● 私を見つけてください。 今日は残業をしていて、オフィスに居たのは私だけでした。 カタカタカタ…… その音は私がパソコンのキーボードを叩く音。リズミカルに叩いていても、時折止まっては痒い頭をかき乱して、また叩く。 お供は、イケメンな上司が淹れてくれた珈琲だけ。畜生、一緒に居残って甘いランデブーっていう展開は無いみたいです。 さておき、この珈琲が眠気を退治して私を支えて……でも、カフェインの力なんて本気の眠さには敵わなかったわね。やっぱり眠かったわ。 カン、カンッ 本題は此処から。 どうしたことか、どこからともなく音が聞こえる。 それは何か固い物と固い物がぶつかっている様な。 あれ? おかしいな。そう思って私は席を立ち上がった。そして、その音のする方向へと行ったのよ。上司から手渡された懐中電灯を持って。でもその明かりが点かなくて、最悪って思いながら……あ、なんでもないの。私暗闇でも目は見える方なの。 でもさ、勿論、時計の針が二時を刺しそうなくらいの時間に不審な物音なんて怖すぎるでしょ? でも不運な事に、資料を違う部屋に置き忘れていたのよ。だからそこへ行かないと仕事終わらないし、明日も出勤だし。ていうか、行った先から物音するから、もう心臓バックバク。小さな物音でも背筋が凍ったわ。 ギィイ そして扉を開いた。本当に怖かった。でも、早く帰りたくて。 嗚呼、これだ、見てしまった。点かない懐中電灯を握り締め。 み、た、な。 霞んだ声で、乾いた老婆の声が聞こえた。 ええ、そりゃ、見ましたとも。厚く真っ赤な口紅が五寸釘を銜えて、藁人形の胸を穿つ老婆の姿を。 見ィィィイィイイィイイイイイイタァァァアアアナアアアアア!!!! 「き、ぃぎゃああああああああああああああ!!!!!!!!!」 走った、走った、懐中電灯も何処かで落とした。後ろからペタペタって裸足で床を叩く音が追いかけてくる。 今何階かも解りません。階段は上っても降りてもないです。 靴も何処かで落としました。 今泣きながら、声を殺すのだけに必死です。 辺りは暗くて、今此処凄く狭くて、多分机の下だと思うんです。 誰でも良い、誰でも良いので、この叫びを聞いてたら助けてください。 私は此処に居ます。今も此処に居ます。 誰か、私を見つけてください。 ● 「藁人形と五寸釘の呪い……丑の刻参りかな? 有名ですね。そのエリューションフォースがおりまして。建物の六階の階段近くをうろうろしています」 調べた所によると、毎夜毎夜誰かを呪う為に藁人形を穿っているとか。フェーズは2の厄介者。 「とはいえ、呪っている最中は聞かれてもいけませんし、見られてもいけないのです、それが七日七晩……。 もしそうなったら呪いは自分に返ってくることもあるのです」 「でも、万華鏡で視えちゃったんじゃ?」 「まあ……そうなのですが、先客がいらっしゃいました」 その先客とは今回の救出目標。今オフィスの何処かで助けを待っている女性だ。 真っ暗闇に取り残されて、それでいて殺されそうになっているのに、何故精神を保っていられるかというと。 「ごく普通の一般人では無いです。革醒してますが、普通の人生を全うしていたE能力者です。 おそらくアークが来たと思わせれば、心労も和らぐと思いますよ。アークは有名ですし。 名前は東堂 伊代。28歳の女性で、ジーニアスのマグメイガスですが……。 フォーチュナ並みに非力です。ま、まあ、一般人よりかは頑張れます!」 なるべく敵より早く彼女を見つけて保護したい所だ。何故なら、呪いを見て聞いてしまい、七日間やらなくてはいけない作業を打ち消したのは紛れも無く彼女であるからだ。それでいて、殺さないと呪いは続行されない。つまり、フォースが狙う対象の最優先だ。 「それでは、いってらっしゃいませ。アークが誇る、戦士達」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月03日(水)23:22 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 静か、見上げた空には月明かりと微量の雲。美しいだとか思っている暇も無く、足はコンクリートの地面を蹴っていた。 女を救うのは時間の問題でもあるのだ。もたもたしている暇だって惜しい。 玄関扉をこじ開け、中へと進入。だがそこからは深い闇が支配している、つまりは敵のフィールドだ。外とは全く違う空気、空間が広がっているのが五感に加え、六感でも解る。 「六階やんな!? 階段は何処やろか……?」 「あったぜ! こっちだ!!」 暗視ゴーグルを着けた『レッドシグナル』依代 椿(BNE000728)と『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)が辺りを見回し、上への入り口を見つける。 その二人を先頭にリベリスタ達は続いた。 (誰か……誰か) 伊予は心の奥から誰かに助けを求める。もし、私の存在が何処かのフォーチュナが認識してくれれば万々歳だけれど。 「……普通、無いか」 小さな、小さな声でそう諦めを呟いた。 そうすれば自然と笑えてきた。渇いた表情を浮かべながら、身体を抱え込みながら震える身体を抱きしめるだけ。ここまでくれば、死んでもいいかだなんて思えてくる。 夜は寒い。此処の部屋は人がいなくなって部屋も冷え切った。 とはいえ、そんな寒さで身体が震えている訳ではなくて、これの原因は紛れもない恐怖だ。 ぺたり、ぺたり。 その音が段々こっちへやってきているような、そうでないような。もはや、音からの情報しか頼りが無い状況だ。 しかしだ、突然。 ――アーク参上! 助けに来たぞ!―― 力強い、青年の声が響いた。 (!?) その突然の声に、伊予の身体はびくりと震えた。まさか、まさか。 「あ、アーク……!?」 良かった、嗚呼、良かった。私の声は聞こえていた。 けれどまだ、救出劇は始まったばかり。だからこそ油断できなくて、喜べなくて。でも落ち着きは取り戻した。 ●喋らなくてもだめ 六階に到着した瞬間、『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)は叫んでみたものの反応は無い。口の横に添えた掌を力なく定位置へと戻す。 「ふむ。迂闊に出てきて来られても困るというものじゃ。これが懸命な判断じゃろ」 『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)も同じく最後の階段の一段をのぼり終え、疾風の横に並んだ。 「ところで、存人。敵は向かってきておるか?」 「――ええ、来ますよ」 瑠琵の唇に、『視感視眼』首藤・存人(BNE003547)の人差し指が添えられる。 事前に老婆の位置を突き止めたのであれば、対策の立てようがあるというもの。敵は階段正面、まっすぐに此方へ向かっている。 よく、耳を研ぎ澄ませ。 ぺた、ぺた。 確かに聞こえる、それは足音か。 ぺた、ぺた、ぺたぺたぺたぺた。 「ひ、ぃい! ちょっと待ってくださいこれ段々……」 そう後方で階段横の柵にしがみついて怖がっているのは。 「あれ? なんで伊予さんこんなところに!」 「あぅ、違います、私、身体はこれでも、すわんぷわんだから!」 風見 七花(BNE003013)が騙されて間違えたのだが、怪盗により伊予を演じる『すわんぷまん』若菜・七海(BNE003689)がそれだ。 「そんなことより、これ、段々早くなってますって!」 「ふむ、言われてみれば。そんな気がするでござるな」 「なんでそんな冷静なんですかー!?」 七海の前方、『影なる刃』黒部 幸成(BNE002032)は冷静だった。暗視ゴーグルの下で瞳を瞑る。見つけるために必要なのは目でも、耳でも無く、六感だ。 ぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺた!!!! 「見ィィィイイづげだァアアアああアアアアア!!!!」 闇の中からとも無く、暗闇から姿を表した老婆の形相はまさに般若か。正面から全速力で突っ込んで来ている最中だ。 「ひぃいぎゃーー!! ばばさればばさればばされ!」 あ、これ違うおばけの退散呪文だ! 狙いは、まずはその伊予(七海)の足。おそらく老婆も怪盗の前には勘違いをおこす様。 何時の間にか、七海の足には空中に出現した五寸釘の先端が当てられ、あとは老婆の槌が打ち落とされれば完成か。だが。 「そう簡単に行くとは思わないで欲しいで御座る」 幸成の身体が七海と、老婆の間に入っては壁と成る。邪魔だと振り上げた老婆の槌が、幸成を吹き飛ばし、伊予へと七海へと。 いつの間にか、その場から七花の姿が消える。老婆を見つけたのであれば、次の捜索目標は、そう、彼女だから。 煙草に、火を灯し。最強の自己暗示が椿を奮い立たせる。 その目は光る、それは好奇心か。紅椿組、十三代目……もとい、オカルト研究会部長がにやりと笑った。 「丑の刻参りのEフォース! 流石日本やと言っておくべきやろか!」 「誰を呪っているのかは知らないが思い通りにはさせない。変身!」 疾風の身体が装備に彩る。同時に覇界闘士ならではの構えを取って、戦闘開始のポーズ。 「しっかりしろ忍者ー!?」 「問題無い……で御座るよ」 吹き飛ばされ、七海に背を支えられた幸成が立ち上がる。その空いたブロックの穴を埋めるようにエルヴィンが幸成の前へと盾と成る。 すぐ眼前では老婆の次の攻撃が始まっていた。 その形相に悪寒を感じつつ、エルヴィンは盾を構える。老婆の槌が衝突し、盾から衝撃がビリリと伝わる。 「く、ぐ……!!」 世迷い、夜迷い。今、何処で震えているんだ、お姫様。今、何処で泣いているんだ、お姫様。 ――絶対に助けるって決めたから。 「く、こンのぉぉお!!!」 エルヴィンが盾で老婆の槌を押し返す。だが。 「死ねェエエ!!! 死ね死ね死ね死ね死ねエエエエエ!!!!」 ガゴォと轟音が響く。 釘の呪いは一直線に。エルヴィン、幸成、七海を巻き込んでその手の感覚を消失させながら、衝撃に体力を削られた。 ●押し殺してもだめ 「きっ、ぃっ、ううっ!!」 轟音に伊予は耳を押えた。叫びたいと思うその端で、声を押し殺して居場所を教えまいと抵抗する。 アークが来たことは声で解った、ならばこの音は戦闘している音なのだと思う。同じ革醒者が、命(フェイト)をかけて自分を救いに来てくれた、という事。それって。 「なに……私、こんな所で助け待ってて、一人だけ戦わないで」 何やってるんだろう。涙が流れた。 「「「存人、伊予は……伊予はどこじゃ!?」」」 三人の瑠琵が一斉に存人を見た。軽くそれに驚きながらも、存人は瑠琵が刺した方向へと見通す眼で視る。 「あそこの部屋で……泣いてる?」 「……そうだろうと、思っておった所じゃ!」 存人が伊予の姿を見つけるのには時間はそんなにいらない。たった十秒あれば良い。 瑠琵は伊予の心の動きと直結していたためか、そんか悲しい、恐ろしい、悔しい思いが直撃してくる。 「七花さん、五階は切り上げ。六階へ来てください」 『解りました、すぐそちらへ行きます』 そんな中、五階を捜索しに言っていた七花へと連絡を取る存人。 七花の到着を待たずして、瑠琵は走り出していた。紫の髪をはためかせ、老婆の槌をギリギリでかわしながら――。 「俺に、麻痺とか効かねぇから!!」 瑠琵の動向を見守りながら、エルヴィンは釘の打たれた掌を振るい、呪いを打ち消す光を放つ。 それが効果的なタイミングで行われているためか、仲間は呪いに侵されながらも、自分が行動する手番では完全に動ける万全の状態へと治っている。 それが解らない老婆は一歩後ろへと引いた。何故、何回穿っても穿っても立ち上がってくるのだろうか?!と。 此処からリベリスタの攻撃ラッシュが始まる。先頭を行ったのは幸成だ。 呪いがなんだ、オカルトがなんだ。そんなの、神秘の世界の住人ならば日常茶飯事だ。 けれど、伊予はその世界に足を踏み入れておきながら普通の世界で生きている。幸成にはそんな彼女が少し、羨ましくも思えた。 だからこそ、彼女の世界を侵してはいけないのだと。侵されては、いけないのだと。 老婆の杭が足にセットされていた、槌は容赦なく向かってくる。トンッと足場を蹴り上げその槌を回避。それから階段の柵を蹴り、壁を走り、天井を足場に蹴り上げ、俊足で老婆の背後へと回りこむ。 忍者に背後を取られた暁には、死を覚悟した方が良い。 漆黒のオーラと共に、暗器を振り上げる。けして治らない傷を老婆の背中に縦一閃、作り上げたのだ。 前方からパリパリと音がする。息もつかせず、疾風が雷を纏わせ回転蹴りを老婆へと。首が恐ろしい角度に曲がり、背後の幸成とこんにちは。 「その呪い、今日までで終わらせてやる!!」 ただ、それだけでは終わらず。疾風のナイフ、龍牙が老婆の胸を横に切り裂いた。それは幸成の漆黒の力に侵され、治らない。 「こんな所で丑の刻参りは、場違いと違うか!?」 ごもっともです十三代目。 魔力を凝縮した弾丸を放つ椿。狙う老婆の脳天に穴が開く。 さて、どうしたものか、蓋を開けてはいけないものとはこの世に溢れていると言うが。 椿はそれでもオカルトの中身は知り尽くしたい。覗いた深淵。深い、深い、闇の中に意識を通せば―― 殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺したい殺したい殺したい殺したい殺せ殺せ殺したい殺したい殺せ殺せ殺したい殺したい殺せ殺せ殺したい殺したい殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ。 嫌だ、嫌だ、あいつが生きているのが気に食わない、死ね死ね死ね死ね!! 「ぅっ!!」 知ってる。椿は感じた。 これは、この感情は恨み妬み憎悪に怒り。 呪いの塊とは、そういうもの。ただし呪えば自分もどうなるか解らない。 人を呪うならば、人生――いや、自分の全てを賭けて呪いを行わなければいけない。 呪いができたとしても、呪えたとしても。 自分の尻は、自分で拭わないといけないって、ほら、昔からそういうのあるでしょう。 呪いたくても、その覚悟が無いから呪いを行えない。 そんな気持ちの塊を、代行するかのように老婆を釘を穿ち続ける。 だからこの、エリューションフォースが本当の意味で消えることってないのだろう。 結局、怖いのは人。 ●聞こえない声は無いから 「うぃーっす、アークなのじゃ。助けに来たぞー♪」 と、あえて明るい声で接したのは瑠琵。熱感知で見える彼女は、目元の体温が腫れて赤いか。 「アークから保護に来た風見七花です、東堂伊代さんですね?」 「……はい」 こくりと、七花の言葉に伊予は頷く。 すぐさま七花はAFへと言葉をかけた。伊予を保護した、これから外へと送ると。 だがAFから返ってきた存人の言葉は、その場で守っていて欲しいとのこと。どうやらあちらは、老婆のしぶとさに手こずっている様子。 庇わせていた影人が二体、消えたような気がした。 「大丈夫なのじゃ。まだ戦闘中じゃからそのまま隠れてるのじゃよ?」 俯いた伊予の髪を撫でた瑠琵。その手の温もりに、伊予の心はどれほど安心した事だろうか。 場所は変り、階段前。 怪盗のすばらしさには感動すら覚える。もはや目の前の七海=伊予となっている今、老婆の眼には彼女しか映らない。 ただし、貫通の一撃により、エルヴィンは耐えたものの、ついには七海のフェイトが容赦なく飛んでいく。 「みみみんながいるから怖くないし!」 震えた声でそう言いながら、決死の覚悟で七海は走った。どこかで震えていたもう一人の私のために。 「だだだだ、だから!! もうこれでおお、終わり、にする!!」 老婆の腹部にダイレクトアタック。からの抱きついて、ギリギリと締め上げて。これでもう移動できないだろうと見上げたそこには老婆の振り上げた槌。 ゴリッと嫌な音が響く。そのまま七海は地に伏した。 すぐさま存人の回復の風が響き渡る。それは七海に行く、まだ彼女の息はある。 老婆がその、力ない七海の髪の毛を数本口へと入れた。だが。治らない。これはもしかしてまずいというやつか。食べてるだけに。 「はっ! おまえに足りないものは回復かもな」 その老婆にザマー!といわんばかりにエルヴィンは仲間に歌を奏でる。 奮い立たせろ。影人が庇ってくれない今、仲間の命を繋ぐのは最強の盾が有する之のみだ。 再びリベリスタのラッシュは始まるのだろう。 「泣くでないのじゃ」 「いえ、私……何もしてなくてすみません」 「そんなこと、無いですよ」 「できるのであれば、もう二度と目覚めるでないで御座る」 老婆の背後から再び、幸成の漆黒が老婆を襲う。影舞闘着は今この、漆黒に支配されたビルの世界によく似合う。 闇に落とし、眠りへ誘わん。 「いいのじゃ。革醒者も十人十色じゃて」 「そう、ですか……?」 「はい、どの道を選んでも良いのですよ、きっと――」 「見難い上にただの役立たずやないかっ!!!」 ガシャーンと暗視ゴーグルを投げ捨てた椿は……気を取り直して、幾重に幾重に重ねた呪いを展開。 本当の呪縛とやらを見せてやろうか。繋げた呪印は、敵を捕える籠となりて。 「救う、東堂さんを!!」 救いを積み重ねて、この世界を救うために。 疾風の雷が暗黒を切り裂く。バチバチ光り、輝く拳は一直線に老婆の顔面を捕えるのだ。 「もう大丈夫そうじゃのう?」 「行きましょう、いえ、帰りましょう! 伊予さん」 「さ、眠る時間だ」 最後を彩る、光。魔の力を四色へと変えて。 「ギッ、ぎ、殺す、殺す、殺す殺す、ギリギリギ、ギッギッィイイ!!!」 逃げようと、足掻く。けれど動かない。その足元では。 「逃がさないよ?」 七海がその老婆の足を、傷だらけの手で握っていた。 「――おやすみ」 存人の魔曲が子守唄となるのだろう――。 ● その攻撃が老婆を貫いた瞬間、老婆の姿は光と共に消えていった。 次いで、ジジジと辺りの電球や、ライト、避難経路の緑の光でさえ灯って、辺りを明るく照らしたのだった。 ふらふらと、遠くの扉から伊予と瑠琵と七花が出てきた。 「ご苦労じゃったのう!」 「そっちも大丈夫そうやんな」 元気に手を振った瑠琵に、深淵が視えてヒギィ!した椿がふらふらと寄った。 「そちらさんも、大丈夫そうでなによ「お疲れ様、災難でしたね。怪我はありませんか?」 疾風の言葉を遮って、スッパーンと暗視ゴーグルを外しながらエルヴィンが伊予の手前に駆け出した。その行動に疾風は苦笑しながら、大して痒くもない頬を掻く。 「せっかくだから、連絡先交換しときませんか? 今回みたいな時、便利だと思いますよ」 「え、ええ、そ……そうですね」 「そうですとも!」 エルヴィンのナンパは止まらない、止められない。とは言え、言っていることは的を得ているのでメアド交換。勿論赤外線送受信で。 「もちろん、カッコいい彼氏が欲しいって理由で連絡してくれても良いですしね」 「おっと、ひじが滑ったのでござぁ」 「ぐぶっ」 そこへ幸成のひじがエルヴィンの横腹を穿つ。お得意のスタァァァアアップ!発動だ! 「ふふ」 そんな二人の行動に、思わず。 「ああ、良かった。やっと笑ってくれましたね」 伊予がくすくす笑い、つられて七花もにこっと笑った。 「お疲れ様です……お仕事、終わりそうですか?」 「そうね、全然終わりそうに無いけれど……ふふ」 「イケメン上司でなくとも珈琲一杯位はお渡し出来ますが」 気の利いた言葉、今の伊予にはイケメン上司の珈琲よりも価値があるはず。 「ありがとう、ついでに手伝ってくれたり……ジョウダンですよっ!」 それじゃあ朝まで仕事コースとしよう。 それでもこれだけは言わなくてはならない。 「見つけてくれて、ありがとう! アーク」 「良かったね、『私』」 仮面を被った、伊予と同じ顔を持つ七海は。 小さく、小さく。 そう、呟いた。 ● それぞれが帰路へつく中、朝日が昇るその手前。 椿は後ろを振り返る。 「人の思いから生まれるのは、止められへんなぁ」 嘆くように、言葉を吐いた。きっと、どこかで。 カンッ その老婆が釘を穿ち続ける音が聞こえるから。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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