●千葉炎上 『縞島組』『風紀委員会』『ストーン教団』『松戸研究所』『弦の民』『剣風組』。 六つのフィクサード組織が互いの理想実現のために新生『九美上興和会』として協力合併し、巨大なフィクサード組織に生まれ変わろうとしている。 彼等の秘密兵器、アーティファクト『モンタナコア』。 組織を完全なものとすべく狙う『セカンドコア』。 無限の未来を賭け、大きな戦いが始まろうとしていた。 ●英雄漆黒 高く、それはもう高く、天に向かって聳え立つ送電塔。 その、頂点に。一人の人間が、立っていた。 「よし、皆ちゃんと所定の位置に付けよー。一応翼の加護有るけど、念の為にいつでも足場確保出来るようにしとくんだよ」 改造された学ランのようにも見える、黒のバトルスーツを身に纏い、黒塗りの木刀のような何かを振り回し指揮を執る、彼或いは彼女の顔立ちは、酷く美しく、正に、高嶺の花。 稀代の美少年とも、絶世の美少女とも取れるその姿に、凡そ三十名はゆうに超えるであろう、部下と思しき軍隊風のボディースーツの男達の士気も高まっているように見える。 「後はそうだな……突出しない事。これ大事だからね。全体と足並み揃える事が肝要だよ」 取り敢えずこれで良いかな、と一人ごちて、彼或いは彼女は溜息ひとつ吐いて額の汗を拭う。その所作すら優雅で、妖艶。 そして浮かべる物憂げな表情は、そのカリスマ性も相俟って、その場の全てを魅了した。 「……正直気乗りはしないけど、これも正義の為だものね。文句は言ってられないや」 花のような顔を上げて、再び上げられた声は、鈴が転がるが如く、それでいて、凛と虚空に木霊する。 「私達の目的は、この大舞台でリベリスタ達を誘き寄せて足止め、可能なら撃退する事だ! 主戦力が大勢で来る事は無いだろうけど、複数人だって此処で足止め出来れば御の字だよ。風紀だって――風紀委員長だって仰っていた、奴等は必ず来ると」 それは、アークには万華鏡があるだとか、そういった以前の話。そう、これは――予感。 なればこそ、彼等は己が掲げる正義の為に。 「死ぬ気で行くよ」 ●存在意義 「クール&ビューティ、それでも報われない――それが、ダーク・ヒーローってモンさ。Do you understand?」 相変わらずマイペースにNOBU節を炸裂させる『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)。 口上は良いから早くしろ、とその視線で訴えるリベリスタ達に、伸暁はやれやれと言わんばかりに肩を竦めて見せる。 「Be cool, be cool. そう急かすなよ。こんな時こそ余裕を持って事に当たるべきだ」 とは言いながらも、伸暁はパチン、と軽く指を鳴らし、スクリーンに映像を映す。現れたのは鉄塔の頂点で黒き木刀を振るう人影。 「平城山光斗。ジーニアスのクロスイージス。性別不詳。ま、名前の響きからして、男って事で話を進めるか。ん? 何でこんな事になってるのかって?」 グダグダ説明するのは性に合わないと、伸暁は流れるようにリベリスタ達に資料を次々手渡してゆく。 それによれば――現在千葉で六のフィクサード組織が合併、ひとつの巨大な組織となりつつある。 彼等は互いの理想の実現の為に、それぞれの思惑を抱えひとつの目標へと突き進む。 その第一歩として彼等は、切り札であるアーティファクト『モンタナコア』を使って組織の兵力拡大を図っているのだと。 「この『モンタナコア』って奴は、人間の寿命、生命力――ライフとでも言えるモンを喰らって、一般人の革醒を促したり、元々覚醒者だった連中を強化したり出来るっっつー代物らしい。大方それで手っ取り早くポテンシャルをアップさせようって魂胆だろうよ」 スマートじゃあないね、と緩くかぶりを振る伸暁だが、批判している場合ではない。 彼等をこのまま放っておけば、広大なエリアがフィクサードに落とされてしまう。そうなれば、彼等の目論見通り巨大組織の完成だ! 「其処で、だ。アークは俺達フォーチュナの予知で奴等の位置を特定、現場に急行。そして――撃破! そういうシナリオを書き上げた」 どうやら彼等は千葉圏内に集結しているとは言え、未だ小隊としてバラバラに散らばっているらしい。 ひとつに纏まられると厄介な事この上無いだろう。しかし逆を言えば、まだ合流していない今が各個撃破する好機という訳だ。 「ああ、そうそう。日中となると都会の雑踏が気になるだろうが、人払いを気にする必要はナッシングだ。其処は協力組織のリベリスタ連中が入念にやってくれてるからさ」 だから――NOBU流に言うなら、フルパワーで、クレバーに。クールで、スタイリッシュに。要するに、全力で戦って貰いたい! ●高嶺光花 「で、肝心のボス――平城山だが、すぐに判るだろ。何しろオン・ザ・トップ・オブ・タワー。そうでなくても黒尽くめに黒髪で金瞳の美人だ」 加えて統率力もかなりのものだと言う。チートってのは恐ろしいねとNOBUは薄く笑った。 「まあ、幸いにして取り巻き――このメットにボディスーツ、社会正義のシンボルとでも言いたげな対テロリスト相手に使うような軽機関銃装備の、ナンセンスなミリタリー連中は今のお前達ならまず遅れを取る事は無いだろうさ」 だが、問題は矢張り光斗の方である。映像でこそ気さくな上司といった風情であったが、出自は“あの”風紀委員会であると言う。任務遂行は淡々と、そして敵には冷酷に当たる恐ろしい相手だ。 加えて、伸暁はこの光斗という(便宜上)少年に、奇妙な違和感を覚えていると言う。 「……何つーのか、普通のクロスイージスとは何かが決定的に違う気がするな。敢えて言うなら……アン・コンベンショナリティ、とでも言うのかな」 ――判んねえよ。 「まあ兎に角、対クロスイージスの常識が通用しない相手かも知れないからな、気を付けろよ。ああそれと、今回のステージは送電塔で、連中は常時翼の加護を掛けてるらしいからな。ご希望とあらばこっちでも使い手を派遣してやるぜ」 確かに、映像通りの鉄塔が戦場だと言うなら、飛行効果無しで連中に、特に頂上に居る光斗を破るのは困難を極めるだろう。面接着があれば登って行けない事も無いだろうが……。 「ラストになるが……実はこいつ等を倒してジ・エンド、とは行かない。平城山を倒したら、動ける奴はすぐにでも九美上興和会をぶっ潰しに向かってるメンバーに合流して、フィナーレのアシストをして貰いたい」 其処までが、任務。それを成し遂げて、晴れて任務完了という訳だ。 「キツイかも知れんが、お前達のヒロイズム、連中に魅せてやれ」 そう言って、目配せひとつ。派手さは無いが、如何にも彼らしい激励と言えば、彼らしい。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:西条智沙 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月04日(日)00:17 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●上昇志向 高く高く聳え立つそれを見上げて、『蒙昧主義のケファ』エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)が静かに、しかし確かに呟く。 「何とかと煙は高い所が好きとはいうけれど、一帯が危険なら黙ってはいられない」 「馬鹿とナントカは高い所が好きって聞いた事があるけど……」 ああ、皆まで言っちゃった。 ともあれ、そう続けた『いつか出会う、大切な人の為に』アリステア・ショーゼット(BNE000313)もまた、半ば感心した様子で声を上げた。 「今回の戦場たっかいねー。上ばっかり見ると肩こっちゃうよねー」 その頂点には、今は見えないが、この大舞台の片棒を担ぐ“馬鹿”が居るのだろう。 ――平城山光斗。 一方、飄々とした風情で、寧ろ何処か楽しげに、額に手を添え居る筈の光斗を見上げるのは『九番目は風の客人』クルト・ノイン(BNE003299)だ。 「中々面白い舞台じゃないか、バカと煙は高い所を好むと言うけど、連中もその口かね?」 考える事は皆同じらしい。 「Hochmut kommt vor dem Fall. 思い知って貰わないとね」 だからこそクルトもまた物怖じせず、にやり、ほくそ笑む。 「風紀委員会……強すぎる正義感を持った連中と思っていたが」 『墓堀』ランディ・益母(BNE001403)も天辺を仰いでいて、しかしすぐに失望したように視線を目の前に落とした。 「すっかり本末転倒だな、何をしたかったんだ?」 既に機関銃を構え臨戦態勢、此方に殺気を向けてくる風紀委員会の手先達にはその答を望めそうにも無い。 傍ら、『蛇巫の血統』三輪 大和(BNE002273)は意を決したように、ゆるりとかぶりを振った。 「彼らには己が掲げる信念がある。ですが、それは私達にも同じこと」 ならば、その信念によって、敗ける訳にはいかないのだ。 「うむ、千葉を炎上させようとは大きく出たなやつらは」 だが――と、『ジーニアス』神葬 陸駆(BNE004022)はまだ幼いながらも、凛と声を張って。確りとその二本の脚で立って。 「そこに正義などみえん」 止めなければならぬ。ならば戦って見せよう。 「天才たる僕には止めることができるのだ」 ご所望の通り、クレバーに。 「いざ、参ります!」 大和がその手に止水を構える。 ――瞬間。 弾丸の雨霰。リベリスタ達に、等しく降った。 ●下剋上天 「ふ、遅い遅い!」 『巻き戻りし残像』レイライン・エレアニック(BNE002137)は小馬鹿にするよう哂って見せると、軽い身の熟しで鉄の豪雨をひょいひょいと躱しつつ、自らのギアを最高の状態まで高め上げ、最高速度を作り出す。正に猫の如し。残像の通り名も伊達ではない。 ほぼ同時に同じ最高速度を生む為のギアを上げたのは、エレオノーラ。彼女――否、彼もまた、その身を羽のように軽やかに、舞うように、華麗に、猛射を全て避け切って見せた。 そしてそれぞれが臨戦態勢の構え等を取る間、リベリスタの攻撃手は不在という訳では無かった。 手始めに陸駆が神秘の閃光弾を地上の敵陣に放り投げる。眩い白光は拡散して、敵の多くから自由と、恵まれた翼を奪う。 (思えば、色々なフィクサードと命をかけて戦ってきたわけで、みんな色々と因縁があるんだね。でも) 因縁が在ろうと無かろうと、今、自分がすべき事はひとつ。仲間と共に、全力で、この戦場を制するのみ! 「敗けないよ!」 『食堂の看板娘』衛守 凪沙(BNE001545)が蹴撃を放つ。風の刃を纏ったそれは、飛刃となって、地上より離れた塔に陣取る一人の男に襲い掛かる。 一見全員同じ格好で判り難いが、一人だけ、線の細い者が居た。恐らくは奴が、ホーリーメイガス。 風の飛刃に、ホーリーメイガスと思しきその男は咄嗟に防御態勢を取るも、凪沙の一撃は余りに鋭過ぎた。まるでガードとなる全てが意味を為していないかのように、深い深い傷を負ったようだ。ボディスーツが裂け目から赤く染まり、鮮血が溢れ出る。 リベリスタ達の猛攻は続く。ランディが後に続いてその傷付いたグレイヴディガーを振り被る! 「道を開けな!」 ランディによる大斧の高速旋回による烈風の如き風圧の暴威は、まだ陸駆のフラッシュバンの影響で統率を乱された地上の敵陣全てに甚大な被害を齎した。 リベリスタ側に重なった幸運に、ホーリーメイガスは、翼の加護の付与よりも、回復を優先した。 敵陣が被った傷が癒えてゆく。そして勢いを取り戻した彼等は、地上、そしてそのやや上の骨組みに陣取る者、動ける全員がリベリスタ達に再び銃口を向けた。 過不足無く、偏り無く、全てのリベリスタに平等に浴びせられるそれを、掻い潜り、或いは耐え抜き、好機を待つ。 敵のクロスイージスが放った浄化の光が敵陣の不浄を癒すと同時。リベリスタ達も再び動く。 高速の跳躍から繰り出される、レイラインのしなやかな多角攻撃に惑わされるホーリーメイガスを、続けてエレオノーラの気で紡いだ光糸が真っ直ぐに強襲する。 「嫌いなのよね、見下ろされるのが」 「うむ、全力で打ち墜としてくれるわ。お主らも、光斗とやらもな!」 レイラインの宣言と共に、エレオノーラの気糸がホーリーメイガスの腿を掠めた。 「僕の戦略演算によれば――押し切るなら今、なのだ!」 ●黒影捕捉 陸駆が、ホーリーメイガス達に向けて不可視の刃を差し向けた。訳も判らず切り刻まれるその現実に、統率の乱れは隠せない。 流れるように、クルトの大鎌が如き疾風の、凪沙の一陣の風の如き突風の、それぞれの風の刃が蹴撃と共に敵陣を貫く。 だが、それと同時――いつの間にか天辺から、そのひとつ下で待つ彼の部下の下まで移動していた光斗が、聖なる十字、白金の光を生み出しては、周囲を包んでいる。 「光斗が何か仕掛けている。クロスジハードかな。時間は余り掛けられないな」 最後に、そして確実に倒すべき敵の放つ光を眩げに仰いで、クルトが呟く。 「確実に討つべきか、否かを瞬時に見極め、抜けましょう」 大和がその刀の切っ先を向けた相手は爆ぜた。静かに、しかし確かに破滅の宣告を投げられたが故に。 「邪魔なんだよ!!」 忌々しいまでに公正なる狙撃を続ける敵陣に、ランディが再び暴風を呼んだ。多くがその風圧、何より気迫に押されて身を竦ませる。 「アリステア、大丈夫かえ?」 「ん、ちょっとキツいけど準備完了! 次からばっちり回復出来るよ、心配してくれてありがとっ!」 此処までで消耗の激しいアリステアだが、レイラインに声を掛けられ笑んで見せた。事実アリステアが回復に専念する為の準備は整っている。 その後もリベリスタ達は、翼を折り、薙ぎ払い――立ち塞がる数の暴力を捻じ伏せていった。 「粗方片付いたかしら。それじゃあ、行きましょうか。自分の生き方を他者に委ねて平気な顔してる黒い麒麟を墜としにね――」 あたしの主義に反するの、とぽつり、呟いた言葉を拾えた者は居ただろうか。 地上から届く範囲で多くの敵を撃破し、残る者達の殆どからも翼の加護を失わせ、供給要因であるホーリーメイガスも討ち取った。フライエンジェもエレオノーラが可能な限りその翼を穿っておいた。これでそうやすやすと追い縋っては来られないだろう。 中央部の部下達に加護を齎した光斗が、軽快な足取りで鉄塔を登ってゆく。 リベリスタ達はその背を追って登る。飛んでゆく。もっと高く、もっともっともっと。 ●鉄塔疾駆 「群れないと大それた事ができないなんて、小物にも程があるわね」 薄く笑って、エレオノーラは作り物ではないその翼で、悠々と空を越えてゆく。 追って宙に出ようとする敵の一体を、レイラインが舞うように跳び上がり、撃ち墜とした。 「天才たる僕に抜かりはないのだ」 にやり、陸駆は口端を吊り上げる。下方から未だその背に翼を宿し追い縋る者達へ、駄目押しのフラッシュバンを投擲した。 クルトが飛行を止め、鉄塔に降り立つ。そのまま骨組みを駆け上がる。 「Platz da!」 その脚で生み出す風刃を薙ぐ。身を刻まれた敵の多くがバランスを崩して墜ちてゆく。 「おっと! 危ないなあ」 降ってきた敵からひらりと身を躱し、アリステアは溜息を吐いた。リベリスタ達の傷は浅くは無い。しかし、未だに戦線が崩壊していないのは、偏に彼女が満たす聖なる癒しに依る所が大きい。 「千葉燃やされても困るし、全員が無事にお仕事を終えて、決戦に向かえるように、回復頑張るよ!」 アリステアを中心に、清らかな光と風が展開される。意思に応えた希なる存在は、仲間達の傷痍を取り払う。 「手は抜かないよ、全部出し切って、勝つ!」 凪沙の生む風もまた、真っ直ぐに敵陣を吹き抜けた。銃を構える間も無くその一撃を受けた者の身体に、ぱっと真っ赤な血の花が咲いた。 消耗が激しいと見るや、一人の男が自らを起点に癒しの力を奮おうとするも。 「お前が供給役か、逃がさねぇ!」 丁度同じ高さに辿り着いていたランディの気魄に押され、そのまま彼の大斧の、真っ直ぐな、単純破壊の裂帛の一撃の前に為す術無く崩れ落ちた。 「後少し……後、もう少しです」 銃口を向けてきた敵の攻撃を躱しつつ、今一度天を仰ぐ大和。勿論、反撃の破滅予告を投げるのも忘れない。 翼をその身に受けているであろうにも拘らず、麒麟の名を冠する黒き影は、鉄塔の天辺、正に点と言えよう足場を離れようとしない。 黒麒麟が今、何を考え、どんな表情でリベリスタ達を見下ろしているのか、知る者は居ない。 ともあれ、部下の群れは大方蹴散らした。 此処からが本番――いよいよ、決戦の時なのだ。 ●無名英雄 最初に、光斗と相対したのは、この場で最速を誇るレイライン――ではなく、エレオノーラだった。 「!」 流星の如き超加速。圧倒的な速さで突っ込んでくる彼のその勢いを、光斗に止める事は出来なかった。 咄嗟に手にした漆黒を胸前に翳そうとするも、勢いを殺し切れずに光斗は吹き飛んだ。 「御機嫌よう黒麒麟、貴方がその名の通りなら、確かに盾らしくないわね」 流石に今のは往なし切れなかったようだけど――薄い笑みはそのままに、エレオノーラは投げ掛ける。 光斗は冷ややかに一瞥すると、空中でふわりと受け身を取る。しかし其処に、レイラインの追撃が待っていた。先程まで光斗自身が立っていた天辺に、彼女は居た。 「ならば二度目は避けられるかのう? 勝負じゃ!」 落下してくる光斗と、跳び上がったレイライン。その視線が同じ高さで交差する時、レイラインはその血染めの刃、と言うよりは、猫の爪らしきものを幾重にも重ね強襲する。 だが、光斗は興味が無さそうに身を捻ると、空中故に自由の利き難い筈の身で、最小限の動きで、被る被害を最小限に抑え込んでしまった! 「成程、黒麒麟または角端獣と言えば、随分と速く健脚な伝説の生き物らしいね。アン・コンベンショナリティも頷ける」 クルトが頷く。エレオノーラの言葉も、つまりはそういう意味だ。光斗は不沈艦でありながら、その防御力の幾ばくかを犠牲に速度を手に入れたのだ。 「矢張り万華鏡か。あの人数相手に此処まで誰も倒れずに来ているし、情報だけは十分らしいな」 レイラインに最初の立ち位置を取られている為、やや下の骨組みに降り立つ光斗。ハイバランサーと面接着の恩恵だろう。 「己が掲げる正義、面白い」 光斗よりやや下を浮遊する陸駆が不敵に笑う。位置取りは光斗の退路を断つ為であろうか。 「アークのリベリスタとの正義、どちらが強いかだ。勝ったほうが正義だ、そのふざけた正義を――ぶっつぶすのだ」 大義は我等に在り。その自信は揺るがない。 刹那、陸駆から放たれる、それはもう細く、だからこそ強靭でしなやかな気糸。光斗の反応もなかなかだが、矢張り元は盾たるべき存在。肩口に突き刺さる。 「ッ……」 微かにバランスを崩して、ややずり落ちる光斗。 クルトが氷を纏う腕を伸ばす。それでも光斗はひらりと躱す。 そして――大和へ向けて、今一度無骨なる黒き刃に鮮烈な破邪の白金を乗せて、振り下ろす! 「帰ってお前達のボスに伝えろ、いつか私達がお前達のエゴを打ち破ってやるから!」 強烈な一撃。避け切れない。しかし大和は冷静だった。ならばと、急所だけでも穿たれぬよう身を傾け、防ぎ切れぬ部分はその愛刀で削り取る。 矢張りその光剣は重く、往なし切れず貫かれた腹部は激しい痛みと鈍い痛みを交互に繰り返す。それでも、その輝きに翼を取り払われる事、何より致命傷は防いだ。 「わ、今回復するからねー」 アリステアの癒しの輝きを、此処までで疲弊していた仲間達と共にその身に浴びて、大和は真っ向から光斗に問う。 「貴方達の頭領に悪の定義を聞いた時、彼女は言いました。少数派のエゴこそが悪である、と」 果たして今の彼女達に、そう語るだけの義は在るのだろうか? 「さて、己が為に千葉を戦火に巻き込む今の貴方達はどうなのでしょうね?」 ――一瞬、確かに光斗がその双眸を見開いた。 ●猛攻捕麟 知らされていなかった訳ではあるまい。しかし今、光斗は確実に、改めて現実を突き付けられ、揺らいだ。 辛うじて、大和から伸びた人形を捕えるが如く束縛の気糸から逃れる光斗。だがその動きは先程と比べて、圧倒的に悪い。 けれど、その所作すら、優雅さを失ってはいなかった。不覚にも、凪沙が感嘆の溜息を吐く。 (それにしても、平城山光斗って、かっこいいね……) 髪は鴉の濡れ羽色。瞳は控え目に煌めくふたつの満月。肌は白磁で体躯は細身。日常の中では芸能活動を生業にしていてもおかしくはない出立だ。そんな事を凪沙は思う。 とは言え今この場では、敵。 (なんて、言ってる場合じゃないか!) 己を取り戻した凪沙の掌に、力が、熱が籠る。岩をも土塊の如く破壊する勢いで、全身全霊の掌打を見舞う! 「っく!」 先程陸駆に射抜かれた光斗の傷口に衝撃が叩き込まれた。みしり、と骨の軋む音が聞こえた。 更に渡り合う事暫し。光斗の振るう光の刃、その重さにリベリスタ達は苦しめられる。しかし、全員がその直撃に警戒していた事も、光斗自身が動揺していた事もあり、未だ翼をもぎ取られた者は居ない。 蓄積したダメージに、端正な面差しを歪める光斗の眼前に、ランディが躍り出た。 「光斗だったか。善悪論の問答は勘弁だが妥協しない正義は一応評価してたんだがな」 応答に期待はしていない。ランディは続ける。大斧は既に彼の背後で今か今かと待っている。 既に光斗への背に在ったであろう筈の加護は消えている。ならば迷う事は無い。 「妥協しない正義が妥協しちまったら、正義の裁きとやらは本当にただの建前以下だろうが!!」 その言葉が、その言葉と共に繰り出された破壊の重き刃が、光斗に重く突き刺さった。 めきめきめき、と嫌な音がする。光斗は悲鳴も上げなかった。 今は翼無き光斗の足が、鉄塔から離れる。 「人に後ろ指刺され様が、俺達に邪魔されようが貫けば良かったんだ、善かれ悪かれお前達に救われた奴だって居た筈だ」 その末路が、これなのか。 「妥協しちまったら俺達と同じ、ただの殺し屋だよ、残念だ」 男にしては華奢な――否、華奢過ぎる身体が虚空へと投げ出され、そのまま墜ちてゆく。 ●黒麒麟奔 「……! まずいのだ、僕の戦略演算がそう告げているっ!」 徐に陸駆が、何かに気付いて鉄塔を蹴り、光斗の後を追った。 他のメンバーも次々に彼の言葉の意味を悟り、後に続く。 落下していく光斗――その下に、翼持つ者が控えていた。フライエンジェだ。 「羽を攻撃して飛行速度は落としてたけど、ゆっくり飛んで来たんだ!」 「矢張り仕留めておくべきだった……!」 凪沙とクルトが歯噛みする。その間にも光斗は受け止められ、勢いを殺して墜ちてゆく。 電線に引っかかる。光斗もダメージを受けただろう。しかし遥か上空から人一人受け止めた重圧も相俟って、光斗の下敷きになった者は唯では済まなかった筈だ。 「お前ッ!」 「足止め致します、お逃げ下さい」 「けど」 「指揮官が倒れては組織は成り立ちませぬ故」 その言葉に、光斗は押し黙る。 だが、やがて追いかけてくるリベリスタ達の姿を仰いで、呟いた。 「ああそうさ、正義の為と言いながら、手段を選ばなくなったら、それはもう、ヒーローでも、いや、風紀の乱れを糺す者ですら、ない」 アリステアが零した言葉を思い出す。 ――大体、風紀委員会って何するの? 学校以外で何か役に立つの? かぶりを振った。そして項垂れる。 「……ごめん。出来れば生きて戻るんだよ」 「善処致します」 痛む身体に鞭打って、光斗は電流に耐えながらも電線を伝う。そのまま、地上を目指す。 「全員応戦しろ! リーダーの下へ行かせるな!」 そして何とか猛攻を耐え凌いでいたらしい、残り少ない、けれど確かに立ちはだかる光斗の部下が、リベリスタ達を行かせまいと邪魔をする。 「平城山は!」 「もう地上まで殆ど無いな……」 凪沙が叫ぶ。ランディが舌打ちした。 立ち位置は逆転した。そして、状況も。 だが、まだ立ち止まる時ではない。 「まだ仕事の途中なのよね、貴方達にかまけていられないの」 「じゃな、今は此処を抜けねばならぬ!」 光斗に追いつく事は、最早叶わないだろう。 それでも、リベリスタ達はその足を、止めはしない。翼を、畳みはしない。 今は虚ろなる“天”より決戦の“地”へと――駆け抜ける! |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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