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<恐山>闇金コブシ ~幕張ビル攻略戦~

●幕張爆破事件。その一般的認識。
 千葉県海浜幕張海側の高層ホテルの最上階が爆発し、大量の瓦礫や現金が降ってきたという事件が発生。
 原因不明。被害者不明。加害者不明。
 これほど大規模な出来事にも関わらず、現場を目撃した人間は空から金と瓦礫が降ってきたこと以外は何も覚えていないという怪事件である。
 だが現場周辺は様々な形で混乱。これ以上の混乱は犯罪の頻発を招くとして近隣区域は封鎖された。
 元々居住区の少なかったこの土地は、一時の平穏を迎えた……かに、思われていた。
 この影にフィクサード達の力があったことなど、一般人たちは知る由もない。

●南錠会 会長・鴇嶋良治
 高層ビルの窓ほど、ブラインドの必要性を感じない物はない。
 アレの一番いい長所は、指で僅かに開けた穴から外の様子をうかがえる所だ。
 勿論『だからどう』という話じゃあない。浪漫や気分の話だ。
 誰もが分かってくるとは思わないが。
「会長。敵性部隊、撤収して行きます」
「そうか……」
 海浜幕張海側エリア。京葉線鉄道を挟んだ反対側と比べ一般人の入りが極端に多い場所だ。
 朝はランニングやサイクリング。
 昼はショッピングにランチ。
 夜は公園近くでカップルがいちゃついている。
 だが今は……少なくともこの十日間は、あまり人が近づくことはないだろう。
 業務上過失に見せかけたホテル爆発事故。
 場所が場所なだけに、この高層ビル周辺は一時的に立ち入り禁止区域になった。
 勿論、魔眼や幻影、強結界を初めとするスキルを多用して起こした神秘的かつ人為的な事故だ。騒ぎに乗じてビル内は暫く貸切状態にさせてもらっている。
 元々は周辺の土地売買を一気に進めるための派手な仕事……の筈だったが、少々状況が変わってしまった。

「会長、いつまでこんなことを続けなければならないんです。若衆たちも不安がっています」
「分かっている。もう暫くの辛抱だ」
 部下を下がらせ、煙草に火をつける。
 こういう時に必ずマッチを使うのが俺の拘りだ。いや、映画への憧れを実現させているだけか。
 煙が天井へ昇って行く。
「もう暫くだ。この仕事が済めば、大騒動が起こる前におさらばできる」
 大騒動。
 俺の南錠会が直系に当たる組織、九美上興和会に起きようとしている『何か』。
 そう何かだ。全く内容が掴めない。俺達の手には余る大騒動だということだけは分かっている。
 その前兆として九美上興和会直系組織がいくつも壊滅している。俺達がその前兆とやらに巻き込まれる日も近いだろう。
 だから危ない橋を渡ってでも中国マフィアに渡りをつけ、高飛びの手段を用意させた。
 もう少しでおさらばできると言う段階になって……事務所が何者かに襲撃された。
 命からがら逃げだし、焦った俺達は営業停止中の(原因は俺達だが)ホテル内に転がり込んだ。
 そして最後の時間稼ぎに取った手段が……コレだ。

 監視モニターを起動させる。
 ややお高めの部屋に宿泊していたとみられる幾つかの家族が映っている。
 豪華な部屋に泊まっているというのに、表情は暗い。まるで紛争地域で捉えられた記者のようだ。
 そう。
 俺たちは今、あろうことか人質をとってビルに立て篭もっている。
 効果のほどは良く分からない。
 なにせ、人質をとったことなど産まれて初めてなのだ。
 正直、困っている。

●幕張ビル攻略戦
 地上49階建てのホテル内にて、フィクサード組織が人質をとって立てこもるという事件が発生した。
 彼らは人質に危害を加えるつもりこそないようだが、後日到着するであろう中国マフィアたちが彼等をどうするかは不明だ。
 事件の内容を知る一般人をそのまま放っておくとは思えない。何等かの処理はされてしまうだろう。
 そうなる前に、南錠会自体を攻撃・鎮圧させようというのが今回の任務である。

「南錠会は、インサイダー取引や土地売買、金融への融資などで莫大な財産を得ているフィクサード組織です。取引には神秘スキルを使用することもあり、戦闘よりもビジネスに長けたフィクサードと言えるでしょう」
 そんな彼らが(一般的には認知されていないとはいえ)態々人質まで用意して立て籠もりを図っているのは、何か大きな騒動から逃れるためと思われている。
「事情は何でも構いません。人質を救出、同時に組織も壊滅させましょう」

 人質が軟禁されている部屋は12階、24階、45階のそれぞれ一部屋ずつ。
 エレベーターの使用も可能。
 一ヶ所ずつ全力で攻めるやり方もあるが、騒ぎに気付いた組織の会長をみすみす逃走させてしまう可能性もある。
 幸いエレベーターも四つと言うことなので、4チームに分かれて同時攻略を狙おう。
 この際敵となるのは南錠会組員。及び、護衛としてついている中国マフィアのフィクサードだ。
「詳細な配置やスペックはこの資料に書いてあります。それでは、ご武運を」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:八重紅友禅  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 9人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年10月04日(木)22:35
八重紅友禅でございます
敵情報についての補足です。

●正面フロア
 南錠会組員5名と、中国マフィア2名が門番的な立場としてフロア内に常駐しています。
 まずは総力をあげて彼らを沈黙させましょう。
 この段階で襲撃はバレるので、連絡役を潰す必要はありません。

●各階層
 エレベーターを出てから(扉が開いてから)すぐに戦闘になると思われます。
 通路は狭く、どの部屋に一般人がいるかは今の段階では分かりません。
 デフォルトだと片っ端から蹴破ることになりますが、何らかのスキルを上手に用いるとその分作業が捗ります。
 一般人を確保したら、近隣のフィクサードを撃破した後、外へ逃がしましょう。
 別階層へ支援に回る余裕は、相当凄まじく上手くいかない限りないでしょう。
 以下、階層ごとの敵情報です。

・12階(エリアA)
 南錠会組員10名。
 全体的に戦闘力は低め。
 全員拳銃を所持。

・24階(エリアB)
 南錠会組員3名。
 サブマシンガン所持。
 中国マフィア4名。
 青龍刀やトンファー等を所持。戦闘力高め。

・45回(エリアC)
 この階層に至っては人質等の場所が判明しています。
 通路には南錠会組員5名。
 威力の高い銃を所持。
 最奥、インペリアルスイートルーム内には会長鴇嶋良治と、人質の少女がひとり。
 加えて中国マフィア2名。武装不明。ただし戦闘力かなり高め。

 全員殺害するルート。
 説得を試みるルート。
 その他何らかの解決法。
 やり方はお任せしますが、それによって難しさも変わります。
参加NPC
 


■メイン参加者 9人■
クリミナルスタア
関 狄龍(BNE002760)
マグメイガス
ラヴィアン・リファール(BNE002787)
クリミナルスタア
タオ・シュエシア(BNE002791)
クリミナルスタア
晦 烏(BNE002858)
マグメイガス
風見 七花(BNE003013)
ダークナイト
高橋 禅次郎(BNE003527)
レイザータクト
恋宮寺 ゐろは(BNE003809)
クリミナルスタア
アーベル・B・クラッセン(BNE003878)
覇界闘士
滝沢 美虎(BNE003973)
   

●幕張ベイ某ホテルビル一階フロント
 粗筋をあえて語る必要はないが、一応述べておこう。
 フィクサード組織南錠会がとあるホテルビルを占拠。人質を取って立てこもっており、これを撃破・鎮圧すべくアークリベリスタ達はまず一階のフロントへお邪魔したのだった。
「こんにちは、会長さんに御取次ぎ願いたいんですけどもー」
 かくして、アーベル・B・クラッセン(BNE003878)はフロントへ堂々と入り込み、周囲から銃や青龍刀を一斉に向けられていた。
「ま、そうなるよね」
 彼はアクセスファンタズムからヘビーマシンガンを顕現。薙ぎ払わんばかりに弾丸をまき散らした。
「中国マフィア? ちょっとパーパのトコに居た頃思い出しちゃったデス」
 味方の弾幕を潜り抜け、『靴の下の桃源郷』タオ・シュエシア(BNE002791)が南錠会組員の一人を殴り倒す。
 その背後より鉄パイプで殴りかかる男が居たが、軽く振りむいて眼をギラリと光らせてやった。
 ビクンと仰け反る男。
「隙ありーぃ!」
 十数メートル先から一足で飛んできた『泰拳小虎』滝沢 美虎(BNE003973)が男の顔面へ膝蹴りを叩き込む。鼻血を吹いて倒れる男。
 二人の男がスローモーションで倒れていく中、『錆天大聖』関 狄龍(BNE002760)が正面の扉を両手で開きながらつかつかと歩いていく。
 左右から中国マフィアが襲い掛かってくるが其々の方向へ向けた指を伸ばし交互にフィンガーバレット連射。
 血を吹き上げながらはじけ飛ぶ彼らを無視して奥のカウンターへと進んだ。
 その後ろからはショットガンを続けざまに撃つ『足らずの』晦 烏(BNE002858)、背後から掴みかからんとする相手に肩越しにフラッシュバンを放る『Le blanc diable』恋宮寺 ゐろは(BNE003809)、残った相手を纏めてチェインライトニングで焼き払う風見 七花(BNE003013)が続いた。
 フロントを守っていたフィクサード達が一人残らず倒れるまで、そう長い時間がかからなかったろう。
 カウンターのパソコンに電子の妖精でアクセスする『リベリスタ見習い』高橋 禅次郎(BNE003527)。
「監視カメラ映像と見取り図が手に入った。ビルコンは半分以上手動だから手が出せないが、充分だろ」
「おっけープリントアウトして回してくれ。ふんふん……」
 一方で天井を見上げる『突撃だぜ子ちゃん』ラヴィアン・リファール(BNE002787)。
「ラヴィアン・アイでまるっとお見通しだぜ。人質と敵の位置は……大体こんなもんかな」
 イーグルアイと透視のデュアルブートでそれぞれの位置を把握してペンでぐりぐり印をつけていく。かなり上手な使い方だ。
 それから彼らは四つ設置されているエレベータのうち三つに入ると、目的の階層ボタンを押した。
「悪のフィクサードはぶっ潰す! その上であんまり被害も出さないようにするのが正義の味方ってもんだ。じゃ、また後でな!」
 閉まるエレベーター扉。
 壁に寄り掛かった中国マフィアの一人が、ずるずると倒れて転がった。

●12階、南錠会組員10名。
 フロントの門番役が瞬く間に倒されたことで南錠会組員たちは荒れに荒れていた。
 とるものもとりあえず拳銃や鈍器類だけを持ってエレベーターフロアにぎゅうぎゅうに集まっていた。
 背中をつけあって動いているエレベーター3つへとバラバラに銃を向けている。
「おい、どっちから来んだ!」
「人質……人質はどうする?」
「馬鹿、そんなもん考えてられるか! 敵は何人できてるんだよ!」
「すまんよく見てなかった。ええと確か……」
「一階の連中を瞬殺できるくらいだよ! どっか一つか? 一斉に来るのか? とにかく開いたらせーので行くからな!」
「わ、わかった!」
 階層のカウントが動いていく。9、10、11――12。
 ぽーんという間抜けた音と共に開いた扉は一つだけ。
 彼らはわたわたと押し合いながら振り向き……そして固まった。
「い、いない……?」
 エレベーターのボックス内は空だった。
 念のため扉を抑えつつ操作盤等の影も覗き込んでみたがやはり誰も居ない。
「どういうことだ?」
「お前ら、アクション映画見てないのか?」
 銃剣のリロード音が背後で聞こえ、10人の南錠会組員たちは一斉に振り返った。
 もうお気づきだろう。
 禅次郎たちはエレベーターを途中で降り、自分は階段で上って来たのだ。
「ち、畜生馬鹿にしやがって! お前らやっちまえ!」
「「ヘイッ!!」」
「ストーップ」
 リーダー格の男が腕を突き出すまでコンマ五秒。若衆たちが銃を突き出すまでコンマ五秒。引っ張ってきた人質をゐろはが突き出すまでコンマ五秒。
「攻撃やめぇい!」
「「ヘォ――うおおわ!」」
 勢い余った若衆たちがつんのめって転ぶまでコンマ五秒。
「お、お前……」
「この状況でいうセリフじゃないんだけどさ、なるべく穏便に済ませたいんだわ。人質解放させてくれたら高飛び助けてやってもいーよ」
 ゐろはは後ろ手に縛った組員の口内に銃口を突っ込みつつ、そんなことを言った。
「全員武器置け」
「え、でも」
「いいから置け」
「う、うす……」
 のろのろと武器を置いて、手を上げる南錠会組員たち。
 禅次郎とゐろはは顔を見合わせ、同時に片眉を上げた。

●24階、南錠会組員3名、中国マフィア4名。
 エレベーターの扉が開くと同時に一斉射撃。
 当たり前ではあるが見える所には誰も居ない。
 後ろを警戒しつつ操作盤の裏にも捻じり込むようにマシンガン射撃を加える。
 南錠会の古株三人衆。彼等は若衆たちに比べて随分と場馴れしていた。
「いたか?」
「いや、ミニテーブルだけだ」
「なんでまた……」
 エレベーターの中にはハチの巣と化したミニテーブルが一脚あるのみ。
 一人が首を傾げつつエレベーターから出ようとした……その時。
「超必ゲージ、まんたーんっ!」
 エレベーターの上部ハッチを破って飛び降りてきた美虎が男の首を両足で締め頭に掌を添え、上半身を大きく絞って男の首を圧し折った。
 咄嗟に振り向いてサブマシンガンを向ける男達。
 だがその時には、美虎の両肩の上にストンと降り立ったラヴィアンが無数の魔方陣を展開していた。
「俺の高速詠唱より一秒ほど遅い、ゼッ!」
「ぐあ!?」
 葬操曲・黒、発動。
 二人の男が纏めて縛り倒された。
「しゃ、行くぜ美虎! 遅れんなよ!」
 その隙に二人はエレベーターのボックスから(肩車したまま)飛び出した。
『やられたのか!?』
『そうらしい!』
 中国マフィア達の声が聞こえてくる。
 曲がり角の所でラヴィアンが飛び降り、サッと手を翳す。ストップ・ザ・美虎。
 ラヴィアンはイーグル透視で角の先を確認。
「まだまだまだまだ――今だ!」
 横っ飛びに身体を出して葬操曲発射。
 一人を拘束した所で美虎が全速ダッシュ。脚をもつれさせて転ぶ中国マフィアの男を飛び越えると、その後ろにいた男の顔面に掌底。勢いに任せて押し倒しつつ更に向うの相手に回し蹴りで壱式迅雷を放った。
 男は素早くガードして青龍刀を投擲。
「うおっと危ねえ!」
 美虎の頭を馬跳びしたラヴィアンが歯で青龍刀をキャッチ。葬操曲で迎撃する。
 後ろのドアを勢いよく開けて最後の一人が出てきたが、美虎が後ろ回し蹴りで斬風脚を発射。手首を斬り落としてやった。
 起き上がった中国マフィアの男達が通路の前後で二人を囲む。異国の言葉で何やら言っているが、物騒な様子だ。
「やべ、話通じる連中全部倒しちまった」
「じゃあどうする?」
「そりゃあ勿論……」
 武器を構える中国マフィアの男達。
 ラヴィアンと美虎は背中を合わせてニヤリと笑い合った。
「やってやろうじゃん」

●45階通路、南錠会組員5名。
「一人も通すな、ぶっ殺せえ!」
 この階層は豪華な客室が多いだけあって通路も広い。
 五人の南錠会組員はライフルやサブマシンガンをそれぞれ構えて通路を塞いでいた。
 そこへアーベルがハニーコムガトリングしながら前進。
「やっぱりそうだよねえ、押し通らせてもらうよ」
「てこたァ、ここは俺らの出番だろ!」
 彼を追い越すようにして狄龍が突撃。
 身体で銃弾を受け止めると、走りながら十指を前に突き出して連射。
 彼の射撃で二人の組員がのけ反る。
 そのタイミングを狙って長い距離を跳躍するタオ。
 天井スレスレの所で空中前転すると、自分へ向いたライフルの銃口を踏んづけて下げた。
 顔面にワンパンしてバク転。先刻までいた空間をマシンガンの銃弾が抜け壁に蛇行した弾痕を刻む。
 着地と同時に地面スレスレに身を屈めて足払い。
 付け根まで剥き出しになった太腿が男の脛をすっこ抜く。
 倒れてきた所に狄龍がゼロ距離からフィンガーバレット射撃。
 男はメトロノームの如く反転し仰向けにぶっ倒れた。
 残る一人を両サイドから側頭部パンチを叩き込んで黙らせる。
「これで五人デス! 残るは――?」
 狄龍とタオは目を光らせて振り向き、目的の部屋へダッシュ。
 蹴破るようにドアをぶっ飛ばし、サーフボードが如く室内を滑りながら両サイドへそれぞれの銃を突き出した。
 全く同じタイミングで二人の額に銃口が当てられる。
 丁度、四つの腕と銃が交差し合った状態だ。
 一度組み換え、もう一度組み換え、状況が全く変わらないことを確認してから狄龍は中国語で語り始めた。
『まあ落ち着いて話を聞け。それとも落ち着かせて欲しいか?』
『ほう、どうやるんだ。もしかしたら俺も同じことができるかもしれないぞ、試していいか?』
『俺らに任せておけば面倒な事にはならずに済むぜ、なあ――』
 日本語に切り替える狄龍。
「組長さんよ」
「面倒事、な」
 窓際の椅子に腰かけ、ロングコートを背もたれにかけた男が一人。
 南錠会会長、鴇嶋良治である。
 彼のテーブルを挟んだ向かいの椅子では少女がチョコレートを食べていた。無論今は突然の荒事に固まっているが。
「人質なんぞ取ったからにゃ、憧れのシチュだろ?」
『どういうことだ?』
 中国語で返す鴇嶋。タオが片手を振った。
『与り知らぬゴタゴタから逃れるには悪い手じゃないと思うけど。このまま壊滅するか私らの案に乗るかじゃない?』
『……なるほどな』
 鴇嶋は立ち上がってコートを羽織ると、少女の頭に手を置いた。
「悪いな、おじさん達ちょっとお話するから、向こうの部屋行っててくれるか」
「……うん」
 少女は頷き、足早に部屋を去った。

●『リアルロマンチスト』鴇嶋良治
 窓辺のテーブル。
 鴇嶋の後ろには二人の中国マフィアが腕組みをして立っている。
 向かい側には烏と七花が座り、後ろには狄龍とタオ、そしてアーベルが立っていた。
 耳に手を当てるアーベル。
「12階と24階の制圧が完了したみたいだよ。南錠会組員は8割程無事。戦闘の流れで死亡した人数はこの階含めて4人ってとこかな。お、凄いね、12階は全員無傷だってさ。中国マフィアの人達は四人とも死亡を確認したって」
 通信機をテーブルに置く。
 ラヴィアンと美虎が傷だらけになりつつハイタッチしてる写真が表示されていた。後ろには人質の一般人が映っている。12階も同じような状況だ。
 片眉を上げる鴇嶋。
「凄い手際だな。あんたらどこの特殊部隊だ?」
「まあそれより話を進めようぜ、煙草は?」
 テーブルを煙草でトントンと叩きつつ首をかしげる烏。
 鴇嶋が黙ってマッチを擦った。火をつける。
「地上にいた敵性部隊な。アレ風紀委員会だ」
「風紀委員会てな……あの風紀か」
「そうだ。早急な南錠会壊滅が要求されてる。至らぬ場合は全隊率いて人質ごと爆撃するらしい」
「人質ごとって……マジかよ。風紀委員会はイイコちゃんの集まりじゃなかったのか?」
「正義の味方じゃないのは確かだな。次にあんたの巻き込まれてる大騒動についてだ。篠田組が壊滅したのは?」
「知ってる。一夜で資金まるごと失って兵隊も縞島組に吸収されたそうだが」
「九美上興和会幹部の椅子取り、及び九美上九兵衛九奥義を狙うパワーゲームの一旦だ。南錠会がこのまま組を続けるのは難しいだろ」
「やけに詳しいな……」
「まあな。俺達としては、人質と交換で解散の誓約書が欲しい。風紀と縞島にそれぞれ出して納得してもらうためだ」
 そこまで話してから、七花がテーブルに手を置いた。
「人質の安全な解放もできます。記憶操作で」
「記憶操作? できても直近一時間のアレでどうするんだ」
「手の込んだドッキリ企画と言うことにします。別の建物に移送してから記憶を植え付け、若干雑ではありますがそのまま解放します。皆さんも名前までは名乗ってないでしょう?」
「……確かそのはずだ」
「リーディングによる調査も挟みます。何かあれば交渉材料にできるでしょう」
「なるほど、そんな使い方があったのか。考えたな。今度使ってもいいか?」
「それはチョット……」
 苦笑する七花。
 アーベルがタイミングを見て手を上げる。
「南錠会の安全確保も考えてあるよ。『名もなきリベリスタの集い』っていうんだけど――」
「嫌に決まってるだろ殺す気か!」
「え、だめ?」
「風紀委員会から枝分かれしたリベリスタ連中だろ? 一般人ならともかくフィクサードの俺らなんざキャンプファイヤーの薪みたいにされるぞ」
「そ、そうかな……」
 知らぬ単語が出たので解説するが、『名もなきリベリスタの集い』とは神秘非神秘問わず悪人を制裁してきたフィクサード組織の中で一般人保護の意識によってリベリスタ化した集団のことである。彼らは現在敵対しており、南錠会にとっては敵の敵になるのだが、味方というわけでもなさそうである。
「まあ、アンタ等の助けがあれば暫くは持ちそうだ。とりあえず明日の朝まで待ってくれ。迎えの船が通ることになってる。条件は人質の解放だけか?」
「と言いたいけど、今後神秘による不正を行わないことも含めたいな」
「そりゃ厳しい。禁煙でもするつもりで頑張るか……」
 鴇嶋は煙草でテーブルを叩いた。
「ところで煙草、吸ってもいいか?」
 烏は黙ってマッチを擦った。

●そして歴史は動き出す
「すみません! ほうとうにすみませんでした! お詫びは必ず!」
 七花たちの尽力によって人質は無事に解放。皆酷く不満そうではあったが、意地悪なテレビ局スタッフがいたということにしてもらった。
「……ていうか全員一般人だよね?」
「そうだが、どうした。酷い詐欺にでもあったのか?」
 ゐろはたちは一般人をさっさと送り出し、別の仲間と合流する。
「メール送信完了、と。こっちは明日でいいよね?」
 すぐにでも留まって貰いたい風紀委員会には解散の旨を書いた誓約書をPDFで予めメール送信し、追って郵送したい旨と携帯番号を書いて送った。縞島組には後日普通に郵送する。
 ……かくして彼らは翌朝を迎え、幕張から若干離れた海岸へと訪れたのだった。
「悪いな、見送りまでさせて」
「構わんよ」
 手を振る烏。鴇嶋の部下達が停泊されたボートへと乗り込んで行った。
「あれで国外逃亡か?」
「まさか、この近くを輸出コンテナ船が通るんだよ。普通なら港からしか載り込めないが、俺達なら神秘の力で飛んだり登ったり……おっと、これも神秘の不正に入るのか。まあ、縄でも伝って乗り込むさ」
「そうか、海外でも元気にやれよ」
「ああ……火、くれ」
 煙草を突き出す鴇嶋。烏は自分の煙草の火をそこへ押し当てた。
 じりじりと類焼する葉。
「じゃあな」

 コンテナ船は小さくはあるが見えていた。ラヴィアンのイーグルアイならはっきり視認できるだろう。
 ラヴィアンは腕組みしながら遠のくボートを見つめていた。
 そして、びくりと肩を震わせる。
「……え」
「どうした?」
「いや、ボートが」
 彼女が唇を震わせる。その途端、遠くで鴇嶋たちの乗ったボートが爆発した。
「なああ!?」
 身を乗り出す狄龍と美虎。
 その後ろで、禅次郎の携帯が鳴った。
「…………」
 広域スピーカーに切り替えて通話ボタンを押す。
『どうも、風紀委員会ですけど。国外逃亡用の船は沈めさせてもらったわ』
「…………」
『悪党連中に書類だけ作らせて国外に放つとかナメてるの? あいつらはこれまで神秘で不正を働き続けた連中なのよ。外に出ても顔変えて同じことするに決まってるでしょう』
「だからって……!」
『黙れ偽善コバンザメ。悪党潰しの前に貴方達を潰さなきゃダメみたいね。不本意だけど、こっちも最後の手段を使わせてもらうわ』
「最後の手段?」
 目を細めるタオとアーベル。
『次は九美上興和会であいましょ。その時は、どっちかが死ぬときよ』
 一方的に通話が切れた。

 波に乗って煙草のケースが流れてくる。
 烏は黙って、煙草を海へ投げ捨てた。

■シナリオ結果■
大成功
■あとがき■
南錠会は壊滅。
今回の結果を受けて風紀委員会が完全に敵に回りました。
この事実がどのような未来を生むか、それはまだ分かりません。

12階エリアの見事な攻略。
24階エリアでのかなり息の合った連携プレイ。
綿密な裏付けに基づく交渉(人質解放の方法は特に見事でした)と狄龍さんやタオさんがここぞとばかりに持ち味を出す見せ場などなど。
非常に完成度の高いプレイングでした。
よって、大成功判定とします。