●初富邸と第二の太陽(セカンドコア) 冗長になることを許してほしい。 過去を知らぬ人間にとって、この粗筋は必要なものであろうと信じ、語らせてもらいたい。 南錠会会長、鴇嶋良治。松戸研究所前所長、松戸助六。リベリスタの集い専属顧問、初富初音。その他いくつかの人間から、これまでアークはある土地と物について多くの情報を集めてきた。 その集大成として判明した幾つかの決定的事実。そのうちの一つが――。 「初富初音邸に封印保管されているアーティファクトの存在です」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は眼鏡のふちを撫で、真剣な面持ちでそう述べた。 「かつてアークはフィクサード組織の強行的な地上げの阻止に失敗して以来、何人かのリベリスタが土地の価値について調べていました。その成果として」 ちらり、と背後のディスプレイへと視線を移す。 青白く光る結晶体。 それが。 「アーティファクト、第二の太陽(セカンドコア)がこの邸地下に封印されていることが判明しました」 ――セカンドコア。 フェイトや生命力を代償に複数のフィクサードを強化もしくは覚醒させる効果をもつアーティファクトである。 「現在この土地を所有しているフィクサード組織は封印解除を行っている模様です。彼らが持てば、一時的ではあるが脅威的な兵力を獲得してしまうことになります。ですから――」 起こりうる悲劇を回避するために。 かつての失敗を取り返すために。 「邸へ突入をかけ、フィクサード部隊を完全に撃破。制圧して下さい」 初富邸は和風の家屋だ。 邸への侵入経路は複数存在する。 まずは表玄関。門を潜り、鍵のかかった正面玄関を破って突入するコース。 他は窓や勝手口、屋根を破壊しての屋根裏侵入などといったこっそりとした方法になるだろう。どのみち、全てのフィクサードを『気付かれないように暗殺する』などというマネは不可能に近い。 大勢の敵を一気に相手にするか、少ない数を連続して相手にするかの違いになるだろう。 「邸を守っているフィクサードは合計で30人。強弱も性能もばらけていて判別も難しいですが、全てジーニアスであることは確認がとれています。これらを全て撃破。場合によっては殺害して下さい」 この任務中にアーティファクトの調査や干渉を行う必要はない。制圧が済めばあとからじっくり手を付けられるからだ。 「侵入方法、撃破の方法などはお任せします。大変な任務になりますが、どうかよろしくお願いします」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 9人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月19日(金)22:41 |
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■メイン参加者 9人■ | |||||
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●粗筋 恐山系組織縞島組による土地買収によって事実上剥奪された初富初音邸。これまでは『神秘的脅威にならない』と言う理由でアークの依頼対象とされていなかったが、もしそうでなくても物理的奪還を望んだリベリスタも少なくはない。 「いやいや、此処に来るんも久しぶりやなぁ……」 『レッドシグナル』依代 椿(BNE000728)は火のついていない煙草を咥えて、瓦飾りのついた門扉を見た。双眼鏡越しではあるが、門前と玄関前にそれぞれ一名づつの見張りがいる。交代制であることを差し引いても、どこか気迫を感じない。無理やりやらされているような印象である。 その横で手帳をぱらぱらとめくる『俺は人のために死ねるか』犬吠埼 守(BNE003268)。 「今回の任務は土地の奪還……と見せかけて、実際はアーティファクトの確保みたいですね。そもそも動かせないものみたいですから、中のフィクサードは全員撃破必須……と」 メモの『撃破』の所に『≠殺害』と赤書きしてある。 「利用するならこの僅かな違いですね」 「カチコミ! ダッカン! かっこいいネ!」 守の説明を聞いていたのかいないのか、『継戦装置』艶蕗 伊丹(BNE003976)は手をパチパチとやりながら踵を上げたり下げたりしていた。 対して、『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)はせわしなくきょろきょろとしながら胸に手を当てる。 「ぬう……こういう仕事はいやでも緊張するな。そうだ、烏さん。見取り図のほうは?」 「これだ」 煙草を片手で抑えつつメモの切れ端を突き出す『足らずの』晦 烏(BNE002858)。 大きな正方形の中にもう二つ正方形を書き、四辺を埋める形で四角形を増やしたような……ハッキリ言うと事前情報となんら変わらない図だった。というか手書きだった。 「なあ、これ……」 「『図面資料』は存在していないそうだ。まあ、こういう建物にはよくあることだけどな」 ベクトルの違う話になるが、『HHホームズの殺人ホテル』などは多数の業者へ乗り継ぐように発注・建築中止を繰り返して何を作っているのか分からなくするという手を使っていたが、その発注時に用いられた図面は度々模様替えが図られていたと言われ、最終的な図面も跡付けで作られたとされる。 こんな例を出すまでも無く、『秘密基地』の図面を基地に居ない人間が都合よく持っているというのは御都合がよろし過ぎる話かもしれない。 「ところでさ」 すっと二人の間から顔を覗かせる『SHOGO』靖邦・Z・翔護(BNE003820)。 妙に真剣そうな顔をしていたので黙って先を促してみると。 「みんなもっとオレのことSHOGOって呼んでもいいんだよ? きっと気持ちいいよ?」 「……地下図面はないのか烏」 「……無いな。まあ神秘探索はお手の物だからな、暫く探せば分かるだろ」 「無視するなよ、泣くよ? 28歳の男が声を上げて泣くよ?」 「やあやあ我こそは依代組の肉盾(ミートシールド)その名も絶対セルマちゃん! 今日も今日とてヤバげな代物をワルそーなやつらから守るために推参なのよぉ!」 翔護を押しのけてぐいぐい来る『フォートプリンセス』セルマ・アルメイア(BNE003886)。 「お前ら、ちょっと向こうで遊んできなさい。千円あげるから」 「あと絶対者に麻痺無効と呪い無効重ねるのって意味なくないか?」 「気分だ!」 ……などと。 微妙に騒がしくなったセルマ達を背に、『無何有』ジョン・ドー(BNE002836)は準備運動を終えていた。 「セカンドコア……強力なアーティファクトですね」 「うむ」 『回復狂』メアリ・ラングストン(BNE000075)が無駄に胸を張る。 「七派やバロックナイツとの戦いを続けるために欠かせぬ道具となろう」 「いえ、効果対象がフィクサードに限られているので、我々には『使わせない』こと以上にメリットは無いかと」 「……ないか」 「ないですね」 「それでもよかろう!」 再び胸を張るメアリ。 「作戦開始じゃ!」 メアリは意気揚々と叫び立て、民家の屋根から飛び降りた。 場面転換、というほどのことではないが。 「関東からいてこましにきたクリスタルハナトー!」 メアリは着地と同時に神気閃光を放つと、門番を牽制。続けて飛び込んできたジョンが素早く接近し、ボウガンの先端を相手の首に押し当てた。 「後で聞きたいことがあります。それまで暫く黙っていて頂きましょう」 ゆっくりと手を上げる門番の男。 彼を素早く拘束しつつ、椿は勢いよく門扉を蹴り破った。 「はいはいどーもぉちょっと立ち退きしてもらいに」 「カチコミかコノヤロウ!」 「何処の組のもんじゃバヤカヤロウ!」 「や、うちはヤクザもんと――」 「関東紅椿組! 我はと思う奴はかかってきやがれドサンピンども!」 守が銃を乱射しながら突撃。 胸や腹を撃たれた門番其ノ弐がデスダンスを踊りながら玄関扉を破壊。 やや広めの玄関を突き破って転がった。 「カチコミだぁー!」 「紅椿組らしいぞぉー!」 「どこだそりゃああ!」 「アハハコンニチワー、お礼参りにキマシター」 状況が分かってるのかどうなのか、伊丹がほわほわと笑いながら守たちのチャージを行うべくまずはマナサイクル。 そんな中で椿はひとり片手で目を覆いつつ。 「……あかん、これ、もうあかん」 迎撃せんと襲い掛かって来た男達にカースブリットを撃ちこんでいた。 脳裏に浮かぶは『既成事実』。 一方。 「やあ、SHOGOのパニッシュラジオいっちにーのさーんだよ! 今日の献立はおっさんおっさんそれからおっさん、おまけにおっさん盛り沢山だね!」 中央大広間のそのまた中央の屋根板を破り、翔護が謎の(いつもの)ポーズで着地してきた。 敵襲が正面からだけだと思っていた男達は慌てて反転、銃や手近な武器を掴んで応戦しようと試みるが。 「紅椿組参上! こうでいいのか!?」 「本人の許可取ってるのか、これは?」 翔護を挟むように木蓮と烏が着地。木蓮は小銃を、烏は散弾銃を、ついでに翔護は拳銃をそれぞれ構えて周囲の男達を一斉に薙ぎ払った。 「くそっ、一旦離れるぞ!」 「そうはいくかい!」 別の所から飛び出してきたセルマが出入り口のひとつを封鎖。逃げようとする男を蹴倒した。 (厳密な話、これはブロックではなくただの『通せんぼ』なのだが、やってることは一緒なので深くはふれないこととする) 「翔護、千里眼頼む!」 「うん俺SHOGO。ところでよりりん組? って何? ファンクラブ?」 「いいから早くしろ!」 脛を蹴っ飛ばす木蓮。翔護は痛い痛いゴメンナサイと言いながら千里眼を発動。屋敷内の敵味方の位置を(非常に大雑把にだが)把握した。 「これね、凄い目が疲れるんだよね。壁の場所とか把握しながら見るでしょ。それに生物は透視できないから大勢いるとちょっと邪魔になって良く見えなかったりするしね?」 などと言いながら地面に置いた手書き見取り図にピンを刺していく翔護。敵味方の位置がおおまかにだか視覚化された。 煙草をくわえる烏。 「それじゃあおじさんたち仕事してくるから、セルマと翔護は留守番頼んだぞ」 「おう任せろ! セルマちゃんは絶対防壁だからな、SHOYUには指一本触れさせないZE!」 「うん俺SHOGO! いってらっしゃい、通信はONにしといてね!」 手を振る翔護たちを背に、烏と木蓮は固まって廊下へ出た。 地味な、それでいて非常に迅速な行程であった。 その結果をダイジェストで述べていく。 正面玄関から突入したメアリや椿たちはとりあえず一塊になって次々に襲い来る男達をカースブリットやジャスティスキャノンで次々に迎撃。 相手の数や地形からして神気閃光やハニーコムガトリングがさほど効果を示さなかったのは仕方ないが、伊丹が適時チャージと回復に勤しんでいたお陰で目立った窮地には陥らなかった。 特にスキルに不殺性が高かったことと、皆意識して相手の生存を求めていたことから、敵の多くは生きたまま戦闘不能となり、玄関や門の内側にはヤクザ然とした男達が山と積まれる結果となった。 「生きるも死ぬも運次第。ほらほらどうしたん、頑張りやぁ」 これは無理だと逃げ腰になった男を呪印封縛で拘束し、銃片手にひたひたと忍び寄る椿は、男達にとって良い恐怖の対象となったことだろう。 彼等の口から『紅椿組がある日突然何の脈絡も無く襲ってくる』という都市伝説が生まれるのも、そう遠からぬ話ではない。 玄関の外に、田舎の置き土産が如く並べられた男達を『とりあえず』手当していく伊丹たちも、まあそれなりに情報はとれたのではないかと思われる。 「オハナシ、しましょう。アナタのボスは今何をしてるのカナ?」 「何を……か。オジキは死んでもた。死んだ奴がどうなんかは、わしゃよう知らん……」 「うン?」 首をかしげる伊丹のそばで、ジョンが顔を覗かせる。 「あなたは縞島組の者ではないのですか?」 「いや、篠田組……だった。もう組は無うなってしもうが」 「ふむ」 斜め右上を見やり、何やら思考するジョン。 「壊滅した組織。行き場を失った組員。三次団体としての吸収……といった所ですか」 「それで、殺さないのか」 「とりあえずは警察さんにお任せですね」 全員をとりあえず程度に拘束して回る守。 余談になるが、不殺スキル以外でトドメを刺した相手はことごとく死亡していた。誰しもアーク構成員のように潤沢なフェイトがあるわけではない。 彼らの拘束にしても、不殺による戦闘不能の上でようやく意味をもつもので、相手が元気なうえで手錠をかけても普通に引きちぎられるのがオチだろう。 「そうか……ムショは別荘みたいなもんや。好きにしたらええ」 「……」 守は潔く目を瞑る男を見て、自らの顎をさすった。 「アークは……民間警察のようなものなのかもしれません。犯罪者への負けは許されない。そして命の選択権も握っている」 生殺与奪とはまた別に。 その一方で、木蓮と烏は順調に各部屋をクリアしていった。 彼らが対応したのは、眠りこけていてカチコミの対応に気づかなかった者や、酔っぱらっていて戦闘に気づかなかった者が殆どで、いわゆる『地上部隊』と思われる相手は楽々クリアしていった。 中には……。 『木蓮ちゃん、向かって左の扉開けたら、無防備な相手いるから。でも』 「よし分かった、左だな!」 木製の扉を盛大に蹴破り、銃を構えて踏み込む木蓮。 そこには、全裸の男がバスタオル片手に立っていた。 「…………」 「……いやん」 胸と股を手で覆う男。 木蓮は目から光を消して、無表情のまま小銃のトリガーを引いた。 ……などというハプニングも含め、おおよそ順調にコトが運び……。 「畳の裏か……古風だな」 烏たちは地下への階段を発見、生かして殺した(不自然だが事実である)敵の見張り役を数人残して地下へと侵入していく。 「翔護、これまで倒した敵の数は」 『30カッキリだよ。あと俺SHO――』 「なら、これ以上フィクサードは居ないと見て間違いないな」 「二浪がいなくても結果的に動かざるをえなくなるからのう。首洗って待つがいい!」 などと言いながら、メアリがずかずかと階段を駆け下りて行く。 長く細い、そして薄暗く埃っぽい階段だ。 とても古くからある隠し部屋なのだろうが、アーティファクトをそんなに古くから保管していたとは思えない。何か別の用途があったのか……。 などと想像しながら階段を下りきると、しめ縄に囲まれた水晶体を発見した。 ごつごつとした部分が大半で、一部だけが不自然に整っている。 形が歪でうまく表現できないが、強いて言うなら『三分の一に砕けた正十二面体の破片』という有様である。 「話によれば封印されているそうです。あまり下手に手を出さない方がいいでしょうね」 「せやな……」 しめ縄の内側に入らぬように観察してみる椿。 そうしていると、背後で何かの光が灯った。 反射的に振り返る。 『ほいほいごくろーさん。ま、やっぱそう言う風になるわなぁ』 眼帯をした、ひょろ長い男である。 だが実体ではない。 大型の液晶ディスプレイを仰向けに設置し、その上に逆ピラミッド型のアクリルガラス体を置くという妙にシンプルな構造の立体ホログラム投射機である。 2D映像を光の屈折で3D化するというもので、同じような技術にすり鉢状のディスプレイの上にガラステーブルを置くというものもある。余談である。 そんな、立体映像上の男こそ……。 「縞島二浪」 『ほー、覚えとってくれたんか。嬉しいぃーわぁー』 目だけで笑って見せる二浪。 『ほんま、別にワシ出てこんでも良かったんやけど……なぁーんか締まらんやろ、このままやと』 「まあ?」 腕を組み、煙草を咥えたまま顎を上げる椿。 「こんなんやなくて、二郎さんに直接会いたいわぁ」 『ワシは全然会いたくないわぁ。ガチったらボコボコにされてまうしぃ? 戦闘とか物騒なこと苦手なんやでぇ、平和主義者やから』 「よく言うわ!」 水晶体にセイクリッドアローを叩き込むメアリ。 ガラスが砕け散り、ディスプレイから内容物が飛び出して奇妙な光彩を放つ。 スピーカーだけが残ったのか、声だけが聞こえてきた。 『まあ次はデカいことやったるから、どっかその辺でお相手したろやないかい。アンタらができたらの話やけどな。ほな――』 ボッフンという間抜けな音を立てて破裂する通信機。光の消えた地下室で、水晶だけがぼんやりと青白い光を放っていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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