● 「教授! 止めて下さい!」 三浦理恵(みうら・りえ)は下着姿でベッドに拘束されたまま、必死に体を捩る。 しかし、彼女を縛り付ける鎖は丈夫でびくともしない。女性、それも普段は研究室にこもり、あまり運動していないとあっては、あまりに分が悪い。もっとも、多少の力ではびくともしない、丈夫な鎖ではあるが。 そして、彼女を拘束した当の本人である林田教授は、張り付いたような笑顔でそれに答える。 「なに、三浦君。安心しなさい。既に動物実験で安全は保障されている」 いや、臨床実験というのはもっと段階を踏むべきものであって。 と言うか、そもそもこうやって人を捕まえて、何の実験だっていうんですか。 ひょっとして、あなたの後ろにいる化け物が「動物実験」の成果なんでしょうか。 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」 頭の中で様々な言葉は渦巻くが、混乱してしまった現状で出来ることは悲鳴を上げることだけだ。 そんな理恵の前で注射器を弄ぶ林田教授。 突然、その右腕が大きく膨れ上がり、皮膚が緑色に変色していく。 目の前で変貌していく教授の姿は、理恵の頭を真っ白にしていく。 『さぁ、それでは実験を開始しようか。なに、これも人類の未来のためだよ』 SFに出てくる「宇宙人」を思わせる姿に変貌した教授は、ぎざぎざの牙を剥き出しにして、やはり張り付いたように紳士的な笑顔で宣言した。 ● 次第に冷え込んできた10月のある日。リベリスタ達はアークのブリーフィングルームに集められる。そして、リベリスタ達に対して、『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)は事件の説明を始めた。 「これで全員だな。それじゃ、説明を始めるか。あんたらにお願いしたいのは、ノーフェイスの討伐だ」 守生が端末を操作すると、スクリーンには緑色の皮膚をしたグロテスクな人型の生き物が姿を現わす。SFホラーの悪役宇宙人を連想させる姿だ。 「現れたのはフェイズ2、戦士級のノーフェイス。元は医科学の研究者だったんだが、偶然アザーバイドの細胞を入手し、その研究に取り憑かれてしまった。結果、増殖性革醒現象の影響でエリューション化してしまったってことだ」 さらに、それだけならまだしも、「その細胞を利用することで医学は大きく発展する」という妄想に囚われてしまった。結果、さらに多くのものをエリューション化するべく、自宅の研究室で日夜研究に励んでいるのだという。 そして、守生は端末を操作すると、スクリーンに地図を表示させる。教授の自宅である。 「ノーフェイスはこの中にある、極秘裏に作られた実験室にいる。間の悪いことに、最近自宅に引きこもって姿を見せない教授を気遣って、研究室の学生がやって来た。そして、『被験者』として捕えられているんだ。エリューションの性格を考えると、人質にしようとか殺そうとかは無いと思うが、気にしておいてくれ。戦闘の現場を見られる可能性も高いしな」 家はそれなりに広く、実験室もスペースがあるとのこと。場所も郊外で人が少ない地域なので、その他の人目を気にする必要は無いだろう。 とは言え、既に「実験体」として供せられた動物がE・ビーストとなり、ノーフェイスの護衛を行っている。油断せずに倒しておきたい所だ。 「説明はこんな所だ」 説明を終えた少年は、その鋭い瞳で睨むように、リベリスタ達に送り出しの声をかける。 「あんた達に任せる。無事に帰って来いよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月01日(木)23:06 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 「うわっ、気持ち悪」 研究室に入った『Le blanc diable』恋宮寺・ゐろは(BNE003809)の第一声はそれだった。 無理もあるまい。 話に聞いていたとは言え、目の前にいるノーフェイスはあまりに人間の姿を逸脱していた。 異常なまでに膨れ上がった頭部。 不気味な色の肌に覆われた全身。 まるで、一昔前のレトロSFに出てくるような化け物だ。 加えて、場所は地下にある秘密の研究室。ベッドの上では、服を脱がされた女性が鎖に繋がれて悲鳴を上げているというのだから、もうどうしようもない。 「まてぇいっ!貴様らの悪行、見過ごすわけにはいかん! とぅっ!」 そこに現れたヒーローが1人。 かぼちゃの力を借りて戦う正義のヒーローパンプキンヘッド、もとい、『合縁奇縁』結城・竜一(BNE000210)だ。猛然とベッドに向かって走り、怒りを露わにしている。 「下着姿で拘束して、改造とか! 研究者は何を考えているのかサッパリだ!」 そうそう、もっと言ってやれ。 「男だったらナニを考えるか当然の話だろうに!」 ヤハリソウイウコトカ。 もっとも良い子はやっちゃダメ、悪い子も当然ダメな所業。一刻も早く止めなくてはならない。 真面目な話をすると、人の命がかかっているのだ。 それでも、どこかでリベリスタ達にのん気な空気が漂っているのは、ノーフェイスの外見のせいであろうか。 「それにしても、緑の皮膚でムキムキ? これって……」 「……奥が深い」 深くない、深くない。 実際、アゼル・ランカード(BNE001806)が連想したものは近からずとも遠からず。ロボット、もといアンドロイドのような機械じみた改造では無く、いわゆる突然変異に近しいもの。かの高名なコミックのヒーローを連想するのも当然と言えよう。 「マッドサイエンティストとか言うけど……言い得て妙なこって。マッドもマッド、無茶苦茶すぎて迷惑なことこの上ねえな」 「安全は保障されている、か。成程。確かに正気は保証していない」 戦闘用ブーメラン、STEEL《STEAL》MOONを構える『孤独嬢』プレインフェザー・オッフェンバッハ・ベルジュラック(BNE003341)。 息をつくと槍を握り直す『カゲキに、イタい』街多米・生佐目(BNE004013)。 事前に聞いた話以上に部屋の中の様子はイカれている。ここに怪しい色の液体を湛えたビーカーや、怪しい色の煙を吐き出すフラスコが無いのが不思議な位である。 「その好奇心には感服するけど、程ほどにして貰わねえとな?」 「だが安心しろ……この件、終点を穿つ事は保証しよう」 プレインフェザーは集中力を高め、これからの戦いで発生し得る状況の予測を開始する。生佐目は闇のオーラを纏い、戦いに備える。 そうしたリベリスタの姿を見て、檻の中にいた「実験動物」達が這い出てくる。いずれも狂暴化しており、革醒していることが伺える。ある意味ではノーフェイスの「被害者」と言える存在である。 「ふうん……研究者も一歩道を外れるとただのお馬鹿さんになっちゃうんだね? 彼も運が悪かったよね、色んな意味でさ」 『SCAVENGER』茜日・暁(BNE004041)は口元に酷薄な笑みを浮かべる。その嗜虐心に満ちた笑みは、一部の特殊な嗜好を持った男性を虜にするだろう。もっとも、少女のように美しい顔をしているものの、彼はれっきとした少年である訳だが。いや、それでも、こうした退廃的な服装が似合うことで、より喜ばせるだけか。 「ま、一般人でもこんなものを手に入れちまうってのは、危なくていけないねぇ」 苦い声色でため息をつく『足らずの』晦・烏(BNE002858)。覆面の下でも顔を顰めているだろうというのは、想像に難くない。不安定極まりないこの世界だが、アザーバイドの細胞を得る等と言うことが無ければ、こんな事態を引き起こす可能性は低かった。 「……皮肉ですね。彼も元々は誰かの為を思って研究をしていたのに、結果として道を踏み外してしまうなんて」 年に似合わぬ凛とした声で『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)はポツリと呟く。 救えるものなら救いたいというのは偽らざる心境だろう。 しかし、それでも戦わなくてはいけない。戦わなくては、確実な被害をもたらす。 だから、気丈に声を張って、いつものように戦の唱を奏でる。 「任務開始。さぁ、戦場を奏でましょう」 ● 何よりも、リベリスタ達が最優先で動いたのは、被害者となった女性の安全を確保することだった。 理恵の頭は相変わらず混乱の極致にあった。 最近出てこなくなった教授の家へ様子見にやって来たら、何かを嗅がされて眠りについてしまった。そして、目を覚ますと服をはぎ取られて、この有様だ。目の前で教授は怪物に変身。そして、混乱していると何者かがどたどたと駆け込んできて争い始めたのだ。 こんな状況で落ち着いていられるのは、リベリスタかフィクサードか、神秘に関わる一般人の類だけだ。そして、彼女はそのどれでもなかった。 だが、 「あたいたち教授の仲間じゃないですよー、助けますから待っててくださいねー」 「心配しないで下さい。私達は、貴女を助けに来たんです」 リベリスタ達が口にしたその言葉は、何故か信じられる気がした。 暴れるのを止めて、状況の推移に目を向ける理恵。 「どう考えても悪の怪人改造計画です本当に何とやらって感じっすね。んじゃま、救助に関しては王子様に任せるっすよ」 『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)は、竜一の道を塞ぐように現れたノーフェイスの前に立ち塞がり、ナイフで攻め立てる。素早い攻撃の前に、異形の怪物は手も足も出ない。 『君達、一体何をするのだ! 人の家に勝手に押し入って来て! 警察を呼ぶぞ!』 くぐもった声で異形は、その容姿に合わない、あまりに常識的なことを口にする。 そんなノーフェイスへの牽制がてら、烏は聖なる光で戦場のエリューションを焼く。 「そんなことよりも、どこでそんな細胞(もの)を手に入れたかの方が気になるんだけどね」 『そうか、分かったぞ。私の研究を盗みに来たんだな。そんなこと、させてなるものか!』 「これは……本格的にダメなんじゃねぇかな?」 くぐもった声でコーホー息を吐きながらとんちんかんな言葉を返すノーフェイス。 今まで能力の分析をしていたプレインフェザーが、噛み合わない会話を聞いてため息をつく。革醒の結果起こる影響は多岐に渡る。どうやら目の前のノーフェイスは、周囲の状況を真っ当に認識できなくなっている節が見られる。 「ふぅん、そういうことなら、とにかく倒すものを倒しちゃおう」 巨大な鼠の姿をしたエリューションに向かって血の付いたバールのようなものを振り下ろす暁。嫌な音を立てて、エリューションの頭から血が噴き出る。ひょっとしたら、緑色の血になっているんじゃないかなーとも思っていたが、存外にそんなことも無く血は赤い。 しかし、 「キシャァァァァァ!」 エリューション化によって得た生命力は、生易しいものではなかった。不気味な泣き声を上げて、暁に噛み付いてこうとする。 その時、一瞬速く動いたのは『宵闇に紛れる狩人』仁科・孝平(BNE000933)だった。 彼の手に握られた1回、2回と閃くと、エリューションは寸刻みにされ、今度こそ動きを止める。 「結城さん、後はお任せします」 「あぁ、守るって決めたんだ! 俺が、俺の意思で!」 2本の剣で立ち塞がるエリューションを吹き飛ばしながら、竜一は理恵の寝かされているベッドの前に立つと、そのまま鎖を断ち切る。 「俺の後ろに隠れておくんだ。なぁに、安心しろ。君は、俺が守る。俺は味方だ!」 「う、うん」 年下である竜一の言葉に従ってしまう理恵。 彼が踏んできた場数と、それによって身に付けた自信が自然とそうさせたのだろう。 しかも、竜一は紳士的にマントで彼女の身体を隠す。 「ふぅ、これで安心ですね」 安堵のため息を漏らすミリィ。 理恵を助けることが出来たからか、あるいは竜一の振る舞いが思った以上に紳士的だったからか。 おそらくは両方だろう。 「そっち片付いたならさー、早い所こいつらどうにかしない? いい加減ウザいんだけど」 かったるそうな口調と共に、器用にゴスロリのミニスカートから蹴りを繰り出すゐろは。 不思議なことに、どのアングルから見ても、中は見えない。 鋼鉄で出来ているのか、そのスカート。 「フッ、言われるまでも無い」 コキコキと指を鳴らす生佐目。 「成程……恐るべきはその右手に非ず。結城竜一、その刃、その存在か」 満足げにほくそ笑むと、自分の唇についていた血をそっと指で拭う。 「今度は私の真の力を見せるとしようか」 エリューションに噛み付かれた場所が毒で腫れ上がっているのだが、その痛みは必死に我慢。 中二病を貫き通すのも大変だ。 ● 理恵を救出した所で、戦場には安堵の空気が流れた。 しかし、もう1つの任務である「ノーフェイスの撃破」は思った以上の困難となった。 ノーフェイスの眷属である猿型のエリューションは、近くにあった薬品を利用して器用に主の傷を癒してしまう。それによって勢いを得たノーフェイスは動きを阻もうとする高速の刃を恐れる事無く、反撃を仕掛けてくるのだ。 吐きつけられた毒液によって、身体を焼かれるリベリスタ達。 部屋の内部からも、ぶすぶすと嫌な煙が上がっている。 「これはちょっとまずいですねー」 アゼルは膝をつきそうになりながらも、気力を振り絞って癒しの息吹を巻き起こす。彼自身、ミリィに庇ってもらえなかったら、この程度の怪我では済まなかっただろう。 「でも、向こうの回復役を潰せば楽になるはず……!」 プレインフェザーは気糸をより合わせて、敵の中に撃ち込む。狙うべき相手は、猿型のエリューションだ。ネズミ型のエリューションを巧みに壁として、身を護っている。しかし、彼女の気糸から逃げることは出来ない。 そうやって、必死に戦うリベリスタ達の姿に不安げな表情を浮かべる理恵。状況が分からないなりに、自分を助けてくれたものの苦境は悟っているのだろう。 しかし、竜一はそんな彼女に向けて微笑みを浮かべると、剣を鞘に納めて構えを取る。一瞬、鼻の下を伸ばしかけたが、すぐさま表情を引き締める。 「俺の後ろに守るべき存在がいる。だから、俺は立っていられるんだろう!」 剣を抜き放つとそこから同時に真空の刃が飛び出る。 すると、猿のエリューションは醜い悲鳴を上げて動かなくなる。 そこから、戦局が一気にリベリスタの側へと傾く。今まで猛威を振るっていたノーフェイスの動きが封じられて、リベリスタが攻撃を押し込む余力が生まれたのだ。 「貴方が其の行いを人類の為と称するのなら、私達もまた人々の為に、貴方達を倒させていただきます」 気品に満ちたミリィの声と共に、再び研究室を聖なる光が覆い尽くす。見る見るうちに弱って行くエリューション達。 「今ぞ穿て……我が一撃」 生佐目の槍が赤い光を帯びる。 今の槍はただの槍ではない。生き血を啜り取る魔具だ。 「なに、この一閃、威力は保証されている……同類諸氏でな」 ノーフェイスに突き刺さるとどくんと不気味に脈打つ。 腹に大穴を空けられたノーフェイスは不気味に笑い出す。 『ふ、ふはははははは。凄いぞ、これだけ刺されたのに、痛みを感じない! さぁ、これで暴漢どもを追い払うのだ!』 そう言って、エリューションを嗾けるノーフェイス。既に正気など遠い彼方へ置き去りにしてしまったのは間違いない。そんなノーフェイスの声はガン無視で、ゐろははリベリスタへと向かってくるエリューションへと、そのふとまし……健康的な足を振り下ろす。 「とりまオッサン(元)は見なかった事にして、雑魚潰しとこっか。……しかし、まー」 元々不機嫌そうな顔を一層不機嫌そうに曇らすゐろは。 「ネズミといいサルといいオッサ……オッサンはいいや。ホント可愛くねーな。元のアザーバイドもこんなんだったのかっつー。もっとマシな細胞拾って来いって話だよね」 「じゃ、可愛くない奴らには纏めて消えてもらおうか」 暁はにぃっと笑うと、血の付いた鈍器を掲げる。 そこから広がる瘴気が部屋の中に広がると、みるみるエリューション達は弱って行く。 『バ、馬鹿な。何が起こった!? 何かしらの副作用なのか!? いや、私の研究に間違いは無いはずだ!』 革醒を果たしてしまったとは言え、神秘に関して正確な知識を有しているわけではない。物理的に分かりやすいスキルならともかく、神秘的なスキルに対して理解が及ばないのは当然だ。 「学術の徒とは言え、だ。こんな物を一般人が安易に入手できちまうなんてな」 そんなノーフェイスに対して、烏は平成二十四年制定 大日本帝國村田散弾銃を構える。 「これでどうです!」 ぱんっと乾いた音が響き、固まっていたエリューション達に向かって弾丸が襲い掛かる。 そして、意に沿わぬ革醒を強いられた生物達は動きを止めるのだった。 ● 「にしても、なんて説明したもんかな」 記憶操作能力を持つプレインフェザーが首を捻る。幸い、E能力で修正は可能な範囲だが、あまりにもことを荒立てすぎると、後々大変なことになる。 「プレ子さん、プレ子さん」 「ん?」 肩を突いてきたゐろはの方を向くプレインフェザー。」 「下着姿にして拘束した挙句薬物投与により変態行為に及ぼうとした際、極度の興奮と自らも薬物の影響により心臓麻痺で死亡、とかで良くない?」 「いや、林田は留守だった、とかにしとくよ。後はアークにお任せだ」 幸い、ミリィが部屋を捜索した所、理恵が元々着ていた服はあっさり見つかった。「実験に邪魔だったから脱がせた」程度の状況だったのだろう。 「ふふ、興味深いよね。ま……世間に出せる代物かどうかはさて置きだけど」 そんな彼女らの横で、暁は見つけた資料を楽しそうに眺めている。 生憎と激戦の中で、大半の資料は消えてしまい、細胞の出所も不明だ。最低限の資料を確保できただけでもマシ、といった所か。 「それが一般に出回ったってのが、今回一番の問題だからねぇ。おじさんそこが心配だよ」 すぱーっと紫色の煙を吐く烏。 「杞憂なら良いがね」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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