● ――彼曰く、『アークは世界樹と対決する』 数日前に空に現れたのは巨大な眼球であった。その影響を受けたのはこの『完全世界』の主であり創造主たる『世界樹エクスィス』。 もはや『完全』でなくなった世界は崩れ始める。地面は罅割れ、水は干上がり、空は澱む。世界樹でさえもその暴走に身を任せてしまっていた。 憤怒から程遠い長耳の種はその形状を未だに保っていたが、跋扈する巨獣達も赤き蛮族達だって憤怒に飲まれ、本能が侭に姿を変え『怪物』となってしまった。其れを進化と言っていいものか――『狂った変異体』は生まれ続けている 其れは『無形の巨人』の足跡。彼の残した残滓が及ぼす世界への悪影響。その悪影響『のみ』を取り除ける方法があるなればこの世界を救う手立てになると『アーク』は予測した。 ラ・ル・カーナに存在した『忘却の石』を転用する。シェルンの能力も使い『R-typeの残滓』を消失させる。可能性でもいい、其れに賭ける。 別にこの世界を捨ておいても良かった。けれど、室長たる彼が下した結論は『救う』こと。アークの提案を苦渋の選択で選び取ったシェルン。 彼女らとリベリスタの連合軍は歩む。狂ってしまったモノを正常に戻すべく。 ――嗚呼、空を仰ぐ赤き蛮族は口元に笑みを浮かべる。嗚呼、強敵がいた。 別の三つの種は、其々の想いを湛えながら世界樹へと足を向けるのであった。 ● 鼻息荒く荒野を駆け巡るクジラの様な生物が居た。体は透き通った緑色。ゲル状の体からは鼻をつく匂いを放っていた。 「アイツラは赤色が好きなんだよ。だからボクは赤を纏う。解る? こっちに呼び寄せるんだ」 囮になる。おびき寄せ、戦いやすい場所――橋頭堡での殲滅活動のサポートを少女は買って出ていた。 罅割れた大地を踏みしめて一人のフュリエは淡い藍色の瞳を瞬かせる。勝気な長耳の少女は赤い布を広げて気色の悪いクジラの化け物へと向き直る。距離はあるものの奴らは既にフュリエ――アラザンの握りしめる赤い布に意識を向けた様で走り出そうとしていた。 「アイツラをキミ達の作ったきょ、きょうとうほ……? に連れて行こう。キミ達なら何とかしてくれるよね」 少女は背後を仰ぐ。彼女らの背後にそびえるのはアークのリベリスタらが作った拠点たるラ・ル・カーナ橋頭堡。その背後の濁った空の色に目を細めてアラザンは唇を噛み締めた。大好きな『おねえさま』の『大好きな世界』が崩れる事は彼女の眼から見ても明確であった。 「ボクらのセカイは余りにも簡単にバイバイしちゃうんだね」 「アラザン――?」 彼女らに影が被さった。ゆっくりと、ゆっくりと少女は空へと視線を向ける。彼女らの眼前には大きく嘴を開いた鳥――嗚呼、それも鳥とは言えない外見をしている。自我を失い彼女らを捕食しようとするその影。怯えの色を映しながらも少女は巨獣から眼を逸らさずに声を張る。 「――ねえ、リベリスタ。ボクに力を貸して。ボクは勇者だ。君達が教えてくれたんだ、一人では駄目だと」 胸に手を当てて、真っ直ぐにリベリスタへと望む。頷く異界の戦士に、アラザンは彼女の友人であるフュリエを仰ぎ見る。襲い来る巨獣に背を向けて、赤い布を翻す。 「走ろう。『ボク達の橋頭堡』まで。何、負けないよ。勇者は皆が居れば強いんでしょ?」 臆病で、けれど頑張り屋であるフュリエ、アラザンはまるで幼い子供の様に笑った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月07日(日)23:20 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 澱みきった空の下、色の白い小さな手を『あほの子』イーリス・イシュター(BNE002051)は握りしめる。数か月前に出会った『友達』は赤を纏い、不安そうに目線を動かしていた。 「一緒に橋頭堡を目指すのです!」 『完全世界』ラ・ル・カーナの変異前の空と同じ色の瞳が細められる。彼女の連れる馬がフュリエの少女――アラザンを励ますように小さく鳴いた。 今、この世界は『完全世界』ではなくなっていた、一目で見てもわかる『不完全』が美しさを奪い去り、跋扈していた。 「――勇者なんでしょう?」 ふと、優しげに黒い瞳を細めた『紡唄』葛葉 祈(BNE003735)はハイ・グリモアールを開き仲間達の背に小さな翼を与えながらアラザンを見つめる。勇気を得た長耳の少女は顔をあげる。 嗚呼、そうだ。自分は―― 「ボクは、勇者だよ」 「勇者は仲間が居てこそ、強くなれるものね。ほら、だから、大丈夫よ」 ふわり、傷ついた誰かを包み込む真白の翼が揺れる。彼女の白い掌がアラザンの髪を撫でた。 私たちは、負けたりしない。 その言葉に『勇気』を得た長耳の少女は顔をあげる。彼女の『友達』は小さく頷く。頑張ろう、それがシェルン様の為であり、自分たちの為の為であると。 「さて、勇者さまご一行の手伝いと行こうか」 『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)の首でロザリオが揺れた。アストライアを構える。乙女座の名前を冠したボウガンは魔力を得る。神父から譲り受けた彼女の相棒は魔力を得て小さな女神を補佐する様に、其処に存在した。 壊れゆく時は表裏一体だ。彼女はその淡い橙色の瞳にに崩れゆく世界の均衡を映した。世界――否、全て物のに通ずる論理がある。再生と破壊は表裏一体だ。生成しては壊れる。玩具の詰み木を崩すが如く。均衡点はそうは一致し続けない。ズレが其処にあったのだろう。 「さて、この子たちの世界を守るために、まずは大掃除と行こう」 その声に『重金属姫』雲野 杏(BNE000582) は頷いた。共に戦う杏樹と杏は目前に迫る巨大な鳥を見据えて揃い、その手に馴染む武器――ギターを構える。 巨大な鳥の姿に怯えるフュリエを杏はその月色の瞳で射抜く。平和であった頃の『完全世界』に昇る三つ月と同じ色の瞳がアラザンの不安に満ち溢れた淡い藍色の瞳が、克ちあう。 「ほら、行きなさい! 橋頭堡におびき寄せるんでしょ? その他大勢のフュリエも……不服そうね。後で会いましょう」 「う、うん」 その他大勢という呼び掛けにやや不服そうな顔をしたフュリエをちらりと見た杏の唇に浮かんだのは薄い笑み。彼女は構うことなく背を向ける。ほっそりとした指先がギターにかけられた。藍の翼が風の悪戯で揺らめく。 走り出すフュリエに届く声で、彼女は含み笑いを乗せながら、言った。 「生きてまた会ったときに名前を聞かせて頂戴。さあ、行った行った」 敵は待ってくれないわ、その言葉とともに彼女が奏でるのは燃え上がる紅色の炎。全てを焦がすように、身を焦がす『キスよりすごい音楽』を杏は奏でる。別に死亡フラグであるだとか、そう言う物じゃない。純粋な再会の約束。約束は果たされるものだから、するのだ。 焦がす紅蓮に重なる烈火。翼を広げた鳥は蜘蛛の脚を蠢かしながら彼女らに襲いかかる。 「あたしは、あたしの出来る事を、するよっ!」 ふわり、金髪が揺れる。ぴょこりと猫の尻尾が揺れた。クローを振るい『おこたから出ると死んじゃう』ティセ・パルミエ(BNE000151)は風になる。電撃を纏い、荒野で舞い踊る。とん、と跳ね上がる。猫の背に映えた小さな翼は少女の身を空へと放つ。爪が鳥の翼を切り裂いた。 「勇気ある人の為に!」 ● 「わあ、とっても大きなクジラさんですねぇ~」 間延びした声をあげながらユーフォリア・エアリテーゼ(BNE002672)は優しげな声で眼前に迫りくる赤に狂った鯨を姿を見つめた。純白の翼を揺らす。手にしたチャクラムを揺らしつつ、一生懸命に走るフュリエの背を見つめる。 鯨を見つめて感嘆する事など叶わない。大きいなあ、と見過ごす事も出来ない。凄いなあ、と言えるようになるために頑張ろう、と翼を広げる。 赤い布がはためいている。一生懸命に駆ける背中を見つめながら『ニンジャウォーリアー』ジョニー・オートン(BNE003528)はガントレットで固めた拳を自身の掌に打ちつけた。 走る少女は『勇者』だけど、生憎ジョニーは勇者ではない。勇気がなく只、俯いていた長耳の少女の『一歩前に踏み出す勇気』。此れがどれだけ難しい物なのか彼は知っている。 「拙者は感銘を受けたでゴザル」 踏み出す勇気は世界を救う為の一歩になる。異界の住民である彼はそう思う。彼は目の前の鳥を殴りつける。炎を纏ったその拳は鳥の嘴を折らんとする勢いで叩きつけられた。耳障りな鳴き声が、劈く様な声が彼の耳に滑り込む。 「このジョニー・オートン、微力ながらもお力添え致すでゴザル!」 其れは何よりも、慈愛と勇気を湛えた長耳の少女達と崩壊を目の当たりにするこの世界を『完全世界』の名へと戻す為に。 「ねえ、アラザン。ボク、アラザンに親近感を覚えるのです」 ゆうしゃのつるぎを握りしめた『勇者を目指す少女』真雁 光(BNE002532)は赤い布を羽織って走りゆく小さな少女に笑いかけた。光もアラザンと同じく『勇者』を目指す者。勇者は、何か。 昔のアラザンが知らなかった其れを光は知っている。勇敢と無謀の違い。勇気と、無謀の違いを。志が高い事は常にベストに通じるとは決まらない。 「全員生きて勝利を掴みましょう!」 「うん、そうだね!」 アラザンの隣でイーリスが嬉しそうに笑った。此処には勇者が三人いる。光とイーリスと、アラザン。一生懸命に遠く見据えた橋頭堡に向けて駆ける。走る。彼女の愛馬が蹄の音を響かせる。 「アラザンはゆーしゃリーダーなのです! リーダーは先陣を切るのです!」 だから、一番前を走る。その背を追いかけるフュリエの少女達も、リベリスタ達も。アラザンの背中を見ている。其処の事を誇らしげに思いながらも彼女は走る。 「アラザン、心配無用です! 私、勝つのです!」 ちらりと伺った視線に応える様に、彼女は常に言う言葉をまるで『勇気の魔法』の様にアラザンに笑いかけた。 だって、自分も勇者だから。 「くらうです! いーりすまっしゃー!」 一閃する。その想いを胸に。勇者は、負けられないから。 「ほら、行きましょう。一緒に」 祈がフュリエの手を引いた。離れやしない、この簡単に壊れる世界を守り切る希望を胸に抱くから。目指す場所が、あるのだから。 光が繰り出す荒れ狂う雷が、彼女の心中を――全てを護り切るその決意を表す様に、降り注いだ。 橋頭堡に向かうアラザン達を先頭にした後方で襲い来る巨獣の迎撃を行っていた杏の頬に鳥の翼が放つ衝撃波が襲う。白い肌を切り裂いて流れた赤。其れがジラジラを誘う事はない、それよりもより深い色で燃え滾る『赤』がある。彼女が灯らす赤い炎に誘われる様に、巨体は真っ直ぐに鳥の元へと向かっていく。 「ほら、バーベキューにしてあげるから!」 こっちにいらっしゃい、と誘う様に杏は言う。その唇に浮かべた笑みが、余裕を浮かべる。襲いかかる鳥の行方を阻む様にティセが舞い踊る。雷撃が、その身を焦がし、素早くも美しく鳥の目を翻弄する。 「橋頭堡、遠い、ね」 ちらりと向けた視線の先、まだ届かないソレにティセは頬をふくらます。諦めなければ何時かつく筈だと、彼女は何度も何度も舞った。追いかけっこなら、数が少ない方がいい。猫の耳がぴん、と立つ。 「――眼だけに頼るなッ!」 耳を澄ましていた杏樹が呼ぶ。戦場で信頼できるものは何か。己の耳、己の目、そして、己の仲間。幻想纏いから響く凛とした声にティセは耳を澄ませる。猫の耳が揺れる。 ――来る! 体の大きいグジドリに灯った炎に誘われる様にジラジラが数匹鬼ごっこに参加する。ユーフォリアはぎゅっとチャクラムを握りしめた。おっとりした口調で喋る彼女だが、空を素早く移動して、上空から襲い来る鳥を一閃する。劈く悲鳴が彼女の体をショックへと陥らせた。 「っ、順番は護ってくださいね~」 背後には行かせないと言わん勢いで彼女のチャクラムは振るわれる、だが、其処に飛び込んできた巨大な鯨がユーフォリアの体を巻き込む。背骨が軋む。唇の端から血が伝う。 「爆ぜよ、拙者の熱き闘志よォッ!」 闘志を拳に込めて、ガントレットで包まれた拳が鳥へと叩きこまれる。赤々と燃えあがる其れにジラジラの視線が逸らされる。其処へ繰り出された杏樹の光の弾丸は空から降り注ぐ流星の如き勢いでジラジラへと打ち込まれた。 祈は謳う。目の前の長耳の少女の背中を見据えながら、祈は高位の存在へと呼びかける。嗚呼、どうか、力を貸して下さいと白い翼を揺らして、願う。 此処で自分達は負けるわけには行かない。赤い布をはためかせる彼女に何故だか心惹かれた。眩しくて、堪らなかった。余りにも無力で、諦めきれなくて、手を伸ばした彼女は何度も何度も祈る。その名の通り、『祈り』を捧げた。救いを求める様に。 臆病少女の勇気に、その強さの眩しさに、心惹かれて、心揺らしながら。 「――世界は確かに簡単に壊れてしまうかもしれない」 それでも、彼女は首から下げた十字架を両手で握りしめた。黒衣が揺れる。それでも、希望の灯火は未だに消えない。 橋頭堡を目指すから、絶望を希望に変えるから。 わたしだって、変われる。 「ニンジャは! リベリスタは! 仲間を見捨てなどしない!」 繰り出す拳が、ジラジラへと喰い込む。心が砕けない限り、彼と言う名の鋭き刃は決して折れることはない。誰かを見捨てやしない、其れが『ニンジャ』と言う物だから。 運命を支払ったって、全員で生きて帰るのだと決めているのだから。 癒しを得ても、その身に降り注ぐ巨獣の攻撃は余りにも無慈悲だ。 神様は何時だって理不尽だ。優しくなんてない。そんなの、分かっている。神が優しくないなら、神になればいい。小さな女神はその心を胸に、願いを込めた流星を降り注がす。その大きな瞳が小さな勇気を持った種へと向いている事に気づき、打ち抜く。 「全ての子羊と狩人に安らぎと安寧を――Amen」 常の言葉は、この巨獣達にも当てはまるのだろうか。咎の十字架を使用して彼女は何度だって呼び掛けた。 唇を噛む。燃やす炎は新しい巨獣を惹きつけていた。まるで、誘う様に燃やされる灯火に、誘われて姿を現す巨獣。何匹かはその身を地面に伏せさせる事には成功していた物の、増えてしまってはキリがない。 額から流れる血がジラジラの視界にちらつく。不味い、と思ったのもつかの間、真っ直ぐに飛び込んだその巨体がユーフォリアの運命を燃やした。 「ッ、何があっても、前に進むよ!」 爪で抉る。肩で息をしながらもティセは希望を胸に抱いている。勇者なら絶対に負けちゃダメ――否、負けない。前方を往く勇者三人の事を思い出し、彼女はも氷を纏った拳を叩きつけた。 前方で戦っているティセの消耗は激しい。隊列はもはや存在していなかった。起点となる場所からの距離が明確に理解できない。人の歩幅によって変わってくるそれで、後列――巨獣との戦闘を中心としている面子の周囲は困惑に満ち溢れている。 運命を燃やしたって、ティセは挫けない。それよりも、希望を胸に抱いているからだ。 前の状況が気になる。どうなっているのだろう。 「あの子たちはあの子に任せて大丈夫」 杏がギターを爪弾きながら言う。ティセは顔をあげた。大丈夫だ、ともう一度言う。 「さて、その前に、目の前の鳥だけなんとかしちゃいましょう」 激しく奏でられるのは楽譜の存在しないデタラメ飛び出す雷がグジドリの体を穿つ。杏の得意な音楽性。重く、そして激しい音色。 「ほら、こっちにいらっしゃい」 鳥全てを引き寄せる様に、彼女は指先で誘った。爪弾く、ギターが奏でる音楽が翻弄する。 襲いくるグジドリに彼女は笑った。 「生きて、また逢ったら名前聞かせてもらわなきゃいけないからね。 ほら、キスより凄い音楽を、教えてあげる」 其れが誘い文句。近寄る不格好な鳥に杏樹の燃え滾る矢が繰り出される。ティセの爪がその翼を引き裂いた。 ● 怒りに我を忘れそうになる友人の体をアラザンは抑え付ける。次は我が身かもしれないと襲いかかる鯨に勇者の瞳が、揺れる。怯えの色が、大きな瞳湛えられた。 その怒りを忘れさせるように光は癒す。勇者たる彼女は無謀な戦いを行わない。目的は絶対に誰も死なせないこと。唯、其れに尽きるのだから。 『気合が大事だ。心で勝てば、誰にも負けない』 心で負けない、其れはどうすればいいのか、不安に揺れるアラザンの瞳に気付き、イーリスは振り返る。 「大丈夫です」 頬を流れる血を拭うことはしない。震える膝が折れそうになるのを抑えて、運命を燃やす。友人へと手を差し伸べる。カタカタとゼンマイが回る。アイゼン・ブリューテを握りしめ、イーリスは笑った。 「目標まで、あと少しなのです」 橋頭堡(ゴール)が近い事はアラザンも分かっていた。仲間が大切だと教えてくれた大切な友人が、傷つく姿は見てられないと首を振る。 「アラザンはゆーしゃなのです。そして私もゆーしゃなのです」 今日、彼女が踏み出した『勇気』こそが澱んだこの『完全世界』における変化の一つだというのも皮肉なことだった。けれど、勇者には一人では駄目だと教えたのは紛れもないリベリスタなのだ。 「行くです! はいぱー馬です号! 必殺の真! いーりすまっしゃー!!」 頬を伝う『赤』。赤色が好きだという巨大な鯨の『目標』となり得るその色。少女は白い頬を伝うソレを気にすることはない。カタカタと奏でるゼンマイの音が、肉断ちを待って虚しげに音を上げる。 勇者に心配は無用だ。彼女も、自分も勇者なのだ。絶対に勝つにきまっている。 襲い来るジラジラに光は『ゆうしゃのつるぎ』を振るった。 「全員で、勝利を掴むのです」 せんしのてぶくろ越しに感じる剣の感触。もう少し、もう少しだから、持ってくれ。震える足を支えながら、フュリエの少女を庇いながら、彼女は剣を振るう。全身の闘気を込める。荒れ狂うその想いは、澱む事がなく、澄んだ炎の如く目の前の巨獣を切り裂く。 ――勇者って、なんだろう? 疑問が胸に湧き上がる。瞼が、やけに重く感じる。目の前が霞み始める。 目前に近づいた橋頭堡に手を伸ばす。もう少しだ、と赤い布を纏った少女は崩れ落ちそうな膝を押さえながら前へ進む。 「ねえ、もう少しだから!」 臆病な彼女の見せる勇気、嗚呼、なんて眩しいのか。目を細める。謳う、身を癒す福音に勇気づけられるように少女は走る。彼女の隣ではいぱー馬です号が小さく鳴き声を上げる。 「ゆーしゃは倒れてる所は見せないのです!」 往こう、とイーリスが笑う。ふと、彼女らに襲い来る巨獣。イーリスが、光が武器を構える。杏たちを乗り越えて現れた其れに、アラザンの藍色の瞳が見開かれる。 襲いくる其れにイーリスの愛馬――はいぱー馬です号が非難の声をあげる。トルトニス・フェーダーを構える。友達だけでも庇うとアラザンを片手で制し、彼女はぎゅっと目を瞑る。 光の手が伸ばされる。流れる血も気にしないままにゆうしゃのつるぎを握りしめて。 ドッ―― 鈍い音が、した。 「――橋頭堡でゴザル!」 ジョニーの声を聞き、祈が顔をあげた。一息つく間近の橋頭堡から打ちだされる攻撃。機動力を生かした砦での殲滅活動。これのサポートが終りを告げたことが、その砲撃で解った。 薄れゆく意識の中でイーリスは泣き出しそうに歪んだ友達の顔を見て、へにゃりと笑う。 「ほら、勝ったのです」 小さく頷く。勇者になった君が捧ぐのは5文字の言葉。 「有難う、リベリスタ――ボクの友達」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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