●寂しさゆえに 此処は寂しいから。 友達を増やそう。 此処は暗いから。 友達を呼ぼう。 此処は静かだけど。 友達が来たら賑やかになる。 「本当にするの?」 「どうせただの噂だって」 「でも…」 「ほら、始めるよ」 こっくりさんと似た、文字と数字と鳥居と「はい」「いいえ」が書かれた用紙。 十円玉の代わりに赤いペン。 「朱莉さま、朱莉さま、鳥居を潜ってお越し下さい」 「私たちはあなたの友達です」 「朱莉さま、朱莉さま、鳥居を潜ってお越し下さい」 朱莉さま。こっくりさんの類似系で簡単な予言をしてくれるという。 良く当たる、霊感が授かるなどの理由で密かに女子の間でブームになっていた。 呼び出し方は「私達はあなたの友達です」という事。 赤いペンを使うこと。 「動いた……」 「しっ」 赤いペンがまるで囲ったのは「で」「ん」「わ」 「電話……?」 「番号を教えてください、朱莉さま」 「ちょっと……もう帰ってもらおうよ」 気の弱い女子は泣きそうだ。 続いて赤いペンが動く。「か」「な」「ら」「ず」 「必ずかけろってこと……?」 三人は流石に顔色が悪くなってきた。 更に赤いペンが動く。 「3」「7」「2」「0」「1」「0」「9」 番号の意味を理解するのに暫くかかった。 『みんな連れてく』 「きゃぁぁぁぁっ!!」 絶対してはいけないこと。 赤いペンを全員が放り投げた。 赤いペンは自分で動く。 まるで見えない誰かが書いているように。 『みんなともだち。だからつれてく』 少女達は謎のこん睡状態に陥った。 「女子って……一部の男子もか? 妙な占い好きだよな」 『黒い突風』天神・朔弥(nBNE000235)は首をかしげながら言葉を紡ぐ。 「なんか『朱莉さま』ってのが流行ってるらしい。 こっくりさんの類似系なんだが……エリューション・フォースだ。 呼び出した連中を自分の世界に引きずり込むらしいな。 電話番号を指定された場合、それにかけると朱莉さまとやらが直接出てくるらしい。 途中でペンを放すと永久に戻ってこれなくなるとか何とか。 連れて行かれるのは魂というか、心だ。 ぼんやり見えたが子供の姿をしたエリューション・フォースだったな。 何人か連れて行かれてる。 直接出くわすと致命、呪いのバッドステータスの付いた攻撃を受けてやっぱり異界に引きずり込まれる。 異界での攻撃もたぶん似たようなものだろう。 ただし異界の場合は『朱莉さま』がルールの世界だからな。 回復が出来ないとかスキルが使えないとかそういう想定外のことが起きる可能性もある。 呼び出したほうが少しは安全かもしれない。 攻撃は……バッドステータスのほかは爪で引っかいたり大声で泣いたり。 符術に似た技も使っていたかな。 多分朱莉さまを倒せば犠牲者の心は肉体に戻って来る。 救出作戦、任せるぞ」 それとこれは要らない情報かもしれないが、と言った後朔弥が一瞬黙る。 「朱莉さまは友達を欲しがっているらしい。呼び出すときも『私たちはあなたの友達です』って言わないと出てこないんだそうだ。 元々は簡単な予言が良く当たるとか霊感が授かるとかいう理由で流行り始めたんだが……こういうのって友達とやるだろ? ……寂しかったのかな」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:秋月雅哉 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月18日(木)22:59 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●遊ぼう、遊ぼう、遊ぼうよ ねぇ、此処は暗くて誰もいなくて静かで寂しいんだ。 つれてきた『お友達』もすぐ動かなくなっちゃうんだ。 寂しいよ、寂しいよ、寂しい、寂しい。 はやく新しいお友達を連れてこなくっちゃ。 はやくこの暗くて静かな世界を賑やかにしなくっちゃ。 友達を呼ぼう。 願いを叶えてあげる。 誰も知らない未来を教えてあげる。 だから私と友達になって。 此処に来て。 そうじゃないなら……此処から救い出して。 あぁ、誰かが私を呼んでる。 行かなくっちゃ、行かなくっちゃ。 今度こそ賑やかなネバーランドを造るためにも行かなくっちゃ。 急ごう、急ごう。 お友達が待っている。 今日のお友達は三人? あぁ、でも周りにもっと人がいる。 うれしい! これでたくさんお友達が出来る。 さぁ、呼んで? 私を呼んで。 この暗くて広くて寒い世界から、あなたたちの明るくて広くて暖かい世界へ私を呼んで? 楽しみ、すごく楽しみ。 だって十人の人とお話しするのなんて初めて! みんな私より年上かな? あぁ、此処からじゃよく見えない。 はやく私を呼んで――……。 ●『私たちは貴方の友達です』 こっくりさんと似た、文字と数字と鳥居と「はい」「いいえ」が書かれた用紙。 十円玉の代わりに赤いペン。 「手軽な神秘との接触を求める儀式は、現代に至ってもその形を変えながら続いてきました。 神秘を秘匿するべき立場にとってはあまり良い状態ではないと感じますが。 人の口に戸を立てられないことと同じような状態である以上、 わたしたちがその都度対応するしかないのでしょうね」 召喚のために赤いペンを三人で持ちながらその中の一人である『下策士』門真 螢衣(BNE001036)がそっと息を吐く。 「朱莉さま、な。 生前に未練を残して、寂しかったのだろうかねぇ。 いや、俺には知る由もないんだが……。 それでも、エリューション・フォースなら倒すしかないし、な。 ま、きっちりとこの先犠牲者が出ないように……終わらせるしか無い、か」 『chalybs』神城・涼(BNE001343)はそれを少し離れた場所から見ていた。 「こーいう『まじない』を興味本位でやってみたくなる気持ちってのは分かるけど。 ヤバい奴はマジでヤバいし、素人が手出すのはあんま感心しないねー。 うちんトコもそーいう呪術で食い扶持稼いでた一族だし、そのヘンの怖さってのは理解してるつもりだよ」 螢衣の手の上からペンに手を沿え空いた手で頬を掻いているのは『呪印彫刻士』志賀倉 はぜり(BNE002609)である。 「寂しいから、連れて行く。 分かんなくはないっすけど、だからと言って放置しておくは訳にはいかないっすからね。 せめて……、うち等が居る間は、寂しさを紛らわせてやれるとイイっすね」 涼の近くで同様に奇襲するための準備を進めていた『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)がどこかやるせなさそうな表情をのぞかせた。 「エリューションも友達を求めている、か、そんなに欲しいのならば、エリューションの友達を探せばいい物を、まぁ、それが居なかったから、ヒトを連れ去ったのかも知れないが、いずれにしても、遊びはもう終わりにしよう」 『あるかも知れなかった可能性』エルヴィン・シュレディンガー(BNE003922)はあらかじめ用意しておいた輪ゴムをペンにくくりつけている。 「友達が欲しい、か……一人じゃ、寂しいからな……。 だがまぁ、相手はエリューションだ、リベリスタとしてやるべき仕事をする。結末は変わらねぇよ」 『ヤクザの用心棒』藤倉 隆明(BNE003933)もフラウ同様少しだけ物憂げだ。 「ああ、ありますねえ。 おまじないってヤツですか。 コックリさんに聞かないと俺は何にも分からねェんだーって言う。 寂しいのは確かにしんどいですが、そのたびに連れ去られていたんじゃあたまりません。お掃除ですね」 昏睡状態にある被害者の状態も不安ですし、サクッと即効で行きましょう。 笑顔ゆえに感情の読めない台詞を呟く『必殺特殊清掃人』鹿毛・E・ロウ(BNE004035)が首の骨を鳴らす。 「人の心を異界へと連れて行くエリューション・フォースか……。 孤独なまま亡くなってしまった者の思念が実体化したものなのかもしれないな。 これ以上孤独を感じ続けることのないようにするためにも、俺達の手で解放してやるとしよう」 アーサー・レオンハート(BNE004077)が静かに決意を口にした。 「じゃあ、藤倉。電話を指示されたら宜しく頼むぜ」 『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)が隆明に声をかけると隆明がうなずきを返す。 「朱莉さまの考える『友達』とは? 相手の意思を無視することが果たして……」 『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)が呟くと同時に召喚班のほうから始めるぞ、と声がかかった。 「朱莉さま、朱莉さま、鳥居を潜ってお越し下さい」 「私達はあなたの友達です」 事前情報で得た道具、手順、かける言葉を正確に反復する。 (こーいうのは、勝手にアレンジ加えたりすっとまじないも変異するかも知んないしね) はぜりが内心で呟くと同時に赤いペンがスタート地点である鳥居からゆっくり動き出した。 「で」「ん」「わ」 三つの文字が赤く囲まれる。 「か」「な」「ら」「ず」 此処までは事前情報どおりだ。 「隆明、準備」 「できてるぜ」 「3」「7」「2」「0」「1」「0」「9」 『みんな連れてく』 その言葉を無理やり数字に置き換えた番号を隆明の携帯から発信する。 「もしもし。私、朱莉。そっちに行ってもいい?」 「……どうぞ」 「ありがとう、おにいちゃん」 電話が切れると同時に心なしかその場の気温が下がった気がした。 「主莉のお友達になってくれるのは、みんな?」 あどけない、声。 ぼろぼろで泥だらけの白いワンピース。 むき出しの腕もはだしの足も悲しいほどか細い。 「みんな朱莉のいる場所につれてきてもすぐいなくなっちゃうの。 でも朱莉は誰かが呼んでくれないとこっちに来れないの。 ねぇ、お友達はどこにいるのかしら?」 「お友達探しは、もうおしまいです」 螢衣が毅然と告げる。 「そうね。……私を信じて、そのペンを放してくれたら、やめてもいいわ」 どうする、と召喚班が視線を交錯させる。 「分かってるのよ。聞こえていたもの。私を殺すために呼んだんでしょう?」 「……そうだよ」 戦闘準備をし終わり後は奇襲をかけるだけだった涼が思わぬ言葉に足を止めてしまう。 「朱莉はね、死んでもいいの。だって死んだら地獄か天国へ行くのでしょう? どちらも一人きりでないだけマシだもの。 ペンを放してくれないのならそれでもいいのよ。 朱莉は異界に帰ってまたお友達になってくれそうな子を探すから」 此処まで言われてはペンを放すしかない。 輪ゴムを外し、慎重に重ねていた手を離していく。 「戦いやすくなったでしょう? 朱莉、死んでもいいけれど折角だから遊びたいな」 短く切られていた爪が突然長く伸びる。 「やっほ、朱莉さま……や、朱莉りんって呼ぼーかな。 ほら、うちら友達じゃん? にひひ、一緒に遊んだげるよ!」 中衛に移ったはぜりがチェシャ猫のように笑いながら符を投げる。 「まぁ、折り紙? 一人で遊べる遊びは退屈だわ」 現れた鴉を爪で切り裂いて朱莉は無邪気に笑う。 「もっともっと遊びましょう?」 「御機嫌よう、朱莉さま。さぁ、一緒に遊ぶっすよ? 遊ぶって言うには、少し物騒なことこの上ないっすけどね」 「遊んでもらえるならなんでもいいわ」 「確かに、寂しさを紛らわすのは人が多いほうがイイっすよね。 でも、友達が増えたからって遊ばないと楽しくないじゃないっすか。 だから、遊んで、楽しもう? 心配しないでも、受け止めてやる。 うちも、うちの連中も逃げたりしないっすから」 「約束よ」 朱莉が腕を翻す。 フラウがその先に伸びた爪を魔力のこもったナイフで受けた。 エルヴィンのソニックエッジが朱莉の肩先を切りつけ、朱莉が呪いを与える不吉な泣き声を響かせる。 「何故そんな悲しそうな声を上げる? 一緒に遊びたいのではないのか? 楽しい時は、笑顔になるものだ、それとも、誰も一緒に遊んでくれないから笑顔になれないのか? 当たり前だ、一方的に、自分だけが楽しもうとしていては、誰だって楽しい訳がないだろう、俺達との遊びで、楽しめない事のつまらなさをしっかりと覚えておくのだな。そして、もしも、次があるのならば、友達を作れるような世界に生まれ変われる事を願おう」 「死んで一人じゃなくなるなら死んでもいいわ。でも痛いの」 「痛いだろうな。だが……悪ぃが朱莉さま、ここまでだ。これ以上被害を増やせねぇんだよ」 エルヴィンが距離を取ると同時に隆明がバウンティショットによる抜き打ちで足を打ち抜く。 白いワンピースが泥の汚れに加えて彼女の血で赤く染まった。 「さあ、寂しがったんでしょう? いくらでも遊んであげますよ。これでもう絶対に寂しくないですよね」 代わりに前に出たロウが決して止まらないと錯覚するような澱みのない連続攻撃で少女を追い詰める。 アーサーは軽やかに踊るようにステップを踏んで小さな少女を切り裂いた。 その間にも後ろからは福松がヘッドショットキルで狙撃し、朱莉が放った符術で傷ついた仲間を麻衣が天使の歌で癒していく。 「呪符ってーのはね、こーやって使うんだよ!」 はぜりが再び符で出来た鴉を放つ。 「我が符より、三つ出でて啄め鴉」 螢衣の式符・鴉がそれに加わった。 「終わらせてやるからさ、幸せな場所にいけるように願うんだな」 高速で跳躍し、少女に多方から強襲攻撃を展開する涼が眉を寄せて朱莉に告げる。 人に害を与えるエリューション・フォースだと分かっていても小さな子供が泣くのを見るのはやはり気分がよくない。 「俺が友達になってやるからゆっくりとお休み」 自己満足かもしれないけれど痛ましさに告げずにはいられない。 「ね、朱莉りんが連れてった他の友達らってどこ? うち、その子らとも遊びたいな」 「わかんなっ……ひっく、……いなく、なっちゃった……」 最悪のケースを予期する必要が出てくる言葉。 「ねぇ、朱莉が悪かったの? 朱莉が友達を欲しいって思わなかったら……」 気休めを言うこともできた。 嘘をつくことも。 けれどこの少女はそれらを敏感に察知するだろう。 そしてそれゆえに余計に心に傷を負うだろう。 だからエルヴィンは告げる。 「……もう、眠れ」 「……あなたたちは……私の……友達ですか……?」 切れ切れに囁かれた言葉。 願うような、祈るような。 「言ったでしょう? 『私たちは貴方の友達です』ってね」 あの時舌噛んだけど、とロウが笑顔で告げる。 「……ありがとう」 ガラスが割れるような音と共に少女が光に包まれて消えていく。 「いくら寂しくても、それだけじゃ友達はつくれねぇんだよ。 まぁ、いい、帰ろうぜ。エルヴィン、今からちっと飲みに行かねぇか?友人が居るって言う幸運をかみ締めようじゃねぇか」 「あぁ。だがその前に黙祷を捧げておきたい」 隆明の言葉に応えた後エルヴィンが黙祷を捧げる。 ただ痛切に友達を求めた少女の思念体へ向けて。 その場にいた他のメンバーもそれに続いた。 「俺に出来ることは、ただ祈ってやることだけだ。 魂の巡りゆく果てが、光に満ちた寂しくない場所だといいのだが……」 「今度はエリューション・フォースじゃなくて人間としてこの世界にやってこれるといいですね」 「後味わりぃな、なんか」 「被害者達の安否をアークを通じて確認しておかなければな……」 黙祷を終えたエルヴィンが白い仮面の下で小さく呟く。 「遊びの時間も、もう終わりっすか。 バイバイ、朱莉さま。さよならは言わないっすよ。 だから、またね?」 寂しがり屋の少女が立っていた場所に向かってフラウが言葉を向けて。 「楽しい遊びの時間ってーのはね、いつか終わって帰る時が来んだよ。 そんなワケで、遊びの時間はおしまい。バイバイ、朱莉りん!」 はぜりはもしかしたらまだ残滓が残っているかもしれないと手を振ってみせる。 涼は黙祷を終えた後来世ではきっと友達が沢山できるように、と祈る。 「祈るのは……まあ、タダだし、悪いもんじゃないだろ?」 ちょっと弁解のようなことを言いながら、それでも真摯に。 「……知らせばや成せばや何にとも成りにけり心の神を身を守るとは……」 最後に立ち上がった螢衣が小さく呟いた。 「……アークへ戻りましょうか」 ●友達になってくれてありがとう 後日、『朱莉さま』に関わって昏睡状態に陥っていた被害者たちが意識を取り戻したとリベリスタたちはフォーチュナから聞かされた。 被害者達は口を揃えて同じことを言ったという。 『知らない場所で、友達と遊んでいた気がする。 小さい女の子が一緒だったけど途中でいなくなってしまって、帰り道が分からなくてあちこちふらふらしていた。 疲れて泣き出したらいなくなった女の子が手を引いてくれて、ドアの前に連れて来られた。 ドアを開けたら目が覚めて、そのとき後ろでごめんね、って声が聞こえた気がする』と。 別の少女はこうも言ったという。 『何処に行っていいか分からない時に助けて貰ったからじゃないけど……もしあの子がまだあの暗くて寂しい場所にいるなら今度は私が助けてあげたいな。 友達だって、約束したの。 夢の中なんだけど……』 朱莉さまを呼び出した儀式については誰も覚えていないようだった。 怖い思いをする間に忘れてしまったのか、少女が故意に記憶を消して去っていったのか。 今となっては知る術がない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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