●呪死 ――その匣を開けてはならない。 ――それは呪いの匣。 ――開けた者は焼かれ、開けた者は凍え、開けた者は串刺しにされ、開けた者は決して逃れられない。 ――それは呪いの匣、決して開けてはならない。 「くっそ、忘れ物なんてついてねー」 人気の無い高校の校舎、もう下校時刻は近い、既に日は落ちて校内は薄暗かった。 「あったあった、ノートねーと試験勉強できねーもんな」 普段と違う、寂しい教室の雰囲気を誤魔化すように、少年は明るく声を出す。その音もしんとした静寂に飲み込まれる。 目当ての物を見つけ教室を出ようかという時、見慣れないものが視界に入る。 「あれ? なんだこの箱……えーと、『あけないでください』?」 それは金属で出来た十センチ四方の四角い匣だった。鈍い銀色の外装には美しい彫刻が施されている。そして最も華美な蓋には札で封がされていた。札に書かれた文字が『あけないでください』。 「誰んだこれ? ……びっくり箱かなんかか?」 机の上にあった匣を手にとってみると、ずしりと重い。 「あけるなってことは、あけろってこどだろ?」 好奇心に負け、少しだけと封を取ろうとするが、思ったよりも脆く、破いてしまう。 「あー……まあいっか、さて、中身はなにかな」 蓋に手をかける、思ったよりも軽い手応え。 匣をゆっくりと、開けた――。 「あ? ここ、どこだ?」 一瞬にして周囲の景色が変わっていた。天井が高く、四方を白い壁に囲まれた部屋が目の前にある。 突然のことに驚き狼狽していると、周囲に炎が奔る。それは少年を狙い飛び掛る。 「あ、熱っ!」 次は冷気が吹きつけ、次は電撃が、次は……。 「あ、あ、……たすけ――」 のたうち少年は手を伸ばした、だが助けなどなく、最後に少年は無数の呪いの棘に貫かれた。 「ぎ、ぁ」 焼けた肉と血の臭いが漂う中、全身に穴を開け、動かぬ骸となった。 ● 「ダメといわれると、やりたくなるのが人間よね」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が視た事象を語る。 「今回は民間人を助けて、この悪質なアーティファクトを破壊してもらいたいの」 人を閉じ込め、呪い殺す為のアーティファクト。厄介なことに内部にはE・エレメントが巣くっている。 「今から急いで向かえば、少年が箱を開けた直後に辿りつけるはずよ」 蓋を開ければ同じように中に入れるはず。すぐに後を追えば少年が犠牲になる前に間に合う。 「匣から出られなくなったりしないよう、気をつけね……」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:天木一 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月26日(金)23:27 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●呪いの世界 黄昏の時は終わり、夕闇が夜のヴェールを下ろす頃。人気の無い学び舎を駆ける影。 リベリスタ達は皆、無言でただ目的の教室を目指す。一刻も早く駆けつけねば少年が危ない。喋っている間も惜しいとばかりに階段を駆け上がる。 教室の入り口が見える。『闇狩人』四門 零二(BNE001044)は懐中電灯の光を向けて教室名を確認した。 その時、先頭を走る『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)は『どさり』と何かかが床に落ちる音を聞き取る。 迷うことなくそのまま教室に入る。中には誰も居ない、視線を下げると床には学生鞄が転がっていた。そして……机の上に、四角い匣があった。封は破られ解けている。鈍い銀色の金属の匣、それが照明の光に照らされ怪しい輝きを放っていた。 「これか……」 匣を手に取ったエルヴィンは背後を振り返る。後ろに居た零二は視線を合わすと頷く。 「開けるぞ」 エルヴィンは蓋を開けようとする――その束の間、匣を凝視する『いつも元気な』ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)。印象的な彫刻が目に留まる、側面のにはそれぞれ違う獣の絵柄。そして、札を貼っていた場所だろうか、蓋の中央、破れた札の隙間から瞳の絵が覗いていた。 ――エルヴィンが蓋を開けた。あけてはならない匣は開けられた。 一瞬の空白。空間は捻じ曲げられる。 世界は暗転し、周囲を覆うは白い壁。上も下も全てが白に囲まれた部屋の中に、リベリスタ達は入っていた。部屋の広さは三十メートル程だろうか。何も無い空間は実際よりも広く感じられた。 「うわぁ! 来るな!」 少年の声。声の聞こえた方を見ると、炎の蛇に襲われている少年の姿。 「させるか!」 エルヴィンが盾を手に、少年と蛇との間に割り込む。その身に炎が襲い掛かる。火傷しそうな高熱が盾越しに伝わる。その熱に耐えながら、力強く笑みを作ると少年に振り返る。 「よう、災難だったな。すぐに助け出すから、少しだけ我慢しててくれ」 少年は突然の事に驚きながらも、困惑し泣きそうな顔をしながら頷いた。 「安心したまえ、オレ達はキミの味方だ……必ず、助ける……!」 零二は少年から離れるように敵の側面へと移動すると、敵の注意を引こうと息を大きく吸い、声を発す。 「その程度の呪いでは無力な子供は殺せても、オレは殺せん!」 言葉に乗った力強い意思に、E・エレメントの半数の注意が零二に向く。上手く乗せることができた、これで少しでも少年を護る為に、仲間が動く時間を稼げるはずだ。 「夢の中へよく来たのぅ。残念ながら悪夢のようじゃが」 幼き幼女の姿をしながらも、大人の余裕のある態度を見せる『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)は、少年を庇い、氷の鳥が吹き付ける冷気を受けながらも軽口を叩く。 「ほんと、ろくでもない夢で大変だね……でも、大丈夫。僕たちが助けるから、安心して」 『覇界闘士-アンブレイカブル-』御厨・夏栖斗(BNE000004)も目配せでタイミングを合わせ、瑠琵の横に立つと雷の犬の電撃を黒鋼のトンファーで受け止めながら、少年に優しく声を掛ける。 「ひっ」 腰を抜かした少年が偶然見上げたその先に、そろりと頭上から忍び寄る毒霧が襲い掛かる。 「少年、我々が居る限り危険な事はないでのう。気を楽に持つがよいですぞ」 少年の背後から声。そこには仮面を付けた人物、身体を覆う服からは性別は分からないが声は男性のもの、『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)が立っていた。 九十九は毒霧を含む複数の敵に光弾を放つ。高速で飛翔する弾は狙い違わず命中した。毒霧は一瞬霧散しそうになったが、もう一度終結して薄くなった体を形作ろうとする。 「そのまま消えておけよ!」 夏栖斗が助走をつけて蹴りを放つ。それはまるで空気を切り裂くように矢のように突き抜ける。目の前の炎の蛇と空中に居た毒霧を貫き壁へと突き刺さる。衝撃で壁が揺れひびが入る。貫かれた炎の蛇は半身が吹き飛び、毒霧は霧散して消えさった。 『――シネ』 突然、匣の中に邪悪な波動が奔る。その一瞬の間だけ、天井の中央に現われた模様、一つの瞳が描かれている。それは匣に存在する命を吹き消す悪意の塊、呪いの言霊。 「ぬぅっ」 苦痛の声。見ると少年を守り凍傷を負っていた瑠琵の腕から黒い茨が生えていた。その棘は腕を貫き、血が流れ落ちる。 ●弱点 「さあて、性質の悪ぃ箱には消えてもらうぜ」 零二が誘導した敵の一群に向かい、『墓堀』ランディ・益母(BNE001403)が飛び込む。その巨体からは想像も出来ない俊敏さ、それはまさに肉食の獣の如くだった。 「行くぜ、巻き込まれるなよ!」 戦斧が凄まじい速度で旋回し、風を切り裂き敵を襲う。その音はまるで呻き声のように響く。重々しい戦斧がまるで小枝のように振り回され、死の気配を撒き散らす。 だが敵に囲まれ被弾は免れない。雷の犬がその牙を突き立てようとした。その時、ウェスティアの放った黒鎖が押し包むように敵の姿が見えなくなるほど巻きつく。溺死させるように締め上げ、押し潰す。 「みんな、フォローは任せてね!」 ウェスティアは黒き翼を羽ばたかせ、誰の補助も行なえるように位置取る。 『舞姫が可愛すぎて生きるのが辛い』新城・拓真(BNE000644)は仲間の動きを確認しつつ壁に立っていた。そう、垂直に壁に立っているのだ。まるで地面に立っているように自然とした足取りだった。 「全方位、貰った……!」 その位置取りは一度の攻撃で床、壁、天井、そしてE・エレメントまでも狙い撃てる場所。全てを一度に攻撃することにより匣の強度を測る。意識を集中し、手にした自動拳銃から無数の弾丸が次々と連続で放たれる。 戦斧の暴風に吹き飛ばされそうだった炎と雷が弾丸の雨で消し飛ぶ。地面は弾丸を弾き、壁には穴が開き、天井はひび割れた。 「天井が一番脆いようだな、だが……」 拓真の攻撃を注視していた零二は、攻撃の跡からそう判断する。地面は弾を弾いた、傷跡はあるが深くはない。壁には穴が開いた、貫通するには到らないが弾が見えないほど深く埋まっている。天井には穴が開き、その衝撃が周辺にも伝わりひびが入った。 だが、一つ疑問があった。一瞬だが射程外に居る氷の鳥の姿が薄くなった気がしたのだ。その理由が分からない。 「あの、思いついたんだけど……もしかしたら外の模様が関係あるかなって」 ウェスティアが匣にはそれぞれ模様があり、側面の中央に鳥の模様があった事を告げる。見えた範囲には他にも蛇の模様もあった。 「なるほど……拓真」 零二が視線を向けると、拓真は意味を察して頷く。銃を自分の立つ壁の中央へと向ける。発砲。その瞬間、確かに氷の鳥の姿がぶれた。 「確かに、効果があるようだな」 拓真は銃を撃ちながら氷の鳥を観察して確信する。 「絵のあった部分を攻撃したら、敵を弱体化できる……のかな?」 「恐らくそうだろう、この壁は氷の鳥と連動しているという事だろう」 ウェスティアの疑問に零二は答える。 「ならば、まずこの壁の中央だけでも破壊しておこう、そうすれば戦い易くなるはずだ」 「そうですね! そうしましょう!」 拓真は言うが早いか刀を抜き、刃を壁に突き立てた。それを斬り裂くように振り抜き傷を大きくする。 零二は挑発を行い、敵を誘き寄せる。ランディも黒い棘に傷つきながらも、戦っていた敵を引き連れるようにして壁に寄せてきた。 敵が零二の射程に入った。零二の姿が消える、その姿が現われた場所は鳥、毒、壁の三箇所だった。高速の動きに残像が現われ分身したように見える。それぞれの対象を一斉に両刃剣で叩き斬った。 「喰らいな!」 全身から闘気を漲らせるランディの大振りの一撃が、攻撃で脆くなっていた壁に叩き込まれた。 ●護る者 「大丈夫か?」 「ふむ、心配は要らぬ。これ位なら影人を使えそうじゃ。凍傷は治してもらおうかのぅ」 エルヴィンの心配する声に瑠琵は笑みを見せる。敵の攻撃を体感する為に敢えて攻撃を受けたのだ。 瑠琵は漆黒の大型拳銃を取り出す。引き金が引かれる。北斗七星の意匠が施された銃身から飛び出した弾丸は式と成り、影人が現われる。 「この者を守れ」 命を受けた影人は、質量を持たないかのように音もなく動き、少年を警護するように前に立った。 「これがお主を守るでな、そこを動かぬようにするのじゃぞ」 「は、はい……」 次から次へと起きる出来事に、目を丸くしていた少年に忠告する。少年は神妙な顔で頷いた。 「そうそう、そうやってて。ちょっと怖いかもだけど、あっという間になんとかするから」 夏栖斗はそう少年を励ます。利き腕に炎が宿ると、手にしたトンファーで、氷の鳥と雷の犬を同時に薙ぎ払い地に叩きつけた。 そこに九十九が光弾を放ち、追い討ちをかける。光弾が直撃した氷の鳥が砕け散る。 「やったかいの。しかし、匣を壊さねば切りが無いのう」 目の端に捕らえたのは毒霧と炎と雷の敵がそれぞれ壁から抜け出るように現われた姿だった。 「早いとこ匣を壊してしまわねばいかんの」 仮面の中でそう呟くと、壁に向かい銃を構え、魔力を付加した弾丸を放った。 新たに現われた敵の攻撃に、少年を庇うエルヴィン、夏栖斗、瑠琵はそれぞれ攻撃を受ける。 エルヴィンは神の光で仲間を包む。その光は身体を蝕む穢れを打ち消していく。次の瞬間。 『――シネ』 またも頭上で瞳が開き。邪悪な波動が放たれた。だが神の光に包まれ穢れを払った身には、その悪しき波動は届かない。 「悪意の塊だな、だが好きにはさせねぇぜ!」 少年を守りながらエルヴィンがそう叫んだ時、まるで何枚もの硝子を一度に砕き割ったような音が響く。 氷の鳥が地に落ち砕けた。見ると壁の中央に大きな穴が開けられていた。 ●解呪 「氷の鳥が消えた」 「思った以上の成果だな」 氷の鳥が砕けたのを見た拓真と零二が、開いた穴に視線を戻し言葉を交わす。 「でも、まだ匣は壊れないみたいだね」 ウェスティアは歌い傷を負った仲間を癒し終えて、まだ匣が健在なのを見る。 「待て、何かおかしいぞ」 ランディが素早く周りを見る。先ほどより少年との距離が離れている。移動した記憶は無い。天井を見上げる、高い、そう先ほどよりも高くなっている気がする。 「……大きくなっているのか?」 「確かに、大きくなっているようだな」 ランディの呟きに、拓真が目測して答える。射撃した時と距離が違っている。おおよそ四十メートルといったところだろうか。 「ダメージを受けて膨張しているということか。壊れる前兆なのかもしれん、だが……」 零二が考えを述べて天井を見上げた。天井が遠い、攻撃が遣り難くなった。 「上は俺がやろう」 「私も行くね!」 壁を移動できる拓真と空を飛ぶウェスティアが天井の攻撃を引き受ける。 「なら俺達は他の壁だな」 「では行こう、そろそろ匣をこじ開ける頃合だ」 ランディと零二はE・エレメントを引き連れながら、隣面の壁へと向かう。 「どうやらあれが弱点のようじゃの」 壁に空いた穴を見ながら瑠琵が次々と式を打つ。新たに生まれる影人が少年を囲むように守る。 「敵の数が減ったのなら、私も匣を壊しに行きますかのう」 「ええ、こっちは僕たちで大丈夫ですよ」 「任せろ、絶対護り抜く!」 上を見上げる九十九に、新たに向かってきた炎の蛇をトンファーを巧みに扱い、叩き伏せながら夏栖斗が言う。エルヴィンもまた光の力で傷を癒し、強い気迫の篭った声をあげる。 「それでは、風穴、あけてやりますぞ。くっくっくっ」 九十九は壁に向かい駆ける。するすると壁を蹴り上がり、跳躍。宙返りする瞬間に銃を構え天を撃った。弾丸は天井を深く穿ち、ぼろぼろと破片が崩れ落ちる。 「私も!」 ウェスティアは大きく翼を羽ばたかせ、空を飛ぶ。射程内に移動すると、天井中央へ向けて血の黒鎖を放つ。天井を蹂躙し、壊し潰し崩していく。だが破壊の後、中央の一部分だけが残っていた。それは目の現われた場所だった。 ウェスティアの背後に炎の蛇が音も無く忍び寄る。それは炎の舌を出し、襲い掛かる。 「背後に敵だ!」 「きゃあ!」 背中に焼けるような熱さ、拓真の声に咄嗟に避けようとしたが、空中では身動きが上手く行かずに攻撃を受けてしまう。落下しそうになる身体を、翼を広げて何とか空中で維持する。 更に追撃しようとした炎の蛇は、硝子の砕ける音と共に霧散した。まるで蝋燭の火を吹き消すように。 下に目をやるとランディと零二が壁の中央に穴を開けていた。するとまた部屋が大きくなる。若干部屋の明かりも暗くなってきている気がする。 ウェスティアは続けて天井を攻撃しようと上に視線を戻す――目が合った。それは無機質にして邪悪な気配を放つ。死の香りを感じ嫌悪感に鳥肌が立つ。 「――シ」 「我が渾身の一刀、存分に味わえ!」 そこに駆け込んだのは刀を逆手に持ち、この瞬間を待っていた拓真だった。天井を逆さに進み、渾身の力で刃を突き立てる。 瞳の模様が割れる。硝子が砕け散る音が轟音のように響く。壁という壁の崩壊が始まる。エルヴィンは少年を護るように引き寄せる。天井の破片が落ちる。そこから覗くのは果てしない闇。世界は黒に包まれ暗転した。 ●ジョークボックス リベリスタ達の視界が戻ると、そこは元いた教室の中だった。 「どうやら終わったみたいだな」 状況を確認したエルヴィンは気絶してしまった少年を寝かし、武装を解除しながら仲間を見る。 「ああ、匣も砕けたようだ」 ランディは机の上の匣を見て、ぼろぼろに砕けたのを確認する。 「触らぬ方がいいだろうな」 零二はスーツを脱ぎ、それで破片を回収してアークへ持ち帰ろうとする。 「ん? これは……」 その時、金属のプレートに気付く。底の裏に貼り付けてあったものだろうか。それには『No.8 jokeBOX』と彫られていた。 「ジョークボックスって……全然笑えないよ」 その悪趣味さにウェスティアは顔を顰める。 「作った者が犠牲者の反応を見て、笑うということかのう」 「本当に性質の悪いものじゃな」 九十九と瑠琵もその悪意を感じ、声を尖らせる。 「ナンバー8……まだ他にもあるかもしれんということか」 「厄介だな、まあ見つければまた潰せばいい」 拓真とランディは互いに戦士の顔で頷き合う。 「出来れば次がなきゃいいんだがな」 エルヴィンは少年を見て、また誰かが巻き込まれても護ってみせると決意を胸にする。 「今回はこれで帰りましょう。この少年が眠ちゃってるうちに」 悪い夢だと思って忘れちゃいなよと夏栖斗は少年に囁く。 「ま、次があっても、俺達が本当にジョークで終わらせてやるさ」 エルヴィンの言葉に皆が頷いた。 「いてて、あれ? 俺なんで寝てんだ……」 寝ぼけたように少年が目を覚ます。周りを見て、飛び起きた。 「あれ? 何で? 学校……夢、見てたのか」 匣のあった机の上を見ても何も無い。あの助けてくれた人達も居なかった。 「そうだよな、夢だよな~あー焦ったー」 自分に言い聞かせるように、何度も声を出しながら携帯を見る。 「やべえ! もうこんな時間じゃん、帰って勉強しねーと」 鞄を掴み、扉を閉めて逃げるように教室を後にする。 走り去る足音。残るのは静寂と暗闇だけ。静まり返った教室はまるでひとつの匣のよう。 ――その匣を開けてはならない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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