● 男は女を見詰めていた。 宙に出来た裂け目から、突如現れた女。 夜露に濡れた瞼。雫零れる様な紅い唇。触れれば折れそうな程に細い手。 男が、女に心を奪われるのに、長い時間は必要ではなかった。 女は男を見詰めていた。 精悍な顔立ち。長く伸びた筋肉質の足。 偶然目の前に開いた扉に手を伸ばしたら、見ず知らずの世界に着いてしまった自分に、優しく微笑みかけてくれた瞳。 女が、男に心を奪われるのに、長い時間は必要ではなかった。 しかし、2人は気づいていた。 互いが、同じ世界に在るものでは無い事を。 女はアザーバイド。男はその名称を知らずとも、女がこの世界に居てはならない存在である事はわかっていた。 「俺が、君の世界に行くよ」 男は、女に告げる。離れたくないと願っていた女は、潤んだ瞳を男に向ける。 「嫌かい?」 零れ落ちそうな涙を瞳いっぱいに含ませたまま、女は首を横に振った。 「でも、貴方は生まれ育ってきた世界を捨てる事になるのよ。――いいの?」 「いいんだ。家族はもういないし。誰よりも、何よりも、自分よりも――君が大事だから」 「……私も、貴方が大切。誰よりも、何よりも……自分よりも」 男と女は手に手を取って、先ほど女をこの世界に招いたばかりの『裂け目』の前に立っていた。 ● 『もう一つの未来を視る為に』宝井院 美媛(nBNE000229)は、ブリーフィングルームに集うリベリスタ達へと顔を向けた。 スクリーンに男女の姿が映し出される。 「男の方は、薜・燿(まさき・ひかる)と言って、今年大学を卒業して一般企業に就職したばかり。 大学時代はラグビー部に所属していて、所謂スポーツマンよ」 「女……というか、アザーバイドは、サヤカと言うらしいわ。 サヤカは、偶然この世界に来てしまったと『認識している』わ」 「何だよその韻を含んだ言い方」 美媛はスクリーンの画像を、学校のグラウンドに変更する。 「サヤカは、記憶を操作された犯罪者。 彼女は、このグラウンドに出現し、燿に遭遇するわ。 燿とサヤカは一目で恋に落ち、アザーバイドの世界に行くと燿は決断する。 そこに……アザーバイドと同位世界から来た追っ手が現れるわ。 サヤカを捕まえるために現れた追っ手は、サヤカの記憶の有無は関係なく、攻撃をしてくるわ。 その場に耀が居ようが居まいが関係なく、ね」 「記憶を無くした、上位世界の犯罪者か……」 リベリスタの言葉に、美媛はこくりと頷いた。 「サヤカが耀を伴って上位世界に渡ったとしても、犯罪者であるサヤカが連れているボトム・チャンネルの生物を放っておくとは思えない。 それに、戦闘能力も有さない一般人を連れて、何も覚えていないサヤカが追っ手から逃れ続ける事も出来ないでしょう。 だからといって、こちらの世界で一緒に居る事はできない。 ――2人の願いが成就する場所はないわ」 美媛は、スクリーンの画像を再び2人の物に戻した。 「ちなみに、サヤカを含むアザーバイドの総数は視えていないわ。 貴方達が現場に到着する時は、サヤカと燿の二人だけ。 時間が進めば進むほど追っ手が増えていくけれど、出来るだけ早く対処すれば少なくて済むわね。 それから……サヤカの今の姿は偽物の姿で、攻撃力もほぼない状態ね。 その間は説得も可能で、サヤカを説得する事が出来れば、戦わずしてサヤカを送還する事は出来るかも知れない。 そうすれば追っ手も戻っていくでしょう。 でも、交渉が決裂したり、説得の最中に追っ手の攻撃を受けたりすれば、サヤカは本性を現して、姿も変わり、攻撃能力も有するようになる。 そうなれば、サヤカと戦いながら、燿を護るために追っ手とも戦わなければならなくなって、かなり面倒な事になるわ。 耀が死ぬ確率も跳ね上がるでしょうね……」 美媛はプロジェクターの電源を落とし、資料を閉じた。 「今回の任務は、アザーバイド全ての掃討もしくは送還。 ディメンションホールの破壊。そして、一般人を死なせる事なく保護する事、よ。 もし余裕があれば……保護した後の耀の対応もお願いするわね。 犯罪者であるアザーバイド相手とは言え、愛した女性と引き離される上に、生命の危機に瀕するわけだから、心の傷は相当の物となると思うわ。 よろしくね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:叢雲 秀人 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月31日(水)23:28 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
■サポート参加者 4人■ | |||||
|
|
||||
|
|
● 深夜のグラウンドに、男と女は立っていた。 そこへ、数人の男女が現れた。 「誰……?」 彼等は、明らかに自分たちを探していたと思われる。 そうでもなければ、誰か来るような場所ではない。 「少し手荒ですが、すいません」 1人が口を開き、燿とサヤカを強引にグラウンドの端の方へと引っ張った。 咄嗟の事に碌な抵抗もできない燿とサヤカは思ったよりおとなしくグラウンドの端へと移動した。 「な、なんだよ? 俺達に何の用が」 燿は狼狽しながらも3人の男女を問い詰める。 「私達は、アークと言う機関に所属する者です」 風見 七花(BNE003013)が、自分たちの身分を明らかにする。 それに続き、『骸喰らい』遊佐・司朗(BNE004072)も言葉を発した。 「サヤカさんと燿さん、だよね?」 「え? 何で俺たちの名前を――」 自分たちの名前を何故知っているのか。 燿が、面食らったように声を上げた。 今回の作戦は、説得班3人が燿とサヤカの説得を担い、残りの9人はこれから現れる筈の『追手』の掃討を担当する手筈となっていた。 追手班、と呼ばれた彼らは、3人がDホールから離れた場所まで燿とサヤカを移動させるのを見送ると、戦いの準備を始めた。 『黄昏の賢者』逢坂 彩音(BNE000675)は、研ぎ澄まされた直観を頼りに、Dホールを探す。 どんな事情があり、実際どうなるとしても、愛し合う2人が離れ離れになることは、とても悲しい事。 だからこそ、燿とサヤカには少しでも納得して別れてもらいたい。と、彩音は考えていた。 これから出現してくる予定の追手は、説得の邪魔にならぬよう、Dホールから現れた所で早々に退治したいところだ。 「――もう少し、奥へ移動してもらえるかな」 彩音は、宙空に出来た裂け目を見つけると、即座に説得班の3人に声をかけた。 彩音の言葉を受け、説得班は燿とサヤカにグラウンドの奥へ移動するよう促す。 「な……なんだよっ、なんで俺たちがそんな……。俺はサヤカを幸せにしたいだけなんだ、誰よりも幸せに――」 『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)は、軽く鼻で息を吐いた。 「誰よりも、何よりも、自分よりも――ですか」 燿は彩花の言葉に驚きの表情を隠せなかった。その言葉は、彼女たちが来る前にお互い囁き合った言葉だったからだ。 「聞こえは良いですけれどね」 燿とサヤカを奥へ追い込むように立つ彩花からは、ただならぬ迫力を感じる。 「お互いに自身の存在意義を出会ったばかりの相手に依存しようとしているだけでは?」 思わず是を唱えそうになる程の威風に気押されながらも口を開いたのは、サヤカの方だった。 「燿は、偶然迷い込んでしまった私に優しくしてくれた。私の事を好きだと言ってくれたの――」 その時、グラウンドの中央に業炎渦巻く火柱が立ち昇った。 「――!!」 説得班がグラウンドに視線を移動させた。 燿、サヤカもそれに従うように視線を移す。 ● 轟々と立ち昇る火柱に照らされるのは、追手班と、空間の裂け目より現れた異形のアザーバイド2体。 予想されていた敵の出現。この為に予め自己強化を行っていた追手班。 『非才を知る者』アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)の閃光が、アザーバイド2体を飲み込んだ。 「うぉ……っ」 そして1体が麻痺を受け、動きを止めた。それを見逃すリベリスタではない。 『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)、彼女の役割は回復担当だが、まだ傷ついたものはいない。 魔力の矢を生み出し、アザーバイド目掛け、射る。 「――しばらく、遊んでもらうぞ」 闇を纏った『カゲキに、イタい』街多米 生佐目(BNE004013)は、自らの命を瘴気に変え、放った。 膝を折ったアザーバイドの脳天に『鋼鉄の戦巫女』村上 真琴(BNE002654)の魔落の鉄槌が打ち下ろされ。 「早く死ね」 『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)の弾丸が、1体の頭部を撃ち抜いた。 しかし、頭部を撃ちぬかれて尚、アザーバイドの息の根を止める事はできず。 もう1体のアザーバイドはその様子を確認すると、リベリスタ達が行く手をふさぐ先に居るであろうサヤカへの道を開けようと火炎陣を呼び出した。 業火に巻かれ、リベリスタの間に一瞬生まれた隙を突き、アザーバイドが構える。 「おっと、人の恋路を邪魔する奴は……」 その前に立ち塞がったのは、『住所不定』斎藤・和人(BNE004070)。 「こう、だ!」 上段に構え、聖なる一撃でアザーバイドの頭部を粉砕した。 暗闇でも標的を見つける瞳。更に、完全なる狙撃を可能とするよう自らを強化した、『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)。 彼女は、耀とサヤカを説得している、『大御堂』の名を持つ娘の方を見遣った。 あの説得を上手くいかせなければ、理想的な解決は望めない。 そもそも、元居た世界では犯罪者であるサヤカが、いくら記憶を失っているとはいえ愛を貫こうとしたところで虫が良すぎるというものだ。 「典型的な、独善的愛情ってやつですね」 ぼそり、と、呟く。 「だいたいアレですよね。サヤカって名前の時点でなんかイタい女っぽくてアウトですよ。ねえお嬢様?」 当人に聞こえる訳はないのだが。 そこまで言い放つと、 九七式自動砲・改式「虎殺し」を構える。 己の能力を限界まで高め、更に集中を重ね。 繊細な指先で引いた引き金、放たれた弾丸は吸い込まれるようにアザーバイド2体へと降り注ぎ。 頭を、腕を、脚を、腰を、腹を撃ち抜かれ、アザーバイドは倒れこんだ。 「これで終わり?」 そんな訳はない。 穴だらけになった四肢を引きずるように立ち上がるアザーバイド。 そして、空間の亀裂から現れる腕。 もぐらたたきは、もう少し続く。 ● サヤカの世界に行けば、耀は生き延びることは出来ない。 けれど、サヤカがこの世界に居れば崩界を招く。 2人は一緒に居ることはできないのだ――。 突然現れた見ず知らずの3人と、離れたとは言え、視認できる場所で繰り広げられている、まるで映画のような光景。 耀に「信じてくれ」と言った所で、無理な事だろう。 しかし、サヤカにとっては、そこまで信じがたい事ではないのかもしれない。 「サヤカさん」 司朗は、サヤカの名を呼んだ。 「ボクらの仲間が今、サヤカさんを追ってきた追っ手と戦ってるんだけど、見えない?」 グラウンドの中央を指差す。離れた場所で戦っている2体には、見覚えがあるような気がする。 「……あの人たちは」 「彼らは、サヤカさんを追ってきた。それは何でか判る?」 「わか、らない……。だって私は偶然、目の前にできた亀裂に飲み込まれて……」 「偶然って? どうやって亀裂を見つけたの?」 「……」 サヤカの潤んだ瞳が、狼狽したように泳ぐ。この世界に来るまでの経緯が、まったく思い出せないことに、気づいた。 「サヤカ……!」 耀がサヤカの手を引き、自分の腕の中に身体を収めた。 「苦しませないでくれ! 俺たちをほっといてくれよ!」 「……ならば、この熾烈な障害をどう乗り切るおつもりです?」 彩花の凛とした声が響く。 「私達の話を信じて貰えないなら、私達はこの場を去るしかありません。 仲間が対処している追っ手も、まだ増えていくでしょうが」 それを追うように、七花が続いた。 「恐らくサヤカさんを追う者は、サヤカさんの世界にはもっと居るでしょう。 サヤカさんの世界について行っても、薜さんがサヤカさんのために出来ることは少ないでしょうし、下手をすれば足手まといになる可能性もあります」 諭すように、耀に言葉を向ける。そして、七花は視線をサヤカに移した。 「彼のことが大切であれば、連れて行くべきではありません」 「……」 「端的に言うよ、サヤカさん」 司朗が、サヤカを見詰める。言葉を受け、サヤカは視線を司朗に向けた。 「一緒にいけば絶対、薜さんは死ぬ。だから……今この場では別れて欲しい」 「――さっきからなんなんだよ! なんで俺が死ぬってわかるんだよ!」 叫んだのは、耀。自分が死ぬだなんて予言めいたことを言われて、「はい、そうですか」と受け入れることなど出来ないのだろう。 「……『今は』とは、どういう意味?」 サヤカは、司朗に問い返す。 傍らで、「こんなやつらの言う事なんか聞くなよ!」と、耀が叫んでいるが、サヤカは言葉には従わなかった。 「永遠に別れろとは言わない。せめて、彼が最低限戦えるくらいまで強くなるまで待って欲しい。 不安だって言うならボクらが面倒をみてもいい。 ……だから。お願い。僕らと薜さんに時間を頂戴」 「耀が貴方の仲間のように、戦う力を持てるというの?」 「アークとはそういう所です。今は無理でも、アークに関っていれば、再会の可能性はあります」 七花が答える。 後方で巻き上がった火炎陣から、2人を護るように立ち位置を変えた彩花がサヤカに向き直った。 「あなたが本気で彼を愛するなら、ここで巻き込もうとは考えないはずですけど」 「……」 言葉を失うサヤカ。 「ま……待てよ! サヤカが1人で自分の世界に戻ったら、あの追っ手はどうなるんだよ! 誰がサヤカを護るんだよ!」 耀は叫ぶ。サヤカと引き離されたくない。傍に居られる理由を、彼は必死で探していた。 「大人しく帰還するのなら、我々の出来る範囲での彼女の安全は保証します」 勿論それは、Dホールに入るまでの話だ。 そこから先の世界に手を加えることなど出来ない。 しかし、今ここに居る追っ手を全て倒し、サヤカの体に傷をつけたりしないように護ることはできると伝える。 「それに、万が一後を追われたとしても、戦う力はありますよね?」 彩花は、念を押すようにサヤカに問いかける。それが何を問うものかは、サヤカにもわかった。 「……私よりも、私のことを知っているのね」 ● その頃、グラウンド中央、Dホール付近では新たに現れた追っ手2体が出現と同時に攻撃を繰り出していた。 1体は火炎陣で辺りを焼き尽くし、彩音、そして和人が業炎のバッドステータスを受ける。 そして、もう1体は炎の矢を空中に生み出す。 「だーれがいいかなぁ」 炎に焼かれたリベリスタ達を品定めするように眺める。 「きーめた」 放たれた矢は、一閃、あばたに向けて飛び、その胸を貫き、炎を噴き上げた。 「……っ」 体の中から炎に焼かれる感覚、一息に生命力を失いそうになるのを運が救い、なんとかその場に踏みとどまる。 しかし、アザーバイドの攻撃はまだ終わってはいない。 夥しい量の血をグラウンドに染み込ませ、立ち上がったアザーバイドは穴だらけになった腕に焔を纏わせると、和人の胸に突きたてた。 「ぐ……っ」 「お前にも、穴、あけてやるよ……」 アザーバイドはにやりと笑みを浮かべた。 アザーバイドの一斉攻撃によって、追手班の体勢が崩れかけた。 そあらは、仲間達を回復すべく聖なる息吹を施す。 業炎に巻かれたリベリスタの脇を抜けようとするアザーバイドの前には生佐目が立ちはだかる。 「結構、かまってちゃんでな――無視してくれるなよ」 何をおいても、説得班の居る場所には行かせない。 追手班の全てが、その思いで動いていた。 そして、また1人アザーバイドの前に立ちはだかる。 絶対者の力を持つ、『青い目のヤマトナデシコ』リサリサ・J・マルター(BNE002558)。 彼女は、全力で防御することに徹していた。 「ワタシの力は護りの力……。今のワタシの護りはそうそう崩せるものではありません」 リサリサを倒せなければ、更に後ろに居る後衛を突破してその向こうまで辿り着くことは不可能。 アザーバイドはリサリサへと焔纏う拳を振り下ろす。 すぐさま、後衛に位置していたモニカは蜂の襲撃を思わせる連続射撃を繰り出した。 ここで、2体のアザーバイドが倒れ、そしてまた新たなアザーバイドが現れた。 「ここに『偶然』現れた筈のサヤカさんの事を知っている僕を、怪しいと思わないわけはないよね。 だから、僕を信じろなんて言えないけど貴女を愛してる薜さんを信じて欲しい」 一方、説得班の司朗はサヤカの反応から、些かの手ごたえを感じていた。 「耀を信じる?」 サヤカは、耀に顔を向けた。 その瞳を、見詰め返す耀の瞳は不安の色を隠せずに居た。 最低限戦える力を身につけるまで、とはどういう事なのか。 本当に、彼女の世界に行くことはそんなに過酷なことなのだろうか。 耀の心に渦巻く疑念。 「希望は0じゃない。 死ぬ気で鍛えたらフェイトに覚醒するかも知れないし、そのあとも頑張って強くなって会いにいけばいい。 時間もかかるし非現実的だけど、惚れた女のためでしょ?」 耀の背中を押すように、司朗は説得する。 「それともなに? 自己満足のために彼女の前で死んで、彼女の足かせになって彼女を泣かせたいの? サヤカさんが自分より大切ってのは嘘なの?」 その言葉で、耀の心は決まった。 「俺には……こいつらの言うことは信じられない。 でも……今ここで離れても、サヤカの事を愛し続けるよ。 そして、強くなってサヤカに会いに行く。――約束する」 サヤカがこれから判断することに異論は唱えない。 リベリスタ達に聞こえないように、サヤカの耳元で囁く。その言葉に、サヤカは小さく頷いた。 「――1人で、帰るわ」 説得が成功した報せは、追手班にも届いた。 「後はこいつらを倒すだけだね。早々に馬に蹴られて貰おうか」 彩音は呟くと馬ならぬ膨大な圧力を放ち、アザーバイド達をDホール前から吹き飛ばした。 グラウンドのフェンスに叩きつけられるアザーバイド達。 それを釘付けにするように、リベリスタ達は駆け寄ると一斉に攻撃を加える。 アザーバイドは必死で抵抗し、攻撃を放ったばかりの彩音を集中攻撃が襲う。 「く……っ、もう少しで……」 2度に及ぶ火炎陣、更に炎の矢を胸に受け、回復の手も間に合わずに彩音は倒れた。 そして、再び立ち上がる事は出来なかった。 その間に、Dホールに近づく説得班とサヤカ、そして耀。 説得班の3人が2人を庇うように注意を払いながら、Dホールへと到達した。 「今のうちです。早くお行きなさい」 彩花は、自らと同じ名を最後まで呼ばず、サヤカに送還を促した。 追手班がアザーバイドを抑えているとはいえ、この間に新たなる追手がDホールより現れる可能性もある。 送還を早く終え、Dホールを塞いでしまうのが一番いい方法だろう。 サヤカはDホールの前に立つと、少し離れた場所に居る耀を見詰めた。 「待っているわ、ずっと。約束よ――」 「サヤカ……」 背にしたDホールに身を委ねると、サヤカは静かに亀裂へと飲み込まれていった。 「サヤカ!! サヤカ……ごめん、ごめん……っ」 ● Dホールが破壊された後、元の世界に戻れぬと悟った追手を掃討するのは容易かった。 説得班も戦いに加わり、彩花の壱式迅雷、生佐目の暗黒がアザーバイドを飲み込む。 生命力が削られたところに、確実に一体の頭部を貫くあばたの弾丸、和人の鉄槌。 そしてモニカが最後の仕事とばかりに無数の弾丸を放った。 戦いがすべて終わっても、耀は涙に暮れていた。 離れたことの寂しさや、リベリスタ達の説得に屈しなければいけなかった辛さもある。 しかし、何より悔しいのは、自分の弱さ――。 彼女の世界で自分が生きることは出来ない。その言葉をサヤカが否定しなかったのは、きっとその通りだからだろう。 「俺がもっと強かったら……!」 彼女を1人で帰らせることもなかった。追手を倒す事だって出来ただろう。 けれど、今の自分にはその力は無い。 「くそぉ……っ」 拳で地面を殴りつける。それすらも痛みを感じるようではきっとダメだ。 何度も何度も、グラウンドの土に拳を減り込ませた。何故、自分はこんなにも無力なのだろうか。 「まぁ、落ち着けよ」 その傍らに、和人はしゃがみ込む。 「普通の人間同士の恋愛だって、愛だけじゃなかなか上手く回らんもんだぜ。 ホントにサヤカの事を愛してんなら待てよ。 大手を振って彼女を抱ける様になるまで」 「待つって……」 先ほど交わした約束は嘘じゃない。 いつまでも愛し続けるだろう、一瞬で心奪われた美しい人を。 けれど、やはり手を離すべきではなかったと、後悔の念が耀を支配する。 「生きてさえいればまた逢えますよ。 異世界人同士が出会って即一目ぼれの奇跡に比べれば、再会ぐらいなんてことありません。 ミラーミスに誓ってもいい」 「本当かよ……」 あばたのさらっとした物言いに、耀は気が抜けたように言葉を返す。 確かに、言われてみればその通りかもしれない。 この出会いは奇跡。 それならば、次なる奇跡だって、あるかもしれない。 「信じて進むしか、ないんだな」 ゆっくりと耀は立ち上がり、司朗を見遣る。 「本当に、アークに関わる事って出来るのか? ……強く、なりたいんだ」 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|