● London Bridge is falling down, falling down, falling down. London Bridge is falling down. My fair lady...... ● 部屋に流れているのは一つの童謡。 「――さて、皆さんのお口の恋人断頭台ギロチンです。多分、この曲は一度は耳にした事があるんじゃないでしょうか。マザーグースの中でも有名な歌で……というのは今はいりませんね」 それを奏でるオルゴールを手に、『スピーカー内臓』断頭台・ギロチン(nBNE000215)は立ち上がった。 「今回の案件は、とあるアーティファクトの破壊です。このオルゴールと同型の物が革醒しました」 片手に乗せるにはやや大きい、小さな箱のような作りのそれ。 曲に合わせてレンガの橋の上で人形がくるくる回っているが、それ以外に特別凝った仕掛けは見受けられない。 「ですが、ただ破壊して終わり、という訳にはいきません。このオルゴールに近付くと、強制的にアーティファクトが作り出した空間、まあオルゴールの中、とでもいうべきでしょうか。そこに連れ込まれます」 真っ暗な空間で浮かび上がるのは、人が五人程度並べるレンガ造りの橋だけ。 その先にいるのは女の人形。 今、目の前のオルゴールで踊っているのと同じ、角の丸い円錐の上に球体を乗せ、手足をつけた様な――要するに、シンプルに『女性』を表す記号にも似た人形。 「折角ですから『マイフェアレディ』とでも呼びましょう。アーティファクトを破壊するには、このレディを倒さなければならないのですが、彼女は大変タフです。とはいえ攻撃力は弱く、こちらの動きを止めたり弱体化させるのがメインなのですが――この空間自体に面倒臭い仕掛けがある」 ちょっと聞いて下さい、とギロチンは喋るのを止める。 一区切り。流れてから彼は時計を見せた。 「歌詞が一番終わるまで約十秒。空間内では常にこの曲が流れています。そして、『三回繰り返した後』、つまり三十秒ごとに、橋は崩落します」 ならば三十秒で片をつけなければならないのか。 問いにギロチンは首を振る。 「先程の通り、このレディは大変タフです。それと、あくまで三十秒『ごと』です。……橋が崩れて落ちる先は、また橋。そこでまた、同じ事の繰り返しです。ただし、レディは二人に増えています」 倍々ではなく、一回一人。 橋が崩落した数だけ、レディは増えていく。 ならば討伐は不可能ではないか。 問いにやはりフォーチュナは首を振った。 「レディは増えるたびにその能力を減じていきます。一人が二人になっても半減、とまではいかないのが難ですが、三人、四人……数を増やせばその分討伐が楽になります」 無限に湧くのではなく、源が同じものが別たれるだけ。 なので数を増やしていけばそれだけ一体は弱くなる。 「ただ、崩落時のダメージが重なればそれだけ辛い。空間内で『落ちる』距離がどれだけかは不明ですが、リベリスタの身体能力を持ってしても結構な衝撃を受けると思います。おまけに飛べばいいか、と言えば今度は崩落する橋の瓦礫に巻き込まれる。無傷とはいきません」 オルゴールの中の人形は、くるくる、くるくる回っている。 やがてその曲が、止んだ。 「……ですが、放置しておいて何も知らない人が巻き込まれるのを看過する訳にもいきません。どうぞ皆さん、宜しくお願いします」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:黒歌鳥 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月01日(木)23:08 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●Falling Down 落ちる。 落ちていく。 真っ暗な中に瓦礫だけが浮かび上がって落ちる。 ほら。 落ちた。 ● その空間は異質であった。 橋も、仲間の姿も昼間の如く分かるのに、周囲だけが完全なる暗闇に閉ざされている。 レンガの橋も幻には思えない。赤茶にベージュ、石畳は規則正しく先へ、先へ、先へ先へ先へ先へ――果ても見えない程に伸びていた。 「マングースをモチーフにしたアーティファクトでしょうか……」 「凛子さん凛子さん、マザーグース☆ ま、オレも詳しい訳じゃないけど☆」 真顔でボケた『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)に『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)は突っ込みつつ、一つの目で遠く遠く続く橋の先を見やる。 「小さい頃に聞いたような覚えもあるけど、歌詞はよく覚えていないな」 風すらも吹かない。空気が動かない。広いはずなのに、閉塞感を感じる。『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)は愛銃を構えて目を細めた。 そこに『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)の声が重ねる。 「Wood and clay will wash away……粘土と木では流れ落ち、レンガと漆喰では崩れてしまう。鉄と鋼では曲がり、金と銀では盗まれる」 かつん、と爪先が触れて音を立てた石畳。 ここの橋はレンガだろう。だから崩れて壊れてしまう。 粘土と木よりは強くとも、歌を三つ数える合間に壊れてしまう。儚い橋。 「ならば見張りを立てましょう……この見張りは人柱の事を示しているという話もあるそうですね」 「あ、オレも聞いた事ある☆ テンポ良くて楽しい曲なのに」 「人柱はレディか、我々か。どちらなんでしょう」 髪を掻き揚げて目を眇める彩花の視界に、くるくると、くるくると回る『何か』が映った。 洋の東西を問わず、荒ぶる神に、自然災害に捧げられるのは人間だ。 今ではそれもナンセンス。誰も捧げる気はないし捧げられる気もない。 「あれが例の人形か」 暗闇の奥に目を凝らしていた『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)が呟く。 その人形――マイフェアレディに思う事はなくとも、一般人に害を為す危険性があるならば見過ごせない。 そう、彼は力なき人々を守る為にいるのだから。 「行くぞ! 変身!」 彼は仕事の癖ともなった掛け声と共に、己の『装備』を身に纏った。 巨大な木の人形。 近くで見たならば、ただのオブジェにしか見えないかも知れない。 けれどそれは、確かに両腕を上げて下げて、くるくると回転していた。 「いくら散らかしても元通り。それだけなら役に立ちそうだが」 特に感動もなく、『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が口を開く。 どれだけ散らかしても元に戻る不思議。 けれどそれは、現実には存在し続けられないもの。 「収納にも使えない子供のおもちゃは、燃えるゴミ行きだな」 オルゴールの音が、鳴り始めた。 誰よりも先に飛び出したのは、ナイフを手にした終。 「レディ、一曲お相手願えませんか?」 微笑み誘った手には刃。柄を握り拳に氷を纏わせて、『お誘い』一つ。 一曲なんて言わず、踊りが止まるその最後まで。 薄く張った氷は回るレディにすぐに振り払われてしまったけれど、それこそまだ一発目。 タフなレディのダンス相手には根気が必要。 「そのままでは捨て難い。大人しくしろ」 ユーヌの印が、レディの足を止めるべく切られた。幾つも重なった光る陣、けれど消え去り闇が戻った中で、レディは未だ踊っている。 ならば重ねよう、マイフェアレディ。 現状先手を打てる二人がいる限り、チャンスはまだ幾度も巡ってくる。 「ロマンもメルヘンも素敵ですが、現実を浸食させるわけには参りません」 凛子の指先が円を描き、現れた魔法陣から放たれるのは光の矢。 レディに当たって弾け飛んだそれは、前衛の拳や刃にも負けぬ威力を放つ。 くるくる。 くるくる。 回るレディの周囲の空間が揺らいだ。 太陽のプロミネンスにも似た揺らぎが、リベリスタを包むように取り囲む。 奪われたのは何だ。形にできないそれ。与えられたのは何だ。形にできないそれ。 集中力を些か削がれた上で、攻撃のタイミングを逃す凶運を与えられた。 「厄介な状況だが……」 拳を握り、DCナイフ[龍牙]を構え、疾風はレディに向けて名前の如く疾く駆ける。 「倒す!」 未だここは序盤の序盤、握った刃は鋭くも、レディの服に一本模様を書き足した。 「さて……」 煙草の香りを場に残し、跳んだ『闇狩人』四門 零二(BNE001044)が目を眇める。 レディ、レディ、マイフェアレディ。 姿からは何も想定できない『彼女』の内を見るべく、暗闇の瞳が、全身が、その神経をアンテナの如く広げて観察する。 踊るレディ、タフと繰り返されただけあって、その能力はどちらかと言えば持久戦に向くらしい。 突出した能力こそある様には見受けられないが、平均的で攻め難いとも言い換えられる。 だが、今は倒すのが目的ではなかった。その感覚を肌で覚え、記憶する。 「"Dance over my Lady Lee."」 踊って越えよ、レイディ・リィ。 後ろに引いた腕、それに外見よりも重い体の力を乗せて、彩花は一気に叩きつけた。 装着された雷牙がみちみちと、レディの体を穿つ。 傾いだレディの体はレンガに打ち付けられて、起き上がりこぼしのように起き上がった。 「落ちる前に片をつけるのは難しそうだからな」 鴉を呼び出した『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)がレディを見据えた。 飛び立った黒。 周りの黒。 一瞬姿を見失うような鴉も、確かにレディへと吸い込まれていったようだった。 「ゼンマイが切れるまで、ずっとずっと繰り返し」 回り続けるレディに杏樹が銃口を向けた。 そこから弾丸が飛び出す事はなく、目標を見定めるが如く細めた目から秘めた力が放たれる。 魔力を込めた眼力、裏社会を走る者達の力。 一つを忘れて一つを得た杏樹の瞳を見て、けれどレディはまだ、何事もないかのようにくるくると踊っていた。 先手を取った終とユーヌの一撃は未だ届かず、氷の如く冷たい風が、橋の上を押し出される様に駆けていく。 息を白くして放たれた攻撃は、未だ効いているようには思えなかった。 そしてメロディが、三度目を紡ぎ始める。 重ねられた不利はユーヌによって打ち払われるも、崩落は止まらない。 知っているから、重力に従うだけではない者達が、逆らう術を持たない仲間に手を差し伸べた。 「こっちに!」 「ありがと☆」 その手を取った疾風に、終がウインクした瞬間。 まるで最初から『そうであった』ように、橋が一気に崩れ落ちる。 レンガ同士が、接着されずただ並べられていただけのように。 積んだブロックを横から軽く押したかのように。 橋が、先程までの頑強さが嘘であったかの如く、レディとリベリスタの間から割れて砕けて落ちていく。 暗闇だ。瓦礫の下は真っ暗闇。周囲と同じ真っ暗闇。奈落の底へと落ちていく。 崩れる中、足場も無いのにレディだけが空中でくるくる踊りながら消えていく。 近付こうとしていた彩花が、レディの傍の安全圏を見付けようとした零二が、リベリスタたちが落ちるが故に、遥か上空へと登っていくようにも見えるそれを仰いだ。 「しっかり掴まってろ!」 凛子を片手に引き寄せたフツは、その落ちる刹那にも飛べないかどうかを確かめる。 だが、この闇に、奈落に、引き摺られているのか。 飛ぶ事は叶わない。 パラソルを広げようとした凛子も、意味がないと悟り身を丸くする。 スマンな、と呟いて槍を手放し、もう片腕で凛子の頭を庇った。 共に落ちる魔槍深緋、緋色の槍から何か聞こえた気がしたのは、恐らく彼だけ。 ただ一人、自前の翼を持つユーヌは抱きかかえる杏樹ごと翼の推進力を得て巨大な瓦礫を避けた。 だが――落下の衝撃を和らげる手段を持つ以上、下手に飛ぶよりも瓦礫と共に落ちた方が良いと判断した彼女は翼を戻す。 「手間を掛けるな」 「いや」 見上げる白い顔に簡潔な否定を返し、杏樹は下を見つめ続ける。 競りあがるように現れたのは、新しい橋。 先程までの橋と何も変わらない。 鉄と鋼にはならず、レンガと漆喰の崩れる橋が、再び足元に現れる。 元の姿勢とほぼ変わらない完璧な立ち姿で着地した彩花の後ろに、ユーヌを抱えた杏樹が、凛子を抱えたフツが降り立った。 彼らと共に落ちてきた瓦礫は、まるで地面に当たったゴムボールの様に跳ねて溶けて消えて行く。 視線の先では、既に二人のレディが踊っていた。 ●Broken Down その感覚は確かかい? 落ちていくのは確かかい? その苦痛は確かかい? ほら。 踊っているよ、マイ・フェア・レディ。 ● 踊る踊る。二体に増えても変わらずに、三体に増えても変わらずに。 フツの投げたカラーボールを唯一の彩りとして、レディはくるくる回り続ける。 それは踊りなのだろうか。 決められただけの動きは、踊りなのだろうか。 何を思って踊っているのか。或いは何も思っていないのか。 表情すらもないレディは、何も読めない。 そう。スーツ姿で外見からは読み取れない情報を読み取るこの男以外は。 「タフであるとはいえ、流石に半々の半々は手に負えない、という程でもなさそうだ」 冷静に観察を続けた零二が、仲間へとそう告げた。 実質、最も強かった個体の四分の一にまで体力を減じたレディは総攻撃で沈める事までは叶わずとも、次に分かたれれば恐らく仕留められるであろう事が零二は分かる。 とはいえそれも、攻撃を続ける仲間が減った体力を更に減じさせるべく打ち続けているからである。 「そろそろ疲れてきちゃったかな、レディ☆」 終のナイフは、回るレディを翻弄し押し留める。煌くそれでよろめく『彼女』は、既に終のペースの内。 「ビスケットならば増えても益だが、この人形のようにスカスカでも役に立たないか」 先に一体の動きを陣にて縛り付けたユーヌが、別の一体によって氷で足を縫いとめられた仲間の為に光を放つ。 凶運は彼女に効果を表さず、光はユーヌ自身に与えられたそれも振り払った。 分裂と共に速度も減じたレディは、疾風の腕が雷と共に繰り出されるよりも早くは動けない。 「放置してはおけないんだ」 蹴りを放った足を石畳に跳ねさせて、青年は雷を表面に走らせる人形に言い放った。 「さあ、皆さん。まだまだめげないで行きましょう」 攻撃力はさほどではない、とは言え、重ねて食らえば馬鹿にはならない。 けれど、落下のダメージを大幅に抑えられた分、それは凛子の呼ぶ回復で追い付けないようなものではなかった。 無風であった空間に、癒しの風が吹く。 「一人だけ無事でいられるとは思わないように」 レディのただ中に飛び込んだ彩花が、その両腕両足を持って舞った。 どこか軽やかに、けれど遠心力と体重を乗せて打ち据えるそれは、雷光で彼女の黒髪を鮮やかに描き出す。 落ちた槍を拾い上げたフツが、再び鴉を呼んだ。 彼に呼び寄せられども、前衛によって向かう事が叶わないレディが、足元に跳ね上がる鉄骨を出現させる。けれど、ユーヌによって不利を打ち払われているリベリスタには、その鉄骨に直接当たる以外のダメージは殆どない。 鴉が穿った場所に向け、今度こそ杏樹の弾丸がレディを抉る。 「速さじゃ負けるけど、正確さはまだまだ行けるかな」 最後の最後、仲間の与えたダメージを押し広げる彼女の弾丸は、その傷を逃さない。 「落下のダメージさえ抑えられれば、後は根気の勝ちだよ」 『丈夫な石』より『頑固な意志』って事、さ。 そんな事を呟いた零二が、幾度目かの地面消失からの着地を済ませた。 他の仲間を抱えた者が瓦礫を多少浴びる事はあっても、それは想定していたよりも遥かに少ない。 となれば、後はどんどん弱くなっていくレディを潰していくだけだ。 一体。 二体。 三体。 彩花の、疾風の壱式迅雷に巻き込まれたレディに向けて、ユーヌの氷の雨が降る。 残ったレディを、凛子の矢が貫いた。よろけたそれの首と胴を、零二の刃が切り離す。 「これで終わりだ!」 疾風の放った蹴りが、最後に残ったレディの体を半分に絶った。 くるり。 半身がそれぞれ、逆に回転し――石畳に倒れた瞬間。 橋ではなく、空間が、壊れた。 橋ごと。 空間ごと。 落ちていく、感覚。 ●Break Down がしゃん。 何かが落ちて壊れる音に、リベリスタははっと顔を見合わせる。 ここは、確か。 アーティファクトの置いてあった部屋だ。 床には、音を止めたオルゴールが落ちている。レディのダンスを支えていたバネが、終の爪先に転がってきた。 抓んで、部品を散らかし逆さまになったオルゴールへと寄って行く。 終の意図を理解したか、杏樹もその傍へ。 「ね、レディ無事かな??」 「確かさっきこっちに転がって……あ、あった。直せるか?」 「オレも素人だからなんとも。けど、鳴らないオルゴールって寂しいしね☆」 「そうだな。……ゼンマイが切れても巻いてくれそうな相手の心当たりもある事だし」 顔を見合わせて、二人はオルゴールを引っ繰り返す。 壊れた木枠は集めて直そう。 落ちたレディは拾って戻そう。 新しい部品をはめて、世界から歪まないように。 London Bridge is falling down, falling down, falling down. London Bridge is falling down. My fair lady...... |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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