●紅葉が舞う山で 長野県某所。 秋の山は色づき、赤く染まっていた。 その山には、紅葉を見にきた行楽客の姿があった。 木々の間を歩き回るカップル、ブルーシートをしいて弁当を広げている家族連れや友人たち、1人道端のベンチでカップ酒を傾ける男……。 人々が異変に気づいたのは、最初の悲鳴が上がったときであった。 赤い葉っぱが踊っている。 数百、数千の紅葉が宙を舞い、家族連れに襲いかかっている。 いや、1ヶ所だけではない。 何ヶ所にも悲鳴が拡散していく。 最初に襲われた家族の真上で紅葉が集まり、一定の動きを繰り返していた。 舞う葉っぱは、まるで鬼の顔を象っているかのようだ。 葉っぱがこすれあう音が、鬼の哄笑のごとく山の中へ響いていた。 ●ブリーフィング 「昨年の今ごろだったかのう。りんご狩りに行ったのは」 集まったリベリスタに対して、『マスター・オブ・韮崎』シャーク・韮崎(nBNE000015)が告げる。 「今年は紅葉狩りに行くんじゃが、お主らにも付き合ってもらおうと思っての」 ニヤリと笑うシャーク。リベリスタたちは、何故紅葉狩りでブリーフィングルームに集められたのかと首をかしげた。 「ああ、言っておくが、紅葉はエリューションじゃからな」 フォーチュナから受け取った資料をシャークはリベリスタたちに見せる。 どうやら、紅葉したカエデの葉っぱがエリューション・ビーストと化したらしい。 「敵の数じゃが、正直言って数え切れん」 1本の木だけでもいったい何枚のエリューションが発生しているものか。数百どころではすまないだろう。 とは言え、敵は群体のようなものだ。6ヶ所に登場する敵は、実質6体と考えていい。 敵の攻撃は、まず葉っぱで全体を切り裂く攻撃。命中率が非常に高い上に、受ければ圧倒されて防御力が下がる。また、近接範囲を包み込んで動きを鈍らせ、呪縛する攻撃も可能だ。 「それと1ヶ所だけ、鬼のような形状にまとまった紅葉があってのう。どうやら他の敵より強力なようじゃ」 鬼は木の葉を擦り合わせ、哄笑のような音を出すことができる。これは全体に対して混乱を呼び、体力だけでなく技を使う力も奪うという。 敵の出現地点はバラバラである。とは言え、初期時点では中央付近からなら全体攻撃ですべて巻き込めるだろう。範囲攻撃に複数巻き込むのは難しいだろうが。 もっとも、その中央付近には鬼紅葉がいるので注意が必要だ。 敵は浮遊しているが、近接攻撃で狙えないほどではない。 また、周囲には行楽客がいるので、人払いする方法や守る方法も考えておいたほうがいいだろう。 「まあ、お主らならば問題はなかろう」 特に根拠もなくシャークが断言する。 「エリューション化していない紅葉も多くある。弁当など用意していって、倒した後は儂らも紅葉狩りと洒落込むのもいいじゃろうな」 もっとも、あまり手の込んだ弁当を作っていく暇はないだろうが……。 シャークの呼びかけに応じて、リベリスタたちは行動を始めた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:青葉桂都 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月01日(木)23:02 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●自然公園の敵 公園は紅葉の真っ盛りだった。 「わぁ……絶景だね。うんこういう景色の綺麗な場所でのんびりするのも悪くない。雪ちゃん誘ったら喜んでくれるかな?」 ジャッカルの耳を生やした『骸喰らい』遊佐・司朗(BNE004072)が幼馴染を思う。 「確かに、子供たちと来たかったですねえ」 同意したのは『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)だ。 「紅葉狩りか。もうそんな季節なんだよな。ずっと暑かった気がしてたからさあ」 『chalybs』神城・涼(BNE001343)が茶色の瞳で舞い散る紅葉を見つめていた。 「で、なにこれ? 葉っぱ? いやなんで動いてんの? しかもすごいいっぱい。うんこれで害がなかったら風情があるんだけど……ねぇ、これ全部ボクらだけで駆除すんの?」 明らかに風ではない理由で動いているものが確かに存在し、司朗がぼやく。 「紅葉狩りとは、風流なことです。今回の場合、文字通り『狩る』ことになるようですが……いや、これは『刈る』ことになるのかな?」 作業着の『必殺特殊清掃人』鹿毛・E・ロウ(BNE004035)が笑った。 「紅葉狩りと書いてエリューション討伐と読む。アークらしいと言えばらしいし、一番多いケースでもあるんだよね」 四条・理央(BNE000319)は眼鏡の奥から冷静に告げる。 「どんなものでもエリューションになってしまうのですね。世界はいつの間にかどんどん変わっているのでしょうか?」 まるで小学生のように見える『おとなこども』石動麻衣(BNE003692)が呟く。 「秋の情緒を台無しにしてくれるエリューションがいたものですねまあ、そろそろ肌寒くなってくる季節ですから。紅葉狩りの前の準備運動には丁度良いと思う事にしましょう」 黒髪をヘアバンドでまとめた『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂彩花(BNE000609)が凛とした表情で公園内を見回す。 「一般人の方に被害がでない。そして、私たちにも被害がでないソレが最優先目標です」 そのそばで、誰も傷つけさせないと気合を入れるのは『大雪崩霧姫』鈴宮・慧架(BNE000666)。 「過ごしやすい気候になって、出掛けるのを楽しみにしてる人も多いだろうしな」 『闘争アップリカート』須賀義衛郎(BNE000465)が静かに同意した。 「とにかく 早めに 片付けよう」 エリス・トワイニング(BNE002382)がぽつぽつと仲間たちに声をかける。 「そうじゃな。ゆっくりするのは倒してからじゃ」 『マスター・オブ・韮崎』シャーク・韮崎(nBNE000015)が身構える。 「どうもお久しぶりです。ご当地ヒーローなシャーク様」 彩花に仕えるメイドである『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)が慇懃に声をかけた。 「お嬢様はともかく今回は店長もいらっしゃいますし。真面目にさくっと殲滅しましょう」 自分が仕えている主をともかくと言い切り、モニカはアクセス・ファンタズムから自動砲を腕に装着する。 「そうっすね。最速で片付けるっすよ」 眼帯をしていないほうの目でうごめく紅葉を見すえて、『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)がギアをあげた。 紅葉たちが、塊となって動き出した。 ●避難誘導 義衛朗はまず、葉がエリューション化したカエデの1本に向かった。 結界のおかげで新たに来る者はいなかったが、周囲にはまだ一般人が残っている。 フラウや司朗、慧架もそれぞれに散った。 鹿毛が最も近い1体を狙い、それに彩花が続く。彼らは撃破役だ。 全体攻撃を使うモニカやシャークが鬼面を形作る敵に接近していた。回復役のエリス、京一、舞衣はその後あたりに位置している。 そして、彼らを守るように、ちょっと自信なげな顔をした涼が立ちはだかる。 理央が状況をまだ把握していない一般人の一団へ近づいていった。 義衛朗自身は人的損害が出たとしても気にしない……が、追い散らす手段があるならそれに越したことはないだろう。 「とりあえず今のお前さん達の相手はこっち」 打刀というには少し短い刃と、短刀というには長い防御用短剣を手に、息吐く間もない連撃が紅葉の群れを切り裂く。 手応えはあった。 だが、惑った様子はない。 「ま、事前情報通りってことか。効けば儲けものだったんだがな」 包み込もうとする葉っぱを、上体をそらせてかわす。 本番はここからだ。 自らを加速させ、義衛朗は葉っぱの前を動き回る。 理央は家族連れの一団に近づいた。 呆然とした様子の彼らは、どうやらまだ状況がわかっていないらしい。 (ま、パニックになるよりは助かるね) 最初に父親に目を合わせる。 「凶暴な熊が出たんだ。だから、急いで逃げなきゃいけない。わかるよね?」 順に彼らへ視線を向けて、理央は力を使った。 呆けたような表情で父親が頷く。 「落ち着いて、家族を連れて逃げるんだ」 片付けもせずにその場を離れる家族。 「これでよし。さて、他の人たちも早く逃がさないとな」 三つ編みにまとめた髪を揺らして、理央は次の一般人へと小走りに駆けた。 涼は鬼面の形作る塊と対峙していた。 恐ろしい敵だが、逃げる気は起きない。むしろ、戦意がわいてくるというものだ。 鬼の顔は目の前にあったが、それは涼のほうを見てはいない。葉ずれの音が哄笑へと変わり、周囲から悲鳴が上がっていた。 「興味ないみたいだな。だったら……こっちを向かせてやるぜ!」 漆黒の片刃剣が奇妙に動いた。 軽く反った刀身が描くのは敵を惑わす幻惑の軌跡。 それは紅葉の塊へ滑るように入り込んで、切り裂く。 刃を取り巻くように紅葉が動いた。ブロンドの髪が包み込まれる。 「涼ちゃん!」 麻衣が呼びかけてくる声に、涼は葉の渦の中から軽く片手を挙げて応じた。 彼は素早い動きで攻撃の直後に守りを固めていたのだ。 「いや、落ちるかも、っていったけども実際落ちたらカッコ悪いじゃん!? だから、まあ、そういう感じでさ!」 防御力がさほど高い彼ではないが、守りを固めていれば軽傷ですむ。 京一の放つ輝きが葉の呪縛を振りほどき、麻衣の息吹が傷を癒す。 治癒を受けた涼は、再び迷うことなく挑みかかった。 司朗は氷の拳を。燃えている紅葉の中へと突き入れた。 「フリーズ。止まれ、こっから先は通行止め。面倒だから凍っておいてよ」 氷が伝播する。空中に浮いたまま紅葉には霜が張り付き、燃え上がる炎ごと動きを止めていた。 面倒だから戦うのは嫌いだ。 ずっと凍らせていられるわけではないが、少しの間はもつだろう。 アクセス・ファンタズムを起動して、理央を呼び出す。 「ボクのほうは片付いたよ」 「わかった。なら、後は敵を倒すだけだね」 いったん退き、仲間と合流する。それから、司朗は敵のブロックを再開するつもりだった。 1人で倒せるなんて思い上がってはいないし、なによりメンドくさい。 炎と氷に包まれた敵を残し、司朗は後退した。 フラウと慧架はまだ紅葉を抑えている。攻撃を受けた彼女たちを、舞衣とエリスが回復していた。 モニカは戦場の中央付近にいた。 腕に装着した自動砲は木々をかいくぐって敵を撃つ。 彼女の主である彩香が手近にいる敵と戦いながら、時折自分をうかがっているのが見えた。主に、鬼面紅葉の哄笑が響いたときに。 混乱したら凍らせて止めるつもりなのだ。 「マジ勘弁してくれませんかね。いくら私が氷雪系っぽい外見でも寒いのは苦手なんですけど」 モニカの攻撃力が味方に向くと困るのは確かだろうが……。 同じく全体攻撃の技を持つシャークが、隣で冷たい雨を戦場に降らせている。 「っていうかアレですよね。もし私が暴走しそうになったらシャーク様の呪印で何とかして下さいよ。お嬢様ってばシャーク様のことあまりご存知なくて多分気付いてませんから」 「暴走し始めたら、止めればいいのか?」 ニヤリと笑って彼は応じた。 「お願いします。あ、いちおう確認しておきますが、シャーク様は小さな女の子を縛って悦ぶような趣味はお持ちではないですよね?」 「ないわ」 紅葉の哄笑が響く。 混乱したモニカの意識を、京一が放つ神の光が取り戻す。万一への備えは、今のところ必要にはなっていない。 鹿毛の太刀が高速で敵を切り裂いて、彩花の拳が炎で焼く。 自動砲が再び銃弾を吐き出すと、集中攻撃を受けていた紅葉の塊が崩れ、地面に散らばる紅葉に混ざった。 エリスは残った紅葉の塊たちを観察する。 復帰してきた理央が、1体を巻き込みつつ先ほどまで司朗が戦っていた敵に魔力の砲撃を加えた。 「四条さん、お疲れ様でした」 義衛郎が声をかけながら、紅葉へ向かって跳躍する。 「……ん。あいつが 一番弱ってる 狙って」 青い瞳が、敵の状況を看破する。 はたからはなにを映しているのかわからないと言われる少女の瞳だが、少なくともこの瞬間に見えているのは紅葉を分析した結果だった。 鹿毛や彩花たちが、エリスの示した敵へと向かっていった。 ●紅葉を狩り尽くせ 彩花はモニカの位置を確認しながら、木々の間を走った。 「モニカに同士討ちなんかされたら、痛いじゃすまないんだから。もしもの時は覚悟してもらうわよ、バカメイド」 幸い、今のところ京一による回復だけで同士討ちは避けられている。だが、いざというときは迷うまいと、彩花は拳を握り締める。 司朗が凍らせていた敵が、炎と共に氷結を振り払う。 しかし、その時にはすでに鹿毛と義衛郎の刃が敵を捕らえていた。 間髪いれず、再び司朗が炎の拳を叩き込む。 「本当によく燃えるね。芋でもぶち込んだら美味しくなるかな?」 燃え始めた紅葉をながめて司朗が楽しげに言った。 モニカの様子をうかがっている分、どうしても彩花の行動はワンテンポ遅れる。 葉っぱが嵐のように舞い踊り、周囲にいた者はもちろん、遠くにいる者も一部巻き込む。 紅葉の塊へと雪崩れ込むように特殊合金製のガントレットを叩き込んだ。 鮮やかな象牙色が、紅に彩られる。 冷たい雨と、銃弾の雨が、集中攻撃役を補助するように降り注ぐ。 まっすぐに突き出した彩花の拳が、敵を包んでいる炎をさらにあおった。。 渦を巻く紅葉が激しく燃え尽きていた。 麻衣は少なからず傷ついていた。 今回の敵はすべて全体攻撃を持つ。回復の効率を考えるなら、どうしても巻き込まれやすい位置に陣取るしかない。 もっとも、他の回復役にしても同じことだ。仮面で表情を隠した京一や、そもそも表情の変わらないエリスではわかりにくいが。 全体攻撃役のモニカやシャークも傷は浅くない。 一番厳しいのは、当然ながら涼だろう。 「う、運命が俺に立ち上がれって言ってるんだぜ。いや、マジでマジで!」 鬼面に包み込まれた彼が、倒れ込むように抜け出す。 「涼ちゃん、無理はしないで下さいませ!」 高次元の存在を顕現させると、その息吹が仲間たちを包んだ。 研究を続ければ、この息吹がどこの次元より送られてくるかわかる日も来るだろうか。 麻衣の、涼の、仲間たちの傷を癒し、紅葉を揺らして息吹は去った。 鹿毛は慧架がブロックしている敵へ向かった。 和装美人といった風情の彼女だが、その戦い方は格闘だ。 動きにはまだ余裕があるように見えた。 やはり、特に注意すべきは単身ボスを抑える涼か。 「神城さん、危ないときは交代しますから」 「ありがたいが、そいつは受けられないぜ。ヤバいときほど燃えてくるタチなんでね!」 (なるほど……やはり、マゾヒストでないと、こんな仕事はしていられないということですね) 堅牢にして流麗な造りを持つ、来歴不明の太刀を構える。 彩花の連続打で態勢を崩したところに、鹿毛が繰り出すのは神速の連撃。 フラウは紅葉の1塊をブロックしていた。 とは言え、ブロックだけで終わるつもりは、フラウにはなかった。 「混乱? 呪縛? 知った事かっすよ」 両の手に構えるのは2振りの魔力のナイフ。 「そんなのやられる前に攻撃すればイイじゃないっすか言わせんなよ恥ずかしい」 無論気構えの問題で、実際にはフラウの回避力をもってしてもラッキーヒットは避けられない。 とは言え、速度に魅せられたフラウの攻撃は、高速で紅葉の数を減らす。 モニカの自動砲やシャークの氷雨も敵を着実に削っていた。 エリスや麻衣の魔力の矢と、理央が示した凶運がさらに弱らせる。集中攻撃組がこちらへ来ようとしていたが、それよりフラウのほうが早い。 「これでとどめっす。まだまだ早くしなきゃいけないっすね」 残った葉っぱが、細切れになってフラウの足元に落ちた。 京一は仮面の下から戦局を確認する。 子煩悩な素顔を仮面は覆い、隠してくれる。 「状況は有利……ですが」 全体を混乱に陥れる鬼面の攻撃は、一度でも通せば惨事となる。 「ザコは後1体、あと一息ですよ!」 身につけた指揮能力で仲間たちを補助する。 哄笑が響いた。 強敵だけあって、毎回数人はその効果を受ける。京一はすぐさま、今日何度目になるかわからない神の光を放った。 最後のザコは、司朗の放った炎の拳で燃え上がり続けていた。 義衛郎が跳躍しては素早く戻って、けして逃がさないようにしていた。 シャークは近づいてきた理央を横目で見る。 「どうかしたか?」 「いや、韮崎さんの技を手本として見せて欲しいと思ってさ。魔力の誘導をお願いしたいんだ」 「手本か。ふ、儂の実力など、お前たちはとうに追いついておるがな」 導師服から取り出した式盤を手に、カエデの吉兆を占う。 理央もそれに続いて細身の杖を振るった。 導いた不運と不吉が、まとわりついた炎が、理央が生み出した不吉の影を増幅する。物理的な威力を伴った不幸が紅葉を覆い尽くし、消し去っていた。 慧架は古武術の足運びで滑るように鬼面紅葉へと接近する。 和服美人といった風情の慧架であるが、見目に似合わず彼女は格闘に長けた覇界闘士だ。 1人で強敵を抑え込む逆境に、涼がニヤリと笑うのが見えた。 そこに、リベリスタたちが襲いかかる。 高速度で叩き込まれる鹿毛とフラウの刃。遠距離から義衛郎がそこに飛び込む。 彩花が敵を崩し、ショックを受けている隙に司朗が氷結の拳を叩き込む。エリスや麻衣、京一も攻撃に加わっていた。 鉄甲を装着した腕を軽く握って、慧架は静かに告げた。 「燃えなさい、裁くのは私の拳です」 花柄の着物のすそから伸びた慧架の繊手には炎が宿っている。 古武術の突きを流れるように繰り出すと、それは鬼面紅葉を焼き尽くしていた。 ●本当の紅葉狩り 傷の手当を終えたところで、義衛郎は仲間たちに声をかけた。 「エリューションじゃない普通の紅葉狩りに行く人はいますか?」 アクセス・ファンタズムの中から取り出したのは、ペットボトルのお茶と、ゆで卵とレタスのサンドイッチだ。 「私はお付き合いさせてもらいますわ。慧架さんはそういうのお好きそうですし」 「はい、紅葉を眺めながら、紅茶とサンドイッチをいただくのもいいですねえ」 紅茶館の店長である慧架は、彩花の言葉に微笑んだ。 「のんびり赤と黄色の世界を楽しむのも一興なものです。日本の自然というのは四季がはっきりしてる珍しいものですしね」 「それでは私も店長のお手伝いさせていただきます」 モニカが丁寧にお辞儀をして紅茶の準備をする慧架を手伝い始める。 「恵んでもらえるなら、俺も付き合うぜ。いや、俺はその料理できないしさ」 「細かいことは気にするな。儂も残念ながら時間が足りなくて手ぶらじゃ。タルトを作ってこようかと思ったのじゃが」 言い訳がましく言った涼の肩をつかんで、シャークが紅葉狩りの輪に加わる。 「あまり時間が取れないと自分で言ったのに、タルトなんて作ってくるつもりだったんですか。さすがはシャーク様ですね」 「はっはっは、そう褒めるな」 シャークは鷹揚にモニカに笑いかけた。 「せっかくですし、僕もしばらく紅葉を狩って行きましょうかね」 鹿毛は手近にあった枝の葉を手折る。 「何枚か持ち帰って、ヤサで楽しむのもまた一興かな」 戦いの中でも傷ついていない葉はまだいくらでもあった。神秘の力といえども、自然を滅ぼしつくすのは簡単ではないということか。 熊出現のデマを流したこともあって、戦場から少し離れた場所にリベリスタたちは移動する羽目になった。景観は多少劣るようにも思えたが、仕方のないことだ。 赤に、黄に。 鮮やかに色づく葉を肴に、リベリスタたちはしばしゆっくりと時間を過ごす。 「モニカは座らないのか? せっかくだから、一緒に楽しもうぜ」 輪には加わらずに給仕に徹しているモニカを見て、涼が声をかけた。 「いいのよ、モニカは雑用をさせておけば」 「はい。私はあくまでメイドなもので。メイドが客と同席になるのはアレなのですいません」 モニカに限って扱いが雑なのは、彩花とモニカの腐れ縁が長いことの証明かもしれない。 結界を解除したことで紅葉を見に来る一般人たちも少しずつ集まってきている。 「犠牲者が出なかったようで、よかったです」 「そうね。紅葉と共に人々の命まで散らせてしまうわけにはいきませんから。紅葉が己の葉を散らすのは死のためではなく、次の春に新たな活力を得るためです」 色づいた葉はいずれ土に還るのだろう。それが再び葉をつける養分となる。 生命のサイクルに思いをはせながら、リベリスタたちはしばし、穏やかな時間を過ごした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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