●『杖』の名を持つもの 『ソラに浮かぶ眼球』との遭遇は、僅かずつ予兆を見せつつあったラ・ル・カーナの崩壊に決定的な一打を与えた。 荒野はひび割れ、世界樹の水源は干上がり、バイデンや巨獣達は変異体として狂い始め……世界樹すらも、最悪の姿に陥った。 R-typeと呼ばれるそれとの遭遇が引き金となった世界樹の暴走は、止めなければラ・ル・カーナ自体の未来はありえないだろう。 水が枯れ果てた現状が続けば、フュリエの理性が保つ期間の保証はない。 そうなってしまえば、この世界は滅亡してしまう――それを打開する策は、研究開発室によってもたらされた。 『忘却の石』。神秘存在の構成のリセットを行うことが出来るこの石を、世界樹とのリンクを可能とするシェルンと組み合わせることで『R-typeの残滓』をリセットする。 ある種無謀、ある意味ではリスクは大きいが……R-typeへの強い感情と併せて考えれば当然とも言える決断だった。 斯くして。 異形化した『世界樹エクスィス』へ、リベリスタ、フュリエ、そして『多いな敵』を前に猛る僅かなバイデン達が、向かっていく。 バイデンに対するアークの復讐戦に於いて、奇襲を目したバイデンの一派に駆られた昆虫型の巨獣『ワンド』。 操手である一派はその生命を落とし、随伴したワンドもそのすべてが討伐されるに至り、バイデンに駆られる事のなかったそれらは、世界樹の影響を受けるに至った。 「何だ、アレ……」 リベリスタには、それが何かと形容することができなかった。 ただの、装甲が厚いだけのイモムシ型ならまだ理解もできようが、それの身が携えた突起はあまりにも攻撃的で、余りにも効率的な形状をしていたのだ。 護るためであり攻めるため。さながらそれは、復讐戦を超える密度の槍衾――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月12日(金)23:54 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●万難不屈の槍であれ 戦場の空気は、乾いた風に乗ってその足音を響かせる。 足音、と呼ぶべきか否か――兎角、あの存在たちは既にバイデンの手から、更に言えば世界の箍からも外されて久しい。 ワンド、ボトム・チャンネルで述べるところの『杖』を冠されたそれらは、既に戻れない所まで来てはいたのだが。 「成程、随分こりゃ殴ったら痛い目見そうな奴が出てきたもんだな」 遠く、といっても数十秒で激突する間合いに現れたその姿を見て、『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)は拳を打ち合わせ、笑みを浮かべた。 だが、彼の表情も雰囲気も、言葉ほどに緊迫感を感じさせるものではない。 寧ろ、目の前に現れた強敵に対して自らの力を存分に打ち込める、その好機に打ち震えているようですらあり。 その後に訪れるであろうさらなる戦況を見据えているようでもあった。 「これはとんでもないカオスというべきか……」 ワンドの本質的な姿は、彼女の知りうる『それ』に親しいのだろうが、今となってはどうでもよいことであろう。 『ヤク中サキュバス』アリシア・ミスティ・リターナ(BNE004031)の思考があらゆるところでぶっ飛んでいるのは、まあ元ヤク中なんだから当然らしいのだが、決して論理的な決意のたぐいでは無いのは明らかだ。 尤も、彼女は後衛であるが故、さしたる被害はないだろうが。 「正直、ちょっと怖いわね」 世界樹が、バイデンが、そして巨獣が。 たった一度の邂逅で何もかもを狂わされてしまった。元より狂っていたものを手の施しようもないほどぶち壊した『ミラーミス』との遭遇に、『薄明』東雲 未明(BNE000340)は漸く実感することが出来たと、自嘲じみた感情とともに感じている。 そして、それが齎した『世界』との対峙が、自分たちに与える影響がどれほどまで深く、自分たちに根ざすのか。未知と無知と錯覚は、確かに人の情に恐怖を植え付けるには十分か。 「『利あれば弊あり』。強化されたのならば、それは新たなる弱点をも生み出している事を、お見せしよう」 恋人と並び立ち、しかし一切の感傷を身の裡に押し殺した『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)が見せる顔は、正しく論理戦闘者のそれである。 だが、強いて述べる程に彼の思慮が深いとも、明瞭であるとも感じ難いのは事実であろう。 ……でなければ。仮面を取り繕う能もなく感情を制御できる男でもない彼の有り様が、思考に重きをおいた彼の在り方が、枷となりうることなど、なかったのだから。 「主人は居なくなったというのに、生き返った上にわざわざ強化までして攻めてくるなんて……妬ましいわね」 「うん、正直全然嬉しくないですけど……」 嘗て、ワンドとバイデンの構成した責め苦の驟雨を抜け、勝利を手にした者達からすれば、その邂逅ほど苛立ちに満ちたものはないだろう。 『以心断心嫉妬心』蛇目 愛美(BNE003231)からすれば、自らが凌駕した敵が更なる強さを以って現れるなど、妬ましさ以外の感情が芽生えるわけがないだろう。 自らが積み上げたそれ、嫉妬心に根ざした力の一部すらも否定されたような状況は、恨み言のひとつくらい口にしたってバチは当たるまいと思えた。 同様に、『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)にとっても縁深い彼らだが、彼女にしてみればその思念は苛立ちや嫉妬などではなく、ただ憐憫。 主あった頃の戦いが、純粋な闘争が、ただ一度の侵食で全て蔑ろにされるその様を、無様と言わずなんとすべきか。 だから今、彼女にできるのは出来るだけ苛烈に、その終焉を叩きつけることだけであるのは言うまでもあるまい。 「だが、負けん。変異だろうが進化だろうが、今度も打ち破る」 叩き伏せる為にメイスを手にし、前へ進むためにその頑健さを鍛え上げた。 『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)にとって、打ち破ったものが再び眼前に立ちはだかったことに対してどう考えるべきか、は愚問なのかもしれなかった。 現れたなら打ち砕けばいい、攻め入るなら護り通せばいい。 『盾』とはそういうものだ。打ち破ることも護ることも出来るはずだ。握りしめたメイスにじわりと汗がにじむのを感じるとともに、侠気の鉄に向けた意識が重くもある。 相手の脅威を知ったればこそ、打ち砕く己の力を信じることが出来るのだろう。だから、勝利を、と。 「露払い……なんて言うほどなまやさしいもんじゃねぇかな」 露と流れるのは己の血も含めてか。『鉄腕ガキ大将』鯨塚 モヨタ(BNE000872)の構えたプロミネンサーブレードが、彼の無限機関の猛りを受け止めてか熱量を増し、明確な迫力を以って振り上げられた。 多少の傷など覚悟した。他の戦場に赴く仲間のためにも、今は目の前の敵に対し思いを馳せることが重要なのだ。 だから、限界などここに置いていく。 彼の覚悟をして、地面が小さく爆ぜた。 ●不変絶対の盾であれ 「まずこちらから仕掛けます!」 身のうちに溜めた緊張感を大きく吐き出し、レイチェルが閃光を放つ。 接敵位置ぎりぎりを狙っただけのことはあり、それはワンド達を飲み込んで過ぎ、確実な初手を与えることに成功した、といえる。 「これじゃもう針山ね、お近づきになりたくはないんだけれ、どっ!」 「いっくぜぇぇぇっ!」 光の合間から姿を見せたのは、未明とモヨタの二人だ。先行して突っ込んでくる二体へ真正面から打ち合いを挑み、それらを大きく後退させるその膂力は賞賛して余りあるといえるだろう。 但し、近づいたからには、一合を交えたからには、その痛手がゼロであろうはずもない。 挑みかかるワンド達の破壊力を鑑みれば、速度を理解していれば、それが決して御しやすい相手ではないことは理解できただろう。 だが、正面切って戦うことを生業とする彼らからすれば、その程度の傷を痛手とは言うまい。 「っのやろ……!」 一方の猛は、間合いに入った直後に出来た一瞬の隙をつかれ、ワンドによって吹き飛ばされていた。 尤も、すぐさま棘の一本を掴んで引き戻したことで、十分間合いを確保してはいたが……ほんの一瞬、構えを取るか否かの迷いが生んだ隙は、戦場に於いては大きすぎたのだ。 隙間無く並べられた槍の如きそれに隙を見出そうとしたのも、僅かながらに不利を長じる結果となったのは皮肉というべきか。 「油断はしない、と言った筈だ」 ぴぎ、と猛の傍らを抜けようとした最後の一体を、仁王立ちの姿勢で義弘が受け止める。 侠気の鉄が防げる棘の量など微々たるもの。全身を薙いで貫くその感触が軽いものではないにせよ、立ちはだかることに於いて彼はこの場の誰よりも『盾』であった。 四体のワンドの破壊力をして、リベリスタ達の状態は決して芳しいとは言いがたいが、彼の守護があれば、それすらも軽微であるといえるだろう。 「ワンドと正面から戦えるだなんて……まったく妬ましいわね……」 策を弄して間合いをとってやっと戦えるというのに、と小さく嘆息を交えた愛美の弓から放たれた矢は、呪いの波長を交えて長く伸び、その棘を砕いて突き刺さる。 自らを侵食するその感覚に反証を告げる間もなく、動きを止めた一体を鑑みれば、それに至った経緯も分かるというもので。 「さて……停止してもらおう」 愛美の呪弾の着弾にやや先んじて、オーウェンの呪印が一体を縛り付ける。 だが、彼とてその指先に返る感触で気づいていはいただろう。 そう長く『それ』を維持できるほどに、自身の覚悟は熟達の域に達していない、ということを。 「必殺の呪装弾をくらえっ!」 「全く焼け石に水ね、ないよりマシって意味でだけれど!」 だが、彼がどう思おうと、表に出さじとしている限りでは状況は変わらず動くのは当然の道理である。 未明も、そしてアリシアも。さもその激戦を当然であるかのように受け入れ、戦いに臨んでいる。 例え幾千の例外があろうと、向かう結論が一つであるならば止まることも、無いのだろう。 だから、これだけは確たる理。 ワンドにも、リベリスタにも――『安全地帯』など、ない。 ●不撓不屈の兵であれ 前衛のブロック、次いで密集させることによる同士討ちの様相を与えることは、半ばほどは成功の目を見たといっていいだろう。 だが、残り半分は確実ではなかった、ということでもある。 当てれば、退くか。それは完全に是ではない。技が浅ければその利を得られぬこともあろう。 同士討ちは、どれほどに続くか。押し込め続ければ話は変わろうが、包囲を狭めればリベリスタ達の負う傷も深くなる。 リベリスタ達の地力と状況が与える負荷の天秤にかけて、それが果たして正解だったかといえば……長い目で見れば、疑問だと断ずるだろう。 「ただでさえ回復手が乏しいのだから……手間を掛けさせないで」 苛立たしげに呪印を切る愛美の声にも、焦りと疲弊はへばりついている。 遠距離からすら届く一撃は、踏み込まれなければ驚くに値しない、と断じていた後衛に僅かながらに驚愕を与えもした。 ワンドの棘を銃弾で迎撃しようとしたアリシアも、胸を深々と貫かれ、寸暇をおいて昏倒する。 レイチェルの回復が戦場を舞い、状況の維持を担わなければ、状況は更に悪化していたことだろう。 更に言うなら、ブロックの均衡が崩れればこんな物ではなかったはずだ。 「くそ、いってぇなぁ……そのトゲトゲごと斬り落としてやんぜ!」 既に全身を覆う傷跡は相当数に上りながらも、モヨタはその勢いを衰えさせるつもりはない。 彼の覚悟はその程度では潰えない。 振り上げられた刃が、十全の威力を以って振り下ろされ、棘の数本と共にワンドの胴を大きく捌き、切り飛ばす。 猛とて、その覚悟の程は同じだ。 正面から戦う以上、無傷で勝利できるはずがないのは理解していた。 だが、倒れる訳にはいかない、というのも理解していた。 ここで倒れる程度の覚悟なら、最初から戦いに赴くべきではなかったと思っている。 だから、振り上げた拳に込めた雷撃が確実に徹るその瞬間をして、巻き込んだワンド達に魅せつけたのだ。 己の、覚悟を。 既に、何合弾いただろうかと義弘は思索する。 長期戦を避けたかったのは本音だが、現状に於いてそれは既に夢物語となったのは確かだった。 だが、その程度で砕ける盾ならそうと名乗る筈もない。侠気を貫く為に振り上げたメイスが、突進を弾き、押しとどめ、貫く棘をものともしない。 『侠気の盾』の意地があってこそ、じわりと相手を追い詰める姿があったのだ。 「あそこまで傷ついて倒れないだなんて、前にも増して頑丈ね……本当、妬ましい」 轟音をたてて一体が崩れ落ちたのを確認し、狙いを変えながら愛美は毒づく。 以前なら、勝利を収めていてもおかしくない時間。それだけを費やしたことに、その能力の底を見た感じがして嫌気がさす、と。 だが、状況はゆっくりとだが確実に推移している。リベリスタ達の優位であるがために、口に出せる冗句であることは違い無いだろう。 未明の全身を覆う傷も、既に少なくはない領域に突入していた。 一体、そして二体と数を減らしたワンドの前では瑣末な傷だと断言できようが、背後に控えるオーウェンからすれば気が気ではあるまい。 意思を押し殺し、表情を固めようにも、不十分な自身の能力で隠しおおせるものではない。 ……だからこそ、その感情を背負うからこそ、未明の全力が確実に戦況を切り開いているというのは、ある種最大の皮肉といえるだろう。 互いに向けた感情の行き着く先が、勝敗を決するに足る縁となるなら。 それはきっと、戦いに赴く者として正しい資質であったということ。 「足りない部分があるとすれば――」 ナイフを突き出し、叫ぶように歌うように、レイチェルは気糸を発現させる。 四方からワンドを包み込んだそれは、確実にその動きを縛り上げ、その身を宙吊りにすらしてみせた。 果たして、それは状況が呼び起こした奇跡か、彼女自身の真価だったのか。 「攻め手としての技量と戦術で、補って見せます!」 「こんな程度じゃ、オイラは止まれねぇ!」 吊り上げられた個体に向け、モヨタの一撃が叩きこまれ、他方に蠢く影もまた、各人の集中攻撃の中に埋もれ、消えていく。 全身を貫いた棘の山、溢れる血の熱が既に彼らの「自然」になりつつある戦場の中。 遠く聞こえる鬨の声を聞きながら、リベリスタ達は己の勝利を痛感する。 「たとえ世界が相手であったとしても」 痛みを全身に湛えながら、義弘はもう一度メイスを握り直す。 自身にそれを告げるように、静かに。 「……皆も俺も、死ぬわけにはいかないからな」 それは静かな、でも重々しい、鬨の声だった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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