●秋風冷たく 「好きです!」 「ごめんなさい。私、彼氏いるから」 「そんな……」 絶望のあまり膝をつく男。 パタパタと駆け去る女。 分かりやすすぎる玉砕図。 「これで百八十八敗……っ」 膝をついた男の頭にちりちりとノイズのようなものが混じる。 それは段々強烈な痛みへと変わり、男は頭を抱えて地面に転がった。 それがエリューション化への合図であり、フェイトを得られるかどうかの瀬戸際だという事を男は知らなかった。 ブラックアウトしていく視界。 ――あぁ、オレってついてない……。 ノーフェイスになる間際、男はそんなことを思ったが声にはならなかった。 「女に振られてノーフェイスになるんじゃ、世も末っつーか報われないっつーかオレらも休む間ないっつーか……だよな」 『黒い突風』天神・朔弥(nBNE000235)は資料に目を通しながら深々と溜息を吐いた。 「戦歴は百八十八戦百八十八敗。ようは一度も成功したことがないらしいな。ナンパも告白も」 だからってなぁ、と朔弥の眉は寄り気味だ。 「振られた直後にエリューション化、残念ながらフェイトは得られずにノーフェイスになった。 ノーフェイスになった自覚はなくてただ前より力が増したな、とか早く動けるようになったな、とかもしかしたらこれで『運動のできる男』としてもてるようになるんじゃ、とか考えて……でもナンパは相変わらず失敗する」 攻撃は殴る、蹴るなどの単純攻撃だがノーフェイスなのでそれなりに力が強く素早い。 「あぁ、後男が狙うのはアベックだ。 自分は振られたのになんでお前らは……っていうどう考えても逆恨みだな。 アベックを見ると『アベック許すまじ!』って叫びながら突撃する。 特殊な攻撃は特になかったと思うがアベックを狙うから囮はいた方が一般人の安全は確保できるな。 アベック探知機でもついてるのかアベックがいる場所に出るらしいから場所はある程度選べる。 あまりに分かりやすい罠、例えば人気のない暗がりだと警戒……いや、大人の付き合いだと思われて怒りが増して大変なことになる、かな? 山奥とかだとさすがにこないだろうが人気のない路地裏程度なら釣れる可能性は高いんじゃないかな。 アベックが複数いる場合はよりいちゃいちゃしている連中を優先的に狙うみたいだな。 ……いっそ全員で囮になって向こうの理性を吹き飛ばしても……まぁ冗談だが。 健闘を祈るよ。 ……しかし本当に運のない奴ってのはいるもんだな……」 ある意味感心するよ、と朔弥は若干遠い目をしつつ言葉をしめた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:秋月雅哉 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月18日(木)22:58 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●砕け散る恋心、そして迫りくる罠 「あ、あの……」 「はい?」 「ちょっとそこでお茶しませんか?」 「ごめんなさい、彼が待ってるので」 パタパタと軽い足音が去っていく。 「……またか。また駄目なのか。何が駄目なんだ……?」 それなりに高い身長。 贅肉のない身体。 かといって痩せすぎているわけでもない。 顔もそんなに悪いわけでもない。 ちょっとびくびくしていることを除けば暇つぶしにお茶くらいなら、と受け入れる女子がいてもよさそうな程度には優良物件の彼。 女性に告白、ナンパを続けて、振られ続けて、ノーフェイスになってからも振られ続けて、先ほどの失敗が二百回という大台に乗った。 「何が駄目なんだろうなぁ……」 惚れっぽすぎるところだと思います、とは誰も言わない。 魂の抜けたような状況になって夜の街をふらふらと歩く。 「一度でいいから恋人……欲しいなぁ……大事にするのになぁ……」 風に乗って流れていく独り言。 かなり、哀愁漂っている。 「あれですかね?」 「…あれだな」 「あー、魂抜けてそう」 「そんなにモテることが大事かねぇ」 「あいつより俺のほうが不幸だ……」 「それをいうなら俺だって……」 「往生際が悪いよ、二人とも!」 「しかし凄いことになったな」 上から『必殺特殊清掃人』鹿毛・E・ロウ(BNE004035)、『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)、『つぶつぶ』津布理 瞑(BNE003104)、『三高平の肝っ玉母さん』丸田 富子(BNE001946)、『ヤクザの用心棒』藤倉 隆明(BNE003933)、『住所不定』斎藤・和人(BNE004070)、そして『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)の八人だ。 「……俺、なんでこんなことしてんだっけ……もう、ノーフェイスとか放って置いていいんじゃないかな……」 死んだ魚のような虚ろな目をして隆明が誰もいない方向に向かって呟いている。 戦闘開始前から彼は精神的ダメージで死にかけていた。 彼が着ているのは富子の服。 化粧済み。 =女装中。 男性から見てもやや高い身長に加え引き締まった身体に女物の服。 道行く人たちは八人がずらっと並んでいるのを見て立ち止まり、隆明と目が合うと視線を伏せて歩き出す。 「いやー。お気持ち、分かります。 この際、容姿や手法については問いますまい。 僕も人の事を言えた義理じゃない。 しかしねぇ、アベックを襲うのは頂けませんよ。 なぜ舐め合わないのですか! 持たざる者同士で! 持てる者を攻撃した所で、なんら建設的じゃないですよ。 同じ境遇の者同士、その情念を内へ内へと向けて行けば、少なくとも世界に迷惑をかける事なく幸せな空間を築けるはずなのに…! 何と言うかもう、色々と救い難い気がしますので。お掃除、しちゃいましょうか♪」 隆明と違って楽しそうなのはロウだ。 「何がどうなったらそんなに負けるのか、俺すごーく不思議なんだけど。 いや、俺だってそんなに勝率良い訳じゃないけどさ。 それにしたって全戦全敗はないわ。 元のスペックが物凄く低いか、喋りやらが凄まじく下手か、身の程知らずな相手にばっか行ってたか。 何れにせよ可哀相な奴だな。 誘導が上手く行くまでは、口に出さない様にしておくが」 その誘導役の相方が隆明である和人は『どうしてこうなった!』と顔に素直に書いてある。 因みに彼も女装させられている。化粧を担当したのは瞑だ。 「悩ましいわ。 散々逃げてきたリア充を敵を誘き寄せる為とはいえ『ごっこ』でやる事になるとはね。 勿論、嫌ってわけじゃないわ、こういう遊びはとっても大好きよ。 さあところで、女装をする事に決まった隆明と和人ちゃんのお手伝いをしましょうか。 服は富子さんのを使うとして、化粧はうちが手伝ってあげないとね! やったー!肩幅広い!似合わねー!うん、完璧!」 とは仕上がった二人を見ての瞑の言葉である。 「ついてない? 運よりもまず頭をどうにかするべきだな。 状況を読む頭が足りなかったんだろう? 運のせいにしては、万に一つの幸運すら掴めはしない。 ああ、そう言う意味では運が悪いのか。 鍛える頭すら持たなかったと。 ふむ、人生最後にもてて良かったな? ヤンデレに狙われると脳内変換できれば幸せかもな。 何、今生を最悪と思えば来世は天国だろう?」 ユーヌはノーフェイスになる間際青年が呟いた言葉を思い出して辛辣な意見を放つ。 「不運と言う物はない。…………あるのは、不用心から来る必然という物のみ。 ノーフェイスになったのはこの者のせいではないだろうが、それは我らが葬る事で補うとしよう」 オーウェンは理論、予測を重ねてことを進めていくタイプの性格ゆえか、失敗は準備不足と見ているようだ。 「こいつは俺だ。 ユーヌたんと出会わなかったときの俺なんだよぉー! だが、188敗は甘いな。 出会ったその日、その時に告白をし続けた俺には遠く及ばない……。 俺とて、ただ一度の成功まで、どれだけの敗北を重ねてきたか……。 その程度で心くじけるとは、まだまだ若い……。 恋や愛ってのは、戦なんだよ! 下手な鉄砲も数撃てば……。……む、何か間違ってる気が……。 まあ、ともかく! みせつけてやる! 勝者とはどういうものかを! たった一つの勝利が、非リアをリア充に変える! 勝利とはそういうものだ!」 恋人の傍らで熱く語る竜一。 「さて、誘導組はそろそろ行った行った。 アタシたちは落ち合わせ場所で待ってるからね!」 富子がばしんと隆明と和人の背を叩く。 ●玉砕・昇天・来世で幸せに! 人気のない路地裏を和人と隆明が歩く。 腰に腕を回し、身体を密着させて。 誘導役の二人が導くこの先に他の六人はアベックとして潜んでいる。 後ろからついてくる気配。 「なに、酔っ払った? じゃーホテルでも行く?」 和人の言葉に前を向いている隆明が思いっきり顔をしかめたのを後ろからついて来ているノーフェイスの青年は知る由もない。 「き、君たち……!」 「なに?」 「女性同士でそんなにくっついて……オレと清く正しい男女交際を……」 「じゃあこっちに来て?」 決して声を出そうとしない隆明に「いい加減観念しろ、これは作戦なんだからな!」と低く耳打ちする。 獲物は、餌にかかった。 後は仲間のもとまで逃がさないように連れて行く。 そして……ぼこる!! 「え……?」 「この奥……人気が少ないの。……ね? 後は言わなくても分かるでしょう……?」 「し、しかし……!」 「清く正しい男女交際よりもっと楽しいことをしましょうよ」 言っている和人も聞いている隆明も背にはだらだらと冷や汗をかいている。 非常に気持ち悪い! 「わ、分かった……」 根が素直なのかナンパが成功したことがよほどうれしいのか青年は疑うことなくついてくる。 ……二人のがたいのよさと声の低さから少しは疑ってもよさそうなものだが。 「君達、名前はなんていうんだい?」 「た、隆子よ……」 「私は和代」 「可愛い名前だね。あ、俺は幸一って言うんだ。宜しく」 とっさに偽名を名乗った二人に対してどう考えても『幸』からかけ離れている青年は人のよい笑みを浮かべた。 やがて近づく戦いの場所。 「おふくろの味ってヤツに憧れてるんですよー。 噂の食堂に、今度ぜひ遊びに行かせて下さい! 白いご飯がモリモリ進むって評判ですからね♪」 ロウの弾んだ声が聞こえる。 アベックを装うという算段だったがこれはどちらかというと親子の会話ではなかろうか。 或いは親戚の叔母さんと甥っ子的な。 「うちはダーリンだいすきーっ!! 超好き好き好き好き! 大好き! 愛してるって言ってもいい! うちはね、ダーリンともっと仲良くなりたいんです。それはもうマジちゅっちゅっぺろぺろはぐはぐみたいな」 ギャルゲ脳を総動員させて明るく元気な女の子を演じる瞑。 「そうか。……今日も実に可愛いと思うぞ。ところで今日の夕食は、何処にするかね?」 オーウィンは本当の恋人がいる経験を生かして甘い雰囲気を演出しようとするが罪悪感から伏し目がちになる。 「ダーリン、照れてるのね。照れてるダーリンもカッコいいわ、ちゅっちゅっ。もう一日一回以上ダーリンハグハグしないと駄目な体になっちゃったわ」 実際には多少距離を置いているのでキスもハグもしていないが暗がりなのでノーフェイスの青年は言葉通りに受け取っているようだ。 「ユーヌたんはかわいいなあ。 ぎゅっと両手で抱きしめて頬ずりしよう」 「お触り禁止とは言わないが、ちゃんとTPOは弁える程度にな?」 止めといわんばかりの竜一、ユーヌペアのいちゃいちゃ攻撃。 「ひ、人気が少ないって……」 「大丈夫、気持ちは分かるよ、全部受け止めてあげるから」 にこりと笑い、裏声で青年に告げた後蒼穹の拳を連打する隆明。 多分に鬱憤晴らしが混ざっている。 「あは、あはは、亜はははははははははははhhhははhhhh 」 「おー、隆明壊れてんな」 ぞろぞろと物陰に隠れいた囮役たちが出てくる。 富子との会話の最中にこっそりハイスピードを付与していたロウがソニックエッジで斬りかかる。 「た、楽しいことって……こんなことオレは望んでない!!」 「誘導役が男だって気付けよ! 気色悪さにこの寒い中汗かいたぜ! 冷や汗だけどな!!」 愛用の銃を握り魔落の鉄槌で殴り倒す和人。 こちらもいい感じに全身全霊、全力の力がこもっている。 「こうでもしねーと気がすまねぇ……!」 「ひぃぃっ!」 「百八十八回告白して全部振られても、心は傷を負っていったのね。 強いわ、うちなんかより全然強い、だってその告白は何時だって本気だったって事だもんね。 助けられないのは理解してる。でも可哀想だよ」 「うわぁぁん、マイ・スィートハニー! でも二百回だよ!!」 瞑に泣きつこうとした青年をオーウェンが立ちはだかって止める。 「貴様が味わった不幸とはどのような物か?」 「告白したら、毎回振られて……漸くナンパが成功したと思ったらいきなり暴力を振るわれて……」 「事前に彼女の好みを把握しなかったのが悪い。……まぁ、何れバレると言うのであれば、己の学を究めたまえ。さらに言うなら……事前に下調べをしなかったのが悪い。全ての不確定要素は排除すべきだ」 淡々と紡がれる言葉に青年が顔をゆがめる。 「「すでに勝ち組と負け組の趨勢は決しているだろ! おとなしくやられろ! でなきゃ、更にお前は傷つくことになるぞ!」 「這い上がらなくちゃ惨めなままじゃないか!!」 「お前のためにも全力でぶっ倒す! 一秒でも早く! この悲しみを終わらせるために!」 竜一が裂帛の気合と共に全身の闘気を爆発させ、ノーフェイスとなってしまった哀れな幸一青年に爆裂する一撃を加える。 「ひぎゃぁっ!」 「招いた結果は全てはお前さん自身の責任、と言う事だ」 行動を全て読みきった状況最善手による連続攻撃が止めとなった。 「弱っ……」 「精神的ダメージが強すぎて反撃する気力もなかったのだろうか。 早く済んでなによりだ」 倒れた青年を囲んで思い思いの感想を述べる。 死体の処理はアークに頼むことになるだろう。 「つ~ぶ~る~?りゅ~いち~?コレで満足か~?」 フラフラした足取りと怨念のこもった超低音で隆明が瞑と竜一に近づく。 「じゃあ、次は、オ レ ノ バ ン ダ ヨ ナ ?」 情け容赦なく二人にボディーブローをかます隆明を、関係のないメンバーは見てみない振りをした。 「痛い痛い痛いっ!」 「オレのせいなのかっ!?」 「あぁ、俺の寿命がストレスでマッハだぜ…………開けよう秘蔵の酒、忘れよう今日のこと……」 ブツブツと呟く隆明の脇で和人は動かなくなった幸一を見下ろす。 「どーせロクな努力もしてこなかったんだろ? そんなんで振り向いてくれる程、女は単純じゃねぇよ。 次生まれる時は努力が少なくて済む男になれると良いな」 呆気ないほど簡単に片のついた戦いの現場で仲間にボディーブローをかまし続ける隆明。 富子はそっとしゃがみこんで手を合わせた。 徐々に喧騒も静かになって何となく全員がそれにならう。 「せめて次は一勝くらいできるかノーフェイスにならずに生きられるといいな」 報われない男、幸一は最後はリベリスタにとっては敵だった。 けれどこの場にいた八人は彼の死を悼む。 それは彼にとってある種の救いになったかもしれない。 「さて、アークで火葬の手配をしてもらうか」 「……こいつ、フェイト得てたらどうなってたかな」 「さぁな。ドラマチックな出会いがあって劇的な恋に落ちてたかも知れねぇし報われないままだったかも知れねぇ。 ……どっちにしろ、終わっちまったことだ」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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