●素朴な疑問……。 「神も仏もいやしねぇ……」 スーツ姿のくたびれた中年男が、昼下がりの公園でそんなことをぼやく。 爽やかな秋の風が吹きすさぶ中、その男だけはどんよりと雨雲でもまとっているかのように暗い。 「24年も働いたってのになぁ……」 缶コーヒー片手に、男は空を見上げている。 3日前の事である。男が会社をリストラされたのは。大学を卒業して、すぐに入った会社であった。こき使われ、いいように利用されながらも、彼はずっと会社のために働いてきた。それなのに、先日、彼はあっさりと会社から捨てられたのだ。 「ほんとう、神様ってのはいないんだろうなぁ」 数年前に離婚し、今後も子供の養育費を送らねばならぬというのに。 いつもの癖で、スーツに着替え家を出て、しかし会社に行く必要はないことに途中で気付く。何年も繰り返してきた通勤は、すでに習慣と化していたのである。 はぁ、と重たい溜め息が零れる。何度目かも分からない、盛大なため息。 いい加減、家に帰ろうかとそう思い始めた、その時……。 「ねぇ、神ってなぁに?」 と、1人の子供が男に声をかけてきた。まだ幼稚園かそこらの少年だ。 男は少年の頭に手を置いて、ぐりぐりと撫でまわす。 「神なぁ……。なにって言われると、難しいなぁ」 「難しいの? 大人でも分からないくらい?」 「難しいなぁ。大変だろうしなぁ」 「大変なの? ぼくには出来ないお仕事?」 そう言って、少年は男を見上げる。それを聞いて、男はふと、思う。 神がいないなら、自分が神を名乗ってもいいんじゃないか、と。 子供じみた発想だ。だけど、今の男にはそれが名案のように思えた。 「おじさんなぁ……神様になろうと思うんだ」 純粋な少年の目を見て、男が言う。彼がそのことを口にしたその瞬間。 1体のE・フォースが誕生したのだった。 ●公園で神が生まれた話……。 「これが、事の発端から半日ほど前の映像よ」 モニターの映像を一時停止して、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)がそう言った。 「そしてこっちが、半日後の映像。あなた達が遭遇することになるタイミング」 と、映像を再開させる。 場面は同じ、昼間の公園。そこに集まった数十人の男女。 椅子と机を積んで作られた特設のステージに立つのは昼間の男だ。ただし、服装がガラリと変わっているのが一目で分かる。 男が来ているのは、布団のシーツで作られたものであろう、真白い衣だった。頭にも同様にシーツで作った帽子を被っている。 昼間の雨雲を背負ったような雰囲気とは打って変って、今はまるで太陽でも背負っているかのように見える。事実、見るものが見れば、男の背後に光の粒子が舞っているのが分かるだろう。 「見えるかしら? 男の背後に輝く光の粒が。あれが今回のターゲットになるE・フォース。名前は(教祖)。フェーズは2よ」 光の粒は集まって、人の形をとる。そしてまた、光の粒へと変わる。それを何度も繰り返しながら、少しずつ公園内に集まった人々の体に降り注いでいく。 その度に、人々の表情が陶酔したようなものへと変化していくのが良く分かる。 「見ての通り、教祖の能力は一定の距離内にいるE能力を持たない人間を催眠状態にすること」 イヴの言葉通り、公園内にいる人々は皆、男の異様な格好になんの疑問も抱いていないように見える。それどころか、シーツを巻いたその安っぽい格好が、神々しくみえてさえいるようである。ステージに立ってどこかで聞いたような安っぽい演説を口にする男。そんな男自身も教祖によって催眠状態にあるのだろう。男の表情は、どこか虚ろである。 「今のところ効果範囲は公園内だけ。しかし今後まだまだ効果範囲が広がる可能性もある」 公園内にいる人間は皆、地面に膝を付き男を見上げている。しかし、公園外からその異様な様子を眺めている者達は、皆その状況を訝しげな表情で眺めている。 男の演説を聞いているものの中には、数名の警官もいるのが見てとれる。きっと、この馬鹿げた騒ぎを止めに来て、洗脳されてしまったのだろう。 「人型を取っている状態じゃないと、教祖に攻撃は通らない。男の元に辿り着かないと、教祖は倒せない。けれど、その為には催眠状態の一般人と公園にあつまった野次馬が邪魔になるわ」 特に催眠状態の者たちは、男を守ろうと動くだろう。それをなんとかしないといけない。 恐らく、それが一番の難関であろう。 「不利な状況になったら、公園から逃げ出すって手もあるでしょうしね。催眠粒子は常に発動しているから、逃げる途中も通行人が片っ端から催眠にかかっていくことになる」 唯一の救いは、男がくたびれた中年であるという点であろうか。 きっと、体力はさほどないから、逃げることが出来る距離も、たかが知れているだろう。それでも、少なくとも1キロほどは逃げ続けることが出来るはずだ。 「攻撃手段を持っていないわけではない。燐光を光線状にして放つことが出来る。それの応用が3パターン程。どれも遠距離攻撃になるわ」 モニターの中では、依然男の演説が続いているようだ。集まった人々の数も、先ほどより10名程度は増えているだろう。 この中に入って行って、男、もとい教祖を倒さなければならない。 公園入口は東西南に1つずつ。北側には直径10メートル程度の小さな池が広がっている。池の向こうには一般道路。公園は半径30メートル程度だろうか。 公園に集まる人々と、それを眺める野次馬達。1人の男が引き起こしたにしては十分すぎるくらいに十分な混乱である。 「集団幻覚とでも言っておけば事態は誤魔化せると思うけど……。催眠状態の相手以外には神秘を秘匿しなければならない。その辺気を付けながら事態を収束させて来て」 そう言って、イヴはリベリスタ達を送りだした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月20日(土)23:19 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●神を名乗る男。 公園の真ん中、池を背にして、1人の男が大げさな身振り手振りを交え、何事か叫んでいた。 そんな男の背後にはまるで後光が差しているようにも見える。それは見間違いなどではない。男の背後には光で形作られた人型が浮かんでいるのだ。 普通の人間には、それが見えないのだ。 それの名は、E・フォース(教祖)と言う。 演説する男の前には数十人の老若男女が地に膝をつき、それをどこか恍惚とした表情を浮かべ、聞いていた。一定範囲内に存在する人間を、自らの信者へと変える、そんな能力によるものである。 「幸福を与えよう! この私に、神に付いてくるのだ!」 なんて、どこかで聞いたような陳腐な演説を、男は繰り返す。 「カミ、カミサマねぇ。別にどうでもいいかな、俺は」 バイクに腰かけ『断魔剣御堂・霧也(BNE003822)はそう呟いた。そんな彼の視線の先には、熱っぽく叫ぶ教祖の姿。 叫ぶ男、教祖と、それに聞き入る信者たちの様子を、公園の外から野次馬達が奇妙な物でも見るような顔で見ている。 野次馬達の中に、スーツ姿の男が1人。サングラスの奥の鋭い視線を教祖へと向けていた。 「助けを求めた所で神が救ってくれる筈が無い……」 ぼそりと、そう吐き捨てたのは『論理破綻者』カルベロ・ヴィルチェーノ(BNE004057)だ。 彼のその一言が合図だったように、事態は急速に動き始めた。 ●教団vsリベリスタ 「どうしようもない絶望に見舞われた時、人は自分以上のなにかに助けを求めてしまいます」 そう呟いたのは『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)であった。と、同時に公園の出入り口の南口、西口にトラックが停車する。野次馬をかき分けながら、拡声器片手に公園へと踏み込んでいくアラストールを見て、教祖が目を丸くする。 「一般人への扇動行為を鎮圧する。抵抗は無駄だ、一般人も抵抗するなら怪我ではすまんと思え!」 まだ年若い少女に見えるアラストールだが、その身が放つ威圧感は並大抵のものではなかった。教祖は、ジリジリと後退しながらも、我を取り戻し叫ぶ。 「あ、あの不届き者を追い出せ!!」 同時に、教祖の背後で後光が弾ける。教祖によって洗脳された一般人達が、雄たけびをあげながらアラストールに迫っていく。一瞬にして公園内は混乱に包まれる。 その中を民衆とは逆方向へと歩いていく少年が1人。 まるで、散歩でもするかのように悠々と歩く彼の名は『大人な子供』リィン・インベルグ(BNE003115)という。すっと、懐からボーガンを取り出して、教祖向けた。「神になろうなんて、追い詰められたせいなんだろうけど思い切った事を言うよね」 そう言って矢を放つリィン。彼の横を通りかかった教団の1人がぎょっと目を剥く。しかし、その時には、すでに矢は放たれた後で、リィン自身も混乱に乗じて、人混みの中へと姿を隠した後だった。 「ぬぉオ! 一体何なんだ!」 教祖が叫ぶ。同時に、教祖の背後から光の束がまるでレーザーのように放たれ、矢を焼き消した。教祖の視界に映るのは、教団員相手に立ちまわるアラストールの姿のみ。しかし、この場にはそれ以外にも、自身を仇なす存在が潜んでいることは、想像に難くない。 「まずいな……。混乱に乗じて逃げ出すか?」 クルリ、と教祖が体を反転させた。 その時……。 「あ……、見つか、った」 男の視界に、池の中からこちらに迫るツインテールの少女の姿が映った。少女、『無軌道の戦鬼(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)は、教祖と視線が合った瞬間、水中から飛び出す。 「なんでこんなについてないんだ!」 教祖が叫ぶ。同時に、天乃目がけて、光の束を撃ち出した。空中で器用に身を捻って、それを回避する天乃。しかし、その隙に教祖は演説台の上から飛び降りて、逃走の体勢に入っている。 同時に、着地した天乃目がけ、教団員達が襲いかかった。 「面白い……。一般人相手の、訓練になりそう、だね」 そう呟くと、天乃は手甲を引いて、迎撃態勢を取る。半数は天乃へと襲いかかり、もう半数は教祖を守るように立ち塞がる。西側にはアラストールや教団員達がいて、混乱の体。背後は池で逃げられない。南か、東か……。と、そこまで考え、そう言えば先の矢は、南側から撃ち込まれたことを思い出した。 東へと逃げることを決めた教祖の視界に、またしても異様な光景が目に入る。それは、翼を背に生やし、宙を舞う白衣の女性の姿だった。 「神を信じるもの、御使いの言葉とその教祖の言葉のどちらを信じるのか……」 翼を生やしたその姿は、まるで天使かなにかのよう。『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)が教団員達の頭上を飛び抜け、教祖に迫る。 教祖が光の束を放つ。凛子はそれを、あえて受けて見せた。防御姿勢をとりはしたものの、勢いを殺しきれず地面に落下する。痛みに顔をしかめながら、凛子は言う。 「傷つけることしかできないものを信じるのですか?」 しかし、教祖によって洗脳状態にある人々には、その声が届かない。凛子の言葉を無視し、彼女へと迫る人々。その隙に、教祖は公園の東へと逃げて行った。10名ほどの信者もそれに続く。更に東側に集まっていた野次馬からも数名、洗脳され、逃走に加わった。 「信者達の対処は任せるよ。無事に助けた方が良いからね」 凛子や天乃にそう声をかけ、人混みに紛れて身を隠していたリィンが教祖を追いかけて行った。 「間違えても、こちらには来るなよ」 リィンに続いて、カルベロもまた教祖の追跡を始める。グリモアールから放たれた光弾が教祖を襲うものの、しかし、信者達が邪魔で命中はしない。とはいえ、教祖に対する牽制にはなったのだろう。全速力で、東出口へと駆けて行った。 「貴方の力は、危険」 信者達の猛攻を振り切って、背後の池へと天乃が飛び込んだ。このまま公園を出て、教祖の追跡に加わるつもりなのだろう。流石に水中まで追うつもりはないのか、信者達は教祖の逃亡を手伝うため、東出口へと殺到する。 トラックの運転席からそんな信者達の様子を見て『モンマルトルの白猫』セシル・クロード・カミュ(BNE004055)が、はぁと重たい溜め息を吐く。 「普通なら空想の世界だけで片付くのだけど……」 神になる、なんて荒唐無稽な妄想が現実になってしまった。それに従う、というか無理やり従わせられている一般人の存在が、酷く面倒臭い。 「まぁ、あんな歪なものを神だと、神のようだと本気で口にはできないでしょ?」 なんて、困ったようにセシルの隣で笑うのは『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)である。教祖が公園を出たのを確認して、仲間にAFを使って連絡をとる。その間にセシルがアクセルを踏み込むと、トラックが前進。公園の出入り口を塞ぎ、これ以上信者が外に出ないように阻む。 「さ、走るよ。逃がしはしない」 トラックの助手席から飛び降りたレイチェルがそう呟く。同時にセシルが教祖に銃を向けるが、信者が邪魔で撃つには至らなかった。 「騒ぎの主犯が居てくれた方が、収集つけやすいのよね」 銃を降ろし、追跡に加わる。しかし、トラックから降りたセシルとレイチェルの前に10数名の信者達が立ち塞がった。公園外に居た野次馬達が、新たに教祖に洗脳されたものだろう。 「そっちは頼むよ」 AFに向かってそう囁き、セシルはスタンガンを構える。 「了解。っと」 霧也はそう言ってバイクのスロットを開ける。公園から出て、バイクで先回りしていた彼の視線の先には教祖とその信者達の集団が走っている。 バイクを進ませ、霧也が教祖へと迫る。教祖の背後で強い光が瞬く。恐らく、あの光で信者を洗脳しているのだろう。しかし、彼らリベリスタには効果が無い。斬馬刀を構え、教祖に向かって振りかぶる。 「よぉ、カミサマ気取りは楽しかったか?」 なんて、呟いて刀を振り下ろす。しかし……。 「教祖様! 逃げてください!」 なんて、叫びながら霧也の前に信者が飛び出してくる。両手を広げ、鋭い刃の前にその身を晒す彼の顔には、恐怖の色は一切浮かんでいなかった。それどころか、どこか嬉しそうですらある。 咄嗟に斬馬刀を地面に叩きつけ、切りつける寸前で停止させる。その間に、教祖達は路地裏へと逃げて行った。 「神よ……」 信者が呟く。それを聞いて霧也は、悔しそうに歯を噛みしめた。 「人は所詮、人にしかなれねーよ」 そんな彼の言葉は誰にも届かない……。 「教祖様の邪魔をするな! 神に仇なすつもりか!! これは神の意思だ!」 虚ろな目とは裏腹に、怒気に満ちた叫び声をあげながら信者達がアラストールに迫る。 「問答無用! 言い訳は、施設の方で聞く」 しかし、洗脳されただけの一般人がアラストールに叶う筈もなく、鞘でいなされあっさりと地面に転がる。 とはいえ、相手の数は多い。殺してしまうわけにもいかず、ただいなすか、気絶させるだけに留めるしかないので、一向に数が減る気配もない。 時間の経過で、洗脳が解けるのを待っているのが現状だ。 「信者も教祖も……まぁ、洗脳されてますが」 手近な信者に当て身を喰らわせ、気絶させる。 「力なき正義が無力ならば私は弱きもののために立ちあがりましょう」 信者たちの攻撃を受け流しながら、白衣を翻す凛子。あくまで受け流すだけで、それ以上のことはしない。信者たちの身の安全を第一に考えて行動しているのだ。教祖の追跡に加わりたいのだが、洗脳された信者をこのまま放ってはおけない。 「きちっとお仕事終わらせないと」 トラックを乗り越え公園から出ようとする信者に向かって、スタンガンを押し当てながらレイチェルは言う。教祖が公園から逃げ出してから、それなりの時間が経過した。しかし、今だに洗脳が解ける気配はない。トラックの下を潜りぬけようとした信者を足払いで蹴り倒しながら、レイチェルは大きなため息を吐いたのだった。 「神なんて、スケープゴートそのものよ」 宗教や神様なんて、所詮は罪や苦難に耐えきれなくなった者たちが作りだした、身代わり羊だ。 そんなことを言いながら、セシルが放った銃弾が信者達の足元で跳ねる。洗脳されているとはいえ、恐怖心がないわけではないのだろう。信者達の足が止まる。 トラックの荷台から、信者達を見降ろし、セシルはにやりと笑って見せた。 「か、神……は……神、神?」 何事かを叫ぼうとした信者だったが、急にその動きが止まる。自身の行動に疑問を持っているかのように、首を傾げ、頭を抱えるものもいる。 「これは……?」 「洗脳が、途切れたようですね」 トラック側へと移動しながら、アラストールと凛子が素早く現状を分析する。時間の経過による、洗脳の解除だ。自分の行動に関する記憶が曖昧なのか、皆一様に訝しげな表情を浮かべている。一応、凛子が手近にいた信者に片っ端から記憶操作を施し、今回の出来事を誤魔化していくが、恐らくその必要はないだろう。曖昧な記憶は、白昼夢のようなものとして処理される筈だ。 「怪我をしてる人は、いないかな?」 レイチェルが心配そうな視線を信者達に向ける。今のところ、軽傷以上の傷を負った信者や仲間の姿は見当たらない。 それなら……と、セシルが運転席へと移動し、エンジンキーを回す。 「それじゃ、追いかけましょうか?」 仲間達が荷台に乗りこむのを確認して、セシルはトラックを発進させた。 「野次馬たちにゃ、公園の中でなにが起こっているかなんて、理解できてないだろうな」 公園の混乱が収まったとの報告を受け、霧也は独りごちる。そんな彼は、これ以上教祖の洗脳による被害者が増えないように、先回りして結界を張って回っている最中だ。 「人にしか出来ないことがある……。だから、別のナニカになんて、ならないでイイだろ」 この場にいない教祖へ霧也はそんな言葉を投げかける。 やり場のない気持ちをどうすることも出来ず、霧也は力一杯手近な壁を殴りつけた。 血の滲んだ拳を握りしめ、背にした斬馬刀へと伸ばす。次に教祖を見つけたら、絶対に逃がさないと、そう決めて。 「これじゃ、近づけないね」 冷や汗を垂らしながら、リィンが唸るようにそう言った。そんな彼の眼前には、十数人の信者達と、最奥に構える疲労困憊の教祖の姿。教祖の背後では光の人型がキラキラと粒子を振り撒いている。 「なに、どんなイレギュラーが起きても最後は教祖の元まで辿り着ければいい」 向かってきた信者を蹴り飛ばしながら、カルベロはサングラスを押し上げる。サングラスの奥の鋭い視線は、じっと教祖を捕らえ、離さない。 「これ以上の信者は増えないみたいだしね。霧也くんが結界を張って回ってくれてるから」 「あぁ、セシル達も直に合流するだろうしな」 少しずつでも、追い詰めていけばいい。そう判断し、2人は信者たち間へと飛び込んでいった。 前へ、前へ。信者を無効化しながら、教祖の元へと駆けていく。教祖は時折、2人が信者の間から離れた隙をついて、無数の光線を放つ。無数に枝分けれして襲ってくる光線に対し、地面を転がり回避する。 そこへまた、信者が群がる。それを繰り返すせいで、一向に敵の数は減らない。 しかし、このままではいずれ追いつかれる。そう考えたのか、教祖は踵を返して逃げ出していった。 信者たちは、教祖を逃がすための時間を稼ぐために、2人に駆け寄っていく。 「本当に救いを……神を求めているのは奴自身だろうに」 迫ってきた信者の急所を、素早く拳で打ち抜いてカルベロは呟く。そんなカルベロの背後には、禍々しいオーラを発する矢をボーガンにつがえたリィンが、やれやれといった風に笑っていた。 「まぁ、神と言っても必ずしも善良ではないからね」 引き金を引き、矢を放つ。矢は真っすぐに空中を駆け、教祖へと迫る。 「邪魔をするなよ!!」 教祖の放った光線が、矢を焼き尽くす。そのまま、光線の勢いは衰えずに、信者達の元へと向かう。 狙いが逸れたのか。 それとも、あえて信者ごと狙ったのか……。 光線が信者に当たる、その直前。 「そろそろ、夢から覚める時間だ」 バイクに乗って飛び込んできた霧也が、斬馬刀を掲げその光線を受け止めた。光線を受け止めきることができずに、霧也は地面を転がっていく。信者に当たることは防いだが、代わりに彼自身が足に大きな傷を追ってしまった。 痛みに顔をしかめながら立ち上がるものの、しかしすでに教祖は逃げ出した後。その背を睨みつけながら、霧也は斬馬刀を支えに立ちあがる。 リィン、カルベロ、霧也の3人と、10数名の信者を置き去りに、教祖はいずこかへと逃げ去っていった。 ●神の末路は……。 「はぁ、はぁ……。くそ、なんだっていうんだ」 粒子を振り撒きながら教祖は駆ける。しかし、周囲に人影はなく、彼の洗脳下における者は周囲に存在しない。神を名乗り、多くの信者に囲まれていた男は、今や1人きり。人より少しだけ違う存在に魅入られただけの、ただの男でしかない。 そんな彼の前に、ツインテールを揺らしながら、1人の少女が姿を現した。 「見つ、けた」 無表情にそう呟くと、少女はタンと地面を蹴って駆けだした。腕に嵌めた手甲が怪しく光る。少女の素早い動きに対し、教祖が放ったのは幾本にも拡散する光線であった。狙いは適当に、されど数は多く、天乃の進路を塞ぐように光線の雨が降り注ぐ。 「その命、貰いにきた」 もう逃がさない。 そう言ってはみたものの、教祖の放つ光線により進路は塞がれている。このまま、攻撃を続けていれば勝てる。そう考え、教祖はにやりと勝ち誇った笑みを浮かべた。 次の瞬間……。 「そろそろ終わりよ、スケープゴート」 教祖と天乃の間に、トラックが割り込んでくる。周囲のゴミ箱やベンチをなぎ倒しながら突っ込んできたトラックは、教祖の光線を浴びて、横に倒れる。トラックを足場に、天乃は素早く宙へと飛びあがった。 「な、なに……!?」 驚き、目を見開く教祖。そんな彼の眼前に、剣を構えたアラストールと、杖を握りしめたレイチェルが飛び込んできた。鞘に納めたままの剣と、杖が振り抜かれる。教祖は両腕を掲げることでそれを防いでみせた。光線で迎撃しようとした、その時……。 「神とは試練を与えるもの」 教祖の頭上から、そんな囁きが聞こえてくる。視線を上げた先には、宙を舞う白衣の女性、凛子と、彼女に抱えられる天乃の姿。凛子が教祖に向け、天乃を放る。 否……。 放られた先は、教祖本人ではなく、背後に付き従うE・フォースだ。 「これで、本当に、終わり」 逃がさないから、と呟いて、天乃は踊るような動きで光の人型へと連撃を叩き込んでいった。一撃毎に燐光が舞い散り、人型が削れていく。それを見て、教祖は声にならない悲鳴を上げた。自分の力が、一瞬ごとに消え去っていくのを感じ、次第に青ざめていく。天乃の攻撃を止めようにも、彼自身にはなんの力もなかった。 「や、やめろオぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!」 男が叫んだ。 と、同時に、最後の光が弾けて消える。教祖を教祖たらしめていた奇跡の力が、その瞬間、失われたことに彼は気付き、その場にガクンと膝をつく。 「おしまい……」 気を失った男を見降ろし、天乃はそう呟いたのだった……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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