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あさきゆめみし


 男はただ夢を見ていた。
 ふわふわと漂う、心地よいまどろみ。
 そこには悲しいことや辛いこと、苦しいことなんて何一つなく。ぼんやりとした思考の中、男は夢想する。
 ぽっかりと胸に穴が開いたように、清々しい。何かに優しく包まれているかのように温かい。こんな心持になったのはいつ以来だろうか。
 それは母に抱擁される子供の心境に近いのかもしれない。
 男はもう随分と昔に母親をなくしているから――いや、それでなくても物心つく頃には母に抱きしめられることに羞恥心を覚えるようになっていたから、もう20年以上も昔のことだろうか。
 それはだから、記憶というよりも体が覚えている感覚なのかもしれない。
 もうどれだけここにいるのだろうか。
 一瞬だけのような気もするし、永遠のようにも感じる。
 眠り続ける脳はそれ以上に思考を紡がないし、何よりも紡ぐ必要がないと思えるほどに男は安らいでいた。
 ずっとこの場でたゆたっていたい、と。
 やがて男はそれだけを願うようになっていく。
 ――現実世界の彼自身がどうなっているのかなど、想像だにせずに。


「……と、いうわけで今回はこのアーティファクトの破壊をお願いいたします」
 いつも通りにブリーフィングルームに呼び出されたリベリスタ達は、目の前にいるあまり見覚えのない少女の姿に若干困惑気味の表情を見せる。
 少女は真新しそうな清楚な白のワンピースを着こなし、リベリスタ達が向ける表情にもたおやかな笑みを返しつつ、
「……私のことは気にしないで」
 膝にちょこんと乗せた『リンク・カレイド』真白・イヴ(nBNE000001)の頭を撫でていた。
「あ、私は日向咲桜と申します。以前からちょこちょことこちらにはお世話になっておりまして……事務の方なんかとは結構顔を合わせたりしていたんですが、リベリスタの方達とお話をするのは――こうしてフォーチュナとしてお話をするのは初めてですね。以後お見知りおきをお願いいたします」
 イヴを膝から降ろし、立ち上がってからぺこりと一礼する『あさきゆめみし』日向・咲桜(nBNE000236)。
 そんな少女の隣で、ようやく開放されたイヴが補足するように付け足す。
「色々なことがあって、以前からアークに拾ったアーティファクトなんかを保管しに来てくれてた子なんだけど……この度晴れて革醒して、これがフォーチュナデビュー」
 ぱちぱちぱち、と乾いた拍手をしながら、まぁ、晴れて……なんて、本来なら到底言えるような目醒め方じゃなかったけど。なんて僅かに言葉を濁しながらもイヴが続ける。
「私は今回、初めての仕事をするこの子の補佐としているだけ。基本はいないものとして扱って」
 なるほど、だから先ほどの私のことは気にしないで発言か。
 納得の表情を浮かべるリベリスタ達を見て、皆が十分の事態を飲み込んだことを確認してから、咲桜が一歩前に出る。
「今回の破壊、ないし確保対象のアーティファクトはドリームランド、と呼ばれるものになります。鍵状の形をしていまして、効果は身につけたまま眠りについた方をそのまままさに夢のような世界に導く効果があります」
 効果は鍵自体が壊れるか、所有者が夢からの脱出を望まぬ限り永遠に続くという。
「所有者の方が望めばいつでも脱出することは可能……とはいえ所有者は文字通り眠り続けています。何も知らぬまま、眠ったままの脳でそれを望むことはほぼ不可能でしょう」
 それがリベリスタであるというならともかく。
 ただの善良な一般市民にとってぬるま湯に浸かったような夢心地の中、苦しいことも辛いことも悲しいことも全部忘れて停滞の中をたゆたい続ける誘惑に抗う、というのは至難の業だ。
「それにこの鍵の効果はそれだけじゃないんです。……いえ、この効果はむしろ副産物的な物でしかないんです」
 この鍵の真の効果。それは――
「所有者の負の感情を全て『外』に吸い出して、ハッピー状態になった所有者の精神を吸収し、それをエネルギーとして鍵内に貯蔵する、というもの。……多分、昔の研究者の方が何らかの目的で作り出した物だろうと推測されます」
 そしてその目的を果たすことなく研究者は命を落とし、鍵だけが残り無為にエネルギーを貯蔵し続けるアーティファクトの出来上がり、というわけだ。
「所有者から吐き出された負の感情は具現化して周囲に被害を及ぼします。今回の方の場合、人の姿をした影が二体、獣の姿をした影が二体で計四体です。……鍵はゆっくりと不純物を濾すように負の感情を抽出するはずなんですが、これだけ一気に吹き出ているところを見ると、よほどストレスの多い生活を送っているのかもしれません」
 人型はおそらく人間関係、獣は本能的なストレスの顕現だろうとのこと。
「この負のエネルギー達は、通常はぼんやりと立ち呆けるくらいなんですが……この四体は、そのストレスを発散させるかのように互いに取っ組み合ってケンカを始め、次第に周囲の物を壊すような規模で暴れ始めます。そして暴れれば暴れるほど鎮静するかといえばそうではなく、より所有者の中から負のエネルギーを抽出して凶暴化します」
 まるで餓鬼のように。暴れれば暴れるほど満たされない空虚感にさらに苛立つ、という悪循環。
「このエネルギー達、ただ普通に倒しただけではしばらくするとまた復活してしまいます。復活……というのとは少し違いますね。これは所有者の負の感情の象徴なので、また新しく作り直されてしまいます。そして互いにいがみ合う彼らですが、利害の一致……鍵、あるいは所有者に危害を加えようとする者が現れた場合は一致団結して牙を剥いてきます」
 元々が一つの場所から生まれたエネルギー達。その辺りの連携はお手の物ということらしい。
「すぐに作り直されてしまう彼らをやっつける方法は、二つ。一つは鍵の破壊。もう一つは所有者を殺害する方法です。前者の場合、アーティファクトそれ自体が破壊されるのですぐにエネルギーは霧散します。ただ、相当量のエネルギーを貯蔵している鍵。それを破壊する際にはそれ相応の反動があるものと覚悟してください。後者の場合、死体にも残留思念のようなものが残るため、改めてエネルギー達の撃退が必要になります。残留思念だけではエネルギー体を作り直すだけの出力を出すことは出来ませんので、それを撃退した後、鍵を回収してください。鍵は身につけ眠りにつかなければ効果を発動しませんので手にするだけなら大丈夫です」
 ちなみに鍵は既に所有者とリンクして夢の世界を見せてしまっているため、今の段階で所有者と引き剥がして距離をとったところでそのリンクが切れることはないという。
 現場となる部屋はワンルームマンションの一室。おそらく4人も並べばそれだけで一杯になってしまうほどの広さしかない。
 そして鍵と所有者に近づけば近づくだけその攻撃は苛烈になっていくという。
「ついでに、この所有者の方だけど……もし鍵を破壊した場合、すぐに目を覚ます可能性が高いわ。だけど鍵にそのストレスの殆どを吸い取られちゃった状態だから、軽く自分の状態について混乱してそのことだけで手一杯になるはず。その隙に脱出するなりフォローを入れるなり自由にしていい」
「ストレスは大きすぎると病気になってしまいますが、無ければ無いでそれもまた問題だ、ということですね。……ってイヴちゃん、なんで私の台詞取っちゃうんですかっ」
「いないものとして扱ってとは言ったけど、本当に何もすることなく終わったらそれはそれで芸が無い」
 もう、仕方ないですねーと苦笑しながらも、一応初仕事としては及第点をもらえたみたいでほっとした表情をする咲桜。
「こちらから提示できる情報は以上です。あとは皆さんの判断に任せたいと思います」
 よろしくお願いします、と。
 改めて一礼する咲桜に、リベリスタが頷きを返す。
 この少女が胸を張ってこれが初依頼だと誇れるに足る結果を持って帰ろうと胸に誓いながら。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:葉月 司  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年10月20日(土)23:34
お久しぶりすぎる葉月司です。
今回は夢見続ける鍵と男性のお話です。
成功条件は「鍵の破壊か回収」となります。
それでは詳細な戦域情報いってみましょう。

場所:
ワンルームマンション。
時間は人気の少ない昼間です。
部屋の幅はあまり広くなく、並ぶだけで4人。きちんとした戦闘スペースを確保しようとするなら3人が限界でしょう。

敵:
人影×2
直接攻撃力はあまり高くはありませんが、相手を精神的に追い詰めることが大好きです。
相手を口汚く罵りながら遠距離範囲にダメージと呪縛、あるいは不運を付与する攻撃をしてきます。
また、接近してきた敵には凶運を付与する打撃攻撃を行ってくることもあります。

獣×2
直接攻撃に長けた犬のような姿をした獣です。
牙で敵を引き裂きながら駆け抜ける貫通攻撃、あるいは単体への噛み付き攻撃を行ってきます。
稀にその牙から滴る毒で相手を混乱状態に陥れることがあるようです。

*これらの敵は撃破されても鍵と所有者がいる限り、1~3ターン内に復活してしまいます。

眠り続ける男性
ベッドで眠り続けています。
また鍵をネックレス状にして身につけたまま眠っており、鍵は現在毛布に隠れています。
鍵を狙う場合には毛布を剥がすか直接鍵を奪取するしかないでしょう。
なお、男性と鍵が別たれた場合、敵も二分して両方を狙う敵を襲ってきます。

今回のマップは大体こんな感じです。
とっても狭いです。

壁壁壁壁壁
   眠  壁
 人  人 壁
 獣  獣 窓
       窓
       壁
       壁
台台  玄 壁
壁壁壁玄 壁
それでは、今回もよろしくお願いします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
宵咲 瑠琵(BNE000129)
ソードミラージュ
神城・涼(BNE001343)
ホーリーメイガス
リサリサ・J・丸田(BNE002558)
ナイトクリーク
鳳 黎子(BNE003921)
プロアデプト
ヤマ・ヤガ(BNE003943)
ダークナイト
街多米 生佐目(BNE004013)
覇界闘士
遊佐・司朗(BNE004072)
覇界闘士
宇佐見 深雪(BNE004073)


「夢を観続ける鍵か」
 男の部屋へと続くドアの前。そう呟いたのは『chalybs』神城・涼(BNE001343)だ。
「夢の中では自分の思う通りにできるだろうしなぁ……」
 たとえば彼女を作ったりハーレムを結成したり。
 今回の男の場合、それは母胎回帰であったわけだが、
「本人は幸せなのかもしれんね。うん。もしかしたらだけども」
 自分の夢と重ね合わせながら、そんなことを試しに言ってみる。
「それは、己が為には……全くならぬだろうがな」
 試しに言ってみて、うんと『カゲキに、イタい』街多米・生佐目(BNE004013)と同じ思いを得て頷く。
「まぁ、そうだよなぁ。……うむ、やっぱり放ってはおけんからな」
 心の片隅、どこかにあるかもしれない羨ましと思う気持ちを、その言葉で押し殺す。
「しかし、この方は仕事でストレスでも溜まっていたのでしょうかー」
 それだけの価値がある事なんてそんなに多いものですかねえ。そんな風に嘯きながら、『ブラックアッシュ』鳳・黎子(BNE003921)が仕方ありませんねえと苦笑する。
「まさに仕方ない、だの」
 これは本来、自分の……『ヤマ』の仕事ではないが。だが自身、『必要悪』ヤマ・ヤガ(BNE003943)もアークの一員。たまには真っ当な人助けも悪くはない。
「身に付けるものによっちゃぁ偉いことになりそうだし、の」
 そうやって各々が見つめるドアの先、じっと聞き耳を立てていた宇佐見・深雪(BNE004073)が中の様子を一通り把握し終えたのかこくりと頷き皆の方へと振り返る。
「ドアの向こうから、普通の人っぽい音はないから、中に入っちゃえばとりあえずは安心だと、思う」
 初めての仕事で緊張する体を自覚しながら、それでもしっかりバシっと決めなきゃと頬を張って気合いを入れ直す深雪。
「では、行こうか」
 そんな深雪の頭を撫でてやり、ヤガが錠穴に気糸をねじ込んで強引に開錠する。
 ――ここから先に在るのは、本来なら男の内に眠っているはずの世界だ。
 外郭である男の人格は内に篭もり、その内面の一部がこの先の小さな空間に男の世界として表出している。
 夢と現。ストレスのない世界。――笑顔。
 あぁ、
「思い出した。あやつらが助けた娘、じゃ」
 向けられた笑顔の先の郷愁に触れる。
「……抗えぬ夢を見せて対価を吸い上げるなど詐欺も同然。何の為に作ったのかは知らぬが叩き壊すとするかのぅ」
 触れた面影にかすかに想いを馳せてから、『陰陽狂』宵咲・瑠琵(BNE000129)がドアを蹴り開け男の世界へと踏み込んだ。


 まず真っ先に動いたのは涼とヤガ。
 部屋の広さと敵の位置を把握し、まずは六人全員が部屋へ侵入できるだけのスペースを確保すべく前へ出る。
『――ガルゥ』
 そんな突然の闖入者にまず反応したのは獣の二体だ。
 互いの首元に噛みついて暴れていたかと思うと一瞬で身を翻し、リベリスタ達の方を向いては警戒心をむき出しに喉を鳴らす。
「ほう、理性がないくせに一丁前に警戒するか。ふっ、それでこそ我らに相応しい敵よ!」
 生佐目が言葉と共に戦意を放ち、さらに獣達の意識を向けさせる。
「いくよ」
 最後に部屋へ入ってきた深雪が空を蹴り、生み出したかまいたちを獣に当てれば警戒は完全なる敵意へと変わる。
 深雪目掛けて襲いかかる獣。その牙を黎子が双子の月の柄で押し留め、前線を構築するため獣を後方へと押し込む。
「さぁ、最初の一撃はどっちに当たりますかねえ」
 翻るドレスから舞うカードが標的を定め、目の前の獣を襲う。
 獣は咄嗟に柄から牙を離し後退し、僅かなかすり傷のみで黎子の攻撃をやり過ごす。
「うぉっと」
 その隣では狭い場所での戦闘にやややりにくそうに顔をしかめる涼がいる。どうやらこちらも素早く動く獣にうまくいなされてしまったようだ。
『――ふん』
 そうして奥から聞こえるのは、そんな二人をあざ笑うような不快なだみ声。
 続く言葉は潰れてひどく不明瞭。それは嗄れてもなお人を貶し続けた為に言葉を奪われた成れの果てだと言われても納得できてしまいそうなほどに醜く、しかしはっきりと人を馬鹿にした声。
 それが鼓膜を震わせ脳を侵し体を蝕んでいく。
「……ふむ。獣は前に、されど人影は前に出ずか」
 そんな人影の声は涼や黎子のみならず、狭い部屋に密集する形のリベリスタ全体に不快感をもたらす。
 それはスペースの有効活用と、器用に台所の上に立った瑠琵も例外ではなく、しかし眉をひそめながらも状況を分析する。
 どうやら人影の声の影響はこの狭い空間のほぼ全体に及ぶらしい。
 ならば人を馬鹿にする――高みの見物を気取る人影がこちらへ接近してくるとは考えにくい、かのぅ。
 本来ならば人影もこちらへ引きずり込んでから「作戦」を決行する予定だったが、そうも言ってられないようだ。
「若干、作戦に変更を加える必要がありそうじゃな」
 人影が動かないのは若干計算外だが、獣達だけでも釣れるならまだやりようはある。
「ヤガ、ちょいと脇を通るぞ」
 既に傍らに作り出していた影人をするりと移動させ、さらに符を飛ばし獣の奥にもう一体の影人を作り出す。
 高所にいたのが幸いして、符は獣達の上を通り過ぎ見事に影人へと生まれ変わる。
「リサリサ、わらわの影人が人影を引きつけてる内に奪取するのじゃ!」
「了解いたしました!」
 獣が影人に反応するよりも早く、瑠琵は二体の影に命令を送り人影へと突撃させる。
 それと同時に獣の左後方にあたる窓が砕け散り『青い目のヤマトナデシコ』リサリサ・J・マルター(BNE002558)が室内へと侵入を果たす。
『グル……!』
 突如現れた侵入者に対し獣が唸り、その背に追い縋ろうとするが、
「やらせんよ」
 ヤガの両手が繰る気糸が床へと縫いつけてその足を鈍らせる。
 そして続くように放たれる涼の剣戟が、黎子の気糸が獣の思考と動きを縛り付ける。
「喰らえ――我が一閃、一薙ぎ!」
 生佐目がロングボウより射出させた障気が獣と影人を追い越して人影にまとわりつき、影人を僅かに延命させる。
 その隙を突いてリサリサが眠り続ける男に近づいてその体を覆う毛布をめくり、
「これは……」
 男の様子を見て、リサリサが少し困ったように言葉をなくす。
「すみません、少しだけ鍵を取るのに時間が掛かってしまうかもしれません……!」
 自らの腹部を貫く人影の腕の大半は神秘的なエネルギー体なのか。体に風穴が開くことはなく、しかし確かな衝撃と異物が体内へ侵入する不快感に眉をひそめながら、リサリサが男の状況を皆に伝える。
 鍵を首に掛け、右手で鍵を握りしめる男の様子を。
 無意識に鍵から逃れようとしての行為か、それとも逆なのか。ともあれ、護ると誓った相手に危害を与えるつもりは毛頭ない。
 執拗に腕を振りかぶり攻撃を繰り返してくる人影の一体を睨みながら、決意を新たにする。
 人影の攻撃は腹部に集中している。貫かれる度に衝撃と、内蔵をぐちゃぐちゃにかき混ぜられるような不快感と嫌悪が体を駆け巡るが、物理的に腹部に風穴が開いているわけではない。
 ――ならば大丈夫、この程度なら。
 単純なダメージならば、耐えることができると。
「聞こえていますか……? 大丈夫です、アナタはワタシが護ります……」
 囁きながらそっと男の手を解きほぐす。
 そんなリサリサを忌々しげに睨み舌打ちする人影。だがさらに苛烈に攻撃を加えようとする人影の背中を、挑発するように啄む小さな何か。
『――――!』
 ただでさえ目の前の女が目障りだというのに、邪魔をするなと振り返る。
「あぁ、ようやくこっちを向きおったのじゃ」
「それ以上、そっちには手を出させないよ……!」
 そうして見れば台所の上で仁王立ちする瑠琵の姿とその隣で構えていた深雪からの斬風脚が飛んでさらに苛立ちを倍増させてくる。
「あぁ、もう、一度ゆっくりと取り外させるためにもこいつらをやっつける必要がありそうねー!」
 だが人影よりももっと苛立ちを募らせていたのはおそらく黎子だろう。
 他の誰よりも必殺の一撃を信条にし、そしてその分失敗も増える彼女と人影との相性は最悪だ。
「まぁ、なんだ。失敗する度に笑われて、馬鹿にされて、そんなことを繰り返されたら、そりゃフラストレーションも溜まるよな……」
 段々とささくれ立っていく彼女の様子は隣でずっと獣を抑えていた涼が一番よくわかっている。
「いい加減鬱陶しいし、一度サクッと片付けるとするか!」
 一度踏み込んだ足にさらに力を込め、いくつもの幻影を生み出し獣を切りつける。
 それに合わせるように黎子がカードをばらまきもう一方の獣を切り刻む。
 ほぼ同時に霧散する獣。その空いたスペースをヤガが駆け抜け人影の喉を潰すように気糸を放つ。
「元々ひしゃげておるし、あまり意味はないかもしれんがの」
 だがそれでも、多少は不快な声を抑えられるかもと期待を込めて。
「前に出てきたがらぬ恥ずかしがり屋さんめ……こっち見ないと撃っちゃうぞ☆」
 寂しそうな声音の中に若干の照れ隠しをブレンドしつつ、生佐目が決め顔でポーズをとる。
 恥ずかしい? いやいや、若さとは振り返らないことである。
「ようやく、取れました……!」
 仲間達がなんとか敵の意識を逸らしてくれたとはいえ、決して無視はできないダメージを蓄積させたリサリサが苦しげに、だが確かにその手にしっかりと鍵を握りしめて仲間に告げる。
 本当ならこのまますぐにでも窓の下に待つ仲間へと向けて投げたいところだが、今投げてしまえばそちらの方で獣が復活してしまう。
 それを避けるため、タイミングを見計らう。
 その間に自分以外――特に獣を正面で受け止めていた涼と黎子の怪我がひどいと見て天使の歌を紡ぎ皆の傷を癒す。
「人に仇成すモノに対して折れる心であると決して思うなかれ」
 人影は鍵を奪い返そうとリサリサを狙い、リベリスタ達は黎子やヤガなど、主に状態異常で敵を拘束できる者が中心に人影の動きを封じようと試みる。
 完全には防ぎきれない人影の攻撃に、けれどリサリサは決して怯まず歌を紡ぎ続ける。
 そしてようやく鍵から影が生まれ、獣が部屋へと出現したのを確認し、リサリサが鍵を窓へ向けて放り投げる。
「鍵ですっ! よろしくお願いしますっ!!」
「よっし、承ったぁ!」
 それを階下で受け取るのは『骸喰らい』遊佐・司郎(BNE004072)だ。
「……げ。あの高さから勢いつけて飛んでくるとか、しかもぴんぴんしてるとかどんだけ現実離れしてるんだよ」
 リサリサの投擲にとっさに反応できた敵は獣の一体だけ。
 だが見上げれば三階分の高さはある場所から平然と落ちてくる身体能力の高さは司郎一人には少々荷が重い。
「来んな、マジで来んな。むしろ死ね!」
 本当は鍵を適当な場所に置き、遠距離からの破壊を試みるつもりだったが、どうやらこの獣はそれを許してはくれなさそうだ。
「やだなぁ、死ぬほど痛いんだろうなぁ。でもやらないと深雪ちゃんが怪我しちゃうのは嫌だしあぁもうやればいいんだろ!」
 半ば破れかぶれに鍵を足下に叩きつけ、かまいたちをも生み出す鋭い健脚で鍵の破壊を試みる。
 ――が、溜め込んだ力のせいか、それとも元より頑丈に作られていたのか、一度の攻撃では破壊しきれない。
「……いやいや、これで壊れないの? もうゲームの世界か小説の世界に帰れよ」
 悪態をつきながらも、司郎は頭で必死に優先順位を判断する。
 鍵は多少耐久力があるとはいえあと一、二回も蹴ればさすがに壊れるだろう。だが一人で鍵を奪われないようにしながら壊すというのは厳しい。なら変に意固地を張らずに応援を要求するべきだ。
「よし、そうしよう。誰か、プリーズ!」
「はいよっと」
 呼ばれて応えたのは――瑠琵が召喚した影人に抱えられて落ちてきた涼だった。
「若干情けない登場なのは勘弁してくれよ? あそこから普通に飛び降りたら足を――機動力をやられるからな」
 肩を竦めながら、落下の衝撃で消滅しつつある影人に労いの視線を送って獣と対峙する涼。
「爆発に巻き込まれるかもしれない場所にレディ達を送り込むわけにもいかんからな。ま、援軍は俺一人で勘弁してくれ」
 その代わり、きちっと護ってやるよと。回り込んで司郎を襲おうとする獣にぴたりと張り付き阻止する涼。
「あぁ、それはナイスな心意気だねぇ……」
 少なくとも、ここで彼女が降りてきていたなら破壊を躊躇っていただろうし。
「ならいっちょ、男らしく格好良いところをみせましょうか!」
 そして今度は躊躇わずに鍵を踏み抜いた。


「えっと、深雪ちゃん大丈夫? 怪我してない? 怪我してるならおぶってくよ?」
「ん、私よりも……司郎君の方こそ大丈夫? 私がおぶっていこうか?」
 さっき外からすごい音がしたし、こんなにボロボロな姿になってるし。と、司郎を見ながら深雪がおろおろする。
 ――あれから。
 新米フォーチュナの言葉通り、鍵の破壊と同時に人影と獣の姿は霧散し、今はその後処理。
 ちらりと深雪が視線を向けた先には、壊れたドアの向こうで部屋に残ったリベリスタ達が、
『実は草野球をしていたら窓を割っちゃいましたー』
『えぇっ!? ここ三階ですよっ! ものすごいフルスイングですねっ!?』
『いやいや、実はここの台所でガス爆発が起こってな?』
『なんとっ! それでこの大惨事なわけですねっ!?』
『と見せかけて本当は押し込みを見かけたでな。それで踏み込ませてもらったがあいにく犯人は取り逃がしてしまってな』
『それでこの惨状っ!? むしろ俺よく生きてましたねっ!?』
 男の反応がいちいちおもしろいせいであることないことを吹き込んで遊んでいた。
 きっとあのツッコミ体質が男のストレスの元なんだろうなぁと想像しながら見ていると、どうやらからかって満足したのか、ほくほく顔のリベリスタ達が玄関を潜って帰ってくる。
 まぁ、とりあえず時村系列の金融機関系の連絡先は伝えたみたいだし、あとは彼が脳内で勝手に自己完結してくれるだろう。
 悲しいかな、彼はツッコミ体質。そういう自己完結は得意のはず。
 大丈夫。きっと、多分。
 だが今はまだひたすらに首を捻りつつ唸る彼に向けて、リサリサが最後に一度だけ振り向き呟く。
「おかえりなさい。永遠に続く夢の時間は幕を閉じました……」
 その言葉は果たして彼に伝わったのか。
 それは定かではないが、ふっと笑みを残し去っていく。
『一体なんなんだーっ!?』
 後に残されたのは、日常を取り戻した彼の悲痛な叫び声だけだった――。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
おつかれさまでした。
当初、眠り続ける男の性格はこんな感じじゃなかったのですが、終わってみれば妙にキャラが立っていたような気がするのはきっと気のせいです。
久しぶりの依頼ということもあり人が集まるか不安でしたが、無事に集まり参加者の皆々様には感謝です。
一つでも多くにやりとできるシーンがあれば幸いです。
では、また。
ご縁がありましたらまたいつかどこかの依頼でお会いしましょう。