●アザーバイドと『水十字』 セリエバ。運命を食らう植物型のアザーバイド。 数年前に召喚された存在で、枝を持つものは運命を持つものの天敵となり、またそれを半年ほど外気から遮断することで『運命を代償として願いをかなえる破滅的な願望機』にもなるという。 『氷原狼』こと水原良はけして異世界の存在に詳しいわけではない。だがこのアザーバイドのことだけは嫌になるほど知っていた。当然だ。その被害者だから。 かつて、剣林と呼ばれるフィクサードの中で『水十字』と呼ばれるチームがあった。十文字智子と菫、良とその姉である水原静香の四人によるチーム。 その日、剣林から与えられた任務はアザーバイドの召喚場を襲撃することだった。剣林が保護すべき人達が召喚の生贄となったのだ。生贄救出とその報復の意味を含めての任務だった。 召喚場の制圧は容易く行なわれた。しかし生贄は既に捧げられ、アザーバイド召喚を止めることはできなかった。開きかけたDホール。閉じることが叶わないのなら、強引に開いてアザーバイドを叩いて追い返し、その後でDホールを閉じよう。剣林の思想に基づいた解決策である。 結果として、その判断は功を成した。援軍を待っていたらその被害は拡大して、そのアザーバイドの影響でエリューションが大量発生していただろう。 しかし、四人で対抗するにはセリエバと呼ばれるアザーバイドは強すぎた。運命を持つものに対して、熾烈な攻撃を繰り出す植物に『水十字』は壊滅的なダメージを受ける。 このとき、セリエバはその枝葉数本をこの世界に伸ばしていただけに過ぎない。その数本をへし折り何とかDホールを閉じるまでに、彼らは様々なものを奪われた。 水原静香は狂気により良識と理性を奪われ。 水原良は人を暖める温もりを失い。 十文字智子は『好きな人に愛される』という運命を奪われ。 そして十文字菫は全身をその毒に侵されて、指一つ動かすことすらできなくなる。 剣林の援護部隊が倒れていた四人を回収したのだが、召喚を行なったグループの姿はなくその足跡を追うには装備が足りなかった。 その後『水十字』は解散する。菫の入院もあるが、水原静香と水原良が剣林を脱退したからだ。 水原静香はその後、執拗に『強いエリューション』を求めて非道な実験を行なうようになる。そうして得た『実験体』をはたして何にぶつけるか。それを誰にも吐露することなく、アークとの抗争で命を失った。 そして水原良は、あるフィクサード団体を追いかけ始める。 ●フェイト/ヘイト――主役になれなかった者たち 「見つけたぜぃ。『フェイト/ヘイト(運命を憎むもの)』」 『車輪屋』と呼ばれるバイク型のエリューション・ゴーレムに跨って、『氷原狼』こと水原良は言う。その視線の先には、一台の貨物列車。神秘の力で一般人の車掌を操って、列車を強奪していた。 「貨物車を奪っての荷物輸送ですか。まさかそんな手段で輸送を行なっていたとは」 『車輪屋』が呆れたように声を発する。犯罪に近い輸送方法でよく足がつかないものだという呆れと、それを今まで追い切れなかった自分たちに対する呆れ。 「一度で大量に荷物を運んで、しかも移動距離が長いからな。各地を転々としながら仲間を増やしたりしてたんだろうよ。小規模だけど支部の数が多くて横に広い団体の頭を押さえるのは、大変なんだよ。 あと、追いきれなかったのは純粋に資金不足だ」 「アークに仕事の邪魔されてますからね、最近は」 ――水原良は、あの日にアザーバイドを召喚しようとしたフィクサード団体を追いかけていた。 復讐でもあり、セリエバの知識を得るためでもあり、そしてなによりもその思想が許せなかった。 『我々は革醒したとはいえ、運命を多く得なかったもの達。物語の主役になれない存在』 『主役になれないのなら、主役達を引き摺り下ろせばいい』 『主役達の運命を削れ。皆が平等な運命量となれば、主役になる機会はある』 『故に我らは<フェイト/ヘイト(運命を憎むもの)>。セリエバを召喚し、世界を平等に!』 ……そんな思想の元、彼らは各地で活動を行なっていた。神秘を使用しての一般人から財産を搾取したりといった『弱いもの』に対しての悪事を。 「よーするに、才能がないからって人を蹴落とす根性無しだ。一発殴らねーと気がすまねぇ」 「そんな個人的理由で剣林を抜けたのなら、アホとしか言いようがありません」 「否定はしねーよ。実際、バカな話だ。踏ん張ればチームの維持はできたかもしれねーし、もしかしたらねーさんだってあそこまで暴走せずにすんだかも知れねぇ。 それでも後悔はしてねぇよ。あいつらは許せねぇ」 「同感です。列車の出発と同時に動きます。OK?」 「ああ、ワリーけど今回は周囲の被害とかは優先順位低めで行くぜぃ」 ●アーク 「おまえたち、アクション映画とか好きか?」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は集まったリベリスタ達に向かって、そんなセリフをはいた。開口一番のセリフに怪訝な顔をするリベリスタ達。 「フィクサードが列車を強奪して積荷を運ぶ事件が予知された。列車の出発には間に合いそうにないので、走ってる列車に乗り移ってのミッションになる。 ちなみに座席も吊革もないぜ。乗るのは味気ない貨物車だ。貨物の屋根を伝って先頭車両に向かうことになる」 「ああ、確かにアクションだ。その列車を止めればいいわけか」 「YES。ただしこの列車は別勢力のフィクサードの襲撃を受けている」 「は? じゃあそいつに任せておけばいいんじゃないのか?」 「そうも行かない。そのフィクサードは連中の運ぶ荷物ごとフィクサードを葬りたいらしく、列車強奪後はブレーキ関係を破壊してエスケープするつもりだ。 貨物車が列車の倉庫につっこんで大火災。そんな未来も予知済みだ」 肩をすくめる伸暁。まったく楽はできないね、とジェスチャーで語っていた。 「最優先事項は列車を止めることだ。積荷の確保ができればなおよし。フィクサードを捕らえれればなおのこと、だな。 貨物車に併走して列車を走らせる。そこから乗り移ってもらうぞ。発車前に駆け込み乗車はマナー違反だが、走ってる最中の乗車は止められてないからな」 冗談めかして指を立てる黒猫に、肩をすくめるリベリスタ。 列車強盗と、その列車ごと葬り去りたいフィクサード同士の抗争。さてどうしたものかと顔を見合わせながら、ブリーフィングルームをでた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月17日(水)22:15 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「おーい、アークはいつからスタントマン集団になったんだよってんだ」 愚痴を言いながら貨物車に飛び乗る緋塚・陽子(BNE003359)。彼女は背中の羽根を広げて、飛行によりおいていかれないかどうかを確認する。 「まっ、あいつに会うのはそれはそれで楽しみだし、やってやろうじゃん」 「アニメやハリウッド映画とかで列車上で戦う場面を見かけますが」 おっかなびっくり。そんな挙動で貨物車に乗った風見 七花(BNE003013)。揺れる足場に不安を感じながら、落ちないように真ん中を通って進んでいく。 「まさか自分がそれをやることになるとは思わなかったです」 「制限時間は限られている。早々に動くとしよう」 手に爪を填めて『閃拳』義桜 葛葉(BNE003637)が走る。その脳裏に浮かぶ一つの単語。 セリエバ。最近よく耳にするアザーバイドの名前。この事件もその関係か、と冷静に事件を思い、そして交戦の場へと視線を移す。今は良い結果を残すことに集中しよう。 「ふふ、こういうの一度やってみたかったのよね」 『似非侠客』高藤 奈々子(BNE003304)は葛葉の動きに合わせるように貨物車に乗り込む。少し腰が引けているのはご愛嬌。命綱を体に巻いて安全靴で貨物を踏みしめる。緊張しているのは久しぶりの依頼だから、か。あるいはこの状況だからか。 「氷原ちゃん忙しげやねー」 幻想纏いから矛を出し、『大風呂敷』阿久津 甚内(BNE003567)が『氷原狼』と『フェイト/ヘイト』との戦いを見る。見知った顔を見て甚内は真っ直ぐに『氷原狼』のほうに突っ込んでいく。 「ヤッホ氷原ちゃんおっ久ー」 「てめー! ってことはアークか!?」 『氷原狼』がアークのリベリスタの姿を確認する。 (この男は正直気に入らないのだが) 『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)は『氷原狼』を一瞥した後で物質投下を使って貨物車の中を進む。意趣返しをしたくもあるが、目的は列車を止めることだ。そのために真っ直ぐに列車を動かす先頭車両に向かった。 「確かに久しぶりね。今回は前みたいにビジネスじゃないみたいだけど」 『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)が『論理演算機甲「オルガノン」』と自身の神経をリンクさせながら問いかける。 「ちょっとしたプライベートでねぃ。いろいろあるんですぜぃ」 「安心しなさい。事情はある程度察してるわ」 「あらま便利だねぃ。『万華鏡』とアークのリサーチ能力は」 「こいつらの事を憎む気持ちはわかる」 『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)は『氷原狼』に向かって言葉を告げる。仲間を奪われる悲しみは、理解できる。そしてその悲しみが復讐の気持ちになるのも。 「僕だってそうだけど殺すのは待って欲しい。僕達と協力できないか?」 悠里が『氷原狼』に交渉を持ちかける。それは敵を減らす意味もあるが、『氷原狼』とは共感できる部分もあるからだ。 返事はない。ただ射抜くような瞳で『氷原狼』は先を促した。 ● 「よー、モテ期が来てたロリコンウルフ」 「あれ、モテ気過去形?」 陽子の冗談交じりの挨拶に律儀に応じる『氷原狼』。 「アークは列車停止と静止を問わずに列車強盗の撃破が目的だ」 「こいつらから引き出した情報はすべて渡す。フェイトヘイト根絶という面では協力出来ないかな?」 陽子の言葉を継ぐように悠里が言葉を続けた。思案する所に叩きかけるように奈々子が畳み掛ける。 「この最低な奴らを倒すには協力するのが一番手っ取り早い。違うかしら?」 ――実際のところ、『氷原狼』にとってこの提案は渡りに船であった。『フェイト/ヘイト』殲滅と情報が第一目標なのであって、列車事故自体はその手段でしかない。悪い言い方をすれば、後処理をアークに任せるのも悪くない……と思っていたところに。 『急停車は少し揺れる。バランサーなしの者はそれなりの準備をしたまえ』 物質透過で先頭車両に向かっていたオーウェンから連絡が入る。貨物車に制動がかかり、目に見えて速度が遅くなる。 「あー。そういう作戦だったわけか」 「……あ」 このときの『氷原狼』の思考が真っ先に判ったのは七花だった。ジャーナリストを目指すゆえの観察眼というべきものか。 『氷原狼』からすればこの状況は『リベリスタは交渉する形で陽動して、電車を止める作戦だった』と受け取れなくもない。そしてどういう形であれ、こちらの返事を出す前にリベリスタは行動していた。それはこちらを信用していないという証だ。 「協力しろといいながら裏で動く輩を信用しろ、というのはムシがよすぎませんかねぃ?」 「……否定はしない」 葛葉は拳を握って、フィクサードたちに相対する。交渉決裂したときも作戦に含んである。申し合わせたかのように、リベリスタ達は展開した。 『氷原狼』と『フェイト/ヘイト』、そしてリベリスタ。三つのグループが貨物車の上で渦を巻くように交差した。 ● 「僕ちゃん相手しちゃうようほほーい」 甚内が『氷原狼』を押さえる為に矛を構える。穂先での刺突、薙ぎ、斬り。石突きや柄での殴打。相手の神経を逆なでするような鋭い攻め。着かず離れずの距離をキープしながら、執拗に攻め続ける。 「アンタを殴ると痛いんだよなぁ。畜生!」 「んんー。僕ちゃんに構ってくれるの、うれしー」 氷の拳を振るって甚内に攻撃する『氷原狼』。その攻撃を矛を反転させて石突きで反撃する甚内。 「すぐに降伏してくれると嬉しいんですが……」 弱気な部分が表に出た七花が魔力を練る。集う魔力が魂を狩る死神となり、後ろのほうで戦闘を指揮していた『フェイト/ヘイト』のレイザータクトに切りかかる。七花の意向に反して、痛みは相手の怒りを煮えたぎらせただけだった。 「……多すぎてこじ開けるのは無理ね。まとめて吹き飛ばそうかしら?」 前衛過多で団子状態になっている戦場に向かって彩歌が呟く。聞こえるように言ったその言葉は、広範囲のノックバックを示唆させるものだった。 「いや、たしかねーさんはJ・エクスプローションを持ってないはずだ。少なくとも俺は見たことねぇ」 「あの後覚えたかもしれないわよ」 何度か相対している『氷原狼』は彩歌がそれをもっていないことを看破し……しかし彩歌はその一枚上を行く。もっとも、本当にもっていないのだが。どうあれ、これで警戒せざるをえまい。 「聞きたいことがある。君たちはどうやって自分のフェイト量を知ったの? アークの超天才、真白室長でも分からないようなものがそう簡単にわかるとは思えない」 拳に稲妻を携え、それを振るいながら悠里は問いかける。その問いを鼻で笑いながら『フェイト/ヘイト』の一人が答える。 「ハッ! アークの技術だけが最先端だと思うな! 六道のバーナードさんが教えてくれたのさ!」 「バーナード・シュリーゲン……あの男か! 騙されてるとか思わなかったの?」 六道。自らの研鑽と研究に全てをかけるフィクサード団体。悠里ならざるとも疑問に思うこと。その誤解をとけば彼らも改心するかもしれない。 だが、彼らの心の根は思ったよりも深かった。 「黙れ、『バロックナイツを倒した英雄たち』が! おまえ達は英雄で、俺たちはそうじゃない。それをあの男は証明してくれたんだ!」 「そして英雄を引き摺り下ろす方法もな! 英雄達の運命をセリエバに奪わせれば、俺たちにもチャンスがある!」 「無駄ですぜぃ。フェイト量の真実なんて、コイツラにとっては理由でしかねぇ。 単に英雄を憎み、強者を引き摺り下ろそうとする。それがコイツラの行動理念なんでさぁ」 『氷原狼』が『フェイト/ヘイト』の主張の後に、言葉を継ぐ。悠里はその精神に唖然とした。自分達の努力と結果に、平然と唾を吐くような彼らの態度。甚内に心を読んでもらい、それが事実だと知って二度愕然とする。 「義桜葛葉……推して参る!」 「運命を持つ奴等に俺達の気持ちがわかるか!」 「嫉妬か……フェイトの量が少ないから戦えないのか? 否、違うな」 葛葉は相手の繰り出す槍をしっかりと見る。その動きのクセと、そして生じる隙。その隙を逃さずに懐に踏み込んで、厚い鎧に拳を当てた。貨物車の屋根をしっかりと踏みしめ、全身の筋肉を爆発させるように一気に突き出す。 「臆病なだけだ。命が惜しければ、舞台から降りろ。覚悟も無く、願望しかない者に世界は微笑まん」 爆ぜるような音と共に『フェイト/ヘイト』の一人が吹き飛ばされ、貨物車の縁を越えて落ちていく。 「おいおい。コイツラを捕えないといけない事を忘れるなよ」 葛葉に一言告げてから、陽子がデスサイズを構えて宙に舞う。頭上で回転させて一気に二閃の刃が走った――否、三閃。その速さに隙が生まれル『フェイト/ヘイト』。時折突風などの不運に見舞われることもあるが、陽子は軽快な動きでカマを振るい、相手を傷つけていた。 そして先頭車両では、 「てめぇ、勝手に列車を止めるんじゃねぇ!」 「それが作戦なのでな」 なだれ込んできたレイザータクトが放った不可視の刃が、オーウェンを傷つける。流れる血を気にすることなく、オーウェンは相手の動きを封じる為に神秘の折で相手の動きを封じる。自己再生能力と動きを封じる神秘を駆使して相手を足止めしながら、相手の動きを読みきって最善手の攻めを行なう。それが『Dr.Tricks』の異名をもつ男の戦い方だ。 「……とはいえこれは、つらいか」 自己再生能力よりも、刃で傷つけられた出血量の方が多い。味方がいれば癒しが期待できるのだが、貨物車の上からこちらに援護は届かないだろう。 「生業を護り手、現身を人狼、名を高藤奈々子と申します。此度ば皆々様をお守りする為はせ参じ候」 奈々子は皆を守るために神秘の光を放ち、フィクサードたちからの悪影響を打ち払っていた。ダークナイトの闇や氷人形や『氷原狼』の氷など、継続すれば後に尾を引くものばかりだ。胸にある幸運のコインを握り締めながら、みなの無事を祈る。銃を撃つ暇がなく、もどかしい。 「その程度の攻撃で主役を引きずり降ろせると思って?」 「うるせぇ! たまたま選ばれたからって、いい気に成るんじゃねぇ!」 僻みの声が響く。それは戦闘の熱気の中、吹き飛び消える。 混戦はゆっくりと、収縮に向かっていた。 ● 「……ようやく倒れたか」 レイザータクトはオーウェンに動きを封じられながら攻撃を続け、地に伏したのを確認した。列車を動かす為に先頭車両の中に入り、車掌を起こそうと―― 「まだ勝ったと思うのは早いぞ?」 「え? うわぁ!」 死んだフリをして油断を誘ったオーウェンは、しかしわずかに憎憎しげであった。この策はあの『氷原狼』にしてやろうと思ったのだが。傷口の血を拭い、心をクリアにする。オーウェンは自らの体を癒しながら、最善手を練り始めた。 三すくみにおける三グループの行動は、三者三様だった。 まず『フェイト/ヘイト』はアークのリベリスタを攻撃し始める。自分たちを中心的に攻撃を仕掛けることもあるが、単純に英雄候補生たちに対する恨みもあった。 そしてアークはその『フェイト/ヘイト』に集中的に攻撃をしていた。列車強盗の犯人でもあるが、複数攻撃を持つダークナイトの攻撃を放置はできなかったというのもあるのだろう。 「事故さえ起こさなければ復讐うんぬんに文句は言わないんだけどね」 「まー仲良くやれると思うよー? 知った通りのアークやしー」 「アークの立場は理解してるつもりですぜぃ。でもこちとらフィクサードなんでねぃ」 『氷原狼』は彩歌や甚内などと会話をしながら、アークと『フェイト/ヘイト』の両方を相手していた。自ら連れた氷人形に自分を庇わせ、その背中越しに自らの近くにいるものを、氷点下の拳で攻めていた。 「あわわっ。皆さん大丈夫ですか? 回復しますね」 後方から魔力で援護していた七花が回復の風をリベリスタに送る。闇のオーラや氷拳で受けた傷口が、見る見るうちに塞がっていく。 「そんな劣等感のためにおまえ達は罪のない一般人を犠牲にしたのか!」 「つまらんな。負の感情で動いたところで心は満たされぬ」 稲妻を帯びた悠里の拳と鎧の内側に衝撃を伝える葛葉の拳が、ダークナイトに突き刺さる。倒れる寸前、その瞳に写ったのは最後まで嫉妬と狂気の色だった。 「セリエバを召喚し……運命を平等に……」 安定した回復と高い攻撃力。何よりも人数の優位性もあって戦いはアークが優勢だった。とはいえそれは、 「やっぱ強いねー。僕ちゃんじゃきついやー」 多人数戦に長けた『氷原狼』を、甚内が一人で押さえていたことにある。冷気に膝をつきそうになるが運命を燃やして氷狼の冷気を溶かし、頭をかいて復活する。 「わたし、ロザイクさんのところにいってきます」 七花は先頭車両で戦っているオーウェンのところに向かって走る。邪魔をするものは全てリベリスタが押さえている。七花は先頭に向かって歩を進めた。 「これでおまえ一人だぜ。どうするんだ、ロリコンウルフ」 陽子のカマが氷人形の最後の一体を破壊する。『フェイト/ヘイト』は全て倒れ、Eゴーレムも全て破壊された。肩をすくめて『氷原狼』は、 「俺は元気でそっちは手負い。どっちが勝つか判りませんぜぃ」 「そうかしら? こっちは『万華鏡』による情報アドバンテージがあるわ。あなたが来ることが判ってるから、対策は万全よ」 「……まー、ねーさんの顔を見た時に、あちゃーとは思いましたがねぃ」 彩歌の言葉に、過去にリベリスタ相手に精神錯乱による状況突破を試みようとしたときのことを思い出す。あの時彩歌が対策を施してなければ、逆転の目もあったのだが……まぁ、それは過去だ。 「個人的には君の闘技に興味があるんだよね」 「フィクサードは倒す。それ以上はこの拳で語ろう」 「僕ちゃんも、まだまだやれるよー」 悠里と葛葉が拳を『氷原狼』に向ける。甚内も矛を構えて、嬉しそうに笑った。傷はまだいえていないが、戦意は充分だと構えを取る。 硬直する貨物車。一歩でも動けば戦いは再会される。そんな緊張の中、奈々子の声が響く。 「狼さん、ツンドラを名乗るなら誰彼かまわず噛みつく前にクールになりなさいな。一番憎い奴の喉元に噛みつく前に貴方も無駄に死ぬ気?」 その言葉は緊張した場面にするりと滑り込む。肩をすくめて『氷原狼』は一歩退いた。 「ま、アークが預かるのならコイツラに回収は無理でしょうしね。しゃーねーってことで」 「『フェイト/ヘイト』の情報はいいのかい?」 「共闘を断った以上、そいつを受け取るのは野暮だねぃ。あんたらはリベリスタ。俺はフィクサード。そういうことですぜぃ」 そのまま躊躇なく貨物車から飛び降りた。併走していたバイクのEゴーレムに飛び乗って去っていく。 「またな。おまえがいると任務が楽しいぜ」 「今度リーディン……ツーリングでもしよっぜー」 陽子が投げキッスをして、甚内が手を振って『氷原狼』を送った。 「……終わったか?」 先頭車両のほうから、交戦していた『フェイト/ヘイト』を拘束したオーウェンがやってくる。七花の回復が勝機を呼び、フィクサード捕獲に至った。気を失った『フェイト/ヘイト』を引き上げ、拘束する。 「貨物車の中は……破界器か。アームズにプロテクターに……」 「珍しいアーティファクトはなさそうだな」 七花と葛葉が貨物車の中を調べていく。どうも武装を輸送する為の列車強盗だったらしい。とはいえ、全国のフィクサードが一斉蜂起すればその混乱は恐ろしいものになる。それを防げたのは、僥倖だろう。 (仲間を失う苦しみ。気持ちはわかるわ) 奈々子はもう姿の見えない『氷原狼』のほうを見ながら、幻想纏いに武装を戻す。昔仲間を失ったことのある彼女にとって、彼の痛みは理解できる。 「なぁ、これなんだと思う?」 陽子が破界器の中に隠すように置いてあった記憶媒体を見つける。 「中を見れば、何かわかるかもしれないな」 「えろい写真を隠していただけかもしれないけどねー」 オーウェンの言葉を甚内が茶化す。 「おまえ達はいろいろ喋ってもらうからな」 「安心しなさい。アークは良心的よ」 悠里と彩歌が『フェイト/ヘイト』の二人を起こし、笑顔で告げる。友好的な笑みだが、有無を言わせぬ圧力が篭っていた。それに逆らう気力は、彼らに残っていなかった。 「これは……」 「……海図?」 回収した記憶媒体の中にあったのは暗号化されたファイル。それが示すのは、日本から離れた海。そこを走る数本の線。そして『SELIEBA』と書かれた赤丸の点。 「この線は……船の航路か?」 「つまりこの場所がセリエバ召喚ってことか。どこか判るか?」 「難しいな。これだけだと海域の特定が難しい。もう少し情報があれば……」 手詰まりだ。と諦めるアーク職員。 しかしリベリスタが浮かべた表情は諦念ではなく、希望だった。 「なら、情報を集めればいいんだろう?」 害悪なアザーバイドにたどり着くための糸を捕まえた。 か細く頼りない糸だが、まだそれは繋がっている。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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