● その小学校には鏡があった。二階と三階を結ぶ階段の踊り場に設置された子供ばかりか大人までもすっぽり映し出す鏡。おませな女の子はそこで髪の毛をチェックして、教室に向かう。 そんなほのぼのとした風景を映し出す鏡はただそこにあっただけだった。 しかし子供は大人が想像するほど簡単な生き物ではない。純粋がすべてではなく、どす黒い部分も息を潜めて存在していた。教師の見えないところで行われるえげつない行為。自分より弱い者をいたぶる心はいつの間にか育ち、行為として表れる。 人通りの少ないトイレで水が掛けられる。しかしそれは掃除の為ではない。ある少女をめがめてである。涙声でやめてという声を聞かず、いじめの主犯格である少女は標的をいたぶり続けた。そうして気が済んだところで何もなかったかのように出て行った。 その少女は先ほどのことなど忘れて放課後も取り巻きとおしゃべりし、気がつけば夕日が沈んでいた。一度教室を出たところで忘れものに気付き、一人だけ戻ることにした。その途中、鏡があった。ふと目をやると、信じ難いことが起った。鏡に映るのは、自分の顔ではなかったのである。 いや、自分の顔なのだが違う。少女は叫び声を上げた。そこには歪んだ顔で微笑む自分の姿があった。弱い者を嬲る時の歪んだ笑顔。彼女は思わず後ずさりして、階段から転げ落ちた。 ● 「今回はあなた達にやってもらうのは小学校にある鏡の破壊。エリューション化していてもう被害が出てる。幸い骨が折れるだけで済んだけど、打ち所が悪かったら死んでいたかもしれない」 横に並ぶリベリスタ達に『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はそう淡々と述べる。一般人が犠牲となった時は淡々とした口調の中にも何か別のものが混じるのに今日に限ってはそれはないようだ。 「今回の犠牲者はいじめの主犯格の女の子だった。彼女は自分の鏡に映った顔にびっくりして階段から転げ落ちたの。自分の顔のあまりの醜さに驚いたのよ。その鏡は人間の醜さを映すの」 きっと自覚がなかったんでしょうね。イヴはそう付け加えた。 「でも人間は表の顔ばかりでは生きていけない。また被害者が出るでしょうね。それは放ってはおけない。今現在ではなく、あの鏡は過去をも知っているから」 過去ということは、今は悔いていることもすべて映しだしてしまうのだろうかと、一人のリベリスタは思う。 「あの鏡は前に立った人の醜い顔を映し出すのよ。でもこの鏡、嘘は吐かない。それは全部あなた自身。目を反らしちゃだめ。すべて受け止める。そうして秘密を全部暴いたらおのずと力を失うの」 イヴは難しい顔をして呟いた。 「呑まれないでね、あなたたち」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:あじさい | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月17日(水)22:11 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●潜入 夜の張り詰めた空気の中、リベリスタ達は言葉少なに立っていた。 「ここが、例の学校か」 『覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)が呟く。どこにでもあるような小学校だが、それこそどこにでもあるような悲劇が溢れているのだろう。イヴが話していた被害者はいじめの首謀者だった。どこにでも歪みはある。元来正義感の強い夏栖斗としてはそれも大した問題に思えるが、今日はそのために来たのではない。 「どうやら人はいないみたいだな」 念のために警備員に見えるような服を身にまとってきた『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)が辺りを見回しながら言う。周りの民家の住人はすでに安眠の時間らしく、人の気配はしない。念のため結界で人払いをし、校門の中へと入っていく。 夜の学校に、夜風が勢いよく吹いた。 ●懺悔 すべてを知り尽くしている鏡がある階段の前で、リベリスタ達は神妙に立っていた。ここを上れば例の鏡がある。気のせいか階段が恐ろしく長く見える。 「一人ずつ行こう。それが最善だろう」 『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)がそう言った。今回の対象は物理的破壊を受け付けない。そして個人の罪を暴くという性質上、誰かが手助けすることも出来ない。懐中電燈を照らしていた夏栖斗が頷く。 「俺から行こう」 案じるような快の視線に頬笑み返す。 「大丈夫必ず戻ってくるさ」 その鏡は不気味に鎮座していた。踊り場に夏栖斗が現れると、その姿を映す。しばらくなんの変哲のない鏡のように振る舞ったあと、優越感に歪んだ笑顔を映しだした。それは夏栖斗が理想とするヒーローとは程遠く、むしろ正反対の。弱きものを慈しむ笑みではなく、それを踏みつける人間の歪んだ笑顔だった。 「……!」 思わずたじろぎそうになる。暴露された自分の罪に。そうして鏡は自分の声で語りかけてきた。 「果たしてその力は正義のためか? 自分の力を示して酔っているだけじゃないのかよ? 違うって言えるのか? 本当に?」 鏡の中では、人の為に得たはずの力を得意げに振る舞っている自分の姿があった。鏡からは嘲る声が響く。続いて鏡は数多の傷ついた人を映しだす。懸命にそれを救おうとする自分の姿。しかし誰かを助ける横でまた別の誰かが傷ついている。 お前のしていることはこんなにも虚しい。まるでそう言っているようだ。 「……そうだ、みんなを救うことなんて出来やしないんだ。その通りだ。けれども俺は歩みを止めない。そこに救われる人がいるのなら!」 力強く宣言する。鏡の中の自分がたじろいだ。 「優越感でも、醜い自分でも受け入れるさ。それを含めて僕だから。そして、もっと強くなる。力だけじゃなくて心も。それを助けてくれる仲間がそばにいるから。僕にはこんなとこで足踏みしてる暇はないんだ!」 心の底から叫ぶと、鏡はもう沈黙していた。 「次はわたしの番だね」 『いつか出会う、大切な人の為に』アリステア・ショーゼット(BNE000313)は真っ直ぐに鏡を見詰めた。鏡はアリステアの罪を暴いていく。 突然覚醒し、翼が生えた自分達の娘をアリステアの両親はいないものとして扱った。両親には異形の者として気味悪くうつったのかもしれない。 「私は変わってないよ? どうして……?」 鏡の中の少女が両親に話しかける。反応は返ってこない。それでも尚話しかけ続ける。 「おかあさん! どうして返事をしてくれないの」 その必死の呼びかけに帰ってきたのは冷たい一瞥だった。そんな日が毎日続いた。そんな異様な日常に耐えられないくなったある日、アリステアに限界が訪れる。 「おねがい……、おねがい!! わたしを見てよ!!」 未熟な魔力の矢が屋内に飛ぶ。焦げ付く絨毯と家具の臭い。青ざめる両親の顔。 (なんだ、はじめからこうすればよかったんだ……) 無力な両親が滑稽で鏡の中の幼い少女が笑う。それは悲しくも歪んだ笑顔で、とても綺麗ではなかった アリステアはそれを目を反らさずに見ていた。 「わたし、こんな顔してたんだ……。ひどいな……」 鏡の中の少女は両親にゆっくりと近づく。 「やだ! 殺さないで!!」 久しぶりに聞いた母の声は、娘に対する慈愛など微塵もない。ただの命乞いだった。それがひどく滑稽に見えたアリステアは言い放った。 「ざまぁみろ。存在を無視した罰だ」 悲しい笑い声が響いていた。 アリステアはそれを眺めながら、その後のことについて思い出していた。 このままここにいたら、両親をもっと傷つけてしまう。それに気付いたアリステアは自ら家を去り、アークへ来た。対応した職員はアリステアの姿を見て笑った。何か事情があることは一目瞭然だったと思うが、わざわざそれを聞こうとはしなかった。 「ホーリメイガスだね。君の力は誰かを守るためのものだ。大いに役立ててくれたまえ」 誰かを守る力。この力は両親を守るための力だったのだ。それなのに両親を傷つけてしまった。そのことは今でもアリステアの傷となって残っている。 「どうだ、これがお前の罪だ。人を傷つけた。命乞いする両親の姿はさぞ惨めだったろう?」 鏡の中の自分が笑う。人を傷つけたことを誇って笑う。それを真正面から見据えて首を振った。 「違うよ。わたしの力は誰かを守る力! 傷つけるためのものじゃない」 そう言うと、鏡の中の自分の醜い笑みが引いた。 「そう、いつか帰ってちゃんと謝って、ありがとうって言うの。たとえ受け入れてくれなくても!」 そう言い放つと、鏡のなかの自分が笑った気がした。醜い顔ではなく、穏やかな笑顔で。 アリステアが少し悲しそうな、けれども晴れやかな顔で仲間達の待つ階段の前に戻ってきた。 「次は私ですわ」 『プリムヴェール』二階堂 櫻子(BNE000438)が歩み出る。『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)はそんな櫻子に言葉を贈った。 「おい、気をつけろよ」 恋人の気遣いに櫻子は頬笑む。 「いってきますね。櫻霞様」 神妙な面持ちで鏡の前に立つ。鏡は眉を寄せて佇む櫻子の姿をすぐに映しだした。鏡の中には恋人の背中が移る。 「櫻霞様……!」 鏡の中の櫻子は恋人を見つめている。そう、恋人だけを。櫻子の周りにはほかにも彼女の癒しを必要とした傷ついたものたちがいる。もう一人の自分はすぐさま駆け寄りそれを癒す。しかしその表情は晴れない。もう一人の自分は憚ることなく口にした。 「どうして私はこんなことをしているのでしょう……? 私が守りたいのは、櫻霞様だけ。ほかの人など見捨ててしまえばいいのに」 逸らさずにそれを見届けつつも胸が苦しくなる。他人を癒す手があれば、もっと想い人を守れるのではないか。傷つけずに済むのではないか。そう考えたことはまぎれもない事実だ。 鏡の中の自分がこちらを見て笑う。 「他人のために力を尽くして、それが何の意味を成すというのですか?」 それは自分のことしか考えていない笑い。しかし櫻子は静かに首を振った。確かにその考えは苦難に襲われるたび頭によぎった。けれどもそれだけでは捨てられない信念がある。 「お断りします。私は癒し手です。私が癒し手である自分を見捨てない限り、それと同じく他人を見捨てることもありません」 揺るぎない瞳でそう言うと、鏡は沈黙した。 「醜い私でも、受け入れてみせましょう。私の後悔は彼とともにあり、彼はどんな醜い私でも愛してくれるのですから」 罪を受け入れた櫻子が毅然とした足取りで階段から降りてくるのを見て、櫻霞はひそかに息を吐いた。その様子を見届けた快は入れ替わりに階段へと進む。 「行って来いよ、相棒」 そういって夏栖斗が軽く手を挙げたので、それに挙げ返した。 「さて、どんな罪を暴いてくれるのかね」 軽口をたたきながら鏡の前に立つ。覗き込むとそこには勲章を愛でる自分の姿。なるほど突然確信に触れてくる。快はひそかに苦笑いした。 アークでそれなりに名前が知れている快のことを、誰かが守護神という異名を付けたなんてこともあった。もう一つの世界にいるのはそんな名誉にうつつをぬかし、 自己顕示欲と功名心に塗れた自分。 鏡の中から視線が向けられる。まるで「これはお前の本当の姿だ」とでも嘲笑っているように。しかし快はその視線に迎合することなく首を振った。 「違うよ。それは俺の力だけの力じゃない。仲間たちで勝ち取ったものだ。俺は英雄には程遠いよ」 そういって快は思い返す。平凡なリベリスタな自分。それでも今までやってこられたのはなにより仲間がいてくれたからだ。 勲章をまるでひけらかすかのように身に着けているのは、それが心の拠り所だからだ。自分の理想とする英雄たちへ少しでも近づくための。 「これは傲慢じゃない。誇りなんだ。今まで築いてきた誇りは、こんなことで散らされはしない」 そう、何も恥じることなどないのだ。まっすぐに鏡を見据えると、鏡に映るのは誇らしく胸を張る快の姿だった。 軽快に階段を下る快に夏栖斗が尋ねる。 「よう、相棒。どんな罪を暴かれた」 快は軽く笑って応じる。 「なに、俺の傲慢を見透かされただけだよ」 そのやり取りの横で櫻霞が重々しく顔を上げ、一歩一歩階段を進んでいく。自分を案じる櫻子の視線を背中で受け止めながら。 鏡は容赦なく自分を映す。何も隠すことなどできない。鏡はすべて知っている。映されるのは忌まわしい記憶。あの悪夢のようなあの日、ナイトメアダウン。それは櫻霞からすべてを奪った。両親を、親しい友人もなにもかも。あの惨劇を生き残った自分が絶望にうちひしがれる。 「俺はいったいどうすればいいんだ」 かつてつぶやいた言葉が鏡の中から聞こえてくる。自分に意味を見いだせない。その気持ちは今でも残っている。 あれからアークへ所属し、リベリスタになった。しかしそこに大義などない。憎悪のままにエリューションに力をふるう日々。正義などなく、それは血で血を洗う復讐でしかない。その果てに何があるのかは暗闇で見えない。手探りで探し続けても掴むのは虚空ばかりだ、 「もういっそ逃げてしまおうか」 自分の姿をした鏡の住人が呟いた。そうしてこちらに眼差しを向ける。弱々しさを隠そうともせずそれに身を任せてしまうそうな揺らいだ瞳。しかしそれに迎合することは出来ない。 「そうやって俺を惑わそうとしても無駄だ。答えが見えなくてもそれから逃げることは許されない」 どうして自分だけが生き残ってしまったのか。なぜすべて奪われねばならなかったのか。その疑念と憎悪は尽きない。けれども逃げることだけは許されない。それは櫻霞の揺るぎない意思だ。 「消えろ。憎しみは俺が背負うのだから」 櫻霞の後に鏡の前に立ったのは依子・アルジフ・ルッチェラント(BNE000816)だった。依子は怖々と鏡を覗いた。その不安を読み取ったように依子の孤独を映しだす。 映しだしたのは依子がかつて通っていた学校。誰とも深く関われず、ひとりでぽつんと本のページをめくっている。休憩時間も校庭で遊ぶことは少なく、いつも一人で勉強していた。勉強が特別好きだと言う訳ではない。そうして他人の目から抜け出すためだ。考えている間は何も見ないで済む。知らない人と関わるのは怖い。その考えは依子をますます孤独にしていった。 誰も信じられない。けれど一人は怖い。どうすればいいのか分からない。 鏡の中の依子は見透かしたように笑う。 「一人が怖いのに、誰かの助けを待っているなんて浅ましいのね」 「ひっ!」 そう事実を告げられて、声が上ずる。ここから逃げ出してしまいたい。しかしすんでのところで思いとどまった。 そして鏡はさらに罪を暴いていく。ある日奇妙な本と出合い、彼の力で皆を害したこと。はじめて自分を受け入れてくれたことがうれしかった。そして舞い上がった。彼は悪くない。彼はただ自分の願いを叶えただけなのだから。醜い自分の願い。それはいつも知らない振りをして生きてきた他人を操ることだった。自分から関わりを避けてきた人々を奇妙な力で操った。そんな歪な関わりをはじめて自分から仕掛けた。しかしその結果は凄惨なものだった。身体を作り替え、心を壊した人々は、もう帰っては来なかった。そして害し、本来罰されるべき自分だけがフェイトを得て助かった。 そのおぞましい所業に依子は狂いそうになる。しかしその時依子の視界に入ったのは、自身が抱えていた「ナナシ」の魔導書だった。依子は思い出す。こんな自分でもかつて幸せを願ってくれた彼がいたことを。 「わたしは、たしかにみにくい。けれども、それでも……、わたしは生きていきたい。みじめでもいい。くるしくてもいい。ナナシさんと約束したから」 途切れ途切れでもしっかりとした意思を持って言葉にする。 その時、声が聞こえた気がした。 『――やれやれ』 懐かしい、耳慣れたしわがれた声だ。 『――醜い?上等ではないか、精々、無様な也に七転八倒して幸せを掴むが善い、我が主なればそれは悪くない』 ナナシさんの声が確かに聞こえた。もう鏡を恐れる必要はない。過去をまるごと受け入れて、それでも幸せを願ってくれた人がいたことが、支えになるから。 「ナナシさん?」 依子は胸に抱えていた本に話しかける。それは答えなかったけれども、たしかにその声は聞こえた気がした。 『red fang』レン・カークランド(BNE002194)は鏡の前にたたずんでいた。自分の他に誰もいないはずの踊り場から聞こえる啜り泣く声。それは鏡から聞こえてくるもので、少し前の自分の姿だった。両親のいないレンを大切に慈しみ育ててくれた祖母の突然の死に戸惑い泣いている自分。あまりにも唐突な出来ごと、そして奇妙な死に、村の人々は気味悪がった。そして変化が訪れる。初めはレンを慰めていた村人も、やがてレンを怪しみ始めた。覚醒の影響で見た目が変化していくレンは、小さな村のエリューションとは無縁の人々には異質に見えた。 「化けもの!」 親しかった村人がそうやってレンを罵る。それに抗う術をレンは知らない。なにせ自分の身に起きている変化を受け入れなられないのはレン自身だったのだから。今日も一つ昨日より、自分を取り巻く笑顔が減っていく。そんな状況に、少年の心が耐えうるはずもなかった。そしてレンは村を出た。一連の出来事の後、鏡の中の自分が呟く。 「どうして俺が村を出て行かなきゃならないんだ……!」 愛した村を離れた自分。その時の呟きには明らかな村人への憎悪が混じっていた。そしてまた思い直す。あれは村人のためであり、自分のためだったのだと。 「でも逃げたんだろう?」 鏡の中の自分が投げ掛ける。その問いかけはあまりにも正直で、それに頷かざるを得ない。 「そうだ、俺は逃げたんだ」 あのまま逃げなければ、村人と和解する方法があったかも知れない。それを探さず逃げたのは自分だ。 「でも大丈夫だ」 村を出て、行き倒れている自分は助けられた。こんな自分を助けてくれる人がいた。それはまさに光だった。だから今度は自分が光になりたい。 「俺は、誰かの光になる。だから俺はもう逃げない」 鏡の中の自分は、もう誰かを憎んではいなかった。 『必殺特殊清掃人』鹿毛・E・ロウ(BNE004035)はいつも浮かべている笑みを強張らせた。鏡は月明かりを受けて不気味に煌めいている。鏡の中には憎しみが渦巻いていた。 いつもロウは理不尽に怒っていた。それは神秘によってもたらされる不幸。天災や人災とは違う。必然を持たず、抗う術もなく、ただ人を蹂躙していく。ただ突然やってくる。それには心構えも、技術も、人の感情も何の役にもたちはしない。鏡はそんな人々を映しだす。そして鏡の中のロウは、神秘を狩りつくし、狩りつくし、最後には自分の頭を打ちぬいた。そんな姿を見せられてロウは笑った。それはいささか自嘲気味に。 「そうです。僕は自分を殺したいのです。なぜなら僕はすべからく神秘を憎んでいるからです」 目覚めた瞬間に、自分が憎むべき存在になったことを強烈に悟った。勝手に死ねと言われればそれまでだろう。しかしそれを許さないのもまた自分自身である。 「もっと何か、あるはずだ」 そう考えてこれまで生きてきた。それは言い訳に過ぎないのかもしれない。そうやって今日まで永らえてきたのだ。それでも死ぬのは怖い。その気持ちを受け入れた上で、自分に出来ることを。 「僕は世界からお目こぼしを頂いています。世界に尽くし! 崩壊を阻止すること! これが僕の役目です!」 鏡は力強い眼差しによってひび割れる。思い切りそれを叩くと、鏡はあっけなく砕け散った。 ●過去の克服 鏡の割れた音に仲間達が集う。少し神妙な面持ちでその砕け散った鏡の破片を見詰めていた。 「私達全員、自分に呑まれることはありませんでしたね」 櫻子が笑う。疲弊していても、全員何か憑き物が落ちた時の様にすっきりとした表情を見せている。 「さて、お掃除しましょうかね」 そういってロウはさっさと片付けに入った。そんなロウをレンは手伝う。そしてレンは呟いた。 「ありがとう、こいつのおかげで過去を克服することができた」 それに同調し、あちらこちらからありがとうという声が響く。 「これ、持っていっちゃダメかな?」 アリステアは鏡の破片を拾い上げた。 「どんなわたしも忘れたくない。今日見たことをわすれたくないの」 アリステアはそれを窓にかざす。その光は一段と輝いて見えた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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