● ある河川敷の下の川に、河童が出るらしい。 いつからか、どこからか、そんな噂が流れている。 緑色の総が縁取る皿を頭に乗っけた、緑色の身体をしている、そんなよくいる河童だ。 なんでも、その河童は悪い人間を川の中へと引きずりこみ、水の底の世界へ連れて行ってしまうとか―― 夕暮れの河川敷の下に、ふたりの若者がいた。 方や女子、方や男子。所謂、恋人という間柄の二人組だ。 若い男女はその河川敷の下で、愛を語らっている最中である。 人通りの少ない河川敷は、噂話の発端であると同時に恋人たちのベストプレイスでもあった。 「ねえ、ここって例の河童の噂の場所じゃないのー?」 「大丈夫だって、そんなのただの噂だよ」 こわーい、と高い声で笑った女に、男も笑い返す。 噂は噂。河童なんて想像上の生き物であるし、いるはずがない。 それよりも今は恋人としての逢瀬を楽しもうではないか。 男はちょうど飲み終えたばかりの缶ジュースのゴミを手から放り投げ、女へと寄り添う。 その姿を、見ている影があった。 影はだんまりと、放り出された缶ジュースのゴミを見上げている。 そうして放り出された空き缶は、影へとこつんと軽い音を立ててぶつかった。 「…………、」 そのままぽちゃりと川へと落ちた空き缶を手にして、影がうごめく。 ゆらりと水面から姿を現した影の正体。 ――それはまさに、河童であった。 ● 憎い、憎い、憎い。 笑い合う男女を今日も今日とて川に引きずり込み、一仕事を終えた河童が河川敷で黄昏ている。 河童が出没すると噂が流れ始め、ここへ足を運ぶ人は減った。 それでも、人通りが少ないという利点が恋人たちを高揚させるのが人足が完全に途絶えることはない。 ああ、憎い。 河童は手にしていた空き缶を、ごみ溜めのドラム缶へしっかりと片付けて顔を歪ませる。 ひとの住みかに気まぐれに現れては、ゴミを持ってきて、いちゃいちゃして。騒いで、いちゃいちゃして。いちゃいちゃして……。 「チッ」 河童が舌打ちをした。 隠すことない正直な悪態を吐いて、ぎりぎりと歯軋りをする。 そう、河童は妬んでいたのだ。 本当は正直ゴミとかどうでもいい。 ゴミとか別に掃除すればいい。掃除は嫌いじゃない。 河童にとって川が汚れるのも確かに嫌だったが、それよりも目の前で男女が仲睦まじくしている姿に苛立つのだ。 凄まじい形相でどすりと地団駄を踏んだ河童が、苛立ちを吐き出す。 ひとの住みかでいちゃいちゃしおってからに。 怨念の篭った溜め息をひとつ吐き出して、河童は苛立ちを昇華すべく目の前の雑草をぶちぶちと引き抜いた。 河童は独り身だった。 少子化を辿る一途、河童という存在自体が少なくなり、いつからか想像上の生き物として扱われるようになり。 各言うこの河童も、他の河童と会うことは少なく、何より出会いがない。 そんな毎日がかなしい。さびしい。そしてひもじい。 だからこそ、そんな独り身河童の前でいちゃいちゃする出会いある若者が妬ましくてしょうがない。 リア充なんて滅ぶべきだ。河童は隠すことなく嫉妬を吐露する。 その嫉妬は、河童の存在までも変異させてしまった。 そして。 再び聞こえてきた足音に、河童はまた水面下へと身を潜めていく。 どうせまた、来るのは恋人なのだ。 そんな奴らなど、間を見て、今までと同じようにまた水面の世界に引きずりこんでやればいい。 ――ある河川敷の下の川に、河童が出るらしい。 いつからか、どこからか、そんな噂が流れている。 そして今日も。 水の底の世界からリア充たちを見上げて、河童は息を潜める。 河童はひとり、誰かを水の底の世界へ引きずりこむその瞬間を待っている。 ● 「秋といえば河童だね」 ブリーフィングルームへと集まったリベリスタの面々を見て、『リンク・カレイド』真白・イヴ(nBNE000001)が言う。 秋といえば、河童。よくはわからない。 首を傾げて顔を見合わせたリベリスタたちを見つめて、イヴは言う。 「秋といえば、河童だね」 二回目だ。 どことなく真剣そうな顔に気圧されて、おずおずと頷く。 秋といえば河童。そうだろうか。そうかもしれない。そうだったような気がしてきたかもしれない。 各々に相槌を打ったリベリスタたちを見て、満足そうにひとつ頷くと、イヴは話をはじめる。 「ある河川敷の下に、河童が出るの。よくいる普通の河童なんだけど」 河童がよくいるものであるかどうかはわからないが、想像上どおりのポピュラーな河童である。 緑色の肌と頭のお皿、それを縁取る緑の総。河童らしい河童だ。 「とても嫉妬深い河童で、恋人たちを妬んで水中に引きずりこんでしまうの」 そして、その河童はE・ビーストである。 ただの河童であればともかく、エリューションであるならば、放ってはおけないだろう。 嫉妬深い河童をおびき出すのは、とても簡単だ。 河川敷で恋人らしく振る舞えば、きっとすぐにでも出てくる。 きゅうりで釣ってみるのも手だろうか。本当にきゅうりが好きかどうかを知ることが出来るかもしれない。 「河童をおびき出すと、川汚れから発生したE・エレメントも出てくるから」 河童の他にも、淀んだ水から出来たE・エレメントが3体。 川掃除を好む河童を手伝うように、現れるらしい。 どちらにおいても特筆して強い存在ではないが、それでもエリューションであるならば、どうにかしなくてはならない存在だ。 河童の嫉妬に同意するも、恋人たちのベストプレイスを大事に思うもそれは自由。 ただ、悪さをする河童退治をするだけである。 「河童もひとりで寂しかったのかもしれない。けど、やっぱりひとを傷つけるのはよくないよね」 だから。この秋、リベリスタたちには河童退治へと出向いてほしい。 秋といえば河童。 静かなブリーフィングルームで、イヴはごり押すように3回目となる呟きを零した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ここの | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月29日(土)22:27 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●河川敷のラブロマンス? 夕暮れに染まった、ある河川敷の下。 その日、河童はいつもと同じように川を漂っていた。 流れてくるゴミを拾い集めては片付けるという一仕事を終えて、休憩をしている最中だ。 だが、河童はふと聞こえてきた声に水中へと身を潜める。 どうせまた恋人たちが来たのだろう。ここは人間の恋人たちにとって逢瀬を重ねるには都合のいい場所のようだ。 河童はぎりぎりと無意識に歯軋りをしながらも、しかし川縁からは目を離さない。 それは間を見て、恋人たちを川の底へと引きずりこむためだ。 訪れた人影に目を細めて観察を続けながら、河童はぎりぎりとまた歯を軋ませた。 しかし。 そうして、やがて訪れた人影の正体に、河童は目を瞬かせる。 河川敷に訪れる恋人たちは、河童にとっては妬ましい限りだが決して少なくない。 その年齢層も幅広く、河童はいままでたくさんの恋人たちを見てきた。 だが、河童はその日、いままでにないスタイルの恋人たちを発見したのである。 なんとその恋人たち。なんと、なんと――男1人が、女を2人も連れている! 河童は目をひん剥いて、その様子をつぶさに観察した。 なんということだ。あれがいわゆる両手に花というものか。 知ってはいたが、河童は実際にその目で見るのははじめてであった。 河童がそうして驚愕を露にしているうちにも、とうの恋人たちが愛を語らいはじめている。 河童にとっては未知の世界であるその光景に、河童は思わず見入っていた。 「ななせ……今日もキミのあほ毛はキューティクル&プリティー。元気で明るい笑顔はオレのオアシス……」 リベリスタたちはその日、河童退治をすべく河川敷へと訪れていた。 こうしてここで恋人のふりをすることで、河童をおびき出す作戦である。 女性陣で両隣を固めた『闇狩人』四門 零二(BNE001044)は、そうして男らしい渋みのある笑みを浮かべて、語りかける。 この川に住んでいる河童も、おそらくどこからか様子を見ているはずだ。 おびき出すためにはロマンスの演出はもちろん、演技にも箔を付けて挑まねばならない。 その迫真の演技に触発されるように、『シトラス・ヴァンピール』日野宮 ななせ(BNE001084)も微笑みを返した。 「もう、四門さんったらっ」 そうして、零二と恋人のように腕を組みながら、恥らって見せれば。 まるで初々しい恋人のような空気がそこには流れる。しかし、しかし。それだけではない。 そう、零二の恋人役はななせだけではないのだ。 彼はまさに今、男の中の男の夢である両手に花というシチュエーションを実現しているのである。 うらやましい。実に、うらやましい。 ぐぬぬ。河童が呻く。その間にも、恋愛劇場は続いている。 「にふふ~♪ れーじれーじ、ミミルノおなかすいたの~」 もうひとりの恋人、『くまびすはこぶしけいっ!!』テテロ ミミルノ(BNE003881)が、ななせと反対の腕にもたれかかる。 そうやって甘えて見せれば、なんともうらましい桃色の空間が進化に進化を重ねて完成した。 右を見ても花、左を見ても花。 ふたりもの女性に甘えられている渦中の男は、しかし焦ることもなく言葉を返している。 「テテロ……今日もキミはせくしーだな……。そのピュア&コケティッシュな瞳が百万ボルトだから、乾杯でディスティニー。日が暮れたら、3人でパーフェクトなディナーにでも洒落込もうじゃないか」 「わぁい、うれしいの~♪ あとね、ミミルノななせちゃんとおそろいのアクセがほしいの~」 「素敵ですね。3人でおそろいのものを買いましょう!」 ほわんほわん、とまるで花が飛びそうなほどに桃色の空間がじわじわと河童の心を抉るようだ。 これが、モテる男というやつなのか……!? ぎりぎり。ぎりぎり。 河童の歯軋りは度を増して強くなっている。 うらやましい。憎らしい。妬ましい。 そんな、ぐるぐると黒々しい気持ちが河童の心を駆け巡っていた。 やがて、河童はその胸の痛みに耐えられず、視線を逸らし別の組の恋人へと目を向ける。 そして、そこで見たものは……! 「ねぇねぇセシルさぁん、そこでごはんにしよーよう。えへ。わたしねぇ、きゅうりもってきたんだぁ」 セシルさんが好きだと思って。きゃっ。 そう言って、恥ずかしがる様子を見せる『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)。 しかし、大胆にも彼女は腕を絡めて寄り添った『ソリッドガンナー』セシル・クロード・カミュ(BNE004055)へときゅうりを差し向けた。 そう、いわゆる「はい、あーん」という恋人となれば一度はしてみたい憧れのシチュエーション! 河童は、あんぐりと口を開いた。 憧れのシチュエーションがかなりうらやましい、というのもある。 しかしそれよりも、河童の関心を引いたのは別の場所であった。 なんと彼女たち、女性同士の恋人なのである。 これはたくさんの恋人たちを見てきたこの河童にも、はじめてのことだった。 なんてことだ。だがしかし、これはこれで。 ちょっとばかし頬を染めて、しかし河童、ふたりの様子を凝視している。 「ありがとう、旭。とっても、美味しいわ。でも、食べ物よりも……貴方のほうが、美味しそう」 あーん、ときゅうりを食んだと思えば、なんとも大胆な発言が飛び出す。 きゃっ。河童は思わず小さく声を上げて目を覆った。 河童には少し、刺激が強すぎたのかもしれない。 けれど、興味は膨れ上がって仕方ないから、河童はそろりと指を視界から退けて、おそるおそる視線を戻す。 「やーん、セシルさんたら大胆なんだからっ」 きゅうりの粒ついてるよ、なんて指先で拭って食べちゃったり。なんて、しちゃったり。 なんて、なんてうらやましい空間なのだろうか。 ふわりふわりと飛んでくる桃色の空気が心に突き刺さるようで、河童はふるふると震える。 新しい世界への扉を開きそうになりながらも、ふるふると震える。 こんなラブロマンス、見たことがない。 妙にレベルの高い今日の恋人たちに、河童はやるせなさに涙を流し、強くそう思った。 そのときだ。 ――ぽちゃん。 音を立てて、目の前にきゅうりがぶら下がった。 女性たちが目の前で美味しそうに食べていた、あのきゅうり。 あーんしてもらいてえ、そして食べたい。そう思っていたあのきゅうり! 河童もきゅうりが大好きだったが、いまではお供え物も少なく滅多に食べられないあのきゅうり!! きゅうりが、目の前にぶらさがっている。 何故こんなところに、一体どうしてきゅうりが。そうも思ったが。 河童は愛しさと切なさと悔しさと妬ましさをない交ぜに抱えて、振り切れたテンションできゅうりを見つめる。 そして。 河童は目の前の久々のごちそうに向けて――ばしゃんと大きな水音を立て、飛びついた。 ●かっぱ が あらわれた! 「おじーちゃんが言っていたことが本当なら、こうやれば河童が連れるはずです!」 子供の頃は秋になるとこうやって河童を釣ったものだって、よく話してくれたんです。 しみじみと、『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)が頷きながらきゅうりを餌に釣り糸を垂らす。 その様子を茂みに隠れながら、『むしろぴよこが本体?』アウラール・オーバル(BNE001406)もその様子を伺っていた。 「本当にきゅうりで河童なんて、釣れるのか?」 「さぁ……、まあやってみて、損はないんじゃないかな」 『不機嫌な振り子時計』柚木 キリエ(BNE002649)も頭を振りながら、相槌を打つ。 とりあえず、秋に河童を釣るなんてことは聞いたことがないが。 おじいさんに騙されているのか、はたまた本当のことだったのか。 ふたりは茂みに隠れながら、恋愛劇場と秋の河童釣りの様子見を続けることにした。 その、すぐ後のことだった。 ばしゃんと大きく水面が音を立てて揺れ、そして――現れた、緑色の物体。 「「「か、河童だーーーーー!!!!!」」」 リベリスタたちが、思わず声を上げる。 河童だ。本当に釣れてしまった。 河童が確かに目の前に現れ、きゅうりを貪っている。 久々のきゅうりを一身に噛み砕き、そしてあっという間にごくんと飲み込んだその姿。 その姿はまさに、河童らしいポピュラーな河童だった。 緑色の体躯、頭を飾る皿とそれを縁取る緑色の総。どこをどう見ても正に河童である。河童以外の何者でもない。 そんな河童を目の当たりにしたリベリスタたちは思わず叫び、そして。 河童の後方から音を立てて現れた水玉たちに気付き、慌てて戦闘態勢へと入るのだった。 いつもと何やら様子が違う。 河童も薄々とそんな気はしていたが、決定的に気付いたのはこうして恋人たちと対峙したときだった。 いつもなら河童を見て固まっている恋人たちを、水底の世界へと引きずりこむだけの簡単なお仕事だったのだが。 何やら、この恋人たち。雰囲気が、違うような? そんな風に河童が狼狽している間にも、リベリスタたちは容赦なく戦闘を開始した。 真っ先に駆け出したのは、舞姫だ。自らの武器である黒曜を握りしめ、先に水玉へと狙いを定め攻撃をしかける。 その様子を横目に見ながら、ななせが河童へとメガクラッシュをしかけ、河童を水玉たちから引き離した。 これで少しは、河童を抑え水玉から撃破するにしても、やりやすくなることだろう。 「零ニさん、お願いしますっ!」 そうして。 河童の抑え役を買って出ていた零ニも、ブロードソードを構えて河童と対峙する。 先ほど両手に花といううらやましいシチュエーションの渦中にいた零ニを見て、河童の目つきが変わるのが分かった。 目の前のモテ男を見たその瞬間、河童の中でない交ぜになっていた黒々しい感情が再び駆け巡ったからだろう。 くそ、このリア充め! ぎりぎりと歯軋りをする河童に、零ニは言い放つ。 「リア充が憎いだと? 貴様の目は、何を見ている……!」 語りかけるようなその声に、しかし河童は耳を貸さなかった。 いや、貸すことが出来なかったのだろうか。 うらやましい。憎らしい。妬ましい。妬ましい、妬ましい、妬ましい! 異常なほどの悋気が河童の心を膨れ上がらせ、河童は衝動の赴くままに、鋭く研ぎ澄まされたその爪を振り上げる。 それを見やり、一息小さく溜め息を吐いて。 止まることを知らない澱みのない連続攻撃で、零ニは河童を迎え撃つのだった。 ――その一方で。 リベリスタたちは、川汚れから発生した水玉を叩き潰すように応戦していた。 「幸せな他者を妬む事は、あまり感心できることではないものの……」 その自然な感情は責められるではないし、むしろ可哀想、だね。 仲間の体力を注意深く確認しながら、キリエは呟く。 ひとりであるということは、ここまで心を弱くするものなのか。 可哀想ではあるが、しかし。世界に害する存在である以上、同情の余地はない。 「なんにしても、さっさと終わらしちまおうぜ?」 自らが担当する水玉へ、ジャスティスキャノンを打ち込んだアウラールがライフルを構えなおす。 仲間へと射線を通さないよう、注意深く立ち位置を気にしながらも、攻撃の手は止めない。 はやく水玉を倒し、河童の討伐を手伝わなくてはならないからだ。 ちらりと河童と応戦する後姿を視界に納めながら、アウラールは水玉へと視線を戻した。 「そうなの~はやく、れーじのおてつだいをしなくちゃいけないのっ」 それと同じくして、ミミルノも仲間を支援するように防御のための効率動作を共有する。 防御力を大幅に高めることで、戦闘が少しでもやりやすくなるように。 そして、それに続くように。旭が、セシルが。水玉へと攻撃をしかけていく。 雪崩のような威力をもってして叩きつけられ、急所を打ち抜かれ。 ――ばしゃん! 一際大きな音を立てて、そうしてまず1体の水玉が消えた。 元々、水玉自体はそう強いものでもなく、体力からして強大なものではなかったのだろう。 思うよりも早く掻き消えた水玉に、リベリスタたちは思いを新たに武器を握りなおした。 その様子に慌てたのは、残りの水玉たちだ。 掻き消えた水玉の敵を取るかのように、水鉄砲がリベリスタたちを襲う。 けれど。 「……そうだね、早く終わらせよう」 そう、一言。 仲間の言葉に頷いたキリエが気糸を伸ばして水玉を貫き、残り2体の水玉も、あっけなく姿を消すことになったのだった。 ●河童だって恋がしたい! 「嫉妬でリア充爆発させちゃうなんて、サイテーだよねー」 早くも合流したリベリスタたちは、河童たちを囲むようにして戦闘を続ける。 舞姫の言葉に河童はふるふると震えたが、しかし舞姫はその様子を気にせず言葉を続けた。 みんなぼっちでも、悲しくても、辛くても、我慢しているのだと。そして、何より。 「何が……何が、出会いがないだよ!」 知ってますか? 完全なひとりぼっちより、みんながいる中で一人アウェイ状態の寂しさ! 半笑いで、空気になっているだけの時間を! 「――コンチクショウッ、リア充爆発しろ!!」 お、おう。 そう頷きかけた河童目掛けて、舞姫の気持ちを代弁するように澱みのない連続攻撃が襲い掛かる。 完全な八つ当たりだ。しかし、その攻撃は河童にとってかなり手痛いものとなる。 それはその攻撃によって、河童の身が麻痺してしまったからだった。 それでも。 痺れに身体を固まらせた河童に、それでもリベリスタたちは続けた。鬼のようであった。 「かっぱさんもすてきないあいてをみつければいいのっ!」 「そうだよ! ひがんでも余計さみしいだけだよ!」 ぐさり。ぐさり。 可愛らしい女性陣からの言葉が、河童の胸に突き刺さる。 それだけでも大ダメージであったのに、物理的な攻撃もされたものならたまったものではない。 この次点で、河童は見も心も襤褸切れのようであった。 しかし無常にも、なおも追撃が止むことはない。 「出会いの数が、全ての運命にとって平等に用意されている訳ではない。……それが遅いか、早いかもあるだろう」 だが。そこで、零ニは一度言葉を切り間を置く。 それは、最終宣告を受け渡すかのような、ひどく悠然とした物言いだった。 河童は襤褸切れのような体で零ニを見上げ、その言葉を聴く。 イケメンの言葉など、河童には憎らしいだけのものだ。いや、そのはずだった。 けれど、疲れ果てた河童の心では、もはや黒々しい感情さえも枯れ果ててしまったのだろうか。 おかしなことに、河童の心はいまではどこか凪いでいるようにさえ思う。 「誰もが、唯一の誰かと添い遂げる為にどれだけの勇気と努力をしているのか。貴様は、それをこそ思うべきだった。向き合うべきだった」 同じ川の中で、水底で。何故、留まり続けた? 待つだけではなく、何故前に進まなかった? 問いかけるような、その言葉が河童の心に染み渡っていく。 そして。 「――貴様がこうなる前に出会い……語り合いたかった」 零ニの繰り出した、最後の一撃が河童を圧倒する。 嗚呼、自分は間違っていたのか。 崩れ落ちる、その瞬間。河童はそう思った。 しかし、不思議とそこに後悔はなかった。ただ、願うならば。 次の人生で目覚めるときには、語り合える仲間、そして――恋人に出会えたならば。 狭まってゆく視界の中で、河童はただそれだけを思い、願い。そして、その命を終えた。 ●きゅうりは添えるだけ 「気休めだけれど、ゴミの一つも拾って帰ろうか……」 川縁に溜まっているゴミを、ひとつ拾い上げて。 リベリスタたちは心ばかりの、川掃除をする。これが、せめてもの弔いになるだろう。 幾分か綺麗になった川縁に、たくさん持ってきたきゅうりもお供えすれば完璧だ。 瑞々しいきゅうりを添えて、リベリスタたちは頷きあう。 しかし、それにしても。 ――どうして、秋といえば河童なのだろう? 頷きあいながら、首を傾げて。疑問をひとつ。 その疑問に答えられる者はいなかったが、あえて言うとすれば。 とにもかくにも。秋といえば、河童なのである。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|