●静岡県北部 -Fuji- 「今週はカツカレーが良いですね」 『地獄カレー』横須賀 麗華は、静岡の北部で大きく伸びをした。 広大な豚さん農場が広がり、青々とした空が視界の上半分を埋めている。雄大な富士山が空気遠近で薄紫に見えて、たなびく雲と富士山の入り混じる様子が、だんだら模様に見えた。 とにかく目にうれしい。空気もおいしい。 麗華は、数週間前まで小さなカレー屋を営む一般人だった。 小さなエリューション事件に巻き込まれ、神秘的カレーを全身に浴びた事が革醒に至る経緯である。手に入れた能力はカレーに注がれ、今まで以上にカレーに精進していた。 「農場の連中の拘束が終わったわ。邪魔者が来ないうちにさっさとやるわよ?」 「はーい。お腹空きましたからね」 麗華と行動を共にするパンツスーツ姿の女が、魔眼で飼育員を転がせる。転がしながらお腹には手をあてている。空腹が高じている様子に、麗華はテーブルを組み立てて準備をした。持ってきた大鍋をコンロに乗せる。中身はカレーに他ならない。 「ぶひー」 外でのびのびと遊んでいる豚の群。 呑気にごろごろ転がる豚に対して、麗華はエネミースキャンをした。 中ヨークシャー品種。イングランドのヨークシャー州原産のその品種は、過去に日本で大量に生産されていた不細工な豚。鼻が上向きにしゃくれ上がり、やはり不細工である。 この品種は生産効率が悪く、原種はほぼ絶えている。今では絶滅危惧品種とさえ言われる希少な豚で、下手な穀物飼育の牛肉よりも高価である。 そしてその豚の最大生産地は、静岡県の北部。静岡の東部にある三高平市から、車で富士山に向かえば日帰りも余裕な位置にある養豚場。割とガチでノンフィクションだから驚きだ。 「この豚さんなら、とってもおいしいカツカレーが――あれ?」 麗華の前に、中ヨークシャー種にしては大きい豚が三匹、のそのそやってきた。 ぶさかわいいというものではなく、何とも人相――豚相が悪い。 「ぶひーーーッ!!」 突然、三匹の豚は前足を上げて二足歩行をした。パンツスーツ姿の女が驚愕するのも束の間に、その辺の棒切れを拾って振りかぶる。 「っ!?」 麗華は振り下ろされた棒きれを、咄嗟にオタマ型破界器で防ぐ。 背中にある解体用のブッチャーナイフを構える。 「麗華! 逃げるわよ!」 麗華は仲間の声に応じなかった。最高級の豚が眼前。その胸裏は茶色でうめつくされている。 「私のカレーを食って地獄に落ちろぉぉぉぉ!」 ●今日も元気だカツカレーが旨い! 「カツカレー」 「支度だ、皆!」 『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)の言葉に対して、席を「ガタッ」と立つ訳でもなく、カレーのプロらしきリベリスタが粛々と準備の音頭をとる。 「イヴ、場所は?」 「んと、ここ。結構近い」 資料としてパンフレットを広げれば、静岡の北部。富士山の麓である。 静岡の東部に位置する三高平からは確かに近い。 「豚さんを盗もうとした三尋木派のフィクサードが、豚さんに逆襲されるっていう話」 三尋木は、最高権力者が女性のフィクサード組織であり、そのカラーは何ともインテリヤクザといった部類の組織である。 何とも間抜けなのか運が悪いのか。 「フィクサードは三人組。カレー作りに長けた横須賀 麗華っていう多分初出のフィクサードと他二人。前は小さなカレー屋さんを経営していたんだけど、革醒してフィクサードに転職したのね。日が浅いし周りのフィクサードの方がまだ強いと思う」 資料を見れば、『華麗なるみっひろきぃ』という店を営んでいたという。 フィクサードに転職したあとも、やっている事はカレーづくりとは、度し難いほどのカレー好きと見られる。しかし、カレーの材料を強奪しようというのは頂けない。カレーに失礼極まる。 「フィクサードの一人が農場の人を拘束しているから、交戦すると安否が不安ね」 イヴはフィクサードについてひと通り述べると、次の資料を出した。 色鉛筆の豚の絵である。何ともぶさ可愛い。 「最悪、フィクサードは良いわ。本題は豚さんの方」 リベリスタとしては、E・ビーストが重要だ。存在そのものが崩界を招くからである。 「放っておけばフィクサード側は逃げ出すと思う。あと豚さんはぶさいく」 ぶさいくは置いておくとして、フィクサードが多少削った後から仕掛けるのが一番効率が良いだろうか。 カレーに魂を引かれたリベリスタ達は相談を始めた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Celloskii | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月18日(木)22:57 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●食には勝てぬ 山に風 -Hana Yori Dango- 「カツッ!」「カレーッ!」 『混沌を愛する黒翼指揮官』波多野 のぞみ(BNE003834)が左腕を高らかにする。 『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)が右腕を上げてヒャッホーする。 広大な農場にこの景色。浮世小路では決して感じられない開放感で胸がいっぱいだった。 「トンカツが食べられると聞いてきました!」 「総員準備せよ、我等の最優先目標はカレー! 状況開始!」 「え?」「へ?」 顔を見合わせる両者の横。『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)が農場の方向を見て呟く。 「カツもカレーも美味しいが、生産者には敬意を払わないとね」 腰の左右から大型ナイフと銃をくるりと抜くと、全力で駆けだす。エーデルワイスとのぞみも後を追う。 『無軌道の戦鬼(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)は、拳をきゅっと握った。 「美味しそうな、カツカレー……是非、食べてみたい、協力、を取り付けたい……」 淡々として、眦を決する。――カレーのWindが、呼んでいる! 『伝説の灰色狼』アーネスト・エヴァンス・シートン(BNE000935)は、美しき景と澄んだ秋風に深呼吸をした。次にピリッとした緊張感と、狼の野生に気持ちを切り替えて、農場を見据えた。 「さて……、狼の本領を発揮する!」 二本の剣を抜き、地を這う様に、前かがみに跳ぶ。 『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)は、やっほーした。 「\今日の昼餉はカツカレー!/」 気づかれたかもしれない。OK。だが問題ない。どうせ相手はアホに違いない。 今日は無性にカツカレーが食いたいのじゃ、と胸裏は欲望に満ちている。殺生すら辞さない程に、カレー色の炎がめらめらと。 「では、征くとしよう。邪魔する者は"XXピーXX"して構わん!」 「讃えよ、インド人。唱えよ、ガラム・デ・マサラ!」 瑠琵と共に、カレーへの情熱を唱和するは、『必殺特殊清掃人』鹿毛・E・ロウ(BNE004035)。 カレーというものは、神秘に拠らずとも美味い。なんともそこが素晴らしい。 「――日本を! インドに! してくされ!」 愛刀の大般若の鯉口を、今に切るか切らんかの姿勢に油断も隙もありはしない。 『住所不定』斎藤・和人(BNE004070)は、皆のテンション絶頂な様子に、愉快な心持ちを覚えていた。 「みな、気持ちは分からんでもねーが、作戦に影響させんようにな」 愛用の厳つい銃を軽々と手の平に納める。 「よし、行くか!」 リベリスタ達が駆けて程なくすると、耳には戦闘音が聞こえてきた。 空腹を刺激するスパイシーな匂いが、秋涼に漂って鼻孔をくすぐる。 ●vs最高級オーク -Ork High- 「ぶーひー」「ぶーひー」 「強い! 凄い! 活きや良し!」 突出して前に出ていた横須賀 麗華に、オークの二匹がぶにぶにと躍りかかった。 ぽかぽかと殴る蹴るなどの暴行を麗華に加える。 「……っ、こんなことなら、商事の人間を連れてくれば良かった」 パンツスーツ姿の女フィクサードが歯噛みした。 末端構成員でツテが無いに等しい。一応に割と凄い援軍のツテもあったが、割と凄い赤字になる。 トラップネストを放って、でっぷりとしたオークボスを絡めとる。 「ぶっひっひっひっひっ!」 ぶちぶちぶち、とあっという間にトラップネストが引き千切られる。 女フィクサードが悔しがる様子を嘲笑う様に、オークボスは小躍りした。 「騒ぎを鎮める――」 戦闘開始を告げるかのように、一陣の風と共に「変身!」の声。 風が、オークの一体の前に着地する。 「ぶーひー!?」「ぶーひー!?」「ぶひひひん!?」 警戒するような動きを見せる豚のエリューションを眼前に、疾風はマフラーを翻して声を上げた。 「アークの、リベリスタだ」 「リベリスタ、ですって……? こんな時に!?」 女フィクサードが驚いた様な声を上げて身構えた。 「華麗なるみっひろきぃ……華麗魔神の時の店ですね」 エーデルワイスは女フィクサードを無視してひらひら前に出る。 麗華の横で十字を切って覚悟完了。血の掟で殺意絶頂。もう一体のオークの額に銃口を突きつける。 「あの時のカレーは御馳走様でした♪ もう一度食べたいな」 「え……? あ、何処かで見覚えが?」 アハハ、とエーデルワイスは麗華にスマイルを向けて、次にオークを見る。 「さっさと食肉になるがいいのですよ。豚野郎♪」 のぞみは、女フィクサードの肩にぽんと手を置いた。 「とんかつが食べられると聞いてきたんですけど、カツカレーだったんですね」 「はあ?」 狼狽の様子を見せる女フィクサードに目的を告げる。 「戦闘中に失礼しますよ、同じカレー好きとして共闘の誘いにきました」 のぞみは、指二本をピッと立ててサインを作る。全体に攻勢戦術の合図を送る。 「敵エリューションと接触。最優先目標はカツカレーに修正。作戦行動開始よ~」 天乃は、女フィクサードの横を抜け、麗華の背後からゆるりと声をかけた。 「……手伝う、よ。……提案、ある」 エーデルワイスに続いて天乃に話しかけられた麗華は、そのカレーボルテージを急降下させて、店員さんスマイルになる。 「はい、な、なんでしょうか?」 「この件、は不問にする事……豚肉、はこちらが正規に買って、引き渡す事」 天乃は言葉を続けながら、気糸を全身から発し、疾風の正面にいたオークを縛り上げる。 「これで、よし。代わりに、共闘と、カツカレーの提供、って感じ……かな」 美味しい豚、が手に入らなくなるのは……本意、ではないよね? と天乃が言葉を続ければ、麗華は迷うように女フィクサードへ視線を送る。遮られる。 「華麗なるみっひろきぃの店長は何処じゃああああっ!!」 瑠琵が参上する。後方からやっほーした声と同じ大きさで、自身の食欲を言い放つ。 「お主が店長かぇ? カツカレー8人前、大至急よろしくのぅ♪」 「わ、私のカレーをですか?」 エーデルワイスは、無言で目からキラキラビームを発してアピールする。 天乃も、表情筋が乏しいながらも、目をキラキラさせて、くいくいっとエプロンを引っ張ってアピール。 「……ぶっちゃけ、手伝わなくてもいい、から食べさせて欲しい。カツカレー」 「カレー好きをアピール? 否! 喰いたいから注文してるのじゃ!」 瑠琵の声にも遠慮はない。微塵も、これっぽっちも! 「へー前に店やってたんだ。いや、勿体ねぇなー、知ってたら行ったのによ」 和人が飄々と、そしてややオーバーな調子をしながら、煙草に火を点けた。 「こんな子がやってたっつーなら気になるじゃん?」 紫煙を吐き出し、オークに狙いを定めるは、無骨な銃。 「勿体ねえ、勿体ねえ、せめてご自慢のカレーだけでも食わせて欲しいねー」 和人の発砲音と同時に、アーネストが灰色の影の様に獲物へと飛びかかった。 : : : 「さて、飼育員Aさんの救出を……」 一人別行動をとったロウは、飼育員の救出に向かった。 農場の小屋に侵入すると、もう一人の女フィクサードの姿を確認する。窓の近くでしゃがみつつ、飯盒でご飯を炊いている。 「どうも、ちょっと変わった街のお掃除屋さんです」 ロウの声に、女フィクサードは驚愕した。 「……リベリスタ」 女フィクサードは、ナイフをスラっと抜き放ち、ロウへと襲いかかった。 ●いいからとっとと食わさせろ -Ork Eater- 「飼育員への危害は防ぐ!」 疾風は横薙ぎに蹴りを放った。 ヒュっと風切り音が鳴り、でっぷりとしたオークの腹に赤い線が生じる。生じた赤い線から、盛大に血が吹き出して、オークの一匹は悲鳴を上げる。 「皆が話した通りです、麗華さん。共通の敵。我々は共闘できる」 オークがむちゃくちゃに蹄を振り回して疾風を攻撃せんとする。ここへ後の先。 「壱式――」 龍牙という呼称を与えたナイフに電撃が生じて、パチリとスパークする。 「――迅雷ッ!」 「ぶひぃいいいい!?」 息も絶やさぬ連続攻撃がオークの一体を丸焼きにする。 エーデルワイスも、オークからの攻撃をさばきながら、銃弾を叩きこむ。 「同志・麗華への攻撃は私が絶対に許さない! 私は麗華のカレーが好きだ! 麗華のカレーに対する情熱を愛してる!」 エーデルワイスには、麗華と確かな面識があった。 何処ぞの恐山派のフィクサードを追いかけるついでではあったが、カレーを存分に食した。ぶっちゃけ旨かった! 「今日は一緒にカレーを食べたいのだ! そういう日、決定!」 「リベリスタがどうして……?」 「ん♪」 のぞみがチラチラと麗華を見れば、どうも狼狽が解けない様子だった。 アークのリベリスタに関する悪い噂を沢山刷り込まれていたのか。のぞみは次に女フィクサードを見る。 「そういう訳で、小屋にいるもう一人もこっちへ呼んだらどうです~? 悪い様にはしませんよ」 のぞみは女フィクサードに交渉を続けていた。女フィクサードは迷うような様子を見せて―― 「……仕方ないわね! わ、私は、麗華のカレー食べたいだけなんだから!」 意を決した様に、女フィクサードは携帯電話をかける。かけながら、疾風にインスタントチャージを施す。 「そうそう、それで良いのです♪」 のぞみの手の平に、神秘の閃光弾が生じさせた。視線をフィクサードからオークへと移動させる。 「――さて、豚さん達。覚悟はできてますか? できてなくても美味しく料理しちゃいますけどね♪」 のぞみのフラッシュバンが炸裂すると、光に乗じるように天乃がくるりと踊る。 キラリと光る魔力鉄甲でもって手刀を振り、オーク達を踊りながら切り捨てる。 「至高のカツカレー、の為なら……ごくり」 仮に斃るとも、フェイトすら焦げたカレー鍋にくべても構わないほどの意志が導いたか。なんとも調子が良い。身体が軽い。踊る刃をワンモアセット! 図らずとも血抜きが完了する。疾風が黒焦げにしたオークもばっちりと。 「横須賀 麗華! カレーに魅せられ、カレーを極めんとするお主が高級とは言え、たかがトンカツの材料に背を向けると言うのかぇ!」 瑠琵の声はいよいよやっほーから、怒号に近くなっていた。説法をかます。 「む、むけてなんかいません!」 血抜きされたオークに、えいっとブッチャーナイフで介錯する。 「それでよい! ――ゆくぞ、愚鈍なる豚ども! 陰陽・氷雨!」 「――よし、そこだ、良い所だ。動くなよ?」 和人が、右手に携えた鈍器でもって、左肩の辺りから右に大きく振りぬいた。 「ぶーひー!」 ごしゃ! と音がして、オークは血反吐を吐く。 「……有難い」 インスタントチャージの供給を受けた疾風が呟く。 そして、たった今殴られて転がるオークに向かって、再び壱式の構えをとる。 : : : 「僕は全くの貧弱一般人なので」 「……ならば何故、私と対等に切り結ぶっ」 飼育小屋。ロウとフィクサードの斬り合いが続いていた。 実力差はあったものの、致命傷になる一撃を避けつつ、余裕の表情を保った事が、女フィクサードの狼狽を生んだ。 ――携帯電話からファンシーな音色が鳴る。 「退却か……! 口惜しや」 飼育小屋にいた女フィクサードは、飛び退き、壁抜けでもって姿を消した。 「ふー……疲れましたね。ああ、飼育員さん、もう少しで安全になりますからね」 : : : 「ぶっひ!」 オークボスの姿は、ファンタジーモノに良くいるオークそのものと言えた。 上向きのしゃくれ上がった鼻がなんともいやらしく、不細工を通り越して醜悪である。 「ぶひひゅー!!」 オーク達のボスが、大きく息を吸い込んだ。 その大きな腹を、もっと大きくするかのように膨れて、風船のようになる。 「針でつっついたら、破れないかな?」 エーデルワイスが試しに撃ってみる。 「ぶふゆふふぐもぁ!」 オークボスが咽る。 「あ、咽た」 のぞみのツッコミが入れば、オークボスは咽たその口中から巨大な炎をげろりと吐き出した。 「!?」 冗談のようなエリューションだったが、この炎は、この炎だけは――空気すら焼いた。 「本気、過ぎ……」 驚愕するも表情筋の乏しい天乃がぼそっとつぶやけば。 「止めますよ」 アーネストが静かに剣を交差させて割り込んだ。炎の塊が剣にぶち当たる。 押し込まれる。押し返す。やがて、火の玉はアーネストを飲み込んで炸裂した。 「ぶっひっひっひっひ」 焼き畑か、焼け野原と化す農場を見て、オークボスは愉快そうにうにうに踊る。下卑た笑いをする。 「喰えぬ豚に価値が無い事を――」 瑠琵が、煙の間を縫って狙いを定めた。 輪胴式大型拳銃のその輪胴を、しゃっと回転させる。 「――その身でたっぷり味わうが良い」 白き弾丸と黒き弾丸で太極を描き、弾丸に北斗七星の紋様の輝きを乗せ――オークボスの眉間を貫く。 ●辛世界 -Lost World- 激しき戦い、烈しく吹き抜ける狂奔の、そこにあったものは激烈であった。 ともあれ戦いを制したるは、リベリスタ。 「ヒッサツ特掃。飼育員さんは安全な場所に置いてきましたよ」 ロウがぴらぴら合流すれば、手にはいくつかの飯盒を抱えている。一同に????マークが浮かぶ。 女フィクサードが、切り傷だらけのロウを見て、飼育小屋で何があったのかを察した。 ため息をついた女フィクサードに、のぞみが携帯電話を片手に問う。 「魔眼使えるのよね?」 「使えるけど?」 神秘の秘匿。この場をうまく共闘に持ち込めたのなら利用しない手はない。 結果的に、秘匿できるのならばと、アークの許可が降りた。 「で、肝心のカレーは麗華の店に行かねば喰えんのかぇ?(ぐー」 瑠琵はお腹を鳴らして、うつぶせに倒れている。ほわっとスパイシーな香りにガバっと立ち上がる。 鍋を戦闘でひっくり返される事を懸念していたが、前衛のブロックが死守した結果となり安心する。 「少し場所を移して食べましょうか」 疾風の声に、素早く支度へととりかかる。 : : : 某所。 指でつつくと壊れてしまいそうな程に青く澄んだ空気が満ちている。 大自然の中。チラチラ混ざるスパイシーな匂いが空腹を刺激した。 「今日は助けられましたので。是非、私のカレーを食って地獄に落ちろ」 麗華と女フィクサードが簡素なキャンプテーブルを用意して、一行は着席する。 飯盒を開けると湯気が出た。つやつやしたご飯が何とも食欲をそそる。 からりと揚がったカツが皿に積み重なれば、いよいよカレーが仕上がった。 最高級の豚肉。 断面からは、ピンク色の赤身と白の脂身が交互に住み分けられた模様が見える。品種が明らかに違う。 「ごくり……」 天乃は、辛抱たまらなかった。グルメ王、を使って存分に楽しむ決心をしていた。 「美味しいカレーを作ろうという心に敵味方などないのです」 エーデルワイスは改めて十字を切り、祈りを捧げる。 「呉とか佐世保とかにも御親戚が居たりするんですかねえ」 「いません」 ガクっとするロウを尻目に、麗華は次々カツカレーを仕上げていく。 「これが……」 至高のカツカレーを前に、瑠琵は唾の塊を飲み込んだ。 「では頂きましょう♪」 のぞみの声に合掌する一同。 一口。 旨みをたっぷり含んだ汁が飛び出して、口中に広がった。 脂身が多い。しかし口当たりは驚く程に軽い。軽いのに豚の味は重厚でキレがある。 パリパリの衣と、ほかほかのご飯にカレールゥが良く絡み、良く染みる。頬に沁みる。 ヨークシャー豚の脂身を考慮したのか、さっぱりとした和風出汁の風味がある。サラりとしたルゥは重厚な豚の味と良く合った。 「思わぬサプライズですね」 疾風は疲労が吹き飛ぶのを感じた。 「美味しいですね」 アーネストもオークボスの火球に身体を張った甲斐を噛み締めて、う~んと唸る。 「複雑な味わいってこういう事なのかね……。いやー、旨い。気に入ったぜ」 和人は微笑を浮かべながら麗華に声をかける。 「なあ、もう店やんねーの?」 「三尋木に借金がたくさんありまして……しかしどうして?」 和人が真顔になって麗華を見る。 「……あんたのカレーが食いてぇから」 キラン。 「あれ……?」 エーデルワイスは嫌な予感がした。 くつくつと煮えていたカレーの音が、ごっぼごっぼと、うす気味の悪い音を立てている。 突如、カレーの塊とも言える球体が鍋より躍り出る。 「カレーのエリューション!?」 のぞみの悲鳴! 全員の驚愕! 躍り出た球体は、悪意を携えて、そしてこの場にいる全員目掛けて爆裂四散した! ――――閑話休題 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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