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<世界を飲み干す者>完全世界が燃える日

●嘆きの荒野
「全く……何が起こってやがるんだ……!」
 バイデンの若き戦士、ゲルンの口から吐かれた言葉は疑問の言葉ではない。目の前の状況に対する怒りの言葉だ。彼の足元には少なからぬバイデンの死骸が散らばっている。もちろん、彼1人で殺した訳ではない。最初は突然暴れ出した仲間を止めるだけのはずだった。それが気が付くと、一緒に戦っていたはずの仲間も暴れ出し、気付けばお互いに殺し合うしかなくなっていたのだ。
 ゲルンはつい先日まで、異世界の戦士であるリベリスタ達に捕えられていた。そして、バイデンとリベリスタの戦いに一段落がついたということで、解放されたのだ。集落に戻ってきて数日はアレコレ聞かれたが、それも無くなり来たるべき再戦に向けて鍛錬のし直しを行っていた。その矢先にこれである。
 尊敬する兄貴分、イェーグだったらあるいはこの状況を理解出来たのだろうか? だが、彼はもういない。リベリスタと戦った際に自分よりも賢く強かった彼は、命を落としたのだという。
 だから、ゲルンは戦う。自分を降したリベリスタ達を倒すため、兄貴分を殺したリベリスタ達を倒すため。それがリベリスタ達との約束だから。憎悪の無い復讐、その不可思議な誓いこそがゲルンにこの戦場を生き抜く闘志を与えていた。
「おい、こっちはどうだ、ゲルン」
「ダメだダメだ、生き残っているのは俺だけだよ。他の奴らはみんなおかしくなっちまった」
 ようやく周りのバイデンを倒して一息ついていると、同年代のバイデンがやって来る。何度か一緒に狩りに向かったこともある、親しい者だ。
 彼の身体も夥しい返り血で濡れており、同じような殺し合いを生き抜いてきたことが分かる。そして、ここも同じだったことを知って、肩を落とす。
「やっぱりか……」
「そう言うそっちはどうだ? わざわざこっちに来たってことは、村の真ん中の方に何かあったんじゃねぇの?」
「あぁ、そうだ。プリンスが『世界樹』攻めを決めた。『世界樹』と消えちまった『目玉』が関わっているのは間違いないしな。ゲルン、当然お前も来るだろ?」
 その言葉を聞いて、ゲルンは珍しく頭を捻ってしまう。
 もちろん、世界を滅ぼすほどの力を持つ、世界そのもの。是非とも戦いたい相手だ。
 とは言え、その前にやらなくてはいけないこと――リベリスタとの決着だ――が、自分にはある。正直な話、ゲルンにとってリベリスタという存在はそれ程の、世界との戦い以上に意義のあるものとなっていた。
(いや、待てよ?)
 そこでゲルンの頭に閃きが走る。
 あいつらがこの戦いに参加しないはずはない。
 リベリスタが戦う理由はバイデンとは全く違うものだ。だが、彼らなら必ずやって来てくれるはずだ。
 だったら、そこで戦えば良い。簡単な理屈だ。
 そして、手を打って答えようとした時だ。
『おい、てめぇ、何しやがる!?』
 突然、仲間だったはずのバイデンが切りかかって来た。
『こいつもかよ!』
 吐き捨てると、ゲルンは斧を構えて迎え撃つ。相手が何かを叫んでいるように見えるが、何を言っているのか理解できない。大方、他のバイデンがそうであったように狂ってしまったのだろう。
 お互いに疲弊したバイデン同士。戦いは技巧を凝らしたものではなく、力任せの殴り合いになる。
 そして、最終的にその戦いを制したのはゲルンだった。
 相手の両腕を掴んで力比べの姿勢を作る。こちらの両手も塞がったが、相手の両手も塞がっている以上、攻撃は封じた。そして、その隙を突いて『自分の脇腹から生えた3本目の腕で、相手の腹を抉った』のだ。
『シャァァァァァァァァァァァァァ!』
 悲しい勝利に咆哮を上げるゲルン。
 そう、自分はまだこんな所で死ねないのだ。彼らと決着をつけるまで、死ぬわけにはいかない。
『悪いな、てめぇの分も戦ってやっから……よ……?』
 そして、殺した友人の見開かれた目を閉じてやろうとした時、その瞳に映る異形の姿をゲルンは目にする。そこにはあるはずの無いものの姿が映っていた。多くのバイデン同様、変異をしたバイデンの姿。そして、今この場に生きているバイデンはゲルン以外にいない。
『う、ウワァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』
 ゲルンは、いや『ゲルンだったもの』は理解してしまった。
 目の前のバイデンを殺した『怪物』の正体に。
 『ゲルンだったもの』の目からとめどなく血の涙が溢れる。
 それを止めることなど、誰にも出来ない。
 そして、その瞳から流れ落ちる血の涙に、憤怒と渇きの荒野を潤すことなど出来なかった。

●ラ・ル・カーナ橋頭堡、再び
 『ソラに浮かぶ眼球』との遭遇から数日。そうなる前の予兆は十分に存在し、引き金が引かれた今。変異した世界樹を見れば分かる通り、ラ・ル・カーナは致命的な崩壊の時を迎えようとしていた。
 無形の巨人――R-type――と世界樹の邂逅より、空は奇妙な色に染まり、世界樹の水源は干上がり、憤怒の荒野はひび割れた。跋扈する危険な生物達は更なる進化を遂げ、多くのバイデンは理性を消失し、暴れ回る怪物へと姿を変えつつある。それだけではない。狂った世界樹は次々と『狂った変異体』を生み続けているのだ。
 アークはラ・ル・カーナが真なる危険水域まで到達したと結論した。ラ・ル・カーナの造物主であり、ラ・ル・カーナそのものとも言える世界樹が暴走したままでは状況の回復は有り得ない。元々最も争いと憤怒より遠い存在として作られたフュリエは現状までは理性を保ち、種の形状を保持しているが、状況が長く続き、森が枯れればバイデンのようにならないとも限らない。
 この状況を打開するには世界樹の変異を回復する必要性があるのだが、この手段についてアークの研究開発室は1つの可能性に思い当たっていた。それはかねてより研究を進めていたラ・ル・カーナの『忘却の石』の転用である。『忘却の石』は神秘存在の持つその構成を『リセット』する為のアイテムとされていたが、純度を高めた『忘却の石』と世界樹にリンクする事が可能であるシェルンの能力を合わせればかの存在を構築する要素に潜り込んだ『R-typeの残滓』のみを消失出来るのでは無いかという推論だった。提案は推論であり可能性の段階で絶対では無い。
 そして、この世界はラ・ル・カーナであり、ボトムチャンネルではない。選択肢として崩壊を始めたラ・ル・カーナからの退却は十分にあり得た。しかし、『戦略司令室長』時村・沙織(nBNE000500)はこの状況に強行する判断を下す。それは彼の持つ『R-typeへの強い感情』を考えれば当然とも言える話であった。
「……実際、複雑だぜ」
 『相模の蝮』蝮原・咬兵(nBNE000020)としては、そうした沙織の感情が理解出来ない訳ではない。それでも、いつもの口癖を呟かずにはいられなかった。今の状況を評するのに、これ程的確な言葉は無いだろう。
 咬兵が立つのはラ・ル・カーナ橋頭堡の防壁の上。一度はバイデンによって破壊されながらも、リベリスタ達の努力の甲斐あって、以前よりも堅固な防壁となっている。それでも、これからの作戦を思えば、不安が残らないではない。
 リベリスタ達とアークの提案を苦渋の決断で受け入れたシェルン率いるフュリエの連合軍は異形と化した『世界樹エクスィス』を目指して進軍する。しかし、ひび割れた憤怒の荒野には危険な異形が満ちていた。そして、滅亡に瀕する自身等の現状さえ厭わず、『世界史上最大の敵』の出現に瞳をぎらつかせる、残る僅かなバイデン達の姿も。
 バイデンはまだ良いだろう。お互いにとって、当面の敵ではないのだから。
 しかし、異形の『忌み子』達――暴走する巨獣等の狂化変異体――はどうしようもない。加えて、高い戦闘力を持つ彼らの全てとまともに戦うのは得策ではない。
 そこでアークの取った作戦はこうだ。
 囮部隊によって防御に優れた橋頭堡に誘き寄せ、これらを殲滅破壊するというもの。
 防壁で変異体の足止めをしつつ、機動部隊を出して、相手の後背を突くのだ。砦の外と中のコンビネーションによっては、絶大な効果を発揮するだろう。一部のフュリエも砦内で支援をしてくれている。
 しかし、簡単にはいかない。西からは数が少ないとは言え、同様に狂ったバイデン達もやって来るのだ。
「うふふ、ファイエット家の名にかけて逃げるわけには行きませんわね。胸が鳴りますわあ!」
 『黒天使』クラリス・ラ・ファイエット(nBNE000018)の闘志は高い。この美しくも鋭い棘を持つ漆黒の天使は、こうした己を高める機会にこそ闘志を燃やす。そして、それは同じように砦を見張る他のリベリスタも同様であろう。
 と、その時だった。
「みんな、囮部隊が戻って来たぜ! 予定通りだ!」
 物見櫓の上から『ジュニアサジタリー』犬塚・耕太郎(nBNE000012)が仲間達に報告する。彼の鋭い感覚は見張りにはうってつけだ。
 そして、来たるべき戦いにリベリスタ達が備えた時だ。
 耕太郎はさらなる報告を、驚愕と共に仲間達へ伝えた。
「まずい、もう1匹……南西から、来やがった」
 耕太郎が感じたのは敵の気配ではない。『本当の意味で濃密な命の危険』だ。
 同様に見張りに立つリベリスタ達は見た。
 ゆっくりと大地を這う、巨大な『蟲』の姿を。
 それを評するなら、『蟲』としか言いようがないだろう。言うなれば巨大な芋虫に似ている。その体は無数の虫が絡み合い、生きながらにして流動している。それを生き物と呼んで良いとは思えない、異形の物体だ。
 そして、それが歩く場所は炎に包まれていく。
 その巨大さゆえに、まるで世界の全てが焼け落ちていくかのように見える。
 さしもの堅牢な砦も、アレを前にしてはひとたまりもあるまい。
「でも、やるっきゃねぇよな!」
 耕太郎は自分の顔をバシンと叩いて気合を入れると、愛用の弓を手にする。
 幸い『蟲』の侵攻は遅く、しばらく橋頭堡に到達することはあるまい。ならば、囮部隊が引き付けた敵を倒してから集中攻撃は可能だろう。
 いや、やるしかない!
 狂える巨獣の呻き声が聞えてくる。
 狂えるバイデンが雄叫びを上げている。
 そして、これから幕が開く。
 1つの世界の存亡を賭けた、決戦の幕が……。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:KSK  
■難易度:HARD ■ イベントシナリオ
■参加人数制限: なし ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年10月13日(土)00:19
皆さん、こんばんは。
ラ・ル・カーナの落日、KSK(けー・えす・けー)です。
決戦シナリオ・橋頭堡編をお送りします。

●目的
 ラ・ル・カーナ橋頭堡に誘き出した敵を殲滅する

●Danger!
 このシナリオはフェイトの残量に拠らない死亡判定の可能性があります。
 参加の際はくれぐれもご注意下さい。死ぬ時には容赦なく死にます。

●参加制限について
当シナリオと『<世界を飲み干す者>とつく他のイベントシナリオ(通常シナリオは除外)』との同時参加を禁止します。重複参加が行われた際は、タイムスタンプ上、後に参加したシナリオについての参加が取り消されます。又、この場合、使用したLPは返還されません。くれぐれもご注意の上のご参加を宜しくお願いいたします。

●特別な備考
・本シナリオは『Lv15未満推奨』です。参加の際はご考慮ください。
 (Lv15以上でも参加可能です。慣れていない方をサポートしていただければ幸いです)

●特別ルール
・このシナリオでは戦場が広いため、範囲「全」「味全」は効果範囲が限定されます。自分を中心にしたある程度の範囲とお考え下さい。

・『ラ・ル・カーナ橋頭堡』には各種設備が用意されています。詳しくは特設コーポレーション『ラ・ル・カーナ橋頭堡』の説明を参照して下さい。今シナリオの判定には『ラ・ル・カーナ橋頭堡』の各種設備の存在や特殊効果が影響します。砦の中にいるPCはシナリオの内容に応じて利用出来そうな設備やロケーション等をプレイングに生かしても構いません。
例:【強力な罠】罠のある場所に敵をおびき寄せる

●戦場
 【1】~【4】の戦いで誘き出した敵を倒し、その後で砦を打って出て【5】に挑みます。【1】~【4】に時間をかけ過ぎると、【5】の戦いでは不利になるでしょう(十分な補給を受けられない、等)。

【1】対変異体・内
 橋頭堡の中で防衛能力を生かして、敵の侵入を阻みます。
 『ラ・ル・カーナ橋頭堡』の設備を利用可能です
 対する相手は変異した巨獣になります。

【2】対変異体・外
 機動力を生かして、直接敵を撃破していきます。
 対する相手は変異した巨獣になります。

【3】対バイデン・内
 橋頭堡の中で防衛能力を生かして、敵の侵入を阻みます。
 『ラ・ル・カーナ橋頭堡』の設備を利用可能です
 対する相手は西から攻めてくる変異したバイデンになります。

【4】対変異体・外
 機動力を生かして、直接敵を撃破していきます。
 対する相手は西から攻めてくる変異したバイデンになります。

【5】対魔神蟲・外
 砦から打って出て、南からやって来る魔神蟲(デーモン・インセクト)と戦います。
 対する相手は20メートルはある巨獣です。
 接近するまでに時間があるので、【1】~【4】の戦場で余裕を以って勝利すれば、HP/EPの回復を行う余裕があるでしょう。

●狂化変異体
 世界樹の暴走によって変異した巨獣達です。
 主に巨大で耐久力の高いタイプ・飛行するタイプ・戦場を素早く駆け範囲攻撃を用いるタイプがいます。
 また、他の<世界を飲み干す者>にて囮部隊が誘導に成功したものも登場する可能性があります。
 彼らの習性を利用したプレイングがあれば、判定が有利になるかも知れません。

●狂化バイデン
 世界樹の暴走によって変異したバイデン達です。
 近接攻撃と遠距離攻撃を備え、自己再生能力を持ちます。
 また、他の<世界を飲み干す者>にて囮部隊が誘導に成功したバイデンも登場する可能性があります。
 OPに登場しているゲルンと呼ばれる個体もこの中にいます。彼に関しては、拙作「<バイデン襲来>アーク農場の決闘~明日を守り抜け~」「<箱舟の復讐>Dragon Dive!」にも登場していますが、読んでいなくても問題ありません。

●魔神蟲(デーモン・インセクト)
 無数の虫が凝って形作られた、巨大な蟲です。全長20メートル以上。戦場に余裕があれば、発射台から狙い撃つことも出来るでしょう。
 巨体での踏みつぶしを行う他、神秘の力で周囲のものを炎上させることが出来ます。
 動きそのものは遅いですが、攻撃する際には2回の攻撃を行います。
 非常に巨大であり、鈍重なため、攻撃を回避出来ません。魔神蟲への攻撃はファンブルしない限り必ず命中します。但しヒット率を算出する時の回避値の減算は行われます。又、ダメージ系以外のBSは全て無効化されます(毒や火炎等は効きますがショックや麻痺は効きません。氷結等はダメージだけ適用されます。呪殺が発動する際にはショックや麻痺も「かかっているもの」として扱います)。

●フュリエ
 戦うことを選び、リベリスタに協力するフュリエです。
 それなりの数がいて、攻撃や回復などで支援を行います。基本的に砦の内側にいます。
 フュリエ戦力はレベル10のリベリスタ程度と思って下さい。
 フュリエの行動に対して依頼があればプレイングに【フュリエ】と書いて記入して下さい。複数の方が書いた場合、妥当と思われる行動を取りますが、あまりに矛盾が見られた場合混乱する可能性があります。

●【重要】プレイングの書式について
 今回、多数のご参加が見込まれるため、お手数ですがプレイング書式の統一をお願いいたします。
 守られていない場合、判定が不利になる場合があります。
 「選んだ戦場」は、どの戦場での戦いをプレイングするかを示します。
 尚、選ばなかった方の戦場でも『戦力として判定』はされますし、稀に複数に登場する事はあるかも知れませんが、原則的に選んだ方の戦場を中心に描写されます。又、プレイングによっては描写されない事もありますがこの場合も同様に戦力として判定に加算されます。

(書式)
一行目:選んだ戦場の番号
二行目:チーム名または一緒に行動したい人のフルネームとID。一人の場合は改行のみ
三行目:フェイト使用有無
四行目以降:フリーダムにどうぞ

(記入例)
【4】
【ギルド】
フェイト使用
絶対負けるものか!

●最後に
崩壊していく世界。
これは我々の世界とは別の話ですが、決して他人事ではありません。
世界最後の日に際して、あなたは何を思って戦うのか。
それでは、皆様の思いの丈を込めたプレイング、『ラ・ル・カーナ橋頭堡』でお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 135人■
スターサジタリー
フランツィスカ・フォン・シャーラッハ(BNE000025)
クロスイージス
カイン・トバルト・アーノルド(BNE000230)
マグメイガス
二階堂 杏子(BNE000447)
スターサジタリー
舞 冥華(BNE000456)
デュランダル
石川 ブリリアント(BNE000479)
デュランダル
雪村・有紗(BNE000537)
デュランダル
ラシャ・セシリア・アーノルド(BNE000576)
ソードミラージュ
閑古鳥 比翼子(BNE000587)
プロアデプト
エレーナ・エドラー・シュシュニック(BNE000654)
ナイトクリーク
風歌院 文音(BNE000683)
ナイトクリーク
桜 望(BNE000713)
クロスイージス
ユート・ノーマン(BNE000829)
ナイトクリーク
ジェイド・I・キタムラ(BNE000838)
ナイトクリーク
有沢 せいる(BNE000946)
覇界闘士
白 凛香(BNE000962)
クロスイージス
御剣・カーラ・慧美(BNE001056)
プロアデプト
言乃葉・遠子(BNE001069)
マグメイガス
スバル・ルーランジュ(BNE001076)
覇界闘士
レイ・マクガイア(BNE001078)
ソードミラージュ
出田 与作(BNE001111)
スターサジタリー
麗葉・ノア(BNE001116)
デュランダル
マルグリット・コルベール(BNE001151)
プロアデプト
メリュジーヌ・シズウェル(BNE001185)
インヤンマスター
神喰 しぐれ(BNE001394)
ホーリーメイガス
汐崎・沙希(BNE001579)
クロスイージス
蔡 滸玲(BNE001593)
クロスイージス
雪城 紗夜(BNE001622)
クロスイージス
ステイシィ・M・ステイシス(BNE001651)
インヤンマスター
今川・宗助(BNE001708)
クロスイージス
ステイシー・スペイシー(BNE001776)
ホーリーメイガス
白ヤギ・メーコ(BNE001904)
マグメイガス
アーゼルハイド・R・ウラジミア(BNE002018)
マグメイガス
土器 朋彦(BNE002029)
ソードミラージュ
八幡 雪(BNE002098)
クロスイージス
キャプテン・ガガーリン(BNE002315)
マグメイガス
菅生 菜々美(BNE002426)
スターサジタリー
ルヴィア・マグノリア・リーリフローラ(BNE002446)
ホーリーメイガス
アルティ・グラント(BNE002505)
プロアデプト
御布団 翁(BNE002526)
ソードミラージュ
リ ザー ドマン(BNE002584)
インヤンマスター
志賀倉 はぜり(BNE002609)
マグメイガス
ジズ・ゲルディーリ(BNE002638)
マグメイガス
プルリア・オリオール(BNE002641)
ナイトクリーク
シャーヒーン・ラシード・スルターン(BNE002642)
ホーリーメイガス
神代 楓(BNE002658)
ナイトクリーク
賀上・縁(BNE002721)
マグメイガス
宮代・紅葉(BNE002726)
クリミナルスタア
オー ク(BNE002740)
マグメイガス
オリガ・エレギン(BNE002764)
クロスイージス
夜逝 無明(BNE002781)
プロアデプト
藍・ル・リース(BNE002833)
ホーリーメイガス
雛月 雪菜(BNE002865)
マグメイガス
桜咲・珠緒(BNE002928)
デュランダル
雉子川 夜見(BNE002957)
マグメイガス
禊萩・ぽぷら(BNE003010)
スターサジタリー
トリストラム・D・ライリー(BNE003053)
スターサジタリー
コ ボ ルト(BNE003091)
クロスイージス
黒金 豪蔵(BNE003106)
クロスイージス
亞 斗夢(BNE003144)
クリミナルスタア
尖月・零(BNE003152)
プロアデプト
エリエリ・L・裁谷(BNE003177)
マグメイガス
イリアス・レオンハルト(BNE003199)
スターサジタリー
堀・静瑠(BNE003216)
クリミナルスタア
ジルベルト・ディ・ヴィスコンティ(BNE003227)
スターサジタリー
蛇目 愛美(BNE003231)
ホーリーメイガス
クレイグ・キリアン(BNE003237)
クリミナルスタア
三芳・琥珀(BNE003280)
クリミナルスタア
山県 昌斗(BNE003333)
インヤンマスター
天仙院・樟葉(BNE003340)
デュランダル
明神 冬吾(BNE003344)
マグメイガス
明神 火流真(BNE003346)
ホーリーメイガス
明神 禾那香(BNE003348)
ホーリーメイガス
如月・真人(BNE003358)
ダークナイト
皐月丸 禍津(BNE003414)
ダークナイト
ベアトリクス・フォン・ハルトマン(BNE003433)
ダークナイト
十七夜 明(BNE003446)
ダークナイト
逢坂 黄泉路(BNE003449)
ダークナイト
蓬莱 惟(BNE003468)
クリミナルスタア
キャロライン・レッドストーン(BNE003473)
ダークナイト
藤宮・セリア(BNE003482)
スターサジタリー
アルメリア・アーミテージ(BNE003516)
覇界闘士
ジョニー・オートン(BNE003528)
ダークナイト
朝町 美伊奈(BNE003548)
ソードミラージュ
柳・梨音(BNE003551)
ナイトクリーク
蛇穴 タヱ(BNE003574)
ナイトクリーク
風間 小太郎(BNE003579)
スターサジタリー
風芽丘 L 真(BNE003580)
ホーリーメイガス
御厨・忌避(BNE003590)
デュランダル
御厨・妹(BNE003592)
ナイトクリーク
霧崎 瑛莉(BNE003634)
プロアデプト
御厨 麻奈(BNE003642)
クリミナルスタア
入江 省一(BNE003644)
ホーリーメイガス
鈴木 楽(BNE003657)
ダークナイト
霧島・撫那(BNE003666)
デュランダル
手榴弾・はまち(BNE003687)
プロアデプト
山田中 修一(BNE003693)
プロアデプト
山田中 修二(BNE003694)
クロスイージス
拙者・琢磨(BNE003701)
プロアデプト
夢咲 りりか(BNE003747)
レイザータクト
ユイト・ウィン・オルランド(BNE003784)
デュランダル
サヴェイジ・D・ブラッド(BNE003789)
レイザータクト
朱鴉・詩人(BNE003814)
スターサジタリー
靖邦・Z・翔護(BNE003820)
スターサジタリー
街野・イド(BNE003880)
レイザータクト
プラチナ・ナイトレイ(BNE003885)
レイザータクト
御厨・幸蓮(BNE003916)
覇界闘士
アリア・オブ・バッテンベルグ(BNE003918)
デュランダル
ルー・ガルー(BNE003931)
クリミナルスタア
藤倉 隆明(BNE003933)
レイザータクト
★MVP
文珠四郎 寿々貴(BNE003936)
デュランダル
奏世 枇(BNE003945)
インヤンマスター
建城 遊菜(BNE003950)
ナイトクリーク
ロアン・シュヴァイヤー(BNE003963)
ホーリーメイガス
麗月 瑠輝斗(BNE003967)
ソードミラージュ
闇影 紅麗(BNE003968)
ホーリーメイガス
ナターリャ・ヴェジェルニコフ(BNE003972)
ソードミラージュ
メリア・ノスワルト(BNE003979)
スターサジタリー
砕軌 紅瑠(BNE003981)
覇界闘士
レイニード・フォルセニア(BNE003982)
デュランダル
鳳 蘭月(BNE003990)
レイザータクト
葉月 忍(BNE003994)
デュランダル
月見里 紗奈(BNE003995)
スターサジタリー
葛城 瑠璃(BNE003996)
クロスイージス
アルフレッド・ナイツ(BNE004007)
ナイトクリーク
明治 アスト(BNE004010)
プロアデプト
鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)
デュランダル
小日向 五織(BNE004020)
インヤンマスター
斑 玄吾(BNE004030)
スターサジタリー
アリシア・ミスティ・リターナ(BNE004031)
ソードミラージュ
鹿毛・E・ロウ(BNE004035)
クロスイージス
城島 譲治(BNE004037)
デュランダル
狭間 逸平(BNE004050)
クリミナルスタア
セシル・クロード・カミュ(BNE004055)
プロアデプト
カルベロ・ヴィルチェーノ(BNE004057)
レイザータクト
クリームヒルト・シュピーゲル(BNE004069)
   

●インターミッション
 ラ・ル・カーナ橋頭堡。
 リベリスタ組織アークが、異世界ラ・ル・カーナにおける活動の拠点として、あるいはラ・ル・カーナからボトムチャンネルへの侵攻に対する防衛施設として設置されたものだ。建設されたのはほんの数か月前の出来事だが、その期間に様々な戦いの中心部となった。
 バイデンの襲来とそこからの敗走、復讐戦。
 一度はバイデンに奪われながらも、アークの元へと戻ってきた橋頭堡。
 そして今、そこを攻めるのは暴走する世界樹エクスィスによって狂化された怪物たちである。
 全てはかつてボトムチャンネルにおいて、ナイトメアダウンを引き起こした、アークの仇敵『R-TYPE』の出現に端を発する。
 ラ・ル・カーナ橋頭堡は、まさにその真価を試される時が来たのである。

●BATTLE/対変異巨獣・砦内‐1
 オォォォォォォォォォォォ
  オォォォォォォォォォォォ
   オォォォォォォォォォォォ

 ラ・ル・カーナ橋頭堡の周囲に集まって来た狂化変異体が、不気味な唸り声を上げる。
 巨獣達の姿はボトムチャンネルに棲まう動植物と、大小の差はあれ、本来それ程の差は無い。しかし、それもつい先日までの話。突然変異を起こした巨獣達は、その姿を様々に変異させていた。
 地を駆ける狼のような巨獣の体毛は刃と化していた。
 空を飛ぶ鳥のような巨獣の全身は、無数の眼球が浮かんでいた。
 トリケラトプスのような姿の巨獣は意味の無い頭を複数生やしていた。
 そうした奇々怪々な姿の巨獣は、大地を覆い尽くさんばかりの群れとなって橋頭堡へと迫り来る。しかし、ここまでは計算通り。リベリスタの囮部隊とエウリスを始めとするフュリエ達によって誘導されたもの達だ。そして、世界樹へと向かっていったリベリスタ達が作戦を遂行するためには、ここに集めた敵を殲滅しなくてはいけない。ここからは、橋頭堡を守るリベリスタ達の番だ。
「アレだけの数を相手に、馬鹿正直に戦っても無駄に怪我をするだけだな」
 カルベロは薄く笑うと、橋頭堡に設置された対巨獣用発射台の引き金を握る。
「この戦場を掌握し、私の戦いの狼煙としよう」
 轟っと空を割き、放たれた弾丸が巨獣の群れの中に突っ込んでいく。さすがにこれだけの数がいて、これだけの大きさがあるのだ。巨獣相手に狙いを付ける必要は無い。
「獣共、そう簡単に儂らの砦を破れると思うな! 韮崎の、いや、ラ・ル・カーナの平和は儂らが守る!」
 そして、発射台からの攻撃を合図とし、シャーク韮崎の言葉と共に、リベリスタからの攻撃が開始される。
「ハッハア! いいわねいいわね、最高だわあ。この赤錆びた荒野、血の匂い!」
 キャロラインは上機嫌そうにリボルバーから弾丸をばら撒く。「捕食者」の名を持つ銃から放たれた弾丸は、巨獣に喰いつき、その名に恥じぬ威力を見せる。
「昔に戻るよう……とりあえず、思う存分撃たせてもらうわよ!」
 何かから解放されたかのように、引き金を引き続けるトリガーハッピー。西部劇にでも出てきそうな姿をしているが、彼女に似合うのはむしろ悪党の役どころだろう。
 この戦場の中で零は想う。
 初めて見る異世界の、それも今にも崩壊しそうな姿。
 それを眺める自分の胸が高鳴るのは、畏れ故か高揚故か。
 しかし、そこで首を振ると、思索を断ち切る。今、重要なのは感情の正体を掴むことではない。
「やるべき事は一つ、『この世界を終わらせない』事だ!」
 誇りを胸に見得を切ると、零も迫る巨獣の群れに弾丸を撃つ。
 激しく舞い上がる砂煙。
 橋頭堡の防壁の上から巨獣に対して射撃攻撃を試みるリベリスタ達。容赦の無い攻撃だ。もちろん、この程度で済むなどとは思っていない。相手は幾度と無くアークを苦しめた巨獣。それも世界樹の暴走によって強化、いや、『狂化』されているのだから。
「初めて来たけど随分大変なことになっているのね、ラ・ル・カーナって。砂埃もすごい舞ってるし、嫌ね~」
 風で髪の毛に纏わりつく砂が気になる。
 静瑠は鬱陶しげに髪をかき上げた。アークに戻ってきて久しぶりの実戦がこれでは、割に合わない。
「早く片付けてシャワー浴びた~い」
 と、言いながらその視線は変異体がいるだろう砂煙から切らない。
「オォォォォォォォォォ!」
 聞こえてきた巨獣の吠え声に対して、静瑠はスナイパーライフルの引き金を引く。
「この子達をサクっとやっつけて水浴びしよっと♪」
 明るく銃を撃つ静瑠の横で、カインとラシャの姉妹は真剣な面持ちで、巨獣達への迎撃を行っていた。
「どうしてこうなった? 何があった!?」
 カインの問いに答える巨獣等いはしない。あえて言うのなら、彼らの上げる声が苦悶の叫びに聞こえたのは、答えと取ることも出来ようか。
「姉もどんどん変異体撃ち落としてやれ-!」
 ラシャの声がカインを現実へと引き戻す。彼女のようにナイトメアダウンによって人生を歪められたものにとって、目の前の光景はあまりにも強烈な光景だ。あの日のことを思い出さずにはいられない。どんなに心で否定しても、魂に刻まれた傷が疼くのだ。
「他所の世界の事ばかりと思って楽観視していた部分があったが、『R-TYPE』がここまで影響してるとなると放置できないな」
 おそらく琥珀の想いは少なからぬリベリスタにとって共通のものと言えるだろう。何を偉そうに言った所で所詮は自分達と違う世界。いざとなればボトムチャンネルに帰れば済む話であり、そもそも不要な介入をする必要も無い。
 だが、目の前の景色はそう言ったことを言っていられる状況でないことを再認識させる。
 橋頭堡を獲物と定めた巨獣達は、次々とやって来る。
 初撃を浴びたはずの巨獣達ですら、歩を進めるものが少なくないのだ。
 ここで世界樹になんらかの対処を施さなければ、『閉じない大穴』を通じて、やってくる危険性もある。
 何よりもこの状況をどうこう出来ないようでは、『R-TYPE』が再びボトムチャンネルへ降り立った時にどうするというのか。そういう意味においても、この状況はチャンスでもあるのだ。
「時村室長も熱くなるわけだ」
 普段は軽薄な雰囲気を漂わせている、あの戦略司令室長が――個人的な感情があるにせよ――キャラに合わない台詞を吐くのも当然と言えるだろう。
 そんなことを思いながら、琥珀はリボルバーで狼のような獣の頭を撃ち抜く。狼はそれで動きを止めた。
 しかし、巨獣達の進軍は止まらない。死した獣を足場として、なおも橋頭堡へと迫り来る。
 以前の戦いでバイデンが襲来した時と同じだ。
 巨獣を利用した作戦は、バイデンという種族が10余年という短い歳月の中で生み出した、恐るべき戦法だった。様々な巨獣の個性を適材適所に配置し、ある時は突破に、ある時は攪乱にと自由自在に使いこなす。
 だからこそ、バイデンとの再戦を予期したリベリスタ達は、それに即した防衛施設を設置した。よもやこんな形で使うことになるとは思わなかったが、あるべきものは最大限有効活用しなくては。
 そして、一番最初に辿り着いた、象の頭を持つ翼竜は堀の先に立つ2つの影を目にする。
「貴女が来てくれるなら自分のテンション倍プッシュ!」
「ふっふっふーのふー。今宵は貴女と私でダブルステイシーと言う事で」
「「ダブルステイシー参上」」
「ってねぇん♪」
 現れたのはそれぞれ機械と不死、異形の肉体を持つクロスイージス、ステイシー・スペイシーとステイシィ・M・ステイシスだ。それぞれの武器から放たれた、その異形に合わない十字の光に引き寄せられ、巨獣は走る。
 その時、地面が崩れる。そして、その先にある巨大な杭が獣を容赦無く貫く。
 用意していた罠が上手く行ったことで、リベリスタ達は快哉の声を上げ、士気を高める。
「今の獣は本来ならこの世界で生を謳歌していたのだろう。この世界は緑豊かな土地だったのだろう。だが、今はこのような有様だ……」
 だが、キャプテン・ガガーリンの目に浮かぶのは涙。
 目の前に広がる光景の全てが、彼に滅びゆくボトムチャンネルの姿を連想させる。そして、世界を救えない自分の無力を苛むように思えるのだ。
 それでも、立ち止まるわけには行かない。
 ラ・ル・カーナの崩界がボトムチャンネルに与える影響が分からない以上、自分の背中には守るべき蒼い星があるのだ。
「見えるか、異世界の者よ! これが地球(テラ)の蒼さ、地球(テラ)の輝き! キャプテン・ガガーリン、いざ参る!」
 また、橋頭堡に仕掛けられた罠は単純に相手を害するためだけのものではない。
 相手の進軍速度を下げるため、あるいは相手を別の場所に誘導するために「見せる罠」というのも存在する。本来の運用とはやや変わってしまったが、いずれも野戦では有効に働く機能だ。
「可愛いフュリエの皆のためだもの、ワタシも頑張るわよ」
 物見櫓の上から降り注ぐ矢の雨が巨獣達を追い立てる。
 放ったのはアルメリアだ。
 「どっちもいける」彼女にとって、この世界に住むフュリエ達は守るべき友であり、愛でるべき宝。それを思えば、やる気も湧いてくるというものだ。
「さぁ、こっちでゴザル!」
 筋骨隆々の肉体で華麗に飛び回り、敵を引き付けるジョニー。
 それを追いかけるのは大型の草食獣を思わせる巨獣達だ。
 ジョニーも大柄な部類に属するが、さすがにこれと比べれば小さく見えてしまうのもやむなし。気付けば取り囲まれ、絶体絶命のピンチに見える。
 しかし、彼の顔から余裕の笑みは消えない。
「今回は拙者一人での行動。しかし、皆一生懸命戦ってるのでゴザル。拙者は決して独りではない!」
 ニカッと笑い、構えるジョニー。
 巨獣達は唸り声と共に襲い掛かろうとし……自分達の足場に棘付きのワイヤーが張られているのに気付く。巨獣のサイズに合わせてあり、これではダメージ云々以前に自由な攻撃が出来ない。
 そして、動きを止めるのは、この戦いにあって致命的過ぎる隙だった。
「喰らえ!」
 魔力の弾丸が巨獣を穿つ。先ほどまで発射台の手伝いをしていた菜々美のものだ。
 ある程度、あちらに余裕が出来たので支援に来たのである。
「上位世界がこんなでは、安心して蕎麦を啜れないじゃない? だから異世界まで手伝いにやってきたのよ。私に出来る事を粛々とこなす……それは当然、でもね」
 そこで言葉を切る立ち食いのプロ。
「世界が壊れゆく運命……それは受け入れるつもり……ないの!」
 再び放たれた弾丸が巨獣の身体を揺るがす。
「俺も負けられないな。行くぞ、化け物! ハァっ!」
 赤い防御服に身を包んだ青年――鉄平――は全身の膂力を爆発させて剣を叩きつける。
「いや、何だ。仕事は仕事、分かっちゃいるがね……なんともまあ、常識離れしたもんだ」
 巨獣達に猛烈な痛撃を浴びせるリベリスタ達を眺めながら、ジェイドはぼやきながら銃を撃つ。相手は馬鹿みたいにでかい巨獣。狙うはその眼。
「馬鹿みたいにでけえ怪物の相手とは、雇われ稼業は辛いねえ」
 そんなことを言いながらも着実に怪我を与える辺り、ジェイド・I・キタムラの真骨頂と言えようか。
 苦悶の声を上げて倒れる巨獣。これでこの一帯にやって来た巨獣は動きを止めた。
 だが、所詮は第一陣を片しただけに過ぎない。すぐに第二第三陣がやって来るだろう。
 それを思い、支援を行っていた2人のリベリスタは巨獣が迫り来る荒野を睨む。
「私達の世界をこんな風にはさせない。ラ・ル・カーナも護ってみせる……!」
 遠子は誓う、牙を剥く神秘には決して屈しないと。
「しかしまあ、この光景たまんないね。神秘の塊じゃねぇのよ」
 詩人は哂う、その神秘すら呑み込んでみせると。
 まだ、橋頭堡の戦いは始まったばかりであった。

●BATTLE/対変異バイデン・砦内‐1
 東から来る変異巨獣を迎え撃つ一方で、西から迫る変異バイデンを迎え撃つリベリスタの部隊も激闘の最中にあった。彼らが相対するのは百鬼夜行の狂化バイデン。誇り高き戦士の心も体も壊れて捻じ曲がってしまったもの達だ。
 その様は鬼哭啾啾と評することも出来ようか。人の形を残しているものの、あり得ない部位にあり得ない器官を生やし、とても以前戦った誇り高い戦士達と同じ存在だとは思えない。
「『R-TYPE』……たった一睨みでこれだけの事を起こす。強大だね」
 堀を前に与作は迫るバイデンを眺める。
 ちなみに、堀に水は随分とへってしまった。干上がっていないのは救いといった所か。
 与作と同じくTEAM【R】として動くレイからは普段の無表情に合わない怒りを瞳に湛えている。彼女もまた、ナイトメアダウンの被害者だ。
「過去は返らない。死人は戻らない。……それでも、未来はある。この世界を踏みにじって良い道理など、無い。今、私達が出来る事をやりましょう」
 近くの岩を叩き砕き、闘志を露わにするレイ。
「……大丈夫ですよ。自分は復讐のためにリベリスタになった訳じゃァありません。親父殿の守った世界を引き継いで守る。ソレが自分の目的でありますし」
 ただ、少しぐらい怒ってもいいよね、お父さん。
 心の中で亡き父に問いかけるノア。復讐で父が喜ぶとは彼女も思っていない。だが、この怒りは自分自身のものだ。
 そんな彼女らを見て、与作はへらっと笑う。
「ああそうそう、それとね。この間見つけた良い店、予約しておいたからさ。これが終わったら、祝勝会だ」
 だから、必ず勝とう。
 無言で誓う。
 『R-TYPE』が憎いから戦うのではない。『R-TYPE』を倒さなくてはいけないから戦うのだ。
 であれば、こんな所で死ぬわけには行かない。
 与作の言葉にブリリアントはニヤリと笑う。
「TEAM R-TYPE、戦闘要員が筆頭! 石川ブリリアント! 推して参る!」
 思い切り大声で名乗りを上げると、巨大な自分の得物を手に、砦に取りつこうとするバイデンを迎え撃ちに行くのだった。
「やっほー! それじゃ皆、準備はいーい? スコープ越しのにっくいアンチクショウ! 撃ちまくり大パーティ開☆演でーっす!」
「ひ弱ですが、やらせていただきます」
 監視塔の上からメリュジーヌと枇がそれぞれライフルと銃火器をぶっ放す。
 頭は冷静に、いつだってクールに、そして銃口は大胆に。
 メリュジーヌの矜持である。
 枇だって、自分が未熟なリベリスタだと知っているが、こんな大きな戦いで逃げるわけには行かない。
「異界といえども正義と裁きは等しく降り注ぐのです! 私の手で! そう、私の手で!」
 アルティは全身の魔力を循環させ、蓄えた魔力を聖なる光として輝かせる。悪しき魂を焼き尽くす浄化の光だ。
 世界を破壊しようとする存在、それに捕らわれた存在。そこに善悪はないという人もいるかも知れないが、そんなことは無い。世界を破壊しようとする意志、それ以上に分かりやすい邪悪など存在するものか。ならば、アルティが手を抜く理由など存在しない。
 もちろん、この場にいる全てのリベリスタが勇気と信念を持ち、誇り高く戦っているわけではなかった。如月真人や禊萩ぽぷらもそうした1人である。もっとも、まだまだローティーンの少年少女に、それを求めることは些か酷と言えるだろうが。
「やらないといけないのはわかってますし、やる気はありますけど。ヤッパリバイデン怖いですよー! 変異して怖さ倍増ですー!」
「殴られたら死んじゃう、殴られたら死んじゃう、殴られたら死んじゃう……!」
 バイデンは近接攻撃を主とすると聞いていたが、聞くと観るでは大違い。
 口から炎を吹くようになったバイデン、全身から生えた棘を撃ち出すバイデン。さらには巨獣の骨を利用した弓矢を持つものまでいる。
 だからと言って、縮こまってはいられない。隠れるのに都合良さそうな物陰をチラ見しつつ、真人は仲間を癒すための詠唱を紡ぐ。
 自分が戦うことで誰かを救うことが出来るなら。ぽぷらも無理矢理勇気を振り絞り、仲間からもらった小さな翼を羽ばたかせる。
 並みのバイデンなら、驚いた後に追いかけただろう。
 長生きしたバイデンなら、相手の策を警戒しつつ追いかけただろう。
 しかし、狂化したバイデンは無策に追いかける。
 変異した自分達の肉体を過信しているのか、そもそもそんなことを考える知性すら残っていないのか。そして、そんな彼らを橋頭堡周辺に仕掛けられた罠が捕える。しかし、そこで終わらせるほど、リベリスタ達も甘くは無い。
「正義の味方は負けないよ!」
 斗夢の叫びと共に、発射台から弾丸が降り注ぐ。バイデンサイズを狙うために作られたわけではないが、場のかく乱としては十分過ぎる。
「こっちに来ると危ないぜ!」
「まずは出鼻を挫いてやる」
 耕太郎と真の矢がバイデン達の行く手を阻み、罠に向かって誘導する。
「帝国さいきょの九九式狙撃銃で狙いうちゅ」
 冥華の九九式狙撃銃から光の弾丸が煌めき、スバルの召喚した魔炎がバイデン達を焼く。
 だが、まだバイデンは押し寄せてくる。こうして、砦から多少打って出るだけでは、あの大地の色すら変える雲霞のごとき敵を削ることは出来ない。狂える世界樹の僕達は、いずれ屍を積み上げて砦を破るだろう。
 その時、誰かのアクセス・ファンタズムが音を上げる。
 時間が来たのだ。
 もう1つの作戦、ある意味では橋頭堡という戦場で要となる作戦の開始時間が来た。
「まだまだですよ、皆さん頑張っていきましょう!」
 スバルは声高らかに、味方に向かって声を張り上げた。

●BATTLE/対変異巨獣・外‐1
「ひぃぃ、怖いのじゃああ。こんな老骨を戦場に引っ張り出すとはお主等鬼か!? もうちょっと、敬老精神っちゅー物をじゃなあ……」
 橋頭堡の、まだ敵が来ていない一角で御布団翁は布団の中でぐずっていた。登校前の小学生だって、もう少し潔いだろう。
「五月蠅い。そもそも、若者が死地に赴くのは勘弁ならんとか普段から言っていたのはそっちだろう」
「というか、普段から死ぬ覚悟だけはばっちり出来てる癖に今更喚くな。程度が知れるぞ、御布団翁。俺達より若い奴が何人命を張ってると思ってる」
 トリストラムとイリアスは手加減抜きに、布団を蹴っ飛ばす。
 既にこういうものだと分かっているのだろう。
 そんな漫才ともじゃれ合いとも取れるやり取りに、雪菜はおずおずと口を挟む。
「……ええ、と。もう砦のあちらこちらで戦闘は始まっているのですし、いい加減いつもの調子で居るのは不味いかと思いますよ、皆様方?」
 そう、戦いが始まって既に数刻が経っている。まだ砦の防衛が破られたわけではないが、囮が引き付けてくれた変異体の数、世界樹を目指して進む魔神蟲。今のままの戦況が進むと、不利なのはリベリスタ達の方だ。そこで、彼ら総勢70人近い機動部隊は敵戦力の後背を突くべく、出陣しようとしているのだ。
 このようにぐずつくのも仕方……。
「たしかに。戦いになる以上、何時でも覚悟は出来ておる」
 弁護の言葉など必要なかった。先ほどまで怯えていた老人は忽然と姿を消している。
 そこにいるのは、若者のために命を捨てることも厭わない威厳ある老兵。
 それを見て、彼らは互いに笑みを交し合う。
「身命を賭して、この場の勝利を得てやるさ」
 イリアスは翁の肩を叩く。
「……視界確保、行くぞ」
 トリストラムはフュリエの1人に開門の指示を飛ばす。すると、ギィッと音を立てて地獄への扉が開かれる。砦の防衛に比べると、間違いなく危険度の高い任務なのだ。
 地獄の門には「ここに入るもの一切の望みを棄てよ」と刻まれているのだという。
 しかし、出撃するリベリスタ達の表情に一切の悲壮感は無い。
 望みを捨てずとも良い、などと楽観視しているから……ではない。
 望みはこの手で掴むものだと知っているからだ。

(初めての戦い。……怖い)
 変異巨獣の姿を目にした忍の足が震える。
 巨獣殲滅に向かった機動部隊が、巨獣を視認する。
 そして、近くに迫ると巨獣の与える圧迫感は並々ならないものだった。
「でもボクを守ってくれる人たちが居る。だから精一杯、ボクも頑張る!」
 グリモワールの存在を手で確かめると、忍は仲間に対して、防御動作の共有を行う。このような状況でこそ、レイザータクトは真価を発揮する。
「前衛が盾となり戦い、後衛がそれを支援する。基本的なことだが、基本的なことだけに大切なことだ」
 そして、その基本を完璧にこなせば勝てる。
 それは絶対の真理であり、やれれば世話は無いという必勝法。
 だが、それを目指すのは戦士として当然のこと。
 明はその身に闇を纏うと、切り込んでいく。
「アイヤー! 獣にやられる程、ワタシの功夫は甘くないよ!」
 美楼も飛んでくる球体状に絡んだ茨のような姿の怪物が放つ茨の鞭を躱しながら、代わりに掌打を返してやる。敵の攻撃も鋭く、全てを避け切れる訳ではない。しかし、全てを食らってやるわけにもいかない。
「神の御許に速達で送ります!」
 凛香も負けじと巨獣の足を狙い、鋭い蹴りを繰り出す。
 そして、敵もさるもの、引っ掻くもの。
 足を引きずりながら近寄るリベリスタ達に、倒れ込むように踏みつぶしを行う。
 傷つくリベリスタ達。
 そんな時、戦場に似合わないサックスの音色が高らかに響き渡る。
 ジャズだけではない。古今東西を問わず、ジャズからアニソンまで様々な曲が繰り広げられる。
 奏でているのは楓だ。その音色は癒しの福音となって傷ついたリベリスタ達の傷を回復する。
(音楽による癒しや文化の大切さを伝えたいなって……いや、まぁぶっちゃけ、ただ俺が演奏したいだけなんだけどな)
 そこで強固な自己主張をしないのは、奥ゆかしさなのかなんなのか。そもそもこんな形で演奏している段階で、自己主張の塊であるとも言える。
 体勢を立て直したリベリスタ達の再攻撃の合図は、ユイトの投げる神秘の閃光弾だ。既に昼とも夜ともしれない景色になってしまったラ・ル・カーナを、光が染めて昼に変える。
「異世界も暫くぶりだけど、世界もでっかい連中も随分と様変わりしてるな」
「初陣が異世界とは、なんだか僕の本義がすっこけておりますが」
 自虐的な笑みを浮かべる『必殺特殊清掃人』であるロウ。
「しかしこれを制さねば次は我らの愛しき底辺世界も危うい。かもしれない。ヒッサツ特掃、推して参りますよ!」
 本来の仕事はエリューションの掃除だが、今はこだわってはいられない。仕事と言うのはそういうものだ。魔力を帯びた剣に幻影が重なり、巨獣を襲う。
「ああ、初陣がこれですか。頼むから急所に当たって。当たれ!」
 傷ついた肉食獣めいた巨獣の目にあばたの気糸が突き刺さる。刺された巨獣は悲鳴を上げてのた打ち回り、それを後からやって来た象のような巨獣が踏み潰す。相手に連携や協力と言う概念は無い。その意味でも、リベリスタ達にとって有利な要素は決して少なくない。
 しかし、そんな景色も見ようによっては醜悪なものにしか見えない。
「ヒィ! 異世界ってファンタジーなイメージだったっすけど、何か洒落になんない事になってるすよ」
 そもそもピチピチのアニメTシャツ姿と言う、ファンタジーにあるまじき姿で怯える琢磨。彼にとってファンタジー世界とはエルフ娘やら獣娘が普通に存在しえる世界なのだろう。
『お兄ちゃんしっかりして! ここを何とかしなきゃ私達の世界も危なくなるかもしれないよ!』
 その時、傍にいる可愛らしい妹、アガタが優しく琢磨を励ます。そう、琢磨はクロスイージス。自分のために戦うために力を出せるわけではない。誰かを護るためにこそ、力を振るう戦士なのだ! ……たとえ、それが脳内妹であったとしても。
「ア、アガたん……そうっすね。何とか、するっす!」
 勇気を取り戻した琢磨は、仲間に癒しの力を振りまくために走り出す。
「例え……1人で……成し遂げることは……出来なくても……皆で協力し合えば……きっと……戦える」
 若干10歳の少年であるが、小太郎は臆さず戦場を駆ける。大きく跳躍をし、伸ばした影で巨獣の頭部を狙う。変異体には強力な再生能力を持つ者もいた。だが、互いに同士討ちを行うため、有効に働いてはいない。そこに付け込んで、さらに傷の回復を遅らせる。
「『風魔』の名を……継ぐものとして……戦場を風の如く……駆ける……のみ」
「限界まで戦って、ラ・ルカーナを守るよ!」
 同じ巨獣に対してさらに影が重なる。それは巨獣の判断を鈍らせる。
 その隙を突いて、せいるは素早く斬撃を繰り出す。
「その様子だとこっちを痛くすることは出来ないかな……? でも、こっちは痛くしてアゲルから……」
 動けない巨獣をセリアの赤く染まった蛇腹剣が切り刻む。
 砦に籠っていた方が安全なのだろうが、今回の戦場ではそんなことも言っていられない。タイムリミットはかけられてしまっているのだ。加えて言えば、そんなことより何よりも、防御を固めて待つなど、セリアの性に合わなかった。
 ここに集まったリベリスタには、そんなものが多いのかも知れない。
「スーパーサトミパワージャスティススマッシュ!」
 そして、滅多切りにされた巨獣は、最後に慧美、もとい『スーパーサトミ』が大上段から振り下ろした鉄槌で動きを止める。
「この世界が終るなんて天が許してもこのスーパーサトミは許しません! これがヒーローの戦い方です!!」
 高らかに宣言する彼女の視線の先には、橋頭堡目指してひた走る巨獣達の姿があった。
「押し寄せる敵を正面から当たり、打ち砕く。非常に英雄らしい状況ではないか?」
 その様を目にしたアーゼルハイドは、口元に楽しそうな笑みを浮かべる。
 しかし、変異した野獣の群れ、あれは少々いただけない。知性も強者の風格もなく、破壊し蹂躙するだけの存在。それは英雄にぶつけるには少々物足りない
「俺の善意は貴重だぞ? しっかり受け取れリベリスタ達。喜べ、無粋な巨獣達。英雄に相応しくないお前達も炎に沈めば等しく灰だ!」
 活性化した体内の魔力を用いて、巨獣達に炎を襲い掛からせるアーゼルハイド。
 その炎は戦いが新たな局面に入りつつあることを告げるかのように、獣達に咆哮を上げさせるのだった。

●BATTLE/対変異バイデン・外‐1
 足元で苦悶の表情を浮かべる半人半馬の姿のバイデンを雪は悲しげに見つめる。
(彼らは強き戦士だったと思う。強者と戦う事は武芸者にとって何よりの資産。例えそれが自らを失った狂気の存在であっても。私は性質は問わない。強者であれば討ち果たして糧としよう)
 死にかけるバイデンにトドメを刺すと、多数の幻影を展開し、バイデンの群れの中に飛び込んでいく。
「強さに貴賎なし。参る」
 新たな目標目指して向かうリベリスタ達の道を照らすように、火流真の炎が爆発する。
「敵は全部ぶっ飛ばす! オレの火が燃え続ける限り!」
「フォローは任せてくれ。戦線が存在する限り維持してみせる」
 火流真が壊し、禾那香が癒す。明神の双子兄弟は抜群のコンビネーションで、リベリスタの道を開く。
「ちょっとした間に随分立派になってまぁ……アニキとしては、負けてられないよな?」
 ちょっと離れた場所で、弟妹の姿を見ていた冬吾の心に火が点く。
「明神家長男、明神冬吾。男一匹、いざ見参ってな!」
 全身に闘気を漲らせ、冬吾は走る。
 兄貴である以上、無様な格好を見せる訳にはいかない。
「どけよ、化物! 明神さんちのお兄さんを舐めるんじゃねぇぞ!」
 全身のエネルギーを長剣に込めて、変異バイデン目掛けて振り下ろす。
 動かなくなる変異バイデン。だが、まだ敵は無数にいる。
 それを見てプルリアが興奮したように叫ぶ。
「バイデンワイルド! きっと何もかもがBIG! 大きな体でワタシ達に乱暴する気でしょう!? エロ同人みたいに! エロ同人みたいに! オーイエス、カモォォン!」
 過去に何か嫌な記憶でもあるのか。
 実際問題、バイデンの姿は見ている間にも変化、成長を遂げている。顔から手を生やすもの、足が無意味に肥大化するもの、役に立たない触手を生やすもの、顔が獣のそれに変わるもの、様々なものがおり、同じものは1人としていない。それを思えば、エログロを売りとする作品に出てくるようなものが紛れていてもおかしくは無い。
 むしろ、そういう冗談でも言っていないとやっていられない、ということもあろうか。
「パパから貰ったこの銃で、アナタのHeartをBREAK!」
 語尾に星マークでも付きそうな発音と共に、プルリアが放ったウィンチェスターライフルで、バイデンの心臓を撃ち抜く。そして、動きの止まった所で、アストの足から伸びた影が頭部を粉砕する。
(これは私と別世界の物語。だけど、一緒に居る皆は私の世界の人達です。彼らの為になら、戦える)
 異世界の事情に首を突っ込みたくなるのは人情だろが、その義理は無い。しかし、少なくともこの世界を救うために戦うリベリスタはいる。だから、そのためにアストは戦う。
 弾除けになればなれれば、という想いで立った戦場だが、過酷さは予想以上だった。
 如何に変異したとは言え、一部の超狂化変異したものを除けば、バイデンは人型を保っている。そして、機動部隊が都合よく砦の施設を利用できる可能性は低い。もし、砦側が注意を引き付けていなければ、より大きな被害が出ていただろう。
 その中で1人でも多くの仲間を、そしてこの世界を救うため、玄吾は傷ついた仲間の元へと駆け寄る。僧侶である彼にとって、そのようなことは当然のことだ。
「この老いぼれ、皆が生き抜く為に、この身を尽くしましょう!」
「みんな凄く殺気立ってて怖いです~。でも、みんなを癒さなきゃ!」
 あまりに激しい戦場の中で、メーコは自分の雰囲気が浮いているような気分に陥る。そりゃ、普段は三高平でパン屋を営んでいるのだ。ファンタジー世界に迷い込んだパン屋等、冗談にしかならない。ドラゴンの炎でパンを焼いている暇など無いのだ。
 しかし、彼女の癒しの唄は確かに仲間の傷を癒し、再び戦う力を与える。
「よし、まだ戦えるな。それにしても死に意味を求める……か。今のあいつらは見るに堪えねぇ」
 立ち上がる蘭月に対して、霊刀「断罪」が語りかける。
(同情は良いが、傷ついた言い訳にはならぬ。迷うでないぞ?)
「分かっているさ。終わらせてやる」
 決意を胸に蘭月は血路を開き、ひた走る。
 その時、仲間の回復を行っていた沙希は、あるバイデンに対して向き直る。
 彼女の前に立つのは、2対と1本の腕を生やして修羅の形相を浮かべるバイデン。以前会った時と姿は違う。だが、間違いない。運命の加護はこの出会いを引き寄せたのだ。
(久し振り、ゲルン。覚えてる?)
 沙希は念話を送る。元より返事など期待していない。
 ただ、伝えたかった。この変異体の元となったバイデンに、復讐を叶えるチャンスが巡ってきたことを。
(貴方がどうなろうと汐崎沙希は貴方の誇りを忘れはしない。さあ、始めましょう? 貴方が勝ったら私の胸を引き裂いて勝利の美酒に酔うと良い!)

●インターミッション/砦内
 刻一刻と時間が進むにつれ、次第にリベリスタ達にも疲労の色が見られるようになってきた。もちろん、入れ替わり補給は行っている。しかし、変異体達が攻めてくる感覚は次第に縮まり、休息の時間は減ってきているのだ。囮作戦が上手く行っている、と言いたいところだが、一概に喜んでもいられない。
 兵舎の中で愛美がぼやく。
「全く……なんて妬ましいのかしら。私達の人数はコレだけだというのに、あちらは世界樹がある限りいくらでも生まれるというのに。数を頼りに物量作戦だなんて、余りにもあちらに有利で……そう、本当に、なんて妬ましいのかしら」
 愛美の言葉はそう的を外していない。敵の数は圧倒的だ。機動部隊の活躍で次第に数を減じつつあるが、まだまだ変異体の数が尽きたわけではなく、状況は予断を許さない。
 そんな愛美の怪我をフュリエの1人、アルティナが癒す。
「これで、大丈夫です」
 以前の彼女なら既に逃げ出しているだろう。いや、そもそも橋頭堡に来たかどうかすら疑わしい。これもラ・ル・カーナにもたらされた変化のお陰だ。他にも多数のフュリエがリベリスタと共に戦っている。
 そうしたフュリエ達の姿を見て、セシルは納得する。たしかにこれは人手が足りない訳だ。現地住人であるフュリエの協力があってすら、敵は多い。
(生憎と本件は私にとって命を張れるヤマじゃあないのよ。あしからず)
 だから、今の内にしっかり休んでおこうと軽く目を閉じる。どうせまた、しばらくすればあの変異バイデンを相手に出かけなくてはいけないのだ。
 そんな所へ樟葉が傷ついた仲間を抱えて戻ってくる。
「よもや残滓とは言え、再びあの災厄に出遭うてしまうとは……。やれやれ……因果な事よ」
 樟葉としては、因縁浅からぬ『R-TYPE』。叶うなら自身の手でどうにかしたい所だが、ナイトメアダウンの際に負った傷で十分に動け無い身としては、それも叶わない。
「みんな、大変!」
 その時だった。
 見張り台に立っていたフュリエ、アーニェとウルルがあらん限りの声で叫ぶ。寿々貴の要請で見張り台で監視を行っていた者たちだ。
 言われてリベリスタが目をやったのは、南西から近づいてくる『蟲』の方だ。見ると、周囲の変異体を焼きながら、危険な距離にまで接近していた。どうやら、それ程休ませてはくれないようだ。現在、外で変異体と戦う機動部隊とは別に編成された機動部隊が覚悟を決めて出撃しようとした時だった。
「「オォォォォォォォォォォォォォ!!!」」
 『蟲』が迫る南西から雄叫びが聞えてくる。
 声の主はバイデン、それは現在砦を攻めに来ているものとは別口の、変異していないバイデンだ。おそらくは、運良く変異を免れ、運悪くプリンスと行動を共に出来なかった者たちなのだろう。
 彼らの雄叫びは歌だ。
 己を鼓舞し、戦いに向かう戦士を讃える歌だ。
 そして、その歌は死を前にした戦いで、一層の迫力を以って謳われた。
 リベリスタの救援に来たわけではあるまい。よく見れば、軽度の変異が始まっているものもいる。自分達のタイムリミットを感じ取り、近くにいる、最も強い敵を求めた結果だろう。
「早く助けに行かなきゃ!」
 セリーナとマーニェが駆け出す。向かう先は南西の戦場。橋頭堡に来る前は、バイデンへの憎しみを隠そうともしなかった2人だ。このほんのわずかな間に何があったのだろうか?
(どうしてフュリエ達は変わらないのかしら? それとも、ここにいる子達はもう『変わった』のかしら?)
 そんな疑問が藍の頭をよぎる。種族として変異への耐性が強かった、というのも理由だろう。だが、それだけだろうかと思ってしまう。と、そこで首を振って疑問を打ち消す。
 今はそんなことを考えている場合じゃない。
「治療が終わりました!」
 フュリエの薬師、キュラフがリベリスタ達に報告する。どうやら、最後の戦いに向けてリベリスタ達の準備は整ったようだ。
 命を賭ける時ではない、命を懸ける時が来た。
 そして、ラ・ル・カーナ橋頭堡決戦、最終局面が始まる。
 リベリスタ、フュリエ、バイデン、それぞれの運命を飲み込んで。

●BATTLE/対変異バイデン・砦内‐2
 いつになったら、この戦いは終わるのか。
 砦を守るリベリスタ達は、迫り来る変異バイデンの群れを前に、自分達が永遠に戦っているのではないかと言う錯覚に囚われる。
「ギャギャーギャ、ギャーギャー!」
 襲い来るバイデンの首をチェーンソーで切り落としてご満悦のリザードマン。
 一方、コボルドは悲鳴を上げている。
「どうしてこうなったんスか! オレはただちょっと火事場ドロ……じゃなくて物品の回収に来ただけなのに! こんなガチな戦に巻き込まれるとか聞いてないっすよ!」
 コボルドの嘆きもごもっともな話だ。「ラ・ル・カーナの神秘を捨て置けない(棒読み)」からここに来たというのに、終わりの見えない激闘。オマケにどんどん死の匂いは濃厚になっている。そして、一緒につるんでいる【戦火隊】の仲間達はそれぞれにちゃっかり楽しんでいる。
「ブッヒヒ、お嬢ちゃン達は特等席よ?」
 傷ついたフュリエを抱え、自前の4WDに乗せるオーク。エルフ娘をオークが抱えている絵面ってのは一体どーなんだか。
 そこに襲い掛かる変異バイデン。
「不完全世界不健全世界の住人のお通りだ! どきやがれ!」
 オークは大きく見得を切ると、バイデンに向かってフィンガーバレットをぶちかます。
「変異する前に戦いたかったが、こうなったら仕方ねぇよなっ!!」
 逸平は全身の闘気を雷気に変え、バイデンを切り伏せる。
 元々、喧嘩に明け暮れていた彼にとって、バイデンのメンタリティは決して嫌いなものではなかった。意地の張り合いで無い戦いなら、一刻も早く終わらせてやるだけだ。
「ふむ。総力戦だな。獲物は多勢、不安が残る所だが、ここで退いては父祖の血に顔向けが出来ぬ、か」
 狩るべき相手であるかは定かでないが、少なくとも強敵なのは事実。サヴェイジは大仰にマントを翻す。すると、そこから現れた暗黒の瘴気がバイデンを襲う。
「……良かろう。悪食公の牙を受けるが良い」
 リベリスタとバイデンが血で血を洗う光景を眺めて、戦いの中で傷ついた【天守】の少女達はそれぞれに思う。
(完全世界。きっと幸せだったんだと思う。きっと、この世界の幸せの『塔』は、本当に高くて、堅固だったんだわ……それを、壊した。今も、壊してる)
 美伊奈風にラ・ル・カーナを塔に見立てるのなら、それは永遠不変のもの。決して変わる事無く、されどいつまでも存在し続けていたのだろう。しかし、最早崩れゆくさまを止めることは出来ない。
(所詮よその世界。助ける義理は無いし。だけど……)
 梨音は知っている。
 『R-TYPE』がこの世界に対して、行ったこと。
 それは暴力だ。
 かつての自分達に訪れた、あの災厄と同じ。
「腹が立つじゃないですか! 一方的で理不尽でほんとうに腹が立つじゃないですか!」
 エリエリの叫びは、3人の心の中に根付いた根源的な怒りの噴出。
 そう、だから目の前で起きる「異世界の危機」を放っておくことは出来ない。
「ここは俺に任せろ! てめぇらは後ろから支援してくれ!」
 そんな3人にユートは声を掛けると、やって来たバイデンの攻撃を受け流す。変異によって通常の人体からも、神秘の人体からも予測不能な一撃を繰り出してくる。だが、防御に徹すれば捌けない攻撃ではない。何よりも、子供を守っている以上、倒れるわけには行かない。
「私の攻撃が通用しないなら盾にでもなんでもなればいい。それでも黙って見てる事は出来ないのよ、自分の居場所がなくなるって、本当に辛い事なんだから!」
 瑛莉の想いも似たようなものだ。
 かつて大事なものを奪われた経験のある彼女にとって、それが如何に辛いものであるかはよく分かる。だからこそ、奪わせない、壊させない。
 そんな2人の後ろから撫那は現れる。
 闇の力を操るダークナイトが姑息、卑怯と呼ばれて気にする訳が無い。
「変異したバイデン達はどんな気持ちなのかしら。外から押し付けられた悪意は、捻じ曲げられた心は……ふふ、ゾクゾクしますわね!」
 昏い喜びを胸に、その悪意そのものとも言える暗闇にバイデン達を引きずり込む撫那。
 そこに今度は、天使の歌が聞こえてくる。
「戦ってくださる皆様が倒れないように支えますから、皆様頑張って下さいませ」
 そういうナターリャ自身も全身ボロボロだ。満身創痍と言っても良い。
 おそらく、まだ戦えるのは、運命の加護を得たからに過ぎない。
 いや、それは彼女に限った話ではない。
 戦場のあちらこちらで、リベリスタ達が傷ついている。フュリエがフィアキィによって回復を行っても、まだ足りない。だから、リベリスタ達は迷わず運命の加護を掴み取る。
 そして、【荒狼】のメンバーが立ち上がり、罠地帯に追い込んだバイデンを攻撃しようとした時だ。
 ザザッ
 アクセス・ファンタズムから通信が入る。
『こちら対バイデン機動部隊……聞こえますか? 砦に向かっているバイデンは後わずか。繰り替えす、砦に向かっているバイデンは後わずか!』
『こちらは、対魔神蟲機動部隊ですわあ。この虫けら、タフと言うか……やはりそう簡単に止まってくれませんわね。砦の皆さん、気を付けて!』
 良い知らせと悪い知らせが1つずつ。まさにそういう状態だ。
 だが、紅瑠は仲間達に向かって笑顔を浮かべる。
「難しい事はよく分からないけど……この世界が見ている悪夢を終わらせてやろうよ……皆でさ!」
 紅麗はレイピアを構えて、残った変異バイデンのいる方向を睨む。
「まだ未来が決まったわけじゃない……行こう……ラルカーナを救う為に……」
「凄く怖いけど、私もこの世界を救いたい……!」
 人見知りであるはずの瑠輝斗も、強く自分の想いを、自分の願いを口にする。
「迷う必要なんかねぇよな。やれる事をやるだけだ!」
 レイニードは既に、手持ちのアクセス・ファンタズムにある周辺地図のデータから、自分達の向かうべき戦場を導き出している。
 しかし、残った変異バイデン達も一層勢いを増して襲い掛かってくる。そして、一際大きな1体が壁に張り付いた。張り出すパイクで全身を貫かれているのを、意にも介さない。
「ここに、侵入させは、しない。絶対、入らせない」
「僕らはここで死ぬ訳にはいきません。生きるべき世界がありますから」
 ジズとオリガ、それぞれの手の中で組み上げられた4色×2の魔光が巨大バイデンの身体を貫く。すると、巨大バイデンは壁に張り付いたままに動きを止める。
「行くよ!」
 そこに有紗が渾身の力を込めて、構えた無名の大剣を振り下ろす。
「グォォォォォォォォ!」
 巨大バイデンは断末魔の悲鳴を上げて、地面へと落ちていく。
「そしてさようなら。戦いを求めた者の末路達」
 悲しげな表情で落ちて行ったバイデンに哀悼の意を表する有紗。
 思わず、これで全てが終わったように思ってしまう。
 だが、まだ終わっていない。変異バイデンが尽きたわけではないのだ。そして、彼女が別の場所の防衛に向かおうとした時だった。
「ニャニャ時の方向から蟲が接近中だニャ!」
 遊菜ののん気な声が聞こえる。
 状況が大き過ぎて、彼女はどうにも現実感が掴めず、こんな声になってしまう。
 だが、その後、彼女の口から出る言葉はそれこそ現実感の無い景色の説明をする。
「蟲が砦に突っ込んできたニャ!」

●BATTLE/対変異巨獣・砦内‐2
 城壁を破壊した『蟲』は、動きを止める。
 死んだわけではない。身体に刺さった杭などの影響で、動きが取れなくなってしまったのだ。当然の結果だろう。そもそも、砦の周辺には最強の巨獣グレート・バイデンすら止めようと、様々な罠が張られていたのだから。
 だが、『蟲』にしてみれば、こんな状況を甘んじて受け入れるわけには行かない。
 リベリスタとバイデンが、それぞれ攻撃を仕掛けてきているのだ。
 そこで、周囲に炎を放つ。
 『蟲』は砦を破壊することで、自由になろうとしている。まずい展開だ。すなわちそれは、迫り来る変異体達と戦う武器を奪われることになるのだから。
「初陣からハード過ぎやしないかな。真似るのは得意だけど、だからといって戦力には程遠いんだよね」
 クリームヒルトは自嘲気味にひとりごちる。あの化け物、何てことをしてくれるんだ。幸い変異バイデンは数を減じているせいか入ってこないが、大きな蜘蛛に似た巨獣を始めとして、多くの巨獣達が崩れた砦の隙間から入ろうとしている。
「まあ……ここで死んでも、惜しくはないさ」
 仮面で恐怖すら心の底に沈め、真空の刃で蜘蛛を狙う。
「世界の終焉なんて洒落にならん話やね……。袖すり合うも多生の縁……たまたまお隣さんになったこの世界やけど、困ってる人等がおるんやったら頑張らせて貰いますぅ」
 宗助は守護結界を展開させると、近くのフュリエ達に今の攻撃で怪我したものを後ろに下げるよう、手早く支持を飛ばす。元がたい焼き屋の主人なお陰か、大した手際である。
「……クス。壮観ね。世界を終わらせる暴力の嵐……懐かしい感じね。規模は違うけれど……あの日のベルリンを思い出すわ」
 監視塔の上からこの景色を眺めて、フランツィスカが思い出すのは、あの日のベルリン。
 あの景色は、幼かった彼女にとって世界の終りそのものだった。
 今、目の前で行われているものとの違いは、それが自分の世界であるか否か。そういう意味では、ここで自分が戦う必要は無い。だけど、ほんの少しだけ、目の前で失われるものが惜しいのも事実。
「さあ、優雅に審判の日を踊りましょう?」
「細工はキャッシュ、あとは仕上げをパニッシュ☆ ……語呂悪いな」
 フランツィスカと翔護の得物から解き放たれた弾丸は、砦の目前まで迫っていた巨獣を撃ち払う。
 そして、そこに追撃を入れるべく、【獣同盟】のルヴィアと杏子は砦の中から応戦する。
「世界の危機だろうが何だろうが、仕事が出来ればそれでいーのさぁ。さあ、全部纏めて蜂の巣にしてやんよ!」
「ルヴィアさん楽しそうですねぇ……私もお仕事と参りましょう。さぁ、私の奏でる旋律で美しく踊ってくださいませ」
 ルヴィアの放った矢が流星のように巨獣達を貫き、生き残った相手に杏子の魔弾がトドメを刺す。まだ敵は尽きないが、進軍を止めるには十分だ。そうすれば、体勢を立て直す余裕が出来る。立て直せば、反撃に移れる。
「こういうのの相手は苦手なんだけどね……ここが正念場、僕も可能性に賭けるよ」
 縁は崩れた瓦礫の中を駆け抜ける。
 こうした遮蔽が多い場所となれば、彼にとっては慣れたもの。状況は芳しくないが、全ての状況がマイナスになった訳ではない。要はやりようだ。
「私のマジックショーにこんなにたくさんの方が集まってくださるとは、なかなかに感慨深いものがありますね」
 冗談めかした口調で口上を述べる楽。
 彼にかかれば過酷な戦場も、華やかなショーに変わる。
「イッツ・ショータイム!」
 彼のスキル、いや手品が始まると華やかな音楽が流れ、リベリスタ達の傷を癒す。まだまだ勝負はこれからだ。
 さすがに、「バイデンとの戦闘」というデータを元に作り直されたラ・ル・カーナ橋頭堡は堅牢であった。
 スパイクウォールは予想以上に持ちこたえ、『蟲』の行く手を阻んでいる。
 フュリエからの回復もあり、リベリスタ達は少しずつ巨獣を押し返していく。
 しかし、これだけの激戦だ。犠牲は止めようも無い。倒れたリベリスタ達は、運命の加護の力を借りて無理矢理立ち上がる。まるで何かに駆り立てられるかのように。
 そう、これは『R-TYPE』と呼ばれる、『神』への叛逆だ。
 運命の力を借りて、過酷な運命を与えたものに挑む。それこそがリベリスタ達の姿だった。
 しかし、その戦いについていけないものもいる。そう、元よりラ・ル・カーナの住人であるが故に、運命の恩寵を得ていない、フュリエ達だ。「勇気」を得たが故に、彼女らは今までの分を取り戻すかの如く巨獣に戦いを挑み、そして散ってゆく。
 人は「知恵」を得て楽園から追放された。
 フュリエにとっては、それが「勇気」だったのかも知れない。
 それでも、回り出した車輪はもう止まらない。終着へと向かって走り続けるしかないのだ。
「よし、やったよ!」
 1人のフュリエが弓矢で、鳥のような巨獣の眼球を貫く。
 しかし、彼女は巨獣の生命力を甘く見ていた。
「ギャオォォォォ!」
「え?」
 かわす暇も無かった。
 気付く暇さえ与えられなかった。
 断末魔を上げながら巨獣は、その嘴で少女の心臓を貫く。彼女は悲鳴すら上げず、人形のように防壁の上から落ちていく。
「お前達なんかぁぁぁぁぁ!」
 ラルアがフィアキィに命じて炎の弾丸を飛ばす。彼女の目に、かつての怯えは無い。
 仲間を殺した敵を倒すため、全力で蓄えた力を振るう。
 そして、それがトドメとなって、鳥型巨獣も落ちて行った。
「怒り、嘆き、悲しみ、苦しみ。概念は理解できますが、実感できません。学習を継続します。戦闘を継続します」
 イドは淡々とアームキャノンの狙いをつけ、射撃する。
 狙う、撃つ。
 狙う、撃つ。
 狙う、撃つ。
 狙う、撃つ。
 その単純な繰り返し。
 だが、それで良いのだろう。もし、彼女が感情を実感していたら、これ以上戦い続けることが出来ていたかは分からない。
「いやー全く、ラ・ル・カーナは地獄だぜー、ふははははー」
 過酷な戦場を笑い飛ばすかのように、文音は笑ってみる。
 だが、現実は変わらない。
 それどころか、また別の犀型巨獣が城壁を破ろうとして、パイクに突き刺さっている。
 それをすぐさま仲間に伝える文音。
「あっちにいるよー」
「ヒロインとしてはちょっとパッとしないけど、背に腹は変えられない。いっくよー!」
 発射台からりりかが狙い撃つ。
 正義の魔法少女としてそれはどうなんだ、と自分でも思わないではない。
 それでも、誰も救えないよりは、この世界を見殺しにするよりは遥かにマシだ。
「この世界は明日の地球かも知れない……そして、襲い掛かってくる彼らは明日のわたくしかも知れない……」
 尽きない巨獣の群れを前に、紅葉の心は折れそうになる。
 世界樹の生み出す怪物は無数にいるが、それに比べて自分達は圧倒的に少ない。
「だから、この世界を救って見せます。どんなに小さな力でも……きっと、集まれば大きな力になるから」
 それでも、まだ負けない。
 数が多いだけの強い力よりも、1つにまとまった弱い力の方がきっと強いと信じているから。
 紅葉の放つ魔光が、迫る巨獣の動きを封じる。
「うむ! 世界は違っても、生きる命に代わりはないのじゃ! その為に、わらわも戦うのじゃ!」
 リベリスタ達の行いは、ただのおせっかいかも知れない。だが、しぐれがここで救うと決めたのは自分がやりたいからだ。やりたいと決めた以上、誰にも止めさせはしない。我が儘と言えば我が儘な理屈。だが、それゆえにその力は強い。
 動きの止まった巨獣達に向かって、冷たい雨が降り注ぐ。
 しぐれの降らせた呪力の雨だ。
 世界樹が涙を流している。
 ふと滸玲はそんなことを思った。
 しかし、涙で世界は癒せない。
 だから、自分が癒そう。
 彼女の詠唱はいつも通り。落ち着き払った詠唱で、傷ついた仲間達を的確に回復していく。。
「この世界、割と気に入ってたんだけどね……残念ながら過去形だけど
 ずぶ濡れになって、寿々貴は呟く。
 もはや、かつて訪れた時に見たラ・ル・カーナの景色は消えてしまった。
 目の前の世界と同じ世界であるかどうかすら疑わしい。
「けど、過去形を更に過去形にできるかもって言うじゃない? ちょっとやってみる? って思うよね」
 誰にともなく呟き、まだまだ迫る巨獣を睨む。
 外に向かった仲間達はきっと戻ってくる。
 だから、まだ負けられない。
「そう言えば、自己紹介が遅れたね、異世界の動物諸君」
 シャーヒーンは雄々しく、巨獣の群れに向かって立つ。
 そして、礼儀正しく一礼すると、全身から流れる血を拭おうともせず、名乗りを上げる。
「砂漠の鷹、シャーヒーンだ。では行くとしようか」
 1人でも戦えるものがいるなら、リベリスタ達は負けていない。

●BATTLE/対変異バイデン・外‐2
「これほどの大規模戦闘は岡山以来だな」
 全身に返り血を浴びて、黄泉路は笑う。
 この程度のものは戦化粧のようなもの。
「さぁて、そろそろゴールも見えてきた。まだどれだけ鍛錬を積んだか確かめ足りないんだ。行くぜ!」
 斬射刃弓「輪廻」を構え、変異バイデンの群れに黄泉路は暗黒の矢を放つ。
 対バイデン機動部隊は優勢に戦いを進めていた。
 真っ向からの勝負とは言い難い。機動力を利用して、不意打ちを掛けているようなものなのだから。
 しかし、作戦としては有効で、着実に変異バイデンは数を減らして行った。
「敵は後わずかですが、士気は下がっていないようですね。行きます」
 玲香は全身のギアを上げて、先にいる変異バイデンに向かっていく。
「変異バイデン食い放題か? へ、面白くなってきたじゃねぇか……」
 譲治は左腕の調子を確認すると、満足げに笑う。
「だからこそ、こういう仕事はやめられないんだ。生憎、俺はこの世界に何か思うことがあったりするわけじゃないが、仕事はきっちりやらさせてもらうぜ……!」
 譲治を含めたチーム【スピリタス】の面々は、この激闘の最中にあっても妙に楽しそうだ。
「敵は厄介だけど、皆、必ず生きて戻ろう。戻ったらまた【スピリタス】の面子で一杯やろう。隆明が奢ってくれるらしいよ!」
「おい!」
 バイデンに影をけしかけながら、ロアンは冗談を口にする。この場所が既に、飲み会の会場であるかのように。隆明のツッコミなど無視だ。
「ああ、それにしてもいいチーム名だな。これぞ酒好き! っていうかほぼアルコールだしな。連中にその名前通り一発カマしてやろうじゃないか!」
 アリシアの言う通り、スピリタスは世界最高のアルコール度数の酒だ。
 それを思えば、彼女の派手に呪いの弾丸をばら撒く戦い方はふさわしいものに思えてくる。
「……しょうがねぇな、とっておきの酒を振舞ってやんよ。だから、死ぬんじゃねぇぞ皆。OK、やってやろうぜ!」
「応!」
 隆明が酒の約束をすると、全員が一斉に返事をして、一層の勢いで戦い始める。現金なものだ。目の前に人参を見せられた馬、と言ってもいいのかも知れない。
 その勢いで隆明はやって来た変異バイデンの後背に回ると、素早く喉を掻っ切る。
「しねよやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 派手に血が噴き出る。
 赤い血だ。
 それを見て、夜見は想う。
 あぁ、あのような姿でも血の色は同じかと。
「神か悪魔か、異世界に現れたその異形、断ち切る」
 小太刀に全身の力を込めて吹き飛ばす。自分の仕事は道を開くこと。
 そして、敵がまとまった所へ向かい、踊るように切りかかるあるな。
「あるなさんは、あまくねーっ!」
 切り伏せられていく変異バイデン。しかし、彼らとて元々強靭な生命力を持つバイデンだ。その程度で死にはしない。うち一匹が、イカのような触手に変じた左腕を伸ばし、あるなを絡め取ろうとする。
「邪魔だッ。ちぇすとーっ!」
 そこへ瞬時に割り込み、朋彦は変異バイデンの腕を叩き切る。
 対バイデン機動部隊の戦いは優勢に進み、外に残るバイデンも後わずかだ。だからこそ、油断は出来ない。AFから聞こえる情報に従えば、まだ橋頭堡の危機は去っていないのだ。
 しかし、そんな戦いの中で、橋頭堡の無事もラ・ル・カーナの行方も関係無しに戦う騎士、いや戦士がいた。
 惟だ。
 そして、惟の前に立つのは変異バイデン。
 既に全身はぼろぼろに傷ついている。強化し狂化されたバイデンの再生能力にも限界が来ているのか。
 それはかつて、ラ・ル・カーナ橋頭堡に襲撃を掛け、アークの捕虜になるという稀有な体験をしたバイデン、ゲルンだったものだ。その精神が如何なる在り様なのか、沙希にも断片でしか感じられない。
 そして、バイデンと戦ったことで、惟は騎士とは真逆で、それでも強い力を知った。しかし、自分はあり方を変えられないから、変わろうとするバイデンが眩しかった。
 その未練を断ち切るために、この戦場へと立った。
「ガァァァァァァァァァ!!」
「誓いに反したこの精神が燃え尽きる前に、その因果を割断する――ッ」
 唸り声を上げて組んだ2対の拳を振り下ろすバイデン。
 受け切れないことを悟った惟は、防御を捨ててその懐へ飛び込む。
 交錯する2つの影。
 そして、バイデンの背中から突き出た黒銀の剣「冥界の女王」が、勝利者が誰だったのかを告げる。
 惟は剣を引く抜くと、橋頭堡に歩を進める。
「大事な友達の世界を……帰ってくる場所を守るためにもあーしもがんばるよっ」
 望は変異バイデンに死の刻印を刻む。さすらいものだからこそ、変える場所の大切さは誰よりもよく知っている。
 橋頭堡の前で変異バイデンと交戦する機動部隊。
 既に防壁の上から攻撃する仲間の姿は見えている。中にはこちらに飛んできて、サムズアップをする者までいる始末だ。だが、100里を行くものは90を半ばとする。死力を尽くして、残った敵へと攻撃を開始するリベリスタ。
「この筋肉のテカリで……この光で……浄化してやりましょうぞ!」
 バイデンにも劣らぬ肉体美から、豪蔵、もとい「魔法少女ジャスティスレイン」は光を放つ。あの日、かわした約束は彼の中に未だ強く根付いている。彼女のためにも、アークのリベリスタを死なせるわけには行かない。だから、持てる力の全てを尽くす。
「それでは射抜きましょう……意思亡き者を……」
 場にそぐわぬゴスロリ衣装のまま、エレーナは近寄るバイデンに気糸を撃ち込んでいく。
 如何に数が多くとも、一歩ずつ進めばいつかは終わりが来る。リベリスタの戦いによって、一部でまだ増えてはいるものの、囮が誘導した変異バイデンは姿を消す。
 だが、まだ終わっていない。
 大物がまだ控えている。
 朋彦は琥珀色の木刀を握り直す。
「世界の結末を決める一戦。負ければ世界が終わる決戦。勝つよ。それだけだ」

●BATTLE/対変異巨獣・外‐2
 ラ・ル・カーナ橋頭堡対巨獣機動部隊。
 長ったらしい名前になるが、詰る所は橋頭堡の外で並み居る巨獣と戦う部隊だ。
 巨獣はタフで多様な能力を持っている、強敵だ。
 だが、せっかくのおぜん立ては揃っている。加えて、先ほど入った通信を聞く限り、橋頭堡南西の戦場は苦戦しているらしい。早く救援に向かうためにも、負けるわけには行かない。
 だが、彼らが戦う理由はそれだけではない。
 このボトムチャンネルとは異なる世界に、「私怨」で戦うものもあった。
「……『R-TYPE』。うちの人生狂わせたヤツ。まさか他所様んちにまで迷惑かけてるとはねぇ……」
 そう、ナイトメアダウンを引き起こした、最悪のミラーミスである。ラ・ル・カーナの危機に大きな影響を与えているのは周知の通りだが、それが現れたとあってははぜり同様、怒りを抱くものは少なくないだろう。
 と、そこではぜりは笑顔を作って、自分の周囲に彫刻刀を配置する。
「なーんて。やだねー、こんなんでイライラとかうちらしくもない」
 次の敵に向かうタイミングだ。ここで感情に任せて、隙を作るなどあってはならない。もっとも、目は笑っていないが。
「にひひ、下手なテッポも数撃ちゃ当たるってね!」
 はぜりが巨獣の群れに向かって呪印彫刻刀を投げたのが合図となり、何度目かの戦端は開かれた。
「フュリエ、ナカマ。ナカマ、マモル、トウゼン!」
 伝説のベルセルクの如く巨獣に向かって爪を振るうのはルーだ。
 北欧の自然の中で育った彼女にしてみると、フュリエの生き方と言うのは親近感を感じるのだろうか。だから、仲間を助けるために必死で爪を振る。
 紗奈もまた、魔力を帯びた剣に自分の力を込めて振り抜く。
 傷は深い。
 慣れない実戦、それも大規模戦闘と言うこともあり、少なからぬ怪我を受けている。
 巨獣と言う強敵の相手に機動部隊の面々の怪我と疲労は大きい。如何に隙を突く戦いでも、強大な相手である以上、一筋縄ではいかないものだ。
 それでも、出来ることはまだある。
「今です!」
「主よ、御手もて引かせ給え」
 瑠璃は祈りと共に弓を引き絞る。
 ラ・ル・カーナもかつての自分のように、『R-TYPE』による危機に晒されている。これ以上、自分のようなものを増やしたくないという彼女の願いは、光となって巨獣を貫く。
 そんな女性の姿にクレイグの心は燃える。
「女性がこんな殺風景な場所で散るとかないでしょう」
 普段はゆるい男だが、女性のためなら命を懸けられる男だ。
 砦の外という危険地帯に向かった女性がいる。
 フュリエ達も勇気を振り絞って戦うことを決意した。
 これは彼にとって、十分過ぎる程の戦う理由だ。
 既にリベリスタ達はそれぞれ何匹の巨獣を屠ったのだろうか? まともに数えている者はおるまい。それだけの戦いを経れば、満身創痍に陥ろうというものである。よくよく見ればクレイグ自身の傷もひどいが、仲間の回復を優先させている。
 だが、そんな彼らの戦いも終着点が見えてきた。橋頭堡だ。
 多くの巨獣に阻まれて断言できないが、地図から言って間違いない。そして何より、炎によって赤々と照らされている様は、連絡に合った通りだ。
「異世界連中との喧嘩だからって、遠慮はいらねぇぞ!」
 咬兵は激励の声を上げると、目の前の狼風の獣に突っ込んでいく。
「せやね。鬼の時より、なんちゅーか、めっさキモ怖いわ」
 珠緒の正直な感想ではある。
 変異体はますます異形を増し、元はボトムチャンネルの動物に似ていたものも、原形をとどめなくなっている。
「けど、やる気振り絞って来たんや! ビビってばっかいられんわな! さぁ、気合入れて歌うで! 気持ちから負けたら始まらんからな!」
 だが、残る敵は後わずか。疲労も激しいが、気持ちだけは負けていられない。
 同じように強い気持ちを胸に、プラチナは神秘の閃光弾を投げつける。
 巨獣達が動きを止める。
(私に足りないのは愛だ、絶対的な愛)
 プラチナは想う。愛しいあの人のことを。
 せめて巨獣を少しでも倒し、せめて蟲に傷でも付ければ私の事に気づいて貰えるかも知れない。
 そのためだったら、命を燃やし尽くそうとも決して惜しくは無い。
「そこのツーテール! アタシの清姫の中に入っとけ!」
「あたし、お姉ちゃんだからさ、これでも。きょうだいに、まもられるわけにはいかないよ」
 【天守】の姉妹であるタエの制止は聞かず、足が生えたクジラのような巨獣「ジラジラ」に向かってはまちは掌打を浴びせる。ゲル状の巨獣がプルンと揺れる。
「デストローイ!」
 そんな姉に対して、タエはイラついた様子で前に出る。
「こんなこと、金にならネェってのに……。でも、家族が体張ってるのに震えて見てらんねェよ!」
 自分の防御を信じて、はまちの前に立つタエ。
 その絆を巨獣に打ち砕けるはずはない。
「やれやれ、久しぶりにアークから招集がかかったと思ったら異世界での決戦ですか。まあ、いいでしょう。仕事は仕事です」
 省一は眼帯を外すと、リズムを取りながら華麗なフットワークでトリケラトプス風の巨獣に接近する。
「どこが戦場になろうとも、私がやれることをするだけ。簡単なことです」
 血の掟を自分に刻み込むと、省一は強烈な拳を巨獣の脚に見舞う。それだけで倒れるとは思えないが、確実な打撃で体力を削って行く。
「全く、異界だというのになんでこうも殺伐と死が溢れてるんだろうね」
 リベリスタと巨獣が戦いを繰り広げる荒野を眺め、紗夜は嘆息をつく。
「まぁ……この異界を守らないと私達の世界も危ないかも知れないんだよね? なら、私達の世界を守るため……私は此処でも悪魔になるよ」
 世界を守るための悪魔へと変じた紗夜は笑みを浮かべ、巨獣に対してデスサイズを振るう。
 紫電のオーラと共に、捨て身の一撃が炸裂する。
 そこに空からグジドリと呼ばれる不気味な鳥に似た巨獣が飛来する。
 だが、飛べないリベリスタだけで構成するような、画竜点睛を欠くリベリスタではなかった。
「たまには妹の分まで働かないと、アークに怒られちゃうもんねー」
 空を舞ったマルグリットは、巨大な鎌をグジドリに対して振り下ろす。
 思い切り地面に叩きつけられ、黄色い液体をまき散らすグジドリ。
「まだよくわかんないけど、こいつら倒さないとフュリエの皆困るんでしょ?」
 比翼子の手の中で、剣が躍る。
 1本の剣を素早く動かしているようにも見えるし、実際2本の剣を持っているようにも見える。
「世界一つの危機とあっては仕方ないな! あたしも本気を出してやろう!」
 疲れ切った身体に鞭を打って、ギアをトップに引き上げる。
 翼を広げて逃げようとするグジドリ。
 しかし、間に合うはずも無い。
 空を蹴りゆく手を阻むと、1人と1羽の影が交錯する。
 そして、巨獣が起き上がることは無かった。
 大地に降りた比翼子が周囲を見渡すと、先刻までラ・ル・カーナ橋頭堡を覆い尽くしていた変異体の姿は無くなっていた。
 リベリスタ達が倒したのだ。
 と、鬨の声を上げようとした時、アクセス・ファンタズムから声が聞こえる。南西の『蟲』と戦う部隊からだ。
 変異バイデンと戦っていた機動部隊が合流し、状況は持ち直したようだ。しかし、さすがに並みの巨獣など比較にもならないタフネスを持つ戦車のような相手だ。そう簡単には倒れてくれないらしい。
 それを聞いて、リベリスタ達は顔を見合わせると、急いで南西に向かう。
 狂った世界の狂った戦いを終わらせるために。

●BATTLE/対魔神蟲
 この景色を見たものが連想するだろう言葉。
 それは分かりやすく「世界最後の日」だろう。
 全てが炎に包まれ。
 人と怪物が争い。
 そして、倒れていく。
 これほど、分かりやすい「世界最後の日」はあるまい。
 周辺を包む炎などは、まるで世界が燃え尽きようとしているかのようだ。
「でも、大切な世界と家族を、暖かい場所を守るためだ。なんとしてでも、倒してやる!」
 傷だらけの身体を引きずって、幸蓮は『蟲』に挑む。
 魔神蟲。
 その名をつけたのは、誰だったか。
 災禍をもたらす、神もしくは悪魔に等しい力を持つ、虫の集合体。
 暴走した世界樹が生み出した、この禍々しいものに、これ程ふさわしい名前はあるまい。
「それでも、ラ・ル・カーナの未来と、一緒に戦う仲間や家族のためにまいも戦うのです! ……フュリエたちの森も取り戻してあげたいです」
 妹の手に握られたチェーンソーが唸りを上げる。
 『蟲』の身体はほんのわずかでも削れたであろうか? 彼女の様を表現するのに「蟷螂の斧」という言葉がふさわしいのは、何の皮肉か。
 それでも妹は諦めない。何度でも何度でも切り付ける。
 そう、この場にいる誰1人として、勝利を諦めてはいなかった。
 今も多くのフュリエ達が『蟲』の力に焼かれ、貪り食われていっている。
 今もバイデン達は、変異体に変わり、互いに同士討ちをしている。
 それでも、だ。
 フュリエは得た勇気の限り、弓を引き絞り、癒しの力を振るう。
 バイデンは寛容を持って、フュリエの癒しを受け入れる。
 ここにはフュリエとバイデンも無かった。
 ボトムチャンネルとラ・ル・カーナの差も無かった。
 あるのは世界を飲み干そうとするものと、それに抗うもの、それだけだ。
「「グギャァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」」
 『蟲』が悲鳴を上げる。
 発射台から飛んできた弾丸が刺さったのだ。『蟲』が階位障壁を持たないことは、リベリスタ達にとって幸いだった。エリューション能力のみならず、人の培ってきた知恵を武器に出来るのだから。
 しかし、当の発射台にいる五織はおかんむりだ。
「くっそー、最初の晴れ舞台で俺だって世界樹と戦いたいのに!」
 世界樹への同行を許可されなかった五織。この攻撃は八つ当たりのようなものだ。
「けど、構わないんですけど! ここで功績を上げれば、戦いが終わった時にきっと皆この日向五織を心に刻んでくれるし!」
 ある意味ではポジティブと言えるのかもしれない。
 どんな感情であれ、目の前の怪物に対する恐怖を和らげる役に立つなら重畳だ。
「醜い悲鳴ですわね。でも、これ以上聞かずに済むようにして差し上げますわあ」
 クラリスは空へ羽ばたき、黒い光を帯びた槍で『蟲』に切りかかる。
「我が名はメリア・ノスワルト! 騎士の誓いの下にお前達を此処で討ち果たす!」
 名乗りと共にメリアが振るう剣が幻を帯びて『蟲』に突き刺さる。
 ここまで巨大だと、そう意味は無いのか。だからって、止める理由にはならない。美しい金髪がすす塗れになっているが、構わずに剣を振る。
「我が剣は勝利の為に! 未来を切り拓く為の剣だ、さあ、行くぞ。この決戦──勝たせて貰う!」
「世界を救う戦いなれば、正に聖戦也! 我が世界の、そして此の世界の神よ、照覧あれ!」
 祈りの言葉と共に、アルフレッドは聖なる光を帯びた刃を叩きつける。
 ほとんど効いているようには見えないが、自分の目の前に合った部位は崩れ落ちている。
 ならばそれは完全なものではない。世界樹だってそうだった。
 倒すことは可能なはずだ。
「「グギャァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」」
 しかし、そんなリベリスタ達をあざ笑うかのように、『蟲』は身を揺すると、周囲に炎をばら撒く。砦の壁が崩れ、リベリスタ達へ襲い来る。炎にまかれて膝をつくものもいる。耐久力に差があり過ぎる。
「禍々しい姿。恐るべき後詰ですね」
「洒落にならねーな。だが、世界樹に向かった奴らを思えば、こんな奴に負けるわけにはいかねーぜ!」
 だが、リベリスタ達には技術がある。
 戦うために、あるいは誰かを救うために培った技術が。
 修一と修二、双子の兄弟が近くにいるホーリーメイガスの精神力を回復させる。
 すると、戦場に癒しの福音が鳴り響いた。
「もうへばってんのかァ、兄ちゃんよォ? まだまだここからだぜ、本番は」
 ジルベルトはたまたま背中合わせになった少年、昌斗に声を掛ける。
「あ? 俺がへばってる? 目ぇ悪ぃのかオッサン。こんな楽しい喧嘩前にして休んでられるかよ」
 悪態をついた昌斗は、その場を離れると、『蟲』に素早く弾丸を叩き込んでいく。
 こんなぶち壊し甲斐のある奴を前に、おねんねなんかしていられない。
 そんな昌斗の姿にジルベルトはひゅうと口笛を吹くと、自分も二丁のリボルバーを構えて、『蟲』に突っ込んでいく。
「アンタ結構いい動きしてんな。俺様のファミリー入れてやってもいいぜ」
 笑顔、それも悪党の笑みを浮かべて昌斗を誘うジルベルト。
 自分達を覆い尽くすかのように存在する『蟲』など眼中にないかのようだ。
「は!俺に部下になれっつーのか? 面白ぇ奴だな。答えは……」
 昌斗はまっすぐ『蟲』を見据えて弾丸を放つ。
「糞食らえだ!」
「ハッ! いいな、そーゆーとこ! 気に入ったぜ! 話はこいつ倒してからだなァ!」
 ジルベルトも『蟲』に視線を戻し、引き金を引く。期せずして、抜群のコンビネーションになっていた。
 そんな潰しても潰しても退かない敵を相手に、『蟲』は恐怖を覚える。
 いい加減に自分はここを脱出できても良いはずなのに、この小さい者たちはそれをさせない。
 しかし、『蟲』にとっての真の恐怖はそこからだった。
「一斉攻撃だぁぁぁぁぁぁ!」
 鬨の声を上げたのは誰だったのだろうか。
 砦の外から、砦の内から、ラ・ル・カーナ橋頭堡に集った全てのリベリスタが姿を現わす。
 『蟲』の逃げ場は何処にも無い。
 そして、浴びせられる一斉攻撃。
 刃が、弾丸が、魔術が。
 あらゆる神秘のオンパレードだ。
 『蟲』が踏み潰そうとしても、屈さない。
 『蟲』が焼き払おうとしても、燃え尽きない。
 それを受けて、元から鈍かった『蟲』の動きが静かなものに変わって行くのを麻奈は感じた。
「今や! 呪殺頼むで!」
「失せよ邪悪なる魔獣! この世界はまもなく光を取り戻す! その世界にお前は不釣り合いだ!」
 麻奈の叫びに導かれるように、ベアトリクスの双槍が呪いを帯びて、『蟲』を貫く。
 数多くのリベリスタからの攻撃を増幅し、あり得ない威力で『蟲』を苦しめる。
 たとえ1つ1つは小さな力であろうと、それらを合わせれば巨大な邪悪にも打ち勝てる。
 ベアトリクスがアークに来て学んだことだ。
「アリア・オブ・バッテンベルグ。バッテンベルグ家の代表として、一リベリスタとして。力の限り、行かせてもらうのだ!」
 苦しむ『蟲』に向かってガントレットを突き出す。
 先ほど、アリアは相手からエネルギーをいただいた。
 十分とは言えないが、この一打を放つだけだったらこれでいい。
 『蟲』に対して間合いを詰めると、その衝撃を解き放つ。
 巨大な怪物と少女1人。
 持っている力の差は歴然。
 しかし、その時『蟲』の体が浮く。
 パイクが剥がれ、砦の壁から引き離されていく。
「アリアだって、戦える! そのために来た!」
 リベリスタ達はあり得ない光景を目にする。
 1人の少女が放った力で『蟲』は転倒し、地面へと叩きつけられたのだ。
 大地が揺れる。
 もうもうと土煙が上がり、リベリスタ達はお互いの顔も分からない。
 そして、煙が晴れた時、『蟲』が動かなくなったことを確信して、アリアは満面の笑顔でこう言った。
「アリアは貴族で天才だからな!」

 ラ・ル・カーナ橋頭堡の勝利だ。
 リベリスタ達から鬨の声が上がる。
 生き残ったフュリエ達は初めての勝利に歓喜の涙を流す。
 ぞれぞれが誰彼かまわずに、祝福の言葉を述べて、互いを讃え合う。
 そんな中、沙希は先ほどまで戦っていたバイデンの亡骸の前に向かう。
 他のバイデンの行方は分からない。生きているなら、リベリスタ達に襲い掛かってくるような気もするが、彼らとてそんな力すら残っていないのかも知れない。
(あの世で待っててね。また闘ってあげるし、次は酒杯も交わしましょう?)
 どれ程の命が失われたか分からない戦場で、沙希は敬意と慈愛を持って、死せる戦友を送るのだった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
『<世界を飲み干す者>完全世界が燃える日』にご参加いただきありがとうございました。
ラ・ル・カーナ橋頭堡決戦、如何だったでしょうか?

城壁の一部を破壊されながらも、何とか勝利。
一時はやばいかなーと思いましたが、橋頭堡は無事に勝利を収めました。
一部防壁が破壊されましたが、その他の施設は無事です。
フェイト使用を躊躇なく行っていたので、皆様の覚悟が掴んだ勝利と言えます。

MVPは文珠四郎・寿々貴さんに。
あなたのプレイングが無ければ、橋頭堡が陥落していた可能性が高いです。

それでは、ラ・ル・カーナ決戦は最終章へ。
一方その頃、世界樹では……。

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レアドロップ:『猛る獣の牙』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:蓬莱 惟(BNE003468)