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<世界を飲み干す者>Farewell Song

●其は世界の慟哭か。
 砂塵混じりの強い風が吹き付ける。

 三ッ池公園に生じたリンクチャネルを潜り抜けて以来、リベリスタ達に休息する暇は殆ど与えられていなかった。
 リベリスタ達がこの地に足を踏み入れてから経過した月日は僅か三ヶ月余りに過ぎない。
 かつて『完全世界』と呼ばれたラ・ル・カーナに生じた綻びは、あの『ソラに浮かぶ眼球』との遭遇から決定的なものとなった。
 変調していた世界樹エクスィスはR-Typeとの邂逅により完全に破綻した。あの日から、本来であれば変化などありえようはずもない『完全世界』の調和は脆くも崩れ去り、破滅の序奏をかき鳴らし続けている。
 今正に、リベリスタ達の眼前に現れた異様な風体の怪物は、そんな世界の崩壊を一目にさらけ出していた。

 こうして激戦の末にバイデンの軍勢を撤退に追い込んだリベリスタ達の前には、再び厄介な課題が突きつけられている。
 止められぬ世界樹の暴走への一手として、アークが提案したのは変調した世界樹の調律であった。
 それはかねてより研究を進めていた『忘却の石』を世界樹の石とリンクさせること――これが簡単なようでいて難しいと来たものである。
 苦悩するフュリエの長シェルンを説き伏せてまで、この世界の根源へと迫る決断をしたのは、R-Typeに強い感情を抱く『戦略司令室長』時村 沙織(nBNE000500)の意思であった。
 本来であれば、シェルンが世界樹にアクセスする際に、リベリスタとフュリエの連合軍が攻め入る必要などまるでない。

 世界の状態が正常であるならば――
 この当然だった事象を仮定に変えねばならなくなった原因は、獰猛な巨獣共でも馬鹿なバイデン達でもなかったのである。


「いけるか?」
 リベリスタの一人が目配せする。返答など待つまでもない。砂塵を背に駆け抜ける間に、怪物の一体が地に伏した。一体どれだけ居るのか分からない。どこから現れるのかも分からない。
 リベリスタの得物が怪物を貫く。倒したはずだ。だがリベリスタは地に伏し痙攣する怪物の腹部から生じた粘液質の器官を、今一度切り払わねばならなかった。
「こいつら――ッ!」
 シェルンを世界樹まで送り届けるには、この怪物共を排除しなければならない。目下、頭の痛い課題だ。
 ともかくここを突破しなければ始まらないとはいえ、この状態で世界樹の内部に到達することは出来るのであろうか――
「ぶっ壊してでも入るしかないんだろ」

 ――どうせ。誰かが吐き出しかけた言葉を飲み込む。
 リベリスタ達の目の前に現れた黒曜の肌を持つ巨体には、どこかしら見覚えがあったから。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:pipi  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年10月09日(火)23:29
 ラ・ル・カーナ全体。いよいよ決戦ですね。
 やることは単純明快。モノをいうのは作戦と力です。
 バイデンの部隊は拙作『<バイデン襲来>Pride & Honor』『<箱舟の復讐>Nemesis Plan 』に出現した固体ですが、ご存知なくても問題ありません。

●目的
 世界樹への道を切り開くこと。
 眼前の敵を思う存分ずたずたにしてやってください。

●ロケーション
 異界の荒野です。何も気にせず暴れて下さい。

●敵
 かつてリベリスタと交戦記録のある部隊の残党のはずです。
 交戦時の記憶があるのかないのかも定かではありません。

 陣形も何もなく、密集しており、次々に襲い掛かってきます。
 どいつもこいつも、凶暴に襲い掛かってきます。
 固体そのものはどれもすごく強いです。

 一応どうやら連携らしき行動は取ろうとするのですが……

『変異バイデン』レヴラム
 傷だらけの身体。赤銅の肌は黒く変色し、瞳は爛々と輝いています。
 高い耐久力と物理攻撃力というバイデンの特性を一応残しています。
 前衛能力が高そうな相手に一心不乱に向かってきます。
・振り回す:物近範
・憤怒:神近範、獄炎
・一握りの矜持:効果不明
・自己再生

『変異バイデン』兵卒×6
 高い耐久力と物理攻撃力というバイデンの特性を一応残しています。
 真正面からぶつかってきます。
・振り回す:物近範
・怨嗟:神近範、ショック
・自己再生

『変異巨獣』グラスブレイド×6
 細長い水晶のような身体に、蠢く無数の足が生えています。意外とすばやいです。
 リベリスタの陣形を深く抉ってきます。
・突進:物近単、流血、ノックB
・憎悪:神遠範、呪い

●コメント
 かつて独自の矜持を抱いていた彼等の目には、今何が見えているのでしょうか……
 何か想っていただいても、いただかなくても構いません。
 ご参加お待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
梶・リュクターン・五月(BNE000267)
ソードミラージュ
★MVP
天風・亘(BNE001105)
ソードミラージュ
ルア・ホワイト(BNE001372)
覇界闘士
祭雅・疾風(BNE001656)
ソードミラージュ
リセリア・フォルン(BNE002511)

逢乃 雫(BNE002602)
クロスイージス
黒金 豪蔵(BNE003106)
ソードミラージュ
セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)


 大気が咆哮している。砂の嵐が吹き荒れる異界の荒野の只中で瞳を細めるのは『幸せの青い鳥』天風・亘(BNE001105)。

 ――関わった以上はそれに対する筋ってモンがある。

 この戦いはそういうモノだと、亘の脳裏に赤髪の戦士の言葉が蘇っている。
 きっとその通りなのだろう。敬愛さえする男の言ではあるが、亘自身もその身をもってかみ締めていた。
「――その編成、その姿……確かに見覚えがあります」
『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)が呟いた唇を結ぶ。眼前の異形共は、かつて彼女等が撃破した軍勢の成れの果てなのだろう。
「己を傷つけた存在を見過ごし等しないでしょう?」
 眼前の異形どもがリベリスタに迫り来る。聞こえるのは憤怒、怨嗟、憎悪の声。
 バイデン達が憤怒と怨嗟に飲まれて、なお戦い続けるならば。
 亘等が将等の軍勢を殺し、その矜持を打ち破ったならば。リベリスタ達がこの完全世界に関わったことがこの事態の一因であるならば。
 亘があの日、あの時、異界の少女と共に、この地に足を踏み入れたならば。
 それをここで止めるのは。全てを受け止めるのは。亘等の役目のはずだ。危険など承知の上である。
「レヴラァァァァム!」
 砂塵の中で叫ぶ。亘の眼前に迫り来るのは黒曜の肌を持つ奇怪なヒトガタは、己が名を呼ばれたことを理解出来ているのだろうか。亘が叫ぶのは、かつて眼前の異形がバイデンだった頃の名だ。
 振り回される巨腕が亘の眼前に到達する数瞬前に限界を越えた速度を身に纏い、直後、燦然と煌く薄刃が冴え渡る。
 それは超越的な反射を誇る彼ならば為せる業。ほとばしる血潮だけは何よりも赤い。
 全てに決着を付けるため、リベリスタ達は半円の陣を組み死線を踏みしめる。

「……大丈夫。怖くない、よ」
 震えそうになる手を握り締め、『雪風と共に舞う花』ルア・ホワイト(BNE001372)は鼓動を抑えるために小さく呟いた。
 その手には大切な恋人から贈られたスプリングノートの短剣。そして戦場に向かうルアの為に弟が用意してくれたブレスレット型の盾である。
 二人が護っているのだ。そして仲間達の姿があるならば、彼女はこの戦場に一人で立っている訳ではない。
 だから――
「仲間を護る為に戦うの!」

 再び咆哮。対の静謐。
「強かったよ」
 異形と化したレヴラムの巨腕が亘へと迫る暇もなく、『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)は、鈍い光を反射する半透明の怪物の群に霊刀を走らせる。
「グリムロアと、その部下である貴方達」
 ぽつりと零れる小さな呟き。言ノ葉。あの時、蛇将グリムロアが率いる部隊とセラフィーナは戦って――負けた。
 客観的には惜敗である。あの状況であればどちらが勝ってもおかしくはなかった。それは理解できる。だが『勝ちきれなかった』等という思考は彼女の矜持が許さない。勝てたかもしれないからこそ、余計に悔しかった。次こそは絶対勝ちたいと思った。できるならこんな再開は望んでいなかった。万全の相手に真正面からリベンジがしたかった。
 なのに――それはもう叶わないのだ。ソラに現れたミラーミスの怨念は滅び行く完全世界を変質させ、かつての有り様を全く打ち砕いてしまった。R-Typeの意思は世界樹の存在を変容させ、巨獣やバイデン達をも飲み込んだ。
 陰鬱な空から零れ落ちる数多の邪念を打ち払うように霊刀が煌く。
「だからせめて、誇りだけは汚させない」
 セラフィーナは戦士としての終わりを彼等へと願い、勝ち得るために刃を振るう。多重の斬撃は幾重もの砂塵を巻き起こし、異形共は最早彼女の姿さえ捉えることもままならず相食む他ない。

 頭を叩き混乱魅了で敵陣を乱せば、出端は完全に挫ける筈――
 瀟洒な銀光が異界の荒野に煌く。
 辛うじて逃れた異形すら、リセリアの剣技の前にはなす術もない。
 かつて巨獣だった怪物の狙いは後衛リベリスタへの突破であるはずだ。
 そこに控えるのは『超重型魔法少女』黒金 豪蔵(BNE003106)である。彼の役目は戦線を支えることであり、その身に引き換えてでも使命をまっとうする覚悟がある。
 豪蔵は、かつて彼に託した一人の可憐な少女の姿を思い出さずにはいられない。太い血管が張り巡らされた太い腕に、ピクピクと逞しく震える胸筋を覆う愛らしいフリルが約束の証。守り切ることこそ、あの日少女が豪蔵に願ったことであり、彼が全てに等しく降り注ぐ「正義の雨」‥‥ジャスティスレインを名乗る理由なのだから。
「ジャスティスシャァァァァイィィィィン!」
 放送時間帯を選ばざるを得ないであろう変身バンクのお約束を無碍と化すように、包囲網を突破した怪物が豪蔵へと迫る。


 豪蔵には戦場で倒れ伏す覚悟がある。だが覚悟と目標は別物だ。唯一つの犠牲すら許すリベリスタではない。
「大丈夫!」
 私に任せてと叫び、ルアは軽やかなステップで怪物の前に立ちふさがる。刃のような鼻先に抉られれば、歴戦のリベリスタと言えどひとたまりもないだろう。
 だが、静かに差し出される左腕を飾るブレスレットの暖かさがある限り、怖くなどない。
 高速戦闘を誇るルアにさえ迫る速さで突進するガラス質の怪物の前に、純白の閃光がほとばしる。それでも尚、少女の小さな身体を覆うように展開する巨大な光の花弁を猛る憎悪で押しつぶすように、怪物は突進をやめない。ルアの踵が地を抉り、両足が渇いた大地に轍を描く。
 だが、異形の突進はそこまでだった。
 ルアが瞳を細める。ここが境界。Borderline。これ以上絶対に進ませはしない。

「数が多いが道は切り開く!」
 完全に出端を挫かれた敵陣を切り裂くように『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)は近未来様の戦装束を瞬時に身に纏う。
 敵が立ちはだかるなら打ち倒すまでだ。この世界に在りし日を取り戻す為、リベリスタ達は世界樹へと到達せねばならない。それこそが正義の為せる定めなのだから。
 疾風は龍牙を握り締め変異バイデンを前に構えた。それは流水の心得。
 リベリスタ達はここまで唯の一体も敵を豪蔵までたどり着かせてはいない。現状、ガラスの怪物がどうにか出来ているならば、次に止めねばならないのは異形の兵卒共だ。
 敵は黒い巨体を戦慄かせ、長大な腕を振るう。弾けた音をたてて変異体の腕の関節が砕けた。刹那、眉を潜める疾風の前に、触手様となった腕が立て続けに三度襲い掛かる。
 だが疾風は二度を掠めさせ、一度を避けた。この程度、たいした傷ではない。
 そして――

「初めまして、異界の戦士。オレはメイ」
 ――君の誇りを守る者だ

 風を纏う長い黒髪。凛とした瞳に少年のような物言いは、可憐な少女から発せられていた。
 紫水晶の太刀を抜き放つ『刃の猫』梶・リュクターン・五月(BNE000267)の怜悧な嘯き。変異体への接近と同時に爆発的な闘気が大地を揺るがせ砂塵を吹き飛ばす。
 彼女がこの地に足を踏み入れてから二月は経っているまい。それが僅かな間に此れほどの変わりようとは思いもしなかった。
 眼前の敵の在りし日の姿を、共に戦場に立つ仲間の中には知っている者も居るらしい。
 もしかすると、彼女が戦った相手もどこかでこのような変貌をとげてしまっているのかもしれない。
 戦場で迷う暇など無い。少女は彼等が抱いていた誇りの為に、彼等を倒すと決意している。

 幾ばくかの時が過ぎ去り、両軍の激突は激しさを増して行く。
 レヴラムの一撃をかわしきり、さらなる一撃を叩き込む亘の背の向こう側で、変異バイデン二体の集中攻撃に、満足に動けていなかった逢乃 雫(BNE002602)が倒れた。
 リベリスタ達はいくらかの被害を被るが、機敏さに優れたリベリスタの部隊は強固であり、不意に襲う一撃にも豪蔵の癒しが控えているならば戦列は安定し続ける。
 リベリスタ達の身にも血は流れている。だが僅か一撃を掠めさせた程度で、ルアの身が揺らぐことなどありえない。
 痛くても、負けない。
 血が身を流れても。涙が込上げても。
『今は、泣かない! 泣いてなんかいられない!』
 だって護るべき人がここに居るのだから。
 涙なんて無事に帰ってからはんぶんこすればいい。恋人と弟と、二人の守りに、本当は再びここに来たいであろう親友の分だってあるのだから。
 だから。

「絶対に護ってみせる!!!」

 こうして僅かニ順の間にグラスブレイドは軒並み一掃されることとなった。
 だが未だ変異バイデンは健在であり、リーダー格であるレヴラムに至っては極めて高い水準にある亘の打撃力を持ってしても一筋縄で倒しきることは出来そうにない。
 防衛が過剰な癒しとなってもいい、力尽きても構わない。これは完全なる速攻策である。とにかく火力で徹底的に押しつぶすまでだ。

 迫る異形バイデンの腕に龍牙を突き立て、後背から襲うもう一体の一撃に身を伏せ、疾風は迸る雷華を叩き込む。異形の肉体から煮沸された血が爆ぜる。
「まだだ!」
 傷つき倒れながらも、ぐずぐずに崩れた身体の内から襲い来る冒涜的な怨嗟の腕をなぎ払い、五月は未だ命を失いきらぬ躯に紫電纏う太刀を突き立て――絶命。

 ならば次は――


 変異バイデンの部隊は一体だけ欠けているが、未だ健在である。
 眼前のそれはレヴラムの怨念か。リベリスタ随一の身のこなしを誇るはずの亘の身を、触手様に変貌した巨腕が執拗に傷付ける。
 だが、頬を濡らす血を彼は哂う。戦いなど、いつだってこんなものだ。退くことなど有り得ない。彼は運命を燃やして立ち上がることが出来る。今、倒れるわけにはいかない。
 どんな苦難であろうと、決死の覚悟で足掻き進めばいい。全てを使ってでも、仲間の為に世界樹への道は必ず切り開く覚悟は決して揺るがない。
 亘の背に配下だった変異バイデンの触手が猛烈な勢いで叩きつけられる。このタイミングで受ければ再び倒れる可能性もあった。だが亘は微動だにしない。
 気づかなかった訳ではない。刹那の間合いの中で、うねる変異体の腕を止める一振りの短剣があることを知っているから。
「させないっ!」
 そこには既に極限まで感覚を研ぎ澄ませたルアがいる。
 仲間は、亘は、絶対に堕とさせない。青色の天使には空で歌っていてほしいから。
 雪の結晶を思わせる装甲が澄んだ音をたて煌めき、腕輪に光の花が咲く。そのまま握り締めた一刀だけの百閃――L'area bianca uno。
 磨きぬかれた速度から生み出される二重の旋律。雪風に舞う花弁は、血も、砂塵も、黒曜の肉片も、眼前の全てを純白に染め上げる。

 こうして切り開かれる血道。次々と畳み掛けられるリベリスタ達の猛攻の前には、如何に耐久に優れた変異体達と言えど為す術はない。
 残るは僅か数体の変異バイデンに、リーダー格たるレヴラムのみである。

「支援は絶えさせませぬぞ!!」
 震える胸筋。流れる汗。はちきれんばかりの大きな雄っぱい。絵面は兎も角、暖かな光が戦場に満ち溢れる。誰しも腕の筋肉など、とうに千切れ果てているだろう。意識さえ失われるほどの血が流れているだろう。
 煌く歯、逞しい歯茎の合間から吹き付ける聖なる吐息。腹の底まで響く太鼓の様な音色。最前線でどれだけ血が流れようとも、豪蔵が居る限りリベリスタ達は倒れない。
 疾風が振るう龍牙と顎門。雷華。虚空をを貫く蹴撃。ルアが振るうOtto Veritaは澱み濁り切った黒を純白に塗り替えて往く。僅かな間に変異バイデン達が次々と打ち倒されて行く。

「私の名前はセラフィーナ!」
 それは叫びか、敵の魂への呼び掛けか。
「『ヘリオン』レヴラム、勝負です!」
 返るのは雄叫び。意志も、ただただ一心不乱に勝利を目指す想いだった。それが彼等の――バイデン達の矜持だったはずだ。
 それが今は何もない、あるのは憤怒の猛りでしかなかった。
 ならば言葉ではなく刃に心をこめて。闘志と殺意と、敬意を刃に込めて。
「全力で貴方を倒します!」
 冴え渡る白刃が大気諸共レヴラムの右腕を粉砕する。血の飛沫がレヴラムの黒い頬を彩る。

「オ……ォォォ……」

 呻くレヴラムはバイデンの流儀を、矜持を、誇りを覚えているのだろうか。
 リベリスタ達と――五月の仲間達と戦った記憶はあるのだろうか。
 黒く澱み切った姿にそれは見出せない。五月には分からない何かがあるのかもしれない。おそらく、それは苦しいものなのだろう。
 だから五月はこうして斬ることを、戦うことを、打ち滅ぼすことを謝りはしない。
 レヴラムが腕だったモノを振るう。鞭のように叩きつけられる憤怒は五月等の肌を引き裂き、鮮血が少女とレヴラムを赤く濡らす。

「強き者に未だ固執するか」

 其れが君の誇りか、其れが君なのか。
 君の思う全てをオレは受け止めよう。
 だから届けてくれ、君の矜持と力を。

「……スタ」

 敵は何を言ったのか。
 迫る腕を前に、五月は煌く瞳の奥だけでほんの少しだけ微笑む。
「君がまだ君であるうちに誇りを見れてよかった」
 駄々を捏ねるように身をよじるレヴラムにとって、己が姿はさぞや不服なのであろう。
「リ……スタ………異界、の……戦士」
 彼女が垣間見たものは、残された意思のカケラ、一握りの矜持か。
 それを見せてくれたなら彼女は揺るがない。己自身が相手にとっての強敵であるために。崩れ落ちそうになる足を奮い立たせ、刃に想いを乗せて、撃つ。紫電の刃がレヴラムの胸を突く。赤が広がる。
 彼が彼であるうちに、その全てを煌く瞳に焼き付けて、その誇りを守るために倒しきる。

「その身に未だ矜持と誇りを宿しているならば……失くす前に終わらせましょう」
 どこまでも怜悧な瞳で。
「――貴方の貴方たる証を抱いて」
 リセリアは想いを刃に乗せる。レヴラムの矜持を妨げる何かへ向けて。憤怒の巨人の残滓を切り刻むようにセインディールを振るう。
 レヴラムの身体がぶくぶくと膨れ上がっていく。その咆哮はどこか苦々しく震えている。きっと彼も何かに耐えているのだ。
 リベリスタ達と交戦するまで、バイデン達はただ純粋に憤怒と闘争への渇望に満ちていただけだった。
 だが何かを得ていたはずだ。あまりに純粋で、稚拙で、未だ理解さえし難い幼稚な様相ではあったが、心のようなものが生まれていたはずだ。
 それを失ってしまうことを、レヴラムは無意識の中で恐れている。無自覚に感じている。

 もう、タイミングは今しかない。相打ちでもいい。
 赤く染まった青い鳥は、音速を超える女神の刃を手に戦場を駆け抜ける。
「合わせます!」
「逝きなさい――」
 亘の刃が、セラフィーナの太刀が、リセリアの剣が、次々にレヴラムを貫く。切り裂く。
 これで終わりのはずだ。
 レヴラムの肌を、肉を、骨を、血の一滴さえも粉々に打ち砕いて往く。風が吹き、よどんだ大気が砂に覆われる。

 視界を隠す砂塵が真紅に染まる中で、垣間見えたのは赤い巨腕の闘鬼の姿。
 リベリスタ達に聞こえたのは歓喜の咆哮。戦いへの渇望。リベリスタ(最強の敵)への羨望。
 人ならざる異界の魂に芽生え始めた何か。少しずつ変わり始めていたバイデンの矜持。

 眼前の『ヘリオン』レヴラムは腕を天空高く掲げ、鉄槌の如く振り下ろし――


 ――それは矜持の一滴。血飛沫が見せた終の幻想。


 吹き荒れる砂塵の暇が再び歪んだ世界樹の威容をさらけ出す。他には何もなく、戦いの跡だけが広がっている。バイデン達の生きた証が遺されている。
 切り開かれた一筋の道を見据え、疾風が呟いた。戦場はここで仕舞いではない。リベリスタ達にとって、こんなものは前哨戦の露払いに過ぎないのだから。
「行こう」
 それが再び砂に埋もれてしまう前に。

 駆けろ。
 世界を守る為、世界樹の元へ。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 依頼、お疲れ様です。
 お見事でした。
 皆さん、つよっ……

 MVPは、ボスの攻撃を徹頭徹尾凌ぎきった貴方へ。

 それでは再び皆さんとお会いできる日を願って。pipiでした。