● 朝が来て、唐突に絶望するのだ。今日も一日が始まってしまった。 単調だった、最初は「つまらないな」と呟いただけだった。単調だった。個性を失ったとでも言おうか。 何をしたって詰まらない。吸って、吐いて、酸素が肺を満たしても其れが義務だからするだけで、したくなんてない。 ――生きてたくなんてない。 夜が来て、馬乗りになって男の首を絞めるのだ。嗚呼、なんて無意味な世界なのか。単調、メトロノームが刻む音の様な男の脈動が両手に伝わってきて、気持ち悪い。生きてるのね、と小さく呟いた。 生きてる意味が見つかりません、教えてください。 夜が来ると私はそう言って、殺し歩くのでした。 そんな私は、砂糖菓子の如く脆いだけの『おんなのこ』でした。 ● 「夜の街で、人を殺している少女が居ます。対応を」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は冷静にその言葉を吐き出した。 彼女が差し出した資料には『砂糖菓子』と呼ばれる少女について書かれている。高校生、暗い色をした目を髪。何処にでもいそうな少女。 「彼女は通称『砂糖菓子』です。夜、人を殺し歩いている連続殺人犯とでも称しましょうか」 黒いセーラー服を纏い、闇に紛れて、その手に握ったカッターナイフで人を刺す。殺す時は常に絞殺だ。少女には思えない力で人間の首を絞めるのだ。 曰く、生きてる事がわかるから、手で締める。 「砂糖菓子が何故人を殺すか、理由は明確でありながら、不確かです」 生きている意味が、分からないから。 ――なんて、曖昧な言葉だろう。死にたいと願う訳ではない、生きたくないのだ。生きてたら、辛いのだ。 「戦闘対象は彼女と、彼女の握るカッターナイフ型のアーティファクトが操るエリューションです」 情報を話す和泉の目に感情は灯らない。紙を擦り、捲りながら彼女は戦場となる街角の路地裏で一人の男性が犠牲になりそうだと告げた。 「人が一人、殺されそうになっています。その保護もお願いできますか」 仕事だと割り切ってしまった大学生は、ぽそりと言葉を漏らすのだ。 「死にたいとは希望でしかありませんが、生きたくないは絶望なのでしょうか」 それでは、宜しくお願いしますと和泉は一礼した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月23日(火)23:04 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 舌先で甘く蕩ける砂糖菓子。只、唐突に絶望する。今日も、一日が始まってしまった、と。 「生きる意味を見つける為に人殺しをするフィクサード、か」 薄暗い路地を歩みながら『黄泉比良坂』逢坂 黄泉路(BNE003449)は呟く。右目を隠す眼帯に触れて、赤い瞳を細める。 生きる意味を探す、自分の生きる意味は何だろう。楽しみと、喜びと、沢山の事を教えれば『砂糖菓子』は更生が可能ではないか、と黄泉路は口の中で呟いた。 「生きてる意味って自分で考えるコトでもないと思うんだけど」 難しい。其れは学校のテストなんかよりの難解で答えのない難題で。唇を尖らせて『下剋嬢』式乃谷・バッドコック・雅(BNE003754)は髪を掻き上げる。 数式でも、論理式でも解けない、分からない問題は女子高生と言うまだ年若い彼女には理解し難いものであった。 其れと同様に『生きる意味を探す』事は生きる意味で自らを縛りあげる『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)にも余りに考え難いこと。彼女は『信仰』だ。その想いも、その姿も全てが『信仰』が故。他に何もない、自身の存在意義は信仰であった。 「私の存在意義は信仰です、ですが、それ以外にも――」 これまで関わってきた物が、人が、全てが彼女の生きる意味のうちに含まれるのか。嗚呼、其れでもその考えを振り払う。 「――さあ、『お祈り』を始めましょう」 その祈りは湾曲する。願いを込めて、祈るたびに、変化していく。 ――生きる意味って何かしら。 夜に踊る砂糖菓子の如く脆くて甘い『おんなのこ』は夢を見る。彼女よりも年若い『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)は蝶が如く夜に舞う。 生きる意味が分からない、嗚呼、それは糾華だって考えた事がある。分かりやすい絶望が胸を占めている。私だって、昔は想った。過去の自分と邂逅する。鏡合わせの自分に触れて、存在意義を問うた。 『――私は』 でも、そこで得た『答』なんて彼女の参考にはならないから。顔を挙げる、路地裏で、ぼんやりと虚空を見上げるような瞳をした少女が男に向かってカッターナイフを掲げていた。 歩み寄る、愛しの愛しの砂糖菓子の殺人犯に。未だ鬼には遠い少女へと。『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)は鋏を軋ませながらそっと、囁いた。 「――砂糖菓子ちゃん?」 ● 灰色の髪が波打った。一方的に執り行われる理不尽な契約を手に、『墓守』ノアノア・アンダーテイカー(BNE002519)はカッターナイフを構えた少女の前へと滑り込む。 彼女のカッターナイフが盾として誇り高き古城の外壁へと、ぎ、と擦られる。現れた女に瞳を丸くして、だあれ、と『砂糖菓子』たる殺人犯は問うた。 「よー、人生の迷子ちゃん。邪魔するぜ」 謳う様に、戯曲が如く現れる。忍びよる深淵たる女は唇を緩めて笑う。 「悪いが、その手を止めて貰うぜ」 独自の技に目が眩む、嗚呼、でも彼の決意は固い。理解できるか――そんな物、分からなくたっていい。黄泉路の瞳に砂糖菓子の真っ黒な瞳が映りこむ。 ――嗚呼、私を邪魔しに来たの。 生きる意味を夜を彷徨い歩く少女の目の前に滑り込む女。砂糖菓子は唇を噛み締める他なかった。邪魔が、入った。唇をかみしめる彼女の背後に『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)が忍びよる。 黒いセーラー服に包まれた痩身の手首を掴み、ノアノアへと目を合わす。張り巡らせる強結界に周囲が包まれた。人の気配が消えた――そう錯覚したのだろうか、砂糖菓子が目を引ん剥いて口を開く。 声が出ない。咽喉が、引き攣って血が染み出しそうな程に。 「ッ――」 「生きる意味を説く、か」 かつり、ヒールが音を立てる。ナイトホークを構えながらも、素晴らしいとも言える集中領域に達した『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)の脳は告げる。 ――ソレハムイミデハナイカ。 生きる意味など、理由など己が導き出して初めて『意味』を持つ者。他者から与えられる意味など『忌み』でしかないというのに。 闇夜に紛れて『夜色』が彼らに襲い来る、蝶々が舞う――弾丸が闇を引き裂いて、シューターとしてのその集中力を得た蒼い軌跡が、その温度を高め赤より熱く青い炎が闇を切り裂く。 ぼんやりと浮かび上がった周囲に暗き瘴気が入る事すら赦さない。清き身に一つも触れさせぬとばかりにリリの銃弾が吐き出されて行く。 「夜の闇に紛れたとて、この髪の魔弾からは逃れられません」 降り注げ、天より来たれ、暗き闇をも切り裂いて。――さあ、裁きを与えよう。主の名の下に。 「闇を、照らし出さんッ」 夜色が、その名前の通り暗き体を晒して、溶かす。『砂糖菓子』の少女が連れる『夜色』の名前にふさわしい。彼女の存在が『嘘』だとしたら、この夜色だって――うそ。 ノアノアの背の後ろにいる一般人が震えを押さえる、走り寄ったアンジェリカの瞳が不安げに揺れる。彼女の身を夜色が、『砂糖菓子』が、攻撃を加える。 ふと、少女が息を吸い込む。枯れ切った声を、出そうと、咽喉が裂ける事すら構わないと、言う様に。すぅ、と吸いこんで、腹に力を入れて―― 「君と似たような技を使う子がオトモダチのオトモダチなんだ」 知ってるかいと問う様に葬識は巨大な鋏を構える。彼の言葉にリベリスタ達が身構えた。 「ィッ――――」 声にすらならない、叫び声が、生きたい死にたい怖い怖い。想いをこめて叫ばれるのが真っ白な彼女の世界。まるで生を認めないと語るかのような其れにノアノアが目を細める。 彼女の整った顔が歪む。なあ、と盾として誇り高き古城の外壁を構えたままに、彼女は砂糖菓子を見つめる。其の体に傷はない、背に隠した一般人はただ震えるだけだ。 「生きる意味を、教えてやろうか」 墓守は語る。誰かの役に立つ為、死にたくないから、そんなの違う。脳裏に浮かぶ優しい『あの子』。嗚呼、誰かの為に死ぬ選択肢だって、存在しているのだから、違う。 ここに彼女がある意味と、砂糖菓子がある意味を込めて。 「親が交わってさ、孕んで、生まれたからさ」 そしたら、生まれ落ちる。『生』を得る。簡易的、お手軽な理由に砂糖菓子が目を丸くする。 「生きる意味なんてさ、ハナからねぇんだよ」 その言葉に、アンジェリカがふわりと跳ねあがってブラックコードを握りしめる。 「意味がなければ、人は生きてはいけないの」 胸で赤い石を当てはめたロザリオが揺れる。切なげに眉を寄せて、ねえ、と問う。 神父様、神父様。願いを込める。纏ったゴスロリドレスの胸元が皺に為ることだって構わない。痛むこの胸の内が。想い出が、嗚呼――。 身を汚されて、生きる意味なんてなくて、何もなくて我武者羅で、生きていくことだって辛かった。おとうさん、おかあさん、名前を呼ぶ。息を吸う。生きていたいってその想いだけはあった。 ――それは、間違いなの? だが、其れに応えない。砂糖菓子には『生きてたい』という思いすら存在しないから。どうしようもない位に、空虚なその心が、辛くて。 闇に溶ける夜色が彼女の身を刺す、身体を何度も何度も甚振った。砂糖菓子の心の迷いを、表す様に。 ● 「ねえ、名前教えてよ」 囁く。その言葉に少女は丸い瞳を向けて、唇を引き結んだ。彼なりの、道理だという事は分かった。『砂糖菓子』と呼ばれる彼女はその意図を理解する。 ――殺す相手の名前は識る主義。 その主義主張があるからこそ、彼が『生きている』と言う事なのだろうか。 自分にはその主義もその主張もないから、彼と違うのか。 「名前はさ、個を表すもの」 無粋なコードネーム――砂糖菓子。嗚呼、そう、『個』を表すものを告げようとして逡巡。私には、名前がない。唇を動かす事もなく、乾いた咽喉は声を発する事もなく、ただ其処に茫然と立ちすくんだ。 彼の作法には叶わない、其れを見越していたのか葬識の目は残念そうな色を浮かべることはない。肩を竦めて逸脱者のススメの刃を閉じる。血に飢える刃が下ろされる。 「そっか、教えてくれないなら」 目線が、仲間達へと向けられる。 「殺せない、ね」 寂しげな瞳が、殺人鬼と殺人犯の間に決定的に出来ている溝を思い知らせた。其処で一つ、『砂糖菓子』は絶望するのだ。殺してくれるの、と聞きたかった。 殺したくない、自分だって分からないのだ。殺さなきゃ自我を保てない、そうにしか思えない。だって、この身を苛むのは常に『死にたい』というこのカッターナイフの所為。其れでも、此れがないと、『砂糖菓子』は『わたし』で居られなかった。 「貴女に生きる意味を差し上げましょう」 一般人に瞳を合わせ、彼の脳裏に残る『恐ろしい出来事』を忘れろと祈ったリリは二対の信仰を構える。祈りの魔弾が貫いて、夜色を失わせる。明けない夜はないと、そう告げるように。 「人を殺めた罪を、生きて償うのです」 生きたくないというならば、尚更にその苦しみが贖罪となる。糧となる、それが鎖のように体を苛むから。罪を償えたら次は希望を――それがリリに与えられる最大の事だろう。 不可視の刃が切り裂いて、何度も何度も傷つけて。頬に傷を負いながら、流れる血をこらえながら、ふら付く視界で祈る。二対の信仰を抱いたまま、向けるのは『砂糖菓子の如き少女』。運命を燃やして、嗚呼、と言葉を漏らして。 「見たいもの、したい事、共に居たい方……どんな小さなことでもいいのです」 そういうものじゃ、ないですか。頭の中に浮かぶ顔。嗚呼、愛おしい場所、愛おしい人、全てが『リリ』だから。信仰以外何もなかった、只、特殊な力を手に入れて『道具』だった頃の自分を浮かべて、彼女の生き様を重ねた。 只、人殺しが其処には居たのだ、真っ白な両手はもはや血の色に染まって、汚らわしい。 ――フィクサード風情に中途半端な救いも、同情も何も必要ないと、そう思う。 「生かすも殺すもどうでもいい。ただ、俺は仕事を完遂するだけだ」 精密な狙い撃ちが、砂糖菓子の体を射る。目障りだ、と口にして、全てを失くしてしまおうと。 生命をも蝕むその力が『少女』の体を痛みつける。殺してきた、こんな奴に贖罪を問うて意味があるのか――口の中で呟く。 「我思う故に我在り。そんなモンなんだよ」 生きてれば辛いことばっかり。金はない、親もうるさい、面白いことなんて少ししかない。当時は本当に苦しくて辛くて『少女』は耐えきれない。どうしようもない、行く先もないと雁字搦めに溺れていく。 其れでさえも想い出に為り下がるだなんて、何て低落だ。 「だから、お前が死にたいなら私が殺してやる」 魔王は告げる。その言葉に、砂糖菓子の脆い心が溶かされかける、揺らぐ、それでも―― 「ねえ、贖罪。それを生きる意味にしてしまうの?」 囁くように糾華は問う。彼女のその身に襲い来る夜色を全て鋭き蝶の様に切り裂いて、彼女の残酷なほどに尖った思いが夜の闇を裂きながら。 『殺してきたのだから、奪った命を償う為に生きています』 在り来たりな贖罪は確かに其処に存在しているのだろう。けれど、それでは駄目だろう、其れではいけない。其れは――唯の自身への欺瞞でしかない。 「ねえ、それで、生きる理由を『与えられて』いいの?」 砂糖菓子が口を開く。からからに乾いた咽喉では何も紡げない。カッターナイフを振るいながら、少女の真っ黒な瞳は糾華を射た。 砂糖菓子と呼ぶにしては惨めなほどに『黒』いちっぽけな少女は、空っぽだった。 「贖罪だなんて知らねえよ。そりゃこっちの都合だ。枷になったって、生きる理由にはならないだろ」 理由なんて、自分じゃないと分かんないよな、と不当なる配当確保を行う。生命力も、精神力も全てを込めた拳を撃ちこんで、少女が息を吐く。 「生きたくないと、死にたくないはイコールじゃねぇだろ?」 だって、と掠れた声で呼ぶ。でも、と迷いをそこに示しだす。 「私は――」「選択せず、拝命された贖罪で、奪った命が、貴方の迷いが、貴方の罪が」 与えられる。 選択肢ではない、それは強制的な選択。出来レースにしかならない。 唇を噛む。彼女へと振るわれる拳に砂糖菓子が息を吐く、腹へと喰い込んだ其れに息を吐き出し、胃の内容物が逆流しそうになるのを押さえこむ。きちりと揃えられた膝丈のスカートが揺れる。 「死にたいんだろ、さっさと死になよ!」 雅が叫ぶ。砂糖菓子の背筋に走る悪寒。――私は、死にたいのだろうか? 抗う為にカッターナイフを振るう。違う、違うと言おうとして。 「私はッ――」 「変な理屈こねて他人に死ぬ事を押しつけてんじゃねぇよ!」 自身を唯一護るだけのその拳が固められて振るわれる。砂糖菓子の腹へと喰い込む拳。かは、と小さく息が漏れる。ちちち、刃を出して、そのまま逆手に持ち抉らんとばかりにカッターナイフを雅の胸へと突きつける。何度も何度も服を切り裂き、素肌を切り裂き、流れる血など構わずに、雅は運命を捧げても、折れぬその心を胸に背後へとステップを踏む。 入れ替わるように、立ち替わる様にノアノアの一方的に執り行われる理不尽な契約が振るわれる。 「お前もナイフか、奇遇だねぇ」 退屈かい、と問う。違うなら、道は繋がるだろう。そう、その先に。 退屈だったら――生きてきた理由を与えてやる。 『砂糖菓子』は困ったように笑う。嗚呼、楽しいと思う、けれど――それで私は如何すればいいの、と。 死ぬために精一杯に生きろとは言えない。泣き出しそうな程に歪めた虚空が、困った様に微笑むソレが。少女の生存の形だと、分かってしまうから。 ノアノアの背後から踏み込んで、入れ替わりに斬射刃弓「輪廻」から吐き出されるおぞましき呪いが黒き矢のように砂糖菓子の胸を穿つ。 「生きる意味など、人によって千差万別なんだ。生きる意味の為に、他人の生きる『意味』すら奪う事だってあるんだ」 生きたくない、生きるのがつらい――それなのに何故他者を殺して生きるのか。 他者を踏み台にした生き方等誰も臨まない。他者を殺して、その身を抉って、生きる意味をくださいと他者の首筋に這わせた指先。伝わる脈動が相手が生きているのだと初めて感じさせた。 「他者にとっての迷惑だ、生きていたくないなら、死ね」 構えた弓の行く先には砂糖菓子の如く脆いだけの『おんなのこ』が存在している。 ――生きてたくない。けれど。 少女は眼を見開いた。涙が溢れだす。その何も映さない虚空の瞳は初めて色を映す。感情と言う名の色を。透き通った透明な液体を。 「死にたく、ないよ」 ● 「ねえ、私は何も与えないわ。貴女に何て挙げて遣るもんですか」 血まみれで、傷だらけで泣き出した少女に向かい糾華は言う。 「ねえ、足掻いて、探して、掴み取りなさい」 其れは、選択者の言葉。嘗て通った道を振り返る様に糾華は言う。手を伸ばして、傷を得て、其れでも生きていこうとしたから。今の彼女が其処にある理由だから。 「私達の前に再び立ち塞がるならば、その時はもう一度相手に為るわ」 かつ、とブーツの踵が鳴る。ふわりと白い髪が波打つように揺れて、瞳を伏せる。背を向けた彼女に入れ替わる様に殺人鬼はくすくすと笑う。赤い瞳が緩められて、こてん、と首を傾げる。 「また会おうよ、愛しい愛しい砂糖菓子の殺人犯。その時は、名前を聞かせてね」 そしたら、殺してあげよう。 大切な命だから、一つ一つ丁寧に殺して行こう。奪っていこう、全て、優しく、愛するように。 「一つ、言い忘れたわ」 少女は視線を下げる。その眸には何も映らない。砂糖菓子を振り仰いだ彼女の目には、映らない。 リリは伸ばし掛けた手を下ろす。捕縛して、贖罪を与えても、どうにもならないかもしれない。切なげに目を伏せる。嗚呼、願わくば彼女が『生きる意味』を見つけられます様に、と。 は、と息を吸い込んだ彼女に向けて、糾華は言い放つ。 「――私、貴方みたいな甘ったれ、自分見てるみたいで嫌いなのよ」 そんな私は、ちっぽけで、何にもなれないぬるい珈琲に溶けることすらできない。 そんな、甘ったれた『おんなのこ』だったのです。 夜に、溶ける。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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