● 人とは違う力に目覚めた。 どうやら、私は『運命』に愛されたらしい。教えてくれた人は言っていた。 『誰もがそうなれるわけではないんだよ』 その言葉の通りだと思う。神様は誰もを愛してくれるわけではない。祈っても無駄なのは分かっていた。 たった一人の家族で、たった一人の弟だったのに。『運命』の寵愛がなかったから死んだも同然だった。 その口はもう私を呼ばない。その眼はもう私を愛しげに映さない。 『姉さん』――そうは呼んでくれない。彼の中に『彼』は居なかった。そんなの、死んだも同然でしょう。 「神様は、何故愛してくれなかったのですか。どうしたら、」 ――どうすれば弟は帰ってきますか? ● 「私たちがフェイトを得て、こうして生きていけるのも何かの気紛れなのかしら」 謳う様に紡いだ『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)はお願いしたい事があるの、とブリーフィングルームに集まったリベリスタを見回す。 「気紛れに運命に愛されたお姉さんと、運命に愛されなかった弟。たった二人の兄弟だそうよ。両親は全てを攫った10年以上も昔の『あの日』失った」 桃色の瞳が細められる。普段、湛える優しげな笑みは消え去った。その目に浮かぶのは冷たい色。 「殺してきて? ノーフェイスになった弟を。弟のフェーズは2に進行してるわ。……もう、救いの道は閉ざされてると、言っても過言ではないの」 自我も失われつつある。もしかしたら到着時点で失われているかもしれない。 姉は弟を其れでも愛しているから、自分に宿った神秘の力で弟を殺す事なんて出来ない。 けれど、弟は大切な姉を自我を失い傷つけてしまう。彼の想いも関係なく。 ――大切な姉を、殺してしまう。 「きっとお姉さんは、弟を庇うと思う。誰だって、そうでしょう? 大切な人を殺しにきましたなんて、誰も飲み込めないでしょう。……私だって、そうよ」 目線をうろつかせて、一言、零す。 「殺させないで、とは言えない。きっと弟に殺される事が彼女にとってのしあわせなのかもしれない。 願わくば、殺されるなら、大切な人の手で。そんなの、哀しすぎるでしょう?」 唇をかみしめて、その姉も救って欲しいとも思うけれど、世恋は視線を彷徨わせる。殺させないでと紡ぎかける言葉を呑み込んで、倒してきてね、ともう一度吐き出した。 「何事も行き止まりしかないって云うのは、辛い事なのね」 悪い夢でも醒めないままの方が、良いのかしら。予見者は小さくつぶやいた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月15日(月)23:25 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 運命は、応えをくれない。何時だって。 運命が愛した結果だというけれど、そんなの―― 「愛なんかじゃ、ないじゃない」 唇を噛み締めて。過去の友人の事を思い出す。愛が為に、死ぬ。嗚呼、なんて便利な言葉なのか。 『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)の周りでふわりと蝶々が舞う。誰かが為に死ぬ事が愛だなんて、信じない。 「愛じゃないわよ。大事な人になら、殺されてもいい?」 莫迦みたい。そう吐き出して、芝原・花梨(BNE003998)は眼鏡の奥で黒い瞳を細める。姉と弟。何処に姉を殺す事を是とする弟が居るのか。姉――清衣の気持ちは理解できない、けれど、弟の――証の気持ちを組みとろうとは思う。どうなったって其れが『運命』なら知った事ではない。 けれど、誰も殺させたくなんてないから。彼女は、この場所に立っているのだ。 へらり、道化が如く『猫かぶり黒兎』兎丸・疾風(BNE002327)は嗤う。ぴょこりと揺れる兎の耳。明るい紫色の瞳を細めて、ブラックコードを握りしめた。 取り戻せるならば、その執着心だって分かる。けれど、「手遅れだ」と呟いた。虚像に縋るだけの愛情なんて無意味だ。そんな物を愛情と人は呼ばない。 彼は道化だ。 (――僕は、ピエロなのだから。どんな時も笑顔で。我ながら酷い事をする事になる) 其れでも、思うのだ、願わくば、納得のいく『さようなら』を与えられます様に、と。 曰く、運命を得たのは『偶然』であった。『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)だって其れはよく分かっている。運命を失ってノーフェイスになったら。 そのときは。 唇はその先を紡がない、脳裏にちらつく自身の友人たちの顔を、振り払う。 暗い自然公園の土を踏みしめて、リリは祈る。揺れるロザリオを両手で握りしめて、小さく息を吸い込んだ。 その手には教義を、その胸には信仰を。運命を得た、得てしまった自身の為すべき事を、只、直向きに。 「さあ、お祈りを始めましょう――?」 ● 「世界は不条理で満ちています」 溢れだす憎悪に、溢れだす愛情に、世界は常に不条理で理不尽で、不合理で、どうしようもない位に狂いきっていて、どうしようもない位に愛おしい。 『蛇巫の血統』三輪 大和(BNE002273)の髪で舞桜と名付けられた簪が揺れる。花弁と真珠が舞う様に。 そんな世界だからこそ、せめて今際の願いぐらいは出来る範囲で聞き届けましょう。其れこそが手向けになるのではないか、とそう思う。 脳裏にちらつくのは何時も愛しい恋人の事だった。鮮やかな色違いの瞳を細めて、頭を撫でてくれる愛しい人の事を想い、『プリムヴェール』二階堂 櫻子(BNE000438)は小さく息を吐く。 「――他の誰でもない、自分が何より大切だと思える人に殺されたい。そう願うのは」 悪い事なのでしょうか。 その呟きは暗闇に飲まれる。ちかちかと公園の電灯が光っている。黒い猫の耳に水の音が入る。姉弟が語り合うという噴水が近いのだろう。 心が、定まらない。悪いことには思えないのだ、愛しい人に、大切な人にその命を奪って貰う事が罪ではないと。けれど、彼女は『リベリスタ』だから。だから、と首筋を飾る白月に指を這わせる。嗚呼、だから――とめるしかない、だなんて。 小さな翼を仲間達に与えて櫻子は俯く。願わくば、この小さな翼を得た仲間達が、救いを与えてくれます様に。 恋色の未来を視る予見者の「倒してきてね」の言葉を遂行する。唯、其れだけだと『骸』黄桜 魅零(BNE003845)は大太刀を握りしめる。 じゃり、と砂を踏みしめた。暗い想いを胸に抱いた魅零をちらりと見つめて『人生博徒』坂東・仁太(BNE002354)は懐に仕舞い込んでいた幸せな家族の写真を――トラウマを服の上からなぞる。 何も残ってはない、自分を残して。お前の所為だ、お前の所為だと攻める声が未だに鼓膜にこびり付く。望む幻影が絶えず苛むのだ。その心を、その胸を。 「こんばんは。少し……貴方達とお話しに参りました」 そっと、大和が告げる。 歩み寄る、闇夜でほんのりと輝く様な白い髪を揺らして、赤い瞳を細める。糾華はその背に弟を隠す清衣を真っ直ぐに見詰めた。 「凄く勝手な事を云うわ。一先ず、ごめんなさい」 でもね、と紡ぐ。幼い少女には思えないほどの、落ち着いた口調で。 「でもね、私、怒ってるの。運命に愛されなかったその時点で彼を、彼の魂を救いあげるべきだった」 自我を失って、其れでもこの形を残して居られるか。否、そんな物出来る筈がなかった。身勝手であるとは思う。彼の、証という少年の人格では、魂の形ではなくなっているのだから、救う――殺すべきだと。酷い身勝手だ。 「私だって、私達だって、大切な人を失いながら戦ってる」 拳を固めた。目の前の女がぎゅ、と弟の手を握りしめる。もう、握り返してくれないと分かっている弟の手を。 「友は言ったわ。怪物になりたくないって。友は、言ったわ。有難うって」 その言葉は、段々と力がこもっていく。怪物になった親友をその手で倒した『怪物』の言葉が糾華の胸の内を渦巻いた。彼女の頬を切り裂く冷たい感触。震える清衣の隣でへらへらと笑う証の凍精が糾華を蝕む。 「貴女もお分かりの筈。もう彼が助からない事……そして、彼に対して為すべき事」 清衣の傍で「十戒」から飛び出す蒼い軌跡は祈り。放つソレに乗せるのは安らかなる道程。紅よりもより燃え滾る蒼が氷を溶かしていく。 「私が彼の立場なら、貴女ももしかしてそうかもしれませんが、大切な方の手で終わらせてほしいと、そして貴女を傷つけたくないと……そう、思います」 自分達は今、初めて出会ったのだ。そんな自分たちよりも、大切な姉の手で最期を迎えさせてやりたい。其れがどれほど辛い事なのか、其れは分かっている。 「貴女は弟さんに殺されても構わないんですよね。弟さんはどうなのでしょうか?」 ちらりと証へと向かう仲間達へと視線を送りながら疾風は真っ直ぐに清衣を見つめた。 「貴方が死んだら残った弟さんはどうなるんでしょうね。何をするべきか分かりますか?」 本当に、その心が見えているのか。常に心を隠している疾風がへらりと笑う。 酷い言葉だと思う、責める文句だとも思う。凍精に不吉を告げるカードを投げながらも彼の笑みは崩れない。心の、胸の内、どす黒い感情が渦巻いても。 ――嗚呼、僕はピエロだから。 道化は常に笑みを湛えて、『ばか』を演じるだけ。其れこそが自身なのだから。 「ねえ、証、姉は今のままでは貴方と死ぬよ。殺されるのが救いなんて間違ってる」 その呼びかけに、証が顔を挙げた。虚ろな瞳は魅零を映しているのか。其れは解らない。 ゆっくりと歩み寄る。自我があると信じて、呼び掛けた花梨の瞳は揺れ動く。 「貴方、死んでるの。それからね、人を殺してしまう」 簡潔な言葉だった。其れを阻止するのが私達だ、と告げる言葉にこてんと首を傾げる。少なからず残ってはいる自我で言葉は通じているのだろうが、只、その意味まではきちんと把握できていないのか。 花梨は諦めずに鉄槌を握りながら紡ぐ。 「姉を殺しかねない事を、分かる?」 「――」 何か、呟いた。其れは呻いただけなのかもしれない。聞き取れない言葉に花梨が目を細める。嗚呼、どうするつもりなのか。 「ねえ、自分を止めてと、それだけでいいの、それだけ――ッ」 頬を冷たい物が切り裂いた。血が流れ出る。敵だと認識されたのだろうか、花梨を絶えず襲い続ける氷を避け、大和は胸に手を当てて証さん、と呼ぶ。 「お姉さんは貴方に殺されても良いと思っているようですよ。ねえ、貴方は如何したいですか?」 彼女を生かせたい? それともその手で? 届かせるから、だから、心に思ってくれるだけで良い。覗くその先は混沌とした黒、黒、黒。闇の中でぼんやりとした気持ちがある。 どうすればいいか、解らない。今まで共に居てくれた姉だから、姉がそう望むなら其れでもいいと、そう思う。 一字一句、大和は伝える。ありのまま全てを、誠実に。 不都合な願いなのかもしれない、どうすればいいかなんて、曖昧すぎて、どうしようもない。けれど、生きて欲しいと願ってくれるなら―― 「生きてとは願いませんか」 心を読み取る。 ――生きる事を、姉さんは望む? 大和が目を細める、嗚呼、たった二人だけになった姉と弟が此処まで愛しあえるものなのか。運命が残酷でなければ、此れから幸せに暮らしていけたのだろうか。 「望んでくれませんか……? どうか、生きて下さい。それが彼が生きた『証』になるのですから」 証、その名前の通り、何かを残せるのか。 遺せないならば、幕を下ろすまで。傷つける凍精達を避けながら明るい満月の隣へと昇る呪術的な赤い月。 「怪物は……ノーフェイスは狩るわ。それでも護るなら、好きにしなさい」 怪物である事だって、証が証で無くなってる子とだって、彼の手を汚してまでも死を望む自分が情けない事だって、全て分かっている。 分かっているからこそ――受け入れられない。 「だって、たった一人の家族なのよ。二人ぼっちなのよ?」 唇を噛み締めた。私は、そんなに強くないと。行き止まりなのだ、その想いも、その心も。如何する事も出来なかった。リベリスタ達が言う事も嫌になるほどに分かる。 彼が、彼であるうちに殺してあげることこそが愛なのだと、そんなこと――分かっている。 解っていても、できない事はたくさんあるのだ。其れが彼の為だと言われても理解が出来るのか―― 「殺すしかないの、運命に愛されなかったから、それが、私達の仕事だから」 だから、死んでくださいとそう言って頷くものなんていない。 大切な人を失っても前を向いて生きろ、莫迦げてる、綺麗事だ。そんな物罷り通らない。分かっている、自分だって。口の中で名前を呼ぶ、愛しいひとの名前を。 「私は前を向いて生きろ、だなんて言いません」 そんなこと、無理でしょう。癒しを呼ぶ。攻撃が頬掠める。けれど、言葉は止めない。 「世界の為、今を生きている方の為、弟様を殺します」 嗚呼、神の使途にして人殺しで或る汚れるこの身をどうぞお赦し下さい。いつか、全てを救えるその日まで。どうか、どうか―― 未だに全てを救えない自身の両手が、何と憎らしいか。 「憎んで頂いても構いません、赦しも要りません」 リリが目を見開く、涙によって傷を負った其の体を庇う様に、彼女は証と清衣の間に割り込む。腹へと抉るように入る証の手にリリの意識がくらむ。 「どうか、どうか生きて下さい。証様が大切だとそう思うなら」 清衣様、と彼女は呼び掛ける。リリの言葉に戸惑う清衣へと櫻子は視線を揺れ動かしながら呼び掛ける。 嗚呼、涙雨が、身体を苛む。癒し与えながらも絶えず蝕むそれを全てその身に受けながらも彼女は前を向いた。 痛いほど気持ちは分かる、だからこそ、言いたい事がある。 「死にたいのなら、自分で自分を殺すしかない。大切な人の手を汚そうとしている貴方は」 ――既に死ぬ資格等、持ち合わせていませんわ。 なんて残酷な言葉だろうか。清衣の目が見開かれる。彼女の心の中を表すように降り注ぐ涙雨がリベリスタを襲う。彼女だって、分かっている。解って『いた』のだ。 「けれど、此れからどうしたらいいの?」 たった一人の弟を失って、私は如何すれば―― 言葉を噤んだ。彼女の生きる道は暗い。選択肢を彼女は持ち合わせていなかったのだ。此処で死ねるならそれでいいとも思っていた。 「只でさえ先のない弟にお前を殺させて絶望の其処に叩きこむ気なんか!?」 仁太が叫ぶ。殺されたい、それは誰の言葉なのか。弟の、証の言葉ではないのか。 「お前が弟を殺したくないのと同様、弟やってお前を殺したくはないんや!」 叫ぶ。生きてと叫ぶ。もはや自我がない弟が、弟でなくなってしまう前に殺すことだって、優しさだというのに。 哀しげに視線を揺れ動かして、嫌だ、という。傷つけられても、それでも、理解できないのだ。 「証! 言ってよ! 貴方には姉を救えるじゃない! たった一言でも……!」 一瞬でもいい、大きな赤い瞳が揺らぐ。一言でも、一瞬でもいい。良いから。呼んでよと、声を掛ける。 「ねえ、姉さんって呼んであげて! 姉を……姉を泣かせるなよ」 ぐっと太刀を握りしめる、暗闇の瘴気が全てを包み込んで切り裂く。冷たき精も、心を失う弟も、全て。 「助けられるんやったらわしも助けたいさ! ……けどな、奇跡でもおきん限り助からんのや」 自分が撃ち抜いた『好きだった人』。その人の命の行き先を思い出す。増えていく凍精へと向けられる弾丸に乗せるのはどんな感情か。パンツァーテュランは吐き出す。想いを、乗せて。 「先がなくて、どん詰まりでもな、それまでを充実させる事はできるぜよ、命の価値は、長さじゃない」 目の前で失った命があった、自分が奪った命があった。 その全てに告げられたのか、自分は。別れを、ごめんなさい、有難う、と笑ってやれたのか。 「ここで、言わんかったら……後悔するで」 ぐっと握りしめる。だから、彼女の手で。そう思う。希望を持ち続ける彼女ならきっと奇跡を―― 救われたいの、と問う。 忘れはしない、目的は『殺してきて?』という言葉、ただ其れだけ。救うことなんて二の次だった。 世界は理不尽だ。反吐が出る程に理不尽な世界、嗚呼、そんな世界の為にこの両手を血で染めるのか。 自身の腰に触れる、死の象徴の形が掌に伝わった。 「きひひ」 笑みが、零れる。嗚呼、なんて無力なんだ。そうは想う。弟だったものを壊そう。 人は二回死ぬ。身体的に死に、そして記憶から忘れ去られて本当に死ぬ。形あるものはいつか壊れるのだ。簡単に、其れこそ詰み木の如く勢いで。壊れて、落ちる。 清衣の手を握りしめる。壊さなければならないなら、殺してあげる。 其れで良い。骸を積み重ねるだけ。清衣が嫌だと手を伸ばす。証へは届かない。 癒しが、リベリスタを包む。祈りの魔弾が、凍精と証を襲った。表情が歪む。如何すればいいのか。何が正解なのか。 生きてくれと願っても、奇跡を起こせますようにと祈っても、どれだけ行き止まりでも、其れでも弟を、『証』を遺してあげれるならば其れで良いのに、言葉はこれほどにも無力なのかと仁太は俯いた。 吹き飛ばされる証の体が段々と清衣から遠ざかる。 清衣の腕を魅零は抑え付ける。死にたいなら、一緒に殺してあげても良かった。 ――道を示さないまま、只、奪うだけになってしまった。 それでも笑みを浮かべたままの疾風の体を涙雨を襲う。未来を、先を示す事で彼女は生きるという選択肢をとったのだろうか。 只、生きてと言われても、此れからどう生きればいいのかなんて、彼女には解らない。絶望の淵だった。 「嗚呼、なんて、世界は不条理に満ちているのでしょうね……」 赤い月が襲う。瞳を細めた大和の切なげなまなざしは、只、証へと向けられた。嗚呼、生きてと望んでくれるならその願いだけは叶えるのに。 「大丈夫、直ぐに楽になれるわ」 糾華の瞳は、笑わない。脳裏に浮かんだ友人たちの――怪物の笑顔を想いだして、止まる。ブリーフィングルームで笑いあったあの日々を思い出して。 常夜蝶を握りなおす。振り被る――糾華は証の前でその刃をとめた。 「お姉、ちゃん」 呼び声が、する。一度限りの夢が、彼女たちへと訪れる。 清衣は眼を見開く、嫌だ、と唇から零れた。 ● 「わしらには、この場で運命を捻じ曲げるなんてできへん……」 過酷な戦いの中で生じる運命を歪める程の祈り。其れはこの場のリベリスタは誰も使う事が出来ない。ひぐ、と喉の奥で声が漏れる。涙声にすらなれない嗚咽を呑み込む。 「奇跡が起きんでも声は必ず届く」 ぽん、と座り込んだ清衣の肩を叩いて仁太は諦めるな、と囁く。お姉ちゃんと呼んでくれる弟に手にしたナイフを向ける。 震える声で、証と呼んだ。 「貴女の手で、どうか」 リリはもう一度紡ぐ。小さな式の鴉がふわりと舞う。 ――只、女は泣いた。 魅零の言う『反吐の出るほど理不尽な世界』が彼女を苛んだ。その心を蝕んだ。ただ、其処で座り込んでいた。年頃の女には思えないほどに大きく口を開け、わんわんと幼子の様に泣き続ける。 誰もその手を取らない、手を伸ばし掛けて、胸に持っていく。櫻子は只、俯いた。 「――リベリスタが、一番……いえ、私が一番に身勝手、ですわね……」 証の亡骸を見つめていた疾風から表情が消える。誰も見ないなら、笑わなくても良いから。嗚呼、何が最善なのか、何が『最高の結末なのか』。 応えは誰も教えてやくれなかった。 アポリア、行き詰まりの先にて。 |
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