●燃える男。 「なんてこったい……。なんて、なんて、味気ない町なのだ」 男は、頭を抱えて蹲る。男がいるのは、田舎町の路地裏である。ただでさえ寂れた印象を受ける町並みに、秋の風が吹き抜ける。ここ数日で急に寒くなった秋風だ。空き缶を転がしていく様など、余計に秋の儚さを感じさせる。 「この町は寒いな……。本当に寒い」 悲しそうな顔で、男が呟く。浅黒い肌と、爬虫類に似たぎょろりとした目が特徴の男だ。肌寒い季節だというのに、男はタンクトップ一枚で、筋肉質な両腕を晒している。 「味気ないし、寒いし……。もっとこう、熱くならないと、おもしろくねぇよな」 はぁ、と男は大きくため息を吐く。 瞬間、男の吐き出した息に触れたゴミ袋が燃え上がった。まるで、マッチかなにかで火を付けられたかのように、一瞬で。 「あぁ、こうすりゃいいのか……」 何か、納得がいったのだろう。 男は何度も何度も、腕を組んで頷いている。 そして。 「この町を、もっと熱くしてやろうじゃないか!!」 そう叫んだ男の体が、一気に炎に包まれた。 見るからに寒そうだったさきほどまでとはうって変って、今の男はひどく熱そうに見える。 炎に包まれた、というより、人の形をした炎そのもの。 「なんか忘れてる気がすっけど、いいかな、別に」 まずはこの町を熱くすることからだ。 そう言うと、男は手近にあったゴミ置き場に火を放ったのだった。 男は通称フレイムと呼ばれるアザ―バイドである。 彼は、自分がこの世界に迷い込んだ異世界の民だということも忘れ、ただただ、味気ない町に火をつけて回るのである……。 そんな男に追従するように、彼の放った炎が踊り狂う。 現れたのは、炎の猪だ。それを見て、男は笑う。 「さて、それじゃあ、楽しい楽しい火遊びといこう!」 ●放火犯を捕まえろ。 「異世界から来た燃える男(フレイム)を止めて来て」 やれやれ、といった様子で『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が首を振る。 面倒なことになった、とでも言いたげな、そんな様子。 「フレイムは、路地裏に開いたディメンションホールを通ってこちらの世界にやって来た。けど、こっちに来てすぐ、寂れたこの田舎町に絶望して、帰ることを忘れてしまった」 早い話が、物覚えが悪いのである。 同時に2つ以上のことを考えることができないのだ。何かに集中すると、そればかりに意識が言ってしまう。まるで猪かなにかのような男なのである。 「彼は現在、町に火をつけて回っている所。今の所火が付いているのは、ゴミ集積場だけだけど、すぐに市街地へと向かうはず」 急いで元の世界に戻すなり、討伐してしまう必要があるだろう。 「まだ誰も、ゴミ集積場に火がついたことには気付いていない。けど、気付かれるのもきっとすぐ。現場付近には、炎から生まれたE・エレメント(猪)がいるから、危険」 猪の数は全部で6体。男同様に、短慮で喧嘩っ早い性格をしているらしい。 猪の動きは早く、また力も強い。 実際の所、フレイム1人を相手にするより、猪6体の方が厄介かもしれない。 「フレイムは炎の魅力にとりつかれている……。文字通り、燃える男」 その行動原理は単純明快。 寒いから、味気ないから、楽しくないから、火を付けよう。 それだけだ。 フレイムにとって炎とは、もっとも身近な感情表現の手段でしかないのである。 「フレイムに炎は効かない。また、神秘系の攻撃もダメージが薄いよう」 彼を倒すには、直接、自分の力で殴りにいくのが、一番てっとり早い方法だろう。 「怯んだり、逃げ出したりということはしない。喧嘩を売れば、乗ってくると思う」 少なくとも、フレイムは、ではあるが。 猪に関しては、フレイムが放った炎から現れたというだけで、彼の指示に従うものではないようだ。 「火をつけて回りたい、という考えは同じみたいだけど」 全部、逃がさないようにね。 と、イヴは仲間達に再度注意を促す。 「それじゃあ、異世界から来た放火犯を何とかして来て」 モニターに映ったフレイムを眺めて、イヴは小さくため息を吐いた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月25日(木)23:48 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●炎に巻かれて……。 秋独特の、どこか物悲しい空気と雰囲気に満ちた町外れ。空き家とゴミ集積場ばかりがあるその場所は、世間から忘れ去られたかのように、シンと静まり返っていた。 その、筈だったのだが……。 「燃えろ燃えろ! ふはははははは!!」 つい数十分前、この場に現れた一人の男によって、ゴミの山は炎に包まれつつあった。 この男、異世界から迷い込んだアザ―バイドで、名前を(フレイム)と言う。体を炎に変えることが出来る能力を持っており、思慮は浅く、また秋の静けさなどの地味なものを嫌う。 現在、寂れた町並みを火の海に変えてやろうと、フレイムはゴミ山から町へと移動中である。同様に、フレイムの炎から発生したEフォース(猪)も、炎で出来た体を猛らせ、フレイムに続く。 そんなフレイムと猪の前に、立ち塞がる影が数名。 「おっと、ここから先は通せないな」 腰の刀を引き抜いて『闘争アップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)がそう告げた。 それが引き金になったのか……。 フレイムと猪の体を構築する炎が、一際強く燃え上がったのだった。 ●俺の炎を喰らえ……!! 「邪魔すんじゃねーよ!! もっと燃えないと、熱くなれないだろうがよ!」 なんて、すでに十分暑苦しいフレイムが叫ぶ。『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が、それを聞いてうるさそうに耳を塞いだ。 「無粋だな」 と、一言、鬱陶しそうにそんな言葉を投げかける。もっとも、彼女の言葉は、頭に血が昇った、というか、火が入ったフレイムの耳には、届かなかったわけだが。 「熱苦しいアザバだね。炎の熱的な問題じゃなくて、性格がさ」 と、呟いたのは『九番目は風の客人』クルト・ノイン(BNE003299)である。そうはいったものの、フレイムと猪の纏う炎の熱もかなりの熱さなのだろう。ドロリと、フレイムの足元でアスファルトが溶けだした。 「異世界からの住人は鳥頭で放火魔ですかぁ……。それに加えて、迷惑な暴れん坊っとくらぁ、殺っちゃっても ええわけやなぁおぃ!」 高温の炎を発するフレイムの頭上から『√3』一条・玄弥(BNE003422)が飛び降りた。鋭い爪に炎が反射する。フレイムは、握りしめた拳を振るって、玄弥を迎え打つ。 「年寄りは大人しく燃え尽きろ!」 振り抜かれた拳は、しかし玄弥の足を掠めただけに終わる。器用に空中で体勢を変えて、玄弥は地面に着地した。 「炎も煙も怖いからなぁ」 前にフレイム、背後を猪に挟まれているものの、玄弥の顔に浮かぶのは余裕の色。地面を蹴って、再びフレイムに襲い掛かる。 「まずは分断して、Eエレメントの数を減らします」 光弾を撃ち込み、玄弥をサポートするのは『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)だ。盾を構え、火気を遠ざけながら、仲間たちの後ろから戦闘のサポートを行うのが、彼女の役割である。 「これ以上、燃やさせたりしない。貴方の遊びを、止めさせていただきます!」 燃え盛るゴミの山を見上げ『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)が前へ出る。同時に、猪たちもまた、思い思いに暴れ始めた。体の炎を燃え上がらせて、ミリィ目がけ突っ込んでくる。 「さぁ、戦場を奏でましょう」 向かってきた猪の鼻先を、魔力杖で殴りつけ注意を自身に引きつける。 そんなミリィの隣では『名伏しがたい忍者のような乙女』三藤 雪枝(BNE004083)が消火器の安全装置を抜き、猪に相対する。猪の突進をいなし、消火器をその鼻先に突きつける。 「三藤流忍法……でもないけど、消火の術!」 至近距離から猪目がけ消火剤が吹きつけられる。周囲に白い粉末が舞い散って、視界を塞いでいった。炎の勢いを削がれた猪が、悲鳴をあげながら後退していった。 「なんてものを撒き散らかしてくれてんだよぉぉぉお!!」 怒り心頭といった風な、フレイムの叫び声が周囲に響き渡った……。 「真正面からぶつかり合ってやりたいところなんだけどね」 なんて、物影からフレイムと仲間達の様子を見守りながら『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)が呟いた。 そんな彼の視線の先で、雪枝の撒き散らした消火剤が、路地を覆い尽くしていく。炎を消されるのを嫌うのか、猪達が暴れ回っているのが、粉末の向こうから伝わる、気配で分かる。 いざと言う時、すぐに戦闘に参加できるように、両手で剣と刀を握りしめ、意識をフレイムへと集中させる。 ジリジリと、燃えさかるゴミ山の熱気が伝わってきて竜一の頬に汗が伝う。 「愛しのユーヌたんが心配だが、耐える時……」 そう呟く彼の頭の中は、今まさにフレイムと交戦中であろう1人の少女のことで埋め尽くされていた。 「出来るだけ、燃えるものが少ない方へ誘導してくれよ?」 ゴミ山を背にした義衛郎が、仲間達にそう告げる。彼の眼前には、荒々しく猛る炎の猪が1匹。消火剤の霧の中から逃れ、炎に満ちたゴミ山へと向かう途中なのだろう。 しかし、義衛郎がそれを阻む。 ペットボトルに入った水を、猪目がけて放り投げた。と、同時に猪へと駆け寄る義衛郎。猪の意識が水へと向いている隙に、一気に近寄り両手に持った刀でもって素早く切りつけて行く。 ゴミ山から遠ざけ、しかし、あえてトドメは刺さない。迂闊に数を減らしてしまうと、無傷の猪を召喚される恐れがあるからだ。これ以上の攻撃は、トドメを刺す事になるか? と、義衛郎の手が一瞬鈍る。 その一瞬の隙を付いて、猪は地面を蹴って義衛郎へと突進していった。 「う、おぉぉ!!」 咄嗟に刀でそれを防ぐが、勢いまでは殺しきれない。猪に弾かれ、燃え盛るゴミ山へと弾き飛ばされる。 「持久戦になりそうですね」 義衛郎を弾き飛ばした猪目がけ、魔弾を撃ち込み麻衣はそう呟いた。魔弾を受けた猪は、炎を撒き散らしながら消えていく。このままでは義衛郎を危険に晒すと判断しての措置だ。 傷ついた義衛郎の治療の為、麻衣は彼のもとへと駆けて行った。 そんな麻衣の元へと、突進していく猪が1匹。盾を構え、猪の突進を迎え討とうとするものの、彼女の細い体では、どれほどその突進を受け止めきれるか分からない。 つ、っと頬を冷や汗が伝う。 その時……。 「かかってこいよ獣ども」 麻衣と猪の間に、クルトが飛び込んできた。アスファルトを踏みつけ、手甲をつけた拳を猪に突きつける。突き出した拳が冷気を纏い、周囲の空気を冷やしていく。 「はぁ!」 クルトは突進してきた猪へと、氷の拳を叩き込んだ。猪と拳が激突し、熱気と冷気が周囲に飛び散った。ジリジリと焼けるクルトの拳と、次第に火力を失い凍りついていく猪の鼻先。ジリジリと、クルトの体が後ろへと押しやられていく。 「突進力は確かにかなりのものだけど……」 クルトの爪先がアスファルトを踏みしめる。ピタリ、と押されていた体が止まり、徐々にだが、確実に猪を押し返してはじめる。 「異世界で散々みた巨獣に比べれば、可愛いもんだ」 力任せに拳を振り抜く。振り抜かれた拳は、的確に猪の鼻先を捕らえ、その体を打ち上げる。悲鳴と共に宙を舞い、地面に落ちる猪。 その様子を横目に、麻衣は義衛郎の元へと駆けて行った。 「何処に行こうとしているのですか?」 2体の猪を前に、ミリィが杖を掲げてそう告げた。彼女の隣では、持ってきた消火器を全て撒き終えた雪枝が仕掛け暗器を構え、猪を睨みつけている。 「ミリィさん、よろしくお願いしますねっ!」 消えた猪に代わり、新たな猪を召喚しようとしていた2匹の猪だったが、周囲の可燃物には消火剤がたっぷりとかけられている。これでは、新たな猪を呼び出すことは出来ないだろう。 もっとも、それはこの場に限ってのことだ。 消火剤がかかっていない可燃物など、少し離れればいくらでもある。なんなら、そこらの空き家だって、燃やす事ができるし、ミリィ達の背後では、今尚ゴミ山が燃えさかり、黒い煙を吐き出し続けている。 「怒りで前しか見えていないのであれば、いくらでもやり様はある筈ですから」 なんて、前にいる2体にアッパーユアハートで怒りを付与したミリィが言う。フレイムを何とかするまで、猪の注意をこちらに引きつけておく事が、彼女達の目的である。 猪2体の火力が、急激に上がる。炎が燃え上がり、猪達はあっという間に火柱のように変化する。 足元のアスファルトを溶かしながら、火柱へと変じた猪2体がミリィと雪枝へと突進してきた。炎に噴射しながらの突進は、火力、勢いともに先ほどまでの比ではない。 真っすぐに、2人へと迫る猪達。 「ここから先へは行かせません!」 ミリィの杖先から、眩い閃光が迸る。周囲を白く染めるほどの強い光に焼かれ、猪の突進が僅かに鈍る。 その隙に、雪枝は猪の頭上を飛び越え、彼らの背後へと降り立った。 タン、と軽い音と共に地面を蹴って、踊るような動きで暗器を振り回す。暗器が舞う度に、炎が飛び散り、猪を切り裂いていく。 「熱血とかスポ根とか嫌いじゃないけど、熱いだけってのは勘弁ですね……」 飛び散る炎と、暴れる猪によって身体中に火傷を負いながらも、攻撃の手は緩めない。これ以上先へは行かせないと、心に決めて、ミリィと雪枝は猪達の動きを止めにかかるのだった……。 「鬱陶しい奴らだな。消火剤なんてつまらねーもの撒き散らすしよ。本当、寒くてやってらんねぇよ」 物干し竿を振り回すユーヌを相手にしながら、フレイムが喚く。その度に、彼の体を形作る炎の勢いが増していくのが見てとれる。ユーヌ目がけ、拳を突き出し、時には炎の息を辺りに吐き散らかすものの、一向に町へと進めぬ苛立ちが、フレイムの攻撃を単調なものへと変えていった。 と、同時に、その攻撃もまた、一撃一撃から容赦や遠慮なんてものが消えて、より鋭くなっていくようでもある。 そんなフレイムの周りに、氷の雨が降り注ぐ。 「頭は冷えたか? あぁ、冷えて足りない頭が更に回りも悪くなったか?」 なんて、小馬鹿にした態度でフレイムを嘲るユーノ。身軽に飛び回り、フレイムの攻撃を避けていく。 そんなユーノとフレイムの戦いを尻目に、玄弥は重い溜め息を吐いた。 「適度にやなぁ……」 面倒くさそうにそう呟く玄弥の体は、あちこち火傷を負って爛れていた。爪を怪しく光らせて、相対するのは2体の猪。片方の相手をしている間に、もう1体から突撃を喰らい、ダメージを負う。おまけに、こちらは極力相手を倒してはいけないと来たものだ。 やりにくい、と頭の中で呟いた。 「ま、ぼちぼちがんばりまひょ」 爪を構え、手近な猪に踊りかかる。じわり、と血が滲むようにその爪が赤く染まっていった。 大きく振りかぶった爪が猪の頭部へと突き刺される。炎の体から、じわりとその生命力を吸い取って、自身のダメージを回復させる玄弥だったが、そんな玄弥へともう1体の猪が突進してきた。 「おっと、おいたはいけねぇなぁ」 猪から爪を引き抜き、その場から離脱。猪の突進をかわし、再び爪を構え猪と向き合う。 ふん、と鼻から息を吐き出して、玄弥は足元に転がる木端を蹴り飛ばした。 「ゴミ掃除は丁寧にしんとなぁ」 ずるり、と玄弥の体から暗黒の瘴気が滲みでる。滲みでた瘴気は、ジリジリと地を這い、猪達へと襲いかかる。炎を喰らい、猪の命を蝕んでいく。 反動ダメージに顔をしかめながら、玄弥は猪に向かって駆けだしたのだった……。 ●熱い心と、燃えさかる炎…… 「うおぉぉぉりゃあぁぁぁあ!!」 怒号と共に、力任せに振り抜かれたフレイムの拳がついにユーヌの体を捕らえた。燃えさかる炎の拳が、その細い体に突き刺さり、殴り飛ばす。 炎に包まれ、宙を舞うユーヌ。 「人の彼女に、なにさらしとんじゃボケェェェェェェェェェェェェェェェェ!!」 それを見て、思わず物影から飛び出そうとする竜一だったが、そんな彼に向かって、炎に包まれたユーヌはすっと手の平を突き出し、その動きを制止する。 ピタリ、と竜一の動きが止まる。その視線の先で、炎の中のユーヌが薄く笑った気がした……。 「ふっははははは! 燃えろ燃えろ!! 燃え尽きろ!」 実に楽しそうに、炎を見て笑うフレイム。ゴウゴウと音をたて、彼の体もまた、勢いよく燃えさかる。 しかし……。 「小火ではしゃぐな程度が知れるぞ?」 地面に倒れたユーヌが、炎の中で、そんな事を呟いた。 「は……。あ? なんだと?」 ピタリと、フレイムの哄笑が止まった。そんなフレイムの見ている前で、ユーヌがゆらりと立ち上がる。流石にダメージが大きいのか、足元が震えているのが見てとれる。しかし、その手に握った物干し竿は、真っすぐにフレイムへと突き出されている。 「火の用心。マッチ一本火事の元。少々大きいが、吹けば飛ぶのに変わりない」 ユーヌの懐から、一羽の鴉が飛び上がる。式符で作られた鴉は、まっすぐにフレイムへと飛びかかった。 「小賢しい真似をするな!」 拳を突き出し、鴉を焼き尽くすフレイム。小さな鴉一羽では、大したダメージも与えられないし、一瞬、その動きを止める程度の役割しか果たせない。 しかし、それで十分。 「帰りの駄賃は結構だ」 地面を蹴って、一気にフレイムへと肉薄していたユーヌが呟く。大きく振りかぶられた物干し竿が、空気を裂いてしなる。フルスイングで振り抜かれた物干し竿が、鴉を打った事でガラ空きになったフレイムの胴を捕らえる。 「さて、竜一。出番だぞ?」 炎を撒き散らしながら、フレイムの体が大きく弾き飛ばされる。 「う、おおおおお!」 怒号と共に、フレイムの体が地面を転がる。その先には、大上段に剣を構えた竜一の姿。 額に青筋を浮かびあがらせ、ギリリと奥歯を噛みしめる竜一。剣を握った拳が、ギシ、と軋んだ音をたてる。 「炎も全部、撒き上げてやるぜ、俺のれっぷーでなぁ!」 怒鳴る。と、同時にフレイム目がけ、剣が振り下ろされる。周囲の空気を巻き込んで、剣が、刀が舞い踊る。 竜巻のように旋回する2本の刃が、フレイムの炎を削りとっていく。 「このやろろぉぉぉお!!」 刃に体を切り裂かれながら、フレイムが拳を握りしめる。炎の勢いが増し、その拳は巨大な火の玉へと形を変える。 叩きつけるように、上段から竜一へと拳が振り下ろされた。 「ぐ、おぉぉお!」 炎の拳を受けながらも、竜一の動きは止まらない。剣と刀を旋回させながら、じりじりとフレイムの体を押していく。その先には、地面にぽっかりと口を開けるDホール。 「俺の邪魔をするんじゃねぇぇぇ!」 炎の拳で、竜一を連続で殴りつけるフレイム。拳が触れる度に、肉を焦がす嫌な匂いが周囲に撒き散らされる。 しかし、竜一は止まらない。 「その穴ぐらん中で、頭でも冷やしてこい!!」 「……う、ぐっ!!」 2本の刃が、フレイムの胴に突き立てられた。 そのまま、竜一が足を振りあげ身動きできないフレイムの胴を蹴り飛ばす。 炎を撒き散らし、フレイムの体が傾いだ。忌々しげに口元を歪め、燃えさかるその手を、竜一へと伸ばす。 だが、届かない。握りしめられた炎の手は、空を掴む。 「くそぉぉぉお!!」 最後に……。 炎の柱を撒き上げて、フレイムはDホールの中へと消えていった……。 「あー、やっと加減しなくてもよくなったか」 フレイムが消え去ったことを確認し、義衛郎はやれやれと大きなため息を吐いた。 それが合図だったかのように、他の仲間たちが動き始める。 動いた先には、すでに傷だらけで満身創痍の猪達の姿。 「さて、燃え尽きろ」 ユーヌが呟く。同時に、周囲には氷の雨が降り注ぎ始めた。雨は、ゴミ山の炎を少しずつだが確実に、消し去っていく。それと同時に、猪達の纏う炎をも削る。 炎を失い、勢いを削がれる猪達。そこへ、リベリスタ達の攻撃が加えられ、1体、また1体と倒れていく。新たな猪を召喚しようにも、炎がないのでは、それも叶わない。 「そろそろ一気に決めるとするか」 雷を纏ったクルトが、最後に残った猪を打ち倒した。 猪は、炎を撒き散らし、燃え尽きていく。最後に一度、地面を蹴るものの、力及ばず、その場で跡形も残らず、雨に打たれてその姿を消した。 「怪我をしてる人は、私の所へ来てください」 敵が完全に消え去ったのを確認して、麻衣が言った。彼女の傍らでは、ミリィと雪枝が地面に座って、ぐったりしている。火傷と傷を身体中に負って、大きなため息を吐いている。 「後始末はしっかりせんとなぁ」 僅かに残った種火も、玄弥が足先で踏みにじって消している。 一気呵成に燃え上がった炎は、すっかりその名残も残さず、消え去っている。 なにはともあれ……。 こうして町は、火の海になることを間一髪で免れたのだった。 その事を知るものは、しかしリベリスタ達をおいて他にはない。 後にすっかり燃え跡と化したゴミ山が、この町でちょっとした話題にあがるのだが、それはまた別の話……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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