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【千葉炎上】別離の友は修羅となり、我が身は生ける骸となりて

●千葉炎上
 『縞島組』『風紀委員会』『ストーン教団』『松戸研究所』『弦の民』『剣風組』。
 六つのフィクサード組織が互いの理想実現のために新生『九美上興和会』として協力合併し、巨大なフィクサード組織に生まれ変わろうとしている。
 彼等の秘密兵器、アーティファクト『モンタナコア』。
 組織を完全なものとすべく狙う『セカンドコア』。
 無限の未来を賭け、大きな戦いが始まろうとしていた。

●夢の跡
 あの頃の俺らは純真無垢なガキだった。
 いつか故郷を、国ごと牛耳るぐらいの一丁前な夢を持っていた。
 戦い奪って、逃げて逃げられ、裏切られながらも這いつくばり、頭となるべく鎬を削ってきた。

「おいドンさん、休憩入っていいぞ」
「ヘイ、有難うございます」
 ――今の俺は、そんな夢の成れの果て。
 アークによって拘束され、牙を抜かれ、今はこの工事現場で雇ってもらっている。
 別れの手土産にと、無償で変えてくれたまっとうな義手。
 こいつのお陰で連中は俺を恐れなくなり、少なくとも真っ当な道に進むことができた。
 だから、もはや力は使うまい。このまま俺はあるがままに――
「やー血の気の多いだけのバカは困るナァ!」
 聞き覚えのある声が耳に入る。まさか? いや、そのまさかだとしたら――
 悲鳴と怒号。断末魔が激しく入り交じる室外へと飛び出す。
 眼前にあるのは、昔を想起させるかの如き惨状だった。
 
 さっきまで現場を指揮していた男が力なく倒れている。蛇の眼をした痩身の男はその男の返り血をタップリと浴びていた。
 眼前には血みどろの工事現場、狂人の笑い声、仕事仲間だった工員の死に際。
「ヨォ、ドン。いつかぶりだナァ!」
 工員の頭を踏み割り、蛇眼の男が上機嫌に振り向く。
「クエール」
 無常の感を漂わせ一言、友の名を呼ぶ。
 血腥い匂いと呻きがフィクサードだった一昔前を思い起こす。
 どいつもこいつも救いなく死ぬのだろう、死んで土に帰る。
 大人も子供も、見知った仲間は全て死に、金持ちは生き延びた。
 しかし――俺達2人は運に見放されることなく生き延びた。そんな無二の友がこいつだ。

「お前さ、こんな奴らに従って……らしくねぇーッ!! 超絶らしくねぇ」
「今頃、何故きた」
「アレコレ聞いてな! ドン、テメーはさ、運がなかったんだ。だからこんな所でノーノーと働いてんダロ?」
 そうだ、運がない。どこまでも運がなかった。
 騙され利用され、尻拭いさせられ、持ち技まで奪われた。
 どこまでも、どこまでも運がない。
「ダカラよ、テメーの運を引っ張り上げてやる。Bad Luckジャネー、Strong Luckだ!」
 だから剣風組にコイよ、待遇は保証する。昔のように仲良くしようぜ」
 クエールは破顔の表情をみせ、俺に問う。

 この工事現場は当分動かない、収入もなくなる。まさに盟友の言葉は渡りに船だ。
 しかし、その決断を鈍らせ苦しめるのは、倒れ際にあるリベリスタが問いかけたあの言葉。

『汚れ仕事は出来ても正義の味方ごっこは出来ない?』

「……汚れはいつまでも汚れ、か」
「ハハッ、何つぶやいてんだよ! これからデッケェ事やるんだぜ、俺達はヨ!」

 クエールの哄笑が、どこまでも紅い工事現場に響く。
 俺は成り上がっても邁進し続けようとする盟友の手を掴み、固く握り締めた。

 あぁ、糞が。
 もらった腕が妙に痛む。
 けど、なぜだろうな。
 心はそれ以上に、酷く痛む。

●夢の欠片
「千葉で発生している大規模事件について、もう説明していい?」
『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はリベリスタが揃ったことを確認し、話を進める。やや急いでいるように感じるのは気のせいではなく、事は一刻を争うまでに発展している。

 現在千葉で六つのフィクサード組織が互いの理想実現のために合併し巨大な組織になろうとしている。
 彼等は手始めに、切り札であるアーティファクト『モンタナコア』を使って組織の兵力拡大を図った。
 このアーティファクトは寿命や生命力を代償にフィクサードを革醒または強化する効果をもち、多くのフィクサード小隊が兵力を整えている。
 彼等は組織を完全なものとすべく、同種の効果を持つ『セカンドコア』を求めて行動を開始。
 これ以上彼らを放っておけば広大なエリアがフィクサードに落とされ、巨大組織の誕生を許してしまうだろう。
 なんとしても彼らを叩き、野望を阻止しなければならない。
 その為に、ここに集まるメンバーが倒す対象は――。

「ドン・ヴァン・クォクという男を覚えてる?」
 幾人かのリベリスタは首を横に振り、あるリベリスタは首を縦に振る。
 知名度としてはあるかないか、その程度の存在。だが愚直な男なのは知るものこそが知っている。
「彼は今、都内の工事現場で働いてる。けど、その現場をフィクサードが襲撃したの」
 何故かドンだけを残し、他は全員殺害。あまりに酷たらしい惨状にリベリスタが怒りと戦慄を覚える中、イヴはさらに淡々と告げる。
「首謀者の名はクエール・コン・オング。剣風組に所属する白蛇のフィクサード。ドンとは盟友という間柄となっているわ」
 友という言葉を吐きそうもない彼が、あえて盟友と呼ぶ男。
 あえてドンを殺害しなかったのは、クエール自身も彼に何らかの利用価値を見出したからだろうと、イヴは断言する。

「名目上剣風組への勧誘だけど、それだけで済むとは思えない」
 フィクサードが1人増えるだけならまだしも『モンタナコア』という恐るべきアーティファクトを使えば、最悪ドンをFMF-B――人格を喪失した化物兵器に変異させることも出来るだろう。

 周辺には彼の部下であるフィクサードが2人。
『三光忘八』皆川・五郎。数々のフィクサード組織で下克上を目論見追放された経緯を持つ悪い意味で有名なフィクサード。力こそ劣るが、敵味方を巻き込むような卑劣な手を使うことも数多い。
『スパシーバ世界』土師宮・章。違法薬物によって前後不覚に陥っているフィクサードだが、それゆえに突拍子もない行動を起こすため危険視されている。元薬剤師だが詳細は不明。
 そして『白蛇』クエール・コン・オング。
 部下はクエールには劣るが、どれも癖が強く油断ならない。クエールに至ってはこの2人を纏めているだけあってかなりの強敵だ。
 加えて剣風組は数多くの技をラーニングしている技巧派の集まりだ。油断や満身があれば付け入れられ、容易く打ち負かされてしまうだろう。
 ただし、纏め上げているクエールさえ討ち取れば部下は場から立ち去る。事後の処理を考えなければになるが、クエールを仕留めることに成功すれば任務クリアだ。

「工事現場は鉄骨や建設途中のビルがあることを除けば更地。周辺の人払いは協力組織のリベリスタに応援を送っているから気にしなくても大丈夫」
「現場にいる工員は?」
 リベリスタの問いに、イヴは黙って首を横に振る。
「ドンの生死については問わない。敵対するようならまとめて倒す必要もある」
 しかし、逆に彼の心を引き留めるような説得が出来れば逆に味方につける事もできる。と、補足する。どのような手を採るかはリベリスタの判断に委ねられた。

 剣風組所属の狂気のフィクサード4人、友と日常の間を惑うリベリスタ。そして――。
「この戦いが終わればすぐに九美上興和会との戦いになる。キツイのはわかっている、けど頑張って」
 残った兵力がコアチームとなり、休む間もなく次の戦いに向かう。
 この死闘を制するのはリベリスタか、それともフィクサードか。
 千葉に今、災禍が吹き荒れようとしていた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:カッツェ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年11月04日(日)00:02
 夢とは何か、友とは何か、カッツェです。
 ここでどうなるかは皆さんの頑張り次第。

●フィクサード
 全員剣風組所属。
 彼らは「勧誘」の名目で動いていますが、どいつもこいつも被害を省みない荒くれ者です。

『白蛇』クエール・コン・オング(ビーストハーフ(蛇)/クリミナルスタア)
『確実にブッ殺す。逃がしゃしねえ泣いても許さねェとにかくブッコロス!』
 白蛇のビーストハーフ。
 卑劣・無寛容・徹底的の三拍子揃った外道な奴。
 ドンとは故郷で別れ離れになった盟友同士。
 腕もさる事ながら手加減というものを知らない。

 クリミナルスタアのスキルの他に
 裏土俵合わせ:(攻撃の全てに弱点属性付与)
 浪人行:(全体物理攻撃 連続)
 勧善勧悪:(近接物理大ダメージ ただし不殺)
 EX:キル・コンボ
 といった様々な技を使います。

『三光忘八』皆川・五郎(ジーニアス/レイザータクト)
『俺にもまだチャンスがあるんだ、死んでくれや』
 クエールに仕えるフィクサードの中では最年長。
 配下にいる理由は「上にのしあがるため」だが、何事も顧みない外道な行為の数々がクエールに評価されている
 M字ハゲと残った髪の薄さ、加齢臭が気になる50代のおじさんです。

 レイザータクトのスキルに加え
 裏土俵合わせ:(攻撃の全てに弱点属性付与)を使用します。

『スパシーバ世界』土師宮・章(ジーニアス/デュランダル)
『スパシーバ! スパッッッシィィィィバ!!!!』
 リベリスタだったが、ドラッグに溺れてフィクサードに転落した。
 意思の疎通が聞かず、まるでエリューションのよう。

 ジーニアスの中級スキルに加え
 他殺幇助:(敵味方に無差別神秘範囲ダメージ 混乱・呪い付与)
 EX:スパシーバ世界(自分の全能力が恐ろしく上昇 攻撃完全ランダム)
 を使います

・ドン・ヴァン・クォク(メタルフレーム/クリミナルスタア)
 無口で愚直。だけど義理堅い男。
 元蝮腹組のフィクサードだったが、アークに拘束された後紆余曲折を経て更生後、釈放。
 現在はリベリスタの力を使わず一般人に紛れて生活していますが、今回襲撃されて盟友の誘いに乗るべきか迷っています。
 説得の内容次第では共に戦ってくれるでしょう。
 彼のフィクサード時代については下記リプレイ
『<相模の蝮>Dancing in the night!』
『<相模の蝮>Trash Destruction』に記されています。

【後半戦について】
 このシナリオの残存戦力は、コアシナリオ『九美上六代幹部、最終決戦!』へ参戦します。
 その際、PCはその場の空気を読みつつ自分なりに効率的かつ見せ場になりそうな行動を自動で行います。
 なので後半戦に対してプレイングをかける必要は全くありません。
 ですがどうしてもやっておきたいことがある場合は30文字まで特殊プレイングをかけることができます。
 その場合はプレイング最後尾に【後半戦】と記載し、その後ろにプレイングを書いて下さい。
 ただし、その通りに採用されるかどうかはわかりません。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
プロアデプト
歪 ぐるぐ(BNE000001)
クリミナルスタア
不動峰 杏樹(BNE000062)
ソードミラージュ
リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)
マグメイガス
宵咲 氷璃(BNE002401)
ソードミラージュ
リンシード・フラックス(BNE002684)
プロアデプト
御厨 麻奈(BNE003642)
レイザータクト
アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)
デュランダル
シャルラッハ・グルート(BNE003971)


 工事現場。死骸は至る所に野晒しにされ、その惨状は生々しく残っている。
『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)は軽く祈りを捧げた後、気に食わんと吐き捨てる。三人のフィクサードはいずれも近く組織に飲まれる存在。にも関わらずこの素振りはまるでならず者だ。
「千葉炎上とかどえらいことやらかしたもんやなぁ」
「何だか色んな思惑が入り混じってるみたいだね」
 やることの多さに『他力本願』御厨 麻奈(BNE003642)は頭を悩ましつつもラーニングへの期待が膨らむ。一方で『狂獣』シャルラッハ・グルート(BNE003971)の考えはというと――。
「要はみんなブッ殺しちゃえばいいんだよね♪」
 この一言である。実に単純明快。
「まぁ、そうやな。あんじょうよろしゅうしたってや!」
 いずれにせよクエールを仕留めねばならない、考えるのは後回しだ。
 気を取り直し、麻奈の戦闘指揮がチーム全体の士気を高めていく。

「ハイ、ドン亀さんのお友達?」
 『Trompe-l'œil』歪 ぐるぐ(BNE000001)が黒服に軽く言葉を投げる。
「そのドン亀ってのが随分世話されちゃったみたいだナァ」
 待ち構えていた白蛇の男、クエールが足を鳴らす。
「俺は甘く無いゼェ?」
 そして挑発を交えながら奇妙な構えを見せる。
「テメェ……!」
 その挑発に『光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)が獲物を手に駆ける。
 この奇妙な構えは『裏土俵合わせ』。かつて路六剣八という男が、己の人生を体現した奇技『土俵合わせ』を変異した邪技である。
 リュミエールはこの技を使う者を激しく憎悪すると共に『狩る』ことを決意した。剣八の忘れ形見である『複雑可変型機構刀・六八』を新たに握る身として、故人の技を穢す者に容赦はしない。
「バカが釣れたぜェーッ! オイ、こいつらも殺せ」
「へへ、言われなくても」
「スパシーバ!」

 Aika kiihtyvyys Olen nopeampi kuin kukaan――。
(時よ加速しろ 私は誰よりも速いのだから)

 侮蔑の言葉は刃で返せ。その形状を弓や斧と変えていき、雷光の如くクエールに肉薄する。
「悩めドン! お前試されてんゼ!」
 笑いながらリュミエールと打ち合うクエール。2度も屈辱を受けた相手に擦り寄るはずもない、彼はそう考えているのだろう。
「貴方にドンを試す資格はないわ」
『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)の表情も一段と歪む。低空飛行し、呪を紡ぎながらもその想いは喜び、悲しみ、憤りと、複雑な様相を見せる。

 彼を繋ぐ存在が奇しくもここに集ったこの地。
 ドンはしばし悩む。盟友か、それとも。

●血と狂気、そしてスパシーバ
「沢山いてスパシーバ! 全員殺せば、もっとスパシーバ!!」
 焦点の合っていない目をリベリスタに合わせ、鉄パイプを握る。
「無粋で邪魔な物は片付けておきます」
『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)は極めて冷静に章を捉え、連続攻撃を叩きこむ。
 フィクサードとは言え、リベリスタ5人に挑む方が無謀というもの。だが、この男に理性があるようには思えない。
「ギヒヒィーッ!」
 案の定攻撃を打つ間もなく翻弄され、撃ち抜かれ、切り刻まれていく章。
「これでどうだ?」
 クエールを一瞥した杏樹が『魔銃バーニー』を構え、とどめを刺すべく狙いを定める。クエールの武装は爪付きフィンガーバレットといったところか。ならばクエールに多くダメージが入る前に、こちらを倒すまで。
「スパッ!」
 だが、章の頭部を狙った杏樹の弾丸は紙一重で避けられる。混濁していたように見えた章の意識が少しだけ戻ったかのようにも見えた。
 攻撃を避け終えた章はすかさず自身の懐に手を入れ、探る。
「面白そうな動きしてんな、どれどれ」
 その様子を麻奈が記憶し、ラーニングしようと一歩前に構える。
 が、彼が懐から取り出したのは武器でも技でもなかった。
「見ろ! これが私の、私のスパッシィィバァァァ!!」
 取り出したのは注射器、その鋭い針が自身の腕を貫いた瞬間、章の目が反転する。章は薬品と自身の体を使って覚えた点穴を突くことで、更なる力を引き出したのだ!
「あかん、こいつ本気で人間やめとる……」
 章を観察し、ラーニングを諦める麻奈。使おうものなら、まずアークには居られないだろう。
「スパシーバ!」
 先程とは比べ物にならぬ動きで麻奈に迫り、メガクラッシュを叩きこむ章。身体能力もさることながら、威力も上昇している。
「こんなの、次食らったら持たへんわ!」
「アーハッハッハ! アーハハハ!!」
 数メートル飛ばされ、ひるむ麻奈を尻目に狂気が無差別にぶちまけられ、呑まれたものは敵味方の区別すらつかなくなっていく。
「こいつも喰ラエ!」
 クエールも攻撃を重ねる。彷徨うがごとく共鳴し、無差別に切り裂く浪人行はリベリスタ達を満遍なく痛めつける。
「これ以上はさせないわ」
 氷璃の放つ黒の濁流が彷徨う狂刃ごと3人を塗りつぶし、クエールを強固な呪いで縛り上げていく。
「いいね、この狂気の風。やっぱ戦場はこうでなくちゃ!」
 黒の勢いに乗り、爆砕戦気を纏ったシャルラッハが章の眼前に飛び出す。
「ここまで突き抜けちゃってるのはある意味尊敬するね」
 そのまま横薙ぎのメガクラッシュを受けて章が飛ばされる。更に間を詰め、シャルラッハは連撃をかける。
「スパシィィバァァァ!」
 章の高速回転に多少のダメージを覚悟し、リベリスタ達が防御の構えをとる。
 ――が、その瞬間ビルを中心に閃光が走った。
「ッガアァァ!?」
『非才を知る者』アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)の放ったフラッシュバンを直視した章の目は灼け、思わず構えをも忘れて悶絶し始める。
 同時に放たれた別の光によってリベリスタも数人目をやられたが、致命的な足止めには至らなかった。
「……」
 集中し、自身の気合を信じて視覚を取り戻していく杏樹。この程度で惑わされては、この先の戦いまで身がもたない。
「目、目が!」
「あーあ、もっと打ち合えると思ったのに」
 身悶える章を見据え、前進するシャルラッハ。章が我を忘れ、戦意を一時的に喪失した瞬間から彼女にとってはお楽しみの時間だ。
「こいつも、もっと血肉を喰らいたいんだってさ」
 血塗られた『バルバロッサ』が爆音を上げつつ回転数を上げていく。闘気が全身だけでなく獲物にまで波及していく。
「ヒ、ヒッ」
 デッドオアアライブ。ただしアライブの確率は万に一つもない。
「その首を斬り落として、息の根を止めてあげる!」
 シャルラッハは悦びのまま、章の首筋に回転刃を押し込んでいく。
「あががが、あがががが、すぱっ、あひ、ひっ」
 闘気と獲物の刃が章の肉体を容赦なく抉りあげ、チェーンソーは歓喜の音を響かせながら血肉をまき散らす。
「あぁ、天国が、くが、ゲヒ……」
 痛覚をも忘れた顔は弛緩し、回転刃の衝撃によって体を痙攣させながら千切れてく死に様は、醜くも狂気に満ちたものだった。

●最も姑息な男
「くそっ、アブねぇなこいつ」
 皆川五郎。3人の中では見劣りのする男だが狡猾さでは抜きん出ている男。
 章の攻撃に悩まされつつも、リベリスタも彼らをブロックしつつ、刻々と戦場は移り変わっていく。
「動きがおかしいですね。何を考えているのか」
 五郎の抑えに回っていたアルフォンソは、戦況を見極めつつも彼の動きを警戒していた。
「何も考えちゃいねぇ、ただお前さんがたは殺すぜ」
 殺れと言われた以上リベリスタを殺る。アルフォンソもまた、後の災いを絶つべく五郎を仕留める。
 思考が交錯した瞬間、2人のレイザータクトはまったく同じタイミングでフラッシュバンを投げた。
「考える事ってのは似るものだな、外人さんよ」
「まったくもって!」
 麻痺には至らない、それはアルフォンソも同じだ。
 傍から聞こえる断末魔を聞き流し、次の一手を打つ。
「仲間の為なんて馬鹿らしい」
「ぐ……」
 アルフォンソの放った第二光波を縫って刺さる五郎の殺意が、アルフォンソの身をたじろかせる。
「チャンスは今なんだよ」
「そうですか、でもチャンスはありません」
 章の方は大丈夫と判断したか、リンシードがアルフォンソに代わって攻撃を仕掛ける。
「だいぶ弱々しく見えます、早く引退したほうがいいでしょう」
「その通りさ。だから花道飾らせてくれよ、な」
 五郎は真空刃を飛ばすも、攻撃はどこともなく外れる。
 まさか。当初、五郎は時間を稼ぐ為にわざと攻撃を外しているように見えた。
 しかし、それは違っていた。五郎が狙っていたのは――建設中だったビルの土台!

「逃げろ!」
「もう遅い、全員潰れろや」
 言葉より早く、土台が大きく削れたビルが傾いていく。
「カカッ! 俺には、良い『壁』があるんだヨォ!」
 棒立ちしていたドンにすかさず回りこむクエール。
「させるか!」
 杏樹の弾丸が、回りこむクエールの足をすかさず穿つ。
「クエール!?」
 思わず身を構えるドン。
 倒壊への秒読みがはじめる。範囲は恐らく、この工事現場一帯。
「俺まで潰れちゃどうしようもないな」
 五郎が逃げようとした瞬間、何者かがその腕をつかむ。
「逃がしません……次のチャンスなんてありません」
 ここで止めなければ被害が増す。リンシードは決して離さず、五郎の足を引き止め続ける。
「バカなことはやめろ、止めろってんだこのクソガキ!」
 五郎が短刀を振り回すも大したダメージにもならない。
「ここで終わりです」
 もはや、逃げられない。
「終わるか、終わってたまるか! 俺はまだ死にたく――」

 雪崩のごとく注ぐ鉄塊はあらゆる物を押し潰し、塗り替える。
 血煙が仄かに工事現場に巻き起こり、やがて収まった。

「……こんな所で立ち止まっては、いられません」
 リンシードが鉄骨を押し上げる。奇跡的に命を保てたものの、見放された五郎は落下した鉄骨に潰され、既に死亡していた。
「……?」
 ドンも伏した身体を上げる。傷は最小限、自分の身を盾にしようとしたクエールも居ない。
 一体何が起こったというのか? その正体は、見回してすぐに解る。
「……何故だ」
 彼をここまで至らしめたのは、杏樹と氷璃が身を呈したおかげだった。
「友達を大事に思う奴に悪い奴は居ない。向こうは壁呼ばわりだがな」
「本性が出たわね。クエール」
 ボロボロになりながらも、フェイトを削って立ち上がる2人。
 それとは対照的に、クエールは舌打ちをして彼女達を睨むだけだった。

●不器用な男が選ぶ路
「次はそっちの番だよ♪」
「ハッ、そいつァただの鉄砲玉ダ!」
 彼女が投げた章の頭を、クエールの斬撃が両断する。
「決まったか、ドン。俺はお前がスゲェ必要ナンダ」
 言葉を交えるクエール。盾にし、自分だけ助かろうという下衆な行為をやっても揺るがないとは、よほど強い絆なのだろうか。

「なぁドンさん。リベリスタとして協力しろ、とはよう言わん。けど、一宿一飯の恩義ある人をゴミみたいに扱ったあいつら許せるか?」
「……それで割り切れればどれほど楽か」
 相手は盟友。嘘偽りなく、死線をくぐり抜けた友である。それこそ、汚い真似をしてもお互い様で済むほどの仲である。
 加えて自分の身は汚れている。ならば相応しい鞘に収まるのが道理ではないだろうか? ドンはそうも考えていた。
 しかし、氷璃の口から放たれたのは割切りの言葉ではなかった。
「……私達は運命に愛されなかった者が何者であろうと殺す」
 世界を守る大義があれば殺すのを厭わない。それは覚悟であり信念。
 ドンもまた血を流し、腕を汚している。
 氷璃は悟っていたのだろう。ドンが良心を押し殺しながらも影の中で生き続けたことも。アークのように『盟友』と言う名の罪を共有する仲間がいることで、その重さを誤魔化していたことも。
「でもね。どんな理由であれ人殺しは人殺しなのよ」
 同じ。振るう力のベクトルが違うだけで、やっぱり人殺しだ。
「旧友との友誼を重んじて、今一度暗がりに戻るのか。それとも光差す世界に留まることを選ぶか」
 それを考えるのも自分自身。少し遅れてアルフォンソもリンシードに引っ張られる形で這い出る。
 クエールの攻撃に加えてビルの倒壊を受け、リベリスタ達のダメージは重篤な域に達している。
 加えて回復する手段もない。戦況は危機に瀕している。
 それを引き起こしたのは紛れもなくクエール。そして手を差し伸べたのも、また――。
「酷い話よね。でも、お願いよ。私と一緒に、戦って」
 今度は問いかけない。命令と取られても構わない。
 氷璃はハッキリと『世界のために戦え』と告げる。
「もう、住む世界が違うと諦めて目を逸らす事も、もう止めて頂戴!」
 そして、氷璃はあふれた想いを止めることなくドンにぶつける。
 ドンはかつてのことを思い出しながらも、その言葉を黙って受け止めた。

「生き方変えるって簡単なもんでもあらへん。けど、あんたこのまま使われっぱなしでええの?」
 確かに生き方を変えるのは難しい。だが、このままでは腐っていくだけ。それは身が軋むほどよく解っていた。
 ならば。しばし考え、ドンは口を開いた。
「俺は、呑まない」

 暫くの沈黙の後、クエールが消える。
 恐らく、前にリベリスタにかけたことがある技に違いない。
「じゃぁ……何だッテンダァーッ!?」
 覚悟を決めろ、1歩前に進む為に。
「俺は!」
 クエールの姿が現れる。やはり狙いはドンではなく、氷璃だ。
「こいつらと、活路を見いだす」
 ドンはその身を呈し、クエールの奇襲を受け止める。歪な刃が義腕に食い込み、激しい流血と共に金属面が破断する。

「俺は更に生き汚くなる。だが悪くない、これで手打ちだ。もう背けるものか」

●決
「ぐるぐさんね、自分らしく生きて輝いてる人が好きだよ。この技を編み出すに至った時みたいな生き様がさ」
 奇襲の後、ぐるぐが前に踊り出る。もはやドンがクエールに加担することは無いと確信を得た一同は、一転して反撃に移る。
 ドンから奪い取ったノックダウン・コンボをクエールに叩き込みつつ、飄々と語りはじめる。
「そういう輝きって、みーんな綺麗だからさ。欲しくなっちゃう」
 この技もドンの輝き、生き様の結晶。欲しいし、使ってみたくもなる。
「ナラ来イ! タップリ詰め込んでヤル」
「ダメだ! それに、そのスキルハ、無敵に憧れ最強を捨てたアイツを――剣技を極めた斬鉄達ヲ侮辱するスキルナンダヨ」
「技ってのは使われてナンボだろうガッ!」
 僅かな間合いの可変で相対距離を狂わせ、対してクエールは徹底した急所撃と隙を突いて苦しめる。
 だが、まだ倒れない。双方共に鎬を削っていく。
「シツケェーッ!」
 リュミエールの頭を掴み、激しく地面に打ち付ける。
 何度も叩きつけ、されど殺しはしない。だがクエールは違う、そのまま無防備な頭に断罪の弾丸を叩き込む。
「マダ、ダ」
 それでもなお、フェイトを削って立とうとするリュミエール。
「ア? 知るカ。ブッ殺す」
 そこに殺意を纏った拳を振り上げた瞬間、ぐるぐがすかさず割り込む。
「うちも、ラーニンガー2人には負けられへんで!」
 傷は決して軽くはない。だが、この男を倒すまで、出来れば技を盗むまでは倒れてられない。
 麻奈もクエールへ気糸の罠を張り巡らせながら、状況を見極める。
「奪ッタツモリになってる奴は、嫌いなんだよナァ!」
 ぐるぐの一撃を往なし、逆に拳を素早くぐるぐの顔面に叩きこむ。
「つもり……ダト?」
 瞬間、ぐるぐの声色が変わる。確かにこの技は模倣だ、本物とは違う。だからこそ限りなく本物に近く模倣する。
「なら骨の一本だって逃がしゃしねえ! テメェの全てを奪って喰い尽くしてヤル!!」
 故に、クエールの人格すらリアルタイムで取り込み、第2の人格として投影する。
 つもりという生半可なものではない。これがその証拠だ。
「どこまで行っテモまがい物ダロガッ!」
「お前ノ技ハ紛イ物デスラネェ」
 讒言を打ち払い、リュミエールの閃撃が走る。
「2人とも容赦無いなぁ。何か見いだせるものあらへんかな?」
 麻奈は観察するも、冷徹さを要するこの技を模倣するのはどことなく躊躇してしまう。
 それでも全体を見る麻奈の目から見えるものもあった。殴りあう中、クエールが隙を見せる唯一の箇所を見出す。
 裏土俵合わせ、その隙を突いた直後に出来る『歪み』を。
「今や、打ちこめ!」
 意識の同調と共に告げる麻奈。攻撃前の今だからこそ狙える!
 チャージした瞬間、状況は動く。ぐるぐの蹴りが躊躇なくクエールの鳩尾にめり込む!
「ぐッ!?」
 さらにリンシードとシャルラッハが飛び込み、後ろに崩れたクエールにさらなる連撃を叩きこむ!
「ドン、テメェ……」
「……」
 返しの暴れ大蛇にぐるぐとシャルラッハの意識が淀むも、何とか踏みとどまる。
 真正面で攻撃を受け、リベリスタを庇って耐え続けるドンの目は達観で満ちていた。
「見下すんじゃネエェ!!」
「これも取っとき!」
 麻奈の気糸が、叫びに呼応するかのように飛ぶ。
 尻尾に括りつけた『髪伐』が下段からクエールを切り払う。が、どちらもクエールは寸で回避。
 その刹那、暗器と化した六八がクエールの頸と顔に絡みつき、食い込む。
「……ガ、グァ」
 もはやクエールに罪を贖う猶予も赦しもない。
 それでも、この男は悪びれなく嗤っていた。
「地獄で、先に」

 散レ。
 その言葉と共に、愚か者の首は飛沫の如く弾けた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
『【千葉炎上】別離の友は修羅となり、我が身は生ける骸となりて』でした。
ドンさんはまるで駄目な大人じみていますが、恩を忘れず表情を表に中々出さない無骨な男というので個人的にお気に入りです。

敵もまた同じく。「こいつぶつけたい!」ってキャラは活き活きとして動いてくれます。預かったプレイングもまた然り、時々身振り手振り加えながら今回も書き上げました。

それでは、カッツェでした。
また機会がありましたら、よろしくお願いします。

最終シナリオ、千葉の命運やいかに。