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<世界を飲み干す者>飽くなき闘争の果てに


 空はまるで食い散らかされたようであった。突如赤き眼球が雲を裂いて現れた後、世界は瞬く間に姿を変えつつあった。自然という自然は枯渇し、そこに住む生物は異形に近い変化を遂げている。世界樹は狂気に身を任せ、『狂った変異体』を生み続けている。
 憤怒と争いの存在であるバイデンは、既にその多くが怪物へと姿を変えつつあった。彼らが得た進化は、それの存在意義からすれば紛うことなき進化であったが、世界の破滅を早める強烈な副作用を含有していた。だが変異したバイデンはもはや、異常を正常と信じて疑うことは、ない。
 そのバイデンは飽くなき闘争に溺れ、また立ちはだかる全てをなぎ倒していた。仲間や敵という概念、最低限の理性、そしてかつてそれの名乗ったクシャナという名すら、脳内を埋め尽くす戦闘欲に押し潰されていた。それの戦いへの執着は、敵を倒す毎に強く、確かなものになっていった。敵を倒すことはすなわち相手が一つ減るということであり、その分闘争という行為が行使できなくなるということである。それはバイデンの闘争に対する欲求を、究極にまで高めた様であった。
 そしてその身体は、それの意識に伴った変異を遂げていた。すなわちそれは何かを倒す毎に力を強めていった。戦闘だけを求めるその感情は、目の前の戦いに対し異常な集中を与えていた。かつ、それは現在対峙している、かつて味方だったそれをなぎ倒しつつも、次の相手に惹かれていた。それは、生じ得る闘争の臭いを感じ取っていた。それの進む先には、バイデンと争い、勝利を勝ち得る程強力な、異界の戦士が陣取っていた。
 それにとってアークのリベリスタは、絶好の相手であったのだ。


 世界は変調している。R-typeとの邂逅がもたらした危機。ラ・ル・カーナそのものである世界樹の暴走をどうにかしなければ、混乱に包まれた世界はいずれ滅びるだろう。
 それを阻む可能性はただ一つ。神秘存在の構成をリセットする『忘却の石』と、世界樹にリンクすることが可能なフェリエの族長、シェルンの能力を利用すれば、世界樹に潜り込んだ『R-typeの残滓』のみを消失できるのではないか。
 しかし。リベリスタにとってラ・ル・カーナは異世界である。どんな感情があったとして、それが滅びたとして彼らの世界が失われるわけではない。加えて先の可能性はあくまで可能性であり、推論の域を出るものではない。退却の選択肢は確かに存在した。だが、かの室長はそれをよしとはしなかった。それは彼の『R-typeへの強い感情』故であった。
 アーク、そしてフュリエの連合軍は、『世界樹エクスィス』のコアへと向かう。世界樹はシェルンを拒絶していた。今、彼女が世界樹と繋がるためには、物理的にそこへと至らなければならない。
「世界樹、か。ひどい有様だ」
 リベリスタの一人が、狂った世界樹を見て唇を噛む。一見して、とても対処の余地があるようには思えない、そんな様相をしている。
「それでも、壊して中に入るしかないんだろ」
「……そうだな」
 覚悟を決めたように、彼は、彼女は、拳を握る。
「行こう。時間は限られてる」
「ああ。だが、あれは──」
 視線の先には、一寸の休止も挟むことなく、闘いを続ける一つの影があった。それは数多のバイデンに囲まれながら、全てを圧倒していた。傷つきつつも、その動きの一切は鈍ることなく、敵に得物を振るっていた。
 それは元はバイデンであったのだろうと思われる。身体は通常よりも巨大化しており、また腕は四本に増え、その全てにハンマーが握られていた。腰まで伸びた金色の髪は所々刻まれており、それのしてきた闘いの多さが見て取れる。身体の至る所から短い触手のようなものが飛び出ていて、身体を動かす度にそこから体液が噴出していた。それは無臭であったが、闘いへの衝動に駆られていく感情を生み出すものであった。
 それはバイデンを一体なぎ倒した後、リベリスタに気付いた。降り掛かる闘争に綻んでいたその表情に、一層の幸福が満ちた。それはニヤリと笑むと、舌舐めずりしつつ言った。
「いい所に来た。その力を余す所なくぶつけてくるがよい」



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:天夜 薄  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年10月11日(木)23:44
 天夜薄です。

●依頼達成条件
・変異バイデン『クシャナ・カナンテ』の殺害

●クシャナ・カナンテ
 バイデンの変異したもの。外見はOP参照のこと。遭遇時からリベリスタを敵と認識し、攻撃を仕掛けてくる。
 攻撃する度に、BS怒りを付与する体液をまき散らす。体液の効果は彼の半径5メートルの範囲に及び、また効果は3ターンまで持続する。BS付与の効果は、ターン終了時に体液の効果範囲内にいた場合に発生する。
 攻撃を放った時HPが回復する。複数回攻撃を放った場合は、その回数分回復する。敵に攻撃が当たった回数ではない。また相手を倒した数だけ強力になる。
 攻撃方法によって、複数回攻撃可能な場合がある。
薙ぎ払い:物近複・BS致命
憤怒  :神遠全・無・BS重圧/呪縛
連撃  :物近複・連・BSショック
叩き潰し:物近複・連・弱点・BS崩壊

●状況
 リベリスタとフュリエの部隊が世界樹に向かっている途中で、クシャナ及びクシャナと交戦中のバイデンたちと遭遇する。クシャナ以外のバイデンはリベリスタ、あるいはフュリエが攻撃を仕掛けない限り、敵対することはない。
 特に指示がない限りはフュリエの部隊は後方からの攻撃を主に行う。バイデンは四体存在し、その全てが前線でクシャナと戦っている。
 またフュリエに対する指示は可能だが、バイデンに対する指示はできない。

●重要な備考
『<世界を飲み干す者>』はその全てのシナリオの状況により決戦シナリオの成否に影響を与えます。
 決戦シナリオとは<世界を飲み干す者>のタグを持つイベントシナリオを指します。
 予め御了承の上、御参加下さるようにお願いします。

参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ホーリーメイガス
メアリ・ラングストン(BNE000075)
デュランダル
斜堂・影継(BNE000955)
デュランダル
ランディ・益母(BNE001403)
スターサジタリー
百舌鳥 九十九(BNE001407)
クロスイージス
内薙・智夫(BNE001581)
デュランダル
虎 牙緑(BNE002333)
ソードミラージュ
武蔵・吾郎(BNE002461)
ホーリーメイガス
石動 麻衣(BNE003692)


「おーやっとるのう」
 『回復狂』メアリ・ラングストン(BNE000075)が人事のように言ってみせた。だがそれもここまでだ。彼らの行く手には数体のバイデンと、異形と成り果てたクシャナ・カナンテの姿があった。この状況では、どちらが敵であるかははっきりとしたことだ。メアリは義によってバイデンに助太刀し、クシャナを倒す所存であった。
「戦いに溺れて己を見失ったと言うか、より戦いに適した形に進化してと言うか。どちらにしても手強い相手という事に変わりはないですな」
 目の前で闘いを楽しむその怪物を見ながら、『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)はしみじみと言う。
 それはきっと、闘いに生きるために変質した姿であった。自分がより強くあるために、かつより強い敵が自分に集まるように、望んだ結果であった。彼を支配していた感情は闘いへの欲望であった。故に相手が強かろうと弱かろうと貴賤なく捉え、全てに対し、平等に闘っていた。その強行をしてなお立ち続けているのは、彼の強力さ故であった。
「まあ、相手が誰だろうと私のやる事は何時も通りですよ」
「力を余す事無くぶつけて来い、か」
 『仁狼』武蔵・吾郎(BNE002461)は静かに、視線をクシャナと交わす。彼は恍惚として笑っている。
「余裕だな? その余裕、すぐになくしてやる」
「がははははは! 良い威勢だ、素晴らしい!」
 豪快に笑うクシャナに、吾郎は急速に接近して連撃を加える。クシャナは吾郎の剣に腕を合わせた。強靭な筋肉か、或いは身体が硬質化したのか、吾郎の剣は至極浅い傷をつけるのみに留まった。その光景は軽い焦燥感を生み出すものだったが、同時に彼は気分の高揚を自覚していた。それはクシャナのまき散らした体液のためであった。無臭の体液が五感に作用し、闘えと囁いた。吾郎は、その衝動に身を任せようとする。
「一人じゃ無理でも、皆で戦う強さなら負けやしないぜ」
「誇り高き戦士はやめちゃったのか? この化け物が!」
 『輝く蜜色の毛並』虎 牙緑(BNE002333)はクシャナの射程外で、挑発するように言葉を吐く。
「誇りなど、甘美な闘いの前では無味なことよ!」
 クシャナは笑いながら牙縁に接近し、腕を伸ばして牙縁を叩き潰す。牙縁は舌打ちしながら身体を逸らすが、彼の身体を拳が擦る。それだけなのに、直に殴られたかのような衝撃を彼は感じて、思わず後退した。
「御託はいいからかかって来やがれ」
 『赤い墓堀』ランディ・益母(BNE001403)が自身の全力をクシャナの右下の腕に叩き付ける。得物の軌跡に火花の散ったような閃光が現れる。クシャナは衝撃の余り後退するが、その表情は決して崩れない。
「当然。お互い言葉を交わす暇があれば拳を交わそうではないか!」
「そうだな、勇士よ」
 『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)の銃がクシャナに突きつけられる。一瞬、影継とクシャナの視線が重なり、やがて共に笑んだ。
「最高の戦いを、アンタへの餞としよう。戦いってのは、常に心躍るもので……愉しい方が良いに決まってるからな!」
「いい心がけだ! ならば、我が全力が貴様への餞別となろう!」
 高く掲げた腕がより多くの闘いを欲するように、その隆々とした筋肉を見せつけた。クシャナは大きく振りかぶり、その腕を真っすぐ影継に向け突き出した。自身の側を過ぎていった拳の風圧を受けながら振り下ろした影継の得物が、その全力をもって拳を斬り付けた。固いが、決して斬れないものでもない。一旦クシャナと距離を置きつつ、影継は軽い動きで次の手に打って出る。
「斜堂・影継、罷り通るぜ!」


 完全世界は危機に瀕している。主たる世界樹は暴走し、世界は荒廃しつつあり、完全世界の住人は続々と狂い始めている。バイデンは本能的に闘争を欲し、多くがそれのために変異しつつあった。
 けれども、闘争のために変わって、勝ち抜き、殺し、最後の一人になった時、彼らは一体どうするというのだろう。『やわらかクロスイージス』内薙・智夫(BNE001581)のする思慮は、バイデンにとっては限りなく無意味なことかもしれない。クシャナの全ては闘うことだ。彼はただ欲望に忠実であるに過ぎない。最後まで戦場に立った勝者の手に残るのが、栄誉ある孤独だとしても、だ。
 それを勝者の栄誉というのは、あまりに空しい。
「僕に出来ることは、と」
 異形と化したバイデンのためなどと言っている暇はどこにもない。彼に出来ることはただ、誰も倒れぬように癒し続けることである。戦うこと、守ること、癒すこと。戦場においてどれも重要な役割だ。クシャナは、一人で圧倒的な力を持ち、闘いに興じている。それに比べれば、リベリスタやフュリエ、まだ変異していないバイデンさえ、力の弱い卑小な存在であるかもしれない。けれども集合体とあらば話は別だ。決して一見して分かるものではない力強さ。果たして彼はまだ、それを承知するだけの理性があるのだろうか。
 分からせるためにも、戦い、そして勝たねばならない。そのために『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)は自分の役割を全うする。
 だが、傷が癒える間もない程クシャナの攻撃は激しかった。フュリエたちの懸命な後方支援や、前線のリベリスタ・バイデンによる全力の攻撃もあって、クシャナが攻撃する度にその興奮や欲望の充足による回復効果を上回ってはいた。だが、同様にクシャナの攻撃の激しさ、その効果範囲の広さが周囲の敵を容赦なく傷つけた。対策を考えつつ動くリベリスタや後方のフュリエはまだしも、ただ突っ込むことを方針とするバイデンはどうだろうか、と麻衣は気がかりだった。
「ぐらぁ!」
 一人のバイデンがクシャナの背後に回って、斧を一気に振り下ろす。その一撃は皮膚に僅かな傷をつけただけで弾かれた。クシャナはチラとそのバイデンの方を見るが、ランディがすぐさま斬り掛かった。クシャナは視線をランディの方へ移す。
「そいつを倒すためにお前らは勝手にやれ、俺らも好きにやる。だが一応援護くらいはさせろよ!」
 すれ違い様、吾郎はバイデンに声をかける。
「いいだろう。だが、闘いの邪魔をするのは許さんからな!」
 バイデンは吾郎の顔も見ずにいい、鉈のような得物を振り回して斬り付けた。
「闘いの邪魔はしねえ。だが死ぬんじゃねえぞ」
 影継は得物にありったけの力を込めつつ、側にいたバイデンに声をかける。
「アンタらが死ねばクシャナの名誉は穢れるぞ。力を得るため仲間を殺した下衆としてな! それが嫌なら倒れんじゃねぇ!」
「名誉のために、闘うわけではない……が」
「でもさ、オマエラの世界、崩壊したら困るだろ?」
 クシャナの全力が牙縁の腕を擦るが、牙縁は受け身を取りつつ体勢を立て直し、クシャナに向け一気に接近する。そして勢いのまま得物をクシャナに突き立てた。傷は浅かったが、クシャナは苦い顔をして牙縁を振り払う。牙縁は地面に手をついて元の場所に戻る。
「ちょっとぐらいは協力しろよな!」
「我らとて闘う場所がなくなるのは以ての外だ。ならば全力を以て奴を倒すのみ!」
 バイデンは二刀の剣で交互にクシャナを斬り付けた。クシャナが圧倒的な力で相手を叩き潰す。リベリスタとバイデンは力こそ若干劣るながらも、その手数故に決して劣勢とは言い難かった。またフュリエの決死の支援もある。彼女らのフィアキィの放つそれは微弱ながらも、クシャナの命を削る刃となって彼に襲いかかった。
 クシャナの回復を妨げる程深い傷もいくつかある。けれども、クシャナは依然余裕さを保ったままだ。その場にある全ての刃を突きつけられた彼は恍惚として叫んだ。
「もっと、もっとだ! 張り合いのない闘い程つまらぬものはないぞ!」


 汗のように流れ出た血液がこぼれ落ち、地面を染めた。吾郎は、血液の味を噛み締めながらクシャナを睨み、翻弄しつつ斬撃を加えた。クシャナは当たった瞬間ギロリと吾郎を見、素早く反転すると吾郎とその側にいたバイデンを殴りつけた。飛ばされそうになりながらも吾郎は必死で踏みとどまるが、自身の傷の深さを自覚できぬ程、彼は弱くない。
「俺らがやられても面倒な事になるし……な」
 口惜しさを感じつつ後退する彼の横から牙縁が接近する。挑発はクシャナの耳には遠すぎたようだ、牙縁はクシャナを怒らせることを諦め、攻撃に転じていた。彼自身の全力で無防備なクシャナの腹を斬り付けた。薄らと血液が漏れ出たが、クシャナは高らかに笑い、牙縁を焚き付けるように叫んだ。
「効かぬ、効かぬぞ! 貴様の全力はその程度か!」
「痩せ我慢は身体に毒だぜ!」
 牙縁はクシャナと距離を置きつつ小さく舌打ちした。
「うひょーい、辻治療じゃ、遠慮なく回復されろ!」
 メアリが周りを鼓舞するように叫んでいた。メアリや麻衣、智夫によって癒しの力が絶え間なく降り注いでいた。それは転じて、そうしなければクシャナの攻撃の勢いに負けかねぬということに他ならない。
「全く、忙しいね」
 愚痴るように言いながら、智夫は戦局を注視し続けた。
「ふいふいっと、クシャナさんでしたかな?」
 九十九が放った銃弾が、狙ったクシャナの顔面を正確に抉った。そうしてクシャナの注意を引き、九十九は呼びかけた。
「強い相手と戦いたいようですが、私達は別に貴方と戦うのが目的ではないんですよな」
「関係のないことだ。貴様がどうであろうと我が拳は貴様に振るわれるだろう!」
 クシャナは九十九に接近しようとする。ランディがその行く手を阻もうとするが、彼一人で抑えるには、クシャナは余りに大きく、強力すぎた。
「ちぃ、ダメか!」
 歯を食いしばって、彼は通り抜けたクシャナの右下の腕に一撃を加える。その先で九十九が後衛を守らんと壁になった。
「我々にとって、ここは未だ世界樹への通過点、悪いですが早急に越えさせていただきましょう」
「貴様らが我に勝てるなら、喜んでそれを受け入れようではないか!」
 振るった拳の一つが九十九の肩を直撃した。貫かれたような激痛が九十九を襲うが、彼は決して戦くことなく、むしろクシャナを睨むだけの気力を保って、立ち続けた。
「いい返事をもらいました。そうさせていただくことにしましょう」
 クシャナの動きを阻害できる者はなかった。だが彼を攻撃する大勢が、彼の命を確実に削りつつあった。響く剣戟の音と、欲望の充足を感じさせる咆哮。バイデンのバイデンたる怒りの声が、荒野を駆け巡っていた。
 闘いに取り憑かれ、世界を壊しているとも知らぬその男は、一体のバイデンを殴り飛ばした。バイデンはだらしなく伸ばした手足を荒野に投げ出して、一切の微動をも失くしてしまった。残りのバイデンは彼の行方を追い、リベリスタはクシャナを見た。
「ハハハハハハ! 貴様は、素晴らしき戦士であったぞ!」
 闘いで得た充足感が彼に力を与える。振り上げた拳は天を衝き、踏みならした足は地を揺るがした。
「ほら、来ないのか? 我を倒して先に行くのだろう?」
「もちろんです」
 麻衣が震える声で、静かに言った。彼女を庇うように影継が前に出て、地を蹴る。
「誰の命も、これ以上アンタにはやらねぇ」
 僅かの時ながらも『戦友』であった男を称えるように、彼は叫んだ。
「替わりにアンタの仲間に誇りを進呈するぜ。クシャナの友たる戦士達は、狂えるクシャナを討ったとな!」


「来い、来い! 貴様らの刃が、盾が、全て我の活力となるのだ!」
 壊れた笑みで彼は拳を振るった。後衛のリベリスタやフュリエにも少なからず被害は及んでいた。死の間際のフュリエもいる中、振るわれた拳をかいくぐって吾郎が連撃を加え、続いて牙縁も一撃を加えてクシャナの傷を抉った。
「オマエは化け物だ、狂った化け物は大人しく寝てな!」
「化け物で構わぬ、永劫に闘えるならなぁ!」
 クシャナの拳が身体を捻った牙縁を擦るように通り過ぎた。拳圧によろけながらも牙縁は必死に地に足をつける。
「……全く、難儀なものですなー」
 彼の運命は彼を戦場に立たせ続ける。息を乱しつつ、足は若干の震えを見せるものの、銃口と視線はしっかりとクシャナを捉えている。
「ですが、死ななければ大体の事は何とか出来ますよ」
 鳴いた拳銃がクシャナの眉間に傷をつける。
「ほれほれ、通過点で死ぬんじゃないぞ!」
 メアリと智夫が周囲を癒し、クシャナを攻める活力を与える。
「負けないよ、僕たちには向かわないといけない場所がある!」
「笑止!」
 クシャナが怒声を浴びせ、その威圧感に周囲の誰もがたじろいだ。
「先のことなど気にしている場合ではない。重要なのは、この一瞬ではあるまいか!」
「怒る相手が違うぜ!」
 影継はクシャナを睨み、真っ向から対抗する。
「そんな怒りがあるのなら! クソッタレな運命に抵抗してみせろ!」
「貴様らを倒すことが、抵抗の証となるだろう!」
 影継は一気にクシャナと距離を詰め、斬る。同時にクシャナが暴れるように拳を乱雑に振るった。影継はそれを受けるが運命に身を任せ、立った。
 逸れた一撃がバイデンを襲う。ランディはバイデンの命が危ういと見るや、振るわれた拳を受け止めた。薙ぎ飛ばされるランディに、バイデンは思わず叫んだ。
「おい、お前、どうして我を庇う!?」
「……お前らに倒れられても困るんだよ。戦士なら勝つ為の行動に疑問を口にするんじゃねぇ!」
 傷を抑えながらランディは立つ。運命で繋ぎ止めた意識を目一杯に活性化し、彼は思いきり踏込んだ。
「打ち勝つんだろうが、こんなトコで寝てられるかよ!」
 全力を込めて叩き込んだ一撃が、クシャナの腕を一本斬り飛ばした。自らの断片に目を遣りながら、クシャナは歯ぎしりしつつ言う。
「貴様……!」
「全部は斬り飛ばせなくても、丁寧に絞り続けりゃ……いけるのさ!」
「ほら、次はこっちだ!」
 吾郎は追撃とばかり鋭く一撃を加える。クシャナの反撃など、彼の思考の範疇にない。決死の攻撃が、クシャナに深い傷をつける。
 叫ぶ、暴れる。リベリスタの消耗以上に、クシャナの傷は深かった。それは焦燥となって彼の行動に表れていた。繁雑に振り回された腕が、効果的な一撃を繰り出すことは、ない。
「クシャナ、餞別だ。良い闘いだったぜ」
「ああ、愉しかったぜ!」
 吾郎が、影継が、クロスするように入れ違う加えたニ撃が、クシャナを黙らせた。彼は、更なる闘いを、更なる充足を求めるように、腕を天に掲げた。その腕は何物も掴むことなく、藻掻くだけであった。終に彼は、そのままの体勢で地に倒れた。天空を仰いだ彼は、それから僅かも動くことは、なかった。


 それは、『クシャナ本体』に限ったことだ。クシャナが倒れると、まず彼の全身が内包していたと思われる体液が一斉に溢れ出した。ビシャビシャと流れているそれが収まった頃、クシャナの体中に生えていた触手が全て抜け落ちた。それらはやがて独立した個体となって行動を始めた。その場に退屈そうに留まっているもの。芋虫のような動きで逃げ惑うもの。地中に逃げ込んで難を逃れようとするもの。リベリスタやバイデンフュリエの方に近寄ってくるもの。様々だ。麻衣はそれらに魔力の矢を放って駆逐した。だが、全てを消し去るには至らない。
「……気色悪い」
 吐き捨てるように言うが、既に意識は遠く、世界樹に向いている。あくまで、これは通過点に過ぎない。世界樹に至るまでに立ちはだかった、障害に過ぎないのだ。
「仲間が次々化け物になって殺し合いが始まるなんて、雰囲気は全然違うけど自分たちの未来を見てるようで気分ワルイな」
 牙縁はしみじみと言う。もし崩界の段階が極限まで上がれば、この世界のようになるのだろうか。そう考えると、やはり恐れを抱かずには、いられなかった。
「ようやったのう! 乙!」
 メアリは上機嫌でバイデンを称えた。だが、バイデンは微妙な顔をしている。共闘したとはいえ、それ以前は敵であったのだ。全てを分かり合えというのは無理がある。
「バイデンの皆さんは、お互い先を急ぐ事にしませんかのう?」
 その様子を見、九十九はすかさず提案する。
「どうしてもやると言うなら、相手をせねばなりませんが」
「貴様らが目指す相手は、強いのだろう?」
 バイデンはリベリスタに問う。
「ならば貴様らとやり合うより、貴様らと共に行く方が、よっぽど有益ではないか?」
「ああ、その通りだ」
 牙縁は同意する。重要なのは、この先だ。
「ならば行こう、世界樹の元へ」
 吾郎が先導し、他の者も続く。リベリスタの本当の闘いはこれからなのだ。


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れさまです。
 結果は以上の通りです。
 意思疎通は取れていない部分が多少ありました。クリティカルな部分でそれが為せていない場合は、それがそのまま失敗に繋がることもあります。
 今回の場合はリベリスタ自身だけでなく、バイデンやフュリエも考慮に入れられていたので、致命的とは言い難かったですが、それでもこのような結果となったのは回復の厚さ故でしょう。
 それではまたご縁がありましたらよろしくお願いします。
 皆さんの決戦の成功を祈っております。