●迷い込んだ城の外 此処は何処なのか、自分には全く見当が付かなかった。 ふわふわのベッドも無いし、自慢の毛並みを整えるブラシも無い。 色とりどりのこんな格子も見た事が無いし、椅子のようなものが鎖にぶら下がって揺れているのも知らない。眼下に迫ってきているのはリスやネズミに見えるが、―――こんな大きな彼らなんか全くもって知らない。 「な、何なのだ、お前タチ! ネ、ネズミ……なのか? ボッ、ボクを攫ったら父上が黙っていないぞ!」 その声はフゥッと威嚇の声と混じった。 そう、猫。 彼は猫だった。 猫が、憎らしくなる程美しくも綺麗な満月が照らすジャングルジムの上に追いやられ、巨大なリスやネズミに追われている。 ぶるぶると震えながら彼は鳴いた。―――いや、泣いた。 「誰かっ、助けてくれにゃあー!!」 ●猫の救助隊 「今回の仕事、猫の救出」 「え?」 『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)が真面目な顔をして簡潔に言うものだから、招かれたリベリスタ達の何人かは真顔で問い返した。 「え、猫……え?」 「リスとネズミに追われているわ。今、モニターに出す」 「………」 思わずごくりと唾を飲み込みモニターを見上げるリベリスタ達が見たものは、ジャングルジムに群がるリスとネズミ。それらに追い立てられている―――豪奢な服を着た猫。その猫が、 『たぁすけてくれにゃああ』 悲鳴を上げた。 「わかったでしょう。今回の目的は……」 「喋る猫!」 「……そこはアザーバイドと突っ込んで欲しかったわ」 案外テンポ良くノリツッコミに応えるイヴは、咳払いをしてから真面目な説明に取りかかった。 彼―――喋る猫が切羽詰まって追い詰められている、今見たその映像は、少し先の未来のもの。 けれど彼がピンチなのには変わりなく、準備が終わればすぐに出発して欲しいとイヴは言う。そうすれば現場に到着するのは、映像の通り、ぽっかりと浮かんだ満月の下、その時間になるはずだと告げた。 「まずは彼を守りながら、エリューション達を倒して。それから元の世界に還してあげて」 『にゃあっ!』 モニターの中の彼が悲鳴を上げる。 エリューションの一匹、リスが小石を尻尾ではじき飛ばして、ジャングルジムにしがみつく彼の前足を狙っていた。彼のまん丸の目は涙に濡れ、そのふさふさの頬の毛に幾筋も涙が零れていく。うるうるとしたその瞳に、何人のリベリスタが心を打たれてしまった事か。それを見てイヴは話を続ける。 「リスやネズミは大して強くない。ただ……戦闘が始まったら、ムササビとコウモリが増える。これは時間の関係と、隠れている所為で予め見つける事は不可能。それと、今回の仕事。猫好きは注意する事」 敵の情報よりも保護対象に注意を促す言葉に何人かのリベリスタは顔を上げたが、何人かのリベリスタはモニターの猫に釘付けのままだった。 「そう、それ」 そんなリベリスタへイヴはびしっと指を突きつける。 彼がうるうるした瞳で見つめ、頼りない声で鳴いた時、きゅんと胸を打たれてつい言う事を聞いてしまいたくなるのだとイヴは言う。 「めろめろになるって言い方が適切かもしれない。言われるがままに猫を抱いて走っていこうとしてしまったり、戦闘を放棄して抱き締めてしまったりする。……エリューションには効かないみたいだけど」 彼は無意識でやってしまっているだけだろうが、保護対象者に戦闘を乱されないように気を強く持つ事とイヴは言い、それから肩の力を抜くように息を吐いて、こう言った。 「無事救出できたら少し遊んであげるか慰めてあげて。怖い思いのままでいるより、少しでも良い思い出を作って帰る時間くらいはある」 彼はアザーバイド。 この世界の猫の常識に囚われず構ってあげると良いと、イヴはリベリスタ達を見送った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:琉木 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月30日(火)22:29 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●満月の夜に 「うにゃん……」 白銀の猫の声は切なかった。 知らない場所に一匹ぽっち。しかもリスやネズミっぽいものが自分の命を狙っている。 見上げればお月様。 あんなに大好きだったお月様も、今日だけは嫌いになりそうだった。だから、鳴いた。 「みあぁ――んっ!」 「んっ!?」 月の光を辿って公園へと走るリベリスタ達八人の中、一番先頭を切って走っていた『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)がその耳をぴんっと跳ねさせた。四次元帽子に収納してあるというウサミミが、帽子の中で反応したようだ。 「なになに? ニャンコの声が聞こえたのっ?」 「ばっ、別に耳を澄ましてなんてねーから!」 「うんうん! でも何? あのモコモコフワフワで助けてくれにゃあーって?」 ヘキサの慌てて取り繕ったような言葉も意に介さず、四条・理央(BNE000319)と『紺碧』月野木・晴(BNE003873)が身を乗り出して瞳を輝かせる。 「晴君の小動物大好き病がもう発動してますね……」 晴とは旧知の仲のリノ・E・レンフィールド(BNE004079)は走りながら静かに拳を晴へと構えていた。ツッコミの体勢である。 「おいおい、鳴いてんだったら急ぐべきじゃねぇか? 飛ばしていくぜ!」 そう言って期待に胸膨らませる集団を追い抜いて走り出したのは『BlackBlackFist』付喪 モノマ(BNE001658)。 「大事な大事な賓客の一大事なんだから、ゆっくりもしてられないわね。急行よ!」 「それは良いが、その手に持っているのは何だ?」 続いて頷いた『薄明』東雲 未明(BNE000340)に、『あるかも知れなかった可能性』エルヴィン・シュレディンガー(BNE003922)がひょいと指を指す。 「ブラシよ。家から持ってきた」 「……慣れてるな」 そんなやり取りが交わされる中、走る残りの一人はというと―― 「やべぇ、何あの絵に描いたような猫王子! その見掛けの上であの口調かよ!? あざといな! 超あざとい! 帰るまでに絶対もふってやる!!」 『住所不定』斎藤・和人(BNE004070)、未だ見ぬ猫王子様に既にめろめろになっていた。 ●助けてください、にゃあんっ! 「にゃあっ!」 猫はいよいよピンチに陥っていた。 じりじりと距離を縮めてきたリスが尻尾を揺らす。 「にゃ、にゃにをするつもりだにゃあ! ボ、ボクは猫だぞ! オマエタチなんて食べちゃ……怖いにゃ-!!」 猫が一際切羽詰まって鳴いた瞬間、公園に到着した人影が合計八つ。 「ねっここねこねこひゃっほー! 可愛い可愛いなあー! 助けに行かざるを得ないっていうか助けるよ今! 今すぐ助けあべしっ」 「晴君」 「……ごめんなさい調子乗りました」 晴とリノが漫才のような掛け合いをしていれば、その瞬間に猫へと吹き抜ける一陣の風――ヘキサ。 その先にはぷるぷると震え、うるうると瞳を滲ませる猫王子様。思わず胸を打たれかけた衝撃を振り切って、ヘキサはジャングルジムを駆け上がり、白銀の猫を抱き上げた。 「ふにゃぁあんっ! 何するにゃー!」 それはとても慎重なものであったが、怯えた猫は思わず爪をその腕に突き立てる。 「うっ……!」 可愛さと小さな痛みに思わずたじろぐヘキサへ、エルヴィンが仮面の奥から声を張り上げた。 「王子! 王子、我々は迎えです」 とりあえず嘘も方便。保護対象の猫に警戒されてはならないと、宥めに走る。ジャングルジムの下では新たな乱入者にリスが、ネズミが威嚇の声を上げていた。 公園の中へ走り込んだモノマがその足をざっと止め、静かに流れる水の構えで呼吸を整える。 「理央、頼んだぜ!」 「うん、皆、ニャンコのために行くよ!」 理央が細身の杖、ソーサリーヴァンガードを祈るように握れば、リベリスタ達の身体が軽くなる。それは比喩では無く、その背にそれぞれ翼の加護を与えられ、月の中でリベリスタ達は羽ばたいた。 その翼を受けながら、エルヴィンは更に自分のギアを入れていく。遮るようにリスの前に立ちはだかれば、リスは迷う事無くその前歯をエルヴィンに突き立てる。 「エル兄! リノ、ムササビ頼んだよ!」 「ええ。戦闘終了までは意識を集中しますよ。猫君の声も気にならない気にならない気にならない……」 公園の入り口で振り返る晴、自己暗示を始めるリノの前に立っていた木々が揺れる。がさっと葉を振り落として肥大化したコウモリとムササビが躍り出た。 二人は自前の翼をもってその進行を抑えるべく、その身を張る。 その横を見向きもせず走り抜ける未明は、エルヴィンの横を抜けようとするリスの一匹へバスタードソードを思い切り振りかぶる。 「世界で一番可愛いのはうちの猫だけど、猫に……賓客に手を出す不届き者は許さないわよ?」 吹き飛ばされ、土埃を上げながら立ち上がったリスは殺意もむき出しにギィっと鳴く。 怯える猫に安心してもらいたい。 未明は一歩でも近づけまいと、バスタードソードの切っ先をリスに向けた。 残ったネズミがひくひくと鼻を動かし、そのずんぐりした巨体をジャングルジムに向ける。 それを阻んだのは和人。 加護を受けた翼をはためかせ、痩せた身体からは想像できぬ気迫をもって腕を組む。そして威圧感たっぷりに腕を解く。 「おめーらなんかにあの猫王子にゃ触れさせねーよ。……触るのは俺等だ!」 どーん。 擬音語が攻撃になりそうな程きっぱりと言い切ると同時、和人は改造銃と書いて『てつのかたまり』と読むその拳銃で――殴った。その鈍器っぷりに思わず一歩二歩とたたらを踏むネズミ。 キィっと喚くネズミに、和人は不適な笑みを返したのだった。 ●こわごわ、にゃーん。 「なっ、何なのだ。何が起こっているのだ?」 抱き抱えられた猫が震えながら見上げてくる。そんな彼に戦闘を一切見せまいと、自分の身体を壁にしてヘキサは眉間をスリスリ、顎下を撫でてやっていた。 「言ったろ。助けに来たんだってな。ぜってー守ってやるからさ」 ニカっとしたその笑みに、猫は鳴きかけた喉をひくっと飲み込んだ。 後ろではジャングルジムを狙うリスをエルヴィンと未明が抑えている。 ちらりとエルヴィンは猫を、ヘキサの背を振り返る。 「ネコなのに、リスや鼠に負けているというのも、中々面白いな」 「こんなに大きかったら仕方ないわよ……っと!」 二人は残像をもって二匹のリスに斬撃を与える。キィィっと怒り任せに鳴くリスの声に猫がびくっとなり、ヘキサは益々優しく猫を抱き締めた。 の、だが。 「王子! おう……」 込み上げてきた涙が限界を超えた。 ひっくひっくと肩を揺らしてから―― 「ふにゃぁあああんっ!!」 猫、鳴いた。 「ニャンコー! 戦闘行為を行いながら抱いても問題ないよね?」 ふらふらと猫の方向へ近付いていこうとする理央の隣に、どかんと物音を立てて吹き飛ばされた和人がジャングルジムにぶつかった。 「理央、もふるのは後、もふるのは後……いや、乗り切る気はあんまりな、いや、乗り切らなきゃならんぜ!」 「おい、和人! ネズミがフリーだぜっつかー……俺ももふもふしたいんだから邪魔してんじゃねぇぞ、コラァッ!」 後ろから聞こえるめろめろ声に鉄の心で抗うモノマの迅雷は、八つ当たりの力が籠り鬼のようにコウモリとモモンガに襲いかかった。 その勢いに思わず晴はばさばさと翼を振るう。 勢いに押され高度を落とし掛かるコウモリの翼を更に抑え込むように気糸を放つ。 「ソワソワするけど……コウモリとかムササビとか全体的にサイズがオカシイ気がするから平気っぽい!」 小動物大好き病とリノに言わしめる晴は案外冷静にめろめろを振り切っていた。 自己暗示を続けるリノに、モノマは気合い一発、拳を鳴らす。 「悪いもふもふは静粛だぁっ!」 めろめろ効果はめろめろとせず、振り切る気力が逆にリベリスタ達のテンションを上げていく。 「未明、大丈夫か?」 「平気よ。だって世界で一番可愛いのはうちの猫だから。だからあたしは心動かされる物は何も見なかったし聞かなかった痛ッ!!」 すぐ後ろの鳴き声に心が傾く未明へと、リスの前歯が深々と突き刺さる。 「ウニャ~ン、ニャンコ……はっ、ごめん! 今癒すよ!」 猫の鳴き声が心を癒す中、ぼだぼだと現実に赤い血潮が公園を汚していく。理央は慌ててジャングルジムから手を離した。 一生懸命猫に背を向けながら、放たれる光がその血を止めていく。 そして何より、直に鳴き声を受けてたのが、ヘキサ。 「にゃーん。にゃあああんっ」 「…………!!」 ヘキサは一人まだ戦っていた。 ぐらぐらと抱いて逃げ出したくなる心を抑え―― 「オラァ!」 「にゃぎゃー!?」 ヘキサ、自分を殴った。 その勢いに思わず泣き止む猫王子。 「っしゃあ! 目ェ覚めたぜッ! 大丈夫だっつってるだろ?」 自分で殴った頬を赤く腫らしながらもニっと笑みを見せる赤の瞳に、猫は目をまん丸に見上げていた。 リノは泣き止んだ声に安堵しつつ、纏わり付く巨大なムササビに魔力剣を未明と同じく思い切り振りかぶる。 「まだコウモリ一匹、ムササビ一匹落とせてませんからね。それによそ見できる実力ではありませんし……早くモッフモフにさせて頂きたく!」 その言葉はリベリスタ全員の総意に等しく、一致団結、全員が嗚呼と声を張り上げれば、その頼もしさにヘキサは再び猫を柔らかく抱き締めた。 ●すごいひとたち 「えいっ! モノマ君お願い!」 「邪魔くせぇんだよっ!」 コウモリを縛る糸はその身を拘束するものの、決定打には至らない。晴の声を受けてモノマは猛る迅雷を再び巻き起こした。 焼き焦げて落ちるコウモリと、巻き込まれて震えるムササビをリノも逃がさない。 「この凶暴性さえなければヌイグルミのようで実に愛らしいのですが……残念です」 魔力剣に集め集めたエネルギーを、容赦なくムササビに叩き付ける。ギィっと声を上げて失墜し、もがいた後で動かなくなるムササビ。 「撃ち落としましたよ! 猫君は大丈夫ですか!」 リノがジャングルジムを振り返る。 キュンっと声が聞こえて、大型のリスが未明のバスタードソードに吹き飛ばされて、目の前に転がってきた。そのまま歯を剥き出す大型のリス。 「順調よ。王子様には毛先一本、近寄らせてないわ」 「一時は少し心配したがな」 「平気よ。うちの猫が世界で一番……」 「早くもふりてぇ! きっちりお掃除してやんよ!」 思わず突っ込んだエルヴィンに、浮気をしそうな時の為の魔法の呪文を繰り返す未明。そしてその声を遮る和人の魂の叫び。 声と同時に和人はネズミの巨体と押し合っていた。 あの柔らかな猫が噛み付かれたら一溜まりもないだろうネズミの前歯からはじわりと毒が滴り落ちる。 「邪魔者はとっとと消えろや!」 和人はその前歯に向けて、もはや鈍器と化した拳銃を今一度振り下ろした。 リノ達を無視してジャングルジムに戻ってこようとするリスに、天から降ってきた不吉な影が覆い尽くす。 「和人君に賛成。早く抱き締めたいし!」 癒やしの手を止め、理央は不運をもってリスを迎え撃つ。 「まったく凄い猫だな。全員を虜にしている……ふん!」 エルヴィンが魔力銃とナイフを交互に叩き込めば、その連撃にリスはその動きごと生命を停止させる。 その際エルヴィンはポケットを正した。 「エル兄……」 晴は見た。そこにあったのは猫じゃらしだった事を。 「ほらよ、もう一丁!」 「駆け出しリベリスタとはいえ、僕もいきますよ!」 天の影に覆われたリスに止めを刺したのは、喧嘩のように突き出した拳から放たれたモノマの雷。そして叩き付けられたリノの魔法剣。 ヘキサが猫を抱き締めながら顔を上げた。 「皆、やっちまえ!」 「―――おう!」 頼もしい仲間達――もとい、志同じく、猫に心を奪われた八人のリベリスタ達は、一匹残ったネズミに反撃する隙も与えやしなかった。 ●僕と君とが出会えた縁 戦いが終われば、ヘキサは猫を抱えたままゆっくりと地面に降りていく。 改めて見渡せば、総勢八人もの人間がいる。猫は思わずヘキサの服をぎゅっと握った。 「王子様、怪我は?」 そんな猫の額を優しく撫でる未明の掌。涙でぼろぼろの顔にそっとハンカチを当ててやる。 さりげなくもふもふなんかもしているが、きょとんとした猫の顔はみるみる安堵に包まれていく。 「猫」 モノマがその手に持ったものをひらりと翻した。 「ほら、忘れもんだ」 「ボクのお洋服っ!」 ヘキサに抱かれたまま、耳の上からちょんと被るシルクハット。きゅっと結ばれる蝶ネクタイ。 ぱっと顔を輝かして、ゴロゴロと喉を鳴らす。 「大切なモンなんだろ? 今度は落とすんじゃねーぞ」 ヘキサがシルクハットの埃を取るついでにぽんぽんと撫でれば、モフるのは順番と猫を地面に置いた。 ニャっと四つ足になりかけてジャングルジムにしがみついて虚勢を張る仕草が愛らしい。 「ウニャ~ン、ニャンコ。ようやくハグ! 幸せ~」 そこにすかさず理央が手を伸ばしてすりすりとその毛並みを堪能する。鎧はすっかり納めているので、もう注意する必要も、敵を気にする必要も無い。 にゃにゃんとじたばたする手足も何のその、ぎゅうっと抱き締めていれば覗き込んでいた晴のほっぺたに猫パンチがぽすんと当たり、二次災害を引き起こした。 「ふにゃ! ご、ごめんにゃ……!」 「もふん! ううん! これって我々の業界ではご褒美です!」 思わずばたばたする猫に、晴はきらきらと瞳を輝かせる。 「な、殴るのがご褒美なのか?」 理央に存分にもふもふされながら、もう一度ぺふんっと頬に肉球を当てる猫王子。 「理央、次、俺俺!」 「にゃんだ、オマエもボクを抱っこしたいのか?」 「やべぇぇぇ何その口調あざとすぎる!!」 「ぎにゃー!!」 「次は僕もですよ。斎藤君!」 理央の後ろでソワソワしていた和人は今か今かと両手を広げてウェルカムと猫を招いた。その後ろには順番待ちのリノ。 結果、これである。 どうやら和人の心にクリティカルしたらしい猫王子はがっちりと捕縛され、腕の中で再びぶわっと涙を光らせる。 それでも和人止められない止まらない。 「モッフモフ!」 にゃーん、にゃあああとじたばたする猫の主張空しく、リノにももみくちゃにもふもふされ、解放される頃には猫はちょっとへばっていた。 「オ、オマエタチ……にゃ、にゃんなのだぁ……」 しかし次の瞬間、そのヒゲが再びぴんっと張った。 見れば、エルヴィンが猫じゃらしをぱたぱたと振っている。 「こちらの猫とは違うらしいが、これはどうなのだろうか?」 「……」 「………」 「………ニャッ!」 やっぱり猫か、と、エルヴィンが思ったかは仮面の中に隠されてしまったも、振られる猫じゃらしの先に飛びつき、すり抜けた猫じゃらしをまた追いかける。 「ね、そろそろ。ばいばいの時間」 ほんの少し月の光が遮られて、晴は名残惜しそうに皆に声をかけた。ぴたりと猫の手も止まる。 「そっか、ボク、……おウチに帰らなきゃ」 しゅんとする猫にやっぱり胸打たれながら、未明が猫を抱き上げた。 全員でゲートまで連れて行く。 猫も心なしかしょんぼりとして、何も言わない。 ぽっかりと開いた穴を前に、猫はおずおずと振り返る。 そこに、なあ、と声をかけたのはエルヴィン、モノマ、リノ。 驚く猫に、エルヴィンは小さな長靴をプレゼントした。 「これは、餞別代りだ。こちらに伝わる伝説で、長靴を履いた猫と言うのがあってな。きっと、お前に似合うだろう」 「ほら、缶詰。土産に持って帰るといいぜ」 モノマが渡したのは、ちょっと高い猫の缶詰。 「身分のある方のようですので……これ、つまらないものですがお土産に」 リノが差し出したのは――美少女アニメのトレーディングカード。 「にゃ……」 最後だけウッカリ疑問の声が出てしまった猫だったが、その三つをぎゅっと抱き締めて。 「あ、ありがとう……にゃ」 小さく言って、空を見上げる。 空にはぽっかりお月様。 あんなに嫌いになりかけたお月様も、見上げればやっぱり猫に笑顔が戻ってくる。 「怖かったけど……楽しかった。今度は怖くない夜が良いから、また頑張って穴を見つけて、飛び込んでくるにぇ!」 「え、それはちょっ……!」 「ばいばーい、にゃん!」 ぴょんっと飛んで猫はゲートの中へと消えていった。 二度と来れるか解らない別世界のゲートの先。 来てはいけない別世界。 けれど恐怖を塗り替える優しさに包まれた猫は、そんな心配露知らず、いつかを夢見て消えていった。 「……大丈夫だろ。穴なんてそんな簡単に開けられねーし」 「……だよね!」 出入り口であるホールを破壊して、モノマが言う。一抹の不安を感じながらも、晴は碧い翼を伸ばして空を見上げた。 猫が何度も見上げた、お月様。 「さあ、じゃあ帰ろうか。幸せだった~」 「………そう、ね。ボトムを除いてなら、あの王子様が一番だったかも……」 理央も大きく伸びをして、未明は家で待つ愛猫を思って夜道を歩く。 月は優しく、暖かく、八人の帰り道を照らしていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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