● ――これならいける 薄暗い研究室。モニターを前に何やら端末を操作しエンターキーを叩くと、男は溢れる程の喜びと共に零した。 もうどれ程この瞬間を待ち望んで居たことか。長年の望みが、やっと形になったのだ。未だ完璧ではない。けれど、其れさえもすぐに訪れるだろう。 ぎしりと椅子を揺らし立ち上がると、男は壁際に無造作に置かれたソファへどさり、身体を沈める。 もう何か月も、まともな睡眠を取っていなかったな。そんなことを考えながら、胸元から取り出した煙草へ火を灯す。ふぅと吐き出した紫煙を見送りながら、緩く瞼を閉じて。 思えば、幾重に夜を重ねても先に進まぬ研究だった。何度も何度も折れ掛けて、夢に見る『化身』の姿にまた恋にも似た渇望の炎を燃やしたものだ。 しかし転機は不意に訪れる事になった。忘れもしない数年前の聖夜。不慮の事故で燃え尽きた私の研究データと家族、そして私の夢の具現への熱意。そして皮肉にも大火災から只一人生き残った自分。あの時はもう、駄目だと思った。 けれど、神の思し召しか、其処に降り立った女神様。 「ねぇスタンリー、アタクシ、優秀な部下が欲しくなりましたわ、この前一つ“壊して”しまったところですの」 ――六道紫杏。彼女はそう名乗った。少々落ち着かない雰囲気ではあったが、それを補い余りある研究への情熱。 私はあの滾る程の“知”への執着を携えた瞳に、救われたのだ。エリューションそのものを作り出したかった当初の計画とは僅かに違ってしまったが、私は『化身』を諦めず済んだ。 彼女の下で研究を再開した私は、彼女の下で何不自由なく自身の研究に着手することが出来た。曰く、頑張って頂戴ね。とのことだった。 新しく得た知識も技術も、沢山あった。そのどれもが魅力的で刺激的で、研究者である私はまるで、少年の様に目を輝かせながらパソコンの画面と夜を幾つも越したのだった。 気付くと過ぎ去る年月と、洗練されていく研究内容。その結果、私は此処まで来れたのだ。 「さぁ行こう。『始まりの火』が何よりも熱く尊い物だと、教えておくれ」 自分の望む『化身』の姿に、彼女の作品を織り交ぜて。煌々と輝く鬣を震わせる魔物を前に、男は呼んだ。 ――プロメテウス。始まりの火を、齎し者よ。 ● 「皆、心して聞いて。……また例の『エリューション・キマイラ』が現れたわ」 集まったリベリスタ達に、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は告げる。 普段よりか緊張に満ちる室内。イヴの言葉は、数か月前の一件以来、忽然と動きを止めていた一団が再び動き出したという意味を孕んでいた。 主流七派の中でも研究・求道を行動の主とする『六道』の一員、六道紫杏が率いる研究機関。その研究対象は神話の中の存在で、『キマイラ』と呼ばれる生物。 神秘を操る彼らがこの世に産み落としたのは、アザーバイドとも、生物とも、種々のエリューション・タイプとも異なる曖昧な存在だった。 「このキマイラはこれまでの報告よりも完成度が上がって、力を増してる」 言葉と共にイヴ操作するキー。投影されたのは、三高市の市街地中心に表れたキマイラの姿だった。 巨大な獅子と、その背に下半身を埋めた禿鷹。丁度そんな形状をした獣は、空高く咆哮する。びりびりと、空気が揺れて。 「おい、マジかよ……」 息を呑むリベリスタ達が見つめる映像の向こう側。恐怖に足を止める一般人を、赤黒い炎が飲み込んでいった。巻き上がる火炎が通った後には、骨さえも残さない。 これがこれから起こる事だと、カレイドシステムを介して『視た』イヴは言う。事の重大さは、容易く理解出来た。 「現れる場所も時間も解ってる。けど、そんなに猶予はないの」 だから急いで。そう少女は告げる。手渡されるのは詳細な情報を纏めたファイル。さぁ行こう。向かいながらでも、作戦を練らなくては。 部屋を出ていくリベリスタ達の背に、気を付けて。とイヴの言葉が追い掛ける。いってきます、と笑顔で吐くと、彼らは現場へと急いだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ぐれん | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月06日(火)00:24 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「プロメテウス、か」 リベリスタ達が現場へ向かう最中、『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)はぽつりと一つの名を零す。 プロメテウス。『万華鏡』が観測したエリューション・キマイラの名は、始まりを意味する神の名を冠するものだった。 此れが何かの“始まり”にならないかと、胸を締め付ける様な、嫌な予感。 「雷音、大丈夫でござるか」 そんな彼女の耳を、『自称・雷音の夫』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)の心配そうな声が擽った。 不安気に揺れる雷音の背に逸早く気付くと、直ぐ様駆け寄って顔を覗き込む。 「うん、うん。大丈夫。……この始まりを終わらせないと、だ」 何処か期待して居た者の声に、雷音は幾分落ち着いた様子で答える。 それから縋る様に握った虎鐵の袖口に、ぐいと力を込めて言う。ボクも冠する獅子の名に賭けて、絶対にあのキマイラを倒す、と。 「そうでござるな、雷音――」 ばさり、ばさり、ずしん。 突如辺りに響く、大翼の風切り音と、舞い上がる砂埃。 続いて上空を過ぎ去る巨影と起こる轟音が、『敵』の接近を確かに告げた。 虎鐵が浮かべた柔和な笑顔も、鋭い眼光となって怪物へと投げられる。その場に居た誰もが、武器を手に降り立った影を睨み、対峙する。 強靭な体躯の背に、厚い羽毛を携える剛翼。燻る鬣から弾ける火花が、陽気な音と共に燃え上がり、意思を持って浮き上がっていく。 それは間違いなく、先刻のブリーフィングで目の当たりにしたエリューションの姿。けれど、映像と本物の放つ覇気の違いに、リベリスタ達の背筋を嫌な寒気が駆け抜けた。 「――最近静かにしてたと思えば、仰々しい名前を付けた新作か」 舞い降りた敵に、鋭い眼光と共に吐き捨てたのは『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)。 修道女の法衣を揺らし、懐から取り出したのは駆ける兎が刻まれた魔銃。すらりと掲げ、撃鉄を引いて。 「何のお披露目会か知らないけど、早々にお引き取り願おう」 「同感です、シスター。生命と神秘への冒涜、許す道理は一片たりともありません」 杏樹の直ぐ傍。此方へ向き直り地を踏み鳴らすキマイラの姿に目元を尖らせて、『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)は零した。 六道によって弄ばれた生命。私にはそれを砕き、救う義務がある。 彼らはあくまで被害者に過ぎない。用があるのは人為的にエリューションを作り出した六道、彼らにだ。それが例えどんなに純粋な探究心から生まれたものであっても、彼らが犯したのは間違いなく罪だ。 二つ名を具現化した様な、深く蒼い瞳に熱い炎を滾らせて、リリは二丁の拳銃を構える。 「両の手に教義を、この胸に信仰を。天に背く者へ報いを」 緩く閉じた瞳。言葉の中に祈りを込めて。杏樹と共に言い放つ、合言葉。 「「全ての子羊と狩人に安らぎと安寧を。――Amen」」 ● 「みんな、いくよーっ!! らいよんちゃんとミーノでみんなをおたすけするからねっ!」 動き出す戦場。駆け出すリベリスタの誰よりも早く、『おかしけいさぽーとにょてい!』テテロ ミーノ(BNE000011)は行動を開始していた。 わたあめの様な尻尾をふわりと揺らして、小さなつばさをみんなにぷれぜんと。今日は皆の回復に支援に忙しい御予定。せくしーがセクシーになる日まで、みーのはがんばるのっ! 「虎鐵、絶対に、絶対にこの悲劇はとめるぞ」 「勿論でござる。拙者は前に出る。雷音は陣地作成の方、頑張るでござるよ」 雷音がとん、と軽く押す背中。陽気な声でそう告げて、真っ直ぐ前線へと向かう虎鐵の背に、深々と頷いて、神秘を練り上げる。 キマイラを逃がさないための、今日の大一番。無力なボクにも、やれることはあるんだ。 頼もしい背中が、そこにあるから。ボクは心からそう思える。 「雷音に、偶にはいいトコ見せないと。……でござる!」 あの子に応援されたとあっては、この虎鐵、頑張らない訳にはいかない。 駆けた先で、勢いの儘に振り抜く大太刀。但し吹き飛ばすのは、怪物ではなく邪魔な乗用車。 皆の射線を開くのと、爆発の危険を遠ざける意味を兼ねて。“準備”が出来るまで此処はしばし、耐えなければ。 更にもう一台、猛烈な勢いで吹き飛んでいく車があった。一撃の主は『Trapezohedron』蘭堂・かるた(BNE001675)。 その手に握るのは“偏方四面体”の名を冠する多口砲塔。攻勢に余りに傾いた得物は、彼女の死への恐怖を払拭する為に。彼女の抱える矛盾を型成す為に振るわれた。 「――キマイラの完成、近い様でございまするね」 開いた視界。真っ直ぐに駆けると、『愛の一文字』一万吉・愛音(BNE003975)は大盾を掲げ、言葉と共に式神を呼び出す。 道端に転がる小さな石ころが、ぱちんと浮き上がって。突如其処に、小さな鬼が姿を現した。護る様に立つ式神に柔らかに微笑んで、一人思う。 白昼堂々、恐ろしい事をするものだ。それに、今更性能実験には思えない。此れが完成度の上がったキマイラを戯れさせる様な、単なる余興だとしたら。 「愛無き行為、万死に値するでございます!」 差し向ける剣、込めるは怒りではなく裁く愛。成敗を誓って、声高らかにそう告げた。 「何を好き好んでこんな場所で斯様な実験をするのやら、フィクサードとは度し難い」 ふぅ、と一つ吐息を零して。『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)は化物の眼前に走ると、独り言の様に。 『祈りの鞘』から、子気味良い金属音と共に剣を引き抜いて、眼前の化物に目を向けたまま。深く深く息を吐いて、集中力を高めていく。 こんな化物も、彼らなりの成果であり作品であるのだろう。好奇心を昇華させ、実践と蓄積の先で再現に至ったのだろう。 その飽くなき探究心そのものが、始まりの火から知恵を得た人の業と言えるのなら、必ずしもこの作品自体が“悪”とは言えない。けれど。 ごう、と唸りを上げて振り下ろされる大爪を、華奢な身体でさも当然の様に受け止めると、告げる。 「貴様等の玩具の及ぼす不和を顧みぬなら、私はそれを悪だと断じ、許さない」 言葉と共に、身体に溢れるエネルギー。不沈艦に擬えるクロスイージスたる肉体が、完璧な迄に練り上げられる。 「箱舟の力を以て、吹き消させて貰うぞ。プロメテウス」 返事とばかりに飛び上がったのは、辺りを物言わず漂っていた炎のエリューション達。数にして四つ。個々の力は弱くともほぼ同時に襲い来る連携は危険にも成り得る物だった。 吐き出す火炎がアラストールの身体を包み、焼き焦がす。舌打ちと共に携えたマントを翻し後退しても、その距離を離すには至らない。 「邪魔だよ小さいの。まずは君達から処理させてもらう」 目にも留まらぬ神速の抜き撃ち。群がる炎の横っ面を、杏樹の放つ弾丸が貫き、消し飛ばした。 それから手番を幾周か。虎鐵とかるたの両人が射線を遮る車を吹き飛ばし、キマイラの眼前に立つアラストールの傷を、ミーノの放つ音色が癒して。 「――よし、皆お待たせなのだ」 それまで幾重にも練り上げ、集めた神秘を解き放つ。見開く瞳と共に雷音が体現するのは、『塔の魔女』を模す強力な魔術結界。 薄い膜の様な神秘が辺りの風景を包み込んでいく。此の空間そのものが、彼女の支配下に堕ちたのだ。 「ここから本番でござるよ。きつい一発、お見舞いするでござる!」 雷音が放つ結界に合わせて、虎鐵が食い縛った顎の奥。身体の中心で湧き上がる力。先程迄の我慢を吐き出す様に空高く、吼える。 例え生命を弄ばれキマイラと化してしまっても、獣の因子はその魂に息衝いているのだろうか。虎の咆哮に呼応するように唸り、吼えて。獅子は真っ直ぐに虎鐵目掛け走る、が。 ひゅん、と風斬り音がして。式神の鴉が弾丸の如き速度で叩き込まれる。 「弱き力でございましょうが、その爪を仲間へと突き立てさせるわけにはいかないのでございます!」 神の加護より紙の加護。味方には触れさせまいと、愛音が声を張り、対峙する。不意に変わる標的。駆ける勢いの儘に振るわれる牙を、愛音は寸での所で身を躱す。 残像を残す程の急激な加速。捉えきれず空を切る一撃に、叩き込まれるのはアラストールとリリの容赦ない斬撃と術式、それに続いて駆けるのは、かるた。 全弾平らげて下さいませ。言葉の儘に躊躇なく引ききる引き金。轟く砲撃音。とめどない圧倒的な面火力が、獅子の顔面と焼き抉った。 堪らず怯むキマイラを護る様に、『火の粉』達が舞い踊り、吐き出す火炎がかるたを焦がしても、彼女の射撃は止まらない。止まるつもりは、毛頭ない。 連撃に続く連撃。嫌々と身を震わす獅子を、逃がすまいと怒涛の猛攻を続けるリベリスタ達。 べっとりと浴びた血糊は、確かに与えた傷の証。攻撃と支援のリズムが合致して、更に勢いを加速させていく。そんな時。 「き、きます!」 「や、やばいなのぉーっ!」 彼の映像で見た動き。獅子が放つ火炎に合わせて、背の禿鷹が大きく翼を引くのを、リリとミーノの二人が察知し、声を上げる。――しかし、遅い。 巻き上がる火炎が、火柱となり空気を焦がして迫る。リベリスタ達の視界を、熱い焔が包み込んだ。 ● 「この破壊を撒き散らすだけの存在が、何を齎すというのでしょう」 未だ燻る空気。地獄の火炎を超える熱量が過ぎ去った黒煙の中で、かるたは静かに立ち上がる。 既に傷付いた身体は限界を通り過ぎていた。それでも迷わず運命を差し出して、彼女は此処に居た。 原初の炎。それは確かに様々な恵みを人々に与え、人類の文化を築く礎となった。 その名を冠し、生命を作るに至った程の情熱を、彼らはこんな形で具現化し、陶酔でもしているのだろうか。 身体を焼く痛みが、肺を焦がす熱が、怒りにも似た感情となって彼女に流れ込む。 「何という傲慢、なんという蒙昧。放つ炎は、こんなにも明るく、あたたかいのに」 薄く細めた瞳。爪が白く染まる程に握った得物を振り上げて、眼前の獅子の顔面へ叩き込む。弾丸はもう尽きた。それなら、殴り砕くまで。 巨体がぐらり、揺らめく程の火力を以て、治癒さえ望めぬ傷を刻み込んだ。 放つ弾丸は我が祈り この身は邪悪を滅する神の魔弾 御心に仇為す者を攻め滅ぼさん 体勢を整える暇等、与えない。燃え燻る身体も其の儘に、リリはインドラの雷たる一閃を放った。 弾ける火炎を切り裂く様に、アラストールの一撃が、杏樹の弾丸が刺し貫き、叩き斬る。 あれれぇ、皆様炎で相当あちちなご様子っ。此処ははいぱーわんだふるでりしゃすさぽーたーミーノ、必殺の……! \ぶれいくひゃー/ 奮起する仲間に続いて、戦場を突如照らす、破邪の閃光。更に訪れる、雷音の齎す癒しの音色。崩れかけていた戦場を、確かに持ち直して。 「此処で倒れている訳には、いかないでござる!!」 既に燃やした運命。手にした大太刀を構え直し、虎鐵は空高く烈哮を放つ。彼の紅い蛮族の如き猛攻を、“鬼影兼久”の名に乗せて。相手は百獣。知るか。そんなこと。 振り抜いた大太刀にびりりと響く、確かな手応え。額へ深々と刻む傷痕。此れまでリベリスタの圧倒的な手数に耐え抜いた獅子が、沈黙する。 未だ残る生命としての本能だろうか。背の禿鷹が、その禍々しさとは対極の鳴き声をあげ、逃走を図った。 「生まれたばかりで悪いが獣、お前が外に出る事は二度と無い」 逃げ去る背に投げられるアラストールの言葉。瞬間的に込めた力で一気に距離を詰め、腹部へ輝く斬撃を見舞う。袈裟懸けに振り抜いた剣。肩口からどぷりと血糊を被りながらも、切り上げる様にもう一撃。 それでも、止まらない巨体。苦し気に喚く鷲が飛び去る先は、“陣地”の壁。破る術を持たない怪物には、余りにも厚い壁。 「シスター! とどめを!」 「――御休みだ、化物」 もう一度、すらりと掲げた魔銃。この世の帳を捧げてやろう、あの世で精々安らかに眠れ。 瞑った片目。確かに照準を差し向けて。放たれる女神の銀弾が、頭部を正確に貫いた。 ● ずん、と重々しい音と共に地に伏せるキマイラ。 雷音はその巨体の元へ駆けていた。絶命した獅子に手を振れて、少しでも彼らの情報を掴もうと。 皮肉にも、雷音の眼前で此れまでの様に、ぶくぶくと泡立ち、崩壊を始める巨体。 「見ているのだろう! 貴様等の野望はアークが潰えさせる!!」 伸ばした掌をぎうと固く握って、空を見上げ、叫ぶ。それは、確かに監視する彼らの元へも届いただろう。 「ら、雷音! けけ、怪我はないでござるか!?」 予想外の行動。慌てて後ろから駆け寄ると、虎鐵は彼女の身を案じ無事を確かめる様に質問の雨を投げかけた。 「……愛なき志では、このような空虚なモノしか生み出せないのでございます」 二人から一歩下がった位置。沸騰した様に溶けて消え行くキマイラの姿に、愛音は誰に言うでもなく呟く。 研究に必要な物は知識と熱意。それに、一番大切な、愛という調味料。 誰かを想う愛が、歩む道を照らし示すのだと、続けて。悲しそうに、一言添える。 「始まりの火に、既に心を焼かれた者にはわからないでございましょうけど」 遠く投げた視線の先。ぎりりと歯を食い縛る男が、一人。 「何を綺麗事を……。空虚? 愛? 知った様な口を吐くか、小娘」 未だ“アレ”は完璧ではなかった。研究データの収集の為、念のため現場近くへと設置した指向性マイクから、聞こえてきたのは愛音の言葉。 此れまでの研究は抜け殻だった俺を確かに生かし、燃え上がらせ、生への執着を思い出させてくれたのだ。否定される様な道理は、何処にも無い。 「チーフ、そろそろ撤収を……」 「解っている。帰るぞ、未だプロメテウスは完全ではない。問題は山積しているのだからな」 もう一度、遠く米粒程に見えるリベリスタ達に目線を向けて。六道の研究員達は現場を後にする。研究員の一人が、吐き捨てる様に。 執拗なまでの情熱と、海の様に深い知識とが、何よりも尊い作品を練り上げるのだと知らしめてやる。紫杏殿とて、動き始めたのだ。完成も、程遠くない。 「待って居ろ、小娘」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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