●幻の地下歓楽街 地下歓楽街『裏行川』。 多くの人々はその街の存在を知らない。 街は常に地下深くにあり、文字通り日の当たる道を歩けぬ者達が集められているからだ。 淡い薄紅色の光に包まれ、色鮮やかな和服を着た女たちが格子の奥で艶やかに手招きをする。 一際若い女が店先の椅子に腰かけ、客引きの女と共に身なりの良い男達を店の中へ招いている。 彼女達はあらゆる事情で社会から弾かれ、行き場を失くした者達だ。 あらゆる場所で虐げられ、磨り潰され、弾かれてきた者達だ。 自らを『生きた玩具』にされた女たちの末路が、そこにはあった。 女たちは格子の内側から、今日も浮世の離れを見つめるのみ……だと、思っていた。 大きな血しぶきをその目にするまでは。 四辺をカミソリのように鋭くした硬プラスチック性のトランプカード。 その一枚が男の首筋を通過し、背後のコンクリート壁へと突き刺さった。 男は首から血を吹きあげ、紫色のスーツをどす黒く染め上げる。 崩れ落ちる男の左右で、サングラスをかけた男達が拳銃を抜いて発砲。 それを相手は、扇状に開いたトランプカードで受け止めた。 扇の隙間から顔を覗かせる。 少女であった。 顔の右半分に白くライン状のメイクを施し、うっすらと笑みを浮かべている。 「弾丸なんて遅い遅い。いつまでそんなものに頼ってるつもり? もう私達、人間じゃないんだよ?」 「く、くそっ!」 一人がナイフを抜いて突撃。 しかし、横から割り込んだ女がナイフを代わりに受け止めた。 何で、か? 胸の、それも心臓部分でだ! ぐちゃりという肉の引き裂ける音。脂肪や筋肉組織を切り裂き、あばら骨を微妙に抉り、内臓組織に刃が達する感触が、男の手に伝わった。 少女はぼろぼろと涙を流し、そして――。 「死ねない、こんなんじゃ、死ねないよう……」 男の手を握り、無理矢理ナイフを捻じらせた。 「殺してよう。もっと痛くして、苦しくしてよ……ねえ、ねえねえねえ!」 錆びついたオルファカッターを振り上げ、男の眼球に突き立てる。 滅多刺しにして振り払い、胸からナイフを抜く。 ぐちゃぐちゃに破れた服の下で、肉体が超再生で修復されていく。 「ば、化物……」 「そうだよぉ」 低姿勢から高速で駆けより、ギザギザな髪をした少女が男の首筋を叩く。 否、首筋に注射器が突き立ったのだ。 「あっ……あが……」 顔を初め、全身が黄土色に変色していく。 がたがたと震え、指先がかぎづめ状に曲がり、べこべこと頬や腹が凹んで行く。 その様子を、少女は恍惚とした表情で見つめていた。 まるでセクシャルな快感を得ているかのように、相手の顔を両手に包み、唇が触れんばかりの距離でうっとりと目を合わせる。 「どぉ、ねェ……感じる……?」 「さ、寒い……身体が、冷た、い……死、死……ッ!」 「あァ……イイ……アッ、ああ……!」 眼球から命の光が失われる様を、びくびくと背筋を震えさせながら見つめ、そしてゴミの様に捨てた。 地下歓楽街最奥、最上級VIPルーム、畳の間。 次々と部下が死んでいくのを見て、男は恐怖に震えた。 咥えていた葉巻を畳に落とし、ズボンをじんわりと濡らしながら仰向けの状態でじたじたと後じさりする。 「お、お前……おまえは……」 「いいえ、あなたは御存じありませんわ。御手汚会会長、卑道さま?」 ほんのりと微笑み、和服の女が歩み寄って行く。 「な、七……」 「琴乃琴七弦でございます。お見知りおきを。では皆さん……」 振り向く女、七弦。 後ろには、歓楽街に捕らわれていた女たちがぞろぞろとついていた。 全員の目が、赤く光っている。 「や、やめろ……」 「――ごめんなさい」 「やめ……!」 「――ですが皆さん」 「やめて下さい!」 「――こうしたいと仰るので」 「悪かっ……ごめんなさい! もうしない、ごめんなさい!」 「さあ、どうぞ」 地に種を撒くように、やんわりと手を翳す。 彼女の両脇を抜け、大勢の女たちが彼へと掴みかかった。 手に刃物や鈍器を持ち、大勢で組倒し、少しずつ少しずつ殺していく。 彼の命が尽きるまでの二時間半。 七弦はただただ優しく微笑み、その様を見守っていた。 ●新興宗教団体『弦の民』 「黄泉ヶ辻系フィクサード組織、『弦の民』――」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は革張りの椅子に腰かけた。 革の擦れる音。骨組の軋む音。 「そのすべてが少女のみで構成され、そのすべてが狂気的なまでの信者で構成されている……狂気の集団よ。これまでも一般人一斉蜂起未遂事件や非連続殺人事件、集団処刑事件といった狂気的な事件を起こしては、アークによる直接的な阻止を試みて来たわ」 捨て置けば何をするか分からない。ある意味で黄泉ヶ辻らしい組織である。 「今回、彼女達がある隠れ地下街を武力制圧して、保管されているアーティファクトを獲得してしまったの。この性質と併せて、とても危険な状態よ。なにか行動を起こされる前に、こちらから打って出ることにしたの」 つまり――。 「地下歓楽街への突入。アーティファクトを奪取し、脱出することが今回の任務になるわ」 地下歓楽街といっても、あくまで地下に造られた施設である。 20mという非常に高い天井と、小規模遊園地一つ分の広さをもつ地下空間に、いくつかの和風建築物を(外観だけは)地上と同じように建てるという奇妙な場所だ。 基本は大きな一本道があり、その左右に店が立ち並ぶという構図になっており、風情あるアーチ状の橋を渡った最奥には一際豪奢な建物がある。 「アーティファクトは『10年分の寿命と引き換えに、一時的にノーフェイスと同等の能力を得る』という道具で、この歓楽街で強制労働をしていた一般人たちが神秘武装をしている状態にあるわ。ただしアーティファクトから1キロ圏内でしか効果が出ないから、奪取してしまえば彼女達を殺さずに済むはず」 アーティファクトは最奥の施設に保管され、七弦がそばで管理している。 察しているとは思うが、入り口から堂々と突入し、敵の守る一本道を突っ切り最奥へと侵入。アーティファクトを奪取した後、恐らく最も難しいと思われる脱出任務に当たらねばならない。 非常に余裕の無い作戦になるだろう。 しかし……。 「成功すれば、得るものは大きい筈よ。みんな……おねがい」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 9人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月18日(木)23:06 |
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■メイン参加者 9人■ | |||||
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●人間であったもの。今より人間になったもの。 誰にでもある経験ではないので、想像は難しいかもしれない。 だがイメージしてみてほしい。 包丁や、ナイフや、金槌や、レンガ塊を手に何十人と言う女たちが襲い掛かってくるというさまだ。 自らに集合する『一般的な殺意』を受けて、『忠義の瞳』アルバート・ディーツェル(BNE003460)は眉をゆがめた。 「狂信者の教祖、琴乃琴七弦……」 まず踏まえるべきは、一般人であった彼女達は自ら十年分の寿命を差出し、望んで力を獲得し、進んで七弦の為に矢面に立ち、命懸けで人を殺そうとしているという事実だ。 脅されたわけでもないようだ。弱みを握られてもいないようだ。 その証拠に。 「七弦さまは、殺させない……!」 足首を打たれた女。 否、足首から先が無くなった女が、這いずってアルバートの足にしがみついた。爪をたて、文字通り齧りつく。 アルバートは歯を食いしばる。彼女の顔を掴んで上向かせ、眼球にナイフを突き立てた。 「彼女は、一体なにを」 「後の憂いなく斬っておきたいですが……今は一般人を守ることを優先しましょう」 そう言いながら、『斬人斬魔』蜂須賀 冴(BNE002536)は女の首を一刀のもとに切断した。 一般人を守るために一般人を殺す。矛盾なようでいて、正当な行為だった。 少なくとも、冴という人間にとっては。 「躊躇は、要りません」 「そう、だね……」 『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)は彼女の後ろに身を隠すようにして、時折顔を出してはトラップネストを放っていた。 足止めのつもりである。 しかし放った傍から女たちは絶命した。 彼女を人殺しと責める者はいない。 ただ同僚が殺された恨みと、どうしようもない敵意と憎しみが、アーリィたちの心へと突き刺さっていた。 「……う」 「真っ直ぐで素晴らしいっすね。相乗り、させてもらうっすよ」 女たちの肩や頭を飛び越え、踏み越え、駆け抜けてゆく金髪の少女。 『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)は凄まじい速度で走り抜けると、ナイフを女の両こめかみに突き刺してブレーキをかけた。目から血を吹き流して倒れる女。それをくっしょんにして一度地につき、更に駆け出す。 「邪魔だ、ドケ」 「……」 ワンテンポ遅れて飛び込み、周囲の女の耳や目、下を引き千切っていく『無軌道の戦鬼(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)。 「初富が死んだのは、私達のせいでも、ある。敵討ち……じゃないけど。楽しみの為に、だけど。彼女の為そうとしていたことの、一片にでも、なればいい」 目を細める天乃。 この時彼女が『楽しめそうだね』と言わなかったことに、本人だけは気づかなかった。 初富。 初富ノエル。 「俺の力が足りないせいで命を落としたあいつ。深い関係があったわけではないが……弦の民は潰す」 『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)は薙ぎ払うようにしながら銃を連射。女たちの足首を撃ち抜いていく。元来この部位攻撃に大きな意味はないが(あったとしたら逆にこちらが不利になるのだが)足首が千切れ飛んだ女たちにとっては実質的な足止め……いや、足切りになっていた。 福松の横顔をじっと見る『バイオレンスインヴェーダー』滝沢 美虎(BNE003973)。 「なんだ」 「何でも。いい表情(カオ)してるなって」 美虎はにかっと笑うと、地面を強かに踏んだ。 「行くぞ皆、ぶんどりショータイムだ!」 左右から襲い来る女の顔面へ、クロスするように掌底を入れ、更に交差して肘を叩き込む。 頭蓋骨ごとべっこりと陥没した女たちが仰向けに倒れ、その間を駆け抜ける。 無論女たちが立ち塞がるが……。 「チィース、フラバン投擲器でーす」 筒。いわゆる折り畳み式チューブランチャーを腰に構え、閃光弾をやまなりに連射していく『Le blanc diable』恋宮寺 ゐろは(BNE003809)。 想像がつかないならば、小型打ち上げ花火を手動で連発しているとでも思ってくれればよい。 爆発と共に激しい音と光が広がり、視覚と聴覚をかきまぜる。 美虎の道を塞ごうとしていた女たちを一斉に薙ぎ倒し、『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)たちもその後に続いた。 味方の回復を続けながら左右を見回す麻衣。 「みなさん……」 そして、漸く『彼女達』をみつけた。 リオ、ミザ、メラ。 弦の民幹部級フィクサード。 「わぁ、沢山来てくれたぁ」 セブンスコード。 とろけるように笑い、彼女達はそれぞれの武器を手に取った。 ●正常な狂気 結果を述べるなら、リベリスタ達はこの歓楽街通り(一本しかないが)を突破し、最奥の建物へと突入して行った。 「私達はここで足止めです。幸い飛行や面接着、その他偽装系浸透系スキルの所持者はいないので、物理的に退け続ければ良い……そうですね、福松さん!」 天使の歌を展開しつつ叫ぶ麻衣。 「そうだ。奴等……なりふり構ってられなくなったか」 福松は頷き、スピードローダーを弾倉へ押し込んだ。 装填、回転、照準。そこまで含めてコンマ五秒。毒使いのメラの額へ連続発砲した。 弾は正しく回転し正しく彼女の額に叩き込まれる……筈であったが。 「感じない……感じないよぉ……」 涙をぼろぼろと流し、超再生者のミザが間に割り込んだ。それも、弾の着弾点は左眼球であった。 自らの眼孔に指を突っ込み、弾を取り出すミザ。 「死ねないの、こんなんじゃ死ねない。もっと、もっと頂戴よおおおおおおおお!」 福松へ掴みかかるミザ。振り払おうとするも、女たちが彼の腕や足にしがみついて動きを封じる。 福松の左目に突き立てられるカッターナイフ。 「な――めるな!」 福松はミザの額に銃口をつきつけ、思い切り引金を引いた。 頭部が抉れる。 「ァ……アッ!」 目を見開き、血の泪を流すミザ。 直後、ミザの右目から刀の切っ先が突き出てきた。 冴のものである。 「……」 冴は後方からミザの頭部を刺突すると、『背負い投げ』をした。 要するに、引っかけて背負って振りおろし、である。 女たちを押し退け、橋から転げ落ちるミザ。 さほど深い川ではない。頭の半分を沈め、仰向けに倒れた。 「し、シぬ……私、シんじゃう、あは……シ、い――いいいっ!」 血を吹き上げる両目を抑え、仰け反るように背をしならせるミザ。 そしてやがて、本当に動かなくなった。 唇を噛むアーリィ。 そして今度こそ、毒使いのメラ目がけてピンポイント射撃を放った。 首の動きだけでそれをかわすメラ。 「あなた、かわいい」 仲間たちをすりぬけるようにしてアーリィの頬に手を添える。べったりと『人間の内容混合物』にまみれていた。 「私とシよう。シんじゃおうよ」 注射器を首へ突き立ててくる。内容物が全て流し込まれる……より前に、美虎の爪先が彼女の手を跳ね上げた。 流れるような動きで掌底をメラへ叩き込む。 厳密な話はできるだけ避けるが、リオをブロックしながらメラを攻撃することが物理的に無理だったことと、頭数の問題で逆ブロックをかけられそうになったことを鑑みて、美虎はメラへ直接襲い掛かることにした。 「大丈夫か、アーリィ!」 「んう……う……だい、じょうぶ……」 アーリィの息は荒く、顎から胸にかけて吹き出た汗が、玉をつくって腹部へとながれていく。 「い、いま回復しますから!」 慌てて麻衣が聖神の息吹をかけてくれるが、致命と猛毒の離脱率は合わせても七割程度。その上で更にHPぶんの回復を必要していた。 麻衣の手が、明らかに足りていない。 「皆さん、はやく……」 突入していった仲間たちが少しでも早くアーティファクトを奪取してくれることを、麻衣は強く祈った。 一方、最奥VIPルーム畳の間。 「お久しぶり、相変わらず、楽しいことやってるね」 天乃がダンシングリッパーで女たちを殺戮していく。 いや、本来ならば。 「失礼ですが、どちらさまでしたでしょうか……お顔を見るのは、初めてで」 整った眉を寄せ、頬に手を当てる七弦。 その彼女を狙って攻撃している筈なのだ。だが女たちが次々と割り込み、七弦を庇って死んでゆく。 痛覚が遮断され、心も強化されているためか、全く躊躇と言うものが無い。 そして七弦は自らを庇って女が死ぬ度に。 「ああっ、また! ごめんなさい、ごめんなさい!」 跪き、死体を抱きしめ、まるで子供の用にわんわんと号泣するのだ。 感情の切り替えが極端すぎる。まるでぶつ切りだ。 そんな中へ、躊躇なくフラッシュバンを連投していくゐろは。 元より絶対者性を付与されていた女たちだが、ブレイク効果には逆らえないらしく目を覆う。厳密な話、ブレイク効果が最後になるため、麻痺効果は入らないが。 その一方で、七弦はわんわんと鳴きながらも、常に桃弦郷を撒き続けていた。 戦う気があるのか、ないのか。 そもそも感情があるのか、ないのか。 少しも分からない。 実際エネミースキャンをかけていたアルバートをしても、全く理解ができなかった。 勿論スペック面での理解ができないだけで大きな支障はないのだが、それ以上に七弦という人間が分からな過ぎる。 ためしにこう問いかけてみた。 「蘭下苦膳という男を?」 「寡聞にして存じておりませんが、お仲間の方でしょうか」 七弦は、ほんのりと笑ってそう答えた。 嘘はついていない。というより……。 つい一秒前まで号泣していた人間の態度ではない。 更に加えて、こう述べる。 「ですが、あなたのことは聞いておりますよ。お名前までは伺っておりませんが……確か、そう」 棚壇より『仮面』を取り上げ、自らの顔を半分隠すようにして見せる。 照明が割られていたからというのもあるが、それまでよく見えなかった仮面の『奇妙な模様』がはっきりと確認できた。 確認できて、アルバートの脳は凍りついた。 「巡り……目……」 「『あの子』が、あなたを頼りにしていたと」 「なんだか、訳アリみたいっすね?」 すっと、仮面が上からとりあげられる。 まるでそんなトラップでもあったかのように、釣り上げられる。 見上げれば、天井から逆さにぶら下がったフラウが仮面を掴んでいた。 「影を移動してきたのですか。御上手ですね」 「それほどでもっす」 フラウはそう述べると、超高速で天井をダッシュ。壁を突き破って外へと離脱した。 ●異常 フラウが裏行川歓楽街の天井を駆けて行くのを見て、天乃は高く跳躍。天井に手をつくと、蜘蛛の様に反転して天井を走り始めた。 「手伝う、よ」 「どうもっす、後ろ後ろ」 仮面を懐に入れ、フラウは再びハイスピードアタック。 序盤からこちらにかけてずっとのことだが、この状況下においてハイスピードアタックほど適切なスキルは無い。全力で逃げながら強烈な攻撃が可能なのだ。両側面の建物の、それも最上階部分から壁や窓を破って女たちが飛び出してくるが、それをたったの一撃(厳密には二連撃)で沈めつつ、他人の倍速で駆け抜けてゆくのだ。 一応天乃も手伝ってはいるが、後から追いかけて来ようとする敵を足止めする程度のことで、彼女をしても全くスピードについていけなかった程だ。 そして、相手の狂気に飲まれないドライでストイックな人格。 この任務においてこの性能と人格は、まさに独壇場と呼ぶにふさわしかった。 「あと、よろしくっす」 「こちらこそ」 出口にあたる扉を抜け、フラウが外へ離脱する。 このまま車にでも乗って全速力で現場を離れれば、一分かそこらで女たちのE化は解除されることだろう。 十年分の寿命を、無駄にして。 「お待た、せ」 すたんと地上に降り立つ天乃。 任務達成。あとはいかに撤退するかだ。 「お待ちになって下さい。もう少し、ゆっくりして行かれませんか?」 まるで客人を迎えるかのような、折り目正しく美しい微笑みと共に、七弦がてくてくと歩いてくる。 「その首、貰い受ける!」 女たちをかき分け、刀を翳して飛び掛る冴。 しかし彼女の刀は、七弦を庇う女によって阻まれた。 「ああっ、なんてこと!」 わなわなとふるえながら首をふり、上半身のみになった女を抱え上げて頬を寄せる七弦。 「ごめんなさい。痛いでしょう、苦しいでしょう」 「いいえ、七弦さま」 女は笑って、七弦を見た。 「痛くありません。苦しくも。わたしは自分の意思で……人を守って……死ねる……幸せな、こと……」 目を開けたまま絶命する女。 冴はその光景を、頭から削除した。 「私に構わず、先に行ってください!」 「で、でも……」 アーリィはおろおろと頭を巡らせた。 隣では、仏頂面でフラッシュバンをまき散らしているゐろはがいる。 今気づいたことだが、毎回かけ直しをされるとブレイクの意味があまりない。仲間が何か効果的な追い打ちをかけてくれるなら別なのだが。 「あの建物、マジ悪趣味。似合ってるけどさ……けったくそ悪」 などと言いながら、ゐろははその場を一歩も動こうともしなかった。 斜め上方からトランプナイフが飛来。ゐろはの肩や頬、脇腹や足を次々と切り裂いていく。 「逃がさないよ。みじん切りにしてあげるから」 「痛……」 流石に表情をゆがめるゐろは。 福松がやや遅れて駆けこんできた。 「恋宮寺、無事か!」 「マジ余裕だから」 「……そんなにキツいのか」 福松は口の中のキャンディを噛み砕き、リオへ応戦。 発砲を続けるが、そのすべての弾丸がトランプナイフによって切断されていた。 逆に速度をゆるくしたナイフが福松達を襲う。 「チッ、とにかく退くぞ……石動!」 「はい!」 麻衣が回復しながら身を固め、出口に向かって走る。 女たちが壁になるが、アーリィとアルバートがボウガンやナイフを大量に投げつけて撃破。その先頭をゆく美虎が、拳を握って突撃をかけた。 「罷りとーる!」 「えぇ、待って。もっとシようよ」 出口扉の前。 毒使いのメラがとろけるような笑顔で言った。 官能的な、くったりとした微笑み。 自らの胸元を握り、ボタンを引き千切って服を開く。 「なうっ」 慌ててブレーキをかける美虎。 肌や下着が露わになるが、彼女が驚いたのはそこではない。 服の下に大量にストックされた小型注射器。 それを一気に引き抜き、メラは宙に放った。 「シよう、皆でシよう……すっごく、すっごく感じるから!」 一斉に弾ける注射器。バッドムーンフォークロアのエネルギーがまき散らされ、美虎の表情が歪む。 「ぐンの……ぉ!」 強く奥歯を噛み、メラの腹に土砕掌を叩き込む。 そのまま押し退け、扉へと到達した。 「今だ、早く出ろ!」 急いで扉を抜け、外へと離脱していく仲間たち。 そして女たちは。 「…………」 沈黙のまま、扉を抜けていくアーリィたちを見送った。 全員の離脱を確認し、振り返るアーリィたち。 手を揃えて並ぶ女たちがいた。 その中心で美しく微笑み、手を振る七弦の姿。 「次にいらっしゃる時をお待ちしております。ごきげんよう」 扉は閉まり、重い音を響かせた。 それは、終わりを意味する音では……ない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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