● 『お兄様に逢いに行きなさい』 私を育てた母は常にそう囁いていた。 『お前ができることは、人殺しだけ』 はい。 お母さんは私にそれしか教えてくれませんでした。 『だから人を殺して糧を得て――お兄様に逢いに行きなさい』 はい。 それがお母さんの命令ならば。 頑張りました。 頑張って、血の生ぬるさにも断末魔の呪詛にも……馴れました。 『お兄様を攫った私の夫を殺し、お兄様を解放なさい』 はい。 ――お兄様がどんな人か知らせる前に、お母さんは死んでしまったけれど……きっと私と似ているのでしょう。 その人に逢えば、私はおしまいにしてもらえるのでしょう、きっと。 ● 「アザーバイドを、ひとり倒して欲しいの」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はシンプルに一言告げたあと、端末を操作して皆に資料を見せる。 そのアザーバイドの外見は12歳ぐらいの少女。 金の外はね髪に、青の瞳。黒のワンピースは血で汚れてさえいなければお人形さんのように愛らしい。 そう。 ……瞳が死んでいるから、お人形さん。 少女の世界はここよりちょっとだけ『暴力』がまかり通る所。だから少女は人殺しの腕を母親に仕込まれた。 少女の兄を溺愛していた母親だが、離婚の結果、当時5歳だった息子は裕福な夫の元に引き取られた。 彼女に残されていたのは孕んでいた少女だけ。 ……だから母親は少女を道具にした。 「彼女は、鋼鉄の糸を使った攻撃を繰り出してくるよ。上の世界の住民だから、それ相応」 彼女が現れる場所はわかっている。 彼女に『ここが何処か?』など問い掛けてくるメンタリティは、ない。即戦闘になるだろう。 「別の世界に来たって認識してるかが、そもそも怪しい」 彼女は所謂殺し屋だ、容赦はしないだろう。 幸いなのは彼女に土地勘がないから、キミ達を自分のテリトリーに誘い込むなどの小細工ができないことか。 「彼女は元の世界には戻れない、だから倒して」 イヴはかっきりとそう言うと部屋を出た。 キミ達の任務は彼女を倒すこと。 それさえ果たすのならば、過程は問わない――彼女にどんな形の『おしまいい』を与えようが、キミ達の自由だ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:一縷野望 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月22日(月)23:10 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●想い馳せ 賑やかな街中からいくつか曲がれば裏通り、潰れたバーの看板が地面を埋める廃墟めいた場所に辿り着く。 恐らく一番割り切れているのは、朽ちた木戸をくぐり身を隠す場所を選定する『モンマルトルの白猫』セシル・クロード・カミュ(BNE004055)だ。 (彼女は殺し屋というよりは殺人鬼に近い) 殺し屋は利益という目的を満たす為に人を肉塊に変える、だが彼女はもはや殺戮が目的。 (母の命令厳守の信念か、破滅願望か……) 殺人鬼から10年、不惑にて殺し屋に至った『必要悪』ヤマ・ヤガ(BNE003943)は能面のように表情のない仮面をつけると髪をフードにしまう。 (見た目は子供、獲物は鋼糸、生業は人殺し、との) 余りに似すぎていると親近感に似た憐憫、もう自己を憂う年はとうに過ぎた。 (いつも通り、ヤマの仕事をするとしよか) ヤガは生業で自己を呼ぶ、そして心をも仮面で覆いつくすとヤマと為った。 どこか慣れた二人の後ろ『俺の中のウルフが叫んでる』璃鋼 塔矢(BNE003926)は乱暴に漆黒髪をかきあげる。 (気分良くないだろ) 『人を殺せ、それしかできない』と子守唄を謳う母に硯を解いたような怒りが胸でゆらり、めらり。 (隙を見せてほしいからじゃねぇ) 少しでも救いあるおしまいを、塔矢は言葉を紡ぐ理由を改めて握り締めた。 「ほんと、理不尽」 塔矢の抱える澱みを奇しくも『淋しがり屋の三月兎』神薙・綾兎(BNE000964)はきっかりと単語にしてみせた。 「……どうして同じだけ愛してあげられなかったんだろうね」 見上げれば曇天、月はない。 綾兎は群青の瞳を眇めると、やがて訪れる異界の娘を想い描く。 女の子らしいことも楽しさも知らない娘。 (持ち主のなくなった道具は何処に行くのだろう) 『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)は、兄と慕う彼からの魔道書を胸に唇を噛んだ。 殺すことを強いた彼女の母は、為す結果を見もせずに此の世を去ったのだという。 華、月、風。 世界の彩りを名付けた金魚、きっとそんなことも知らずに生きている。 ――もし、彼女がこの世界に愛されていたら、彩りを楽しむ友になれていたかもしれないのに。 (わたしにできることは、人殺しだけ……?) 束ねた金の糸が街灯の光を吸い、俯く白磁の肌に柔らかな影を描く。 『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)は、雷音が願う奇跡をより形あるモノとして胸に抱く。 ――例えばラ・ル・カーナなら? 少女の存在ひとつで崩界してしまう脆い此処よりもずっと上位のあの場所なら、あるいは。 でもまずは彼女にぬくもりをあげたい、例えばこの身が砕け散ろうとも。 そんな危うくも色濃い舞姫の心を感じ取ったか『名無し』氏名 姓(BNE002967)は、彼女と真逆の意図の読めない笑みを浮かべた。 (私達があの子の敵である事には、変わりないか) どう飾ろうが待ち伏せる時点で慈悲など無いのかもしれない。 けれど、そう在りたくはないという葛藤が、此の場所には満ち満ちている。 はじまりを告げるように『Star Raven』ヴィンセント・T・ウィンチェスター(BNE002546)が人寄らずの結界を展開する。 足下の影より黒い鴉の翼を背に彼は思索の糸を手繰る。 ――絶望しか望まない少女に何をしてあげられるのか。 (偽善と欺瞞に満ちた、僕なりの答えを) 願わくば彼女に穏やかな『おしまい』を――。 ●異界の娘、来訪 と。 針が落ちたような幽かな足音。 き。 蟻が顎を動かすような糸の啼き声。 「8」 唐突に現れた少女は漆黒レースの裾を翻し、冷淡にその場の熱の数をはじき出す。 ヴィンセントが幻影で兄を描き置いたのとほぼ同時、細い糸を1、2、4……と指に増やし空間を刻んだ。 (来ると思ったわ) 潜むセシルの真横、壁が綺麗に切り取られ堕ちる。されど仕掛けてくることを気取った銀の猫は、背を沈め糸の舞いから逃れた。 貫いてなお殺傷力の高い銃を指先に招き、なぞる。 結果を求めるだけの自分は、果たして殺し屋と殺人鬼どちらに近いのか。 「いきなりだね」 姓は塔矢を後方に突き飛ばし庇うと無数の糸傷を腕に作る。 笑い方を教えようと笑んだ兄が躊躇いなく刻まれて、ヴィンセントは僅かに瞠目。 (これは異な事、よ) てっきり生き疲れに押され拐かされると思っていたヤマは、血で染まる服に苦笑を浮かべしばし逡巡。 「わたしは舞姫」 緩やかな声と相反するように高速の世界に身を委ねる、彼女に追いつく為に。 「あなたの名前、教えてくれますか」 腕を伸ばす舞姫の隣、別の意図で綾兎が同じ問いを作る。 「……ねぇ、君さ。名前、あるの?」 彼は既に『さぁ、始めようか』と囁き体の軸を戦闘へと傾けている。 故にこの問いは……挑発。 いや、 やすむ時間をあげたいと願う綾兎のこの台詞が、彼女の心を揺さぶるだけの目的であるものか! 「こんにちはお嬢さん」 澄んだ翡翠の瞳で雷音はいくつかの剣を周囲に遊ばせる。 「君の名前をきかせてもらえるかな?」 彼女のパーソナルを位置づける、道具の彼女を人に替える。 ゆっくりとわかりやすく紡がれた言葉に、少女は碧天の瞳を瞬かせた。答えが来るか? ある意味名無しの姓は同じ問いを喉の奥にしまう。 「……オイ」 それが異界の彼女が授けられた名。 「オマエ」 「アホゥ」 違う、名前なんかじゃない。 淡々と返るのはその場その場の罵詈雑言、名を呼ぶように悪意のフレーズを浴びせられたと少女は、感情を宿さぬ瞳で返す。 「なんだよそれはっ」 ……殺すことしかできないなんて勝手な定義をつきつけるだけでなく、欠片も想われていなかったその現実に、塔矢から思わずの怒号が溢れた。 握り締めすぎて震える銃をまだ彼女に向けるなんてできない。 声をかけたいんだ。 彼女に少しでも救いあるおしまいを……。 「クズ」 5つめが零れ落ちる頃、舞姫の腕は届き少女をかき抱く。 「頑張って慣れているのなら、その仕事は続けるべきじゃないな」 ほぼ同時にヤマは思考の海から戻り殺し屋として話すことを選ぶ。 「頑張らないと、お母さんが」 反応があったからヤマは攻撃を先送りにする。 被った仮面は、兄。 「辛いだろう?」 とおに過ぎた路を辿る声には熱が篭もる――同じ事をしてきたから理解る。 「つらい」 少女はしばし首を傾げた後、こくりと頷いた。 「でもお母さんに言われました。お兄様を解放なさい、と」 「気づいてるかな? そのお兄様を今殺そうとしたんだよ、君は」 姓の素っ気ない指摘に、 「……あ」 吃驚。 すかさずヴィンセントは一旦隠していた兄の幻影を再び晒す。 そこに佇むのは、少女によく似た面差しの青年。舞姫は体をずらし静逸な佇まいの青年と相対するよう促した。 「笑うのです……か?」 血の染みた糸を手繰り戻しながらも少女は首を傾げた……本当にあどけない仕草だった。 やはり微笑みをもらった事はなかったかとヴィンセントは瞼をおろす。その隣で笑い方を教えるように笑み続ける幻影の兄。 「貴女の笑顔はきっとこんなにも綺麗です」 本来の世界では叶えられなかった物語。だからせめてこの世界で叶えばいいと思う。この願いが、命のおしまいへ導く自分達の欺瞞だとしても。 「でも、皆、泣き顔や怖がる顔ばかり、私に向けます」 ――それは彼女が殺すから。被害者達は絶望を彼女にぶつけるしかできないから。 「別にいやなら、従う必要はなかったんだ」 それしかなかった少女へひどいことを言っているのかもしれない――選択を知ることが救いにはならないと理解りながらも雷音は提示したかった、例え自己満足でも。 ボクたちも人殺しだ。 でも。 「従わなかったら、どうなりましたか?」 これ以上は残酷だろうかと唇を噛む雷音を背に、示すことで先があると信じる舞姫が口火を切った。 「ここで、新しい生活を始めましょう。楽しいことも、嬉しいことも、いっぱいあるよ」 与えられることを知らぬ少女は唇を結ぶ。 「もう、母親もいないんだろ?」 震えた塔矢の唇はようやく声を産んだ。 「殺しなんて、やめちまえよ。おしまいにしようぜ」 一度産まれれば塔矢の声は留まることは、なかった。 「あんたはもっと疑問に思って良かったんだ」 「疑問……」 いつから抱かなくなったんだろう? 確か4つの頃は、まだ怖かったはず。 お母さんが恋人達の腕を縛って千切り『人の壊し方を教える』のが、怖かった……はず。 「でたらめな母親の言葉を信じることなんてなかったんだ」 「私はやっぱりでたらめだったのでしょうか」 ……あと1回、諦めずに『いやだ、怖い』と重ねれば、お母さんは赦してくれたのか、な? 少女の蒼と黒が揺らいだ。瞳は僅かに潤み、黒紅のスカートを握り締める音を綾兎は聞いた。 心の、音。 「……ぁ」 同じことを繰り返すよく似た青年の面差し。真似なんてできない、肉体的には唇の端をあげればいいだけなのに、それがどうしてか、できない。 「おしまい……くれますか?」 き。 再び啼き出す糸が広げぬという気概を込めて、舞姫は少女の体を強く固く抱きしめ喉を震わせる。 「あなたは人殺しなんてしなくていい」 あたたかな子守唄でうわがきする。 ぴ。 だが無情にも舞姫の腕を抜けた糸が、綾兎を刻み更に広がっていく。 「……ほんと、女の子にしては重たい一撃だよね」 多数に向けてもこの力かと、柊の花に絡む糸の力強さに綾兎は眉を顰めた。 この糸は、蓄えた力を無に帰していく。 そうやって絶望を与えて殺すのがこの娘のやり方と、ヤマは杖で囮にするように前に出し全身が無防備に晒されるのを避けた。 変わらず身を潜め続けるセシル、素早く飛ばしていた雷音の指示が効き体を捻り躱した塔矢が難を逃れた。 ●おしまいのはじまり 「……」 セシルは時を待つ。 少女が殺気を辿るようなので、銃口はまだ向けていない。 求められている結果はとてもシンプル、やり方は問わない――それは傭兵でもあったセシルにはとても馴染む方法論。 為すことができるのならばまだ過程を仲間に委ねることができると、達観の眼差しで見守り続ける。 直撃を受けた舞姫は、それでもなお子守唄を歌い続ける。 ラ・ル・カーナの話にも反応がなかった、受け入れること叶わぬのだろうと理解が悔しくも染みていく。 熱い雨が少女の頬に降った。 ……戦に立つ姫の、涙。 「あなたのお母さんにはなれないけど、お姉さんにならなれるよ……ほら、髪も目も、わたしとおんなじ色だよ」 「おね……さ……」 頷く蒼にどう言えばいいのかわからない。 でも、あたたかい。 こんなに血だらけなのに、あたたかい。 「……」 初めての抱擁に混乱をきたした少女は、平常を取り戻すように再び糸を寄せ始める。その行為を止めさせるように、ヤマは声をあげた。 「肉を裂く感触や、傷ついた相手の呻きを楽しいと感じられる様にならなければ……」 それはもはや兄の風情というよりは、一人の『ヤマ』としての言葉。 「殺しは続けていられない」 ――必要悪。 そう仕事を断ずる『ヤガ』からすれば妙に感傷的かもしれないと何処かで想いながら。 「殺すのは嫌い……」 熱雨から逃げるように下を向く。 楽しい、か? でもそう問われれば…………。 「殺す時、被害者は私を見てくれます。飛びきりの感情を、くれます」 少女の口元が極々自然に持ち上がった。関心が向けられる経験を想い出し充実を見出したのだろう。 ――こんな笑みは見たくなかった。 「馬鹿野郎」 塔矢は声を震わせながら、輝きを招き仲間達の傷を塞いだ。力が足りない自覚があるから、仲間を押し上げる礎となる覚悟だ。 「殺しの道具にしかなれない奴なんていないんだ」 光が傷を癒すように、彼女の僅かな未来を少しでもマシにできればと切に願いながら。 「何にでもなれたんだ」 「お母さんはもう死んだ」 塔矢の叫びに雷音の祈りの歌が重なった。歌が終ったが少女は唇を動かし続ける。 「自由という権利を得ることもできた、それをしなかった」 雷音の台詞が最後に到達する前に、先程の笑みで刻限を悟ったセシルの銃弾が彼女の指に突き刺さる。 「……ッ」 少女が引き攣る気配、舞姫は抱きしめることでそれを宥めた。 理解している。 している。 でも。 「それをしなかった、どうしてなのだ?」 「答えはでてるよ、朱鷺島嬢」 姓はセシルの穿った傷に重ねるように力を注ぎ、解きほぐす。 限られた世界を辿り編み上げた彼女の本当の『心』があの笑みだ。 静かな少女は『ヒトゴロシ』の生業に満たされては、いた。 これはなんて取り返しのつかない無残な物語だろうか。 「やっぱり、お母さんに、兄ではなく『自分を』見て貰いたかったんだ」 被害者は代わり。 与えられた環境の中で彼女は自分の望みを叶える方法を見出した。最初にセシルが思った通りの歪んでしまった方法だ。 でも見つけただけいい――姓は自身も塗り込めた卒塔婆を指でなぞり嘆息。即冷淡に此の世界の理を唇にのせる。 「あなた達には嘆きが……ないです。怖くないです、か?」 また糸が広がる前に、綾兎は無慈悲な流れに乗って声を張り上げた。 「そんな手じゃ『お父様』は殺せないよ」 「おと……」 その単語を口にするとやけに喉が渇く。その単語は、私の路の出発点。 「……かあさんを、捨てたお父様」 「殺したいよね?」 答えを聞く前に刃を無数に入れれば、少女はまるで肯定するように体を前に揺らした。 と。 お返しと綾兎の胸が糸に貫かれた。でも苦よりも綾兎は笑みを選ぶ。 「……俺が覚えてるよ」 そのためには、負の激情だけを刻んだ数多の被害者のように倒れてはならない。 「他の人や、君のお兄さんが君のことを忘れても。絶対に」 覚えていることが彼女への手向け。 「貴女の手で……」 抜けた糸が幻影に届きそうなギリギリで、ヴィンセントは兄の幻影を消した。 「お母さんの望み通り、『お兄さん』は解放されましたよ」 彼女が見つけた探し物――更なる心の奧に指を伸ばしたい。まだ彼女を抱きぬくもりを与える事を諦めぬ戦姫がいるのなら、なおさら。 「もう一つも僕達が見つけてあげることができると思います」 ……できれば違う笑い方をして欲しいから。 ●彼女の、はじまり 8人は悟っていた――真っ向からなら勝てない公算が高い、と。 つまり、ヤマの糸に絡め取られてセシルの弾に肩を穿たれた少女は平常心ではない可能性が高い。 おしまいに、身を委ね始めている――。 「よく、がんばったね。おしまいをあげる」 じきに、僕も行くからとヤガは穏やかな声と裏腹に苛烈に糸を重ねた。 不毛からの脱却。 そう語る場ではないと悟り、セシルは無言で彼女の幕を引くべく引き金を引く。 「……あ、ぅ」 ビクンッ。 死に向き合い続けたからわかる硬直の意味に、舞姫はそれでも少女をかき抱く。 「君はどうしたい?」 溜まらずに雷音はずっと殺してきた問い掛けを叫んだ。 「教えるのだ! 君はどうしたいのだ?!」 同じ世界に産まれれば、運命の糸が交差すれば、こんな理不尽から絶対に彼女を連れ出してみせたのに! 「ねえ、お願いだから……『おしまい』じゃなくて、『はじまり』が欲しいって言ってよ」 「はじ……まり…………?」 舞姫の声に見せるは瞼に隠れかけた虚ろの蒼。 でも。 どうしてだろうか。 彼女からは、此処にきたばかりの頃より人形めいた気配が消え失せていた。糸の切れた人形の様にぐったりしてるのに、不思議だ。 「……」 ヴィンセントはもう幻影は出さず、ただ静かに自分の微笑みを彼女に向けた。 「なぁ」 塔矢はもはや自分が泣いているのか怒っているのか……喜んでいるのかわからないぐしゃぐしゃの顔で続ける。 「人殺しを『おしまい』にできたな、俺達は死んでない」 髪を撫でれば下がりかけた瞼が若干あがり、明瞭な蒼が覗いた。 最後に刻まれるのが笑顔でありますようにと、舞姫は精一杯口元をあげる。お姉ちゃんになるって決めたと笑う。 (ヤガと同じ道を辿るのであれば、ここで終いにして正解だったかの) 安寧満ちはじめた終焉を目に、80数える娘ヤガは静かに口元を持ち上げた。 ひとでなしを増やすよりは、ずっと、ずっと……。 (彼女も名無し、か) 個人として葬りたかった。が、名が無くとも彼女は彼女の終末を迎えられている。 死に向う少女に憧憬を抱く自分は本当にどうしようもないと、姓は遠巻きにその輪を見守るだけ。 次の世界へ辿り着く事を信じ雷音がそっと髪を整える。 「外はね髪、可愛いね」 舞姫は瞳色のリボンをあしらう、似てるねって、お姉ちゃんで待ってるよって……嘘かもしれないけれど、まだ諦めきれなくて。 殺し屋の彼女はおしまいになったから、次は笑って生きられると塔矢はごちゃまぜの感情の中から、笑みを掬いあげ見せた。 「……ぁ、りが…………」 向けられた微笑み達に少女は先程とは違う穏やかな笑みを、返した。 そんな感情を、私に向けてくれる人、いるんですね。 その返事は死路へととけた。 「…………」 ――本当に理不尽だった。 綾兎はそれが悔しくて、けれど冷静に「おしまい」を導くことが最良の手向けだと信じたから、あえて冷淡に…………違う。 「……おやすみ」 ずっとそう言ってあげたかったのだ。 もうやすんでいいのだと。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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