●時計塔戯曲 繰り返す。幾度でも何度でも、同じ時間を永劫に。 其処に終わりなどなく既に意味すらない。それでも、この刻を永遠にしたい。 そう願った“其れ”は永劫に同じ時を何度も、幾度も。ただ繰り返す。 某市の街外れに古びた時計塔があった。 時と共に歴史を刻んで来たであろう塔は、赴きのある外観から街の人々にも愛されていた。 しかし、絶えず動いていた大時計はいつしか壊れてしまった。 完全に止まったわけではない。何故か時計の針が12時を示す度にわずかに針が巻き戻ってしまうのだ。時計塔は延々と11時59分と12時00分の間を繰り返すのみ。 もちろん、何度か技術師が時計を直す為に塔の頂上部屋に赴いた。 だが、一向に悪い部分が見つからない。それどころか中に入った者が次々と体調不良を訴えて修理どころではなくなってしまう。 それゆえに街外れの時計塔は今も尚、同じ時間をずっと刻み続けている。 ●永劫輪廻 特務機関アーク内の一室にて、語られた話は何処か御伽話めいていた。 「時計塔の怪奇。もしくは塔の妖精の悪戯。……近隣ではそんな風に言われている」 しかし、これは在りのままの事実だ。そう話したフォーチュナの少年、『サウンドスケープ』 斑鳩・タスク(nBNE000232)は椅子の上で軽く足を組む。 「ま、そんな都市伝説的な話を君達に聞かせたかったわけじゃない。察しの良い人は気付いているだろうけど……そうさ、その時計塔がE・ゴーレムと化しているんだ」 塔の能力は『周囲の時間を約1分ほど巻き戻すこと』。 仮にその名を『クロックロック』としようと告げたタスクは説明を続ける。 ゴーレムの時を戻す能力の範囲は時計部屋の内部だけ。それ以外は自己防衛能力しか持っておらず、外部への影響はない。だが、能力の範囲内に一般人が入ってしまうと身体に著しい負担が掛かる。 リベリスタならばそれ程の重圧は受けないが、もしこの先に再び技術師が入ることがあれば、次は死人が出るかもしれない。 現在の所、塔自体が自発的に何かを襲うことは無い。 しかし、このまま放置しておくと崩界が加速してしまうのだ。タスクは小さな溜息を零すとリベリスタ達に願った。例の時計塔――否、E・ゴーレムを壊してきてくれないか、と。 「それじゃ、詳しい話に移ろうか」 タスクは一枚の地図を広げると、リベリスタに時計塔のある場所を示す。 先ずは時計塔の階段を使って頂上に向かうこと。そうすると、時計を動かすカラクリが設置されている部屋に出る。歯車やゼンマイ、ネジなどが複雑に絡み合った部屋にて、時計の核である中心部を破壊することが目的だ。 けれど、一筋縄ではいかないのだとタスクは語る。 時計塔は自分が攻撃されそうな気配を察知すると反撃の力を紡ぎはじめる。 「そのうえ、塔は1分の時間を延々と巻き戻しているからね。時計が丁度12時を指した時……タイムリミットまでに壊しきれなかったら最初からやり直しだ」 つまり、戦闘に勝たなければ同じ時間を繰り返すことになる。 その際にはリベリスタ達の傷なども戦闘開始時に戻るので何度でも再戦することが可能だ。そういった点に置いては競り負けても好都合だと言えるが――その場合、延々と戦いに身を置かねばならない。 「その気になったら戦いを放棄して逃げることも出来るよ。部屋の外に出てしまえば時間干渉からは逃れられるからね」 だが、逃走を選べばそのうちにE・ゴーレムのフェーズも進んでしまうだろう。 次の機会には更に倒し辛くなっているかもしれないので、いま手を打つのが得策なのだ。 幸いにして敵の強さは未だ然程ではなく、上手くリベリスタ同士で連携すれば短い時間でも決着を付けることが出来るだろう。 「どうして塔が例の時間だけを繰り返すかは分からない。もし何かの理由があって、それが塔の意志だとしても……このまま未来に進めないなんてのも、どうかと思うよね」 ――だから、頼むよ。 そう告げたタスクは戦場に赴く仲間達を見送り、そっと手を振った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:犬塚ひなこ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月31日(水)23:31 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●Clock Number 見上げるのは、狂ってしまった時計塔。 延々と同じ時を繰り返すそれは、一体どのような意味があって時間を留めるのだろうか。戦場となる時計部屋を目指し、塔の階段を上ったリベリスタ達はそれぞれの思いを胸に抱く。 「時計さん、どんなことがあったのかしら……」 壊さなくてはならないけれど、出来る事なら理由を知りたい。 何か周囲に手掛かりはないかと辺りを見渡し、『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)は扉の前に立つ。しかし、どうみても此処は何の変哲もない時計塔だ。 それでも、この先は歪んだ時間が満ちるエリューションの領域である。『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)は、時計が指し示す時間が昼夜どちらかのかと首を捻った。それとて想像するしかないのだが、自分自身は進まない時間があまり好きではないのだと思う。だからこそ、進ませたい。 そう感じた旭は流水の構えを取り、仲間達に呼び掛けた。 「じゃあ皆、行こう!」 準備を整え終えた仲間も頷き、突入への機を計る。 『舞姫が可愛すぎて生きるのが辛い』新城・拓真(BNE000644)を筆頭に、仲間達は領域に踏み入った。 瞬間、不可解な感覚が身体を駆け抜ける。 おそらくそれは時計塔の能力が時間を巻き戻した時の歪みなのだろう。『カゲキに、イタい』街多米 生佐目(BNE004013)は妙な感覚を振り払い、時計の核となる地版を見据える。 歯車が複雑に絡み合う最中、魔力を帯びたそれは不思議な威圧感を湛えているようだった。 先程の感覚を思い出しながら、『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)は核の近くへと即座に陣取り、裂帛の気合と共に爆裂の一撃を見舞う。 「一分で精神以外元通りか。色々と便利に使えそうな空間だが、エリューションじゃな」 物惜し気な言葉を紡ぐも、彼が目指すのは敵の破壊。 かなりの衝撃が敵を襲うが、敵意に反応したクロックロックも此方を標的として動きはじめる。 回る歯車が飛ばされ、『逆襲者』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)と『戦闘狂』宵咲 美散(BNE002324)の身を抉った。油断の出来ぬ衝撃だったが、耐えた二人は反撃へと移る。 「まぁ、誰だって何だって簡単に終わりたくはないよな」 古時計の姿を瞳に映し、カルラは突進の勢いに乗せた暗黒の魔力を解き放った。簡単にはいかぬのならば、簡単ではないレベルの火力をぶち込めば良い。早々にお休みいただくとしようぜ、と薄く笑ったカルラに続き、美散も己が持つ深紅の槍に力を込めた。 「十二時の鐘を鳴らしたくない理由があったのか。或いは求めていた何かがあるのか」 ――どちらにせよ、最早原因は失われているはずだ。 突入前に見て回った時計塔の様子を思い返した美散は、有り丈の一撃を打ち込む。 其処へ、翼を広げた緋塚・陽子(BNE003359)が仲間の頭上を通って核へと近付いた。裏側から垣間見える針の動きは僅かな合間を行き来するのみ。だが、そんな無為な時間は認めない。 「繰り返す時とか拷問だな。変化のねー時間なんてクソくらえだ」 歯車の上に立ち、目にも止まらぬ二連撃をくらわせた陽子は、凛と言い放つ。 永遠の時が此処には在るのかもしれない。 それでも、この刻が世界を壊すものになるのならば――すべて、止めなければならない。 ●Time Lock 与えられた時間は六十秒。 無駄な動きすら許されぬ中、壁を蹴りあげた旭は何度目かの一撃を格へと見舞った。 「止まってちゃ進めないよ。それとも、進みたくないの?」 無機物に声が届くとは思えなかった。だが、旭は呼び掛けずにはいられない。少女から放たれる崩落撃は敵目掛けて雪崩の如く打ち込まれてゆく。影継や陽子も其々の攻撃を放ち、次々と応戦した。 クロックロックが動く理由は解らない。 だが、時とは進むもの。残酷に、優しく、そして──誰にでも平等に。 「一度でも、時間を巻き戻させる心算はない。強引に行かせて貰おう……!」 拓真は思いを言葉に変え、全身の闘気を爆発させて鋭い衝撃を敵へと打ち込んだ。時計にひび割れが起こり、一部分が脆くも崩れ落ちた。攻撃一辺倒で向かうことによって、着実にダメージを与えられている。そう感じた拓真だったが、敵が紡いだ針の魔力が彼の身を鈍化させてしまう。 しかし、とっさに反応したニニギアが聖神の息吹で仲間を癒す。 「大丈夫。何度でも癒して、励ますわ」 時間内に押し負けてしまうことだけは避けたかった。そう考え、不利な効果を即座に癒そうと考えていた彼女だったのだが、迫る時間はそんな隙さえ与えてくれないようだ。 このままではいけない、とニニギアが気付いたときには既に遅し。 攻防を重ね続けた数十秒。 その間にリベリスタ達は確かな衝撃を与え、クロックロックの地盤を崩し掛けるにまで至った。 おそらくはあと一撃で倒せるという場面。最後の一撃を担おうと駆けた美散より先に、敵は己の傷を癒してしまったのだ。 美散とて負けじと禍月を振るい上げる。だが、完全に倒すまでには至らない。 「……駄目だ、時間が」 カチリ、と時計の針が十二時を示す音が聞こえた。本来ならば時刻を告げる音色が鳴るはずなのだが――刹那。代わりに身体に重圧が掛かったと感じたときには、リベリスタ達は部屋に突入した時点へと戻されてしまっていた。 此方の傷も、ひび割れていたはずの時計の姿も全てが元通り。 時を巡らせてしまったかと頭を振る生佐目だが、仲間は皆、何度でも立ち向かうと決めている。 「穿て――我が一撃!」 当初と同じく、生佐目は暗黒の力を放った。 黒の瘴気が敵に絡み付く様は、まるで先程の時間をリプレイしているかのようにも思えた。しかし、それは違う。幾ら領域内の時間を戻せるのだといっても、同じことを繰り返すだけではない。 その事実は、陽子の動きが如実に示している。先程は掴み取れなかった機を見出し、彼女は連撃を決めはじめたのだ。 「オレの攻撃は一発で終わらねーっての!」 二発を倍の四発へと変えながら、陽子は不敵に口許を緩める。 仲間の追撃模様に影継も続く。時計の回転を少しでも狂わせるべく、彼はシャフトや歯車が噛み合う部分を狙い打った。一度は巻き戻しを許してしまったが、本来は一度で決める心算だったのだ。 悔しさを覚えなかったわけではないが、こうなれば挑み続ける他ない。 「人生はノーリセット。常に一発勝負が当たり前なんだよ!」 致命的な一撃を与えた影継は次こそ、と何度も攻撃を重ねてゆく。 旭は一瞬ずつに渾身の力を込め、拓真も再度の攻防を繰り広げた。致命の効果によりクロックロックも力を癒すことが出来ない。 これできっと、と希望を抱いたカルラは勝利へと向けて突撃を続けた。 表面が削れれば中の石や地金が出てくる。その匂いの差を猟犬の力で嗅ぎ分けたカルラは黒の騎士槍で脆くなった箇所を突き穿った。歯車の一部が崩れ落ち、核の地版もぼろぼろだ。 「よし、これで……いや、まだか――!」 行けると感じていた思いは次の瞬間、致命を脱したクロックロックによって打ち砕かれる。 すぐさま癒しの手を使われてしまったことにニニギアも双唇を噛み締めた。攻撃の手は未だ足りず、ほんの少しの差で勝利を逃してしまう。ふたたび時間が戻される感覚に歯痒さを覚えながらも、リベリスタ達は再戦に向けての決意を固めた。 ●∞ O'Clock 繰り返し続ける時間。今や歪曲した感覚すら慣れてきた気がする。 三度目の始まり、時間は戻れど自分達の記憶は繋がったまま。影継は歯車の上に立ったまま、得意気に時計の核を見下ろした。 「何度でも戦えるんだ。勝つまで、やる。当然だろ?」 二度あることは三度ある。だが、これを三度目の正直だというように影継は攻撃を叩き込む。 身体の疲弊はない。だが、繰り返す時の感覚に精神が削られているようだ。 それでも、生佐目の心には未だ確かな意志が宿っている。 通算して幾度目かすら分からぬ暗黒の力を解き放ち、生佐目は小さく笑んだ。しかし、此方が一筋縄では倒せぬと分かり、狙いを変えたクロックロックの攻撃は生佐目を執拗に狙い続ける。 「……く、然しこれでこそだ。――じっくり、楽しめるな」 鈍い痛みはその身体を倒れさせたが、運命を掴み取った彼女は立ち上がった。 その前方、襲い掛かる歯車を鉄甲で受け止めた旭は寸での所で耐えて見せる。響く痛みは無視できるものではなかったが、こんな所で諦めるほど軟ではない。 「やってやろーじゃんっ。絶対にまけないもん!」 勢いに乗せた言葉を紡ぎ、旭は身構える。 大丈夫、次は絶対に倒せる。あと少しだったんだから、と元気良く呼び掛けた旭の声は癒しにも勝るとも劣らぬ励ましを仲間達に与えてゆく。信じなければ勝てるものも勝てない。そんな思いを強く持ち、身を翻した少女は幾度目かの蹴打撃を仕掛けた。 繰り返す時に思いを馳せ、拓真も絶え間なく天舞での斬撃を見舞う。 「俺とて、時が止まってしまえば良い、と願った事は何度もある」 だが、同時に叶う筈がないと言う事は知っていた。 自分の理想を見続ける為に歩みを止める訳には行かない。過去と今にしがみつき、未来を見ないなんて事は決して出来ない。 凛と顔を上げた拓真の振るった斬撃は致命を与え、敵の癒しを無効にさせた。 その分だけ攻撃へと転じたクロックロックは針の魔力で陽子達を襲う。神秘の力が身を鈍らせることを感じながらも、陽子は敢えて防御を捨てて突っ込んでいった。 「一回の戦果が当てにならないのがオレだからな。運は勝者に味方してくれるんだぜ!」 痛みを抑え、何度目かの一撃を打ち込む。 その瞬間、陽子は追撃に至る隙を見出した。天運が味方してくれたのか、彼女は華麗な連撃で大打撃を与えることに成功する。其処へ影継と旭、そして拓真の連携攻撃が加えられた。 ニニギアは仲間の怪我具合が気になっていたが、ぐっと堪えて攻撃へと転じる。 きっと、皆ならば最後まで耐えてくれるはず。 信頼を抱いたニニギアは先程を思い返し、少しでも的確な攻撃を当てられるように尽力した。 「決して諦めなんて見せない。そう決めたんだもの」 詠唱から生み出した魔方陣を展開し、魔力の矢を核へと打ち放つ。ニニギアの紡いだ一矢は地版の一部を崩し、見事な衝撃を与えた。 ひび割れが起こったのは今までも何度か確認している。 しかし、今回のタイミングは明らかに先程の二回よりも早い。敵もまだ致命を回復することが出来ておらず、リベリスタ達は其処に勝機を見出した。 相も変わらず舞う歯車はカルラを襲っていき、倒れてしまうほどの衝撃を与える。 それでも伏すわけにはいかないと運命を燃やした彼は、力強く立ち上がった。 「……負けるかってんだよ」 瞳の奥に燻ぶる闘志を燃やし、機巧を見据えたカルラは暗黒の魔力をひといきに解放した。反動がその身を襲うのも構わず、目指すのはただ勝利という一点のみ。 歯車の軸を狙い、美散も最後に向けて槍を振るった。 強敵との対峙。これ程までに上質な修練の場は得難いもの。永遠の戦いに身を置けると思えば、美散にとっては寧ろ本望だった。 けれど、此処で終わらせなければならない。 残り時間はたった十秒。だが、彼等にとってはもう既に十分な時間であった。 ●Count Down ――十。 仮令、其処に何かがあったとしても、進まない時間の価値は次第に薄まってゆく気がした。 「ねえ、未来も愛してあげて。きっとたのしいよ」 旭は最後の一撃に全力を込めるべく、時計へと呼び掛ける。わたしたちは、わたしたちを信じる。だから『貴方』は未来を信じて欲しい。そう告げるかのように旭が炸裂させた衝撃は一気に敵を追い詰める。 ――九、八。 「永遠に十二時の鐘が鳴らせないなんていけないわ。外の時間は止まらずに動いているのよ」 ニニギアは時計の事を真に思い、やさしい言葉を紡ぐ。 どんな理由があっても、このままでは彼の時計だけが取り残されてしまうことになる。そうして彼女が放った魔力の矢が中核の歯車を穿つ中、美散も槍先を核へと向けた。 ――七、六、五。 「そう、時は流れ過ぎ行くものだ」 美散が言葉と共に放った衝撃が核を突き崩していく最中、カルラも己の力を振り絞った。 「終わりにしちまおうぜ。今を永遠にする必要はもう無いんだ!」 この一手を本当の最期にするべく、決死の思い出仕掛けたカルラの一撃は時計の行動を阻害する。反撃代わりに解き放たれた魔力は標的を失い、弱々しい残滓のみが辺りに広がった。 今だ、と視線を寄越したカルラは残りの仲間達へと願いを託す。 ――四、三、二。 刻々と迫るタイムリミットを感じながらも、拓真は二式天舞をしかと構えた。 人も、物も、何かをずっと留めておく事なんて出来やしない。否、させてはいけないのだ。 「今日、此処で終わらせよう。お前が、新たな時を刻める様になるように」 破壊はしても、其処に破滅は決して訪れさせない。爆発的な威力を孕んだ一刀に願いを込め、拓真は駆ける。それと同時に影継も核を狙い、双眸をすっと細めた。 もし大時計に意志があるならば、時計塔を愛した人々に害を為すのは不本意だろう。 だからこそ時計の力を止め、元在る姿へと戻す。それが自分達の使命であり、役目のはずだ。 ――壱。 「過去を断ち切り、未来へ進ませてやるぜ! 斜堂流、輪廻転生斬!」 影継達の放った最後の一撃は重なりあい、文字通りに彼の時計へと最期を齎すものとなった。 そして――時が戻るゼロの数字を刻む前に、時計の核は崩れ落ちる。 刹那、最後の力を振り絞るかの如く、十二時の時刻を告げる鐘の音が響き渡った。 ●Ring Bell 砕け散った時計の核が部屋に落ち、すべての終わりが告げられる。 「これで終幕ってところだな」 痛む身体を己で支えながら、陽子は正常に進み始めた時間を感じた。この痛みが、そして時を刻む事を止めた時計の姿こそが、自分達が戦いに勝利した何よりの証だ。 「時を巻き戻し続け……今を望み続ける、か」 生佐目は歯車の残骸を見下ろし、小さく呟く。その意見を否定する理由は無いが、一体何が時計を其処までさせていたのだろうか。無機物であるそれの考えを汲み取ることは出来ないが、何らかの思いの残滓がそうさせてしまったのかもしれない。 カルラは崩れ落ちた小さな歯車を拾い上げ、歴史と技術の結晶に敬意を払う。 「お前が此処に在ったことは覚えておくぜ」 技術屋見習いとして興味を抑えきれぬ彼は部品を握り締めると、塔の天窓から空を見上げた。きっと、不思議な力を失った時計塔はいずれ街の者によって修復されるだろう。壊れた時計のパーツをまとめ置いた影継も在るべき姿に戻った塔の姿を思い、時計塔が刻んでいく未来を思い描く。 美散は先程までの終わらぬ戦いに僅かな名残惜しさを感じていたが、彼も仲間に倣って塔を仰いだ。 「……時計さん、ちゃんと納得してくれたかしら」 ニニギアはふと心配そうに零す。 感情の無いものであっても、自分達が無理矢理に壊してしまっただけであって欲しくない。そう願ったニニギアは、どうしてもその事が気に掛かってしまう。呟きを聞いた拓真は暫し考えたが、ただ黙って流れる時間への思いを馳せた。 そんな中、旭は不思議と自信に満ちた笑顔を浮かべる。 「大丈夫だよう。だって、時計さんが十二時を告げたあの鐘の音……すごく綺麗だったもん」 時を刻む事を頑なに拒んだ時計が最期に紡いだ音。 明るい旭の言葉を聞いて音色を思い返した拓真は小さく笑み、そっと頷いた。 「そう、かもしれないな」 そう、響いた音色は確かに天高くまで澄み渡り――。 まるで未来への期待を馳せるかのように、心地好く鳴り渡っていたのだから。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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