●Less q そして心臓が止まった。 医者は黙して下を向く。白いベッドを取り囲んだ人々が泣き崩れる。 今日も、また一つ。 治って欲しかった。元気になって欲しかった。助かって欲しかった。生きてて欲しかった。 そんな祈りは死の前には塵ほども儚く。 されど『奇跡』を起こす確立には十分で。 そして世界は残酷だった。 ――羽音が響く。 具現化した祈りが、奇跡が、降り立つ。 叶わなかった祈りを叶える為に。 届かなかった祈りの分まで。 救済の為に。 ●お前が生きてる今日は昨日死んだ奴が死ぬほど生きたかった明日だ 「Eフォースフェーズ2『救済』、それが今回皆々様に課せられたオーダーですぞ」 事務椅子をくるんと回し振り返った『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)が皆を見渡し、一言。その背後モニターに映っていたのは、まるで天使と菩薩を混ぜた様な風貌をした人型のエリューションだった。だが、顔は無い。広げた翼の白が、夜の黒に映える。 「『助かって欲しかった』――病気や事故等で命を失った方々に残された方々のそんな『思い』が覚醒したエリューションでございます。 救済はその祈りの通り、行動原理は『治し、救済する』事です。……届かなかった祈りの分まで」 このエリューションは決して何かを傷付ける行為は行わないのだと言う。悪意も無く、善意をも超えた存在。人の思いが作り出した『希望』。 しかし世界とは悉く望みどおりには廻らぬモノで。『希望』は、世界に愛されなかった。『救済』という祈りから生まれながら、世界を滅ぼす存在だった。「酷い皮肉ですな」とメルクリィは眉根を寄せる。 「救済は攻撃力は皆無というか、攻撃や戦闘行為事態を行いません。それから自己再生力が非常に高いのです。この『再生力』というのはリジェネレートの類ではありません、救済は傷をその手で強力に治してしまうのです」 攻撃をしてもしても治されてしまうのであれば大変どころの話ではない。じゃあどう倒すんだ、と顔を顰めるリベリスタの一人にメルクリィは機械の人差し指を立てた。 「方法は無ではありません。救済は一度に多人数の傷を癒す事は出来ません。そしてそれは自分より他者の治療を優先します」 自傷しながらの戦い――「それも一つの手ですな」とフォーチュナは答えた。 そしてモニターに映る救済がズームアウトし、新たな画像となる。救済が居たのは病院の屋上だった。 「救済はこの病院に出没しますぞ。放っておけばそれはピッキングマンに似た力を用いて病院内に侵入し、患者を片っ端から『治療』します」 彼らが治ればその家族や友人は大いに喜ぶだろう。病や傷に苦しんでいた者も喜ぶだろう。『困った人を助ける事』の何が罪だろうか。救済はただ救いたくて救うのだ。そう望まれたから。『元気になって欲しかった』、そう望まれた人達の分まで。 だが―― 「一夜にして病院内の患者が全て健康体になったらどうなるでしょうか? 末期患者や意識不明者や重体者までもが遍く元気になったら? えぇ、喜ぶ人が大多数でしょう。実際に人の命も救われます。ですが、その奇跡は……『神秘の無い世界では有り得ない』ものです。その上、救済は病院内で多数の一般人に目撃されてしまうでしょう」 神秘秘匿。その四文字からなる使命がリベリスタの脳を過ぎった。それだけではない、将来的にフェーズアップすれば、その救済の技法は歪んでしまうかもしれない。そもそもフェイト無きエリューションの放置は崩界に繋がるのだ。 屋上の救済を院内へ通せば、神秘漏洩を代償に人命が護られる。 その場で速やかに討伐すれば、人命を代償に神秘が護られる。 「神秘秘匿か人命か……それは皆々様にお任せ致しますぞ」 そう纏め一間開けた後、フォーチュナが卓上に広げたのは病院の見取り図だった。赤い丸は監視カメラの位置を示している。 「御覧の通り院内には監視カメラや一般人が沢山いますぞ。屋上へのルートですが、飛ぶか面接着等で外壁を登るか……それか、ちと手間ですがリベリスタの筋力とバランス力なら、窓縁やらを使って登ることも可能でしょうな。ハイバランサーとかがあるとサクサク登れそうです。また、或いは……病院内から行くのもありっちゃあアリでしょうな。危なっかしいですが。 それから戦闘行為を行う際は出来るだけ大きな音を立てたりしない方が良いでしょうな」 取るべき行動は、進むべきルートは、一つではない。リベリスタの頷きに、メルクリィも一つ頷き返した。 「説明は以上です。私はリベリスタの皆々様をいつも応援しとりますぞ! お気を付けて行ってらっしゃいませ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月12日(金)22:22 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●救いの手 空気の冷えた静かな夜だった。 「かくあるべき姿こそがかくある姿そのものだと考えています」 と――実際に口に出した言葉。その響きに、文字に、『フロントオペレイター』マリス・S・キュアローブ(BNE003129)は首筋にひやっと冷たいモノが落ちる様な感覚を覚えた。結んだ薄紅の唇は、それ以上の言葉を紡がない。Eフォース『救済』――それによって一般人が元気になって貰いたい反面、神秘の秘匿性という責任の板挟み。 嗚呼、何の犠牲も要らない奇跡があればそれはさぞ素敵だろう。だけどきっといつしか、人はそれを当たり前だと思うようになる。その筈だ。きっとそうだと『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)は脳の中で繰り返す。 「歯止めが効かなくなって無茶した挙句、より不幸になるに違いないんだ。だから救済は今滅しないといけないんだ……」 断定リピート。ゴスロリドレス:黒姫のスカートをぎゅっと握り締める、あまりにも幼く小さな手。 「神秘でさえなければ、世界中の人間が泣いて喜びそうだな。いや、医療関係者は飯のタネがなくなってお先真っ暗か? 保険業者も医療保険をネタに出来んな」 妙な仮想をしてみたところでこれは神秘だ。ならば妙な深入りや裁量をきかせず狩るだけだ、面倒だから。『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)の心と言葉は冬の様に冷たく乾ききっている。『どうでもいい』、それだけ。 次いで、「まぁ、」と『足らずの』晦 烏(BNE002858)の小さな溜息が零れる。 「難儀な話じゃあるがね、自然に齎された病や死は受け入れなきゃならんものなのさ」 秋の空気は吐いたそれを真っ白く染める事はしない。静かな、静かな一時だった。 「人が願い、世界が叶えた結果が今回の『救済』の君なのかも知れないが。 世界が認めても、運命に愛されぬその存在をアークは決して赦す事は無いんだよなぁ」 正直に言えば、そりゃあ悩ましい話だ。リベリスタ以前に自分は人間。仕事じゃなければ見逃すのだって吝かでは。だが、『仕事』だ。 「請け負ったからには、職分を果たすまでさな」 その言葉と視線の先には――エリューション。翼を以て降り立った救済。 そこはフォーチュナに告げられた病院だった。翼の加護によって迅速に参上したリベリスタ達が救済を取り囲む。行き場を塞ぐ。逃げられないように、病院内へ入れないように。 ふっ、と息を吐く。同時に『紅炎の瞳』飛鳥 零児(BNE003014)は身体の制限を外し、焔睨で救済を見澄ました。剣と思しき鉄塊を振り上げ吶喊する。覚醒して生き延びた自身――その意味について思考しながら。 「――ッ!!」 大きな音は立ててはならぬ、故に無言のまま破壊的な一撃を叩き付けた。肉を潰す感触。破壊の為の技術。この力で、零児は確かに多くの命を救ってこれた。だが同時に幾つもの命も切り捨ててきたのだ。見捨てた命も奪った命もある。 『この世界を護るため』 それを大義名分にして零児は今まで行動してきた。 振り上げる。振り下ろす。されど救済はリミットオフによって傷付いた彼の体を癒し続ける。 振り上げる。振り下ろす。本当は、本当は、自分の身を危険に晒しても誰かを助けたい、それが彼の本心で。でも。駄目だ。駄目なのだ。ここで『そうして』しまったら。それは過去の自分を、大義名分を、切り捨ててきた命を、奪った命を、見捨ててきた命を、何もかもを、裏切る事になる。だから、駄目なのだ。剣を振るわねばならないのだ。 「だから俺は今回も、世界を護るための行動を最優先に行う……それが今までの救えなかった者へのケジメなんだ!」 言い聞かせるように――果たしてそれは誰に向けてか。 ぎり。噛み締める奥歯。 「貴方を中に入れる訳にはいかない……。ここで倒させてもらうよ……」 影の従者を呼び出したアンジェリカはその紅瞳に決意を込めて、救済を静かに見据える。その手に呼び出すは魔力のカード。投げつける。嘘吐きピエロ。一枚ヒラリ。夜を舞う。 静かに、静かに。何も知らない夜の下、何も知らずに眠り沈む人々の上。 戦闘用オペレータ端末:魔術式の目を展開させたマリスは広げた視野で救済の弱点を狙った一撃を放つ。最中にも、マスターテレパス――仲間達が耳や目や直感で集める情報の共有を。 だからこそ、知っていた。集音装置。救済を凶眼で射抜く烏をはじめ、誰も彼もが。病院内で行動する『自分達とは異なる行動指針』のリベリスタ達を。 それを烏は咎めようとは思わない。止めようとも、邪魔しようとも思わない。そして手伝う事も、ない。 「……すまんね」 一言。手加減は一切せずに、再度の攻撃。攻撃。延々と――たったの1秒が、どろり、膿が流れ出る様に長く長く長く感じる……。 「……――」 携帯電話の画面の光が『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)の顔を照らす。屋上、戦地から一人離れてる彼は『異なる行動指針』のリベリスタの一員だった。 「生きるか死ぬかなんて、オレたちが勝手に決めていいモンじゃねえ……ンなこと分かってんだよ」 歯を噛み締めて独り言つ。見詰める画面。電子の妖精。ハッキング。病院内の監視カメラを無力化してゆく。完了。次いで、感情探査。探るは、死が間近に迫った者の『絶望』――画面に表示された病院の見取り図と照らし合わせ、そして。 「ハッキング完了だ。今から患者の場所を言う。良く聴いてくれ――」 幻想纏で仲間へ連絡を。嗚呼、リベリスタならば今すぐエリューションの討伐に向かうべきなんだろう、分かってる。分かってる。嗚呼。ああ、でも。 (本来死ぬヤツを救えるチャンスがあるってんなら、オレは……) 板挟みの感情に苛立ちながら。それでも、彼は自分の気持ちに背を向けなかった。 (……救えンのなら、残らず救いてぇ) 『仕事だから仕方が無い』と割り切れない程度には、少年は『少年』で。幼くて。純朴で。優しくて。甘くて。真っ直ぐだった。 ●Zen-i 「正直、良くないと思ってるよ」――『名無し』氏名 姓(BNE002967)の気持ちは、その一言に尽きる。気持ちは大方、現在救済と戦っている者達と同じだ。だが、姓がそんな彼等と同じ考えでいながら屋上に居ないのは。 (助けたいって人がいて。その人がどうしてもその行動を止められないのなら、バレない様に手を貸すしかないじゃない) たった一人じゃ出来っこないでしょ、と。何もかも破綻するよりは、自分の気持ちを殺すべきだろう。何故って、『仕事だし』。なんて、心の中でシニカルな笑み。 「それに、皆の意思を否定する気はないよ」 呟き声は誰にも聞かれる事はない。ひとりぼっち。夜の病院。ヘキサが監視カメラを無力化してくれたので、正面口より堂々と白衣を靡かせ急ぎ足。見渡してみたが特に人影は無い、仲間の強結界も相俟って余程の騒ぎを立てない限り誰かと出くわす事はなさそうだ。 「大丈夫、行こう」 振り返った先にいたのは『宿曜師』九曜 計都(BNE003026)。頷いた彼女は迅速に行動を開始した。駆け足の最中、脳裏に思い浮かべるは希望の具現。救済。 (祈って、願って、望んで、求めて……、その果てに絶望して) それでも、彼等が何かを恨む事も呪う事もしなかった。 それはただ、只管に直向に純粋な思いだった。 ――奇跡を齎す程に。 (だから、その思いを無駄にはしない!) 白衣を靡かせ、真っ先に向かったのは当直医の居る場所だった。迷う事は無い。一直線。ドアを開ける。驚いて振り返ったその人と目が合った――魔眼。医師は敢無く術中に嵌る。そんな医師に、 「ちょっと訊きたい事があるんスが……」 全員の救済は不可能だ。故に、屋上へ――救済に会わせる患者は選抜しなくてはならない。それは通常医療での回復が困難且つ、屋上への移送が可能な者。催眠状態の医師は彼女の欲しい情報を一つずつ伝えてゆく。それを仲間に伝え、聴き終えるや計都は走り出した。時間が無い。一分一秒が惜しい。 そして、計都と姓は屋上へと患者を背負い、翼の加護によって窓から飛び発ち運ぶ。 「今からそっち行くッスよ!」 計都が幻想纏で伝える声。 その声に、そうか、と。屋上の面々は思う。それでも攻撃の手は止めず、救済を追い詰める。 大きく間合いを奪ったアンジェリカが死の刻印を救済に刻み込む。 (神秘秘匿の為……消さなくちゃ……こいつは、結局は誰かを不幸にするに違いない存在だから……) 脳内で繰り返す。だが。いいや。これは、こんなものは―― 違う! 「……っ、」 そんなの嘘だ。何か都合のいい理由を探して自分を納得させたいだけなんだ。自分はただ、悔しいだけなんだ。 「――、……!」 顔も覚えていない両親。病気?怪我?死んだ理由すら分からない。でも、その時に救済が居れば。二人は死なずに済んだのだ――そうしたら『あの人』に出会えなかったのかもしれないし、仲間や友達に出会えなかったかもしれない。 それでも。それでも。 (生きていて欲しかった……ボクを抱きしめて欲しかった……!) お父さん、お母さん。 嗚呼。嗚呼。嗚呼。 「どうして今なんだ……」 ふと零れる呟き。歪んだ顔に伝う涙。今から運ばれてくるのだろう患者への嫉妬と、救済への憎しみと。それらを込めて、ただただ攻撃を。攻撃を。 「支援します。微力ですが」 仲間へ精神力を供給しつつ、マリスは戦況を見澄ます。ボロボロの救済。されどそれは癒しを止めない。救済を。願われたままに。望まれたままに。 直後、計都と姓が屋上に辿り着く。患者達には計都が魔眼を施している為に騒がれる事はない。 「お待たせッスよ!」 その声か、はたまた救済には分かるのか。それが貌の無い顔を二人へ、背負う患者へと向けた。気が付いたらしい。だが、取り囲むリベリスタ達のブロックを抜ける事が出来ない。 「……」 零児は3人の考えを認めはしない。だがその中に理由や強い意志があるのは分かっていた。お互い必死に自分の意思を貫きあえばいい、そう思うが故に彼は全力を尽くすのみ。救済に救済をさせない為に。 邪魔はしないが、手伝わない。鉅も同様だ、関係が無い。寧ろ彼等が患者を運んできてしまったのは『事故』だと断定した。 「どの病が『筋を曲げても治すべきか』なんぞ俺には判断できんよ。全てを治させることも出来ん」 大量の気糸が。振り下ろされる鉄塊が。凶悪な魔力を秘めた眼光が。不吉を告げる道化のカードが。弱点を穿つ一撃が。迫る。救済へ。 鈍い音。 「――ッ!」 飛び散ったのは夥しい血。血。赤。見開かれたのはリベリスタ達の目。映ったのは、救済を庇って全ての攻撃をその身に受けたヘキサだった。防御特化でもない彼が怒涛の攻撃を受けて無事で済む筈がない。それでも運命を消費して、倒れる事を、諦める事を拒絶した。 「頼む! もう少し……もう少しだけ、コイツを倒すのは待ってくれよ!」 無茶の一つや二つ、それがどうした。一度倒れる位で諦めるものか。全力。腕を広げて救済を庇い、張り上げる声。仲間を真っ直ぐに見る目。 「こんなのガキのワガママだってのは分かってる……けど知っちまったんだ、救えないハズの人間を救う方法を。 オレは不器用だからさ、やっぱり自分の気持ちにウソはつけねーよ。 これはきっと、理屈じゃないんだろうぜ」 だから頼む、と。少しだけ、と。 「……」 鉅は冷ややかな溜息を吐いた。アンジェリカは黙し、俯いた。烏は肩を竦め、マリスはじっと皆を窺う。そして零児は、目を閉ざすと共に得物を下ろした。こっちも全力で、あっちも全力だった。そして、ヘキサの覚悟が自分のそれを上回った。それだけの話。それ以前に今救済を攻撃する事は仲間を傷つける事となる。それはあまりにも不毛であると、誰の目にも明らかだった。 「オレはいいから、先にあっちを」 ヘキサは自分を治療しようとした救済を止めて、計都達が連れてきた患者を指で差す。姓は時間が許す限りと患者を屋上へとまた一人運んでくる。 その内の一人を抱え、計都は救済に歩み寄る。 ――みんなの言うことは、きっと『正しい』。 分かってる。そんな事。そしてもしこれで誰かを 助けられたとしても、彼女が他の誰か――運べなかった者、未来に救済が訪れる筈だった者――を見殺しにした罪は絶対に消えない。 (だけど、それでもいい。それでも……) たとえ、たった一人しか救えなかったとしても。 「『選べない』からって、『選ばない』なんてのは、何もせずに黙ってみてるなんざ、あたしには出来ない!」 言い放った計都の目前で、救済が行われる。翳す掌が優しく患者を、一撫で。するとその顔色は見る見る良くなり、苦しげな呼吸も元に戻る。 嗚呼それは紛れもなく、奇跡。狂おしい程の人の望みが、願い、祈りが作り出した奇跡。 たとえ世界に愛されなくとも。『助かって欲しい』という気持ちは変わらない。 次々と行われてゆく救済。神秘の奇跡。 そこに悪は居なかった。 一体誰が、誰を、悪と定められるだろうか? 己の使命を果たす事はきっと正しい。 己の信念を貫く事もきっと正しい。 困っている人、苦しんでいる人を助ける事もきっと正しい。 間違っている者はいない。誰一人。誰もが正解で、正しかった。 そこに悪は居なかった。 そして粗方の者が救済され。リベリスタ達が再度、救済の前に立ち塞がった。 「わりぃッスね……遍く救済を届けさせるわけにゃ、いかねぇんスよ」 指先に術符の烏。計都の横には、複雑な心境を表情に宿したヘキサ。 フェイトを持たないエリューションは討伐せねばならない。 「正直気は進まねーけど……こんな治療、いつまでも続けられるワケがねーんだ」 奇跡が奇跡のままでいられる内に。手加減は、しない。 と、不意に救済が手を伸ばした。ヘキサの頭を優しく撫でる。何も言わず。ただふわりと、柔らかに。救済を庇った際にできた傷を一つ残らず治す為。 痛みの消えた体。ヘキサはじっと、救済を見る。攻撃を繰り出すべく静かに身構えながら。 「お前のお蔭で救えたんだ……サンキュ。そんで、ゴメンな」 せめて、ありったけの感謝と謝罪を。 ●正義の味方 跡形もなく消えた。光が霧散する様に。 その行く末を具に見詰めて。アンジェリカはただ泣き続ける。救済の手を以てしても癒されぬ自身の醜い心を抱えながら。 「しかし複雑な気分だよ」 零児は静かに空を仰ぐ。短時間の戦いで、しかも攻撃される事もなかったのに、酷く腕が重く感じる――その重量を感じながら。 「自分が未熟なせいで誰かが助かるなんてさ」 その背の向こう側では、計都が患者に記憶操作と魔眼で『徐々に回復したと周囲に思わせるよう、暫くは病を偽装するよう』と事後処理を行い、姓が彼らを元の病室へ運んでゆく。 それらを烏は黙って見守っていたが、ややあって踵を返し歩き始めた。 「はてさて、生きる事が果たして救済なのかどうか……以外にコレが難しい」 死もまた救いの一つでもあるとは思うがね、と。誰とはなしに呟きながら。 「そして、忘れちゃいけない事だがさ、人ってのは何時か必ず死ぬものさ。それが早いか遅いかだけの差でね」 それは自分とて例外ではない。 「運命というのは残酷です」 マリスは静かに己が髪を掻き上げる。 「救う為に生まれ、生まれた形がエリューション。リベリスタは世界を守る為にこれを排除して、無きものとする。救えた命は救われない。かくあるべき姿こそがかくある姿というのは、やはり残酷です」 呼吸の一間。そして言い放つ一言。 「――任務完了。失礼します。リベリスタ」 ●後日談 「驚いた。完璧に治っているなんて」 これで何人目だろうと医者は驚きを隠せなかった。既に余命僅かだと宣告されていた者が、意識を失ったまま目覚めなかった者が、最近になって回復を見せてきたのだ。1人2人だけではない、何人もが。我が目を疑う出来事とは正に。 奇跡、としか形容できない。 その奇跡は大々的にニュースになる事はなかったが、マイナーな雑誌やインターネットの隅で都市伝説の様に取り上げられたが……世間を騒がせる程になる事はなかった。 だが、何より驚き喜んだのは――回復した本人と、その家族や知人達。 良かった、良かった、と涙を流す。笑いながら。 だが、その日に起こった『奇跡』の正体を知る者は居ない。 ――リベリスタ達を除いて。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|