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Noisy Hameln

●ハジマル、ツナガル、ヒビキアウ
 はぁ、はぁ――
 森の中を一人の少女が走り抜ける。
 息を切らし、がむしゃらに森を走り続ける少女、足守 圭はただただ只管に混乱していた。
「なんで……! なんで!」
 そう、今まではなんともなかったのだ。今日、この日になるまでは。

 圭は元々、ちょっとだけ霊感が強いと言われる類の少女だった。
 なんとなく、他人の考えてることが雰囲気でわかる。人に言ったことはなかったが、そういった才能を自分が持っていることは自覚していた。
 また、圭は人一倍他人の感情に敏感だった。常に人に見られている、注目されていると思っており、また自分に対して批判的でもある、と。
 若干の被害妄想もあったかもしれない。しかし圭は確かに彼らからの悪意と疎外を感じ取っており、彼らもまた彼女の拒絶を感じていたのか余り近づこうとすることはなかった。
 むしろ、彼らが偶にする噂。圭の近くにいると誰かに悪口を言われたような気がする。そのような口さがない噂もまた、彼女の回りから人を遠ざけていた。
 今からしてみると、それは圭自身が持っていた無自覚な力の表れだったのかもしれない。とにかく圭は彼らと接点を持つことなく、下らない連中、ロクでもない連中と見下して生きていた。
 自分を受け入れない世界を憎み、呪い。だからといって何かするわけでもなく毎日回りの思考を受け取り、生きていた。

 ――だが、ついにこの日、世界が目覚めた。否、目覚めたのは圭だった。

 いつも通りの午後の授業中、教師はひたすら板書を行い、生徒は教師が何も言わないのをいいことに、雑談に耽る。
 そのような日常を眺め、圭はいつものように世界を呪う。
(本当にくだらない。こんな世界滅んでしまえ。皆、死んでしまえばいいのに)
 ――瞬間。圭の思考が世界へ弾けた。
 自らも感じるほどの凄まじい思考のノイズ。その奔流が午後の教室に満ち、周りの生徒達が悲鳴を上げ、次々と床へと倒れ込んだ。
「ね、ねぇ?ちょっと……! どうしたの!?」
 突然の出来事に一人無事な圭は、近くに倒れてる級友を助け起こそうとし……その言葉を聞いた。
「頭に突然声……死んでしまえばいいのに、って……」

 それは、今。私が思っていた事で――

 気づけば圭は学校から逃げ出し、山林へと駆け込んでいた。
 彼女に近づいた動物達がびくりと痙攣し、倒れる。空を舞う鳥が、力を失い落下する。
 生命が失われていく森をただ、彼女は彷徨う。
 目的はない。行き先の当てもない。ただ、自分が置かれている状況は混乱する意識の中、はっきりと理解していた。

 ――私は、自らが呪い続けた世界に居てはいけない。

 ――そして、私は。死にたくない。

●ブリーフィングルーム
「世界ってのはさ、一つのメロディラインなんだ。常に変化し、最高のライブ感を醸し出してるのさ」
 アークのブリーフィングルーム。『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は、いつも通りの口振りだがその雰囲気にはどことなくメランコリックな気配が漂っていた。
「今回の任務は一人の少女の始末なのさ。
 不幸な彼女の名前は足守 圭。私立高校に通うなんの変哲もなかった女子高生。不幸にも突然革醒してしまった彼女を何とかして欲しい」
 さしもの伸暁も気が重いのか。先ほどから彼が纏う空気が湿り気と切なさを帯びているように見えるのは、気のせいではなかったのだろう。
「革醒した彼女は、元々備わっていたテレパスの才能を大きく伸ばした。しかし、それを制御する術は得られず、運命にも祝福されなかった。
 今の彼女は世界に思考のノイズをばら撒く壊れたスピーカーさ」
 話を続けながら、伸暁はテーブルの上へとポケットに捻じ込まれていた資料を無造作に放つ。
「彼女の思考は生物の精神を侵し、破滅へと導く。特に世界への怨嗟を思う今の彼女の思考は強烈だ。並のテレパスの比じゃない、防ぐ事すら難しいんだ」
 伸暁はやれやれと頭を振る。それほどまでに厄介な相手だというのか。場のリベリスタ達に緊張が走った。
「革醒によって身体能力も向上している彼女だけど、あくまで素人。肉体的戦闘力はほとんどないと思っていい。しかし彼女は全力で生きようとしている。交戦を避けようとするはずさ」
 一拍を起き、伸暁は襟を正して改めて告げる。避け得ない現実、依頼の目的を。
「壊れた機材はライブを台無しにする。世界の安定という最高のライブを維持するために、破損したスピーカーは撤去するしかない。
 ――彼女を始末してくれよ。この悲劇的なノイジィサウンド、終わらせてきなよ」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 4人 ■シナリオ終了日時
 2011年06月19日(日)21:39
●将門ファイル
■フィールド:山中の森

■環境
 フィールドは山一帯、彼女は逃げ回り続けます。
 木が生い茂っており環境が悪いため、移動には足を取られる可能性があります。

■勝利条件
 足守 圭の撃破

■エネミーデータ
・足守 圭(あしもり けい ノーフェイス フェーズ2)
 ・ノイジィハーメルン EX・遠全・威力中、ロスト10
 ・オーバーテレパス EX・非戦
 ・ハイバランサー 非戦

 彼女は高ランクのテレパスです。
 全体範囲に思考ノイズによる攻撃を自動的に行います。このノイズは凄まじく強力なもので、ジャミングでの軽減は可能ですが完全に防ぐことはできません。
 同様に強力なリーディング、テレパシーで思考を読むために作戦等が筒抜けになる可能性があります。視界外ですら届くその能力は、ジャミングを持っている当人しか影響を逃れることは出来ません。
 彼女はひたすら山中を逃げ続けます。入り組んだ山林の構造を、彼女は動物から読み取った情報によって把握しています。
 また戦闘は素人ですが身体能力は高く、かなりのスピードで駆け抜けます。
 理性は存在していますが、彼女は死にたくないという気持ちで一杯です。また、状況を把握しつつも受け入れたくないという思いから錯乱しています。

●マスターコメント
 運命に選ばれないというのは無慈悲なものです。
 ノーフェイスとなってしまった少女を追って追って追い詰めてください。
 皆さんがどのような選択を望むかはわかりませんが、粛々と現実と摺り合せます。
 参加、お待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
スターサジタリー
早瀬 直樹(BNE000116)
ソードミラージュ
ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)
プロアデプト
イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)
覇界闘士
衛守 凪沙(BNE001545)
ナイトクリーク
御津代 鉅(BNE001657)
デュランダル
アイシア・レヴィナス(BNE002307)
覇界闘士
葛木 猛(BNE002455)
ソードミラージュ
架凪 殊子(BNE002468)
■サポート参加者 4人■
ホーリーメイガス
悠木 そあら(BNE000020)
インヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
マグメイガス
未姫・ラートリィ(BNE001993)
覇界闘士
蜜花 天火(BNE002058)

●ハジマル
 静けさに包まれた森にざくざくと枯葉を踏みしめる音が響く。
 その音は激しく、穏やかな山を散策するようなものではなく。腐葉土と枯れ枝を蹴散らし、駆け抜ける慌しい靴音だ。
 今、森の中を駆け抜けるは複数人の男女である。
 先陣を切る『不動心への道程』早瀬 直樹(BNE000116)はその手に短弓を握り、周囲に注意を払いながら走り続ける。時折鼻をひくつかせ、ターゲットの匂いを探るのはその鋭敏な嗅覚故に。
「駄目だ。元々いる動物達はちと頼りに出来そうにないな」
 随伴する『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)が呟く。
 動物の声が聞ける彼だが、その声は今回りにはない。
 それは全て、現在追跡している相手の性質によるものだった。
「話以上だ、この力は……」
 ぼそり、と直樹が呟いた。
 彼らが追いかける相手、それは一人の少女。世界に祝福されず、その才能を制御出来ず。ただ周囲に破滅を撒き散らすだけの存在となった、女の子。
 ――足守 圭。優れたテレパスの才を持ちながら、世界から拒絶され、世界を拒絶した少女。彼女の無差別に撒き散らされるテレパシーが、意志の弱い動物を次々と地に落としているのだ。
「そのまま直進して。彼女は木の入り組んだ地域を走り続けているよ」
 追跡する彼らに通信の声が届く。『食堂の看板娘』衛守 凪沙(BNE001545)からのナビゲートだ。
 凪沙は現在、『未姫先生』未姫・ラートリィ(BNE001993)に抱えられ、森の上空を飛んでいる。そこから熱を見る視覚により、圭の逃亡ルートを把握、追跡先の情報を仲間達に送っているのだ。
 しかし圭の身体能力も並ではない。革醒は普通の少女だった彼女を、一気に人有らざる領域に引き上げた。その速度は速く、衰えを知らず。この追跡行もすでにかなりの時間が経過していた。
「速い者は好きだ。その高い能力は素直に賞賛するしかないな」
 直樹達と同行している『月刃』架凪 殊子(BNE002468)は偽る事なく自らが持つ敬意を口に出す。彼女にとっては誰がどのような意志を持っているか等些細な事。単純に相手の能力を称える、その意志を持ってこの追跡に望んでいた。
 しかしなかなか距離は詰まらない。追う、逃げる。只管逃げ続ける圭に対し、追跡者は間合いを計りながらの為、決定的な距離の詰め方をする事が出来なかった。
 しかし、時折彼女を視界に捉える事が出来る……が、捉えた時には洗礼が待つ。
(私に近づかないでっ!)
 圧倒的な意志の波。拒絶を表す圭の心が、追跡者に揺さぶりをかける。
 一方的に送り込まれる増幅された意志に、精神が激しく抉られる。
 傷ついた精神に、負荷を与えられた脳が悲鳴を上げる。
「――っ! またか……!」
 直樹が額を抑えつつも、走り続ける。殊子達もその足を止める事はない。
 大体流れは同じ事。距離が詰まり、意志を交錯させ、距離が離れる。このようなやり取りを長い時間続けているのだ。
(圭ちゃん、ごめんね。苦しいよね。謝って済むことじゃないよね)
 上空の凪沙も時折距離を詰め、圭へと意志を送る。
(でもね、逃げても苦しいだけだよ。すぐ楽に……なれるから)
 凪沙の心は圭への謝罪に満ちている。小を消し大を護る。アークの方針であり、世界を護る為に必要な行為。されど、納得はしても罪悪感は心理に根を張る。
 だが、だからといって。それで素直に死ねるほど、圭の心は博愛に満ちておらず、勇気もない。
(――私は死にたくないの! 勝手な事を言うな!)
 再び圭の悪意が空間を切り裂く。増幅された拒絶は耳鳴りを引き起こし、心と神経を削り取っていく。
「……だとしても、最早放っておくわけにはいかない」
 直樹が弓を構え、圭へと放った。ノイズを切り裂くように矢は飛び、圭の足を狙う。
 だが、彼女の身体能力は高く、その矢を振り切り走り去っていく。
 一撃を外した直樹は、されどもさして動揺することなく追跡を再開する。
 元より当たるとは思っていない。打ち合わせなど大してしてはいないし、誰がどこにいるかもわからない。
 ――だが、いる。この山の中には。追跡を続ける限り退路を断つ、仲間達が。

●ツナガル
 長時間に渡る追跡行は追う者と追われる者、両方に疲労を蓄積していく。
 リベリスタ、圭、お互いに並の人の範疇ではない。しかし数時間に及ぶチェイスはその範疇で収まるものではなかった。
 じわじわと距離を離される追跡者。圭もここぞとばかりに距離を取りにかかり、大きく間合いは離れる事となる。
「……振り切った、かな」
 足を止めて一息つく、圭。
 彼女は予感していた。あの時、学校で自分が変化した時。世界から排除される事、排除を行う者もいるであろうと。
 それは現実となり、圭を追い詰めている。
「これから私、どこへいけば――」
(来たか)
「!?」
 ぽつり、と圭が呟いた時に一つの思考が頭に飛び込む。
「本当に厄介な思念だな。だが、ここで終わりにしよう」
 くしゃり、と枯葉を踏み現れるは思考の持ち主。いや、現れたのではない。
 彼は、最初からここに居た。圭がやってくるのを待ち受けていたのだ。
(以前のヤツは逃した。今回は失態はなし、だ)
 待ち伏せていた男、『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)はその手に投擲用の短剣をぶら下げ、圭を冷徹な目で見つめていた。
 心が読める圭でなくとも、その瞳を見ればわかる。彼はこの厄介事を完璧に済ませるのだと。任務を任務と割り切り、確実に終わらせる気だと。
「――冗談じゃ、ない」
 即座に踵を返し、逃亡を図る圭。
 彼女は読んでいる、鉅の思考を。仕事は済ます。だが現状は足止めが任務だ。
 背後から投擲されるダガーを避け、避け切れないものはいくばくかの傷を圭へと刻み込む。だが致命的ではない。全力で逃げれば、足止めを行う鉅からは逃げ切れる。そう判断した結果だった。

 ――だが、彼女は判断しきれなかった。
 確かにその通りだ。足止めならば、振り切れば済む。
 しかし。足止めは決して一人ではない、と。圭は考えられなかった。彼女は平和な毎日を送る一般人だった。日常レベルを超えた判断、どうして読みきれようか。
(――逃がさない)
『ぐーたらダメ教師』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)が。
(申し訳ないけれど、止めさせてもらいますわ)
『特異点』アイシア・レヴィナス(BNE002307)が。
 各自がそれぞれの思考を持ち、次々と圭の進路へと立ち塞がる。多数の思惑が、意志が、圭を追い詰めていく。
 ――最も、『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)のように任務の最中に愛しい人と苺まみれの思考をしている者もいたが。
 多数の覚悟、意志、思惑。時折日常じみた思考。それらが圭を追い詰め、絡め取り、次へ次へと足を動かさせていく。
 今、圭は完全にリベリスタ達の術中に嵌っていた。
 心が読めることは、有利である。だが、具体的な連携を取らずに各自がそれぞれ追い詰めに動いていたら。
 その行動が、心を読めぬ範囲の外より、指示された盤上のゲームだとしたら。
 空より俯瞰する凪沙。そして森に棲み、圭によって住処を追われつつある猛禽を味方につけ、目とした『クレセントムーン』蜜花 天火(BNE002058)の二人による巧みな情報統制により、必要な情報を与えられぬまま、連携を作られていたら。
 ――圭は追っ手の思考に踊らされ、半端な情報を持たされ。ただ只管に追い詰められていく。

 やがて追跡劇は終わりを告げる。
 逃げ続けた圭は、やがてたどり着く。その場所は山の中でも開けた場所で。本来なら近づくと目立つ、今の彼女にとって危険な場所で。
 ――ここまで追い詰められたりしなければ、絶対避けていたのに。
(まずい、この場所は……)
 近づく時には判っていた。そこには誰か、存在していると。
 だけど、追われていて。回りからも、振り切ったはずの思考が近づいていて。
 もうそこしか、行く場所がなくて。
「悪いけどここまでだ。逃げるのは御仕舞いだぜ」
 瞳に強い意志を込めた少年、『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)が圭へと通告をした。
 いよいよもって周囲より追いかけるという思考が迫り。そして圭には、逃げ場はない。
「いやだ……私は……」
 足が竦む。身体が震える。心が揺らぎ、波となって周りへと漏れ出す。
 圭の思考が周囲を蝕み始めた時、一人の黒衣の男が口を開く。
 本来ならば人々に安らぎをもたらす信仰の証。神の使徒たる神父の聖衣。だがそれは、今の彼女にとって酷く恐ろしくて。
 不安を膨らまし撒き散らす圭に対し、神父――『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)は謳う。
「人事は尽くしました、お互いに。――それでは神秘探求を始めよう」

●ヒビキアウ
「逃げんな! 少しだけ話をしねえか。今攻撃はしねえ、頼むよ」
 包囲され、逃げ場は最早ない。だが圭は意地でもそこを突破しようと動き出そうとした。その時、猛が彼女を呼び止めた。
 一刻を争う状況だが、圭は思わず足を止めた。それは、猛の言葉と心の声。それが一致していたから。
「解ってんだろ? このまま行けば遠からずあんたは動けなくなっちまう。そうなる前に全部吐き出してくれ……俺が全て受け止めてやるから」
 猛は決して救えるとは思っていない。だが、彼女の気持ちを知っておきたかった。誰もが死ぬのは怖い、だからこそせめて思いだけは受け止めておきたいと思っていた。
「……あなた達が私の何を知りたいと言うの」
 圭がぼそり、と呟いた。歯を食い縛り、目を伏せ押し黙る彼女の思念は濃度を増し、皆の精神を蝕む。
(――恵まれた者が。世界に祝福された人達が、認められない私に何を言うの。排除する立場の者が私の何を!)
 押し込む思いが呪詛となる。包囲する者達へと悪意が溢れ、意識を焼く。
「世界を呪っているから何だというのだ? お前から手を伸ばした事はあるのか?」
 追う者、追われる者、囲う者。それらを作り出した、指示した者。その全てがこの場所に集う。
 殊子は問いかける、自らの持つ思いを。自分が辿ってきた軌跡を、また圭が何を望むのかをその思考で。
 世界に戦いを挑み、それを越えてきた事を。
「私達に出来ることがよかったのですが、世界が祝福しない限りは……」
 アイシアが呟く。圭の力は世界と繋がっていると彼女は思う。しかし世界は彼女を祝福しなかった。
 その不条理を悲しく思い、されども止めることでしか解決できない。その思いもまた彼女と繋がる。
 全ての心は圭に問いかけ、心を蝕む。
「私は……っ、生きて、過ごしていられればそれで! なんでそれすら許されなく!」
 ――絶叫。
 思考は断片となり、鋭利な呪詛はリベリスタ達の心を刻む。
「どうして放っておいてくれないの! ただ、それだけでいいのに!」
 乱れる心の如く荒々しく、圭は駆け出す。
(私の事を認めてくれるのは、嬉しい)
(でも私は殺される)
(なんで)
(なんで!)
(お願いだから――生きていさせて!)
 渾身の願い。だが、それは世界の為には認められてはいけない意思。
「わかってるわよね? もう、逃げられないのよ」
 ソラが進路に立ち塞がり、魔力の矢を次々と放つ。
 逃がさない、決して。教育者である彼女にとって、自らが本来指導する立場である年齢の圭を処理しなくてはいけない。その心中はいかなるものか。
 だが、彼女は躊躇わない。これはやらねばならない事なのだ。
 ソラが動いたのを切欠に、他のリベリスタ達も次々と彼女を囲み、攻撃を始める。
 直樹が矢を放ち、鉅のナイフが宙を舞う。
 怨嗟も苦悶も甘んじて受ける。せめて苦しまないように、彼女を速やかに終わらせる。
 拳が、剣が、彼女を刻み、打つ。だが、リベリスタ達の思いとは裏腹に決着はなかなかつきはしない。
 速やかに終わらせたいという意志と同じく、圭にも強い思いがある。走り、逃げ――生き続ける。
 両者の意志がぶつかり続け、包囲と突破の挑戦が長く、長く続いていく。
 圭の傷も増えるが、リベリスタ達も無事ではない。彼女の力は近くにいるだけで心を蝕む。軋んだ心は身体に反映され、傷を生む。
 ――ぶつん。
 真っ先に肉体が限界に近づいたのは猛だった。脳が負荷に耐え切れず、こめかみの血管が切れ出血がはじまる。脳圧の変化は弱い血管に負担をかけ、鼻から血がどぷりと溢れる。
「……ここまで、か。すまねぇ」
 歯を食い縛り、猛が炎を纏う拳を放つ。渾身の一撃は圭を打ち、ぐらつかせる。
 だが彼女の生への執着は凄まじく、圭はそのまま猛を押しのけ、包囲を突破しようとする。

「――ここまでですね。そろそろ終わりとしよう」
 その圭の足が、鋭く練り上げられた魔力の一撃で撃ち抜かれた。
 身体を支えきれず地面に倒れこむ圭。それまで積極的な攻めは行わず思考に耽っていたイスカリオテ。彼が思索を中断し、的確に貫いたのだ。彼女の希望であった唯一の、その足を。
「残念ながら、世界に祝福された身ではこの力、扱えるものではないようだね。ならば記録に留めるが最善ということだろうか?」
 至極残念そうに呟くイスカリオテ。彼は神秘の徒。埒外を越えた知識を蒐集し、記録する。
 イスカリオテの思考。それを捉えた時、圭は戦慄した。この追跡行の間、彼はただの一度も圭自身の事を省みなかった。
 彼の思考は圭が持て余し、世界から見放される要因となった力。それのみに向けられ分析されていたのだ。
 イスカリオテにとって重要なのは、生きようと足掻く圭ではない。今彼の思考は目的を断念した。ならば、次は……。
「嫌、嫌――!」
 自由に動かぬ足を引きずり、圭は逃れようともがく。今、機動力は奪われた。
 ――死にたくない、逃げなきゃ、嫌だ……

 ――なんで、私が。

 乱れる心は呪詛を増し、リベリスタ達を追い込む。追い詰められているのは圭だけではない。リベリスタ達ももはや、長くはない。決着をつけるべき時がきたのだ。
「悪ィ。ごめんな……」
 猛が圭を見下ろし、心からの謝罪をする。凪沙も目を伏せるが、圭から目を離さない。彼女を終わらせる以上、それを見届けるのは自分の義務。そう言わんばかりに。
 空間に心が満ちる。罪悪感、使命感。絶望、憤怒、呪詛。生と負の感情が入り乱れる。
「最後は苦しまないようにしてやろう。――冥福を」
 鉅がダガーを構えなおす。もはや逃れる事は出来ない。決着はついており、あとは。
「やだ……やめて……」
(逃げなきゃ、逃げないと……)
 最後まで生き抜こうとした圭。世界を呪い、自分の境遇を呪い。省みず、歩み寄らず、ただひたすらに自らの為に生き続けようとした彼女。その最期は。
「死にたく、ない」
(死にたくない)
 ――金属の刃は無慈悲に振り下ろされる。世界を維持する為に。

 背を向け歩みだしつつ、イスカリオテが告げた。
「貴女は別に何も悪くない。ただ少々煩さ過ぎた。お休みなさい騒音のハーメルン」

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 大変お待たせいたしました。
 今回は生き抜こうとしつつ、生きることが許されない少女のお話でした。
 皆さんの包囲は適切であったので、目立った被害はありません。
 皆様の情動は出来る限り反映させたつもりです。最も、細かく踏み込んで書けたら、なおよかったのですが。

 このような積み重ねを繰り返し、世界は崩界から護られております。
 ではまたいずれ。