●アーク ブリーフィングルーム ディスプレイ前に立つ『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)。 彼が表示した航空写真には、山岳地帯にどっかりと存在する奇妙な赤色が映り込んでいた。微妙にぼやけているため判別は難しいが、もとからあったものではない。 「房総半島の真ん中からやや南……弘文洞跡と呼ばれてる場所だ。基本的にここには山と谷しかないから、ハイキング客ぐらいしか来ないんだが、最近は妙に客足が途切れているらしい。その原因とみられているのがこの赤い何かだ。まあ写真ではこの通りだが、フォーチュナならその様相を把握できるつまり――」 拡大図を表示してもまだぼやけたままだ。 伸暁は並行してイメージスケッチを表示する。 その姿に一部のリベリスは目を細めた。 赤いカラーリングがされた、所々骨ばったようなフォルム。それはどこか龍の姿に似ていた。 「この正体はアザーバイド。それも中途半端にこのチャンネルに出現した、機械生命体だ。まだガワしか存在しておらず、動き出す程じゃない。周囲に結界や機器遮断と似たようなジャミングを放っているだけだ。呼び寄せたのは裏野部の下部組織、ストーン教と見られている。ヤツらとアークは銀行強盗やバスジャック事件等で何度かぶつかっている組織だが、その度に奴等の幹部連が死亡して相当切羽詰った状態にあるらしい。これが『最後の手段』なのか『最終目的』なのかは分からないが、少なくとも逆転の目が出るかもしれないことは明らかだ。コイツが完全に動き出してしまう前に、技術者もろとも叩き潰してほしい」 そして伸暁は、詳細な(と言っても分かる範囲までの)経路図を表示していった。 「こいつをとめる方法は、こうだ……」 ●養老渓谷弘文洞跡 男は孔雀のようであった。 背中に豪奢な羽飾りをつけ、頭は色鮮やかな鳥類のそれで、所々に模様をあしらった鎧をまとっている。 彼の名はシファ。 フィクサード組織ストーン教の幹部であり、ビーストハーフのソードミラージュである。 いや……あった、と表現すべきか。 今や彼は幹部ではない。 「これは、どういうことなのですか……醍五様……?」 嘴がガタガタと震え、指先までも恐怖に支配されている。 だが彼の意思に反して、嘴ひとつ動かすことは叶わなかった。 何故か? そう、彼は今全身をくまなく拘束され、半透明の正十二面体に閉じ込められていたのだ。 まるで胎児のようであったが、安らぎには程遠い。 その様子を、熊の毛皮を頭からかぶった大柄な男が見つめている。 彼の名は吾大醍五。この組織のトップである。 彼は黙って、傍らに立つ男へと視線をなげかけた。 腕組みして頷く蜥蜴型の男、ヴィッカース。 「貴様は我々の栄光……その柱となるのだ。感謝せよシファ」 「わ、わかりません。私は更なる力を与えられたのではないのですか! 散って行った仲間……マーモンやベーゼルの仇を討つべく、強大な力を!」 「その通りだと言いたいが、一つだけ違う。貴様は『力』になったのだ。与えられたのではない。そう、この――」 ヴィッカースは両腕を広げた。 それはやや広い部屋であった。 その部屋は分厚い装甲を経て更に巨大な格納庫の中にあった。 その格納庫は更に分厚い装甲を経て巨大な竜型要塞の中にあった! 「マジェスティックMarkⅡ……『メルボルン』完全復活のためのな!」 ●場面帰還、アーク。 巨大な竜型要塞と、伸暁のスケッチ。 二つのイメージが重なるだろうか。 伸暁はディスプレイを示しながら説明を続けた。 「奴等の要塞『メルボルン』は完全復活間近の状態だ。それも、強力なフィクサード一人を人柱にしてな。彼らはコイツを動かして破壊活動を行おうとするだろう」 つまり我等、アーク・リベリスタはメルボルン完全起動前にこの『人柱装置』とでも呼ぶべきものを破壊。計画を潰す必要があるのだ。 「そのためにはまず、首部分に開いている入り口から格納庫へと侵入する。こちらの位置は把握されているだろうから、敵軍を突っ切っての強行突入になるだろう」 予想される戦力は簡易飛行や面接着といったスキルをもったビーストハーフ混成部隊20名程度。 無論かれらを倒す必要はない。押し退け、払い除け、とにかく突っ切れば良いだけだ。 「だが格納庫では彼らのボスでもある強力なフィクサード、吾大醍五が部下を率いて待ち構えている」 醍五は非常に高い個体性能を持ったフィクサードだ。彼を撃破するのは勿論のこと、追いかけて来られたらたまったものではない。 ここでもまた何人かの足止めが必要になるだろう。 そして最深部。 蜥蜴型の男、ヴィッカースを倒し、装置を破壊。 内部備え付けの緊急脱出装置を使って一気に離脱する作戦だ。 「ひとりひとりの力が必要になる、非常に厳しい作戦だ。だが皆ならやってくれる。俺は、信じてるぜ」 ●場面帰還、メルボルン。 レバーを下し、完全にロックするヴィッカース。 半透明な正十二面体『人工マスターコア』の中が悲鳴と青白い光に包まれる。 「あともう暫くで完全起動の作業が完了します。そのあかつきには、周辺の山々を焼き払いましょう。混乱する人間たちを見下ろしてやるのです!」 「そうか……」 丸太のような腕を悠然と下したまま、醍五は人工マスターコアを見つめた。 「ですが醍五さま……起動までの間にアークが介入してくる可能性があります。その時は……」 「分かっている、ヴィッカース。お前は起動作業に専念しろ。もしもの時は、余が時間を稼ぐ」 「醍五さまが!?」 目を見開くヴィッカース。 醍醐はマントを靡かせると部屋を後にした。 「必ず成功させよ」 「はっ、ストーン教の未来のために!」 片膝をついて頭を垂れるヴィッカース。 彼を背に、醍醐は歩き出した。 「アークか……同志たちの死、無駄にはせん」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 9人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月17日(水)22:26 |
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■メイン参加者 9人■ | |||||
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●メルボルン完全起動五分前ノ事 先ず粗筋を語る。 悪の組織ストーン教団が別チャンネルより呼び出したアザーバイト、メルボルン。 未だガワだけの存在だが、完全起動すれば町一つを破壊せしめると言われている。 アーク・リベリスタは大規模破壊をもくろむ彼等に強い怒りを感じていた……わけではない。 「組織のために尽力してきた部下を人柱にするか。最高だな」 『リベリスタ見習い』高橋 禅次郎(BNE003527)はビーストハーフの軍勢『怪人団』を前に思い切り暗黒を放った。 「一発ぶん殴ってやる」 「ああ、ふてぇ野郎だ。気に入らねえ……気に入らねえよ!」 進路を塞ごうとする牛型の怪人を、回し蹴りで跳ね除ける『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)。 生み出された虚空が地を抉って走り、神話の如く道を切り開いてゆく。 やがて彼等の目には、メルボルンの姿がはっきりと見えてきた。 竜に近いフォルム。赤いカラーリング。 「あれがメルボルン。あんな巨大なものが動き出したら止めるのは容易ではないですね」 「うん……!」 『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)と『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)は剣を構えて突撃。僅かに開かれた路を更に押し広げるべく、同時に剣を繰り出す。 彼女達に群がらんとした怪人が切り裂かれ、血しぶきを上げる。 「強いぞ、弾幕で押し返せ!」 「応ッ!」 蟲型の怪人たちが一列にならび、一斉にボウガンを構える。 飛来する大量の矢。リセリアたちはそれを風の如くかわしたが、全てのメンバーにそれができるわけではない。猛や禅次郎が矢雨の圧力に押される。 「麻衣さん、いっしょに!」 「わかりました」 七布施・三千(BNE000346)と『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)が、自らに刺さる矢を我慢しながら同時にスキルを発動。全員の背に翼が生まれ、体力も回復していく。 「人々を苦しめるなんてもってのほかだ。何かを守るための正義を……私は持ってきた筈だ!」 『さくらふぶき』桜田 京子(BNE003066)が陰陽氷雨を発動。怪人たちの腕や武器が氷に包まれる。 その直後、背に生えた翼を羽ばたかせ『Majestic Angel』アンナ・クロストン(BNE001816)が宙へ舞った。 「そうか、そんなにコアが欲しいか。仲間を自分の手で殺してまで欲しいか……ふざけるな!」 両手を翳し、コアを発光。怪人の弓兵たちが思わず目を覆う中、大量の弾幕が発生。怪人たちがまるで紙細工のように消し飛んでいく。 ぶわりと大きく羽ばたく少女、『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)。 一度ホバリングに失敗してから、地面スレスレの低空飛行を開始。仲間と共に矢型の陣形をとり、一直線にメルボルンへと突入を開始した。 彼女達を警戒してはられた簡易バリケードも、もはや紙屑のように千切れ飛ぶ。 「メルボルン……」 ちらりと視線を上げるモニカ。 「なんですか、あの聳え立つガラクタは」 ●窮地 ガラクタと呼ばれた要塞内部。 ヴィッカースは巨大な計器を拳で叩いた。フレームが拉げ、火花をあげて故障する。 「怪人共が突破されただと!? 何の足止めにもなっておらんではないか! この、役立たずどもめがあああああ!」 横にいた助手を蹴り倒し、鞭を振り回すヴィッカース。 「メルボルンはまだ起動していない。防護フィールドも張れない、迎撃武装も使えない! それに奴等は機竜空母の装甲を十秒足らずで貫いて侵入してくる化け物どもだぞ! どうする、どうすればいい……あと三分、も、もつわけがない……!」 蜥蜴型の頭をがしがしと引っ掻いて叫ぶヴィッカース。 その背後で、埋め込み式ディスプレイが起動した。 『狼狽えるな』 「醍五さま……」 一言である。発狂寸前のヴィッカースは落ち着きを取戻し、ディスプレイへ振り返った。 『アークのリベリスタたちがすぐそこまで来ている。お前は起動を急げ』 「は、はい!」 画面の向こうで、ゆっくりと振り返る醍五。 高く飛翔し、刀を振り込むセラフィーナの姿がそこにはあった。 醍五は、振り向くと同時にセラフィーナの刀を受け止めた。 黒鋼で覆われた手。それも片手である。 「吾大醍五さん!」 「『鬼斬童子』のクリス……いや、人違いか」 セラフィーナの刀をがっちりと握り込んだまま視線をその奥へとやる。 三千と麻衣が肩を並べて立ち、そのやや後ろで京子がリボルバー銃にショッキングピンクの弾丸をスピードローダーで装填。 脚を肩幅に開き、両手でしっかりと構えた。 「よし、準備できた。ここは任せて先に行け!」 「それ死亡フラグじゃなかったか?」 すこし前へ出て銃剣を構え、アッパーユアハートを発動する禅次郎。 後続の怪人たちの狙いが彼に定まったのを確認して、モニカやアンナは醍五の横を駆け抜けて行った。 「あとは任せました!」 「俺の仲間は強いぜ。次に会ったときはぶっ倒す!」 遮ろうとする怪人たちを踏み越え、猛とリセリアが後ろのコアルームへと駆け込んで行く。 視線だけでそれを追い、再度セラフィーナたちを見る醍五。 「なるほど、足止めというわけか……」 空いた手をセラフィーナの額に押し当てる。 「愚かな」 途端、爆発的な破壊エネルギーが流れ込み、セラフィーナは吹き飛んだ。 ●『暴虐者』吾大醍五 きりもみして飛ぶセラフィーナを素早く空中キャッチする三千。 その後ろから斧を構えた怪人が飛び掛ってくる。 両手の塞がった三千の背中を盛大に抉りながら叩き落とす。 咄嗟に翼を広げて地面への衝突を防いだセラフィーナだが、三千のばっくりと裂けた背中に血の気が引いた。 「大丈夫ですか、こんな!」 「気にしないで下さい。セラフィーナさんは彼を」 ぱっと離れて天使の息を発動。自らを回復しようとするが……。 「貴様が回復担当か。邪魔だ!」 凶悪な武器を構えた怪人たちが三千へと一斉に飛び掛ってゆく。 たとえ回復が間に合ったとしてもこれではひとたまりもない。 かくなる上はと三千が身構えたその時。 「庇え、影人!」 京子が銃を立て続けに発砲。ピンク色の弾丸が回転しながら飛び、内蔵された術を発動させる。 呪術の基礎に、似た者はいずれ同じものになるという概念がある。 その理屈に沿って見れば、京子の放った弾丸は京子のものであり、京子に似た色の弾丸は京子であり、それは京子そのものであると言ってよい。 つまり。 『――ッ!』 弾丸が瞬く間に京子の影人へと変化し、くるりと宙返りをしながら三千の前へ着地。襲い掛かる敵の攻撃を一手に引き受けた。 ぱかんと音を立てて弾丸に戻る影人。 京子はすぐさま周囲のエネルギーを吸収。弾丸に込めると連続発砲した。 この間、京子が結果的に消費したエネルギーはわずかの10。連続使用したとして実に一時間以上の連発が可能だった。 となると問題は京子自身がどれだけ保つかである。 「面倒な技を使いやがる。俺はこの女からやるぜ!」 入り口方向。つまり背後から重火器を発射してくる怪人。 そこへ禅次郎が割り込み、武器と大装甲をもって斜めに受け流した。 が、基本的に動作の遅い禅次郎である。受け流せる度合にも限りがあった。そしてその限度は低い。 「まあ、そうなるか……」 技術でといよりは頑丈さで弾丸を凌ぐ禅次郎。 そんな彼を、頭上から覆う影が合った。 振り返る。 振り返って、絶句する。 前進を骨や毛皮の鎧で覆った吾大醍五が、黒鋼の腕を大きく掲げ、今まさに拳を振り下ろさんとしている所だった。 恐るべきは腕から放つ巨大な業炎。 「焔腕か――!」 咄嗟に防御した禅次郎と京子を、隕石でも落ちたのかと言う程の衝撃が襲う。 立っていられずに地面を転がされ、拉げた地面の振動がさらに二人を転がしていく。 「う、ぐお」 炎がすぐには消えない。禅次郎の装甲を通して身を焼き、甚振ってくる。 「脆い物だな。これがヒーローの姿か……」 「…………」 頭部を鷲掴みにされ、持ち上げられる禅次郎。 片目を開き、醍五に唾を吐きかける。 醍五は胸についた唾を無視し、彼の胸に土砕掌を叩き込んだ。 身体かくの字に折れ曲がり、まるで内側から身体が破裂したかのような痛みが走った。 身体が動かない。熱い。何より、苦しい。 骨という骨が折れたかのように感じる。と言うことは首と背骨がいったか。 「舐めるな、先へは行かせない」 フェイトを削って状態を離脱。渾身のペインキラーを醍五の顔面に叩き込んだ。 相手は倒れない。だが、額から血を流して仰け反った。 「余に血を流させるか」 醍五は息を吐き、土砕掌を再び叩き込む。 今度こそダメだ。禅次郎は膝から崩れ落ちた。 彼を見下ろす醍五。 その背に、セラフィーナの刺突が繰り出される。 狙い違わず心臓部へ命中。 突き刺さり、貫く……かと思われたが。 「……う」 刀は刺さった。しかし刃が壱センチ程度しか沈まないのだ。 振り向き、土砕掌を叩き込んでくる醍五。 セラフィーナは思い切り転がされ、大量の血を地面に吐き散らした。 「あなたは……あなたの目指す世界とは……何ですか」 顔を上げ、血を吐きながら言う。 「罪無き人々を殺しても、目指す世界ですか」 「肯定だ」 セラフィーナの頭を踏みつけ、地面に叩きつける。 挑発や余裕による動作ではない。全力で頭蓋骨を破壊するための圧撃であった。凄まじいショックに脳が揺すられる。 「力無い者は死ぬ。ただの自然現象だ。弱きものが弱いままで良いなどという綺麗ごとを語るな。いや……語っても良い。だが踏み潰す」 「そうはさせません!」 聖神の息吹が展開した。 誰のものか? そう、石動麻衣のものである。 絶妙のタイミングで放たれた癒しの息吹がセラフィーナと禅次郎の麻痺状態を回復。跳ねるように起き上がった二人が同時に斬撃を繰り出した。 「人の痛みが分からないのなら。今ここで教えてあげます!」 わずかながら鮮血が上がる。 「まだ立つか」 電流を纏った腕で二人を同時に薙ぎ払う醍五。 そこへ、京子の影人が三人同時に組み付いた。 更に両側から二人の影人が銃を連射。 醍五へと攻撃を浴びせる。 その殆どは効果的な威力はなく、一部はファンブルさえしたが、うち一発が醍五の腹に命中。弾丸を肉へとめり込ませる。 「邪魔だ」 掲げた脚を大きく踏みおろし、虚空を発動。影人を二人ほど破壊し、最後に京子を切り裂いた。 同時に回復を発動させる三千と麻衣。 醍五は炎や雷で残りの影人を振り払うと、京子たち三人に向けて飛び掛った。 それに加わるようにして襲い掛かる怪人たち。 麻衣と京子は目を合わせ、そして同時にあることを即断した。 ●『異邦開発者』ヴィッカース モニカが重火器を構え、ゆっくりと腰を捻りながらトリガーを引く。 動作だけで言えばこうだ。 しかし実際に起こった事象を述べるなら、戦車が回頭しながら機関銃を打ちまくったと書いてしまった方が正確であった。 周囲の計器やディスプレイ、その他多くの機材が火花を散らして拉げ、破裂し、吹き飛び、粉々になっていく。 彼女の無表情さや無慈悲さ、そして無感情さはまさに戦車のそれに近い。 「や、やめろ! これだけは……これだけは壊させんぞ!」 鎧を纏った男、ヴィッカースは人工マスターコアの前に立ち、大きく義翼を広げた。 しかしその翼すら消し飛び、コアに弾丸が跳ねていく。 それなりのエネルギーはあるのだろう。周囲の機材のようにすぐには破壊できないようだ。 「邪魔だ、そこを退けえええええ!」 飛び込み、蹴りを繰り出す猛。 ヴィッカースの肩を抉り、虚空の斬撃がコアに直撃した。 正十二面体にヒビが入り内部から光が強く漏れ出した。 「やめてくれ、それ以上は! 私の……私の希望が!」 「人柱が希望ですか」 横合いからスパナを叩きつけようとする助手の手首を剣で跳ね、ヴィッカースへと打ち当ててくるリセリア。 そのまま大きく身を捻り、ヴィッカースの頭上を跳躍。コアへと斬撃を叩き込む。 「この要塞を動かすためだけに、こんなものを……!」 「やめろ、やめ……」 亀裂が大きく広がり、崩壊の音をたてる。 そして人工マスターコアは、エネルギー爆発を起こして吹き飛んだ。 飛び散る破片がヴィッカースの頬を切る。 しかし彼の眼は、コア……いや、コアだったものに注がれていた。 人柱となったであろうシファは蟲の息だったが、モニカの弾幕に巻き込まれて頭部を破損。誰だかわからない死体となってコアの残骸を飾った。 「そん……そんな……」 「あとは貴方だけです」 たん、と着地するリセリア。 ヴィッカースが振り向くと、助手の男達もばたばたと一斉に倒れた。 モニカの弾幕に耐えきれなかったが故である。 「あ……」 ヴィッカースは口をぱくぱくとさせ、鞭を上げる。 その腕が、肩からばっさりと切断されて宙を舞った。 ぼとりと落ちた腕を、現実味のない目で見下ろすヴィッカース。 「そ、そうだ……逃げ」 「逃がしはしない!」 リセリアの剣が閃き、ヴィッカースの両足が切断された。 その場に文字通り崩れ落ち、だくだくと血の池を作る。 「ああ……そんな……そんな……私……の……」 私の。 その先の言は無かった。 目を開いたまま、血だまりに頬をつけ、開いた口は閉じない。 「任務完了ですね。さっさと帰りましょう」 入り口扉の前に陣取っていたモニカは銃を天井に向けて言った。 頷こうとして、ぴくりと眉を動かすアンナ。 「……ちょっと待って」 手を翳し、耳に手を当てる。 首を傾げ、同じようにするモニカ。 通信機から漏れ聞こえた仲間の声に、目を見開き、そして。 「扉から離れて!」 「――!?」 背後の扉が、爆発した。 否。爆発したかのように内側へ吹き飛び、コアの残骸に激突して回転し、反対側の壁にぶつかりそのままぐにゃりとめり込んだのだ。 扉前にいたモニカは暴力の渦に巻き込まれ、やや目を開いた表情のまま宙を舞う。 アンナは視線で脱出装置の位置を確認。腕を水平に広げ、聖神の息吹を放った。 「早く逃げて、モニカ。皆も」 「……チッ!」 浮いたモニカをひっつかみ、ポット型の脱出装置へ飛び込む猛。リセリアも後に続き、最後にアンナが脱出装置へと滑り込んだ。 遅れて部屋へ突っ込んでくる醍五。 閉まる扉を素手で抑える。 「エンジェルか……良い所に来た。そのコアを売らんか。三十億で買うぞ」 「だれが!」 顔を覗かせる醍五の額を蹴りつけ、アンナはコアを宙に浮かべた。 「分不相応な貰いものだとおもったことはあるけどね、アンタ達にだけは渡さない!」 赤い軍服の男達を思い出す。彼等は……。 「あいつらは、仲間を大事にしてたわよ! それを道具みたいに扱う奴に、これを扱う資格はない!」 零距離で神気閃光を発射。 醍五の手が扉から離れ、ポットがジェット噴射と共に射出された。 ●終焉、その後。 山中に不時着したポットから這い出てくるモニカたち。 眼前には同じように不時着したポットがあり、中からは京子たちが仲間を抱えて這い出てきた。 「ごめん、足止めは……」 「大丈夫。うまくいったから」 首を降って、空を見上げる。 広い空だ。 今日、守った空だ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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