● ひとりの少女が、男に追われている。少女は倉庫に逃げ込むが、男からは逃げ切れない。 男の手が少女へ伸びた、その時。男を身体を暗黒の闇が包み込む。 「よふね! あんたは早くその子連れていきなさい!」 「うん。了解だよ、ねえさん。………君、だいじょうぶ?」 弟が震える少女に走り寄り、手を差し伸べる。少女はその手掴むと、―――にまりと、下品に笑った。 「あは、あはははははは!!」 男と対峙した姉の背後から聞こえる、少女の楽しそうな笑い声。 振り向いてみれば、姉の目に飛び込んできたのは、首筋にナイフを突きつけられた弟の姿。 「会うのは初めましてね、リベリスタ。アナタたちが、最高に鬱陶しかったの!」 少女ががくすくす笑うと、どこに潜んでいたのか、複数人の男たちが姿を現す。 臨戦態勢を崩さない姉を、少女が見つめる。まあるい瞳がきょとんと、更にまるくなった。 「……あら。お姉さんはバカなのかしら。この子が助かるか助からないかは、アナタの心掛け次第!」 くすくすくす、少女の楽しげな笑い声だけが、倉庫に響いていた。 ● 「至急現場に向かってくれ。スタイリッシュに、ドラマティックな救出劇をプロデュースしてくれよ」 『駆ける黒猫』将門 伸暁(nBNE000006)が、ブリーフィングルームに集まったリベリスタをぐるりと見回してひとこと、至極簡潔に言い放った。伸暁は資料を並べながら、説明を続ける。 「ターゲットは姉の白河よはねと、弟の白河よふね。リベリスタとして、独力で活動していたようだが……」 それが仇となった。 密やかながらも着実に力を付けていく白河姉弟の活躍を、面白くないと思った人物がひとり。 「センチメンタルだよな、悲劇は何時だって劇的だ。タチの悪いフィクサードに掴まったらしい。 このままだとどちらも碌な未来は辿らない。姉は死に、弟は……」 リベリスタたちを見据えて一呼吸。 果たして何処へ売られるのやら。吐き捨てるように言った伸暁は、飄々と肩を竦める。 だが、伸暁はすぐに目を細めて、リベリスタを見た。 当然、アークのリベリスタがそれを見過ごせる筈が無い、とでも言うかの様に。 「誰もがハッピーエンドを望んでる。例えそれが夜船に揺られ見た、儚い夢物語だとしても。 悲劇のクライマックス何てのはナンセンス、叩き壊してこそのロックだろ?」 いい報告、期待してるぜ。伸暁は気障なウインクをひとつ残して、ブリーフィングルームを立ち去った。 ● 今から十数年前の、あの日。 突如現れたそれが、残した傷跡は大きい。 両親の亡骸を前に立ち竦むこの姉弟も、数ある被害者のうちの、ひとり。 残されたたったふたりの姉と弟。泣く弟に、姉は笑った。 「お父さんとお母さんの代わりに、よはねがあんたのこと、守ってあげる」 いつも、いつまでも。だから、だいじょうぶだよ、姉はそう言って、弟の手をぎゅうと握る。 あの日から十数年後の、今。 何の因果だろうか。ふたりは運命に愛され、常人が持ち得ぬ力を手に入れた。 その力によってすべてを奪われたふたりは、迷うことなくその力を世の為人の為に使うと決めた。 「……ねえさん、また。また、イヤなゆめを、みたよ」 たったふたりだけの、頼りないその力。それでも。 この力によって、悲しむ姿を見たくなかったから。弱いひとばかりが泣く世界なんて、ごめんだ。 だけれど。 いつだって正しい者が勝つほど、せかいはやさしくなかった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:あまのいろは | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月28日(日)22:47 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 奪われて、ひとつ。 授かって、ふたつ。 「嗚呼。愉快、愉快! アナタたちのような邪魔者が居なくなると思うと、清々するわ!」 姉、白河よはねは、人質に取られた弟を見ていることしか出来なかった。 弟、白河よふねは、危険に晒される姉を見ていることしか出来なかった。 唇を噛む。自身にナイフを突きつける少女を横目で見た。ぱちり、少女と視線が合う。 「どうしてって顔をしてるわね、リベリスタ?」 そういう表情は、だあいすきよ。ナイフをぐっと首筋に押し当て、楽しそうに笑う。 「……でも教えてあげないわ、自分で考えなさいリベリスタ。まあ、答えは分かっているでしょうけれど」 くすくす、くすくす。くすくす、くす。耳障りな笑い声。 姉は弟を、守ると約束した。姉は、その約束を固く守り続けてきた。守られてばかりだった。 力を持たない弟は、姉のためにすこしでも役に立てることが、ほんとうに嬉しかったのだ。 だけど。それが、結果的に危険に晒すことになるなんて。 せかいはやさしくなかった。いつだって理不尽だった。身を以て知っていた。知っていた、のに。 「あら?」 倉庫内を照らす蛍光灯が突然、音を立てて落ちた。世界は暗転。男たちはぴたりと、動きを止める。 予備電源ならあるわ、狼狽えるんじゃないわよ。そう男たちに告げた少女、舞薗杏奈は爪を噛む。 はっと何かを思い出したように、杏奈は暗闇のむこうへ視線を向けて。 イヤな予感がするわ、と。そう呟いた。 すこし時は遡る。 「任務を開始する」 そう言って、一呼吸。『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)が先陣を切った。 不運というものは、誰にでもあるものだった。 だからといって、このような非道を許すことが出来るかどうかは、また別の話だ。 倉庫の扉を蹴破る。勢いよく扉が砕け散る音が、倉庫の中に響き渡った。 辺りを見回すが、杏奈とその手下たちの姿は無い。どうやら、もっと奥にいるらしい。 ウラジミールに続く、七人の影。 『red fang』レン・カークランド(BNE002194) がブレーカーに手を掛けた。 止めることが出来る不幸なら。救い出すことが出来るなら。これ以上、あの姉弟から奪われないように。 「ブレーカー、落とすぞ」 レンは強い意思を込めてレバーを引く。ばちん。世界は、暗転。何も見えぬ暗闇も、リベリスタたちには苦にならない。リベリスタたちにはその目を以て確りと『見えて』いるのだから。 「ルアちゃん、行きましょう」 『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439) の言葉に、『雪風と共に舞う花』ルア・ホワイト(BNE001372)がこくりと頷く。 ふたりはコンテナの影などに隠れながら、倉庫の奥へ奥へと進んでいく。 残る六人のリべリスタたちも、行動を開始する。目的地へと向かうリベリスタたちの足音が、静かに響く。 その時まで、あとすこし。 ぴんと立つ黒い猫耳。赤と青の瞳が、杏奈の姿を捉えた。 「逆恨み、ですか。自業自得というのに、愚かしい限りですわ」 『プリムヴェール』二階堂 櫻子(BNE000438)がぽつりともらした。とても穏やかな声色だったが、その言葉からはフィクサードへの嫌悪が滲み出ている。 その横で『ジーニアス』神葬 陸駆(BNE004022)は、じっと白河姉弟の姿を見つめていた。 「ねえ、だれかいるの?」 問う。返事の代わりに聞こえたのは、手下の悲鳴。驚いた顔をしたのは、一瞬。 「お姉さんはやっぱりバカだったの? それとも、どこかのネズミが迷い込んだのかしら!」 手探りで予備電源のスイッチを見つけ出した杏奈が予備電源を入れる。 だが、蛍光灯が点くより先に光の塊が弾けた。激しい光に視界が眩む。 一度、二度と、ちかちか明滅した蛍光灯が、ぼんやりと辺りを照らしていった。 なんとか焦点に合わせた杏奈が見たのは、傷を抑える手下とよはねとの間に立つ『罪ト罰』安羅上・廻斗(BNE003739)の姿。 「貴方達の動きは捉えました。もう、逃しませんよ?」 ふわり、長い髪を靡かせて戦場に立つのは、神秘の光を投擲した『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)。 ミリィの勝利宣言とも取れるその言葉に、杏奈は少しの苛立ちを顕わにした。 「なんて、生意気な子! ……いいわ、言葉の使い方を教えてあげましょう!」 ● 杏奈の周りには、四人の手下の姿。異変を感じ取った杏奈は、手下たちを近くに集めておいたのだ。 「自分の相手をしてもらおうか」 ウラジミールが持つナイフの切先が、手下の目の前に突き付けられる。 動くことを躊躇った手下に道化のカードを投げつけながら、レンはよはねを横目で見た。 幸せは壊れやすく、脆い。上書きされる不幸を、止めることが出来るだろうか。 「救える命があるのならば、……必ず」 手下の腕に深く突き刺さったカードが、辺りを鮮やかに染め上げていく。 不吉に侵された手下を見ながら、杏奈は忌々しいわね、と独り言。しかし、その言葉を聞き逃さなかった櫻子は、眉を僅かに吊り上げた。 「……逆恨みをなさる前に御自分の行いを正すべきです。 フィクサードという肩書きを持っている事を後悔なさるべきではなくて?」 その肩書きがある限り、私たちリベリスタから邪魔が入る事は確定事項ですもの。 凛と。自身の魔力を高めた櫻子は、穏やかながらも強い口調で言う。 杏奈はその言葉を聞いて、けたけたと罪を知らない子供のように笑った。 「後悔? どうして? 私は間違ってなんかいないわ。ねえ、私たちって、同じ穴の貉でしょう?」 杏奈の後方に、彼女の背より一回りも二回りも大きい魔方陣が浮き上がる。 「いけない!!」 ミリィが仲間に警告するより早く、彼女の魔力を込めた一撃が放たれる。 その攻撃はリベリスタたちの身体をを貫いた。真っ赤な色が、あちらこちらに飛び散る。 廻斗はさり気無くよはねの前に立ち、彼女の分の攻撃も肩代わりする。 傷口からぼたぼたと流れる血を見ながら、廻斗は思う。 生きている。どんなに傷を負っても。どんなに世界が優しくなくとも。それでも、この世界に生きている。 人は、運命に翻弄されるものだ。それは、あの姉弟も同じだ。だが、運良くでも助かるのなら。 「……悲劇は無いに越したことはない」 静かに呟いた廻斗と、よはねの視線がぶつかった。 白河よはねは回顧する。 突然照明が落ちたその時、チャンスだ、と思った。それと同時に駄目だ、と思った。 弟の元へ走り出そうとした足を止める。今わたしがこいつらを斬り捨てたら、あの子はどうなる? 足りなかった。力も、手数も、知恵すらも。突破口は、見つからなかった。 ―――――どうしたら。 そんな時だった。どこからか声が聞こえた。音ではなく、直接脳内に響いているようだった。 それが、陸駆の送るテレパシーであることなど、彼女が知る由も無かったけれど。 「今から混乱に乗じて、貴様ごと攻撃する。避けることができるなら避け、小競り合いのフリを続けろ」 耳を澄ます。その声に聞き入る。ひとことも聞き逃さないように。 「合図はもう一度、こちらが明かりを消したときだ。いいな、貴様の弟は貴様が守れ」 その時確かに、見つけた。たったひとつだけの突破口。ほんの微かな、希望の欠片。 「―――そう、決めたのだろう」 そうだ。そう、決めたのだ。ずっとずっと、とおいむかしに。大切なものを多く亡くした、あの日に。 わたしは。 漆黒の闇が広がり、リベリスタたちを飲み込む。レンとウラジミールは運良くその身を蝕む不吉を振り払ったが、運悪く不吉に侵された廻斗が顔を歪めた。 「まあ、素敵! 家族愛って素晴らしいわ!」 杏奈は、その様子を嬉しそうに眺めている。自らに忍び寄るリベリスタふたりに、気付くこともなく。 リベリスタたちへと攻撃を放ったよはねの姿を、レイチェルとルアはコンテナの影から見ていた。 ふたりは順調に距離を詰め、杏奈まであと一歩の距離まで忍び寄っている。 ルアは強いまなざしで、杏奈と、捕らえらえたよふねの姿を見る。 彼女は、白河姉弟の姿に自分たち姉弟を重ねる。ノーフェイスだった自分を唯一守ってくれていた、弟。 立場は逆であるが、護る者の気持ちも、護られる者の気持ちも、痛いほどに分かっていた。 ふたりが目を合わせて、頷く。 「………行きます」 アクセス・ファンタズムが拾い上げることの出来る、最小限の声。 だが、レイチェルの声はアクセス・ファンタズムを通して、確かにリベリスタに届く。 それを合図として、ミリィが二度目の光を杏奈目掛けて投擲する。 光の塊が弾けると同時に、ルアが駆けた。レイチェルも別方向から飛び出す。 私たちは、ふたつでひとつだった。弟が居なければ、私はここにはいなかった。 護り、護られてきたように。きっとあの姉弟も、そうなのだろう。 「だから、誰よりも速く走って『弟』はこの手で必ず救い出すの!!!」 この世界に生きることを許されたあの日のように。誰よりも速く。捕らえることなど許さないほどに。 「……なっ!」 彼女の周りを固めていた手下たちは、誰ひとりとしてルアを捕らえることは出来なかった。 自身に迫るルアを止めることは不可能と瞬時に判断した杏奈は、苦し紛れにナイフを横に振り払う。 即ち、人質として捕らえたよふねの首へと。 ぱっと。 ナイフを濡らした赤が、振り切った先へと飛んで。続いて噴き出すように。赤、赤、赤。 勢いよく溢れ出した赤色が、よふねの視界が染めていく。 「よふね!!!」 よはねの悲痛な叫びが響く。だが、杏奈のナイフが切り裂いたのは、よふねの首ではなかった。 ナイフが切り裂いたのはルアの白い柔肌であり、肉。もとより速度は人より劣る杏奈が、ルアの速度に敵うはずもない。 「杏奈様!」 手下の声に杏奈が視線をやると、両の手に魔力のナイフを持つレイチェルが迫っていた。 気糸が伸びる。庇うために、手下は杏奈の前に立ち塞がった。 だが、本当の狙いは杏奈では無い。狙いは最初から予備電源である。 レイチェルの放った気糸は手下たちをも巻き込んで、予備電源に見事命中。 杏奈がしまった、と思った時にはもう遅い。予備電源は破壊され、倉庫の中には、また闇が落ちる。 混乱に乗じて、ルアがよふねの腕を掴んで引き寄せる。よふねの身体はするり、杏奈の手を離れた。 その様子も見えているリベリスタたちは、誰しもが僅かながらに安堵の表情を見せた。ただひとり、不安そうな顔をしているよはねに、ミリィが駆け寄って言う。 「弟さんは私達の仲間が助けました!……まだ、戦えますか?」 よはねは誰よりも安堵の表情を見せて。 見えないわたしが戦うことは難しいけれど、自分の身ぐらいは守れるわ。 そう言って、笑った。 ● 「舞薗氏が狙い目だ!気持ちで負けてはいかんぞ!」 まるで、杏奈だけを狙っているかのように。ウラジミールが声を張り上げた。 だが、彼が狙ったのは近くに居た手下のひとり。鮮烈に輝いた刃がデュランダルの手下を切り裂く。 ダメージが蓄積していた手下は、その一撃を食らって立っていることは出来なかった。 暗闇のなか、声だけが聞こえる。杏奈も、手下も、リベリスタのことが見えて『いなかった』。 誰が倒れた? あの姉弟はどうなった? どんなに目を凝らしても、見えないからには状況が掴めない。声と気配だけで判断するしかない。 「余所見をする暇、あるのか?」 ぼんやりと、赤く幻想的な月が浮かび上がった。 悲鳴が聞こえる。レンの作り出した赤い月が、杏奈をも捕らえ蝕んでいく。 「余所見している間にも、お前を不運が蝕んで行く。それからは逃れられない」 レンが不敵に笑ってみせる。ぼうと光る赤い月が、とけるように消えて。 「見えない相手から一方的に狙われる恐怖、存分に味わってください」 「言ったでしょう? 貴方達の動きは捉えました、と」 さぁ、戦場を奏でましょう。言葉通り、ミリィは戦場を指揮する。 雨のように攻撃が降り注ぐ。杏奈がきつく唇を噛んだ。リベリスタなんかに、されるがままなんて! 「嗚呼! 忌々しい小賢しい! ……お前たち!!」 「はい、杏奈様!」 暗闇のなか、まだ力のある手下たちが声を張り上げた。 声のするほうへ。 杏奈は迷わずに攻撃を放った。ごうと、炎柱が立つ。炎は、敵味方関係なく立つ者を燃やていく。 「ありがとう、お前たちのことは忘れないわ」 そんな安っぽい感謝の言葉を述べて。その言葉を聞いた手下は満足そうに微笑み、そしてそのまま、動きを止める。 櫻子が顔を歪めたのは、自身を巻き込む炎へのものではない。手下が自身の攻撃で倒れたというのに、顔色ひとつ変えない彼女への嫌悪。杏奈をきつく睨む。 だが、自分がするべきことは彼女への攻撃ではない。 戦場を満たしていく、聖神の息吹。それはリベリスタの傷を、体を蝕む脅威を取り払っていく。 思うことは、たくさんある。それでも櫻子はしっかりと、その役割を果たしていた。 炎が無差別に焼き尽くす。 杏奈の手下が更にひとり、ふたりと倒れた。リベリスタたちも櫻子の回復の力を以てしても、膝を着く。 それでも彼らは運命を燃やし、杏奈と、その手下の前に立ち塞がる。 特に、よふねを庇っていたルアや、廻斗の傷は深い。傷ついた身体に、鞭を打って前を見据える。 体力を消費しているのは、杏奈とて同じだ。此処で退く訳には、いかない。 それに、不利な状況なのは間違いなく杏奈のほうだった。 「別に貴様の命まで奪おうとは思っていない。今逃げるのであれば見逃そう。 命は大切だ。深追いはしない」 陸駆が投げかけた言葉に、杏奈の眉がぴくりと動く。 「随分甘いのね、リベリスタ? 何か、企んでいるの?」 自分が放った炎で手下たちが倒れるところは見ていた。不利な状況が変わることはないだろう。 お前たち、と。声を掛けられた手下たちは、杏奈を守るように取り囲む。 「部下を盾に逃げるか。無様な姿だな、舞薗」 「もう終わりか?」 廻斗とウラジミールの問い掛けに、杏奈はもういちど、笑って見せて。 「ええ、終わりよ。きょうはもう、おしまい。さようならリベリス―――」 「いや、ここで終わりだ」 ウラジミールが杏奈へと、突撃を仕掛ける。しかし、手下たちが行く手を阻んだ。 まあ、こわい! 演技掛かった声でそう言った杏奈は、残った僅かな手下を引き連れて。ウラジミールが手下を切り捨てた時には、彼女の姿は見えなくなっていた。 「救出が目的だ。下手に追わないほうがいい」 「あぁ、終わりましたね……」 レンの視界には、傷は追っているものの無事な姉と、救出された弟の姿。櫻子が溜息をひとつして、服の汚れを払い血を拭う。それから、傷ついた仲間たちに癒しの力を施した。 「大切な『はんぶん』、護れたんだね」 ルアが柔らかく笑む。リベリスタたちは白河姉弟の手を引いて、倉庫から出たのだった。 空にはぼんやりと、優しく光る月が浮いている。 「任務、完了だ」 「助けられて、誰も泣かずに済む結末で。ほんとうに、よかった」 ウラジミールが言う。レイチェルは優しい眼差しで、ふたりを見つめていた。 「……これに懲りたら悪事になど手を出さない事ですわ」 櫻子はどこか遠くを見ながら、誰に言うでもなくぽつりと呟いた。 ようやく、リベリスタたちの姿を見ることが出来るようになった姉弟は、深く深く、頭を下げた。 「あの時の、きみの声だよね。ありがとう、おかげでわたし、迷わず行動できたよ」 それからあの時はごめんなさい、とリベリスタたちによはねは頭を下げた。 「ふん、礼には及ばないのだ。僕は天才だからな」 顔を上げたよはねに、ふふんと胸を張る傷だらけの少年の姿を見て、よふねがすこしだけ、笑った。 「僕のせいで、迷惑をかけて、こんなに傷を負って……。ごめんなさい」 それでもすぐに、申し訳なさそうに頭を下げるよふねの姿を見たレンが言う。 「俺でも救えるものがある、希望を失うな。生きていればきっと光はやってくる」 そう、生きていれば。 辛いこともあるだろう。悲しいこともあるだろう。それでも、そのぶんだけ、幸せは必ずあるはずなのだ。 幸い、姉弟はこうして生き長らえた。だから、これから出来ることも、たくさんあるはずだ。 「ところで。……白河姉弟。アークに来い」 突如掛けられた廻斗の言葉に、ふたりはぱちくり瞬きする。 「互いを護りたいならば来い。二人きりで全ての災難を振り払えると言うのなら、構わないが。 ……寄る辺となる大樹は目の前にある。あとは、好きにしろ」 廻斗はそれだけ告げて、背を向けた。彼の背の向こうには、姉弟を見て優しく笑むリベリスタたちの姿。 「貴方達の守りたかったもの、貴女の守りたかったもの。私達も一緒に、守らせてくれませんか?」 ふたりは顔を合わせて、けらけら笑った。 「わたしたちでよければ、もちろん! よふねもでしょ?」 「……ねえさんに、言われなくても。守らせてくれますか? 僕たちも、一緒に」 差し伸べられた、手を取る。 ひとりふたりでは微力な力でも、みっつよっつと増えれば、きっと。 奪われて、ひとつ。ひとつだけでは、きっと偶然。 授かって、ふたつ。ふたつ続いて、それは必然。 救われて、みっつ。みっつ続けば? ひとはそれを、運命と呼ぶ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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