「ちょっと交番まで来てもらおうか」 その警察官はいきなり、とある少年を呼び止める。 「……はい」 少年、飯田・佑樹(いいだ・ゆうき)は呼び止められて自転車を止め、警官の下へと歩み寄る。彼は部活帰り、1人で自転車に乗って帰路についていた。狭い道だったのだが、佑樹は急いで自宅へと帰りたかった為、自転車に乗ったままでその道を進んでいた。 「この道、一通だろう。知らないのか?」 一通、一方通行のことだ。佑樹もそれは知っている。しかしながら、今日は動画サイトの生放送で、どうしても観たい番組があった彼。近道すべく一方通行を逆走しているところだったのだ。急いでいるのに……。佑樹は、運が悪いと諦めた様子だ。 交番につくやいなや、警官は入り口に鍵をかける。佑樹は警官のその行動に疑問を抱く。他にも交番に用がある人はいるはずなのに……。 さらに、佑樹は常軌を逸したその警官達の行動に唖然としてしまう。 彼らが取り出したのは、拳銃。銃の携帯には、拳銃携帯命令だかなんとかが必要ではなかったか。いや、それ以前に……なぜ自分が銃砲を向けられているのか。一方通行を逆走するのが、それほどの罪なのか。 「法律を犯す者には、罰を与えんとな……」 そいつらは警官とは思えぬ、不気味な笑みを浮かべる。公務員として、いや、人間として、少年に向けるものには見えない。 「撃て」 数発の銃声が響く。佑樹の意識はそこで……途絶えた。 「事件だ。少し付き合ってもらおうか」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)がブリーディングルームにいたリベリスタ達へと声をかけていく。 「フィクサードとなった警官が、その立場を利用した上で殺人に興じている。……実に不愉快な事件だな」 フィクサードとなったのは、影山・一浩(かげやま・かずひろ)巡査部長だ。彼は自身の覚醒した能力に気づいた上でそれを悪用し、人殺しに興じている。 彼はエリューションとした自身の部下に、理由をつけて交番へと連れてこさせ、交番内で連れてきた者を殺害してしまうのだ。しかも、表向きは巧妙に事故として処理してしまうため、表面化することもない。警察官としての立場を利用して、殺人を犯す影山を許すわけにはいかない。 「こんな下衆な野郎に三高平の治安を任せてはおけん。お前達……リベリスタの手で裁いてくれ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:なちゅい | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月03日(土)23:21 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●警邏という名の狩り ある日のこと。 その交番には全くと言っていいほどに人は寄り付かない。普通の交番ならば、落し物やら、道を聞く人の姿がいそうものだが、それすらもなかった。 『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638) は物質透過のアビリティを使い、交番の地面へと潜る。そして、床下から、彼は交番の様子を伺う……。 中には、暇そうにだらだらと過ごす警官達の姿。子一時間ほど書類整理などを行っていた彼らだったが。突然、その中で上司と思われる男が声を上げた。 「さて、退屈だし、獲物を捕まえてこい」 にやりと微笑む上司……影山の指示で、巡査2名は敬礼をし、交番の外へと出て行く。 それを見計らい、オーウェンはするりと移動し、交番の外へと出る。彼はそのまま、アクセス・ファンタズムを使って仲間達に連絡を行った。 (影山は交番に残ったか……) 影山は黙々と書類を書き進める。それは、今回引き起こす事件と関連する書類かもしれない。オーウェンは出来る限りの情報を得ようと、さらに床下へと潜り込み、交番内の様子を探るのであった。 アクセス・ファンタズムで連絡を受けたメンバー達。連絡、それは敵の警邏が始まった合図を示すものである。 「任務を開始する」 『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680) の言葉に、『俺は人のために死ねるか』犬吠埼 守(BNE003268) 、『モンマルトルの白猫』セシル・クロード・カミュ(BNE004055) は頷く。この3人は今回の敵を誘うべく、綿密に段取りを確認していた。そして、彼らは敵のパトロールに合わせ、車で先回りを行う。 比較的人目のつかない通りを選び、彼らは車から降りる。そして、予定通り演技を開始した。 「ようやく捕まえたぞ!」 黒の背広に黒のハットにサングラス。声を荒げて強面を演出するウラジミール。身長の高いロシア人であることも手伝い、何も知らない近隣住人が彼に睨まれたなら、背筋を震え上がらせていただろう。 「大人しくしやがれ!」 守も負けてはいない。眼鏡も外して、派手派手スーツに金ネックレス。ガンを飛ばす守も、直視するにはかなりの勇気がいる。その強面は元警官とは思えぬ出で立ちだ。 この演技の設定は、とある機関から逃げ出した女性を追いかける2人の男というもの。迫ってくる2人に対し、セシルはぶるぶると怯える演技を行う。それは外から見ると、2人の男性に1人の女性が襲われているようにしか見えない。 「なんだなんだ?」 『ギャロップスピナー』麗葉・ノア(BNE001116) はその騒ぎを聞きつけて、近寄ってくる。ノアだけではなく、その場には少しずつ野次馬が集まり始めた。 その中には、『chalybs』神城・涼(BNE001343) が潜り込む。 「マジかよ。美人なねーちゃんが襲われてんぜ。怖ぇな」 涼の言葉が聞こえたのか、守がそちら側の野次馬へと視線を走らせる。涼はそれを感じて、しれっと視線を逸らして見せた。 『淋しがり屋の三月兎』神薙・綾兎(BNE000964) も同じくこの場へと居合わせていた。彼はアクセス・ファンタズムを広げたまま、騒ぎの中心をチラ見しながら、事の成り行きを見守る。 程なく、パトカーがその場へと現れた。そこから降りてきたのは、ノーフェイスとなった巡査2人で間違いはない。セシルは巡査へと駆け寄い、身体を寄せて縋り付く。 「彼ら、私にひどい乱暴をしてくるの……お願い、助けて」 その色気に惑わされたのか、巡査は鼻の下を伸ばす。そして、不気味に微笑んだ。それは、獲物が見つかったとほくそ笑んでいるのか……。 「ほう、恐喝未遂か。これは連行せねばな」 「んだと……?」 2人は敢えて近づく巡査達へとぶつかる。その拍子に、ウラジミールの服から、彼の愛用の武器が落下して地面へと落ちた。 「おっと、それは公務執行妨害だ」 「おまけに、銃刀法違反が加わるな」 周囲からも、冷ややかな視線が向けられる2人。野次馬が多いこの状況では、逃げるにも逃げられない。守は諦めて両手を挙げた。 「ここまでか……」 「くそっ、今日は運が悪いようだ」 ウラジミールも、ようやく観念した様子を見せた。不気味に微笑む警官達は、悪漢2人と被害者セシルをパトカーへと乗せる。そして、そのまま交番へと走り去っていった。 「移動開始したよ、そろそろそっちに戻りそう」 その一部始終を見ていた綾兎は、仲間達へとそう連絡したのである。 ●交番という名の狩場 交番へと着いた3人。ウラジミールがその周辺を見やる。……どうやら、仲間達はすでに駆けつけているようだ。彼はそれとなく交番付近で待機していた『つぶつぶ』津布理 瞑(BNE003104) の姿を確認する。 中へと入れさせられた悪役2人を、巡査長影山が出迎えた。 「来たか……、そこの椅子に掛けろ」 誰かが連行されて来るのか当たり前といった感じの巡査長。しばらく、リベリスタ3人と質疑応答を行い、今回の騒ぎについて調書を作成していた彼は、ある程度書き進めたところでペンの動きを止めた。 「恐喝に公務執行妨害、それに銃刀法違反……。ヤクザとはいいカモだな」 にやりと口を歪める影山。そして巡査達は嬉々として拳銃を取り出した。 「法律を犯す者には、罰を与えんとな……撃て」 影山の指示で、銃砲が放たれる。それと同時に交番の中へと複数のリベリスタ達が踊りこんできた! 騒ぎの付近にいた綾兎、涼の姿もある。同じく、床下へと隠れていたオーウェンも姿を現す。 「手前の罪状まるっとお見通しだこの野郎! 根性叩き直してやるから覚悟しやがれい!」 指を突きたて、ノアが影山へと叫びかける。しかしながら、影山はふふんと笑い返す。 「罪状? 罪を犯したのはこいつらだろう」 影山は悪役を演じた2人を指差す。巡査2人も今もなお、拳銃を悪役2人へ突きつけたままだ。 「いやいや、人を勝手に刑を処す権限なんか一介の警察官にあるわけないでしょ? 馬鹿でも分かるわよ、そんなの」 瞑の呼びかけにも、警官達は全く表情を変えない。これが当たり前と言わんばかりに開き直ってしまっている。 「全く、桜の代紋が泣いてますよ」 「何のことだ?」 「……とぼけたって無駄だ! 調べはついてるんだよ!」 そこで、黙っていた悪役、もとい元巡査の守も叫ぶように主張する。 「殺した人は事故死に見せているのかしら。それとも、ひき逃げ扱いかしら?」 瞑が持論を影山達へと展開する。同じ手口で銃殺し、そして処理した人間達ならば……どう処理しようとも、銃痕が残ってしまうはず。 「そんなに法が大好きで、やってることは自分だって違反なんだから、自分の頭でも撃ったら?」 瞑の話にも、影山達はだからなんだとでも言うかのようで、自分達の優勢を疑わない。 「うちもさ、穏便に済ませたいわけよ」 「ごちゃごちゃうるさいな……」 影山もまた、拳銃を抜く。もはや、彼に話し合うつもりはなく、目の前の部外者全てを殺すつもりのようだ。巡査達もエリューションとしての本性を現し、1人は警棒、1人は拳銃と、その手に得意な武器を携える。 「やはり、考えの足りない身の程知らずだったようね」 セシルも被害者の顔から一転、彼女もリベリスタとして武器を取り出し、フィクサードとして本性を現す影山へと銃口を差し向けた! ●狩られるべきは、お前達だ! 真っ先に動いたのは瞑。トップスピードで自身の動きを高めた瞑は、警棒を持つ巡査へと自身のナイフを突き立てる。2本のナイフは巡査の服を、そしてその体を切り裂いていく。 先手を取られた巡査へ、綾兎もまたイニシアティブをとって巡査へと攻め入る。 「人殺しは楽しかった?」 警棒で彼のナイフを受け止めようとする巡査。ノーフェイスとなった彼らは、ただ呻くのみで返答をよこさない。……いや、少なくとも、否定するようには見えない。 「……そう、なら今度は自分が殺されても、文句は言えないよね?」 一点の澱みの無い綾兎の連撃に、巡査は呻き声を上げる。オーウェンもまた、続けざまに気糸を放ち、手前に出てきた巡査の体をそれで貫通する。 「狩る者が狩られる側に回った際どうなるか。見てみたい物だ」 一発を浴びて、あえぎ声を上げる巡査。さらに、涼が自動拳銃の引き金を素早く引き、そいつを撃ち抜く。鮮血が彼の肩口から飛び散った。 「とりあえず、きっちりしっかりぶっ飛ばしてやるさね」 涼は1度影山へと言葉を飛ばしてから、目の前のノーフェイス達へと向き直る。素早いリベリスタ達に翻弄されつつ、巡査はようやく反撃すべく、涼へと振り上げた警棒で叩き付けてきた。 さて、その言葉を聞いた影山だが。 「大人しく、死んでしまえ……!」 響く銃砲。それはウラジミールへと向けられる。彼の腹をその弾が抉っていき、そこから血が流れた。腹に一撃を食らったウラジミールは、自身の体を周りにオーラを張る。光り輝くオーラは、鉄壁の守りを作り上げた。 「貴様はやりすぎた。ただそれだけだ」 影山はそれには応じない。手にする拳銃を放つことでリベリスタへと返答していった。 同じく、守も光り輝かせたオーラで自身を守った。彼は、フリーになっている拳銃を持った巡査を含め、敵を撹乱すべく動いていく。 さて、後衛へと陣取るノアは、自身の体の魔力を活性化させていた。それがノアの体を駆け巡り、彼女の魔力が膨れ上がる。 「皆、大丈夫でありますか?」 敵は3人、しかしながら、彼らの攻撃は決して軽くはない。警棒や拳銃での一撃は、前線にいる涼、綾兎の体力を少なからず奪い去る。 そして、影山から放たれる銃砲は、ただの銃砲ではない。断罪の魔弾。それに穿たれた守も耐えてはいるが……。 「元気になるであります!」 ノアは味方のダメージを見て、詠唱を始める。それにより、癒しの力が息吹となり、味方全員を元気付けていく。 後ろでは、後方へと下がったセシルが魔力銃を放つ。打ち抜かれた警棒側の巡査。集中攻撃を受けたそいつはすでに虫の息となっていた。 その巡査へと、畳み掛けるようにナイフを振るう瞑。そして、前へと歩み寄ってきた涼が、さらに渾身の一撃で殴りつける! もんどりうつその巡査。床へと倒れたその男は、2度と起き上がっては来なかった。 拳銃を構える巡査は、同僚が倒れたことで、リベリスタ達の次なる標的となったことに焦りを感じる。周囲を取り囲まれるようなその状況に、彼は恐怖を覚えていた。まさか、自身が狩られる側になってしまうとは、と。 守に撹乱されつつ抵抗を測る巡査。そこに、セシルの威嚇射撃が再度飛ぶ。撃ち抜かれた巡査の元へと、オーウェンが銃を構えて立て続けに1発銃砲を放つ。拳銃を構えていた巡査の武器をはじき、さらにその胸を、心臓を貫通する。口から血を吐きながら、そいつはうつぶせに倒れていった。 「ちっ……」 2人の部下が共に倒れ、舌打ちをする影山へ、ウラジミールが手にするグローブで思いっきり叩き付ける! 「俺の親父は、人のために死ねる男だった」 仲間の攻撃を受けている影山へと、守は突然語りかける。影山は訝しみながらも、守へと視線を向けた。 「俺もそうありたいと願っている。貴様らはどうだ?」 影山はどうだったのだろうか。もしかしたら、警官になった当初は、その考えがあったかもしれない。しかし、出世が敵わなかった彼は……。 リベリスタ達の隙を見計らった影山は、交番の入り口に向けて駆け出す。 しかし、セシルの射撃が飛び、影山の足を射抜く。彼は思わず転んでしまった。 追い討ちすべく、オーウェンが呪印を展開していく。それが、影山の動きを強力に縛り付けた。オーウェンはゆっくりと影山へと近寄る。 「逃げられずに、ただ狩られる……気分はどうかね」 影山の周囲をリベリスタが取り囲む。影山の顔に余裕などなかった。己の立場と力に酔っていた男は、この場から逃げ出そうともがく。ただ、呪縛の為か、それは、もはや攻撃にもならない行為だった。 ノアは光を放ち、影山の体を焼いてしまう。ぐがあっと叫び、悶え苦しむ彼。しかし、彼は未だ、抵抗を止めてはいない。 「因果応報、自分がやったことは自分に返ってくるんだよ?」 綾兎の言葉を、影山はただリベリスタを見上げ、聞くことしか出来ない。 「だから……最期くらいは潔く、ね。仮にも警官だったんでしょ?」 影山目掛け、ナイフを振り回す綾兎。そして、頚動脈へと手をかける……。しかし、彼はナイフごと手を引き、思いっきり突き刺したのは、影山の肩口だった。 「ぐあああっ!」 影山は一声叫び、気を失う。……綾兎の配慮によって、かろうじて、息はあるようだ。 「任務完了だ」 ウラジミールは敵がもう抵抗しないことを確認し、武器を収めたのだった。 ●返り討ちにあった者の末路 しばらくして、影山は呻きつつ起き上がる。すでに、彼には戦意はなく、抵抗を諦めたようだった。 影山へとこのままトドメを差すべきだと考えるメンバーもいたのだが……。この男には、余罪が間違いなくある。そう考えた守がそれを制した。彼は影山自身の手錠をかけた後、力いっぱいにロープで縛り付ける。 「殺された方がマシだった、なんて泣き言は聞きませんよ」 悪役ではなく、元巡査として呼びかける影山へと呼びかける守。影山は苦々しい表情のまま、リベリスタ達を見据えている。 「さて、何が隠してあるだろうか、と」 オーウェンは仲間と手分けをして交番内を物色し始めていた。先程書いていた書類は、やはり、事故死を偽装するためのもののようである。そして、重要書類がある場所は、影山の顔色ですぐに知れた。発見した調書からは、とある期間から事故死が多く発生しているのが分かる。 「事故死、ひき逃げ……やっぱり、うちが思った通りね」 瞑が調書に目を通したのを見ると、影山は体中に、戦闘中でもかくことがなかった脂汗をかき始める。己の起こした事件が全て明るみに出ることを、恐れているのだ。 そんな悪事が世に出ることを恐れる彼へ、ノアが叫びかけた。 「道に迷う者あればこれを救って教え! 電車賃無くしたと泣く子あればこれにお金を渡し! たまに堂々と無灯火二人乗りするお調子者あればこれを捉えて説教かます! 交番ってなぁそういうものだろうが!」 交番の存在意義。それすらも彼は忘れていたから、こんなふうに道を踏み外してしまったのだ。 「最低限のプライドは持ってくれよな」 まァ、こんなのはアンタだけで普通の警察官は真面目だ、って思ってるけどと、涼は続ける。 リベリスタ達の言葉に、影山は観念してがっくりとうな垂れた。 「たまにこういう勘違いした人がいるのよね」 警官とマフィア、フィクサードとリベリスタは表裏一体。ただ、その表裏関係なく、私利私欲を働く人がいると。その関係を無視する人間は、よほどの大物か、あるいは……。 「考えの足りない身の程知らずかのどちらかよ」 身の程を知ることがなく、己の私利私欲の為だけに悪事に手を染めた、影山。彼はこの後、償いの人生を歩んでいくことだろう……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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