●くれなゐの秋 冴え冴えとした月が浮かぶ夜。 紅に染まる葉は秋風に揺れ、さやさやと静かな音色を奏でる。 遠く近く、辺りに響くのは虫の声。ゆるやかに訪れながらも次第に過ぎ去っていく季節を彩るかのように、深まる秋の色は満ちてゆく。 月を見に行こう。 アーク内の一室にて。昨晩に見た月と紅葉の様子を語った『ジュニアサジタリー』犬塚 耕太郎(nBNE000012)が明るく笑い、集った仲間達に誘いをかける。 「真ん丸な月を見上げるとさ、遠吠えしたくなるよな」 「それは耕太郎だけだと思うけど。……兎も角、紅葉と月見か。悪くないね」 彼の話を聞いていた『サウンドスケープ』 斑鳩・タスク(nBNE000232)は一部には首を傾げながらも、誘いには興味深げに頷き、月と紅葉の夜間観賞に賛同した。 月が綺麗に見えたと耕太郎が語ったのは、近所のとある自然公園だ。 「何の変哲もない普通の所なんだけど、意外に良い場所なんだぜ!」 煉瓦で舗装された散策路や中央の噴水広場、雑木林などがある公園はそれなりの広さを誇っているらしい。月見である以上、向かうのは夜になるが、辺りには街灯も燈っているので仄かにライトアップされた紅葉を眺められる。 「深夜の公園って、何だか少しだけわくわくするものがあるね」 タスクは夜の情景を想像し、双眸を薄く細めた。 また、公園には散策路や噴水の他にちょっとした遊具が設置されている場所も有る。あまり騒ぎ過ぎてはいけないが、童心に帰ってブランコやシーソーで遊びながら月を仰ぐのも楽しいかもしれない。 「じゃあ夜になったら各自で集合! そうだ、寒いからみんなも温かい格好してこいよ」 耕太郎は無邪気な表情を見せると、嬉しげに尻尾を振る。 ひとりでのんびりと月を見上げるのも良いが、仲間や友人と共に過ごす方が彼にとっては楽しいのだろう。約束な、とタスクと視線を交わしあった耕太郎は仲間達に向けて満面の笑みを湛えた。 続く路には仄かな月光が降り注ぎ、周囲は鮮やかに色付く紅葉。 落葉の絨毯が広がる様はきっと、穏やかな心地と季節の流れを感じさせてくれるはずだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:犬塚ひなこ | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月01日(木)22:52 |
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■メイン参加者 19人■ | |||||
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秋めいた夜のひととき。 随分と肌寒くなった今日この頃、秋も深まってきたように思える。 煌々と輝く月の下、赤く染まった紅葉を見ながら季節を楽しむのも悪くない。そう思い、辺りを見渡した琥珀は静かな公園の隅で月見酒を楽しんでいた。 「紅葉も綺麗に染まって安心だな」 世界の揺らぎを危惧していた琥珀だったが、季節の移り変わりが訪れたことに安堵を覚える。 こうしているうちにもきっと、あっというまに寒い冬が訪れるのだろう。 だからこそ今宵を楽しむべきだ、と彼は思う。 「月も綺麗だし気分良いな」 四季が巡るという当たり前の出来事に心地好さを感じ、琥珀は秋の風に身を委ねた。 夜の公園でひとり佇み、三郎太はゆっくりと空を見上げる。 思えば、自分がアークに所属してから幾許かの時間が過ぎていた。静かな宵の空気に包まれながら、三郎太はかの異世界が向かう結末ついて考えを巡らせる。 「答えなど、本当はないのかもしれません……」 月光の下で小さく呟かれた言の葉は夜風に紛れて消えてゆく。 それでも、きっといずれはどちらかを選び取らなければいけなかったはずだ。正しくても、間違っていても、運命は二者択一を迫ったのだから。 「そして、ボクは僕なりの結論を出さないといけない」 三郎太は最後に強い決意を抱くと、夜色の天涯へと思いを馳せた。 月を見ても遠吠えはしないけれど、光が綺麗だと思う気持ちは同じ。 厚手のケープに身を包み、ベンチに腰掛けたそあらは温かな湯気を立てる紅茶をそっと傾ける。 「月もお星様も綺麗なのです」 空気がしんと冷え込んでいる方が空が澄んで見えるのは不思議だ。そあらは身体に燈るあたたかさと肌を撫ぜる寒さの両方に感覚を寄せる。ひとりで空を見上げる中、ふと思うのは大好きな人のこと。 「ひとりではしんみりでも、隣に居ればきっとさびしい気持ちも薄れるはずなのです」 今度はもっと星が綺麗に見える場所に連れて行って貰おう。 そう決意したそあらは彼を想い、小さく息を吐いた。 「秋だなあ!」 色付く景色と優しい月光。ジャングルジムの天辺から夜空を仰ぎ、夏栖斗は明るく笑む。 朱と黒のコントラストが彩るのは秋色の景色。今宵、公園には観月と紅葉狩りを目的とした仲間達が集い、それぞれに情景や遊びを楽しんでいた。 「おお! これはみごとな明月なり!」 ベルカも月を見上げ、尻尾をぱたぱたと振る。ここはひとつ「わおーん!」と遠吠えしたいところだが、ご近所の同胞の野生を呼び覚ますまいと、ベルカと耕太郎はぐっと堪えた。 「皆さんで一緒に遊ぶの、楽しみにしていたんです」 小さく微笑んだミリィは滑り台の縁に腰掛け、皆と共に夜の遊具遊びに興じる。今までこうして公園で遊んだ経験のないミリィ故に、何だか今の時間はとても新鮮に思えた。 「よーし、こーたろー! 野球ボールだぞ。ほれ、とってこーい!」 「おう! って俺は飼い犬じゃねー! ミリィも呼んで普通にキャッチボールしようぜっ!」 竜一の投げたボールを素直に取りに行きそうになりつつも耕太郎は首を振る。怒りながらも何処か楽しげな少年と竜一が遊ぶ様を見守り、悠里もそっと笑んだ。 其処に微笑ましさを覚え乍、悠里は仲間のために用意した弁当を取り出す。 もちろんそれは手作りであり、それなりの自信作だ。料理に期待をした仲間達が広げたシートに集まってくる中、自分なりの妙案を思い付いたらしきミミルノが弁当箱に近付く。 「わーい! みんなでたべるの~。だからミミルノがはこぶの~」 皆のために運んで並べる、と思わせ――ふっと笑った少女は全ての弁当を抱えて駆け出した。 「このおべんとーはミミルノがいただいたのっ!」 「ぼ、僕のお弁当……」 一陣の風の如く、だっしゅする少女を悠里が茫然と見つめる。 だが、すぐに反応した椿がミミルノを追う。不幸な事に、逃げた少女が抱えた弁当には彼女が用意した物も含まれていた。姉の立場として、前日に好物を問えば耕太郎は元気良く「肉!」と答えた。 それゆえに骨付き唐揚げを用意した椿は、気合いを入れてお弁当を持って来ていたのだ。 「そうはさせへんよ!」 回り込んだ椿がミミルノの進路を塞ぎ、すかさず快やベルカが駆ける。 そんな追走劇の果て、弁当ごと取り押さえられた少女は頬を膨らませ、ぷいとそっぽを向いた。 「こたろーくんとたすくくんとすたらゆーいべんとうをいっしょにたべたかっただけなの~」 「え、俺たち?」 事件の動機に驚いたのは耕太郎とタスクだ。 しかし、ただ独り占めしたかったのではないと分かったならば、それ以上咎めることも出来ない。結局は当初通り、皆で仲良く食べるということで事態は丸く収まった。 そして、快の音頭を機として夜の観月会が始まりを告げる。 「それじゃあ、素敵な秋の夜に乾杯」 大人組は杯を、未成年はお茶やジュースを其々に掲げて乾杯を交わしてゆく。広げられた食事には皆の手作りや、丸富食堂の仕出しをはじめとして酒の肴なども並んでいた。 「くそっ、悠里のくせに美味いじゃないか……」 悔しげながらも竜一は次々と料理を口に運んでいく。 ともすれば喉に詰まらせてしまいそうな勢いに心配そうな視線を投げ掛け、悠里はすかさずお茶のおかわりをコップに注いでいった。 「ほらほら、お弁当は沢山あるから落ち着いて食べて!」 注意をしながらも悠里は緩やかに双眸を細める。他人に自分の作ったものを美味しそうに食べて貰えるのは嬉しいもの。和気藹々とした空気が満ちてゆく中、快がふと呟く。 「それにしても夜の紅葉狩りなんて、意外と盲点だったな」 夜桜ならば思い付くのに、と感想を零した快はゆっくりと杯を傾けた。 今回の日本酒のチョイスは椿によるものだ。ちょっと良いお酒だと本人が言うように、夜景の紅葉と月を眺めながら呑むのに丁度良い味わいのように思えた。 「耕太郎さん、どうやろ。ちょっと頑張って準備してみたんやけど……美味しい?」 そんな中、椿は唐揚げを頬張る耕太郎に問うてみる。 自信が無いわけではないが気になってしまうのが乙女心。もとい姉心というものだ。 「おう、美味いぜ! 手作りってだけですげーと思うんだ」 それに姉貴が作ったものだから余計に、と屈託のない笑みを湛える耕太郎は遠慮なしに骨付き唐揚げを平らげていく。彼の快いまでの食べっぷりに椿がほっとしている傍、夏栖斗は悪戯めいた表情を湛えた。 「耕太郎、こっちの骨食う? とってこーいとかする?」 「なっ……食わないし、やらないぞ! 何で皆そういう風に俺を見るんだよー!」 からかう夏栖斗に対して耕太郎は尻尾をぴんと立てて反論する。口調は怒っているが、本気ではないことは容易に分かる。夏栖斗は思わず吹き出しそうになりながら、謝罪の言葉を口にした。 「ごめんごめん。からかいやすいんだもんよ、お前って」 フォローを入れつつ、夏栖斗も月見弁当を楽しむべく箸を掴む。 そうやって時間は次第に過ぎゆき、食事を終えた仲間達は思い思いに立ち上がった。何故だか今夜はまだ遊び足りない気がして、新たな遊具に目を付けたミリィはぱたぱたと駆けていく。 「耕太郎さん、ベルカさん、何処まで高くこげるか、ブランコ勝負ですっ!」 「その勝負受けて立ったぜ!」 「ふっ。自慢じゃないが、私は負けた事がないぞ!」 耕太郎とベルカも続き、敷布の上で酒を楽しむ大人組は元気な姿にくすくすと笑う。 月見は何時の間にか公園遊びが主になっていたりしたが、これも折角の機会だ。こんな遊び方だって悪くないだろうと悠里は感じた。 そうして、腰を上げた快も四台あるブランコの最後の台を目指して走り出す。 「よし、俺もブランコ立ち漕ぎ勝負に加わるぞ! 」 「ミミルノもあそぶの~」 童心に返って遊ぼうと決めた快の後をミミルノが追う。これは黙って見ていられないとばかりに夏栖斗も浮足立ち、手元のデザートを平らげたら皆と遊ぼうと決める。 だが――。 「それじゃ僕もこれを食べたら……あれ? 僕の取り皿が消えてる! だれだー?!」 「ふぉっふぉっふぉ、ミミルノでしたっ!」 「ミミルノか! 駄目だ、あいつ可愛くて怒れない!」 自分の取り分を手にしている少女を怒るに怒れず、夏栖斗は地団太を踏む。 しかし、それもまた楽しい時間の一幕。 竜一は賑わしくもありながら和やかな光景を眺め、素直な言葉を口にした。 「平和が一番だなあ、やっぱ」 「ほんまやね。月と紅葉と、それから皆との時間……」 楽しいもんやね、と淡い笑みを落とした椿も満足気に頷く。 そうして振り仰いだ月は煌々と輝き、穏やかな秋の彩を映し出しているように思えた。 賑わしい喧騒から少し離れた場所にて、耕太郎を誘った瑠輝斗は散歩道を歩く。 紅葉の色はとても綺麗だけど、お月様を見ると家族を思い出すからか少し寂しい。隣を歩く耕太郎に気付かれまいと涙目になりかけた目元をこっそり拭い、瑠輝斗は月を見上げながら口を開く。 「犬塚さん、ご一緒にお月様に近付いてみませんか……?」 「おうっ! でも、近付くってどうやってだ?」 すると、きょとんとする彼に翼の加護が授けられた。背の翼を広げて羽ばたく瑠輝斗に続き、耕太郎も続いて空へと舞い上がる。わ、と見開かれた彼の瞳が楽しげなことが嬉しく感じられ、瑠輝斗は柔らかに双眸を細めた。 「月を見上げて、紅葉も一緒に眺められますね……」 「すっげーキレイじゃん! ありがとな、瑠輝斗!」 満面の笑みを湛えた少年と翼をはためかせる少女。二人の観月はもう暫し続くようだ。 紅茶色に花咲くストールを翻し、旭は紅葉の散策路へと駆け出す。 「わあ……おつきさまきれーい。タスクくん、こっちおいでよう!」 「待ってよ、そんなに急がなくて良いだろ」 手を振ってタスクを呼ぶ旭を照らすのは淡い月のライト、そして足元に広がるは赤い絨毯。 「見てみて、お姫様みたいじゃない?」 情景と自分の格好を示し、旭はワンピースの裾を摘んで微笑む。 ね、王子様。と巫山戯ながら、少女はふと目前に落ちてきた紅葉を受け止めた。それがとても綺麗だったものだから、旭はくすりと笑んで落葉を少年に手渡す。 「はい、あげる。今日の記念!」 そのかわり、わたしにも記念をちょうだい、と強請る少女にタスクは小さな溜息を吐いた。 「……まったく。仰せのままに、お姫様」 そうして彼は一番綺麗な落葉を探してあげると言って周囲を探しはじめる。返された言葉は呆れ気味だったが、其処には親しみも交じっている気がして、旭は嬉しげな笑みを湛えた。 公園内の遊具に上り、終は月を仰ぐ。 「お月さま、きれいだね~」 思わずそう呟いた青年は子供の頃を思い返す。この歳になって昼間に遊具で遊ぶには目立ってしまうし、かといって子供の時分ではこんなに遅くまで遊ぶことなどなかった。 はじめての感覚に不思議な心地を覚えながら、終は用意していた温かい飲み物を取り出す。 「何だか贅沢だね。ずっと、見ていたくなっちゃう☆」 冷えた空気の中にほんわりと立ち上る湯気までもが季節の巡りを教えてくれる気がして、終は嬉しげに口許を緩めた。 木々の合間から見える月は宛ら、銀に輝く孤高の真円。 「ホントに綺麗な月。だけど、ココロが酷く冷たく唸る夜……です」 ひっそりとした雑木林の中では月光も何処か遠く感じられ、エーデルワイスは手にしたグラスを傾けた。 美しい月の夜に乾杯。そして血と鉄と火の祝福が私にあらんことを、と紅いワインを揺らした彼女は遠き異世界を思う。 回想はただ、静かに。エーデルワイスの心の裡にだけ仕舞われることになる。 「……この夜に感謝を」 そう零しグラスを空けた彼女はそっと月を見上げた。 『良ければ遊具広場でお月見しませんか?』 『構わないよ。じゃあ例の公園で待ち合わせしようか』 月夜の広場で待ち合わせ――それが少年達が前日にメールで交わした約束だ。 当日の夜、友人を探して公園に訪れたタスクは亘を見つけて手を振った。二人は暫しブランコに腰を掛けてホットココアを飲み、少し振りの挨拶を交わし合う。 「ふふ、タスクはどんな遊具が好きですか?」 彼に対してタスクは少し考え、自分はあまり公園で遊んだことがないから解らないと告げた。 「だからさ、亘。今日は俺と遊んでよ」 もう遊ぶ歳でも無いけれど、と冗談めかした彼の言葉に亘は快く頷く。 「次はあちらに行ってみましょうか」 そうして、二人は秋の夜を気儘に楽しんでゆく。共に上ったジャングルジムの上は何故だか心地好く、遠い月に少しだけ近付けたような気がした。 紅葉の色づく路を往きながら、振り仰ぐのは静かな月光。 季節の彩を瞳に映し、少女は思う。月の光はどうしてこんなに優しく世界に降り注ぐのだろう。 「……世界がもっと優しくなればいいのに」 呟いた雷音は様々な事を思い返して佇む。 そんなとき、隣で聞こえたのはふとした溜息。いけない、と視線を戻した雷音は同行者が気を悪くしたのではないかと思ってしまう。 「すまない虎鐵、別につまらないわけじゃなくてだな」 「いやいや、月明かりに照らされた雷音が麗しくて麗しくて……」 しかし、彼から返ってきたのはいつも通りの言動。 其処へ風に舞った落葉が雷音の髪に留まった事に気付き、虎鐵は手を伸ばして葉を取ってやる。 「落ち葉がついていたでござるよ。月明かりに照らされて綺麗でござるな」 綺麗、と表したのは紅葉のことではなく彼女のことだ。すると、虎鐵が名案を思い付いたとばかりに明るい笑みを湛える。 「そうでござる、雷音! 折角だから今度はさつまいも買って焼きいもを作ろうでござる!」 「紅葉という風流の真っ只中にいて食い気か。まったく虎鐵は度し難い」 あーん、がしたいと主張してはしゃぐ養父をステイ! と宥めつつ雷音はおかしそうに瞼を緩める。 いつも自分を褒めてくれて、優しい虎鐵。彼の視線を受け止めた雷音はこんなところにも月の光はあるのだと感じ、淡い微笑みを返した。 楽しい心地も、遠く馳せる思いも包み込み――今宵の月は優しい光を宿し続ける。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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