● 夜闇の路地裏にて、リシャという通り名の女はひっそりと店をたてる。 1本違う通りには占い師が店を連ねる『予見通り』がある、が……彼女はそこに店を立てるほどの知名度があるわけでなし。 迷い込んだ客人や『予見通り』の有名占い師からあぶれた客を相手に会話を交す、それが生きる糧。 昼間はファーストフード店でバイトをしながら、ここに店を立てるのは謂わば彼女自身の心の慰めでもあるのだ。 (……でも、止めた方がいいかもしれない) わたし、ひとをころしちゃったから。 陰鬱を塗した瞼をおろし、占い師はため息をつく。 足下の鞄から顔を出すのは大きな水晶玉、所謂占い師がそれっぽく使うアレだ。 ある時、 『絶対に当たる占いができるとしたら、素晴らしいとは思いませんか?』 『きっと沢山の迷える人の心の霧を晴すことができますよ?』 『あなたが人を救えるのです』 自分の元に訪れた折り目正しい女性が、そんなことを囁き押し付けるように置いていった。 まったく興味がないと言えば嘘だけれど……別に「絶対に当たる占い」を嘯きたいわけじゃない、だから触れずにいた。 ――それから数日後。 『予見通り』から流れてきた男は、一昔前にTVよく見た顔だった。 落ちぶれた芸能人の彼は、興した事業で切羽詰まりどうすればいいと縋り付いてきた。 リシャは答えた。 「誕生数3のあなたは、計画性がなく行き当たりばったりなのが欠点ね。今から立て直すって時に占い師に頼る時点で浅はか。如実に現れてるわ」 と、いつものように数字と相手の語る言葉から感じたことを率直に、辛辣に。 対してもっと明るい見通しが聞きたいと激高した彼は、足下の水晶玉に目をつけた。 「あれで占えよ!」 ――絶対に当たる占いができるとしたら、素晴らしいとは思いませんか? (救ってあげられるのかって、思ったんだけど、な……) 水晶玉に映ったのは首をつる男の姿。 とてもとても告げられないと口を噤んだら、男は怒ったまま金も払わず去っていった。 次の日、朝のお茶の間ニュースは無責任に告げた。 『以前、この番組でも笑顔を振りまいていてくれた車釜エイ太さんが首つり死体で発見されました』 と。 その車釜エイ太さんは、昨日リシャを罵り水晶玉の中で首を吊っていた彼に相違なかった。 ● 「アーティファクトを回収してきて欲しいの」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はシンプルに依頼内容を告げる。 アーティファクトの名前は『プロフェットの水晶玉』 形状はその名の通り一抱えほどある水晶玉だ、現在の所有者は占い師のリシャという20代半ばの女性。 『プロフェットの水晶玉』能力は目の前の人間の未来が見えること。 ただしその未来は、占われる側が予想している『最悪の結末』であり、水晶玉に映ったが最後その通りの結末を迎えてしまうというタチの悪い代物だ。 「使用者が『占う』という意思で使わなければ発動はしないけどね」 代償は使用者の精神力。何度も使えば何れは廃人と化してしまうだろう。 「場所は彼が知ってるよ」 イヴがちらと送る視線に応え、スーツの男『makeshift』高羽 祈(nBNE000241)は丁寧な所作で頭を下げ名乗った。 「まぁ一度占ってもらったことがあるだけですが……彼女の店へ案内はできますよ」 「そういうことだから、行って所有者を説得して欲しいの。彼女が『絶対に当たる』水晶玉に心が捕らわれる前にね」 万華鏡の申し子はいつものように淡々と述べた。 過去、こんな風に自分のコトも覗き見されて、故に今生きているのだろうな――そんな感慨に穏やかな笑みを被せ、祈は口を開く。 「皆さんも占ってもらえばいいと思いますよ。アーティファクト頼みではなくて、彼女が得意とする本来の方法で」 いきなり説得に入ると警戒されるだろうから。 まがい物の占いよりは、リシャの得た知識と占い師として持つ能力を想い出して欲しいから。 「どんな占いなの?」 「誕生数占いです」 西暦の数を全て足して出た数字で性格判断、詳しくはそれこそリシャに聞けばいいだろう。 「当たるの?」 「人それぞれじゃないでしょうか」 「あなたはどうだったの?」 イヴの問いに祈は肩を竦める。 「誕生数6の私は『自分のことより人のこと、と、自己犠牲が過ぎる』そうです。あとは……」 ――そうやって人に尽くすのは、実は相手を独占したいことの裏返し。 「結構当たってるね」 万華鏡を通した見ていた像とそうそう乖離してない、それがイヴの率直な感想だった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:一縷野望 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月23日(水)22:24 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●『紅蓮の意思』 蝋燭や淡色洋燈の定まらぬ灯りは占師を現実から一歩ずれた存在に錯覚させる。 街灯に惹かれる虫のように占師に引き寄せられる客。それを見る『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)もまた占師探し。 余所見のままで歩みは横道へ、最奥にて灯る光を見つけ足を速める。 「まずは俺の性格を聞かせて貰ってもいいかな」 マフラーで隠した口元から聞こえる声は存外はっきりとしたもので、リシャは出した数字に頷き口火を切った。 「あなたに占いなんて必要ないんじゃないかしら?」 いきなりの否定に今宵の目論みを悟られたか? だがそれは優希の杞憂だった。 「運命数4のあなたはなんでも自分で決められる人。依存心が強い割りに、最後は自分で決めなきゃならないってわかってる」 依存心と自己意志の強さ、一見相反するものだが――兄妹の死により復讐鬼と成り果てたきっかけは『他者』/己を律し此処まで歩んできたのは『自分』――妙に納得がいった。 「では、相対評価を客観的に率直に聞きたい」 「勤勉、真面目、堅物……」 リシャは生年月日をバラし導き書いた『4』を撫で、 「疑り深い」 優希の瞳を捕らえた。 「自分の歩く路を人に譲れないのは、他者を信じられないから」 「この後、恋愛の相性を聞こうと思ったんだけどな」 苦笑する様は普通の高校生、歩んだ修羅は覆い隠しているつもりだが……実は全てわかっているのではないだろうか、彼女は? 普通の客を装うと1番手に名乗りをあげたがそれは失敗だったかとの焦り、だが下手な演技は却って仇かと優希は用心深く口を閉ざす。 「いつかその慎重さがあなたの足を止める日がくる。そんな時に『思い切り良く決断できる人』が傍にいれば助けになるでしょうね」 「そうか」 「失うのが、怖い?」 俯く少年にリシャは感じ取った影をそのまま口にする。 僅かに飲まれた息。 突然理不尽に奪われた日常、もしまた大切な人を作ってその人が奪われたら――? 「確実にあるものを羅針盤に生きるあなたは、それを壊す変化を怖れる」 「克服するには?」 「研鑽」 力を磨け、揺るがぬ力を。 「そう、か」 礼を述べ優希はマフラーを外し素直な笑みを見せた。 「俺からもリシャの未来の幸運を願う」 「あら」 「占いは人の負の感情を受け止める辛い仕事、選んだのは人の力になりたいという動機があるから」 「……ありがとう。でもわたし、もっと下世話よ?」 人の運命を、心の闇を覗き見したいの。 「なら……」 優希は真っ直ぐに視線をあわせ囁いた。 「運命に、試練に。人の心の弱さに、負けないで欲しい」 引き摺られないで欲しい。 「……」 白い息を吐いた後、リシャは足下の鞄に視線を落とし短くもう一度呟いた。 「ありがとう」 ●幕間 「明らかな悪意を以て水晶を渡しているな」 「ああ」 『戦闘狂』宵咲 美散(BNE002324)の静かな怒気に、『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)は同意と頷き『makeshift』高羽 祈(nBNE000241)に視線を向ける。 「望叶堂(ぼうきょうどう)そう名乗りました」 それは『逆さタナトス』を渡された後、何度目かの邂逅で。 「どうも屋号のようですよ」 タブーを超越してしまえと囁く女――果たして女の願いの在処は? 「死んだ男も黒幕が仕込んだ人柱かも知れん」 美散の言にどうだろうかとハルトマン。アーティファクトは本物だったと、祈が同一犯だろうと言う久埜の件を唇にのせた。 「成程……それでも俺は車釜の足取りを追ってみる、時間もあるしな」 番が来たら携帯を鳴らしてくれと美散は夜闇に消えた。 「幸を唆した人物に礼をせねばならん」 「兄弟して唆されましたからねぇ」 浮かぶ苦笑は「久しぶりだね」の声に一旦裏側へ。 「今は弟君共々心から笑ってられてる?」 『0』氏名 姓(BNE002967)は真顔を見て答えを得た。 「いいんだよ、無難な言葉探さなくたってさ」 「そうは言われましてもね」 見透かす姓に困惑を滲ませつつもやはり笑むしかない。 ●『息抜きの合間に人生を』 予見通りから一本ずれた場所、他者とは違う――それは卑下ではなく優越だと『息抜きの合間に人生を』文珠四郎 寿々貴(BNE003936)は一瞬で読み取った。 彼女の占いは金銭を得たい為ではない、だから派手な宣伝など無粋。求めているのは『心』のやりとり。 (すずきさんが求めるのは、リーディングとメンタリズムのエンタテインメント) 愉しめそうと鉛筆を握った寿々貴はさっそく仕掛ける。 「何番に見えるかな?」 「んー材料が欲しいわね」 負けない為に占師は笑う。表層に浮かぶ好奇心旺盛さは『3』だが無邪気さより怜悧さを強く感じた。 「じゃ、女子らしく恋愛でも」 数人全ては遊びだったと嘯く。 「まぁそれに限らず、本気で何かをした事なんて禄に無いけど」 「何故?」 「大概の事は程々にこなせるし。例えばね……」 さらりとリシャのバイト先を当ててみせた。タネは駅前のファーストフードに居た顔と合致したから、憶えていることなど造作もない、が。 「反射的に浮かんだ笑顔がそれっぽかったよ……と、占師の真似もできる」 嘘の理由でもっともらしく飾って試す。 「神秘性が売りの占師形無しね」 見抜かれなかったかと滲むは諦観、これは本心。 「でも何でも出来るのは出来ないことに手をださないからじゃない?」 その諦観を感じ取ったリシャの手。 (諦観に至っているから『5』の『行動者』は既に越えている。そして語ったのが『恋愛』) 「7ね」 「はい」 計算どうぞと差し出せば「当たった」と満足げな笑み。 「本気の恋じゃないって言うけど、一から十まで嘘の気持ちじゃなかったでしょ?」 「その言い方はずるいよね」 ゲームの駒をさすように寿々貴は混ぜっ返した。 「わたしに負けたくない現れ」 「へぇ」 ああ、これがゲームだと『読む』んだ――そこには賞賛の笑みを。 けれどこうやって笑っているのは本当のすずきさんじゃないかもしれない、だってこれはペルソナ。結論が自体は実はどうでもいい。 「7は『愛』が必要なの、孤独はあなたを殺すわ」 寿々貴は金を置き席を立つ。 ここまでゲームを愉しむ打ち手なら『絶対に当たる占い』なんてつまらない呪い拒絶する、そう確信できたから。 ●『無銘』 「俺がどんな死を迎えるのか聞きたい」 サングラスを外した『無銘』熾竜 伊吹(BNE004197)が1962年と記したのにリシャは吃驚した。 「ああ、俺は吸血鬼だからな」 「下手な嘘」 先程の彼女と同じ『7』共通点は何処か? 「負けたくない――そう思うから死について聞くのね」 リシャはあっさり「ごめんなさい」と謝った。 「生憎死は視えないの」 ――視たくない。 僅かな指の震え、足下の鞄に吸い寄せられる視線。『死を視てしまった』のは紛うことなくリシャのトラウマ。 「すまない」 仕切り直そうとする、が。 「死ねないあなたは既に手に入れてる気がするのだけれど?」 持ち直した。占師の意地かと感心しつ伊吹は「何を」と問う。 ……問いたかった。 忌わしき堕ち夜、生き残って『しまった』。子がいたのは英雄真白夫人達とて同じだったのに。 再興した組織にて仲間はゴミのように散っていく。 ……息子のように見ていた青年も冥府に堕ちた。 「あなたは死ねないのよ」 誇り高き死への焦がれを見透かし紙の数字を弾く、それは生まれ日『8』 「覚醒数。運命数『7』の生き方を叶える為に『8』の方法を使う感じかしらね。不屈、だからか頼りにされる」 万人の倖せを願う『7』が、手段として人を背負えと『8』を使い急き立てる。 「ほら、死ねない」 「確かに」 伊吹は唇を緩めた。 ……だから奴の『記憶』が自分の所に来たのかもしれない。 「子供さん大切にね」 問いたげな瞳に、 「それが死ねない理由でしょ?」 本音を読ませぬ笑みは彼の面影。 「人を救うのは、人であるべきだ」 「でも占いは曖昧、未来がわかれば……」 いや。 「真実は人を救わない」 断じた。 死線の断章、娘だったナニカを壊した『記憶』を手にした壮年の男は、断じた。 「教えに来た男は君にどこか似ているな、もういないが」 「そう」 女から零れたのはレクイエム。 ●『戦姫』 俯いた『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)の横顔に月色の影が降る。 「将来についての悩み……かな」 伊吹に記憶を託した男は世界を去った、舞姫が或る命に腕を伸ばし掴み取ったその時に。 「わたし……」 ちっぽけな少女である舞姫は、縋るように口火を切った。 「人助けのボランティアみたいなの、やってて……そのための能力もあって、ずっと……がんばってたんです」 一所懸命、精一杯。 なりたかったのは絶望の淵にいる人達を助ける正義の味方。 「でも……」 握った手の内、館に満ちた無辜の人達を傷つけた感触が蘇る。 急がなくちゃいけなかった。絶望に満ち満ちた少年に「生きていい」伝える為には人形を払わねば――それはなんと生やさしいマヤカシの表現だろうか――ならなかった。 「わたしが、無力じゃなかったら……ずっと、ずっと、同じことの繰り返しです」 「そうね、そしてこれからも繰り返すしか、ない」 『4』 一歩一歩進むしかない愚直で不器用で、けれど誰よりも歯を食いしばり辛抱強くあれる『4』 「続けて……いいんですか? この仕事……」 質問の前に答えを突きつけられて舞姫は蒼天を瞬かせた。 「空回りして、失敗ばかりなのに……」 「でも諦めきれないでしょ?」 こくり。 力強く揺れる金の髪。 (本当に『慈悲』の数字、ね) 母性の『2』から発した『11』は共感を霊感近くまで高め自身を護る身勝手さを手にした数。 『11』は自分のために願う、大切な人の倖せを。 リシャの大切な人は占う相手。 「『4』には誰にも負けない才能があるわ」 「才能、ですか……」 またしおれる声にきっかりつきつける、これは水晶玉を見なくても視えること。 「果てなき努力を続けられる、才能」 諦めてないのなら、その心はまだ挫けてはいない。 「征きなさい」 ●『リジェネーター』 元々殆どない人の気配が完全に途絶えた。今日は仕舞いかと片付ける手元が陰る。 「恋占いをお願い出来ますか?」 不揃いな黒髪揺らし『リジェネーター』ベルベット・ロールシャッハ(BNE000948)は、店じまいを止めるように腰掛けた。 さりげなく傍らにアクセスファンタズムを置き、示された紙に鉛筆を滑らせる。 (予言というより最悪の未来を運命付ける水晶玉ですか) 水晶玉は見あたらない。リシャが今まで使っていないのは無事仲間が戻ったことからもわかる、が。 「恋」 しゅ。 『9』と記したリシャ。 「さて」 その鼻先を擽るは派手なカラーのねこじゃらし。 「あら、手品?」 きょとん。 「私はこういう手合いの者でして」 タネも仕掛けもありませんと示すように指をひーらひら、ベルベットは戯けた口調で紡ぐ。 「もし貴方が人を騙す占い師ならば、私はすぐにそれを見破るでしょう」 けれど瞳は真剣、そんな相反するものを容易く抱える。 その所作でベルベットは占師に「満足」を請うた。 「――さすが『9』ね、全てを包括する終着点の数」 けらけらとリシャは驚く程陽気に笑った。 「確固たる未来が見えるわけでなし、占いと詐欺は近いと思うのだけれど?」 言葉で人に影響を与えたいという欲も似ている。 「あなたは良心的な金額しか提示されてないようですが?」 はて、と首を傾げるベルベット。 (『9』はどうすれば場に一番か考え自分を制御する。その癖、薄皮の中に譲りたくない自我を持つ) 「お金なんかよりもっとすごいモノもらってるし。ああ、恋占いだったわね。実はあなた、自分の好みがわからないとか、ない?」 「あるかもしれませんね」 「『9』は人を含む環境に応じて心すら変えられるの。ほぼ自動的な反応でね、自分の感情は後からついてくる」 「では相手は誰でも良い……と、いうわけですか?」 同性は困ると思っていたがまさか全人類OKとか言われると思わなかったと鼻白む。だがリシャは首を横に揺らした。 「心は影響を受けたくないと強く願ってるわ。あなたも見失いがちな『本当のあなた』を愛してくれる人が、最良」 一切明確に言わず相手任せの結果、それが心地よいと感じたのは何故だろうか――? 得た満足に唇をあげるとベルベットは猫じゃらしと共に謝礼を置き席を立った。 ●『戦闘狂』 ――絶対に当たる占いを知っているか? ――うちだよ! 繰り返されるやりとりに辟易しながら美散は確固たる裏付けを得ていく。 仕込みはなし。馴染みの占師によると「後ろ向きに思考が硬直していた、病的に」水晶玉の誘導に違いなかろう。 (だが効果を確認したいならば、もっと易々と使いそうな占師に渡せばいいだろうに) 辿り着いたのは一定の矜持を持つ者が堕ちる様を愉しむ悪意。そこで携帯が震えた。 「先駆者『1』として、満足することは難しいわね」 強大な敵と出会えるかの問いに続く。 「傍目がどうとか関係ないものね」 望むは『最強』理由は『無力』を忌避する弱さ。 妹は運命の寵愛を受けず一族に狩られた。その時の無力な己が胸で疼く。 「救った数では購えない。慰めにもならないから命を捨て前のめり」 泣きじゃくる仲間の手を取り生きるは恥か? 「はじまりのあなたが進む先には望む敵がいる、だって選ぶのはその道ばかりだもの」 進み続ければ革醒の原因を断つ日が来るだろうか? その問いは呑み込み美散は礼を唇にのせる。 「辛辣だからこそ、お前さんの言葉は信用出来る」 「そんな客ばかりならいいのだけれど」 ●『鋼鉄の砦』 「自分を削って人に与えすぎる所、ね」 ハルトマンに問われた性格を淡々と告げる。 「それは独占欲の裏返し」 「そうか」 「――本当優しいのね。『6』は微笑んでる人が多いかしら、あなたは珍しいかも」 背筋を伸ばした頑健なる体躯、その面差しは揺らがず更なる問いを紡ぐ。 「では欠点を治す為にどうすればいい?」 鵜呑みにしないと添えられた台詞にすら気遣いを感じ、リシャは返す。 「見返りを求めないこと。期待して裏切られたと嘆くより、尽くすのは自分の欲求だと認識なさい」 「ありがとう」 席を立ちかけたハルトマンは振り返り、最後への布石を打つ。 「何故君は占いをしているんだ?」 「占師の前では大抵の人が本心を晒すわ……たまに違う人もいるし、そんな人が続く日もあるけれど」 「人は……」 揺さぶりに掛からぬハルトマンは伝えたい言葉をただ紡ぐ。 「正しさだけでは納得出来ない事もある、欠点であれば尚更だろう。相手が受け入れやすい言葉を選ぶと良いと思う」 余計な世話ならすまないとハルトマンは頭を下げ背を向けた。 「本当、6ね」 「そうだ」 もう一度振り返り、彼は『望叶堂』の女の姿を告げた。 「この女は人を誑かして、人生を壊す事ような事件を何件か起こしていてな」 「――知らない、わ」 声が震えた。 ●『0』 「……あんたに比べればちっぽけだけど、それが出来れば良かったって思ったよ」 亡くした男に亡くし損ねた男は何を言えばいいのか。 「ちっぽけなわけないでしょう」 ――虚ろだと縛るぐらいなのに。 祈は姓がからっぽの笑みを見せる前に言葉を押し込む。 「……これから見つけてくださいよ」 「それじゃあね」 姓は答えずハルトマンと入れ代わり一歩踏み出した。 「小さい頃に両親を亡くして」 姓の独白をリシャは黙って聞く。手元の『6』をなぞりながら。 「引き取ってくれた人はいてもいいよって……でも辛そうな顔」 途絶える血を顕す子を前に愛したくても愛せない苦悩。 「見捨ててくれて良かったのにね」 「手放し難き縁」 先の『受け入れやすい言葉』を想い出しながら紡ぐ。 「『6』は縁を紡ぐのが上手で……それは他者を慰める」 姓のあの人は後悔したくなかったのだろう。 今は自分が、そう。 「その水晶玉、女の人から貰った?」 「!」 その女は不幸の運び手。散々な目に遭う人を減らすのが仕事と告げた所で、舞姫が顔を出す。 「あぁ……人助けのボランティア」 頷く舞姫は顔をあげて、誰かを救う時に携える笑みと共に言いきった。 「リシャさんの占いは、水晶玉なんか使わなくても、人を救えます」 「預言者になりたかった訳では無いだろう?」 美散の声に「ああ」と小さく唇が震えた。 「ねぇ、君は……確定した未来では無く、決断する心に触れたいんじゃないかな」 ハルトマンと伊吹も顔を出したのを見て、リシャは可笑しくてたまらないと笑い出した。 「だって……普通、占いに来る人は自分に心が向くのに、わたしばっかり」 呆気にとられる面々に説明する。今日来た者は全て「わたしを助けに来てくれた」のだ。 と、認識した時点で――。 最初の少年の『人の心の弱さに、負けないで欲しい』という励ましが蘇り、一点笑いは慟哭へと変ず。 「わたし、人を殺しちゃってっ……」 舞姫がそっと肩を抱いた。皆も口々にリシャのせいではないと言葉を尽くす。 「人を救うのは、人であるべきだ」 救われたのだともう一度、伊吹は同じ台詞を紡ぐ。 ――。 リシャからの『望叶堂』の情報は、把握してる内容の域を出なかった、とはいえ依頼は大成功だ。 水晶玉を無事回収したリベリスタ達が奢り話を花咲かせる中、ベルベットは憂いの去った破顔に似合う花を心に描く。今度は純粋な客として来よう、満面の笑みのような花束を携えて。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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