●罪の意識に殺されよ 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は大きなハードカバーの本を開き、膝に置いた。 ページをめくる音が、ぱらり、ぱらり。 世界で最も避け難い死は自殺である。 そう述べた学者がいたわ。 人は過去の罪によって死に、罰を自ら生むのだと。 罪が罪であることが最大の罰とは良く言ったもので、正に自業自得。 死ぬという程でなくても、人は自らの犯した色んな過去に苛まれて生きているわ。 秘密――。 罪――。 嘘――。 逃避――。 けれど、どうかしら。 もし仮に、過去が直接あなたを殺しに来たとしたら。 それは、自殺といえないかしら。 ●罰なき世界に死せよ アーティファクト、トラウマ邸。 その邸宅には名前は無いが、強いて呼ぶならそうだろう。 奇妙な九角形で造られた小さな建造物は、それぞれの辺よ呼ぶべき場所に扉がついている。 それを九人で一度に開けば、彼等は過去に引きずられるとされている。 仮想に造られた幻の空間に捕らわれたあなたは、あなたにとってとても大きな罪に殺されるのだ。 罪が形となり、あなたを殺すのだ。 「アーティファクト化を解除する方法はひとつ。現れた罪を自らの手で殺すこと。全員が成功させる必要はないわ。半分でも壊せれば充分。けれど……」 あなたが罪から逃れることは、永遠にできない。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 9人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月12日(金)22:24 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 9人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●『なのなのお嬢様なの』ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611) 質問をする。 あなたは今まで悪い事をせずに生きて来ただろうか。 YES? では、今まで人殺しをせずに生きてきたか。 YES? 結構。では後ろを振り返ってみると良い。 あなたが『良かれと思って』殺してきた人間たちが、恨めしげにあなたを見ているのが分かるだろう。 「……そう、だよね」 ルーメリアは仰向けの態勢で、力なく言った。 たとえばあなたは、『わるいやつをやっつけるよ!』と言って人間を何人も殺してきた筈だ。 『こんな悪いことゆるせない!』と言って死体をよそに誰かと戦っていた筈だ。 回復係だったから直接手は下していない? その通りだ。 あなたはそうやって、沢山の人を殺させてきた。 高見から処刑台を覗くかのごとく。 ギロチンを落とせと命じてきた筈だ。 「そうだよ。全部を助けるなんてできない。死んだら皆許してくれるかな。もう、悲しくなくなるかな」 掌に。足に。膝に、腹に、胸に、肩に、沢山の楔が打ち込まれ、昆虫標本のように床に縫い付けられていた。 顔のない誰かが、楔を振り上げる。 狙いは喉だ。 「いいよ、もう」 ルーメリアは悲しげに微笑んで。 泡の混じった血を吐いた。 ●『蒙昧主義のケファ』エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203) 安楽椅子に見女麗しい少女が座っていた。 そう思って貰えれば良い。 エレオノーラは薔薇模様の入ったナイフを抜き、少女と対峙した。 少女は編み物をしながら言う。 「まだ、嘘をついて生きてるの」 「……」 沈黙。 はっとして微笑む少女。 「あ、ごめんね? 違うよね。仕方なかったんだよね。だって、言うとおりにしないと酷いもの。だから私は悪くないよね?」 暖炉の薪が転がり、少女の後ろのベッドを照らした。 小太りな男が一糸も纏わず仰向けに寝ている。胸にはナイフが突き刺さっていた。 窓の外には、大量のウォッカ瓶と共に将校の男が凍え死んでいる。 床には赤黒い水たまりができていて、裸の女性が苦悶の表情のまま天井を見つめていた。 「私のせいじゃないよね?」 「私のせいよ」 べちゃりと血だまりを踏む。 次の瞬間、エレオノーラは少女の首を掻き切っていた。 引き裂け、血が噴きだし、首が90度以上傾く。 少女はにっこりと笑って、エレオノーラの背中にナイフを突き刺した。 顔を顰める。 「全部私がやったことよ。でも、だから何」 少女の後頭部を掴み、暖炉の中へと叩き込む。 自分の腕ごと燃えていく。 ウェーブのかかった金髪がちりちりと燃えていく。 ばたばたともがく足を無視して、エレオノーラは言った。 いや、それは少女の言葉だっただろうか。 「「嘘つき」」 ●『雇われ遊撃少女』宮代・久嶺(BNE002940) 双子の姉に、紅葉という少女が居る。 いつも困った顔をしていて、その所為かよく男に付け入られる女だ……などと言っては誤解を招くだろうか。 しかし久嶺にとっては、その認識ほぼ間違っていない。 そして。 「次から次へと、わらわらわらわら……」 小太りな男の額をライフルで吹き飛ばし、指輪をじゃらじゃらつけたキザな男をストックでぶん殴る。 簡単に言えば、こんなことを昔からずっとやって来た。 良い悪いで言えば、まあ悪いのだろう。 全て我儘。過剰防衛。 だからと言って。 「お姉様が蹂躙されるのを黙って見てろっていうの!? ふざけんじゃないわよ!」 頭を押さえてのた打ち回る男を積み付け、口に銃口を捻じ込んでやる。 引金を引いて、唾を吐き捨てた。 「罪だったらいくらでも重ねてやるわ。地獄にだって落ちてやる!」 姉を組み伏せようとする金融屋の男。 久嶺はまだ熱い銃口を両手で握ると、相手の頭目がけてストックを全力で叩き込んだ。 「くたばれえええええええええ!!」 スイカの様に弾ける頭。 ずぐずぐと溶けてなくなる姉の姿に、久嶺はゆっくりと肩を落とした。 いつか自分が、闇に堕ちる日が来るだろう。 その時姉は、何と言うだろうか。 ●『宿曜師』九曜 計都(BNE003026) いつの間にかの出来事である。 計都の頬には涙が伝い、腕は温かさに包まれていた。 びくびくと腕を締め付ける、生温かさと柔らかさ。 指が本能的に痙攣し、計都は今、自分の腕が『何を貫いているのか』を理解した。 「姉……」 『彼女』はぱくぱくと口を動かした後、ただ黙って微笑んだ。 ものを喋る機能が身体に残っていなかっただけかもしれない。 もしかしたら、恨み言を云いたかったのかもしれない。 返せ。 そう言ったような気がして、計都は身を震わせた。 首筋を掴む彼女の手。 べっとりと濡れた計都の腕を掴み取り、更に奥まで押し込ませる。 計都は顎を震わせ首を振るが、締め付ける力は強くなるばかりだった。 意識が遠のく。 心臓の音が聞こえる。 計都は咄嗟に護符を握り、彼女の側頭部へと叩きつけた。 いや、そっと触れた程度だったろうか。 しかして彼女の右目があらぬ方を向き、びしりと頭に亀裂が走る。 頭部が拉げ、まるで雛が孵る瞬間の如く内側より骨と肉を割り、式神鴉が飛び出した。 「…………」 泥になって溶けてゆく彼女の姿を、計都は黙って見下ろした。 まだ、生きなくてはならない。 運命(いのち)は貰ったものだから。 ●『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364) 生きているだけで迷惑な人間がいるとしたら、それはどんな人間か。 シビリズは迷わず、それが自分を差していると答えられた。 「私の罪は」 「そう」 自分の腹を、相手の腹を、ヘビースピアが貫いた。 自分はシビリズで、相手もシビリズだった。 体重をかけて捻り、内臓を抉ってやる。 相手もまた同じようにして、互いの腸が飛び出るのが見えた。 思わず笑える。 これが罪だ。 壊したくて、潰したくてしょうがないのだ。 死ぬまで終わらないチキンレースを、今まさにしているのだ。 「負けんよ、我が罪」 シビリズは相手の前髪を掴んで顔面に頭突きを入れた。 シビリズの鼻が砕けて血が噴き出す。 槍から手を離し、シビリズの顔面に連続で拳を叩き込む。 シビリズの拳が潰れ、シビリズの顎が外れかける。シビリズは歯を食いしばって笑い、シビリズもまた笑った。 拳どうしがぶつかり、骨が砕けた。 「「後悔はない。滅びるその日まで背負ってやる、我が罪よ!」」 シビリズは同時に叫び、相手の首に噛付いた。 肉を噛みちぎり、血管を食い千切り、筋肉繊維を破断した。 目を見開き、血を吐くシビリズ。 シビリズはシビリズによりかかり、ずっしりと重みを感じながらシビリズは膝から崩れ落ちた。 「ありがとう……」 血にまみれた頭で思う。 「私は、罪と共に生きよう」 ●『罪ト罰』安羅上・廻斗(BNE003739) 陳腐だと思ってくれてよい。 誰だって、同じように思うはずだ。 愛は誰の心にもあり、悲しみは誰の魂をも動かすのだ。 だから陳腐だと、言ってくれてよい。 鳥の囀りに目を覚ました廻斗は、頭の下に柔らかさを感じて瞬きをした。 「起きた」 逆光で良く見えないが、髪の長い女性が見える。 徐々に目が慣れてきて、長い睫毛や少し下がった目尻、うっすらとした唇と、白い肌が見えた。 カーディガンを羽織った彼女は、廻斗の長い前髪を指で払い、どこか優しげに笑った。 「ね、廻斗」 唇が動く。 眼の色が良く見えない。 久しぶりに見たのだ。もっとよく見たい。 手を伸ばしたその時。 彼女は言った。 「私は廻斗のせいで、死んだんだよね?」 丸い物が、長い尾を引いて胸に落ちてくる。 ボーリング球にしてはやや軽い。そしてさらりとした髪の毛の感触。 それが彼女の首だと知った時、廻斗は悲鳴をあげて飛び起きた。 腕の中の彼女が言う。 「廻斗には才能があったよね。もっと早く、あと十秒でも早く革醒していたら」 自分の首に、大鎌の如き爪がかかった。視線だけで振り返れば、彼女の身体が廻斗の首を掴んでいた。 「私は死ななかったよね?」 爪が閃く。 咄嗟に飛び退いた廻斗の腕から、生首が転がった。 髪で半分ほど隠れた顔で、横たわった首が言う。彼女が言う。 「廻斗」 地面に落ちていた剣を拾う。 皮肉なことに名前はCrime(罪)だ。 「もう二度と、犯さない」 飛び掛る彼女の身体。 廻斗は目を細め、剣を振った。 飛んだ血が、自らの顔にかかる。 瞑目し、廻斗は言った。 「赦してくれとは、言わない」 ●『咎人は約束を胸に闘う』滝沢 美虎(BNE003973) 胸の前に手を合わせ、腰を捻って肘を突く。 身をひるがえして踵を上げ、相手の腰へ打ち付ける。 肘は槍となり、踵は斧となる。 徒手空拳の戦闘に置いて、ムエタイが打撃技最強と言われる所以が、この骨の最大活用にあった。 固く、良く動き、健康な人間こそ強くなれる。人間業の最高峰。 少女美虎がそれを認識しているかはさておいて、彼女の父は己の身体を最大の武器としていた。 防御を固めようとする美虎の後頭部を掴み、膝蹴りを入れる。 右、左、右と三連続。最後に肩を踏み台にしてバク転すると、フリッカーパンチを捻じらせたような軌道で肘打ちを入れてくる。 脳、目、鼻と来て耳。急所を迷わず潰しにかかってきた。 「あ……うぁ……」 片目を抑えながらよたよたと後じさりする美虎。 「弱わくなったなぁ美虎。おめぇがバケモンの子供を拾ってきた時は、そりゃあ驚いたもんさ。このガキ何してくれンだってな。でも父親の死を乗り越えて強くなれるならそれもいいと思った。なのになんだぁ、こりゃぁ」 「ぅ……」 鼻からぼたぼたと垂れる血を抑え、美虎は顔を上げた。 「おめぇはもっと強くなれねえのかよ。俺が死んだのは無駄死にか」 「パパ……パパは言ったよ」 「あん?」 フードを端を握る。 歯を食いしばって、深く引き下げた。 「『精一杯元気に生きろ』」 足を蟹股に開き、強かに地を踏んだ。 「それがすべてだ、パパ!」 美虎は一足で10mの距離を飛び、宙で反転。エネルギーを全てのせ、みぞおちに土砕掌を叩き込んだ。 霞の様に、幻の様にはじけて消える相手の身体。 腕を突き出したまま、美虎は顎を引いた。 フードに隠れた顔は、良く見えない。 ●『猟奇的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216) 先に謝っておく。 「私の身体が女らしくなって『よっしゃこれでエロ同人誌みたいなことができる!』て思ったらお兄ちゃん、急に距離取り始めたよね。お風呂もベッドも別になったよね。いいの黙って聞いて。私見つけちゃったんだから! お兄ちゃんのベッドの下に入ってる宝島グラビアクイーンおっぱい百連発の袋とじの中に入ってるカードキーで認証して開ける隠しアカウントでのみ閲覧できる……ロリフォルダを! 消したよ! 全部消した! ツインテ3のフォルダ以外はね! だって私にそっくりな幼女だらけだったもの。それちょっと嬉しかった。でもファイルを物理消去したことでお兄ちゃん烈火のごとく怒ったよね。と言うかガチ泣きしたよね。ベヨネッタのメモリ洗濯機にかけた時くらい泣いたよね。それが……私の罪。でもいいの! 私はもう身も心もフェイトすらもロリ! あと二年で合法ロリ! お兄ちゃんがロリコンなのはむしろ喜ぶべきだよね! だって虎美だけ見てれば合法だもんね! 嬉しい!? そうだよね嬉しいよねお兄ちゃんぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろ――」 虎美は『オニーチャン』と書かれたマネキンのマウントをとってタコ殴りにしながらここには居ない誰かと脳内会話しつつ網膜に念写した誰かをうっとりと見つめていた。 こわい。 以上だ。 本当にすまないと思っている。 ●『つぶつぶ』津布理 瞑(BNE003104) 誰にでも分かるように説明しよう。 津布理瞑はりあじゅうである。 小柄な中一ながらバスケでレギュラーを張り、テストの結果を張りだせば上位に必ず名前があった。 朝から夕方までずっと『すごい』と言われ続け、謙遜やお世辞が上手になった。 ラブレターも沢山もらい、丁寧で角の立たない断り方も上手くなった。 勿論それなりの苦労もした。 順風満帆な人生だったと思う。 そんなある日のことだ。 唐突にオッドアイになり、これはいけないと学校を休んだ。 クリックの音。 だめだ。 開かれるウィンドウ。 やめて。 スクロール共に流れる。 だめ。 ――あいつウザイ調子乗ってるコーチに色目使って非処女援助交際不良が彼氏で小学校でも男遊びムカつく死ねばいいのに死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね―― 「いい、よ……」 瞑るは力なく笑った。 両目の色が揃った、綺麗な目をした自分に、首を絞められている。 まあ、いいか。 「悪くないよ。あなたは、悪くない」 逃げたのは自分だ。 こんなになっちゃったのは、自分の所為だ。 だから。 「いいよ、殺して」 首の骨が、折れる音がした。 ●死者 土を踏み、シビリズ達は立っていた。 目を細めるシビリズ。 廻斗は胸元を強く抑え、瞑目している。 虎美は擦ったマッチを背中越しに投げて、邸へ火を放った。 ごうごうと燃える小さな館。 美虎はフードの端を掴んだまま歯を食いしばっている。 エレオノーラは振り返り、炎のあがる邸を見た。 「自ら『死んでもいい』と願った人も、いたのね」 「…………」 眼鏡を外して、計都は目を反らした。 久嶺が無表情に歩き出す。 「それまでのことよ。昔の自分が許せなかった。今の自分が許せなかった。終わりにしたかった。そんな人は……いくらでもいるわ」 邸の扉を一度に開けたのは、九人。 七人のリベリスタたちは、それぞれ別々の方向へ歩きだし、そして戻ってこなかった。 やがて、邸は灰にうもれ、炭と煙だけのものとなり。 ルーメリアと瞑が、背中合わせに立っていた。 「生き残っちゃったね」 「……うん」 「好きな人達のこと、思い出したんだ」 「……うん」 「これからずっと、思い出すんだろうね」 「……うん」 「今日の事も、あの日の事も」 「……うん」 「ずっとずっと」 「ずっと」 二人は自らの掌を見下ろして、握った。 灰が、空へ昇って行く。 高く。 高く。 高く。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|