● 「君、死ぬの?」 「……止めても、駄目だから」 「うん、解った」 震えた女の声に、甘い子供じみた男の声。 高校の屋上、その端っこ。正に崖っぷちに女子高生が一人。その後ろ、フェンスを挟んで男が一人、少女の背中をただただ見ていた。 にしてもこの男、なんだか嫌な臭いがすると女子高生は思った。ていうか誰だよ。高校に居るというのは庭師か作業員か何かだろうか。 「なんで、死ぬの。勿体無い」 「好きな人が、病気で死んだの。だから……私も追おうと思う」 そう。たった一言男はそう言って、だるそうに頭を掻いた。そこにはやけに明るい色のサンバイザーが、ピンクの髪に乗っかっている。 しばらく間が空いた後、はぁーと溜息を吐いてまたピンク髪の男はしゃべり出す。 「でもほら、その好きな人の分まで生きるっていう道も、あるかもしれなかったんじゃ? ていうか死ぬのって絶対その人望んでないって!」 「……そ、そう……かな」 そう言いながら男はフェンスを上る。その行動に女子高生は涙で腫れた目を遥か下のコンクリートでは無く、此方に向けてくれた。やったね、希望はある。 「そうだよ。だから死ぬなんて思っちゃ駄目だったのさ。生きてれば辛い事の方が、楽しい事より多いのは当たり前の事」 そういってトンと飛び降りては、少女の横に並ぶ男。 手を伸ばした、少女へと。助けてあげよう。そう言っているのかもしれないと少女は思った。 だって、男の顔は優しく笑っていたから。嗚呼、もしかしたらこの人を好きになれるかもしれない。 「解った。じゃあ、もう少し頑張って生きてみる」 けれどその男、フィクサードですから。 「え? それは僕が困るよ?」 「え?」 誰が『死ぬのを止めろと』。 いつ言ったの? ドンッ 腹部に大きな衝撃を受けた気がする。瞬間的に痛みが走った。 「え? ……ぇ?」 「え?」 顔を下に向けてみれば、腹部に貫通したおそらくスコップと、大量の血。 「何期待したの? 僕の言葉に、今更生きたいって思ったの?」 ちょっと遅かったねと。 嗤う男の両腕に、少女は身を委ねて。もう戻れない。 「だって、飛び降りて木っ端になったら繕うの面倒だろう? だから今なるべく形は保ったまま死んでくれればなーって思って、ちょっと色々有る事無い事言ってみたら、これが面白いくらいに引っかかってくれて……」 ――あ、もう聞こえてないか。 僕の巣に招待しよう。いらっしゃい、死人のメイデン。 突いた指先、銀色のアーティファクト。 少女の首に大きくそれを突き刺し、まだまだ温かいその血を舐め取るのだ。 ● 「アンデッドだらけです。一掃する勢いで、お願いします」 『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)はブリーフィングルームで話しを始める。 「相手は黄泉ヶ辻のフィクサード。殲滅目標は全Eアンデッド。簡潔にはそれだけです」 フィクサードの名は架枢 深鴇(かすう みとき)。黒のツナギの服に、やたらと柄の長いスコップ。ピンク髪にサンバイザーをつけた一見奇抜な服装の若い男だ。 「黄泉ヶ辻フィクサードが作った死体等を喜んで引き取っては、真っ黒な服に飾り付けて埋葬するのが本来の彼の趣味兼、仕事だそうです。まあ、死体が無い時は自分で作りに行ってしまう衝動的なものもあります」 その彼が巣としている墓地が見つかった。一人の女子高生が犠牲となり、その後の動向からその場所を発見したのだった。 「墓地……。 彼がアーティファクト『ヴァンパニッシュ』で操るEアンデットや死体が跋扈します。更には彼にこびり付いた死臭と腐臭さえ下僕にして飼っている状態です」 正直フィクサードまで倒そうとするのはハードレベルの依頼になってしまうだろう。今回の目的は彼の武器でもあるEアンデットの全滅だ。 「対処は任せますが、あくまで架枢は埋葬するまでが趣味。そこから先には興味が無いので……ある程度アンデッドを壊せば撤退すると思われます」 「Eアンデッドは全部で十五体。そのうち十三体と、二体でフェーズが分かれています。厄介なのは……」 彼に纏わりつくように動く緑の瘴気のようなもの。 「あれは……Eエレメント死臭や腐臭です。架枢を庇うためだけに存在するもの。それ以上でもそれ以下でもありませんが、人が一番嫌う臭いがします。 それでは長い説明はここら辺にしておきましょう。どうか、お気をつけて」 太めの資料をパタリと閉じる。杏里は一度リベリスタ達を見回し、そして頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月18日(木)23:01 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●腐りきった葬儀屋 流行のアイドルの曲か、携帯の着信音がけたたましく鳴り響いた。 「ハイ、死体処理請負人でーす」 その声は墓場中に響く。 何も無い、風が通り過ぎる音さえ大音量で聞こえる程静か。だからこそ目立つ彼の声。 「死体? 手足ばらばら? あのさぁ形くらい残してよ」 通話の相手は恐らく同じ黄泉ヶ辻フィクサードなのだろう。 今度響いたのは、落ち着いた重みのある声。 「架枢深鴇。急で悪いのだけれど大至急墓穴を一つ拵えて頂戴」 ギロリと目だけが動く。『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)の凍った目と目が合った。それからの沈黙は刹那。 「……ごめん、死人を迎えに行くのはちょっとまって」 また連絡するね、と。十字の墓標に体重を預けながら、架枢深鴇は少し古い折りたたみの携帯をパチンと閉めた。それから氷璃の方へ向き直り、そして彼女の背後からまた七つの影。 数を数えて一息。にっこり笑った深鴇は礼儀正しく。 「いらっしゃい! ……僕が京介さん印の死体処理人。架枢深鴇。 好きなものは首吊り自殺、毒殺、窒息死に死姦。嫌いなものは圧死とバラバラ殺人、粉砕骨折に木っ端微塵」 言い終えた瞬間にもぞりと足元の土が動き出すか。否、動いたのはその中のモノ達。 「来るか……!!」 『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)が辺りを照らしているからこそ、それらの動きがよーく見えた。 ――フツ、出し惜しみはいらない、汚くなったら後で洗ってくれればいいから。殺せ、殺せ、殺しちゃえ!! 彼の武器は少し特殊だ。声が脳に直接文字を叩き込んでくる。 それに構ってやる暇無く、足首に感じる違和感。ふと下を見ればフツの足首は骨の突き出した手に掴まれ、更にその土の中から腐りきった身体がのそりとやってくる。それを一番初めとし、どんどん土の中からそれらは現れてくるのだ。 「外道め……」 ユーキ・R・ブランド(BNE003416)は剣の先端を哀れなる遺体達にでは無く、深鴇へと向ける。 殺す。そう誓った。それは今この場で成されずとも、いつか。その殺意を感じてか、深鴇の肩が小刻みに震動しながら笑っていた。 「まあそう怒らないでよ! これもお仕事なんだ。君達がリベリスタであるように、僕も葬儀屋としてのね? だから抗えない。解るでしょ?」 「一緒にしないでください。同じベクトルの話しでは無いはずですよ」 ユーキの言葉こそ、宣戦布告。解りたくも無い。 同業者である事に憤りさえ感じる。 「ご同業とは、珍しい事」 皮肉も良い所だと。『宵歌い』ロマネ・エレギナ(BNE002717)は大きく溜息を吐いて見せた。それから息を吸えば、ツンと鼻につく死臭。察せずとも、長く此処に居るのは危険なのが解る。 もはや話しをする時間さえ惜しい。 「さ、戦場を奏でましょう」 『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)の杖による指揮が振るわれる。その場のリベリスタに力を分け与える。 準備はできた。 ならば、後はやり通すだけ。 そっと目を閉じ、ミリィは祈る。嗚呼、死して尚、蹂躙される者達よ。その呪縛から解き放とう。 ――眠れぬ死者に、安息を。 ●死神の這いずる場所 咄嗟に飛び出す『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)。翼を駆使し、滑るようにして動く彼女からは風が生まれる。その風の、なんと臭い事か。 「ああ、その腐臭は脳髄からか。どうせ飾りだろうし、空頭にしたらどうだ?」 トンと墓石の十字の上に彼女の足が落ち着く、見渡す死者の群れが十五体。それらが蠢く範囲も広いが、全体が見通せるに位置を取り、言葉の羅列が怒りを買う。 両手を広げたユーヌ。 「不格好な動きだ、滑稽だな? 操り人形に成った今、もはや助かる道さえ……っ!」 そういい終える前に死者の歯が足に食い込んでいく。淀んだ目からは絶えずよく解らない液体が流れ出ていた。泣いているのか、悲しいな。 続く死者の群れ。十五体のうち、十体はユーヌへと向かった。例えフェーズが一番初めの数字であったとしても、束になればフェーズ2に劣らないと知れ。体力はもう、既に半分は削れ落ちた。 思わず死体の群れに遊ばれる彼女の名前を叫んだミリィ。 「あ、れ?」 そして気づく。おかしい……? 奥で細く微笑む男の――壁。 「エレメントに、怒りが効いてない?!」 「イイコト教えてあげる。これ、庇うことしか『できない』」 どんなチートだ。 十字に腰かける深鴇は大きく欠伸をした。それから足を組み、まるで上から目線で死者に埋もれるユーヌを見物していた。 「死体になっても安心してよ、此処は墓場で葬儀屋も居る」 「それが一番安心できねーな!」 回復の勤めはこの男。 フツがユーヌの服を引っ張りあげ、死体の群れから引きずり出す。そして間髪いれずに、癒しをもたらす札を貼るのだ。 彼女の回避がギリギリで致命打を避けていたのは素晴らしい点だったろう。みるみる傷は癒えてゆく。 「すまないな、ありがとう」 「大丈夫だぜ、とは言え一人で十体抱えるのは危険だったな」 うむ、と頷くユーヌはもう一度立ち上がる。死体の群れは己が引き受けると硬く誓ったから。その背中を支え続けるフツは、小さな彼女の背中を札ごしに押した。 「喋る相手が居ていいよね。ちょっと妬けちゃうなぁ」 そうニコニコしながらも、深鴇の頬すれすれを血鎖が飛んでいく。 「運命狂、そんなに僕の事好き?」 「寝言は死んでから言うものよ?」 氷璃は死体ごと壁を打ち砕かんと、魔陣を従えながら最速の詠唱で鎖を築き上げ続ける。 物理は通さずとも神秘は通る。氷璃はそれに長けている。ただ……は当たっているのか当たってないのか解らない程に手ごたえが感じられない。これも形を成さない臭いの特性からだろうか。 「貴方が説得する価値の無いフィクサードで嬉しいわ」 何が葬儀屋だ。 埋葬は死者を弔い、悼み、想う為の生者の儀式。それを一番踏みにじる事を平気で成す辺りに反吐が出る。怒り混じりに、もう一度。氷璃は自らの血をもって鎖を飛ばした。 「世界に貴方は必要無い。それじゃあ、死んで頂戴?」 「だからこそ僕はフィクサードなのかもしれないよ」 それでも、その攻撃は大元には当たらない。まるで見えない鎧があるかのように、その身体を綺麗に避けて鎖は飛んでいくのだ。 鎖が轟くその中でユーキの闇が死体達に絡みつき、貫いてゆく。相変わらず中心で埋もれるユーヌが気がかりだったが。 「死者は死者らしく、黄泉へ帰ってもらおう」 続く黄泉路の漆黒の闇が死体達へと襲った。それこそ死神が鎌を振るかの様に。 「おまえも、例外無くな」 振るう暗黒の鎌は、勿論深鴇へと向かった。それが当たらない事は承知の上だ。 「神探は良い所かい? 黄泉比良坂。キミが死体を死体に還すその舞は……まさしく死神だね」 新米の死神であろうと、役目は果たそう。 「神秘探求同盟第十三位死神の座、逢坂黄泉路。死に纏わるその神秘、限界まで見せてもらおうか」 いいよ。そうとでも言うか。 黄泉路の言葉の後、深鴇は星空へと手をあげた。 おいで。 それこそ墓場に似合いの死神の召喚。 不気味に輝いた魔法陣から出でたものは、緑に発光するおんぼろローブの躯だった。今此処に、死神対死神が実現する。 その空気をぶち破って、瞬間的に辺りにはチェーンソーが動き回る音が木霊した。 「さあて、思いっきり殺してあげるからね!」 相手が既に死んでいるものであるのが少々残念だが、それでも『狂獣』シャルラッハ・グルート(BNE003971)のバルバロッサは止まる事を知らない。 血も出なければ、叫び声さえ無い殺し合い。死体の腹部にずぶずぶ切り込み、そのまま脳天まで真っ二つに仕上げていく。攻撃はほぼ一瞬の間で行われた。せめて、苦しまずに逝けるようにと慈悲の残して。 ●慈悲も哀れみもなく ユーキの常闇は続く。撃って撃って薙ぎ払って薙ぎ払って。そこに氷璃の鎖さえ入り混じってやっと二体がバラバラになって砕けていった。 「く、奴は聖神の使い手でしたか……!!」 「まるでイタチごっこね。でも数は減っているはずよ」 始まってから時間は経った。それでも未だに三体の動きを止めただけだ。フェーズ1に此処まで苦戦するのは、大元の力のせいでもある。 「ほらほら、頑張りなよ。まだまだ居るんだよ!」 再びの聖神の息吹が響いた。ただし、敵の。 完璧とはいえずとも彼の癒しの力は絶大な威力を持っていた。とはいえ、精神力はそう長くは続かないはずだ。これはどちらが先に倒れるかの消耗戦でもある。それに気づいている氷璃は手を休める子とを知らない。次から次へと陣を作っては、血を、鎖を、呪いを、と。 ――私がきっと皆を支えて見せるから。 深鴇に手が届くのは難しいだなんて解っていた。それでも放置はできないから。こんな残酷を野放しになんてできないから。 ミリィの防御を守るドクトリンに加え、その指揮は絶大な威力を持つ。 それでも守れなかったものはユーヌだ。 彼女に群がる流れは止まらなかった。とは言うのも、速度関係の面で運が悪かったとしか言えない。同じくミリィも憤慨を誘い、自身へと攻撃を誘導していたが、後に挑発した方へと死体は群がった。 フツの力でも、致命が効いてしまったユーヌは治す事ができず、待機を余儀なくされ、深緋を握る力が強まる。 何もできないのか? 何もしてやれないのか? 足は止まったまま、咄嗟にフツは叫んだ。 「飛べ、ユーヌ!!」 「!!」 その声に、ユーヌ途切れかけた意識を繋ぎとめた。 もはやフェイトによる恩恵は無いだろう。全力防御で耐える傷だらけの翼を力み、地を蹴り上げては空中へと、上へと。一体の死体がその足を掴んできたが、それを蹴り飛ばし、上へ、上へ!! 「あーらら、噛み傷だーらけ。治してあげようか?」 「断る」 ケラケラ笑う深鴇を見下ろしながら、けして光を灯さない眼は諦めやしないと札を投げた。 恐らくこれが自身の最後の攻撃だろう。資力を出し尽くしてからの、最大の抵抗。 「そのよく動く口が耳障りだ。縫っておけ」 造られたのは氷柱の軍。それが雨の如く降り注いで、死体を頭上から磔刑にしていく。 「あはは、怖いね。でもそういうの好きかもしれない」 「喋らなくて良いように、声帯から取り除いてあげてもいいわよ」 氷柱は容赦なく、ダメージが蓄積されていた死体を貫き、それに続いた氷璃の鎖がトドメに射抜き、死体を動かない本来の姿へと変えていく。 「おい! 死神がそっち行ったぞ!!」 黄泉路は叫ぶ、仲間の危険をいち早く察知したのは彼だ。 血鎖と交差するようにして死神の腕は黒髪を捕えた。流れるように、その腕は胸元を貫通し……限界を超えた。 空中で静止したユーヌは一直線に地へと落ちていく。 「あ、やだ、危ない!!」 ゴシャッと落ちることは無かった。下でミリィがその身体を受け止め、ぐったりとする彼女を支えた。 大丈夫ですか? でも、返事は無い。 少女を抱えるミリィ。今度は彼女が、諦めずに死体をかき集める荷を背負った。囲まれたって怖くない。腕の中で仲間を抱きしめ、ミリィは死体の波の中心へと収まる。 一人倒れたからこその、チリチリと沸き溢れるロマネの静かな遺憾。 「死者の眠りを妨げ、ましてや埋める為に殺すなど。生死の境を分かつ葬儀屋と墓堀の務めを何と心得るのでしょう」 「待ってくれ、宵歌い。キミは解っているはずだよ? 黄泉ヶ辻にまともな意味を求める事が、まず無駄な事を」 黙れ、とでも言いたげに。ロマネは深鴇の頭上へ向かって弾丸を放った。 ロマネは間違っても狙うべき相手は間違えなかった。そう、狙いは召喚されし死神。 「葬儀屋のイロハ、その体に直接叩き込んであげたいところです」 「全ての涙は己のために。宵歌い、君かっこよすぎるよ。欲しいかも」 ――死体としてね? ブロック役がいない今、死体の攻撃は通ってしまう。迫る召喚されし死神が、ロマネの肩口を簡単に切り裂く。 「死神にも種類がある、今そう思ったぜ」 だがその死神を巻き込み、更には腐臭にまで漆黒のオーラを伸ばした黄泉路。片腕には死体の歯が刺さっても尚、血塗れになっても立ち上がろうとその精神は煌びやかだ。 一点に集まっていた死体は何時の間にか散らばり始めている。 が、それは、もはや彼等はシャルラッハのチェーンソーの獲物でしかない。 月夜の墓場に狂獣は踊る。けれど、何度やってもちっとも欲しいものが無い、無い、無い! 「どうしよう、飽きてきた。ううん、空腹が埋まらない」 いくら肉を斬り込もうが、鮮度が皆無。それがシャルラッハには気に食わないのだ。 だって、赤くない。だって、断末魔が無い。だって、殺った気配が無い。 「死体好きのお兄さん、あのね……」 「あれ、こんな僕に話しかけてくるの?」 「うん……シャルは、シャルが本当に殺り合いたいのはこんな死体もどきじゃない」 胸元を貫かれ、振動する武器に合わせて死体はガタガタ動く。そのままシャルラッハは武器を横に振りながら、死体を深鴇へと投げる。 「死体好きのお兄さん、深鴇、おまえだ!!」 空中で二つに分解したそれらの片方は深鴇へと向かったが、寸前で何かに弾かれて力無く落ちた。 「あはは、殺意ビンビン感じちゃうね。怖い、怖いよキミ!!」 ●どうか、安らかに 死体の数はフェーズ1が三体に2が一体。流石のフェーズ2は、ダメージを与えても回復されを繰り返す。それに終止符が打たれるのは深鴇の精神がもたなかった時だった。それまで少ない回復でよく持ちこたえたと言えよう。フツとミリィによる支援は無くてはならないものだ。 墓石に追い詰めた一体を、ユーキの牙が噛み砕く。吸血といえども血は乾いていて。 「……あなた方のトップと二度ほど見えましてね。私の中で、結論が出ました」 判断は殺すべきだと、その方が死者も減る。よく解らないエゴによる犠牲者も減るという。 「京介さんに……? それは、尊敬する」 首領クラスのフィクサードを逸脱。バロックナイツは別次元とでもしておこう。その逸脱級に会っていて立っていられるリベリスタが居るのかと、深鴇は純粋にユーキを賞賛した。 しかしその声に、ユーキは引っかかった。声が震え、顔が俯き、身体が震えていたのだ。手に汗をかき、鼓動が早まる。 「もしかして、首領が怖いのですか……? ならば、何故貴方は黄泉ヶ辻の下に居るのです?」 「……あ、はは、だからこそ、だよ」 深鴇は自分の身体を抱きしめ、本格的にガタガタ震え、顔が青ざめている。 「恐ろしくて怖ろしくて堪らないんだ。あの方の狂気に当てられてきっと僕もおかしくなったさ。 でも良い、あの方の下でガタガタ震えながらこうして働く。僕はそれが楽しくて楽しくて仕方無いよ。 このおぞましいまでの絶望を感じると生きているって思えるよね。今、僕は生きるために必死になってるって。 素晴らしい、素晴らしいまでの僕の生存執着だ。それを感じてイかせてくれるのは狂介さんしかいない!!」 「類は友を呼ぶのか」 「もしくは類を引き出し僕とするだな」 フツが札で黄泉路の治癒を行う。フツは思う、この死体達も厄介な所に芽を点けられたと、そこから救う術はリベリスタのみにあると。 「だからね、僕は、彼の下に居る」 手を振り上げ、魔法陣が彼の腕を中心に形成された。一瞬にして嫌な臭いが増していく。 「作ったものが壊されるのはもうたくさんだ」 またこいつか。ブリーフィングルームでまるで影人の様だと誰かが言った。影人が量産できるのならば……これも、そう。 緑に光る陣から、緑に透けるボロボロのローブを着た躯が姿を表した。 召喚した瞬間に小さく地を蹴り、ふわりと深鴇の身体が宙に浮く。好機と放つ、氷璃の神秘だが、未だに香る腐臭がそれを庇う。 「杏里様は逃がして良いと仰られましたが、心得違いの同業にはきつい仕置きが必要でしょう?」 逃がさない。此処で逃がしたら、また……また死体が増える。 同じ飛び出したのは黄泉路。手を伸ばし、上がる腕は上空10mには届かず。 ロマネはSlez prolito na Moskvuの先端を深鴇へと向けた。しかし空中で、雰囲気ぶち壊しの、今流行りのアイドルの曲が流れて着信を知らせる。 「はいはい、死体処理請負人」 ロマネの弾丸は死神の頭上を抜けて、消えていく。瞬間に死神はロマネへと爪の長い骨の腕を横一閃させた。 「死体ね、ごめんね回収できない。僕、負けちゃった。僕の巣はもう使い物にはならないや」 段々と深鴇の声が小さくなっていく。雑木林へと消えていく。 「次の墓地が決まるまで、僕は大人しく帰るよ。黄泉ヶ辻に」 その声を最後に、その場で彼の姿が消えた。その瞬間に死神も用済みのように消えていった。 残ったのはフェーズ1が三体。彼等に回復が無い今、之をリベリスタが倒せない訳も無い。 「必ず……」 ユーキが剣を振り上げ、眉間にシワを寄せた。 「必ず、殺しに行く。首を洗って、待っていることだ」 行き場の無い言葉は虚空に消えた。それと同時に、剣は死体の動きを完全に止める。風に攫われ、いつしか鼻に残る腐臭は消えていた。秋色の風がただ、通り過ぎるだけ。 墓地は荒れ、死体は散乱。供養せんとフツは両手を合わせ、槍も静かになっていく。 安らかに、安らかに。 安らかに、眠れ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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