●伝わる音 時刻は夕暮れ。天気は曇り。行き交う人の足取り速い。雨が降り始める前に、帰宅してしまおうという思いが見てとれる。そんな中……。 初めにそれを目撃したのは、小学校に上がったばかりの少年だった。空中を、まるで泳ぐように漂うそれは、まるで色とりどりのオタマジャクシのようであったと、彼は言う。 視界の隅を横切るように、それは彼の傍を通り過ぎていった。 赤、オレンジ、黄、緑、青、藍色、紫、黒の計8色のオタマジャクシ。 否、それはバレーボールサイズの音符であった。 音符達は、宙を泳ぐ。目指す場所は、音を奏でるのに適した何処か。 やがて彼らは、とある公園へと辿り着いた。曇天のせいか、人の姿はほとんどない。 暫く音符達はその場を漂い、周囲の様子を確認する。それから、この場が演奏に適した場所であると判断したのだろう。彼らは音を奏で始める。 赤い音符はドの音と、炎を。 オレンジの音符はレの音と、斬撃を含む衝撃波を。 黄色い音符はミの音と、雷を。 緑の音符はファの音と、呪縛と混乱を。 青の音符はソの音と、冷気の。 藍色の音符はラの音と、呪いや不吉を。 紫の音符はシの音と、毒素を。 黒の音符は、他の音を受けその色に変じる。 人のいない公園で、彼らは音を奏でる。美しい音を。破壊の音を。色とりどりの音色を。 ただそれだけが、彼らの存在意義なのだから……。 ●破壊の音 「アザ―バイド(メロディーフィッシュ)。それが今回公園に現れた生物の名前」 モニターに映る音符達に目をやって『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)がそう呟いた。 銀色の髪を掻きあげながら、小さくため息を吐く。 「ド~シの音とそれに対応する破壊をもたらす異世界の音符。ただし黒い音符だけは、他の音を受けてその音に変化する特性を持っているみたい」 丁度、モニターでは赤の音符が奏でるドの音を受け、黒い音符が赤色に変わる所が映し出されている。赤い音符が2体並んで、ドの音と炎を巻き上げる。 「また、音と音は共鳴して強力になるという特徴を持っている。気を付けて。挟みこまれたり、2色の攻撃を同時に受けると結構面倒」 例えば、ドの音とレの音を同時に浴びることになったとしよう。 その場合受けることになる攻撃は炎と斬撃ということになる。 「何処か別の場所に開いたディメンションホールからこちらの世界に出て来たみたい。ホールは既に閉じているから、送り返すことも不可能。世界の為に、殲滅して来て」 そう言って、イヴはリベリスタ達を送りだした。 イヴの背後のモニターでは、音符たちが楽しげに泳ぎ回っていた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月13日(土)22:12 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●奏でられる騒音 曇天。今にも雨が降り始めそうな、そんな空色。ゴロゴロと低く唸るような音が聞こえる。雷の音だ。 そんな不快な音に混ざって、楽しげな和音がどこからか聴こえてくる。 音の出所は、公園の中からだろう。雨の気配を警戒してか、人の姿は見当たらない。この音を聴いている者はごく僅か。これが破壊を招く音だと理解している、リベリスタ達だけだった。 「この下層世界に迷い込んだアザ―バイドも。斯様に危険で攻撃的な招かれざる客に来訪された我々も等しく運が無いと言えましょう」 音符のような姿をした8体のアザ―バイド(メロディーフィッシュ)を見ながら、冷静に現状を分析するのは『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)である。防御姿勢を取りつつも、メロディーフィッシュの前へ姿を晒す。 「どうやら厄介な性質を持っているようだが……。だからといって放置しておくには余りに危険すぎるな」 周囲に一般人の姿がないことを確認し、『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)もアラストールに続く。 ピタリ、と一瞬、音が止んだ。自分達の劇場に踏みこんできたリベリスタ達を見て、訝しげにゆらゆら揺れる。 しかし……。 「ふふふふふふ」 狂気染みた笑みを浮かべる『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)が前に飛び出る。その姿を見た途端、音符達は暴れはじめた。上下左右に大きく揺れ、ピアノに似た和音を放つ。 炎が、雷が、氷が、その他様々な効果を誘発する音波が吹き荒れる。音と音は共鳴し、暴れまわり、増幅される。それを迎えうつように、エーデルワイスの魔力銃が火を吹いた。 「迷惑極まりない音を奏でるのね。それじゃ私は銃声を奏でてあげる♪ 御代は貴方達の命よ、くくっ」 音波の渦と弾丸の嵐がぶつかり、弾ける。 音符達目がけ、喜色満面、銃弾を放つその姿は、まさにトリガーハッピーとでも、言えよう。 この瞬間。 公園内に踏み込んだ8人は、完全にメロディーフィッシュ達から敵と認識されたのだ。 ●奏でて、弾けて、誰かに届く……。 音を奏でる音符達と、銃声を奏でるエーデルワイスの姿を眺めながら『水底乃蒼石』汐崎・沙希(BNE001579)が静かに目を閉じる。 『音楽は好きよ。心が安らぐものね』 と、彼女は思う。 それから……。 『不幸な出会いね。少しだけ同情』 と、念話で直接、メロディーフィッシュに語りかけた。メロディーフィッシュは彼女の言葉を理解することは出来なかったが、しかし、彼女の声から何かを感じ取ったのか、僅かに動きが鈍くなる。 「おたまじゃくしみたいな外見……。そういう所を似せなくてもいいのに」 メロディーフィッシュの攻撃が緩んだ隙に、『やわらかクロスイージス』内薙・智夫(BNE001581)が引きつった笑みを浮かべながらも、エーデルワイスと入れ替わるように前へ。 智夫の手に、眩い光が灯る。それをメロディーフィッシュへと放とうとした、次の瞬間。 「下がって」 マントの襟を掴んで『青い目のヤマトナデシコ』リサリサ・J・マルター(BNE002558)が彼女の体を引っ張り戻す。放たれた神気閃光の狙いは大きくずれて、見当違いの場所に当たる。 同時に、智夫と入れ替わったリサリサの体が、衝撃波によって弾き飛ばされた。彼女の体を吹き飛ばしたのはオレンジ色のメロディーフィッシュが放った音波だった。 「出来る限りの攻撃はワタシが引き受けますっ。その間に各個撃破をっ」 素早く立ち上がり、音符達に向き直るリサリサ。彼女の視線の先には、オレンジ色のメロディーフィッシュが2体、並んで攻撃態勢をとっている所だった。 恐らく、片方のメロディーフィッシュはもともと黒色だった音符だろう。他の音符に変じ、様々な音を奏でる能力を持つ、他とは少し毛色の違うメロディーフィッシュだ。 絶対者の能力で、バッドステータスの大半を無効化するリサリサとはいえ、純粋なダメージを防ぐことは出来ない。襲い来るであろう衝撃を覚悟し、防御の姿勢をとる。 オレンジの音符が奏でるのはレの音。音波を放とうとした、まさにその瞬間、音符達の体を4色の魔光が貫いていった。 「音を奏でるアザ―バイドなんて素敵……なんて思ったのが間違いだったんですかね」 がっくりと肩を落としながら『歌姫』宮代・紅葉(BNE002726)が小さな溜め息を吐く。魔光を放ち、音符を襲ったのは彼女だ。続けざまに魔光を奏でようと、手にした杖を口元に寄せる。 リベリスタ達の攻撃を受け、音符達の位置が少しずつだが、確実にバラけ始めた。それを見てとって『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)がリサリサの元へ駆け寄っていった。 「音楽で人を傷つけるというのは悲しいことです」 悲しそうな顔で音符を見つめ、そう呟く。そっと、リサリサの体に手をかざし、その傷を癒していく。 破壊の音と、美しい旋律が同時に奏でられる公園を見まわし、凛子はそっと立ち上がる。 「参ります」 その一言が、第二楽章のはじまりだった。 「さて、狩りの時間だ……悪く思うな」 エーデルワイスの展開する弾幕を盾に、櫻霞が公園を駆ける。砂利と芝生を撒き散らし、向かった先には黄色のメロディーフィッシュの姿がある。傍にいた赤いメロディーフィッシュと共に、音波を放ち、櫻霞を迎えうつ。 「数が多いな。共鳴される前に手早く数減らしと行こう」 二丁のオートマチックピストルを両手に櫻霞の体が宙を舞う。雷と炎の混ざり合う音波が、彼の体を掠めていく。音に背を焼かれ、櫻霞が顔をしかめた。 「手抜きはしない。全力を以ってもてなそう」 着地と同時に引き金を引く。火薬の爆ぜる音が続けざまに2度、公園に響いた。 狙った対象は、黄色の音符。2発の弾丸を受け、大きく後ろへ弾き飛ばされていった。音符の表面に幾筋ものヒビが入り、砕け散る。ミの音を響かせながら、周囲に雷を撒き散らし、塵と化して消えた。 同時に、返す刀で赤い音符にも銃弾を叩き込むものの、ゆらゆらと揺れながら遠ざかり、上手く当たらない。音符は炎混じりの音波を放つ。 「想像よりもしぶといな……」 肩を押さえ、櫻霞が呟いた。皮膚の焦げた匂いと共に、押さえた手の隙間から血が流れる。 「歌や音楽は心を豊かにするといいますが……」 片手に剣を、もう片手には鞘を握りしめアラストールが唸る。視線の先には、青い音符と緑の音符。互いに音を共鳴させながら、エーデルワイスの放つ弾丸の嵐を防いでいる。 すぅ、と大きく息を吸い込む。剣を地面に突き刺して、視線を音符達へ。 「―――――――ッ!!」 メロディーフィッシュの放つ音を掻き消すほどの大音量で、アラストールが叫ぶ。気合いと共に放った大声。メロディーフィッシュや仲間達の視線がアラストールに集中する。 演奏を邪魔されたことに怒りを感じたのか、くるりと青の音符がアラストールの方へ向きを変える。 それを見て、アラストールは口元に小さく笑みを浮かべた。 冷気混じりの音波がアラストールを襲う。アラストールは鞘を眼前に翳し、防御の姿勢をとる。 音の波を受け止めるのと同時に、彼女は鞘を投げ捨て駆けだしていた。低姿勢で滑るように、音波の真下を潜り抜ける。青の音符を守るように、緑の音符が前へ。 しかし、音を奏でるより早く、緑の音符を魔弾が弾き飛ばす。魔弾を放ったのは、後衛から戦場を見守っていた沙希である。 『火力維持に協力よ。今のうち』 薄い氷のような笑みを浮かべる沙希に目を向け、アラストールは頷いて見せた。両手に持ちかえた剣に眩い光が集まり、次第にその光は強さを増す。 青い音符が、彼女の接近に気付いた時には既に遅い。アラストールと音符が交差し、次の瞬間、ソの音が公園に響き渡る。 冷気を撒き散らしながら、青い音符が崩れて消えた。片腕と、足元を氷で覆われた状態でアラストールは静かに剣を降ろす。 「美しい旋律でした……」 なんて、たった今倒した敵に向け、そっと賞賛の言葉を送るのだった。 『あら……。どうやら怒りを買ってしまったみたい。音楽の邪魔をしたからかしら?』 薄い笑みと共に、沙希の声が脳裏に響く。もっとも、その声に気付いたのは、彼女の傍に立っていた紅葉だけだったわけだが。 「流石に綺麗な音色でも、破壊しか振りまかないのなら『音楽』なんて言えませんし」 仕方ないなぁ、とため息を漏らす紅葉。顔を見合わせ、笑みを交換する2人に迫るのは緑の音符と、紫の音符の2体だ。ふわふわとした動きで、互いに交差しながら迫りくる音符と、音符目がけ魔弾を放つ沙希と紅葉。 音の波と、魔弾がぶつかり周囲に衝撃波が散らばる。 完全に音波を消し去ることは出来なかったのだろう。紅葉の顔色が一瞬にして悪くなる瞬間を、沙希は目にすることになった。毒を受けた彼女の体はじわじわと内部からダメージを受け続ける。 治療に移りたいところだが、敵の迫るこの状況では、そうもいかない。おまけに、衝撃波により巻き起こされた砂煙により、視界はすこぶる悪い。困った、とでも言うように沙希は苦笑い。 『やっぱり強敵。だからこそ全力で戦うのだけれど』 「……うっ。まぁ、同意」 苦しそうな声を漏らしつつも、なんとかその場に立ち続ける紅葉が杖を構える。口を杖に寄せ、歌を歌う用意をする。 それを見て、沙希は頷く。敵は2体。こちらも2人。視界は悪く、また敵の攻撃範囲は広い。 現在こちらは、敵の姿を見失っている状態ではある。だが、まだ負けたわけではない。 そっと目を閉じ、沙希は意識を集中させる。同様に、紅葉もまたその小さな体を緊張で満たし、杖を強く握りしめる。 『上……に、撃って』 脳裏に響く沙希の声。同時に紅葉は歌を歌う。 「さぁ、音符さん達……わたくしが音楽と云う物をご教授して差し上げます」 歌によって生み出されたのは4色の魔光。沙希の指示通りに、自身の真上へ向けて魔光を放つ。 紅葉が歌うのと同時に、沙希は魔弾を撃ち出した。超直感により察知した敵の居場所へと。 土煙りを突き破って、2体の音符が2人の上へと飛び出す。 『素敵な音の演奏会、最後迄聴かせて?』 酷薄な笑みと共に、沙希は言う。飛び出したメロディーフィッシュに命中する4色の魔光。弾けるファとシの音。塵と化して崩れる音符が、最後に放った音の波が2人を飲みこむ。 音符たちはどんな曲を奏でているのだろう、と紅葉は思う。 この攻撃を耐えきって、自分たちの治療をしないと、と沙希は思う。 光と音、砂煙に包まれて2人の姿は見えなくなった。 「しまった、庇い損ねた……」 光と音に飲み込まれた2人の方へ視線を向けて、智夫が顔をしかめる。前衛で戦う彼女は、いざという時、すぐにでも仲間を庇いに向かう予定だったのだが、そうもいかない現状に置かれているのだ。 「うわ、っとと」 地面を転がりながら、マントを掲げ音波から身を守る智夫。彼女と対峙するのは、藍色のメロディーフィッシュだ。ラの音と共に襲い来る背筋が粟立つような悪寒に、智夫は小さく身を震わせる。初手で付与した怒りによって、現在彼女は、藍色の音符から執拗に追い回されているのである。 宙をふらふらと漂う藍色の音符は、まるでオタマジャクシそのもので、尚のこと智夫の恐怖心を煽る結果となっているようだ。 とはいえ、このまま逃げ回るばかりとはいかない。す、っと手を合わせそこに光を集めていく。神気閃光。智夫はこれをナイチンゲールフラッシュと呼ぶ。 チラ、と視線を沙希と紅葉の方へやると、そこには不健康そうな顔をした2人の姿が見えた。どうやら、意識は失っていないようで、とりあえず一安心と言った所か。 「なるべく前衛同士で壁を作るように布陣したかったんだけどなぁ」 思ったよりも、敵の動きが不規則でそうはいかなかったのである。代わりに、1対1の状態に持ち込むことは出来たわけだが。 防御用のマントを翻し、智夫は地面を転がる。胸に抱いたグリモワールが強い光を放っているのが見える。藍色の音符に向け、マントを被せ視界を塞ぐ。 もっとも、音符の形をした相手に視界というものがあるのか、甚だ疑問ではあるが。 少なくとも、その不規則な動きに制限をかけることには成功する。 「ナイチンゲールフラッシュ!」 両手の灯る眩い光を、智夫は藍色の音符に叩きつけた。光に包まれ、塵となる音符。崩れる瞬間、智夫の耳にくぐもったラの音が響く。 公園での戦いも、終盤戦に差し掛かる。空の覆う雲は厚さを増し、公園には、ぽつぽつと雨粒が降り注ぎ始めた……。 ●演奏会の幕は降り……。 真空の刃と、炎の渦がリサリサと、凛子に襲い掛かる。 赤い音符と、オレンジの音符による共鳴攻撃。綺麗な音とは裏腹に、襲い来るのは破壊のメロディー。 「ワタシにはアナタの攻撃など効きはしません!」 凛子を庇うように前へ出るリサリサ。人間1人程度の壁では、音による攻撃を完全に防ぐことはできないだろうが。 真空の刃に切り裂かれ、身体中には無数の裂傷。弾き飛ばされた際に負ったものか、痣もいくらか見受けられる。それでもリサリサに引く気はない。 同様に、傷を負った凛子もまた、肩を押さえ立ち上がる。 「この程度ならまだいけます」 バックステップで後ろに下がりながら、衝撃に備えて姿勢を低くする凛子。 彼女の視界の端に映ったのは、狂気染みた笑みを浮かべ、高笑いと共にこちらへと接近してくるエーデルワイスの姿が見えたからだ。 「あはははははははははっはははははっはははははははぁ!」 狙いを定め魔力銃の引き金に指をかけるエーデルワイス。 しかし、いざ弾丸を放とうとした段階になって、突如彼女の体が大きく弾き飛ばされた。炎に包まれ地面を転がるエーデルワイス。 炎の音波は、ドの音だ。赤い音符が、エーデルワイスに向けて音波を放ったのである。 「ドの音が2体?」 視線を巡らせ、リサリサが呟く。恐らく、どちらかが黒い音符の変じた姿なのだろう。 炎に包まれたままエーデルワイスは立ち上がる。その目に妖しい光を灯し、見つめる先には音符が3体。仲間と共鳴して強化されるメロディーフィッシュは、どうやら1か所に集まりたがる傾向にあるらしい。 「さぁ残り半分! 一気に平らげましょう! あははは!」 立ち上がったエーデルワイスに向け、再び音波を放つ音符達。炎が2体、刃が1体。破壊を撒き散らしながら、迫りくる音の波を前に、凛子はひどく残念そうな表情を浮かべる。 「音楽とはそういうものなのですか?」 凛子の周囲を淡い光が舞い踊る。瞬きながら光は数を増やし、広がっていく。自身と、そしてリサリサ、エーデルワイスの身を包みその傷を癒す。 「医者が怪我を癒すものなら、音楽は心を癒すものですからね。楽しい音楽のためにもまだ屈するわけには参りません」 強い意思の籠った眼差しで、音符を睨みつける。 「勇気をもてない君へ捧げる~♪」 そして、凛子は声高々に歌い始めたのだった。 「ワアシの力は護りの力……」 穏やかな笑みと共に、地を蹴って飛び出すリサリサ。長い黒髪が風に踊る。雨の降りしきる中を駆け抜け、向かった先はエーデルワイスと音符の間。 「人に災いを与える事無い素敵な音になりますように」 なんて、吐き出した言葉は的確に、音符達の注意を自身に集める。襲い来る音の波をその身で受けつつも、リサリサは笑って見せた。音符が揺れる。自身の体を細かく揺らし、身体全体で音を放つ。 ゆらりと揺れて、宙を泳ぐ。音を鳴らしながら向かう先には、血に汚れたリサリサの姿のみ。 いつの間にか、エーデルワイスの姿が見えなくなっている事に、音符達は気付かない。 音符の動きが止まり、再び音波を放とうとした、その瞬間。 「駄目じゃない、そんな所みせちゃ……。だって、すごく壊したくなっちゃうんだもの」 真横から、至近距離で放たれる無数の弾丸が、次々とメロディーフィッシュに襲い掛かる。音をばら撒きながら、音符達は弾丸に貫かれる。 「アハっ! 燃え尽きる瞬間の音が一番美しいかもしれないわね、ふふっ」 ヒビが入り、砕ける音符達。初めに崩れたのは、赤い音符だった。塵となり、消える瞬間にドの音が響く。続いて、レの音と共に砕けて消えたのはオレンジの音符。 最後に残ったメロディーフィッシュの体からは、メッキが剥がれるように赤い破片が飛び散っていく。 そして現れた、黒い体。最後に残ったメロディーフィッシュに、エーデルワイスが銃口を突きつけた。 「オタマジャクシの死に際の音は、どんな音かな?」 引き金を引くと共に、放たれた弾丸が、メロディーフィッシュを粉々に打ち砕く。 バラバラと、その身を崩しながら最後に残したのは、無音……。 戦いは終わり、メロディーフィッシュの演奏会はこうして幕を降ろす。カーテンが締まった後に残るのは、静寂だった。静かに消えていく黒いメロディーフィッシュを眺めながら、エーデルワイスはどことなく残念そうな表情を浮かべる……。 ●終演。 土砂降りの雨が降り注ぐ公園の隅、屋根の付いた休憩スペースに1枚の画用紙が貼りつけられている。 それは、沙希の描いた、自由に踊り音を奏でる音符達の姿。 画用紙は、風に運ばれどこか遠くへと吹き飛んでいった……。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|