無数のカボチャが存在しており、その全てがエリューションです。
 一度に襲い掛かってくることはありませんが、毎ターン新たなカボチャが戦線に投入されます。

■エネミーデータ
・『リリカルウィッチ』ハミル・ハルハレンシス
 ・西欧から流れてきた正真正銘の魔女。外見年齢十四歳。黄泉ヶ辻の客員構成員。
  刹那主義、快楽主義者であり楽しみの為にトラブルを巻き起こす。
  所持している杖はランタンがぶら提げられた破界器で、打撃時に火炎のBSを与える。
 ・確認されているスキルは下記。
  ・マジックブラスト 神遠貫
  ・凶兆のペンタグラム(EX) 神遠範 不運、ショック
  ・ステラデウス(EX) 神遠全 溜1 凶運、致命、呪い
  ・コープスダンス(EX)神召喚 溜2
   範囲内に存在する生物の死体を操る。能力は死体の生前に依存。スキルは使用しない。
  ・高速詠唱
  ・戦闘指揮3Lv
  ・魔術知識(非戦)
  ・強結界(非戦)

・ランタンヘッド×10(E・ゴーレム フェーズ1)
 カボチャ頭の植物系生物です。
 攻撃方法は殴る、掴みかかるだけですが、撃破時に強酸を範囲距離に撒き散らします。
 また、毎ターン2体ずつランタンヘッドは増えていきます。出現位置はランダムです。
 これを阻止する方法はカボチャ畑を駆逐するか、儀式者であるハミルを撃退するかです。

●マスターコメント
 ハッピーハロウィン!
 不肖、都がお送りいたします新ヒロインです。今までのうちのフィクサード男臭すぎた!
 快活な女の子って素敵!
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ソードミラージュ
ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)
ホーリーメイガス
汐崎・沙希(BNE001579)
マグメイガス
小鳥遊・茉莉(BNE002647)
プロアデプト
ジョン・ドー(BNE002836)
クリミナルスタア
烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)
ダークナイト
ユーキ・R・ブランド(BNE003416)
マグメイガス
田中 良子(BNE003555)
マグメイガス
羽柴 双葉(BNE003837)

●プレハロウィン
 月が昇り、夜が更ける。
 町は収穫祭……本来日本の風習ではない、西洋の収穫祭であるハロウィンを前にして浮かれ、色めきたっていた。
 だがこの一団はその喧騒から遠く離れた山中を歩いていた。
 都市の明かり無きその場所はよりはっきりと自然の光……月光に星の煌き、そういったものがくっきりと目に写り、自然の風情を漂わせている。
 されど一団にそれを楽しむ余裕はあまりない。今向かっている場所は遠足や登山のようなものではない。れっきとした任務の為に向かっているのだ。
 ――ましてやその任務が、ハロウィンの行く末を左右するものであるならば。
「楽しくお祭りを迎える為にも頑張らないとね」
 羽柴 双葉(BNE003837)が決意の篭った言葉を言う。祭りにトラブルはつきものではあるが、人為的トラブルとなればそうはいかない。事前に阻止出来るならば阻止する事は決してやぶさかではない。ましてや神秘的トラブルとなれば彼らの管轄である。
 一団……リベリスタ達はやがて山を抜け、森を抜け、目的の場所へとたどり着く。星明りに照らされたその場所は山中に開墾された土地。その場所は夜闇の中、自然の光に照らされて一面の極彩色が広がっていた。
 橙色に染まるその場所は広大な畑。極彩色の原因は大量のカボチャ。相当な広さを誇る畑一面に生育されたソレはこれから始まるハロウィンのための産物である。その多量のカボチャの全てがエリューションである、という事実は少々心胆を冷やす現実であろう。
「この南瓜の『出荷先』の事を考えますと、私たちはこれらを『出荷』させないようにしなければなりませんね」
『無何有』ジョン・ドー(BNE002836)の呟く『出荷』という比喩表現。それはこれらのエリューションがハロウィンの只中に送り込まれることを意味している。そうなると祭りは惨劇へと変わる事となるのだ。
「物騒なハロウィンは遠慮したいですね。折角の恋人との語らいを邪魔されたら、私とて容赦はできませんからね」
 小鳥遊・茉莉(BNE002647)が祭典の楽しみへの希望と、それを台無しにする話への不満を呟く。ハロウィンとは楽しむ為のものである。それを上塗りするように楽しむ者もまた存在しており、それがこの畑を作り出した存在なのだ。
「黄泉ヶ辻……」
 ユーキ・R・ブランド(BNE003416)が呟く。この歪んだカボチャ畑を作り出した存在もまた、日本における裏社会の主流七派が一つ、黄泉ヶ辻の所属者である。
(彼らは閉鎖的で狂気に満ちていて心地よい)
 他の者とは違う角度より黄泉ヶ辻の狂気を見る『水底乃蒼石』汐崎・沙希(BNE001579)の思考の如く、黄泉ヶ辻は他の七派に比べて狂気に導かれた行動をする所属者が多い。それ故にこの畑も放置すれば惨事を招くのは間違いないのだ。
 そしてそれの狂気の畑を生み出した存在こそ、今リベリスタ達の眼前にいる一人の少女である。
「あれ? ぞろぞろみんな着ちゃって早いね。まだハロウィンには早い時期だよ?」
 首をかしげ、やってきたリベリスタを見つめるのは山高帽に黒いマントで身を包んだ少女。一見するとハロウィンの仮装のように見えるがれっきとした彼女の正装。
 ハミル・ハルハレンシス。西洋より流れてきて、黄泉ヶ辻へと入り込み、自らの快楽を満たす為に活動する刹那主義の魔女。広大な畑は全て彼女の快楽、その為に。
「もしかしてミートパイの材料のお届けかな? ハロウィンにはお菓子がないとせっかくの収穫祭も台無し! 子供たちもがっかりだもんね!」
 杖の先にぶら提げたカンテラをゆらりゆらりと揺らしながら、ハミルは楽しげに語りかける。
「そうね、カボチャが作るミートパイ。イエーイ……って、違う! どうせ食べるなら普通のカボチャで作ったパンプキンパイが食べたいわ」
 ノリツッコミが冴え渡る『自堕落教師』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)。食べるならばやはりパンプキンパイでだし、ミートパイになる気もさらさらありはしない。
「正真正銘の魔女だと? リリカルウィッチだと? ふ、ふははは! 面白い冗談を言うではないか!」
 高笑いを上げ、正面からハミルへと無い胸を張るのは『黄昏の魔女・フレイヤ』田中 良子(BNE003555)。魔女を名乗る者として、同じく相手が魔女であるというならば引くことは出来ない。対決は避ける事は叶わない。
「というかなんだ、リリカルって! 無駄にかわいいではないか!」
 そこかよ。
「あはは! 可愛くてごめんねー!」
 お前もかよ。
「ともかくこの世に魔女は我唯一人! 黄昏の魔女、フレイア様だけだ!」
 指をつきつけ名乗る良子(仮名)。魔女を名乗る者、魔女と呼ばれる者。魔女というものは広く存在しており、こうして一同に集うこともまた、存在する。
「ああ、あなたも魔女なんですね! 魔女だもの、狩られたり火炙りにあったりとかしないと一人前とは言えないですね!」
 さらりと言ってのけるハミル。それらは魔女の末路と言えるのだが、彼女は果たしてそれらを経験しているのかどうか。それは定かではない。
 ハミルの言葉と同時に畑のカボチャ達が奇妙な鳴動を始める。ずるり、と地面から根を引きずり出すように、生えるように、自らを収穫するかのように立ち上がるカボチャ達。地に育った時からすでに顔を刻まれたその姿は異形の存在であり、これらが解き放たれた時の惨劇を想像させるには十分な光景であった。
「貴方は黄泉ヶ辻、ならばやることは一つですよね?」
 ユーキが魔力を帯びたナイフを抜き放ち、微笑を浮かべる。彼女がかつて遭遇した黄泉ヶ辻は誰も彼も狂気に満ちた存在であった。ならば彼らの策謀は阻止し、その存在は討たれるべきである。それは誰であろうとも変わりはしない。
 その言葉にハミルは不満げに頬を膨らませる。その殺意に対してではない。彼女のやるべき事を邪魔しようとする存在がいることが、気に入らないのだ。
「せっかくハロウィンパーティの準備をしたのに、邪魔しようなんて酷い人達! ちょっと早いけれどプレパーティ! クリスマスならイヴとも言えるお祭りを始めましょう!」
 とん、と杖を地に突くとさらなるカボチャ達が立ち上がる。一体、二体と多量のカボチャ達が立ち上がり、リベリスタ達を包囲していく。
 それらの包囲に対し、『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)は手にした銃の激鉄を起こす。
「そうね、前夜に楽しいハロウィンカーニバルの始まりね」
 くすりと微笑むエーデルワイスは銃を突きつけ、告げる。
「今宵も血と鉄と火の宴を捧げましょう」
 魔女と道化が視線を絡ませ、ねっとりと微笑む。始まるは収穫祭。狂気と殺意に塗りたくられたハロウィンの幕が開く。

●パンプキンラッシュ
「では、殺そうか」
 最初に動いたのはユーキであった。手にしたナイフを構え、真っ直ぐにハミルへと駆け出していく。ナイフにこめられるのは漆黒の力と、強烈な殺意。
「ああやだやだ、怖い怖い! 前夜祭だし皆穏やかにいきましょうよ!」
 真っ向から向けられる殺意をハミルはへらりと微笑みながらかわす。その視線を遮るようにカボチャ達がぞろぞろと立ち塞がった。
 その障害へと電撃が走り、焼き焦がす。電撃は次々とカボチャ達の間を連鎖するように走り、伝播して破壊を拡大していく。
「全部巻き込んでいいわよね?」
 ソラが不敵な笑みを浮かべ、電撃を次から次へと放つ。戦場全体を薙ぎ払うように電撃の鎖は畑中を駆け巡り、立ち上がったカボチャや魔女、さらには養分のタンクとして設置されたコンテナを焦がす。
 だが数は多く、リベリスタの前衛は少ない。組み上げられた壁は容易には突破出来ず、ハミルへの進路を遮っている。魔女へとたどり着く道は未だ険しい。
「さあどいて貰おう」
 ユーキがナイフで空を数度切ると、それにあわすように空間が切り取られ、黒の領域が発生する。その檻はカボチャの一体を閉じ込め、激しく苦痛を与えていく。
「さて、ハッピーハロウィンと改めて言うには無粋な場所ですが」
 ジョンが戦場を見渡すと戦場全体の状況がその脳裏で演算されていく。整理された情報が適切な対応が刻まれ、その身を動かす。
「では、一夜のお相手を願えますか、Lady達?」
 その指が打ち鳴らされると同時に戦場全体を閃光が包む。闇夜を切り裂く光は場に存在するカボチャ達の目をくらまし、その動きを大きく鈍らせた。
 場を染め上げた光。それらを切り裂くように飛び出したのは漆黒の鎖。
「戒めの鎖よ!」
「締め上げ、砕け!!」
 双葉が、茉莉が、練り上げ解き放った鎖が戦場を切り裂く。漆黒のそれは多数のカボチャを縛りあげ、同時に鎖の纏う闇がカボチャの身体を浸食し、破壊していく。
「やだなぁ、せっかく用意したカボチャなのに、壊すなんてムードがないなぁ」
 口を尖らせ、拗ねたようにハミルが言う。だが、このカボチャ達を放っておくということは街へとこの群れが雪崩れ込むということだ。さらにこうしている今も次々とカボチャ達は地面から這い上がり、数を増していく。
 リベリスタ達は一匹たりとも残さない覚悟でカボチャ達を駆逐していく。刃が翻り、魔力が解き放たれる。その度にカボチャ達が砕け、地面に転がる。
「うーん、なかなかしぶといですねえ。じゃあもうちょっとパーティの参加者増やしましょう!」
 壁を潜り抜けようと抗するリベリスタ達に業を煮やしたのか、ハミルが術式を行使しはじめる。魔法陣が展開され、ルーンが刻まれていく。それは死者を操る外法であり、その死者の所在は……。
『これは……あのコンテナが恐らく』
 沙希の念話がリベリスタ達の脳裏に響く。周りに術の対象となる死体はない。ならば恐らく鎮座するコンテナ内部にあるのだろう。
 リベリスタ達が念話を受けると同時に、一斉に攻撃対象を切り替えた。コンテナに対し、それぞれが術式を行使し、銃撃を叩き込む。研ぎ澄まされた念の一撃がコンテナを抉り、変形させていく。
「ハッピーハロウィーン♪ あっははははははは、ぶち壊しホーダイ!」
 エーデルワイスが戦場を薙ぎ払うようにばらまいた銃弾が、転がるカボチャと共にコンテナを破壊した。砕けたコンテナは内部からぼとり、と多量の内容物を吐き出した。
 ――それは大量の死体であった。老若男女を問わぬ、人の残骸。コンテナ内部にて養分を搾り出す為にひき潰され、絞り上げられた歪な肉塊達。それが畑へとごろりごろりと撒き散らされる。
「刑場の血で育つのがマンドラゴラ、じゃあ血で育ったカボチャは? じゃーん、素敵なランタン達でーす!」
 その様子ににへら、と笑い自慢げにハミルがカボチャ達の仕組みを披露する。外法の魔術。魔女の名に相応しいその成果はおぞましい畑を生み出したのだ。
 同時に練り上げられた術式が発動した。死体達はねじくれた身体をゆらりと起こし、立ち上がり始める。折れ曲がった四肢に圧迫された肉体。それらを震わせ動き始める死体達。
「……死んでまでその身体を肥料にされたり、操られたりするのは可哀想」
 だから、と茉莉が手中に火炎を生み出す。死した身体は荼毘に処す。それが弔いの作法の一つであろう。それ故に彼女は炎を生む。念入りに被害者達を送る為に。
「火炎よ、焼き尽くしちゃえ!」
 鎖と同様に、双葉が茉莉の火炎にあわせてさらなる火炎を生み出す。両者が解き放った炎が動き始めたばかりの死体を炎に包み込み、崩れ落とす。二人がかりの圧倒的火力が被害者達を灰にし、再び動き出すことのないように焼き尽くしていく。
「あらら、残念。最後の最後まで有効活用出来る、今流行のエコだったのに」
「黙れ! 同じ魔女として貴様の横暴を見逃すわけにはいかんのだ!」
 良子がハミルの言い草に対し、自らも名乗る魔女としての誇りと共に言葉を叩きつける。言葉と同時に炎が生み出され、ハミルを掠めるように投げつけられた。
 その炎は敵ではなく、畑に生えるカボチャ達へと炎をつける。燃え上がる炎は未だ立ち上がる前のカボチャ達を燃やし、崩していく。同時にカボチャの焦げる、焦げ臭く香ばしい、ほのかな甘みを秘めた匂いが周囲に満ちていく。
「ちょっとやめてよ、山火事になったら畑が台無しじゃない!」
 その行為を咎めるように杖を振り回して不満を主張するハミル。その懐に一人の影が飛び込んでいく。
「ようやく辿りつきました。魔女だか知りませんが、私は貴女の素性には実の所興味がない」
 カボチャの包囲を潜り抜けたユーキである。リベリスタ達の地道な破壊は耐久力に優れたカボチャ達を確実に減らし、ようやく彼女の突破口を切り開いたのだ。
「黄泉ヶ辻というだけで十分だ!」
 狂気の組織への憎しみをこめた刃が漆黒の檻を構築し、ハミルを拘束しようとする。それをハミルは捕縛されぬようにギリギリのラインで防ぎ、凌いでいく。
 高い神秘の力を持つハミルではあるが、やはり接近されると対応に困る。ユーキが接近した事は戦場においてそれなりの影響を与えていた。
「お疲れですか、皆様? 必要であればお申し付けを」
 長期戦になり、消耗戦となりつつある戦場をジョンが繋ぎとめる。集めた活力を付与し、より長くリベリスタ達が戦えるように補助していく。
「ハミルちゃーんどう? 邪魔されて今どんな気持ち? あっはははは!」
 さらにエーデルワイスが戦場中へと銃弾を次々とばらまいていく。トリガーハッピーの如く撒き散らされたそれは、立ち上がったカボチャも地面に生えるカボチャも問わず片っ端から畑に存在するものを打ち砕いていく。
「ああ、もう! いい加減にしてよ!」
 自らのパーティを邪魔されていくハミルが痺れを切らし、杖を振り上げる。先端に提げられたランタンが揺れ――天の星が輝いた。
 煌きが天から降りてくる。その光は戦場の只中へとゆっくりと降り注ぎ……炸裂した。
 眩い輝きがリベリスタ達を苛み、その身を蝕む。星の光が人の命の営みを縛り、その動きの歯車を狂わせると同時に体力を吸い上げていく。
『――ハミルさん、貴女みたいな人、好きよ』
 沙希の思念が広がり、伝わる。蝕む光の苦痛に顔を顰めながらも微笑む彼女は……
『だから、邪魔させて?』
 ――星の光の呪詛とは違う、癒しの力を秘めた息吹が戦場に吹いた。その風は呪詛すらも引き剥がし、リベリスタ達の苦痛を和らげていく。
 邪悪が、異質が生み出す苦痛を良とする沙希。それ故に……その良たるものを害する事もまた、良とするのが沙希である。
 結局、それが決め手であった。長期戦によって疲労するのはリベリスタだけではない。ハミルとて決してその魔力、活力は無限ではないのだ。じわじわと数を増やすカボチャも双葉や茉莉の黒鎖、さらにソラの撒き散らす電撃が打ち倒していく。増えれば減る、決して物量で圧倒できる状況ではない。
 さらにエーデルワイスの銃弾や良子の撒き散らす炎は畑を荒らしていく。銃弾がカボチャを砕き、炎が畑を焼き尽くす。ユーキに張り付かれ、万全な対応を行うことの出来ないハミルにはそれを止める術はない。
 そしてジョンが、沙希が、リベリスタ達の持久力を高めていく。長期戦でも押し切るのは不可能ではないが、すでに祭りを盛り上げるには不可能な程度に畑は荒れ果てていて。
「――つまんない! 帰る!」
 突如ハミルが叫び、カボチャ達がユーキを引き剥がすように動いたのは直後であった。
 すでにここに楽しむだけの環境はない。そうと決めた彼女の判断は早く、即座に戦いを投げ捨てカボチャを見捨て、去る選択を取ったのだ。

 ――後に残されたのは荒れ果てた畑達。動くカボチャを駆逐した後には、もはや祭りの痕跡も残っていなかった。

●パーティエンド
「一夜限りのお相手としては御満足していただけましたかね?」
 ジョンが至極丁寧な態度で、独り言のように呟く。
 ハミルはすでにその場におらず、ハロウィンを荒らす危険な祭りは開催されることはない。
「凄いことになってるけど、どうしようもないね……」
 双葉が溜息をつく。戦いの跡地は荒れ果てていて散々な有様であるが、延焼を止め山火事にならぬように対応するのが手一杯。残るはアークの職員に任せるのが万全だろう。
「これでなんとか無事にハロウィンも開催できそうです」
 と、茉莉。楽しい祭りは楽しく開催されなくてはいけない。それは最早心配はない。あとは本番を楽しむだけだ。
「とんでもない奴だったわ。人は我慢しながら生きていかないの」
 ソラが説教臭く呟く。教職たる彼女らしい、含蓄ある言葉が出てくるかと思いきや。
「――なんでもかんでも好き勝手していいなんて、そんなのが許されるのは私だけでいいのよ!」
 驚くほど勝手な意見であった。
 ともあれこれにて魔女の企みは潰えた。焼けた畑から漂う甘い香りを残し、全て燃え尽きたのだ。
 今度はその甘い匂いを違う場所で感じよう。ハロウィンで、今度はちゃんとした甘い甘いパンプキンパイを楽しめるように。
 立ち去るリベリスタを星が照らしていた。魔女の生む凶兆の星ではなく、人々を優しく照らす夜の星達が。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 まずは個人的事情にて返却が遅くなってしまったこと、申し訳ありません。

 さて、今回の目的である畑の一掃はなんとか行われました。
 おかげさまで無事にハロウィンは迎えることが出来たでしょう。
 魔女の遊びはまだまだ続くかもしれませんが。

 それではこれにて。お疲れ様でした。